Stage 1(切迫・潜伏)
黄斑円孔
1. 黄斑円孔とは
Section titled “1. 黄斑円孔とは”黄斑円孔(macular hole; MH)は、黄斑部に網膜全層の円孔が生じる疾患である。円孔は網膜の欠損ではなく、後部硝子体皮質の牽引によって小さな裂隙が生じ、それが拡大して円孔となったものである。自然経過による閉鎖はまれで、経過とともに円孔の拡大と網膜色素上皮細胞の変性が生じる。
1988年にGassが特発性黄斑円孔の4段階の進展過程を初めて記載した。1991年にKellyとWendelが硝子体手術の有効性を報告し、1995年にBrooksが内境界膜剥離の併施による閉鎖率向上を報告した。現在では硝子体切除+内境界膜剥離+ガスタンポナーデが標準術式として確立されている。
黄斑円孔の分類
Section titled “黄斑円孔の分類”黄斑円孔は病因により以下の4型に分類される。
| 型 | 好発層 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 特発性 | 60〜70歳代の女性 | 加齢に伴う硝子体黄斑牽引 |
| 近視性 | 強度近視の女性 | 後部ぶどう腫・黄斑分離症 |
| 外傷性 | 若年男性(20〜30代) | 鈍的眼外傷 |
| 続発性 | 多様 | 網膜剥離・炎症・薬剤(タモキシフェンなど)4) |
分層黄斑円孔(lamellar macular hole; LMH)は、全層黄斑円孔(full-thickness macular hole; FTMH)と異なり、中心窩に部分層の欠損を生じる疾患である。OCTでは全層欠損を認めないことが重要だが、変性型ではエリプソイドゾーン(EZ)の破綻を伴うことがあるため、外層網膜が常に正常に保たれるわけではない12)13)。有病率は1.1〜3.6%で、50〜70歳代に多い17)。鑑別すべき関連病変として重要である。
また偽黄斑円孔とは、周囲の黄斑上膜により相対的に中心部分がくぼんだ状態であり、全層円孔でない点で特発性黄斑円孔と異なる。
特発性黄斑円孔の発生率は一般人口10万人あたり年間3.14〜7.8と報告されている2)。米国の人口ベース研究では、発生率は10万人あたり年間7.8人(8.7眼)、女性対男性比は3.3対1であった3)。好発年齢は60〜70歳代で、特に60歳代にピークがある。患者の72%が女性であり、50%以上が65〜74歳で発症し、55歳未満はわずか3%である3)。
通常は片眼性だが、僚眼に発症する頻度は10〜20%である。僚眼発症の5年リスクは10〜15%であり、完全PVDなしでは最大28%に達する2)。アジア人はiFTMH発症リスクが白人の177%増加するとの報告がある2)。外傷性は若い男性に多い点で特発性と対照的である。
黄斑円孔網膜剥離は強度近視の女性に多く、わが国では網膜剥離症例の約5%を占め、欧米の0.5〜2.0%に比べて多い。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
特発性黄斑円孔の主な自覚症状は以下の通りである。
- 中心視力の低下:初期は視力0.4〜1.0程度、進行とともに0.1程度まで低下する。
- 変視症:中心視野のゆがみを自覚する。求心性にひしゃげさせた特徴的な変視症を呈する。
- 中心暗点:固視点の文字が消えるという訴えが多い。中心暗点として自覚することはまれ。
- 小視症:まれに対象物が小さく見える症状を訴える。
症状は数週間〜数ヶ月にわたり緩徐に進行するが、比較的急激に自覚されることが多い3)。
未治療の全層黄斑円孔では予後不良であることが多い。Stage 1の約40〜50%が全層円孔に進行し、約50%はPVD離開に伴い自然軽快する3)。Stage 2の約75%がStage 3〜4に進行する3)。未治療の全層黄斑円孔では、5%のみが視力20/50以上を維持し、55%が20/100以下、40%が20/200以下となる3)。自然閉鎖率は観察のみで2.5〜27%(サイズと期間に依存)であり、大型(400μm超)では自然閉鎖例がない2)。
Gass分類(病期分類)
