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網膜・硝子体

後部硝子体剥離(PVD)

後部硝子体剥離(Posterior Vitreous Detachment; PVD)は、後部硝子体皮質が経年性もしくは病的変化により網膜より剝離する病態である。後部硝子体皮質とILM網膜内境界膜)の分離を指し、PVDを正確に診断することは網膜硝子体疾患の予後判定や手術適応の決定に重要である。

加齢に伴う生理的現象として広く認識されており、眼科外来で最も頻繁に遭遇する主訴のひとつ「飛蚊症」の最多原因でもある。

経年性PVDは40歳以降に増加し、高齢者では高頻度に認められる。近視眼ではさらに発生頻度が高く、強度近視眼では正視眼より早期に部分PVDを生じ、完全PVDへ進展することがある1,6)

近視眼ではPVDがより早期に起こりやすく、対側眼にも一定期間内に発症することがある1,6)。無症候性に偶発発見されるPVDもある6)

裂孔原性網膜剥離(RRD)の年間発生率は10万人あたり10〜18人であり6)、PVDによる硝子体牽引が最多の発症機序となる。

PVDが完成すると、硝子体視神経乳頭部から剥離した際に生じるコラーゲンの輪状混濁(Weissリング、乳頭前グリア環)が飛蚊として自覚される。

Q 後部硝子体剥離は病気なのか?
A

基本的には加齢に伴う生理的変化であり、それ自体は病気ではありません。しかし、PVDの発症に伴い網膜裂孔網膜剥離といった重篤な合併症が生じる可能性があるため、適切なタイミングでの眼科的精査と経過観察が不可欠です。

牽引性網膜剥離の光干渉断層計(OCT)画像
Miyamoto T, et al. A case of tractional retinal detachment associated with congenital retinal vascular hypoplasia in the superotemporal quadrant treated by vitreous surgery. BMC Ophthalmol. 2020. Figure 2. PMCID: PMC7542339. License: CC BY.
初期検査で得られた光干渉断層計OCT)画像であり、右眼(a)には異常が見られないが、左眼(b)では黄斑部に及ぶ牽引性網膜剥離(TRD)が認められる。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う牽引性網膜剥離に対応する。

自覚症状(飛蚊症・光視症・陰性視光症)

Section titled “自覚症状(飛蚊症・光視症・陰性視光症)”

PVD発症時に生じる主な自覚症状を以下に示す。飛蚊症光視症はPVDの代表的な訴えであり、その大多数はPVDが起源となる17)

  • 飛蚊症:白い壁や窓などの明るい背景に対して、蚊のようなもの・すす・リング状のものが眼球運動とともに動いて見える症状。後部硝子体皮質とILMが分離する際に生じるコラーゲン凝集やWeissリングが原因となる1)。PVD発生直後に強く自覚されるが、硝子体液化の進行とともに虚脱したcomplete PVDになると乳頭前グリア環が網膜から遠ざかり、自覚症状が軽減される。青空のような明るい青い光を見たときに見えるブルーフィールド内視現象(視野内を小さな明るい点がランダムに動く現象)との鑑別が必要である。飛蚊症コントラスト感度の低下も引き起こしうる12)
  • 光視症:暗所や眼球運動時に視野周辺部に生じる閃光感。硝子体ILMを牽引することで網膜に光刺激が生じる1)。PVDに伴う飛蚊症光視症を伴う場合は、網膜に強い牽引が働いていると判断し、眼底の隅々まで詳細な眼底検査が必要である。
  • 陰性視光症(negative dysphotopsia):白い光ではなく黒い閃光として知覚される症状。硝子体による視神経乳頭部・ILMへの牽引が軸索輸送を障害することで生じると考えられる4)。PVD完成前の古典的な光視症に先行して出現することがある4)

飛蚊症の数が多いほど合併症リスクが高まる。飛蚊症が10個以上ある場合、網膜裂孔リスクが最大となる1)17)。また、飛蚊症は通常3か月程度で自覚的に軽減する1)飛蚊症のQOL影響は白内障手術前の utility value に匹敵する水準と報告されており13)、患者の訴えを軽視しないことが重要である。

