この疾患の要点
硝子体出血は急激な痛みを伴わない視力 低下の比較的頻度の高い原因であり、人口10万人あたり約7例に発生する。
最も多い原因は増殖糖尿病網膜症 ・後部硝子体剥離 (網膜裂孔 を伴う)・眼外傷の3つで、全症例の59〜88.5%を占める。
急性後部硝子体剥離 に伴う硝子体出血の70〜95%は網膜裂孔 または網膜 断裂を伴うため、緊急の眼底検索が必要。
眼底が透見できない場合はBモード超音波検査を行い、網膜剥離 の有無を必ず確認する。
頭蓋内圧亢進(特発性頭蓋内圧亢進症 ・くも膜下出血)が硝子体出血の稀な原因となることがある。
治療は原因疾患の治療が基本で、吸収されない場合や網膜剥離 を伴う場合は硝子体手術 (硝子体 茎離断術)が適応となる。
糖尿病網膜症 診療ガイドラインでは、汎網膜光凝固 の完成が不可能な硝子体出血では硝子体手術 の適応となるとしている。6)
黄斑 機能が保たれている場合は視力 予後良好だが、網膜剥離 が合併した場合は増殖硝子体網膜症 となり予後不良となることがある。
初診時に網膜剥離 を認めない症例でも、経過観察中に網膜剥離 を生じることがあるため、こまめな診察が必要である。
硝子体 は血管を有さない透明な組織であるため、隣接する組織からの出血が硝子体 ゲル中へ波及することにより硝子体出血の病態を生じる。硝子体出血(Vitreous Hemorrhage)は、硝子体 腔内への出血が硝子体 膜の裂け目を通ってゲル内に侵入した状態である。網膜 前出血(内境界膜 と神経線維層の間、または内境界膜 と後部硝子体 膜の間の出血)が硝子体 腔に拡散した状態も包含される。
自然発症の硝子体出血の発生率は、人口10万人あたり約7例、台湾では1万人あたり4.8例と報告されており、集団の特性・地理・その他の要因によって異なる。発症が急速で、痛みを伴わない大幅な視力 低下を引き起こすため、眼科医だけでなく救急外来でもしばしば遭遇する疾患である。原因疾患別頻度では増殖糖尿病網膜症 が最多であり、次いで後部硝子体剥離 に伴うもの、眼外傷が続く。12)
ICD-10コード:H43.1
Q
硝子体出血はどのくらいの頻度で起こるのか?
A
人口10万人あたり年間約7例に発生するとされており、急激な視力 低下の原因として眼科では比較的頻度の高い疾患である。原因疾患や患者背景によって発生率は異なる。
Hu X, et al. Reoperation following vitrectomy for diabetic vitreous hemorrhage with versus without preoperative intravitreal bevacizumab. BMC Ophthalmol. 2019. Figure 4. PM
CI D: PMC6743107. License: CC BY.
a 2型糖尿病の女性の右眼で、
牽引性網膜剥離 を伴わない硝子体出血と指数弁
視力 を示し、b 術前に
ベバシズマブ 硝子体内注射 を受け、1週間後に
硝子体手術 と
ガスタンポナーデ を行い、6か月後に20/50へ改善した。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う硝子体出血に対応する。
突然の痛みを伴わない視力 低下・霧視 が主な訴えである。
急激な視力 低下・霧視 :出血の量・部位・程度によって軽度から高度の視力 低下まで幅がある。突然の霧視 や視力 低下として発症する。
飛蚊症 ・「クモの巣」状の見え方 :新しく出現した飛蚊症 ・影・「クモの巣」のようなものが見えると表現されることがある。
赤視症 :視界が赤っぽく見える赤視症を訴えることがある。
朝方の症状増悪 :夜間に血液が黄斑部 に沈殿するため、朝に症状が悪化することがある。
細隙灯顕微鏡(スリットランプ )検査では、前部硝子体 中の赤血球の同定、色素上皮細胞の有無、前房 中や硝子体 中の炎症細胞の有無などを確認する。時間が経って溶血が進むと残りの細胞は白色調になる。出血が少量であれば赤色が目立たないケースもあり、ぶどう膜炎 との鑑別が必要になることがある。
硝子体出血は月単位の経過で白色になる(器質化)ため、白色=炎症とは限らない。また、分布にムラがあることが多く、下方に沈殿して濃く、上方では薄く網膜 が透けて見えていることもある。
新鮮出血 :赤色を呈し、塊状・羽毛状の反射を示す。経過とともに黄白色から灰白色へ変化するため、陳旧性出血や硝子体混濁 との鑑別が困難な場合がある。
陳旧性出血 :経過とともに黄白色・灰白色へ変化する。色調から出血後の経過時間をある程度推測できる。
網膜 前出血 :眼底検査 では水平線 niveau(ニボー)を形成することが特徴的である。硝子体 後境界膜下腔の出血(scaphoid hemorrhage)は特徴的な舟状形態を呈する。
虹彩ルベオーシス :新生血管 を伴う重症例で認められる。
Q
硝子体出血は痛みを伴うか?