Section titled “Gass分類(病期分類)”Gassが1995年に記載した病期分類が現在でも標準として広く用いられる。OCTの進歩により、各病期の病態がより詳細に理解されている。
Stage 2〜4(全層円孔)
IVTS分類(サイズ分類)
Section titled “IVTS分類(サイズ分類)”2013年に国際硝子体黄斑牽引研究グループ(IVTS)がOCT所見に基づく分類を策定した。全層黄斑円孔は最小径に基づき分類される2)。
| 区分 | 最小径 |
|---|---|
| 小型(S) | 250 μm未満 |
| 中型(M) | 250〜400 μm |
| 大型(L) | 400 μm超 |
一般にStage 2以降・中型以上が手術の積極的適応となる。CLOSE Study Groupは大型円孔をさらにL(>400〜≤550μm)、XL(>550〜≤800μm)、XXL(>800〜≤1000μm)、Giant(>1000μm)に細分類することを提案している。500μmを超えると閉鎖率が90%以下に低下するとの報告がある2)。
外傷性黄斑円孔のOCT分類
Section titled “外傷性黄斑円孔のOCT分類”外傷性黄斑円孔はOCT所見に基づき以下のタイプに分類される14)。
| タイプ | OCT所見 | 特徴 |
|---|---|---|
| タイプI | 黄斑部の浮腫・嚢胞変化 | 円孔未形成 |
| タイプII | 板層円孔 | 部分層欠損 |
| タイプIII | 全層円孔(小〜中型) | IVTS分類 S/M |
| タイプIV | 全層円孔(大型) | IVTS分類 L |
| タイプV | 網膜剥離を伴う円孔 | 緊急手術の適応 |
分層黄斑円孔(LMH)の分類
Section titled “分層黄斑円孔(LMH)の分類”従来から広く使われるOCT分類では、分層黄斑円孔を「変性型」と「牽引型」に分けて説明する。Govettoらは2016年にこの2型を提案し、牽引型43眼、変性型48眼、混合型11眼を報告した13)。この呼び方は近年の手術成績論文でも使われる一方、2020年の国際コンセンサスは研究間の用語統一を目的に、従来の変性型に近い病変を狭義の「LMH」、従来の牽引型に近い病変を「ERM中心窩分離症(ERM foveoschisis; ERMF)」として整理した11)12)17)。したがって臨床説明では「変性型/牽引型」を使いつつ、論文を読むときはLMHとERMFの定義に対応させるとよい。
変性型(狭義LMHに近い病変)
牽引型(ERMFに近い病変)
両者の所見が重なる場合は「混合型」と表現される。Cataniaらは、変性型LMHに牽引性要素が加わった病変を混合型として扱い、変性型187例中11例(5.9%)、混合型200例中10例(5.0%)に自然閉鎖を認めた10)。このように、LMHは必ず進行する疾患ではないが、EZ破綻、中心窩組織喪失、牽引成分の有無をOCTで分けて経過を見ることが重要である。
Stage 1は全層円孔に至っていない切迫円孔であり、約50%が自然に改善する3)。通常は経過観察が推奨される。ただし進行のリスクがあるため、定期的なOCT検査でのフォローが重要である。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”特発性黄斑円孔の発生機序
Section titled “特発性黄斑円孔の発生機序”特発性黄斑円孔の主な原因は、加齢に伴う後部硝子体剥離(PVD)の初期段階における硝子体黄斑牽引である2)。
ヒトの目の硝子体には、黄斑前に生理的な液化腔(後部硝子体皮質前ポケット:岸ポケット)がある。ポケット後壁をなす皮質は加齢とともに黄斑を牽引し、黄斑円孔の発症に関与する。
発症の過程は以下の通りである。
- 加齢に伴い硝子体が液化し、後部硝子体皮質の前方に液化腔(ポケット)が形成される。
- 中心窩周囲で後部硝子体膜が網膜から剥離する(perifoveal PVD)。
- 中心窩では生理的に硝子体の接着が強いため、接着が保たれる。
- 前後方向への牽引が中心窩に集中する。