飛蚊症

性状:虫・糸・点状の浮遊物が視野内を動く。

原因硝子体コラーゲン凝集、Weissリング(乳頭前グリア環)形成。

経過:3か月程度で自覚的に軽減することが多い。

光視症

性状:視野周辺部の白い閃光。暗所・眼球運動時に出やすい。

原因硝子体ILMを牽引し網膜を光刺激。

重要性:新たな光視症は牽引増強・裂孔リスクのサイン。

陰性視光症

性状:黒い閃光(光視症とは異なる)。

原因:乳頭部硝子体牽引→軸索輸送障害。

特徴:古典的光視症に先行して出現することがある。

眼底・硝子体所見として以下が確認される。

  • Weissリング(乳頭前グリア環)視神経乳頭前面に浮遊するコラーゲンの輪状混濁。PVD完成の指標となる。完全なリングではないことが多く、時にはグリア環を乳頭に残したままPVDが起こることもある。
  • Shafer’s sign(tobacco dust):前部硝子体に浮遊するtobacco dust様色素は、裂孔発症を示唆する重要所見である。網膜色素上皮細胞由来であり、タバコダストや出血が認められる症例の約80%がその後の裂孔発症例に該当する6)
  • 硝子体出血網膜血管が硝子体牽引により断裂して生じる。硝子体出血を伴う場合、網膜裂孔の存在する確率は50〜70%に上昇する6)
  • 網膜裂孔:PVD症例の5.4〜8%に合併する6)。馬蹄型裂孔が最多であり、周辺部の格子状変性部位に好発する。

PVDに伴う飛蚊症光視症は要注意であり、硝子体ゲル内にタバコダストや出血を伴うPVDでは網膜裂孔があると考えて診察を進めるべきである。

ヒアロサイト(後硝子体皮質界面の常在マクロファージ系細胞)の変化も観察される。en face OCTの症例報告では、PVD眼の後部硝子体皮質内にヒアロサイトと考えられる高反射点が増加し、形態変化を示すことが報告されている2)。異常なPVDでは硝子体網膜界面の細胞反応が牽引膜形成に関与する可能性がある。

Q 硝子体出血が起きたらどうすればよいか?
A

硝子体出血網膜裂孔が存在するサインである可能性が高いです。硝子体出血合併例では裂孔リスクが50〜70%に達するため、速やかに眼科を受診し、間接検眼鏡や超音波Bスキャンによる精査を受けてください。出血が吸収されれば眼底が確認できますが、それまでの間も安静を保つことが望ましいです。

PVDは細隙灯顕微鏡所見に基づき以下のように分類される。

分類内容臨床的意義
Complete PVD(虚脱型)後部硝子体皮質の網膜への連続性なし。硝子体が虚脱症状は徐々に軽減
Complete PVD(非虚脱型)後部硝子体皮質が剥離したが虚脱していない経過観察
Partial PVD with shrinkage可動性なし(収縮型)強い牽引力→裂孔リスク
Partial PVD without shrinkage可動性あり(非収縮型)牽引比較的弱い
Partial PVD without shrinkage (M)硝子体ゲルが黄斑前環を通して黄斑部に接着ERM・DME予後を悪化させる重要サブタイプ

また、OCTによるStage分類ではStage 1(paramacular PVD)からStage 4(complete PVD)への段階的進展が確認される。部分PVD(Stage 1〜3)から完全PVDへの進展は50〜60歳代にピークを迎える。AAO PPP 2024もほぼ同様の4段階分類を採用しており、Stage 1=中心窩接着を残す傍中心窩分離、Stage 2=黄斑部完全分離、Stage 3=乳頭接着を残す広範囲分離、Stage 4=complete PVDと定義される6)。これらのstageは必ずしも線形的に進行するとは限らない6)

Shallow PVDは後部硝子体皮質の肥厚収縮がないものとあるものの2つに大別される。肥厚収縮を伴うshallow PVDは硝子体黄斑牽引症候群VMT)や糖尿病網膜症でみられ、しばしばERMを合併する。肥厚収縮がないものは、経年性PVDの初期段階か、黄斑円孔に関連するperifoveal shallow PVDに分類される。