A
通常、硝子体出血自体は痛みを伴わない。突然の無痛性の視力 低下・飛蚊症 が典型的な症状である。外傷が原因の場合は外傷による疼痛を伴うことがある。
硝子体出血の原因の頻度は、調査対象となる集団の特性によって異なる。原因不明の片眼硝子体出血では、網膜静脈閉塞症 による新生血管 の破綻、後部硝子体剥離 、網膜裂孔 、網膜剥離 を原因とする症例が多い。
最も一般的な3つの原因は以下の通りで、全症例の59〜88.5%を占める。
増殖糖尿病網膜症
新生血管 の破綻 :網膜 虚血によりVEGFなど血管新生因子が産生され、脆弱な新生血管 が増殖する。通常の眼球運動・急性後部硝子体剥離 ・線維血管性収縮が出血を引き起こす。
頻度 :3大原因の筆頭。コントロール不良の糖尿病で高リスク。
後部硝子体剥離
網膜 血管の破綻 :後部硝子体剥離 (PVD )患者の約8%に硝子体出血が認められる。
網膜裂孔 の合併 :急性後部硝子体剥離 に伴う硝子体出血の70〜95%は網膜裂孔 または網膜 断裂を伴う。出血量と網膜裂孔 の可能性には直接的な相関がある。4)
眼外傷
閉鎖性・開放性眼外傷 :鈍的外傷による眼球圧縮が網膜 血管を破綻させる。開放性眼外傷では眼内全層で出血が起こりうる。
年齢的特徴 :40歳未満での硝子体出血は外傷歴があることが多い。
小児では成人と異なる原因分布を示す。Coats病・未熟児網膜症 ・眼外傷(乳幼児揺さぶられ症候群を含む)・血液疾患(白血病・血小板減少症)・網膜芽細胞腫 が主な原因として挙げられる。乳幼児の両眼性硝子体出血では虐待による揺さぶられ症候群を念頭に置く必要がある。
コントロール不良の糖尿病 (増殖網膜 症を伴う)
高血圧 :形成されたばかりの血栓を破壊し、新たな活動性出血を引き起こしうる。
高齢 :加齢による後部硝子体剥離 発症に伴うリスク。
40歳未満 :外傷が主な原因となりやすい。
抗凝固薬・抗血小板薬 :アスピリンは糖尿病網膜症 の進行を遅らせず、硝子体出血リスクを確実に高めるというエビデンスもないとされており、医学的に抗凝固療法が必要な場合は硝子体出血の消解を目的とした中止を推奨しない。5)
予防・日常のケア
糖尿病・高血圧の適切なコントロールが硝子体出血の予防に重要です。
糖尿病患者は定期的な散瞳 眼底検査 を受け、進行した網膜 症を早期に発見・治療しましょう。
金属の打撃・研磨、銃器の使用、ラケットボールなど眼外傷のリスクがある活動では適切な保護眼鏡を着用しましょう。
突然の無痛性の視力 低下・飛蚊症 が出現した場合は速やかに眼科を受診してください。
硝子体出血は現象所見であるため、原因疾患の鑑別が重要となる。出血が軽度で眼底が観察できる場合は、原因の特定は比較的容易である。
糖尿病・高血圧・鎌状赤血球症 ・外傷・過去の網膜 疾患や眼科手術の既往歴は、診断の重要な手がかりとなる。高血圧・糖尿病などの全身疾患の有無や、対側眼の状態から出血原因を推測できることがある。