- Müller細胞円錐と視細胞の乖離が生じ、網膜内嚢胞が形成される2)。
- 牽引が持続するとILMとELMが断裂し、全層円孔に至る2)。
外層網膜の欠損の程度は硝子体黄斑牽引の範囲と強度に相関し、幅広い接着ほど光受容体の欠損が広範となる2)。グリア細胞修復の試みが失敗すると、グリア細胞が円孔辺縁のILM上に遊走・収縮し、接線方向の牽引で円孔が拡大する2)。
外傷性黄斑円孔の発生機序
Section titled “外傷性黄斑円孔の発生機序”鈍的外傷が眼球に加わると、前後方向への眼球圧縮と赤道方向への眼球拡張が同時に生じる。この変形により黄斑部には接線方向の牽引力が集中し、中心窩組織が断裂して円孔が形成される。若年者では硝子体が網膜に強固に接着しており(PVD非形成)、外力が硝子体を介して黄斑部に直接伝わりやすい14)。TMH症例の約85%では後部硝子体剥離が認められない。
レーザーポインターの誤照射など高出力レーザーも原因となり得る。
- 加齢:60歳以上で発症リスクが上昇する。70歳以降は非線形の増加が認められる2)。
- 女性:男性の2〜3.3倍の発症率である2)。
- 高度近視:眼軸長増加が危険因子。近視度数が強いほど発症年齢が低下する2)。
- 出産歴:出産回数がiFTMHリスクと関連する(韓国コホート研究)3)。
- 後部硝子体剥離の不完全な進行:中心窩に限局した硝子体の付着が原因となる。
- 外傷:眼球への鈍的外傷による眼球変形と網膜伸展が原因となる。特発性と異なり若年男性に多い。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”OCT(光干渉断層計)
Section titled “OCT(光干渉断層計)”OCTは黄斑円孔の診断と管理におけるゴールドスタンダードである3)。黄斑円孔部の網膜構造の詳細が評価できる。以下の情報が得られる。
- 円孔の全層性の確認と最小径(MLD)の計測:最も広い断面でのOCTスライスを選び、円孔中間部の最小幅を計測する。再現性が良好で臨床・研究の標準である2)。
- 硝子体黄斑牽引(VMT)の有無
- 黄斑前膜(ERM)の合併の有無
- 網膜下液や嚢胞様変化の評価
- ellipsoid zone(EZ)の状態
偽黄斑円孔の除外には、OCTにて陥凹部分に全層の網膜欠損がないことを確かめる。volume scanも行い連続的に調べることが重要である。
初回受診時の基本検査として、OCTに加えて最良矯正視力(BCVA)、眼圧(IOP)の確認、周辺部網膜検査(裂孔のスクリーニング)を行う3)。
細隙灯顕微鏡検査
Section titled “細隙灯顕微鏡検査”散瞳下の精密眼底検査が基本である。全層黄斑円孔では灰色の黄斑縁(網膜下液の貯留を反映)、円孔底部の黄色沈着物、RPE変化を認める。
- Watzke-Allen test(スリットビームサイン):細いスリット光を黄斑円孔に照射すると、固視点でスリット光が内側に歪んで自覚される。スリット光の中央がくびれて見えたり途切れて見えたりしたら黄斑円孔、歪むだけなら偽黄斑円孔の可能性が高い。全層円孔で陽性、偽黄斑円孔で陰性となる。
- Amslerチャート:変視症の検出に用いる。
- 蛍光眼底造影(FA):外傷性では合併症(網膜剥離・脈絡膜損傷)の確認にも有用。
- 視野検査:中心暗点の範囲を定量化する。
| 検査法 | 主な役割 | 特徴 |
|---|---|---|
| OCT | 確定診断・病期分類・鑑別 | ゴールドスタンダード |
| 細隙灯顕微鏡 | 臨床診断 | 散瞳下で円孔を直接観察 |
| Watzke-Allen test | 全層円孔の確認 | 偽円孔との鑑別に有用 |
| Amslerチャート | 変視症の検出 | 自覚症状の定性的評価 |
以下の疾患との鑑別が必要である。いずれもOCTで全層の網膜欠損を認めない点で黄斑円孔と区別される。
- 偽黄斑円孔:黄斑上膜の収縮により中心窩が円筒状に陥凹したもの。視力は比較的良好で、Watzke-Allen testは陰性。視力が良好で自覚症状がない場合は一般に手術を施行せず経過をみる。
