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眼外傷

眼内異物

眼内異物(Intraocular Foreign Body; IOFB)とは、外部から眼球壁を貫通して眼内に留まった異物をいう。眼球穿孔外傷(Open Globe Injury; OGI)の一形態であり、視力予後に大きく影響する眼科的緊急疾患である。工場や作業場での金槌・グラインダー・ドリル、自動草刈り機の使用、爆発や交通事故などで金属片・硝子片・プラスチック片・木片などが眼内に飛入する。多くは小さな金属異物の強角膜を介しての飛入であり、摘出までの時間が視力予後に大きく関わるため、早期診断と可及的速やかな摘出が求められる。

OGIの発生率は米国で4.5/10万人/年であり、IOFBはOGIの18〜41%を占める1)。世界的にみると100万人あたりのIOFB症例数は2008年の350件から2019年には450件以上に増加している1)。患者層は21〜40歳の男性が最多であり、受傷場所は職場が54〜72%、家庭が約30%を占める1)。金属製造・加工業・建築業従事者に多く、金属片(鉄・銅・鉛など)が大多数を占める。

受傷部位による重症度分類として Zone of Injury が用いられる1)

  • Zone 1角膜および輪部の損傷(最も予後良好)
  • Zone 2輪部後方5mmまでの強膜損傷
  • Zone 3輪部後方5mm以遠の強膜損傷(後眼部損傷、予後不良)

局在別頻度

後眼部(硝子体網膜:全IOFBの58〜88%を占める。最も多い。

前眼部(前房虹彩水晶体:10〜15%。

水晶体眼窩:2〜8%。

材質の種類

金属類:鉄・銅・鉛・亜鉛・アルミ・ニッケルなど。最多。

非金属:ガラス・プラスチック・石・木片・植物片など。

有機物:木片・繊維・植物片。組織反応強く眼内炎リスク高い。

眼内異物は存在部位により以下の5つに分類される。

  1. 前房および虹彩
  2. 水晶体
  3. 硝子体
  4. 網膜あるいは網膜
  5. 脈絡膜強膜
Q 小さな金属粉が目に入った場合、自覚症状がなければ受診しなくてよいか?
A

小さな鉄粉では受傷を自覚しないことがある。しかし放置すると鉄錆症により視力が徐々に低下する。金属作業後に飛蚊症視力変化を感じた場合は速やかに眼科を受診すべきである。

眼内異物疑いと角膜裂傷、水晶体嚢破損
Hwang HJ, et al. Lenticular fungal infection caused by Aspergillus in a patient with traumatic corneal laceration: a case report. BMC Ophthalmol. 2020. Figure 1. PMCID: PMC7195745. License: CC BY.
角膜全層裂傷(a)と異物が疑われる前嚢破損(b)、および眼内異物を認めないBモード超音波像(c)である。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う眼内異物に対応する。
  • 眼痛:貫通創に伴う疼痛。小さな金属粉では軽微なこともある。
  • 流涙・異物感:穿孔創や角膜損傷に伴う。
  • 視力障害:異物の局在・大きさ・合併症(白内障網膜損傷)による。
  • 飛蚊症硝子体出血や異物の影が原因。
  • 充血:毛様充血〜強度の充血

なお、鉄粉のように小さい異物では受傷の自覚が乏しいことがある。眼痛・流涙・視力障害などが生じるが、角膜に穿孔創がみられ漏出があると低眼圧浅前房を生じることも多い。

眼球穿孔外傷の臨床所見は多岐にわたる。眼圧測定眼球破裂が疑われる場合には圧平眼圧計の使用を避ける1)。臨床検査のみではIOFBの最大55%が検出不可能であり、画像診断との併用が必須である1)

  • 穿孔創角膜強膜の全層損傷。辺縁不整な裂傷として観察される。
  • サイデル試験陽性フルオレセイン染色房水漏出を確認する。
  • 低眼圧浅前房房水漏出による。
  • 前房出血前房血腫):外傷に伴う。
  • 外傷性白内障水晶体損傷または鉄・銅イオンの蓄積による。
  • 相対的瞳孔求心路障害RAPD視神経網膜の重篤な損傷を示唆する。RAPDの確認は予後予測に重要である1)
Q 目に異物が入った後、視力は良いのに受診が必要か?
A