細隙灯顕微鏡検査 :前部硝子体 中の赤血球同定、色素上皮細胞の有無、炎症細胞の有無、虹彩ルベオーシス の確認を行う。
眼圧測定 ・隅角鏡検査 :虹彩 や隅角 の新生血管 を検出するために実施する。
散瞳 下眼底検査 :硝子体 腔内の出血形態・分布を確認し、網膜裂孔 ・網膜剥離 を検索する。急性後部硝子体剥離 に伴う場合は強膜 圧迫(scleral depression)を用いて周辺網膜 を精査する。
超広角走査型レーザー検眼鏡(SLO) :軽中等度の出血では超広角眼底撮影 により周辺網膜 の裂孔・新生血管 ・虚血領域を広範に観察できる。
対側眼の検査 :原因疾患のヒントが得られることが多い。
硝子体出血で眼底が全く透見できない場合、Bモード超音波検査が必須である。Bモードを用いて出血の程度・範囲の把握と後部硝子体剥離 の有無を確認する。加齢黄斑変性 を原因とする硝子体出血では網膜 下出血を認める場合があるため、黄斑 近傍の網膜 の反射にも注意する。
新鮮な硝子体出血では塊状・羽毛状の反射を示し、可動性が認められる。後部硝子体剥離 は膜エコーとして捉えられる。視神経乳頭 への連続性の有無が網膜剥離 との鑑別ポイントとなる。後部硝子体 膜に出血が凝集している場合、剥離網膜 と鑑別が難しいことがある。
PVD に伴う眼底遮蔽性硝子体出血における Bモード超音波での網膜裂孔 検出感度は44〜100%と報告されており、10) 超音波単独では偽陰性も生じうるため、出血消退後の詳細な眼底検査 が重要である。
硝子体出血との鑑別を要する主な病態を示す。
ぶどう膜炎 :硝子体混濁 (炎症細胞・フィブリン)が出血と類似した外観を呈することがある。細隙灯顕微鏡による細胞同定・KPの有無・全身症状が鑑別に重要。
眼内炎 :急激な視力 低下・眼痛 ・前房 炎症所見を伴う。感染リスクの病歴確認が必須。
硝子体 アミロイドーシス :硝子体 の白色〜灰白色混濁。色調・形態と病歴から鑑別する。
眼内腫瘍 :網膜芽細胞腫 (小児)・脈絡膜メラノーマ などが硝子体 内への出血を来すことがある。Bモード超音波・MRIで腫瘤の同定が重要。
硝子体 星状体症(Asteroid Hyalosis) :白色の星状小体が硝子体 全体に散在。自覚症状に乏しく、出血との鑑別は比較的容易。
フルオレセイン蛍光眼底造影 (FA ) :軽度〜中等度の硝子体出血で新生血管 の同定に有用。
OCT (光干渉断層計 ) :後部硝子体剥離 の評価・病期分類に有用。OCT -Aでは新生血管 の検出にも応用される。
ERG (網膜電図 ) :網膜 機能の評価を必要に応じて行う。特に原因が不明な場合や網膜 疾患の合併が疑われる場合に施行する。
眼窩 CTスキャン :開放性眼外傷が疑われる場合。眼内異物 の除外にも用いる。
血圧測定・臨床検査(血液検査) :糖尿病・鎌状赤血球症 ・白血病・血小板減少症・その他の血液学的異常を評価するために施行する。
以下に主な検査の使い分けを示す。
Q
眼底が見えない場合、どのように診断するのか?