- 分層黄斑円孔(LMH):全層欠損ではなく、中心窩の部分層欠損を示す。狭義LMHでは中心窩組織喪失やEZ破綻を伴うことがあり、牽引型に相当するERMFでは収縮性ERMとヘンレ線維層レベルの網膜分離が主体となる12)。
- 嚢胞様黄斑浮腫:網膜内の嚢胞様変化。
- 硝子体黄斑牽引症候群:硝子体の前後方向牽引による黄斑浮腫5)。全層円孔を欠く。
- ERM中心窩分離症(ERMF):収縮性ERMによるヘンレ線維層レベルの分離。偽黄斑円孔やLMHとも区別すべき新概念12)。
OCTにより容易に鑑別できる。偽黄斑円孔では全層の網膜欠損がなく、黄斑上膜による中心窩の陥凹を認める。Watzke-Allen testは偽円孔で陰性、全層円孔で陽性となる。OCTにて陥凹部分に全層の網膜欠損がないことを確かめ、volume scanで連続的に確認することが重要である。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”特発性黄斑円孔の手術療法
Section titled “特発性黄斑円孔の手術療法”黄斑円孔の治療は硝子体手術である。内科的治療はない。50歳以上であれば白内障手術を同時に施行することが多い。
標準術式:硝子体切除+内境界膜剥離+ガスタンポナーデ
Section titled “標準術式:硝子体切除+内境界膜剥離+ガスタンポナーデ”- 硝子体切除:経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV)を施行する。
- 内境界膜(ILM)剥離:ブリリアントブルーG(BBG)やトリアムシノロンで内境界膜を可視化し、鑷子で剥離する。BBGは0.025% BBGと4%ポリエチレングリコールの混合液で、比重が高くバイアルから注入するだけで沈降しILM表面を染色する3)。ICG(インドシアニングリーン)も使用されるが高濃度・長時間曝露を避ける3)。
- 液空気置換:硝子体腔内の液体を空気に置換する。
- ガスタンポナーデ:空気(数日持続)、SF₆(2〜3週間)、C₂F₆(4〜5週間)、C₃F₈(6〜8週間)、シリコーンオイル(要除去)が用いられる3)。UK調査(2018)では最も使用されるガスはC₂F₆(47%)、次いでSF₆(33%)、C₃F₈(19%)、空気(1%)であった2)。
- 術後体位:ガスが円孔に接するよう腹臥位を約3日間維持する。
ILM剥離のエビデンス
Section titled “ILM剥離のエビデンス”5,480例のメタ解析(Rahimy 2016)では、ILM剥離群98.82% vs 非剥離群92.88%の閉鎖率差(P<0.0001)があり、再開率も大幅に低下した(25%→0%)3)。4件のRCT(317例、Stage 2〜4)のメタ解析でもILM剥離群で追加手術の必要性が低下し、ILM剥離範囲が広いほど変視症が軽減するとの報告がある3)。ILM剥離はコスト効果的であり、RCTに基づく費用対効果分析で6か月間においてILM剥離が非剥離より優れることが示されている3)。
手術閉鎖率・視力予後
Section titled “手術閉鎖率・視力予後”標準術式による閉鎖率は**91〜98%**である3)。RCOphthメタ解析では、手術群は経過観察群に比べて視力が0.16 logMAR優位(95%CI −0.23〜−0.09)であり、円孔閉鎖のオッズ比は31.4(95%CI 14.9〜66.3)と手術の有効性が明確に示された2)。UK実臨床データ(1,483眼)では閉鎖率95.7%、VA改善0.78→0.42 logMAR(約4行改善)、64.2%が0.3 logMAR以上改善した2)。
術後視力の中央値は約20/40(0.5)であり、術後3年まで視力改善が持続し、5〜10年間維持される3)。症状期間1か月増加ごとにBCVAが0.008 logMAR悪化(≈2か月ごとに1 ETDRS文字低下)するため、早期手術介入が重要である3)(12件のRCT、940眼のIPDメタ解析)。罹病期間が2〜3年を超えると閉鎖率が63%まで低下し視力予後が不良となる3)。罹病期間が短いほど、円孔が小さいほど閉鎖率は高く、視力予後も良好である。
