この疾患の要点
脈絡膜新生血管は、脈絡膜 からブルッフ膜 を越えて増殖する異常血管であり、滲出型加齢黄斑変性 ・ポリープ状脈絡膜血管症 ・近視 性変性など多彩な疾患で生じる。
OCTアンギオグラフィ (OCTA )は造影剤不要で網脈絡膜 の微細血管を描出し、脈絡膜新生血管のタイプ別診断に有用である。
脈絡膜新生血管は組織学的に1型(RPE 下)・2型(RPE 上)・3型(網膜 内、RAP )の3タイプに分類される。
ポリープ状脈絡膜血管症 (PCV )では、OCTA による分岐新生血管 ネットワーク(BNN)の検出率はほぼ100%だが、ポリープ自体の検出率は約79%である7) 。
アーチファクト(プロジェクション・セグメンテーションエラー)に注意し、必ずBスキャンOCT と併用する。
抗VEGF療法 が全タイプの第一選択。ポリープ状脈絡膜血管症 は視力 によりPDT 単独または抗VEGF併用も選択肢となる。
脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization; CNV)とは、脈絡膜 血管からブルッフ膜 を介して網膜 側へ向かう異常血管増殖である。近年は「脈絡膜新生血管膜(MNV: macular neovascularization)」とも呼ばれる。
主な原因疾患は滲出型加齢黄斑変性 、ポリープ状脈絡膜血管症 、近視 性黄斑 変性、慢性中心性漿液性脈絡網膜症 、ぶどう膜炎 、外傷などである。いずれも血管内皮増殖因子(VEGF)産生亢進が共通の最終経路となる。
OCTアンギオグラフィ (OCTA )は、繰り返しBスキャン間の信号変化(デコリレーション)によるモーションコントラストで血流を可視化する非侵襲的検査である。造影剤を使用せず、セグメンテーション(層別切り出し)により深さ分解能をもって脈絡膜 ・RPE 周囲の微細血管構造を描出できる。OCT とOCTA を組み合わせることで、黄斑 新生血管 の3タイプを組織学レベルで3次元的に記述することが可能である8) 。
Q
OCTAはどのような原理で血管を描出するか?
A
同一部位を短時間で繰り返しスキャンし、静止組織(網膜 ・脈絡膜 )は変化しないのに対し血流のある部位は信号が変動する性質を利用する。この「デコリレーション信号」をモーションコントラストとして画像化する。造影剤を使わないため患者負担が少なく、繰り返し検査に適している。
脈絡膜新生血管が発症すると、以下の症状が急性〜亜急性に生じる。
急激な視力 低下 :黄斑部 への血液・漿液貯留による。
変視症 (ゆがみ) :網膜 の隆起や浮腫で直線が歪んで見える。
中心暗点 (相対暗点) :中心視野の欠損または暗化。
脈絡膜新生血管は局在・層別関係によりタイプが異なる。OCT 断層像と細隙灯所見を合わせて判断する。
1型脈絡膜新生血管(Type 1 MNV) :網膜色素上皮 (RPE )下に留まる。OCT 上でRPE の不整・隆起と中輝度反射を呈する。蛍光眼底造影 (FA )ではoccult(潜在型)所見を示す。
2型脈絡膜新生血管(Type 2 MNV) :RPE を貫通し網膜 下腔へ進展。OCT 上でRPE 上の中輝度反射塊として観察される。FA ではclassic(古典型)所見を呈する。
3型脈絡膜新生血管(Type 3 黄斑 新生血管 / RAP ) :網膜 内に新生血管 が生じ(retinal angiomatous proliferation)、点状網膜 内出血を伴うことが多い。
ポリープ状脈絡膜血管症 :眼底に橙赤色の隆起病変を認める。OCT 上でRPE の急峻隆起とdouble layer sign(RPE とブルッフ膜 の二重構造)が特徴的である。