A
Bモード超音波検査が必須となる。出血による硝子体 エコーの状態、後部硝子体剥離 の有無、視神経乳頭 への連続性の有無から網膜剥離 と鑑別する。眼底が全く透見不能でも間接眼底鏡・強膜 圧迫で周辺網膜 が観察できることがある。
可能な限り速やかに原因疾患を治療することが基本原則である。
出血が軽度であれば、経過観察を継続しながら自然吸収を待つ。血液は1日あたり約1%の割合で消失する。
安静・頭位管理 :就寝時に頭側を高く保つよう指示する。血液が沈殿して視力 が改善し、より完全な眼底検査 が可能になる。激しい活動を控えるよう指示する。
原因疾患の管理 :糖尿病・高血圧など全身性疾患を有する患者は、眼科的な密なフォローアップに加え、内科医・内分泌専門医による全身管理を並行して受ける。白血病やぶどう膜炎 などの疾患では、内科的治療を行いながら、硝子体出血の吸収を待つ。
新生血管 (増殖糖尿病網膜症 ・網膜静脈閉塞症 など)が原因で、視界が十分であればPRP を行い新生血管 を退縮させてさらなる出血リスクを軽減する。汎網膜光凝固 は増殖糖尿病網膜症 の重症視力 低下リスクを50%以上減少させることがランダム化比較試験で示されている。8)
PRP を行うための視界が得られない場合などに、増殖網膜 症の新生血管 退縮を目的として使用される。加齢黄斑変性 に起因する硝子体出血では通常、抗VEGF薬 の硝子体内注射 が適応となる。
増殖糖尿病網膜症 に伴う硝子体出血を対象としたランダム化比較試験では、ラニビズマブ 硝子体内注射 と生理食塩水注射を比較し、16週時点での硝子体手術 施行率に両群間で差は認められなかった。DRCR.net Protocol Sのデータでは、増殖糖尿病網膜症 に対するPRP とラニビズマブ 硝子体内注射 を比較したところ、5年時点での硝子体出血発生率は両群で同程度(約50%)であった。5)
抗VEGF薬 使用上の注意
新生血管 膜が収縮することで抗VEGF薬 の注射が牽引性網膜剥離 を悪化させる可能性がある。潜在的なリスクとベネフィットを慎重に考慮する。
術前に抗VEGF薬 を投与して手術がキャンセルになると、牽引性網膜剥離 を悪化させる可能性があるため、多くの外科医は患者の内科的な手術許可が得られるまで投与を待つ。
抗凝固薬が硝子体出血のリスクを確実に高めるという決定的なエビデンスはなく、ほとんどの臨床医は医学的に抗凝固療法が必要な場合は硝子体出血の消解を目的とした中止を推奨しない。
治療が遅れれば永続的な網膜 障害をきたしたり、虚血による血管新生緑内障 を発症することもあるため、保存的に経過観察を継続するか、外科的治療を行うかを慎重に検討する必要がある。Bモードで網膜剥離 を伴う場合は、早期に手術を行い、網膜 の復位をはかる。
以下の場合に硝子体手術 が適応となる。5)
Bモード超音波で確認された網膜剥離 または網膜裂孔 を伴う硝子体出血
吸収されない硝子体出血
虹彩新生血管 を伴う硝子体出血(より早期の外科的介入が必要)
溶血性緑内障 やゴースト細胞緑内障 を伴う場合
多くの眼内異物 症例
原因不明の濃い硝子体出血(診断・治療目的)
汎網膜光凝固 の完成が不可能な硝子体出血6)
糖尿病に伴う増殖網膜 症で新しい硝子体出血が1ヶ月以内に消退しない場合、多くの外科医は硝子体手術 を行う。ただし、増殖糖尿病網膜症 でPRP の既往がある既診患者の場合、より長い観察期間(3〜6ヶ月)を設けることが妥当な場合がある。術中にエンドレーザー(眼内光凝固)や術前抗VEGF薬 の使用を考慮することがある。
DRCR.net Protocol ABの初期結果では、増殖糖尿病網膜症 による硝子体出血患者において、アフリベルセプト 初期治療群(100名)と硝子体手術 +レーザー初期治療群(105名)を比較した。24週時点での平均視力 スコアに統計的な差はなかったが、手術群の方が視力 の回復が速く、アフリベルセプト 群の約3分の1がフォローアップ中に硝子体手術 を必要とした(手術群では8%)。5)
Q
硝子体出血はどのくらいで自然に吸収されるか?
