早期発症の機序
外傷性緑内障(隅角後退緑内障含む)
1. 外傷性緑内障とは
Section titled “1. 外傷性緑内障とは”外傷性緑内障は、眼外傷により引き起こされる続発緑内障である。鈍的(非穿孔性)外傷・穿通性外傷・化学外傷・放射線外傷のいずれでも発症しうる。開放隅角と閉塞隅角の両方の機序が関与する2)。とりわけ鈍的外傷後には、前房出血・隅角後退・ghost cell緑内障・水晶体脱臼による瞳孔ブロックなど多彩な機序で眼圧上昇をきたす。
急性期には房水産生機能も影響を受けることが多く、房水流出路に障害があっても必ずしも眼圧が上昇するとは限らない。また急性期の眼圧上昇機序には前房出血・炎症・水晶体障害など複数の因子が同時に関与する。さらに受傷後数年〜10年以上を経て遅発性に発症する場合があり、長期の経過観察が不可欠である2)3)。
外傷の種類と発症時期による分類を以下に示す。
| 分類 | 発症時期 | 主な機序 |
|---|---|---|
| 鈍的外傷・早期 | 受傷直後〜数週間 | 前房出血、線維柱帯破壊、外傷性虹彩炎 |
| 鈍的外傷・遅発 | 数か月〜数十年 | 隅角後退、ghost cell緑内障、線維柱帯瘢痕化 |
| 穿通性外傷 | 急性〜慢性 | 虹彩前癒着、上皮迷入、鉄錆症 |
| 化学外傷 | 急性〜慢性 | 炎症・瘢痕化による流出路障害 |
| 放射線外傷 | 遅発 | 網膜虚血・新生血管緑内障 |
隅角後退の概念は1892年にCollinsが初めて報告した。1949年にD’Ombrainが外傷と片眼性緑内障の関連を指摘し、1962年にはWolfとZimmerが6症例で外傷・隅角後退・緑内障発症の連鎖を初めて系統的に示した。その後の研究によって、隅角後退緑内障は続発開放隅角緑内障の代表的病型として確立された。
鈍的眼外傷後の隅角後退と緑内障発症に関する主要な疫学データを以下に示す。
- 非穿孔性眼外傷眼の 最大60% に隅角後退が生じる
- 外傷性前房出血を伴う症例では、隅角後退の発生率は 60〜100%
- Girkin らの米国Eye Injury Registry解析では、鈍的外傷6か月後の外傷性緑内障発症率は 約3.4% であった6)
- KaufmanとTolpinの31眼10年前向き研究では、隅角後退症例のうち長期的に緑内障へ移行したのは 約6% であった7)
- 180度以上 の広範な隅角後退では、10年で 6〜20% に緑内障を発症する
- 発症時期は数日から数年、最長で 50年後 の発症報告もある
- ARG患者の約50%が対側眼にも開放隅角緑内障を発症するとの報告があり、体質的素因の関与が示唆されている5)
受傷機転はスポーツ(ボール外傷・パンチ・ラケット等)、格闘技、暴行、交通事故、作業災害が多い。小児では家庭内での打撃や虐待も鑑別に含める必要がある。幼児・小児では前房出血が2週間以上持続すると視性刺激遮断弱視を来すおそれがあり、成人より早期の積極的介入が求められる。鈍的外傷による閉鎖性眼球損傷は前房出血・虹彩離断・隅角後退・水晶体偏位・網膜振盪・眼底打撲を含む一連の病態として認識される。
性差は男性優位が多くの研究で報告されており、受傷機転(スポーツや暴行の多くが男性)を反映している。年齢分布は若年から中年に多いが、遅発性発症のため受傷時の年齢と発症時の年齢にはしばしば大きな乖離がある。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”急性期の眼圧上昇では角膜浮腫による霧視、眼痛、嘔気を自覚する。前房出血を伴う場合は視力低下や羞明を生じる。眼圧の急激な上昇では頭痛・嘔吐を来すことがあり、急性閉塞隅角緑内障発作と誤認されることがある。慢性期の高眼圧は無症状のまま進行し、視野障害が進んでから発見されることが多い。
隅角後退そのものによる自覚症状はない。前房出血が合併するとそれによる症状を呈する。毛様体解離が広範に生じると低眼圧黄斑症による視力低下を認めることがある。