PVDの状態(complete/partial/no PVD)は、関連疾患の予後を大きく左右する。

  • 糖尿病網膜症:complete PVDの状態であれば増殖網膜症に進行しない。no PVDやpartial PVDでは網膜新生血管が発生し牽引性網膜剝離に進行する可能性がある。
  • 裂孔原性網膜剝離:no PVDでは急速な網膜剝離の進行は少ない。PVDに伴う弁状裂孔では急速に網膜剝離が進行する。
  • 網膜前膜ERMERM の80〜95%はPVD後に発生するとされる7)。Partial PVD without shrinkage (M) 型はERM・DME予後を悪化させる。

PVDの発症には、硝子体の「液化」と「後部硝子体皮質とILMの接着弱化」という二重機序が関与する1)

  • 液化(syneresis)硝子体はコラーゲンII型線維とヒアルロン酸(HA)で構成されるゲルであり、水分が98〜99%を占める1)。ヒアルロン酸は大量の水を保持して粘性を高め、硝子体のゲル構造を維持している。加齢とともにコラーゲン線維の凝集と再配列が進み、50歳では25%、80歳では62%が液化腔となる1)。液化腔の拡大により後部硝子体皮質がILMから剥離しやすくなる。
  • 接着弱化:後部硝子体皮質とILMの間の接着分子(フィブロネクチンなど)の変性が接着力を低下させる1)。液化と接着弱化の双方が揃ったときにPVDが発症する。

後部硝子体皮質前ポケット(岸ポケット)の後壁は、加齢とともに黄斑周囲から徐々に剝離(Stage 1)し、やがて傍中心窩PVD(Stage 2)となる。さらにポケットごと中心窩から離れ(Stage 3)、最後に視神経乳頭から剝離して完全PVD(Stage 4)に至る。

  • 加齢:最大のリスク要因。有病率は50〜59歳24%から80〜90歳87%へ急増する1)
  • 強度近視:軸長延長に伴う硝子体変性が加速し、20歳代で初期変化が生じることもある。発症が正視眼より約10年早まる1)。低近視(1〜3D)でも裂孔原性網膜剥離(RRD)リスクは4倍、−3D超では10倍に上昇する15)。非外傷性RRDの半数以上が近視眼で発生する15)
  • 閉経後女性:エストロゲン欠乏が硝子体コラーゲン変性を促進する1)
  • 白内障手術後白内障手術後1年以内のRRD発生率は0.21%(約1/500)20)。RRD全体の20〜40%が白内障手術後に発生する6)。Nd:YAGレーザー後嚢切開術はRRDリスクを4倍に増加させる(特に近視眼)6)
  • 対側眼RRD既往:非外傷性RRD既往眼の対側眼RRDリスクは約10%6)
  • 硝子体内注射抗VEGF硝子体内注射後にPVDが誘発されうる6)
  • Stickler症候群:最も頻度の高い遺伝性硝子体網膜疾患。360°レーザー予防が推奨される6)
  • 外傷・炎症硝子体構造の急激な変化でPVDが誘発される。

PVDの診断には複数の検査を組み合わせる。特に裂孔の有無を確認するための精密眼底検査が最重要である。

飛蚊症が生理的か病的かを診断する最初のステップである。細隙灯顕微鏡と非接触型両凸レンズを用いて硝子体を観察する。スリット光の幅を狭く、照明強度は最大にセットして、硝子体の動きを意識しながら動的に観察を行う。

乳頭前グリア環(Weissリング)の存在を目安にPVDの有無を確認し、PVDの種類(complete/partial)を後部硝子体皮質の網膜への連続性を指標に分類する。

  • PVDだけで乳頭前グリア環以外の明らかな硝子体混濁が認められなければ、生理的飛蚊症と診断してよい。
  • タバコダスト・出血・フレアが認められれば、眼底をくまなく検査すべきである。