A
赤血球は1日あたり約1%の割合で消失するとされ、完全吸収まで数ヶ月を要することがある。軽度であれば経過観察で自然吸収を待つが、吸収されない場合や網膜剥離 を伴う場合は硝子体手術 が適応となる。
Q
硝子体出血の手術はいつ行うべきか?
A
原因疾患や出血の程度による。網膜剥離 を伴う場合は早期に手術を行う。増殖糖尿病網膜症 では、新規の硝子体出血が1ヶ月以内に消退しない場合に硝子体手術 を検討する。PRP 既往のある既診患者では3〜6ヶ月の観察期間を設けることが妥当な場合もある。1型糖尿病の高度硝子体出血では、より早期の硝子体手術 が視力 回復に有利とされる。9) 汎網膜光凝固 の完成が不可能な硝子体出血でも硝子体手術 の適応となる。6)
硝子体 は血管を有さない透明な組織であるため、隣接する組織からの出血が硝子体 ゲル中へ波及することにより硝子体出血の病態を生じる。硝子体 腔内への血液の漏出は、主に2つの基本的メカニズムによって引き起こされる。
急性後部硝子体剥離 (PVD ) :加齢に伴う後部硝子体剥離 の合併症として、硝子体出血が患者の約8%に認められる。硝子体 が網膜 から剥離する際に網膜 血管が破綻することで生じる。急性後部硝子体剥離 に伴う硝子体出血の70〜95%で網膜裂孔 または網膜 断裂を伴う。出血量と網膜裂孔 の可能性には直接的な相関がある。4)
鈍的外傷(閉鎖性眼外傷) :前後方向への眼球圧縮により眼球赤道部が冠状面方向に膨らみ、硝子体 から網膜 へ内向きの牽引力が働く。特に若年患者では硝子体 と網膜 の癒着が強く、この牽引力により網膜 離断・網膜 血管破綻・硝子体出血を生じる。
開放性眼外傷 :眼壁に全層欠損が生じ、硝子体出血を含む眼内全層で出血が起こりうる。
乳幼児揺さぶられ症候群 :眼内のあらゆる層に出血を引き起こしうる。
テルソン症候群 :頭蓋内圧の上昇が網膜 細静脈の圧力を上昇させ破綻させることで起こる。内境界膜 下(sub-ILM )出血が認められる。
バルサルバ網膜症 :咳・いきみ・嘔吐など急激な胸腔内圧・腹腔内圧の上昇が網膜 血管の急性破綻を来し、内境界膜 下出血から硝子体 腔への波及を生じる。
網膜 新生血管 の破綻 :糖尿病網膜症 ・網膜静脈閉塞症 ・鎌状赤血球網膜症 ・未熟児網膜症 などによる網膜 虚血は、VEGF・塩基性線維芽細胞増殖因子・インスリン様成長因子などの血管新生因子産生を介して脆弱な新生血管 増殖を促進する。
網膜細動脈瘤 :動脈壁の局所的脆弱化により瘤が形成され、破裂すると網膜 下・網膜 前・硝子体出血を多層に引き起こす。
網膜静脈閉塞症 における急性閉塞した網膜 細静脈 の破綻。
脈絡膜 腫瘍 や加齢黄斑変性 などに続発する脈絡膜新生血管 :網膜 を突き抜けて硝子体 内に至る「突破性出血(break-through bleeding)」を引き起こすことがある。
特発性頭蓋内圧亢進症 (IIH )やくも膜下出血などで頭蓋内圧が急激に上昇すると、視神経 鞘内のCSF圧が網膜 中心静脈・脈絡網膜 吻合血管を圧迫する。これにより静脈うっ滞が起こり、吻合路から血液が排出できなくなって破綻し、重篤な出血が内境界膜 を突き破って硝子体 に波及する。