前房出血(hyphema):鈍的外傷の最も一般的な合併症である。軽症では細隙灯顕微鏡で前房中に微量の血液を認める程度だが、中等症では水平面(ニボー)を呈する。重症では前房に血液塊が充満し、鮮紅色から暗赤色・黒色まで変化する。出血が前房全体を占め黒褐色化したものは8 ball hyphema(black ball hyphema)と呼ばれ、持続する場合には早期の外科介入が必要となる。
前房出血の重症度は一般に Grade I(前房の1/3未満)、Grade II(1/3〜1/2)、Grade III(1/2以上)、Grade IV(total, 8 ball)に分類される。高グレードになるほど二次出血・高眼圧・角膜染血症の合併頻度が高くなる。ニボーの高さは毎日記録し、出血量の推移を客観的に把握する。視診上は鮮紅色の新鮮出血から、時間経過とともに暗赤色・黒褐色へと変化し、最終的には黄橙色のフィブリン塊として観察される。
隅角後退:隅角鏡検査で毛様体帯の拡大として観察される。虹彩根部から強膜岬までの距離が増大し、毛様体部が濃い灰色の幅広い帯状に見える。毛様体の縦走筋と輪状筋の間での断裂に由来する。
角膜染血症(corneal blood staining):高度の前房出血に高眼圧が持続すると、角膜後面が血液で染色される。出血消退後も視力障害を残しうるため、早期の前房洗浄が必要となる。
Ghost cell:硝子体出血後1〜4週で変性した赤血球がカーキ色の小胞として前房に出現する。多量の場合は偽前房蓄膿を形成する。
毛様体解離(cyclodialysis):毛様体が強膜から剥離した状態。房水が脈絡膜上腔へ流出し、持続性の低眼圧をきたす。遷延すると低眼圧黄斑症を惹起する。
虹彩離断(iridodialysis):虹彩根部が強膜岬から剥離した状態。細隙灯顕微鏡検査で三日月状や半月状の裂隙として観察される。断裂範囲が広く瞳孔偏位を伴うと視力低下や単眼複視の原因となる。しばしばZinn小帯断裂に伴う硝子体脱出も合併する。
外傷性散瞳:鈍的外力による瞳孔括約筋の断裂で瞳孔が散大する。対光反応・近見反応はともに減弱ないし消失する。1%ピロカルピン塩酸塩の点眼に無反応あるいは反応減弱となる。細隙灯顕微鏡検査で瞳孔縁の切痕様不整を観察する。頭部外傷による動眼神経麻痺との鑑別が重要で、眼瞼下垂・眼球運動障害の有無を確認する。
水晶体異常:水晶体振盪(phacodonesis)として認識される亜脱臼、完全脱臼、外傷性白内障を伴うことがある。水晶体脱臼は瞳孔ブロックや phacolytic glaucoma の原因となる。
眼圧の二相性:受傷直後は毛様体の房水産生機能低下により眼圧が軽度低下することがあるが、その後、隅角解離により破綻した毛様体血管からの血液成分が線維柱帯を閉塞させて急激な眼圧上昇を呈する。受傷後の経過で低眼圧・正常・高眼圧のいずれもとりうる点が本症の特徴である。
鈍的眼外傷に特徴的な所見
Section titled “鈍的眼外傷に特徴的な所見”以下は鈍的眼外傷後に隅角後退と併存しやすい所見である。
| 所見 | 部位 | 意義 |
|---|---|---|
| 虹彩括約筋断裂 | 虹彩 | 外傷の直接的な徴候 |
| フォシウス環 | 水晶体前面 | 虹彩色素の転写痕 |
| 虹彩離断 | 虹彩根部 | 重度外傷の指標 |
| 前房出血 | 前房 | 隅角後退と高率に合併 |
| Ghost cell | 前房 | 硝子体出血後1〜4週 |
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”鈍的外傷による眼圧上昇機序
Section titled “鈍的外傷による眼圧上昇機序”遅発性の機序
穿通性外傷による眼圧上昇機序
Section titled “穿通性外傷による眼圧上昇機序”穿通性外傷では、前房出血や水晶体脱臼に加え、以下の機序が関与する。
- 虹彩後癒着に伴う瞳孔ブロック
- 水晶体融解性緑内障(phacolytic glaucoma)
- 上皮迷入(epithelial downgrowth)
- 鉄錆症(siderosis bulbi)による線維柱帯障害(眼内異物残留時)
- 長期浅前房による虹彩前癒着