術後の体位制限
Section titled “術後の体位制限”709眼を含む8件のRCTのコクランレビューでは、腹臥位群と非腹臥位群で円孔閉鎖率に有意差は認められなかった。大型円孔(400 μm以上)でも腹臥位群94%対非腹臥位群84%、小型円孔では100%対96%であった。メタ解析(251例、5件RCT)では400μm未満では腹臥位不要、400μm以上では腹臥位が有益とされる3)。UK調査(2018)では82%が体位制限を指示しており、期間は1日(19%)、2〜4日(30%)、5〜6日(23%)、1週間以上(9%)と多様である2)。
難治性黄斑円孔に対する術式
Section titled “難治性黄斑円孔に対する術式”大型(400 μm超)の黄斑円孔、長期経過例、高度近視・外傷・炎症に伴う続発性円孔は難治性とされる。
inverted ILM flap technique(内境界膜翻転法): 1/3乳頭径以上の大型円孔や初回非閉鎖例に対して適用する。円孔縁まで剥離したILMを翻転して円孔部に被せる、あるいは円孔に詰める術式である。再手術の場合、黄斑外から剥離して得た遊離ILMを詰めることでも円孔閉鎖が促進される。4件の小規模RCTの系統的レビューでは、通常ILM剥離よりBCVA改善が優れる可能性(低エビデンス)、閉鎖率は中等度エビデンスで優位とされる3)。
ILMフラップ+ガスなし手術(Szeto 2025): temporal ILM flapを使用(92.9%の症例)し、PFCL(パーフルオロカーボン液)でフラップを展開・安定化させるガスなし術式である16)。
Szetoら(2025)は、MLD 500μm以上を含む大型円孔(高度近視を含む30%超)を対象に、ガスなし手術を報告した16)。閉鎖率はガスなし群94.1% vs 従来群95.2%(P=0.812)と同等であった。術後早期視力はガスなし群が有意に良好(術後1週・1か月)。中心窩グリオーシス率はガスなし群で低い(4.9% vs 20.0%、P=0.043)。術翌日からOCT評価が可能であり、体位制限の患者負担がゼロとなる16)。
その他の生体材料を用いた術式(Romano 2025)1):
- ヒト羊膜(hAM):足場として使用。メタ解析で難治性MHに有益。閉鎖率57〜100%。
- 多血小板成長因子血漿(PRGF):成長因子供給、閉鎖率57〜91%。
- 水晶体嚢フラップ:白内障手術時の余剰嚢を利用。閉鎖率75〜100%。
- 自家網膜全層移植(ART):周辺部網膜を移植。Hanai 2024メタ解析で閉鎖率94%。再発性・巨大円孔に使用。
- 間葉系幹細胞(MSC):7例中6例で閉鎖。
- 神経成長因子(NGF):MH閉鎖率100%、EZ/ELM回復もNGF群で良好。
Songら(2024)は網膜色素変性に合併した黄斑円孔8眼の手術成績を報告した6)。ILM剥離を施行した全眼で円孔閉鎖が得られ、大型円孔にはILM遊離フラップ移植が用いられた。術後視力は1眼で改善、7眼で安定していた。
特発性黄斑円孔の予後
Section titled “特発性黄斑円孔の予後”自然経過では多くの症例で視力が0.1以下に低下する。手術により90%以上で円孔閉鎖が得られ、視力が改善する。ただし変視症は残存することが多い。初回手術で閉鎖しない場合は、ILM剥離範囲の拡大やILM自家移植による再手術を考慮する。
外傷性黄斑円孔の治療
Section titled “外傷性黄斑円孔の治療”自然閉鎖の可能性(10〜67%)があるため、受傷後は一定期間の経過観察が初期方針となる。自然閉鎖はグリア細胞が欠損部を架橋することで生じると考えられる。若年者ほどグリア細胞の増殖能が高いため、自然閉鎖率が相対的に高い。
自然閉鎖が得られない場合、硝子体手術(PPV)+内境界膜(ILM)剥離がゴールドスタンダードである14)。閉鎖率は82〜96%が報告されている14)。内境界膜剥離の有効性については不明な部分もあるが、特発性と同様の術式が施行される。術後はガスタンポナーデ(SF₆またはC₃F₈)が行われ、腹臥位保持が必要となる。大型・難閉鎖例にはILMフラップ法や羊膜移植が選択肢となる14)。