Vosoughi&Micieli(2022)は、頭痛・脈動性耳鳴り・一過性視力 障害を自覚しない肥満(BMI 54.9 kg/m²)の32歳女性がフラッシュと飛蚊症 のみで受診し、硝子体出血と乳頭浮腫 を呈した特発性頭蓋内圧亢進症 を報告した。腰椎穿刺の開放圧は34 cmH₂O。アセタゾラミド 500 mg 1日2回の内服で3か月後に乳頭浮腫 が改善し、6か月後に硝子体出血と視力 が完全に回復した。3)
Hanaiら(2022)は、12歳の男児に一側性の拡張性錐体尖端嚢胞腫(PAC)と対側眼の硝子体出血が頭蓋内圧亢進に続発して生じた症例を報告した。腰椎穿刺の開放圧は250 mmH₂O。アセタゾラミド 250 mg 1日2回投与により硝子体出血と乳頭浮腫 が徐々に消退した。1)
硝子体 腔内に放出された血液は急速に血栓を形成し、1日あたり約1%の割合で消失する。赤血球は線維柱帯 (trabecular meshwork)を通って排出されるか、溶血・貪食作用を受けるか、あるいは数ヶ月間硝子体 内に留まる。硝子体 内での免疫応答は「低代謝回転型」の肉芽腫に類似した特異的なもので、初期の多形核細胞反応は見られない。この抑制された炎症反応は眼組織の損傷を軽減し、視軸の透明性維持に寄与する。
糖尿病網膜症 硝子体手術 試験(DRVS)は、1型糖尿病の高度硝子体出血に対する早期硝子体手術 の有効性を初めて示したランドマーク試験である。2年時点での解析では、早期硝子体手術 群が経過観察群と比較して有意に良好な視力 回復を示した。9) この試験が小切開硝子体手術 技術の発展とともに、現在の硝子体手術 適応基準の基盤を形成している。
Tanら(2010)は、網膜裂孔 を伴う硝子体出血に対する早期硝子体手術 と経過観察のランダム化比較試験を実施した。最終視力 に有意差はなかったが、早期手術群では経過観察群と比較して網膜剥離 の発生率が有意に低かった。11) 網膜裂孔 が疑われる硝子体出血では早期の積極的介入を支持するエビデンスとなっている。
Matsuo&Noda(2022)は、年間健診で異常のない60歳の眼科医が2回目および3回目のCOVID-19 mRNAワクチン(BNT162b2、Pfizer-BioNTech)接種の約2.5か月後にそれぞれ硝子体出血を繰り返し経験した症例を報告した。各ワクチン接種後には2〜3か月の期間に拡張期血圧が10〜20 mmHg上昇する傾向が観察され、これが硝子体出血の再発と時間的に関連していた。単例報告であり因果関係の証明には不十分だが、COVID-19ワクチン接種後の再発性硝子体出血・血圧上昇患者では接種歴の確認が推奨される。2)
DRCR.netのProtocol ABは、増殖糖尿病網膜症 による硝子体出血に対する抗VEGF単独療法と硝子体手術 +レーザー療法のランダム化比較試験であり、長期的な視力 予後と手術への移行率に関するデータが今後蓄積される予定である。
硝子体出血はさまざまな原因疾患が関与しているため、原因疾患により予後は左右される。一般的に、黄斑 機能が保たれている場合は視力 予後良好である。
網膜剥離 が術前・術後を問わず合併した症例では、増殖硝子体網膜症 に至り予後不良となる場合があるので、注意を要する。特に牽引性変化が慢性化した場合や手術が遅れた場合に増殖硝子体網膜症 のリスクが高まる。
原因疾患が適切に管理されれば、再出血のリスクを低減できる。糖尿病網膜症 では汎網膜光凝固 ・抗VEGF療法 による新生血管 退縮が再出血予防に重要である。
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