化学外傷・放射線外傷
Section titled “化学外傷・放射線外傷”アルカリや強酸による化学外傷では、炎症による瞳孔ブロック、虹彩前癒着、線維柱帯組織自体の炎症・瘢痕化が眼圧上昇の原因となる。特にアルカリ外傷は眼内深部への浸透性が高く、重度の前眼部障害と続発緑内障を来しやすい。放射線外傷では網膜虚血による新生血管緑内障を発生しうる。
緑内障化のリスク因子
Section titled “緑内障化のリスク因子”鈍的外傷後の隅角後退から緑内障への移行リスクを高める因子は以下である。
- 後退範囲:180度以上(著者によっては240度以上)
- 隅角色素沈着増加
- ベースライン眼圧の上昇
- 水晶体偏位
- 対側眼の緑内障所見:ARG患者の約50%が対側眼にも開放隅角緑内障を発症する報告があり、もともと緑内障になりやすい素因を持つ眼で外傷がプロセスを加速させるとの仮説がある5)
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”
問診で受傷機転(外力の方向・強さ・受傷時刻)、既往歴、服薬歴(抗凝固薬の有無)、全身疾患(鎌状赤血球症の家族歴・出血性素因)を聴取する。
基本検査として視力検査、対光反射検査、非接触型または圧平眼圧計による眼圧測定、細隙灯顕微鏡検査を行う。前房出血の量、水晶体の位置異常、虹彩離断の有無、前房内炎症細胞・フレアの程度を確認する。前房出血が多量である場合は僚眼の間接反応も確認する。Seidel試験(フルオレセイン塗布下での角膜輪部漏出観察)で角膜穿孔を除外する。
眼底検査は瞳孔散大による出血誘発を避けるため、初診時には生理的散瞳下または無散瞳眼底カメラで評価する。硝子体出血や網膜振盪(commotio retinae)、脈絡膜破裂、網膜剥離の有無を評価する。
高度の結膜浮腫・前房出血・低眼圧・結膜下出血を認める場合は眼球破裂を疑い、直ちに画像検査(CT)を行う。過度な眼球圧迫を避ける必要があり、圧平眼圧計や超音波生体顕微鏡(UBM)は原則として使用しない。
隅角後退の診断は隅角鏡検査がゴールドスタンダードである。毛様体帯の拡大と、虹彩根部から強膜岬までの距離増大を確認する。僚眼(非受傷眼)との比較が必須である4)。正常眼でも毛様体帯が広いことがあるため、健側眼と並べて観察することで初めて病的な拡大が確認できる。
日常診療では間接型隅角鏡(Goldmann隅角鏡、Zeiss四面鏡)が用いられる。隅角開大度の評価にはShaffer-Kanski分類、Scheie分類、Spaeth分類が使われる。Shaffer-Kanski分類では隅角開大度を0〜4度で表し、4度(35〜45度)は隅角閉塞の可能性がない最大開大、0度(観察不能)は閉塞している状態を示す。直接型隅角鏡(Koeppe、Swan-Jacobなど)は手術時や乳幼児の診察に用いられる。
隅角鏡検査では、開大度・色素沈着度に加え、周辺虹彩前癒着(PAS)、Sampaolesi線、隅角新生血管、残留シリコンオイル、隅角結節、前房出血、隅角離開、隅角形成異常、緑内障手術後の隅角変化などの所見も詳細に記録する。外傷眼では隅角の色素沈着増加が観察されることが多く、これは緑内障化のリスク因子の一つとされる。
前房出血が残存する間は、再出血リスクがあるため受傷後1〜2週間は隅角鏡検査を避ける。出血消退後に詳細な隅角評価を行う。
| 検査 | 適応 | 注意点 |
|---|---|---|
| CT/X線 | 眼内異物検索 | 金属異物の検出に有用 |
| MRI | 非金属異物の評価 | 鉄含有異物が疑われる場合は禁忌 |
| Bモード超音波 | 前房出血で眼底透見不能時 | 外来で簡便に施行可能 |
| 超音波生体顕微鏡(UBM) | 毛様体解離・毛様体浮腫の評価 | 接触式、穿孔性外傷では禁忌 |
| 前眼部OCT | 隅角構造の定量評価 | 非接触・安全、毛様体は観察不可 |
UBMは虹彩根部から毛様体にかけての微細構造を観察できるため、毛様体解離や隅角後退の評価に有用である。前眼部OCTは非接触・非侵襲で解像度に優れるが、毛様体の観察は困難である。