乳頭前グリア環は完全なリングではないことが多く、時にはグリア環を乳頭に残したままPVDが起こることもある。

  • 間接検眼鏡+強膜圧迫:周辺部眼底を直接観察する標準的検査。網膜裂孔格子状変性硝子体出血の有無を確認する。AAO PPPではPVD症例に強膜圧迫を伴う周辺部精査を推奨している6)
  • 光干渉断層計OCT:後部硝子体皮質とILMの位置関係を非侵襲的に可視化する。Kakehashi分類(Stage 0〜4)によりPVDの段階を評価できる1)。Circumpapillary OCT黄斑ボリュームOCTによるPVDステージングの臨床的有用性も報告されている6)
  • 超音波Bスキャン硝子体出血など眼底観察が困難な状況での網膜剥離・PVD評価に有用。
  • 広角眼底撮影:周辺部網膜裂孔の検出率向上に有用である6)
  • en face OCT:後硝子体皮質界面のヒアロサイト分布を面的に評価できる。PVD眼ではヒアロサイトと考えられる高反射点をen face OCTで評価できる可能性が報告されている2)

飛蚊症光視症の患者に対して、以下を系統的に問診する6)

  • PVD症状(飛蚊症光視症)の発症時期と経過
  • RRDの家族歴・遺伝性疾患(Stickler症候群など)
  • 眼外傷歴
  • 近視の有無と程度
  • 眼内手術歴(白内障手術・Nd:YAG後嚢切開)
  • 硝子体内注射

PVDステージ分類(Kakehashi分類)

Section titled “PVDステージ分類(Kakehashi分類)”

OCT所見に基づくPVDの段階分類を示す。

Stage状態
Stage 0硝子体後面の分離なし
Stage 1黄斑部での部分的剥離
Stage 2乳頭を含む後極部の剥離
Stage 3硝子体基底部以外の完全剥離
Stage 4硝子体基底部も含む完全剥離

飛蚊症光視症を主訴とする患者では、生理的変化と病的疾患の鑑別が最も重要である。

わずかな線維性硝子体混濁や経年性PVDに伴う飛蚊症生理的飛蚊症と称し治療対象とならない。一方、網膜裂孔網膜剝離・硝子体出血ぶどう膜炎などに伴う飛蚊症病的飛蚊症であり積極的な治療が必要である。

タバコダスト・出血・フレアが認められれば病的と判断し眼底をくまなく検査すべきである。PVD+光視症の組み合わせでは網膜に強い牽引が働いている可能性を考え、詳細眼底検査を行う。硝子体ゲル内にタバコダストや出血を伴うPVDでは「どこかに網膜裂孔がある」と考えて診察を進めるべきである。

なお、青空のような明るい青い光を見たときに視野内を小さな明るい点がランダムに動くブルーフィールド内視現象飛蚊症とは異なり、白血球が網膜毛細血管内を流れることによる現象であり、治療不要である。

鑑別疾患特徴・鑑別点
網膜裂孔網膜剝離Shafer’s sign陽性、視野欠損硝子体出血。間接検眼鏡で確認
硝子体出血急激な視力低下・飛蚊症増悪。Bスキャンで網膜剝離除外
ぶどう膜炎硝子体混濁・フレア。前房炎症所見を伴うことが多い
網膜前膜ERM変視症視力低下。OCT黄斑部膜形成を確認
硝子体黄斑牽引症候群VMTOCT黄斑部牽引所見。PVD不完全(Stage 1〜3)に伴う
黄斑円孔中心暗点変視症OCTで全層欠損確認
閃輝暗点片頭痛前兆両眼性のジグザグ光。15〜30分で消失
網膜動脈分枝閉塞症急性視野欠損。眼底で網膜白濁

経年性のPVDに伴う飛蚊症は積極的な治療の必要性はなく、経過観察が基本である1)18)。生理的飛蚊症は治療の必要はない。飛蚊症は多くの場合3か月で自覚的に軽減し、患者の適応が進む。

病的な飛蚊症網膜裂孔網膜剝離・硝子体出血ぶどう膜炎などが原因)の場合は、原因疾患に対する治療が必要となる。PVDの予防法は確立されていない。硝子体の液化・PVD・RRDを防ぐ有効な方法はない6)

AAO PPP 2024に基づく病変タイプ別の管理方針を示す6)