視力が保たれていても眼内に異物が留まっている場合がある。特に鉄粉や銅片は放置すると鉄錆症・銅錆症を起こし、数ヶ月〜数年後に視力を失う。受傷直後に受診し、CT検査でIOFBを除外することが重要である。

IOFBの最多受傷機転はハンマーで金属を打つ作業(59%)である5)。その他の主な機転を以下に示す。

  • グラインダー・旋盤作業:高速回転による金属片の飛散1)
  • ネイルガン:釘の眼内迷入5)
  • 爆発物・軍事外傷:複数の異物が両眼に及ぶことがある3)
  • 家庭内作業:工具の不適切使用
  • 眼保護具の未着用:最大の予防可能リスク1)
  • 男性・21〜40歳:職業的曝露リスクが高い層1)
  • 農村環境:土壌細菌(Bacillus cereus)による眼内炎リスクが高い1)

IOFB全体の眼内炎合併率は5〜30%(平均6.5%)である1)。農村部・有機物異物・処置の遅延がリスクを高める。

異物の材質によって組織への影響は大きく異なる。

材質毒性主な合併症
鉄・鋼中等度鉄錆症(慢性)
銅(純銅)銅錆症・全眼球炎
ガラス・プラスチック低(不活性)留置可能な場合あり
Q 作業中の目の保護はどうすればよいか?
A

グラインダーやハンマー使用時は飛散金属片による眼内異物のリスクがある。ANSI規格またはJIS規格に適合した保護眼鏡(ゴーグル型が望ましい)を必ず着用すること。IOFBの54〜72%が職場で発生しており、適切な保護具で大部分は予防できる1)

眼内異物の局在確認には画像診断が不可欠である。磁性体(鉄)か非磁性体異物(銅・アルミニウム・鉛・亜鉛・硝子・木)かの把握が重要であり、受傷状況を詳細に聴取する。各モダリティの特性を以下に示す。

検査検出感度備考
CT最大95%第一選択。金属・ガラス・石に有効
X線(Waters法)2mm以上の金属片感度低い。スクリーニングのみ
MRI金属性IOFBに絶対禁忌
  • CT(コンピュータ断層撮影):最大95%でIOFBを検出でき、第一選択の画像診断である1)。軸位断面・冠状断面の撮影により、異物の位置・数・材質推定が可能。眼窩・頭蓋内変化を同時評価できる。
  • 単純X線(Waters法)眼窩撮影を行う。10円玉(直径約24mm)を目標として眼内・眼外を判断するが、感度は低くスクリーニング補助に留まる。
  • MRI:金属性IOFBが存在する場合は磁性体の移動・回転による追加損傷を招く可能性があるため絶対禁忌である1)。非金属であることが画像や病歴で確認された場合にのみ施行を検討する。
  • Bスキャン超音波:IOFBの検出感度は約52%と低いが1)後部硝子体剥離網膜剥離・眼球壁の評価に有用。CTで描出されないガラス・プラスチック異物の検出にも使用する。
  • Comberg法:眼内異物であることが判明したら、Comberg法で位置の確認を行う。

異物の位置にかかわらず、感染の可能性を考え眼内液の細菌真菌培養検査を施行する。

重症度予測:Ocular Trauma Score(OTS)

Section titled “重症度予測:Ocular Trauma Score(OTS)”

OTSは受傷時の初期視力眼球破裂眼内炎・穿孔・網膜剥離RAPDの有無から最終視力を予測する予後スコアである1)。治療方針の決定や患者説明に活用される。

Q 金属が目に入った可能性があるが、MRIを受けてよいか?
A

金属性IOFBが疑われる場合はMRI検査を受けてはならない。磁性体の異物がMRIの磁場で動き、追加の眼内損傷を引き起こす危険がある1)。まずCTで異物の有無と材質を評価し、非金属であることが確認された場合にのみMRIを検討する。