片眼性の開放隅角緑内障を呈する場合、以下との鑑別が重要である。
- ステロイド緑内障(片眼性の点眼ステロイド使用歴)
- UGH症候群(ぶどう膜炎-緑内障-前房出血症候群)
- ICE症候群(虹彩角膜内皮症候群)
- 頸動脈海綿静脈洞瘻
- 偽落屑緑内障
- 色素緑内障
- 網膜芽細胞腫(小児、非外傷性前房出血との鑑別)
緑内障診療ガイドライン第5版では、続発開放隅角緑内障のうち線維柱帯に房水流出抵抗の主座があるものとして、外傷・ぶどう膜炎・水晶体物質・眼内異物などが挙げられている4)。同ガイドラインでは、隅角鏡検査で「外傷性の変化として解離や毛様体帯の幅が広くなる所見(隅角後退)がみられる」と明記され、隅角鏡検査の重要性が強調されている4)。
本症の診断には眼圧上昇機序の同定と原因疾患の特定が重要であり、原因疾患の治療が治療戦略の第一歩となる。複数の機序が並存することが多いため、前房出血・虹彩炎・水晶体異常・網膜打撲・脈絡膜破裂など眼全体の外傷性変化を包括的に評価する必要がある。
長期フォローアップの考え方
Section titled “長期フォローアップの考え方”鈍的眼外傷の既往がある患者では、受傷後少なくとも年1回の眼圧測定・隅角鏡検査・視神経乳頭評価・視野検査を継続することが推奨される。特に180度以上の隅角後退がある症例では、生涯にわたる経過観察が望ましい。対側眼の眼圧・視神経変化にも注意を払う。
OCT(光干渉断層計)による網膜神経線維層(RNFL)厚および乳頭周囲神経節細胞複合体(GCC)厚の測定は、初期の視野異常に先行して緑内障性視神経症を検出できるため、長期フォローに有用である。視野検査は Humphrey 24-2 または30-2 SITA Standard を標準とし、年1〜2回施行する。眼圧は診察時の単回測定では日内変動を反映できないため、異常値や進行が疑われる症例では日内変動測定を行う。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”急性期の保存的治療(前房出血の管理)
Section titled “急性期の保存的治療(前房出血の管理)”外傷性前房出血では安静と薬物療法が主体となる。座位またはベッドの頭側を30〜45度挙上して安静を保つ。激しい運動を禁止し、小児や前房出血のニボーが前房の1/3〜1/2を超える症例では入院加療が望ましい。
急性期の薬物療法は以下の処方を基本とする。
- 散瞳薬:アトロピン点眼液(1%)1日1回 就寝前(消炎および隅角に対するストレスの軽減)
- ステロイド点眼:ベタメタゾン(0.1%リンデロン)1日4回
- 止血薬:カルバゾクロム(アドナ錠 30mg)3錠分3 毎食後
- 眼圧下降薬(眼圧上昇時):
- β遮断薬:チモロール(0.5%チモプトール)1日2回
- 炭酸脱水酵素阻害薬:アセタゾラミド(250mgダイアモックス)2錠分2
- カリウム補充:アスパラギン酸カリウム(300mgアスパラカリウム)2錠分2
- 高浸透圧薬:眼圧急上昇時にマンニトール点滴
ピロカルピン塩酸塩は絶対的禁忌である。炎症を助長するだけでなく、隅角を開大させて出血増加や再出血を誘発し、悪性緑内障を惹起する危険性がある。プロスタグランジン関連薬も急性炎症を増強する可能性があるため急性期は避ける。
散瞳薬(アトロピン)の使用目的は、毛様体筋の麻痺による疼痛軽減、隅角への機械的ストレスの軽減、そして虹彩後癒着の予防である。過度の散瞳による周辺隅角の狭小化を避けるため、他の強力な散瞳薬ではなくアトロピンが第一選択とされる。
副腎皮質ステロイド点眼(ベタメタゾン等)は虹彩炎の沈静化・線維柱帯の炎症抑制・再出血予防に寄与する。ただしステロイド反応陽性者では眼圧上昇をきたすため、投与開始後は頻回に眼圧を測定する。眼圧上昇が認められた場合はロテプレドノールやフルオロメトロンなどの弱いステロイドへの切替えを検討する。
眼圧許容期間の目安