病変タイプ管理方針
急性症候性馬蹄型裂孔速やかに治療
急性症候性弁蓋付き円孔治療不要の場合あり
急性症候性網膜透析速やかに治療
外傷性網膜裂孔通常治療する
無症候性馬蹄型裂孔(亜臨床RRDなし)慢性化の所見がなければ治療を検討
無症候性弁蓋付き円孔治療はまれにしか推奨されない
無症候性萎縮性円孔治療はまれにしか推奨されない
無症候性格子状変性(裂孔なし)PVDが馬蹄型裂孔を起こさない限り治療しない
飛蚊症管理に関するコンセンサスなし・エビデンス不十分

AAO PPP 2024に基づく病態別フォローアップの目安を示す6)

病態フォローアップ間隔
無症候性PVD症状が出ない限り定期検診のみ
症候性PVD(裂孔なし・高リスク所見なし)4〜6週後。その後は症状変化時
症候性PVD(裂孔なし・硝子体/網膜出血あり)網膜出血の程度に応じ1〜2週後。硝子体出血は吸収まで毎週。必要に応じBスキャン
急性症候性馬蹄型裂孔(治療後)1〜2週→4〜6週→3〜6か月→以後年1回
急性症候性弁蓋付き円孔1〜4週→1〜3か月→6〜12か月→年1回
無症候性馬蹄型裂孔1〜4週→2〜4か月→6〜12か月→年1回
無症候性萎縮性円孔1〜2年ごと
格子状変性(裂孔なし)年1回
対側眼RRD既往がある萎縮性円孔格子状変性6〜12か月ごと

裂孔が確認された場合は、速やかな裂孔封鎖が必要となる。PVDに伴う網膜硝子体疾患は、網膜光凝固バックリング手術・硝子体切除術などの外科的治療の適応となる。

  • レーザー網膜光凝固術:馬蹄型裂孔の周囲に2〜3列の凝固斑を作成し、裂孔を封鎖する。網膜冷凍凝固より優れるとされる1)。裂孔をレーザーまたは冷凍凝固で囲めない場合は、治療をora serrataまで延長する6)。最も多い治療失敗の原因は不十分な治療、特に前方縁の処理不足である6)。未治療の症候性馬蹄型裂孔の少なくとも半数がRRDに進展するが、治療により症候性裂孔のRRDリスクを5%未満に低減できる6)
  • 網膜冷凍凝固:レーザーが困難な症例(周辺部裂孔など)で選択される。
  • バックリング手術:PVDに伴う網膜剝離に対する外科的治療。PPV vs SB のCochrane SRでは解剖学的・視力的アウトカムに有意差なし(低〜非常に低いエビデンス)6)。非合併RRDの95%以上は修復可能(複数回手術を要する場合あり)6)
  • 硝子体切除術:PVDに伴う網膜硝子体疾患に対する外科的治療。症候性飛蚊症の標準的な外科治療としても確立されている1)

硝子体手術PPV:症状が著しくQOLを障害する場合に選択する。Weissリングや硝子体混濁を除去できる1)。Sebagら(2014)の前向き研究で安全性・有効性が確認されている11)。Nguyenら(2022)は、PPV飛蚊症を伴う多焦点偽水晶体眼のコントラスト感度を改善することを報告した19)。ただし感染・網膜剥離白内障進行などの合併症リスクに留意する。

YAGレーザー硝子体切除(vitreolysis):Shahら(2017)のRCT(JAMA Ophthalmol)では、YAG vitreolysis群はシャム群と比較して症状改善率が有意に高かった10)。ただし飛蚊症治療全般については「管理に関するコンセンサスなし、エビデンス不十分」とされており(AAO PPP 2024)6)、Cochrane SR(Kokavecら2017)でも比較エビデンスは不十分と結論づけられている14)

QOL影響:Wagleら(2011)は飛蚊症のutility valueが白内障手術前と同水準であることを報告している13)。Garciaら(2016)はPVD後のコントラスト感度低下を報告している12)

Q 飛蚊症は手術で治せるか?
A

症状が著しく生活の質を障害する場合、硝子体手術PPV)またはYAGレーザー硝子体切除(vitreolysis)が選択肢となります。PPVはWeissリングや硝子体混濁を除去でき、前向き研究で安全性・有効性が確認されています11)。YAG vitreolysisについてはRCT(Shah 2017)でシャムより有意な改善が示されていますが10)、いずれも標準治療としての確立は途上であり適応は慎重に判断します。飛蚊症のQOLへの影響は白内障手術前に匹敵する水準との報告があり13)、患者さんの訴えを軽視しないことが重要です。

7. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “7. 病態生理学・詳細な発症機序”

硝子体は眼球容積の約80%を占めるゲル状の透明組織であり、98〜99%が水分で構成される1)。残りの1〜2%はヒアルロン酸(HA)とコラーゲンII型線維が主体であり、これらが網目構造を形成してゲル状態を保つ。ヒアルロン酸は大量の水を保持して粘性を高め、硝子体のゲル構造を維持している。後部硝子体皮質はILMに接着しており、ILMとの間には線維接合タンパク(フィブロネクチンなど)による接着層が存在する。

網膜硝子体は以下の部位で特に強く接着している。

  • 硝子体基底部:最も強固な接着部位。硝子体線維が毛様体の基底膜に垂直に入り込むように走行する。
  • Wieger靱帯水晶体後嚢と硝子体前面の接着部位。
  • 視神経乳頭周囲
  • 黄斑部
  • 網膜の主要血管

正常なPVDは「液化が先行し、接着が均等に弱化する」過程で発生する。一方、異常PVD(vitreoretinal traction)では液化が進行しても接着弱化が不均等なため、硝子体ILMを局所的に強く牽引し続ける1)

  • Vitreoschisis(硝子体層間剥離):後部硝子体皮質が内外に層間分離し、外層がILMに残存する病態。硝子体網膜界面疾患(黄斑円孔網膜前膜VMT)の一因となる2)
  • ヒアロサイトの役割:後部硝子体皮質界面に存在する常在マクロファージ系細胞。異常PVDに伴い活性化し、牽引膜(網膜前膜)形成に関与する可能性がある2)

Alsahafら(2025)は陰性視光症を呈した3症例を報告した4)硝子体による乳頭部牽引がElschnig膜とILMを引張し、神経節細胞の軸索輸送を障害することで神経障害性暗点(negative dysphotopsia; ND)が生じると考察された。Case 1では6か月間のND後にPVD完成・網膜裂孔が判明しレーザー治療が施行され、Case 2では5か月間のND後に裂孔原性網膜剥離へ進展し硝子体手術が必要となった。


生理的PVD・生理的飛蚊症は治療不要である。PVD発生直後は症状が強く自覚されるが、complete PVD後にWeissリングが網膜から遠ざかり自覚症状が軽減される。飛蚊症は通常3か月程度で自覚的に軽減する1)。長期前向き観察でも、PVDが認識された段階での早期管理がRRDに対する第一線の防御となることが示されている18)

  • 急性PVDで初回裂孔なし:約2%が数週以内に遅発性裂孔を発症する6)
  • 初診時に裂孔があった症候性PVD:5〜14%が長期経過中に追加裂孔を発症する6)
  • 硝子体色素細胞・出血があった症例の約80%がその後の裂孔発症例に該当した6)
  • Coffeeら(2007)のメタ解析で症候性PVD後の遅発性裂孔の発生率と臨床的特徴が明らかにされた8)
  • Seiderら(2022)は急性PVDの合併症を前向きに検討した9)
  • Jindachomthongら(2023)は急性症候性PVD後の遅発性裂孔の発生率とリスク因子を報告した16)
  • Vangipuramら(2023)はIRIS®レジストリを用いた急性PVD受診患者の遅発性網膜病変のタイミングを解析した21)
Q PVDと診断されたら定期検査は必要か?
A

初回裂孔なしでも約2%が数週以内に遅発性裂孔を発症するため、4〜6週後の再診が推奨されます6)。特に硝子体出血や色素細胞(タバコダスト)が認められた場合は1〜2週ごとの経過観察が必要です。その後は症状変化時に随時受診することが基本となります。新たな飛蚊症増加・光視症増強・視野欠損・カーテン様遮蔽感が出現した際は速やかに受診してください。