Zhouら(2021)のメタ解析では、PPVによる閉鎖率と自然閉鎖率の比較で、手術群のほうが閉鎖率が有意に高いことが示された15)。長期間待機すると閉鎖率が下がり、閉鎖しても視力回復が不十分になる可能性がある。
| 状況 | 方針 |
|---|---|
| 受傷直後・小型 | まず経過観察 |
| 自然閉鎖なし | PPV+ILM剥離 |
| 大型・難閉鎖 | ILMフラップ・羊膜移植 |
鈍的外傷による黄斑円孔に対する硝子体手術による円孔閉鎖率は90%以上との報告がある。視力改善は円孔閉鎖の有無と黄斑円孔以外の傷害および傷害部位による。
黄斑円孔網膜剥離(強度近視)の治療
Section titled “黄斑円孔網膜剥離(強度近視)の治療”強度近視では黄斑円孔が網膜剥離に進展することがある。標準術式は硝子体手術+内境界膜剥離+ガス(シリコーン)タンポナーデである。後部硝子体剥離が起こっているようにみえても、広範囲で網膜には硝子体皮質が付着している。トリアムシノロンで残存硝子体皮質を確認しながら除去し、生体染色剤を用いて内境界膜を2〜3乳頭径剥離する。復位率は70%程度であり、通常の裂孔原性網膜剥離(90%以上)を下回る。
分層黄斑円孔(LMH)の治療
Section titled “分層黄斑円孔(LMH)の治療”経過観察: 無症状でOCT上も安定しているLMHでは経過観察が基本となる。Govettoらの観察研究では変性型・牽引型とも平均視力は観察期間中おおむね安定しており、観察は妥当な選択肢とされた13)。一方で、多施設後ろ向き研究では観察群の10.1%が全層黄斑円孔へ進展し、15.7%で0.2 logMAR以上の視力低下が報告されている18)。そのため、症状が軽い場合でも定期的なOCTで中心窩組織喪失、EZ破綻、ERM牽引、網膜分離の変化を追う。
LHEP温存手術: 症状のある視力低下、進行性の変視症、中心窩プロファイルの悪化を認める場合に手術を検討する。ただしLMH手術の反応は全層黄斑円孔ほど一様ではなく、従来のERM/ILM剥離では術後FTMH形成などの合併症が問題となることがある17)。LHEPを伴う変性型LMHでは、LHEPを単純に除去せず温存または空洞内へ埋め込む手技が注目されている。
Yuら(2025)のメタ解析(8研究)では、LHEP温存手術群の術後BCVA改善量は−0.25 logMAR(95% CI −0.30〜−0.21、P<0.00001)と有意であった11)。従来の剥離術と比較してもBCVA改善量の差は−0.19 logMAR(P<0.0001)と温存群が優れていた。術後EZが修復した患者の割合も温存群で有意に高かった(OR 2.55; 95% CI 1.48〜4.38)11)。同メタ解析では、LHEP非剥離群で重篤な術後合併症は報告されず、従来剥離群ではFTMH形成が問題となり得ると整理されている11)。
偽黄斑円孔の治療
Section titled “偽黄斑円孔の治療”視力が良好で自覚症状がない場合は一般に手術は施行せず、経過をみることが多い。視力低下や強い歪視などの自覚症状を認める場合は、黄斑上膜の治療と同様に硝子体手術を考慮する。硝子体手術では黄斑上膜と内境界膜を剥離する。
硝子体手術に共通する合併症が生じ得る。
- 網膜裂孔:術中・術後に**3〜17%**で発生。多くは下方に認める3)。
- 網膜剥離:術後1〜5%。多くは下方の小弁裂孔に起因。多くは円孔を再開させずに修復可能3)。
- 白内障:有水晶体眼の80%以上が術後数年以内に白内障発症。中央値14か月で白内障手術を必要とし、平均91か月の経過で98%が要手術3)。白内障手術後に閉鎖円孔の11%が再開し、CME発生で再開リスクが7倍となる3)。
- DONFL(dissociated optic nerve fiber layer):ILM剥離後数か月で神経線維束に沿った欠損様所見がみられることがある。視野欠損を示唆する所見ではない。