Section titled “眼圧許容期間の目安”健康な若年患者では、眼圧50 mmHgなら5日間、35 mmHgなら7日間が視神経に対するリスクの許容できる期間とされる。すでに緑内障性視神経障害を有する場合、前房出血が高度な場合、角膜染血症の危険がある場合は、上記の期間を待たずに迅速に前房洗浄を行う。
前房洗浄の適応と時期
Section titled “前房洗浄の適応と時期”以下の場合に外科的前房洗浄を行う。
- 最大限の薬物療法でも眼圧コントロール不良
- 前房全体を占める出血(8 ball hyphema)が持続
- 角膜染血症の徴候
- 再出血
前房洗浄の時期は、再出血の可能性が少なく出血塊もある程度眼組織より分離している 受傷後4日目頃 が適している。手技としては角膜サイドポートから前房灌流針(シムコ針)を用いる。出血塊が大きく硬い場合は鑷子で摘出するか、硝子体カッターで切除・吸引する。
再出血は 受傷後3〜7日 に起きやすく、発生率は5〜10%と報告されている2)。再出血は初回出血より多量となることが多く、合併症リスクも増大する。抗線溶薬(トラネキサム酸など)の使用は再出血予防に有効とする報告があるが、視力予後への影響は明らかではない2)。
慢性期の治療
Section titled “慢性期の治療”外傷後の炎症が鎮静化した後の眼圧上昇には、線維柱帯の瘢痕化や虹彩前癒着が関与する。複数の眼圧下降薬でコントロール不良な場合は手術適応となる3)。
薬物療法
レーザー治療
アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT):長期的な眼圧下降に失敗する報告がある。
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT):IRISレジストリ560人の解析で18か月時点の失敗率が48%。一般(41%)より高率5)。
手術療法
線維柱帯切除術(MMC併用):眼圧下降に成功例あり。ただし濾過胞不全リスクが高い。
緑内障ドレナージデバイス:Ahmed valve・Baerveldt implantが選択肢となる1)3)。
毛様体破壊術:視力予後が限られた末期例への代替手段。
外傷や反復手術により結膜が癒着・瘢痕化しているため、濾過手術は困難なケースが多い。Ahmed緑内障バルブやBaerveldt緑内障インプラントなどのチューブシャント手術が第一選択となる場合もある3)。難治例では毛様体破壊術(経強膜毛様体光凝固術、内視鏡下毛様体光凝固術)も選択肢となる。
Ghost cell緑内障では、眼圧下降薬に加え前房洗浄および硝子体手術でghost cellを除去することが望ましい2)。水晶体偏位や損傷がある場合は水晶体摘出が必要となる。瞳孔ブロックがある場合はレーザー虹彩切開術や水晶体摘出術を併施する。
外傷眼では結膜・テノン嚢の瘢痕化や前眼部の解剖学的変化を伴うことが多いため、手術の難易度は一般の緑内障手術より高い。術前の結膜可動性評価、虹彩・水晶体・毛様体の構造評価、既存の創傷や眼内レンズ固定状況の把握が計画段階で重要となる。術中所見に応じた柔軟な術式選択と、術後の長期管理体制の確保が予後を左右する。
毛様体解離(cyclodialysis cleft)による低眼圧の治療
Section titled “毛様体解離(cyclodialysis cleft)による低眼圧の治療”毛様体解離による持続性低眼圧に対しては、まず保存的に薬物療法を行う。
- アトロピン点眼液(1%)1日1回 就寝前
- フルオロメトロン点眼液(0.1%フルメトロン)1日4回
薬物療法で改善しない場合は外科的治療を検討する。解離部に対するアルゴンレーザー光凝固術、毛様体ジアテルミー凝固術、経強膜冷凍凝固術、強膜バックリング手術、毛様体解離部直接縫合、前部硝子体手術などが選択される。低眼圧黄斑症が遷延する場合は速やかな外科介入が視力予後を改善する。
小規模(1〜2時)の毛様体解離であれば自然閉鎖や薬物療法で軽快することもあるが、広範な解離では受動的な経過観察のみでは治癒が困難である。近年は前部硝子体手術とガスタンポナーデの併用、縫合による直接閉鎖、内部からの内視鏡下レーザー光凝固などの低侵襲手技が報告されている。治療法の選択は解離範囲・眼内状態・角膜透明性を考慮して決定する。