  • 未治療の症候性馬蹄型裂孔:少なくとも半数がRRDに進展する6)
  • 治療(凝固による裂孔周囲の網脈絡膜癒着)により5%未満に低減できる6)
  • 無症候性馬蹄型裂孔:約5%がRRDに進展する6)
  • 無症候性弁蓋付き円孔・萎縮性円孔:RRDに進展する例はまれ6)
  • 糖尿病網膜症:complete PVDであれば増殖進行しない。no PVD・partial PVDでは新生血管→牽引性網膜剝離の可能性がある。
  • 裂孔原性網膜剝離:PVD+弁状裂孔では急速に進行する。no PVDでは急速な進行は少ない。
  • 網膜前膜ERMERM の80〜95%はPVD後に発生する7)。Partial PVD without shrinkage (M) 型はERM・DME予後を悪化させる。

9. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “9. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

硝子体網膜界面疾患とPVDの関連

Section titled “硝子体網膜界面疾患とPVDの関連”

PVD完成後にILMに残存した硝子体皮質成分や活性化ヒアロサイトは、網膜前膜ERM)の形成基盤となる。網膜前膜の80〜95%はPVD後に発生すると報告されており7)、PVD経過観察中の黄斑部OCT評価は疾患の早期発見に貢献する。

ヒアロサイトのバイオマーカー応用

Section titled “ヒアロサイトのバイオマーカー応用”

en face OCTによるヒアロサイト定量評価は、硝子体網膜界面疾患(網膜前膜VMT黄斑円孔)のリスク予測に役立つ可能性がある。PVD眼ではヒアロサイトと考えられる細胞をen face OCTで可視化・定量できる可能性が報告されており2)硝子体網膜界面の細胞反応は新たな研究対象として注目されている。

Matsuiら(2025)は、PVDのない眼に合併したStage 3 網膜前膜が自然剥離した53歳女性を報告した5)網膜前膜の自然剥離率は通常1〜3%とされるが、PVDのない眼での自然剥離率は13.4%と高く、PVD既存眼での0.47〜1.5%を大きく上回る。OCT所見では網膜前膜の厚みが408μmから267μmへ減少した。PVDのない眼では網膜前膜ILMの接着部位でvitreoschisisが生じ、自然剥離のメカニズムに関与する可能性が考察された。

陰性視光症(黒い閃光)は古典的な光視症と区別されず、診断が遅れることがある4)。Alsahafら(2025)の症例報告では、PVD進行前に陰性視光症を経験し、その後裂孔・裂孔原性網膜剥離へ進展した例が示されている4)。陰性視光症を特定の訴えとして認識する臨床的重要性が指摘されている。

近視性黄斑円孔のPVDと自然閉鎖

Section titled “近視性黄斑円孔のPVDと自然閉鎖”

Chenら(2023)は、PVDのない近視黄斑円孔が自然閉鎖した症例を報告した3)近視黄斑円孔の自然閉鎖率は6.2%(一部報告では3.5%)とされており、PVDのない症例では硝子体牽引が持続するにもかかわらず自然閉鎖が生じる機序の解明が今後の課題である。

薬理学的硝子体融解(pharmacologic vitreolysis)

Section titled “薬理学的硝子体融解(pharmacologic vitreolysis)”

オクリプラスミン(ocriplasmin)に代表される酵素製剤を硝子体腔内に注射して硝子体ILMの接着を薬理学的に切断する試みが進んでいる1)硝子体牽引症候群(VMT)への適応が一部の国で承認されているが、標準治療としての位置づけは確立されていない。

YAGレーザー硝子体切除のエビデンス蓄積

Section titled “YAGレーザー硝子体切除のエビデンス蓄積”

Shahら(2017)のRCT(JAMA Ophthalmol)は、YAG vitreolysis群がシャム群より有意に症状改善率が高いことを示した10)。一方、Cochrane SR(Kokavecら2017)ではYAG vitreolysis vs PPVの比較エビデンスが不十分と結論づけられており14)飛蚊症治療に関するコンセンサス形成は今後の課題である。

Garciaら(2016)はPVD後に高周波コントラスト感度が有意に低下することを報告した12)。Nguyenら(2022)は多焦点偽水晶体眼の飛蚊症患者でPPV後にコントラスト感度が改善することを示し19)飛蚊症の機能的影響の定量評価が注目されている。


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