脈絡膜新生血管の発症は多因子性である。
加齢・遺伝 :ブルッフ膜 の代謝産物(ドルーゼン )蓄積、加齢に伴う酸化ストレス 増大。
加齢黄斑変性 :ドルーゼン ・地図状萎縮 を背景に発症。最大のリスク因子は加齢。
強度近視 :眼軸 延長によるブルッフ膜 伸展・断裂が脈絡膜新生血管の契機となる。弾性線維性仮性黄色腫 (PXE )では angioid streaks(血管様線条)から脈絡膜新生血管が70%超で生じ、両眼性は約90%に達する5) 。
慢性中心性漿液性脈絡網膜症 :パキコロイド を背景に1型黄斑 新生血管 を合併しやすい。中心性漿液性脈絡網膜症 後の pachicoroid CNVMの報告もある2) 。
点状内層脈絡膜症 (PIC ) :炎症性の瘢痕から脈絡膜新生血管が続発する3) 。
傍黄斑部 滲出・出血性脈絡膜 網膜 症(PEHCR ) :脈絡膜新生血管を伴うことがあり、診断・治療が課題となる1) 。
強膜脈絡膜石灰化 (SCC ) :まれではあるが、SCC 病変に脈絡膜新生血管が合併した症例が報告されている4) 。
日常生活での注意点
滲出型加齢黄斑変性 のリスク低減のため、禁煙・抗酸化サプリメント(AREDS2処方)の継続が推奨されます。
変視症 や中心の見えにくさを感じたら、速やかに眼科を受診してください。
自己チェックにはアムスラーチャートが有用です。定期的に使用しましょう。
Q
加齢黄斑変性以外でも脈絡膜新生血管は発生するか?
A
強度近視 ・PXE ・PIC ・慢性中心性漿液性脈絡網膜症 ・外傷・ぶどう膜炎 ・PEHCR ・SCC など多彩な疾患で脈絡膜新生血管が生じる。特にPXE では血管様線条を背景に高率で脈絡膜新生血管が発生し、両眼性・難治性の傾向が強い5) 。原因疾患の同定が治療方針の決定に重要である。
Adnan Kilani; Denise Vogt; Armin Wolf; Efstathios Vounotrypidis. The role of multimodal imaging in characterization and monitoring of choroidal neovascularization secondary to angioid streaks. Eur J Ophthalmol. 2025 Jan 27; 35(1):306-313 Figure 3. PMCID: PMC11697489. License: CC BY 4.0 (
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ ).
研究対象者3の右眼。angioid streak(AS)、
黄斑部 および乳頭傍の2病変の脈絡膜新生血管(CNV)、ならびに
視神経乳頭ドルーゼン (ONHD)を認める。(a) 眼底ではAS、ONHD、
黄斑部 CNV、および
網膜 出血を認める(青矢印)。(b) 外
網膜 ・脈絡毛細血管板(ORCC)セグメンテーションで検出された
黄斑部 CNVの
OCTアンギオグラフィ (
OCTA )(青枠)。(c) 血流信号を重ねた
黄斑部 CNVの対応するBスキャン(青矢印)。(d)
蛍光眼底造影 (
FA )では
黄斑部 CNV(1、青矢印)と乳頭傍CNV(2、黄矢印)を認める。(e) ORCCセグメンテーションで検出された乳頭傍CNVのスペクトラルドメイン
OCTA (SD-
OCTA )(黄枠)。(f) 血流信号(黄矢印)および
網膜 下高反射物質(SHRM、白矢印)を重ねた乳頭傍CNVの対応するBスキャン。
脈絡膜新生血管の診断にはマルチモーダル画像評価が基本である。OCTA はその中心的役割を担うが、単独では不十分な場面もある。