再出血は受傷後3〜7日に起きやすく、発生率は5〜10%と報告されている2)。初回の血塊が退縮・溶解し始める時期に一致する。再出血は初回出血より多量となることが多く、合併症リスクも増大する。安静の維持、散瞳薬投与、抗凝固薬の中止検討が重要である。小児や前房出血が前房の1/3〜1/2を超える場合は入院管理が望ましい。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”鈍的外傷の力学
Section titled “鈍的外傷の力学”鈍的外傷時には眼球壁が変形し、内側に張りついている虹彩毛様体に伸展力や眼球壁から剥がされる方向の力がかかる。微細な組織損傷により血液房水関門が破壊され、前房内に炎症細胞が遊出する。瞳孔括約筋が損傷すると外傷性散瞳を生じる。
最も損傷されやすいのは虹彩が毛様体に付着する薄い部分である。ここで断裂すると虹彩離断となり瞳孔が変位する。少し強膜側の毛様体内に裂隙が生じれば隅角解離(隅角後退、angle recession)となり、さらに強膜側で毛様体が強膜から剥離すれば毛様体解離(cyclodialysis)となる。これらの病変では特に前房出血が起こりやすい。
隅角後退の発生機序
Section titled “隅角後退の発生機序”鈍的外力により前房内圧が急激に上昇すると、角膜輪部の伸展と房水の後方および隅角部への移動が生じる。これにより虹彩根部に牽引力がかかり、毛様体筋の縦走筋(Brücke筋)と輪状筋(Müller筋)の間で断裂が生じる。すなわち隅角後退とは、毛様体が虹彩とともに後方へ移動した状態であり、隅角解離ともいわれる。
外力が十分に大きい場合は毛様体動脈が破綻し前房出血を生じる。外傷性前房出血で隅角後退発生率が60〜100%と高率である理由はこの共通の発生機序にある。すなわち、隅角後退と前房出血は独立した病変ではなく、同一の外力による連続した組織損傷として理解される。毛様体内の動脈破綻で前房内に急激な出血が生じ、短時間で前房内圧が上昇して対側の角膜内皮にも二次的損傷を及ぼしうる。
損傷部位は組織学的には次のような特徴を示す。毛様体輪状筋(Müller筋)は内側(水晶体側)に、縦走筋(Brücke筋)は外側(強膜側)に位置する。両筋の間には結合組織層が存在し、ここが力学的に最も脆弱な部位となる。鈍的外力は眼球の前後短縮とそれに伴う赤道部の拡張を引き起こし、毛様体に強い剪断力を加える結果、この結合組織層で裂隙が生じる。
眼圧上昇の機序
Section titled “眼圧上昇の機序”- 前房出血に伴う赤血球・フィブリン・血小板による線維柱帯の閉塞
- シュレム管の直接的ダメージによる早期の眼圧スパイク
- 炎症産物と細胞デブリによる房水流出抵抗の増加
- 線維柱帯・シュレム管の瘢痕化・線維化による房水流出抵抗の慢性的増大
- 強膜突起に対する毛様体筋の緊張喪失によるシュレム管の狭窄
- 線維柱帯を覆う硝子様膜(glassy membrane)の増殖
- 虹彩前癒着による二次的な隅角閉塞
EGS Guidelinesは、鈍的外傷による二次開放隅角緑内障として、線維柱帯の損傷・瘢痕化・炎症・赤血球やデブリの閉塞・隅角後退・水晶体誘発性緑内障を挙げている2)。外傷後きわめて長い期間を経て眼圧上昇が生じうる点が強調されている2)。組織学的には、隅角後退症例の線維柱帯に不連続な硝子様膜様物質が増殖しているのが観察され、この構造が房水流出抵抗を長期的に増大させると考えられている。
線維柱帯の瘢痕化は受傷後徐々に進行し、受傷直後には正常であった房水流出機能が数年〜数十年かけて低下する。このため受傷直後の眼圧が正常であっても将来の緑内障発症を否定できない。定期的な眼圧測定と視神経・視野評価が長期管理の要となる。
Ghost cell緑内障の機序