  • 眼球シールド保護:眼球への直接圧迫を避けるため、硬性シールドで保護する。
  • 絶飲食・全身管理:緊急手術に備える。
  • 破傷風免疫の確認:外傷時の常規処置として行う1)
  • 全身抗菌薬投与:感染の可能性に対して広域スペクトルの抗菌薬の点滴投与を行う。眼内炎予防のために開始する。

推奨される全身抗菌薬レジメン1)

  • レボフロキサシン 500mg/日(経口)
  • または モキシフロキサシン 400mg/日(経口)
  • 重症・農村環境例:バンコマイシン 1g 12時間毎(静注) + セフタジジム 1g 8時間毎(静注)

眼球開放創は最初に一次閉鎖を行う。縫合材料の目安は以下の通りである1)

  • 角膜裂傷:10-0ナイロン糸
  • 輪部裂傷:9-0ナイロン糸
  • 強膜裂傷:8-0バイクリル糸

一次修復は受傷後24時間以内に行うことが眼内炎発症の独立した保護因子である1)7)

眼内異物の存在を確認したら、可及的速やかに異物摘出を施行することが、損傷組織の再建と感染対策の両面から良好な視力予後につながる。

前眼部異物

摘出法粘弾性物質前房維持後、強角膜切開口から鑷子で摘出する。

磁性異物:前眼部の小さな鉄片には外部磁石も使用できる。

適応前房虹彩水晶体内のIOFB。

後眼部異物

標準術式:23G/25G/27Gによる小切開硝子体手術PPV)が標準である1)

巨大異物(4mm超):角強膜トンネル切開から摘出する1)

PFCL使用:液体パーフルオロカーボン(PFCL)による黄斑保護は議論がある1)

前房隅角虹彩異物:十分な幅の強角膜切開を作成し、前房に十分な粘弾性物質を注入して前房の空間を保持する。さらに異物が移動しないようにしたうえで、角膜内皮水晶体などを損傷しないよう鑷子で摘出する。

水晶体内異物前房内に十分な粘弾性物質を注入し、まず磁石や鑷子で異物を摘出する。後囊が損傷していないときには、その後に通常の白内障手術と同様に水晶体を摘出し眼内レンズを挿入する。後囊が破損しているときには、硝子体手術を行う。

硝子体網膜異物:大きな磁性の異物で角膜の穿孔創が大きい場合には巨大マグネットで摘出できる。一般的には硝子体手術で眼内マグネットやマイクロ鑷子、ダイヤモンド鑷子などを用いて、角膜輪部あるいは毛様体扁平部に異物の大きさに相当する術創を作成し摘出する。

脈絡膜強膜異物強膜パックル手術に準じて眼底を透見しながら異物のある強膜を半層切開し、磁石や鑷子で摘出し、その後冷凍凝固を行う。

  • ダイヤモンドコーティング鑷子:滑面のIOFBに対しグリップ力を高める1)
  • NCircle ニチノールバスケット:把持が困難な異物のバスケット摘出1)
  • 従来の電磁石・永久磁石:鉄性磁性異物に使用

眼内炎リスクに応じて硝子体内投与を行う。推奨薬剤と用量を以下に示す1)硝子体手術潅流液にも細菌性眼内炎に対する硝子体手術に準じて抗菌薬を添加する。

薬剤用量適応
バンコマイシン1.0mg/0.1mLグラム陽性菌カバー
セフタジジム2.25mg/0.1mLグラム陰性菌カバー
ボリコナゾール50〜100μg/0.1mL農村部・土壌汚染例(真菌リスク)1)3)

異物の材質によって緊急度が異なる1)

  • 即時摘出が必要:鉄・銅などの有毒金属、有機物(眼内炎・組織反応リスク)
  • 待機が可能:ガラス・プラスチックなどの不活性異物
  • 軍事外傷:抗菌薬下での管理下では、平均21日の遅延でも眼内炎発症なしの報告あり1)

後部強膜の大きな穿孔に対しては、ドナー強膜・羊膜・フィブリン糊による3層プラグ(内側から充填する術式)が有効との報告がある4)

Q 受傷後どのくらいの時間で手術が必要か?
A

眼球開放創の一次修復は24時間以内が推奨される。24時間以内の修復が眼内炎発症の独立した保護因子であることが報告されている1)7)。有毒金属(鉄・銅)や有機物の異物は即時摘出が原則で、ガラスなど不活性な異物は待機も可能な場合がある。