OCTA はSD-OCT (スペクトラル域)・SS-OCT (掃引光源)いずれでも使用可能である。撮影後、セグメンテーション処理により各網膜 層・RPE 周囲・脈絡膜 の血流をen face(正面)像として表示する。
1型 脈絡膜新生血管
局在 :RPE とブルッフ膜 の間(RPE 下)。
OCTA 形態 :シーファン状(sea-fan)またはサンゴ状(coral-like)の血管網。en face OCTA でRPE 〜脈絡毛細管板層に描出される8) 。
パキコロイド 型1型黄斑 新生血管 :成熟した平面的な血管構造を示しOCTA 描出が良好。SIREが有用なバイオマーカー となる6) 。Double layer signがOCT で確認できる8) 。
2型 脈絡膜新生血管
局在 :RPE を貫通し網膜 下腔へ進展。
OCTA 形態 :RPE 上の高反射病巣として描出される。血管ループや車輪状パターンを示すことがある。
対応するFA 所見 :classic(古典型)脈絡膜新生血管に相当し、早期から境界明瞭な過蛍光を呈する。
3型 脈絡膜新生血管(RAP)
局在 :網膜 内新生血管 (retinal angiomatous proliferation)。
OCTA 形態 :異常血管が網膜 内層に描出され、特に鮮明に可視化される傾向がある。bump signまでの連続した血流シグナルが特徴的8) 。
臨床的特徴 :点状網膜 内出血・小囊胞様黄斑浮腫 を伴いやすく、進行が速い。
ポリープ状脈絡膜血管症 は1型黄斑 新生血管 の亜型と位置づけられ、分岐新生血管 ネットワーク(BNN: branching neovascular network)とポリープ状末梢病変からなる。
BNN検出率 :OCTA によりほぼ100%検出可能7) 。
ポリープ検出率 :OCTA では約79%にとどまる7) 。ポリープの高さ増加・拍動性・網膜 下出血による遮蔽が非描出の要因となる7) 。
BNNの形態分類 :dead-tree型・coral-bush型・anastomosis型・pseudopod-like型の4型に分類される7) 。
BNNの構造分類(Huang分類) :trunk(幹)・glomeruli(糸球体様)・stick(棒状)の3タイプ7) 。
ICGA 比較 :pachychoroid 黄斑 新生血管 検出においてOCTA の感度97%に対しICGA は66%との報告がある6) 。
各検査法の特性を以下に示す。
検査 利点 限界 FA 漏出検出・classic/occult分類 造影剤必要(侵襲的) ICGA ポリープ描出に優れる 造影剤必要(侵襲的) OCTA 非侵襲・深さ分解能 ポリープ検出率約79%
OCTA には固有のアーチファクトがあり、偽陽性・偽陰性の原因となる。主なものを以下に示す。
アーチファクト 原因 対策 プロジェクション 浅層血流の偽信号が深層に投影 Bスキャン断層像で確認 セグメンテーション 脈絡膜新生血管突出による層境界の歪み 手動でセグメンテーション調整 モーション 眼球・体動による位置ずれ 固視誘導・頭部固定の徹底
強膜脈絡膜石灰化 に合併した脈絡膜新生血管でも、OCTA により新生血管 ネットワークの描出が可能である4) 。まれな疾患であるが、画像による確認が治療方針の決定に直結する。
Q
OCTAで脈絡膜新生血管が見えないことはあるか?
A
プロジェクションアーチファクトやセグメンテーションエラーにより偽陰性が生じることがある。またポリープ状脈絡膜血管症 のポリープ検出率は約79%にとどまり7) 、網膜 下出血が多い場合は描出が困難になる。OCTA は必ずBスキャンOCT と組み合わせて解釈する必要がある。
Q
OCTAはFAやICGAの代わりになるか?