Section titled “Ghost cell緑内障の機序”硝子体出血後、赤血球が数週間にわたり硝子体中に停留すると、細胞内容成分のほとんどが吸収され変性ヘモグロビン(Heinz小体)のみを含む中空の胞体(ghost cell)となる。Ghost cellは正常赤血球に比べ変形能が低下しており、線維柱帯を通過できず閉塞を生じる2)。前部硝子体面が破壊され硝子体前房間に交通がある場合にghost cellが前房に移動する。前房内は高酸素分圧と迅速な循環のため、前房出血のみではghost cellは形成されにくい2)。
水晶体関連緑内障
Section titled “水晶体関連緑内障”外傷による水晶体嚢の破損で水晶体物質が漏出すると、線維柱帯に沈着して眼圧が上昇する(phacolytic glaucoma)。水晶体皮質を貪食したマクロファージによる線維柱帯閉塞が主な機序である。水晶体蛋白に対するIII型アレルギー反応(phacoanaphylactic glaucoma)も発症しうる。
穿通性外傷特有の機序
Section titled “穿通性外傷特有の機序”上皮迷入(epithelial downgrowth)は、穿通創を通じて前房内に侵入した上皮細胞が線維柱帯・角膜内皮・虹彩前面を被覆して房水流出を阻害する。治療は極めて困難で、罹患組織の切除と凍結療法(cryotherapy)が選択される場合があるが予後は不良である。
線維増殖(fibrous downgrowth)は、穿通創を通じて線維芽細胞が前房内に増殖する病態であり、上皮迷入より進行は緩徐だが同様に難治性である。
鉄錆症(siderosis bulbi)は、鉄含有の眼内異物から溶出した鉄イオンが線維柱帯細胞・水晶体上皮・網膜色素上皮などの細胞に毒性を及ぼす全層性の病態である。特に線維柱帯への沈着は慢性的な房水流出障害を引き起こす。電気生理検査(ERG)でb波振幅低下が早期から認められ、全層性障害の指標となる。眼内異物の早期摘出が予防的に重要である。
毛様体解離による低眼圧黄斑症
Section titled “毛様体解離による低眼圧黄斑症”毛様体解離では、毛様体から脈絡膜上腔への房水ドレナージ経路(ぶどう膜強膜流出路の側路)が形成され、持続性の低眼圧をきたす。遷延すると網脈絡膜皺襞と黄斑浮腫を惹起し、低眼圧黄斑症(hypotony maculopathy)として視力障害を生じる。解離部の閉鎖には毛様体縫着やジアテルミー凝固、硝子体手術などの外科治療を要する。
低眼圧黄斑症の発症機序としては、眼圧低下に伴う眼球壁の変形により網膜下液移動・脈絡膜皺襞・視神経乳頭浮腫が生じ、黄斑部の光受容体機能が障害される。眼圧が6 mmHg未満で数週間持続すると不可逆的視力低下をきたすことがあるため、早期診断と治療が重要である。治療の目標は眼圧を10 mmHg以上に回復させ、解剖学的変化の進行を止めることにある。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”Ahmed緑内障バルブの毛様体溝挿入法
Section titled “Ahmed緑内障バルブの毛様体溝挿入法”外傷性緑内障は複数の機序が複合的に関与するため、個々の症例に応じた眼圧上昇原因の特定と治療戦略が求められる2)。近年、Ahmed緑内障バルブ(AGV)のチューブを毛様体溝(ciliary sulcus)へ挿入する手技が、前房挿入と比較して角膜内皮細胞の減少が少ないという利点を持つことが報告されている1)。ただし従来の単純挿入法では、Asaokaらによれば46%が1回の試みで成功せず、4.4%は毛様体溝挿入自体が不可能であったとされる1)。
Nittaら(2023)は、23Gニードルで作成した確実なガイドチャンネルを利用する4-0ナイロンガイド法を報告した1)。本法は21G/23Gニードルガイド法と比較して水平挿入により虹彩干渉のリスクが低く、硝子体腔への迷入リスクを排除できる利点を持つ。散瞳不良眼や眼内レンズ動揺眼でも正確な毛様体溝挿入が可能である1)。
症例報告(Nitta ら 2023)1):88歳女性の隅角後退緑内障症例に本法を施行。偽落屑症候群を合併し散瞳不良(最大瞳孔径3.5 mm)と軽度IOL動揺を認めた。術前IOP 40 mmHgであったが、術後1か月でIOP 10 mmHg(点眼なし)を達成し、角膜内皮細胞密度の減少は認めなかった。