Q 異物は必ず手術で取り除く必要があるか?
A

材質によって異なる。鉄・銅などの有毒金属や有機物は組織障害・眼内炎リスクから原則除去する。ガラス・プラスチックなどの不活性異物は、摘出による合併症リスクが高い場合に留置が選択される場合もある1)。眼科専門医による個別判断が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

鉄性異物が眼内に留まると、鉄が2価・3価イオン化し眼内に拡散して各組織に蓄積する2)

  • 沈着部位角膜上皮虹彩色素上皮・毛様体上皮・水晶体上皮・網膜色素上皮RPE)に沈着する。
  • 臨床所見:患眼側が黒い虹彩異色症・瞳孔散大固定・水晶体前囊下茶色沈着物として現れる。
  • 組織障害網膜色素上皮毒性→視細胞変性→夜盲・視野狭窄→失明
  • 続発合併症外傷性白内障・続発性緑内障網膜変性
  • 経過:数ヶ月〜数年をかけて緩徐に進行する。

銅性異物の毒性は銅の純度によって異なる。銅は内境界膜など基底膜と親和性を持つ。

  • 純銅(高純度):劇症型の全眼球炎を引き起こし、急速に眼球を障害する。
  • 合金(低純度銅):慢性的にカイザー・フライシャー(KF)輪(角膜周辺部の銅沈着)・前囊下白内障内境界膜下緑色沈着物を生じる。
  • 網膜:金属光沢の網膜病変が出現しうる。

植物片・木片・綿繊維などは激しい肉芽腫性組織反応と眼内炎を引き起こす1)。原則として即時摘出が必要である。一方、硝子体内注射後に迷入した綿繊維(コットン繊維)は比較的不活性であり、除去不要の場合もある6)

異物が脈絡膜に完全に嵌入した場合、摘出が技術的に不可能なことがある5)。長期的な炎症が持続する場合は眼球摘出に至ることもある。

術後に増殖硝子体網膜症PVR)に進展する可能性がある。ぶどう膜が高度に損傷されている場合には交感性眼炎を発症する可能性がある。眼内炎にも最大の注意を払う必要がある。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

JIN磁性摘出器(新世代磁気摘出デバイス)

Section titled “JIN磁性摘出器(新世代磁気摘出デバイス)”

Zhaoら(2025)は希土類-金合金を用いた新型磁性摘出器(JIN magnetic foreign body extractor)を報告した2)。20〜27Gポートに対応し、254〜86.3ガウス秒(Gs)の磁力をフットペダルでオンオフ制御できる。鉄イオン放出による網膜色素上皮毒性を防ぐため早期摘出の意義も強調されている2)

後方穿孔に対する3層プラグ術式

Section titled “後方穿孔に対する3層プラグ術式”

Celoら(2023)はドナー強膜・羊膜・フィブリン糊を組み合わせた3層プラグによる後方穿孔の内側からの閉鎖術式を報告した4)。従来の外縫合が困難な後方穿孔に対する代替手技として注目される。

Mishraら(2023)は爆発物による両眼同時開放眼球外傷2例に対し、2名の術者による両眼同時硝子体手術を施行した3)。1人の術者が順次手術するより全身麻酔時間を短縮でき、両眼外傷の管理において有用な選択肢とされる。

一次修復タイミングのメタアナリシス

Section titled “一次修復タイミングのメタアナリシス”

McMasterら(2025)は開放眼球外傷における一次修復タイミングの系統的レビューとメタアナリシスを発表した7)。24時間以内の修復が眼内炎の独立保護因子であり、早期修復の有益性を支持する最新のエビデンスである。

Drnovsekら(2022)は硝子体内注射後に硝子体腔に迷入した綿繊維(コットン)の1例を報告した6)。綿繊維は比較的不活性で、観察継続または内視鏡的摘出を検討する。医原性IOFBとして認識が広まりつつある。

外傷後の小児患者の15%にGAD・PTSDまたはうつ病が生じるとの報告があり、眼科治療と並行した精神的サポートの重要性が指摘されている1)


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