A
BNNの検出においてOCTA はICGA 同等以上の感度を示すが6) 、漏出評価・ポリープの確認にはFA やICGA が依然として有用な場面がある。特にポリープ状脈絡膜血管症 や治療効果の評価ではマルチモーダル画像の組み合わせが推奨される。
抗VEGF硝子体内注射 が脈絡膜新生血管全タイプの第一選択治療である。
典型的な滲出型加齢黄斑変性 (中心窩 下脈絡膜新生血管) :抗VEGF単独療法が推奨される8) 。
ポリープ状脈絡膜血管症 :視力 0.6以上の場合は抗VEGF単独療法。視力 0.5以下の場合は光線力学的療法 (PDT )単独またはPDT +抗VEGF併用が選択肢となる8) 。近年はポリープ状脈絡膜血管症 に対する治療トレンドがPDT 主体から抗VEGFモノセラピーへ移行している6) 。
PXE 関連脈絡膜新生血管 :抗VEGFで短期的な視力 改善が得られるが、注射頻度が高い(平均4.4ヶ月間隔 vs 通常加齢黄斑変性 7.2ヶ月間隔)傾向があり5) 、長期管理が課題となる。
SCC 関連脈絡膜新生血管 :Ranibizumab PRN投与(6年間で3〜9回)で20/25の視力 が達成された報告がある4) 。
PEHCR :抗VEGFが有用で、平均7.7回の注射が行われた1) 。
垂直型ポリープ状脈絡膜血管症 (視力 不良例)や抗VEGF無効例で考慮される。ベルテポルフィンを静脈投与後に689nm波長レーザーを照射する。
PIC 関連脈絡膜新生血管等、通常の抗VEGFに抵抗する症例が存在する。Aflibercept投与でも不完全であった症例にFaricimab(VEGF-A・Ang-2二重阻害薬)6mg×6回投与で病変が制御された報告がある3) 。
治療における注意点
脈絡膜新生血管タイプによって治療反応性が異なる。3型(RAP )は進行が速く早期介入が重要である。
抗VEGF注射は定期的な経過観察と継続投与が必要であり、自己判断での中断は再発・悪化につながる。
ポリープ状脈絡膜血管症 に対するPDT 後は短期的な視力 低下や光感受性亢進が生じることがある。
PXE など遺伝性疾患に伴う脈絡膜新生血管は難治性であり、長期にわたる高頻度投与が必要になることがある5) 。
Q
脈絡膜新生血管のタイプによって治療反応性は異なるか?
A
全タイプで抗VEGFが基本治療だが、反応性に差がある。1型黄斑 新生血管 (パキコロイド 型を含む)は比較的制御しやすい一方、ポリープ状脈絡膜血管症 は視力 によりPDT 併用が検討される。3型(RAP )は進行が速く集中的な治療が必要となることが多い。PXE やPIC など基礎疾患を伴う場合はさらに難治性になりうる5) 。
脈絡膜新生血管の共通経路はブルッフ膜 の機能障害とVEGF産生亢進である。
加齢や遺伝的素因によりブルッフ膜 への代謝産物(ドルーゼン )が蓄積すると、RPE と脈絡毛細管板の間の物質輸送が障害される。これにより局所的な低酸素状態が生じ、RPE からVEGFが産生される。VEGFは血管内皮細胞の遊走・増殖を促し、新生血管 形成カスケードが始動する。
遺伝性疾患による脈絡膜新生血管は特有の機序を持つ。
Cowden症候群(PTEN変異) :PTEN機能喪失によりPI3K/Akt/VEGFシグナルが恒常的に活性化する5) 。これが抗VEGF治療抵抗性の分子機序となりうる。
PXE (ABCC6変異) :VEGFA多型が重症網膜 症と関連することが示されており5) 、遺伝的背景が脈絡膜新生血管の重症度に影響する。
パキコロイド neovasculopathy の概念では、異常に肥厚した脈絡膜 が脈絡毛細管板を圧迫・虚血化させ、RPE への慢性的な酸化ストレス が1型黄斑 新生血管 の温床になると考えられている。
ディープラーニングを用いた自動セグメンテーションにより、脈絡膜新生血管の検出精度と再現性の向上が研究されている。プロジェクションアーチファクト除去(PR-OCTA )技術の改良も進んでいる。
OCTA の普及により、パキコロイド を背景とした1型黄斑 新生血管 の独立した病態概念が確立しつつある6) 。SIREなど新たなバイオマーカー の臨床的意義の検証が続いている。
ポリープ状脈絡膜血管症 におけるポリープが真の動脈瘤(aneurysm)であるか否かについては議論が継続している6) 。命名法・分類の国際標準化は未解決の課題であり、治療戦略の統一に影響する重要な問題である。
VEGF-AとAng-2(アンジオポエチン-2)を同時に阻害するFaricimabは、既存の抗VEGF単剤療法に抵抗する難治性脈絡膜新生血管への応用が検討されている3) 。血管安定化という新たな作用機序により、注射間隔の延長や治療抵抗例への有効性が期待される。
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