外傷性緑内障の管理においては、以下の領域での臨床研究の進展が期待されている。
- 隅角後退の程度と緑内障発症リスクの予測モデルの構築
- 前房出血後の線維柱帯損傷の非侵襲的評価法の開発
- 外傷眼に対する最適な手術戦略の確立(チューブシャント vs 濾過手術 vs MIGS)
- Ghost cell緑内障の早期介入基準の明確化
- 低侵襲緑内障手術(MIGS)の外傷性緑内障への適応拡大
- 生体模倣素材を用いた線維柱帯再建の基礎研究
- 人工知能を用いた隅角画像の自動解析と隅角後退検出
- 遺伝的感受性と外傷性緑内障発症の関連解明(対側眼緑内障発症の機序)
これらの研究動向は、受傷後の個別化医療と長期予後改善に寄与することが期待される。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”-
Nitta K, Akiyama H. A New Technique Using a 4-0 Nylon Thread as a Guide for Easy and Precise Tube Insertion of Ahmed Glaucoma Valve Implant Into Ciliary Sulcus. Cureus. 2023;15(2):e34854. doi:10.7759/cureus.34854.
-
European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2021 Jun;105(Suppl 1):1-169. doi:10.1136/bjophthalmol-2021-egsguidelines. PMID:34675001.
-
Pazos M, Traverso CE, Viswanathan A; European Glaucoma Society. European Glaucoma Society - Terminology and guidelines for glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-212. doi:10.1136/bjophthalmol-2025-egsguidelines. PMID:41026937.
-
日本緑内障学会 緑内障診療ガイドライン作成委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
-
Gedde SJ, Vinod K, Wright MM, et al. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2021 Jan;128(1):P71-P150. doi:10.1016/j.ophtha.2020.10.022. PMID:34933745.
-
Girkin CA, McGwin G Jr, Long C, Morris R, Kuhn F. Glaucoma after ocular contusion: a cohort study of the United States Eye Injury Registry. Journal of glaucoma. 2005;14(6):470-3. doi:10.1097/01.ijg.0000185437.92803.d7. PMID:16276279.
-
Kaufman JH, Tolpin DW. Glaucoma after traumatic angle recession. A ten-year prospective study. Am J Ophthalmol. 1974;78(4):648-654.
-
Wiggins RE Jr, Vaphiades M, Crouch ER Jr. Sickle cell trait and secondary glaucoma following ocular trauma. J Ocul Pharmacol Ther. 1995;11(2):201-205.