- 再開:成功閉鎖後最大10%が再開するが、ILM剥離で低下する3)。
- 視野欠損:以前は20%に認められたが、小ゲージ化と低圧灌流で減少3)。
- 術後眼内炎:0.05%未満3)。まれだが重篤な合併症である。
術前の視力・円孔の大きさ・罹病期間が視力予後に影響する。術後視力の中央値は約20/40(0.5)であり、術後3年まで視力改善が持続し、5〜10年間維持される3)。変視症は残存することが多い。罹病期間が長いほど予後は不良となり、2〜3年を超えると閉鎖率が63%まで低下する3)。外傷性では黄斑円孔以外の合併損傷も視力予後に影響する。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”後部硝子体剥離と硝子体黄斑牽引
Section titled “後部硝子体剥離と硝子体黄斑牽引”特発性黄斑円孔の発症には、後部硝子体剥離(PVD)の初期段階が深く関与する2)。正常な加齢過程では、PVDは中心窩周囲から始まり4段階で進行する。Stage 1ではperifovealに硝子体が剥離するが中心窩では付着が残り、最終的にStage 4で視神経乳頭からも剥離して完成する2)。
黄斑円孔はこのPVD Stage 1の病的状態として発症する。中心窩に異常な硝子体付着が残存し、眼球運動に伴う動的牽引力が加わることで、Müller細胞円錐と視細胞の間に乖離が生じる2)。OCTではこの過程が網膜内嚢胞として観察される。
前後方向の牽引が持続するとILMとELMが破綻し、網膜の裂離(dehiscence)が生じて全層円孔に至る2)。
円孔閉鎖の機序
Section titled “円孔閉鎖の機序”硝子体手術によるILM剥離とガスタンポナーデがなぜ円孔を閉鎖させるかは十分に解明されていない。ILM剥離術後早期に、黄斑部は神経線維束に沿って鼻側および中心窩に向かってやや偏位することがわかっている。この網膜の移動が円孔辺縁の近接に寄与すると考えられている。
分層円孔(LMH)の形成過程
Section titled “分層円孔(LMH)の形成過程”近年のOCT研究により、LMHの形成には牽引力の関与が一貫して認められている。Hsiaら(2023)の高度近視50眼での検討では、すべてのLMH形成過程で牽引力が同定された9)。4つの牽引関連形成過程が同定された。
- タイプ1:硝子体黄斑牽引による中心窩組織の剥離(avulsion)。FTMH形成の未遂型に相当する9)。
- タイプ2:網膜前膜またはretinoschisisに伴う傍中心窩嚢胞の内壁破裂。最も頻度が高い(64%)9)。
- タイプ3:網膜前膜または硝子体牽引により生じた中心窩嚢胞の天蓋裂開9)。
- タイプ4:嚢胞形成を経ずに網膜前膜の持続的牽引により中心窩が進行性に菲薄化。全例がFTMHへ進行し、最も予後不良であった9)。
LMHの自然閉鎖機序
Section titled “LMHの自然閉鎖機序”LMHの一部は自然閉鎖することが報告されている。Cataniaら(2024)は変性型187例中11例(5.9%)、混合型200例中10例(5.0%)の自然閉鎖を報告した10)。閉鎖過程の中央値は4年であった10)。
閉鎖群では、空洞辺縁の高反射内縁(HIB)および外網状層の線状高反射(LHOP)の出現頻度が安定群より有意に高かった10)。これらの所見はミクログリアとミュラー細胞の協調的活性化を反映する可能性がある10)。
続発性黄斑円孔の病態
Section titled “続発性黄斑円孔の病態”- 近視性:後部ぶどう腫による外向きの牽引と黄斑分離症(macular schisis)が関与する1)。硝子体手術のみでは不十分な場合があり、黄斑バックリングの併用が検討される。
- 外傷性:外傷による眼球変形と網膜伸展、若年者での硝子体の強固な網膜接着が関与する14)。
- 薬剤性:タモキシフェンによる黄斑円孔はMüller細胞の神経変性が関与すると推測されている4)。外層の欠損が特徴的で、内層は保たれることが多い。
- Alport症候群:IV型コラーゲン変異によるILMの完全欠如が生じる7)。ILMが完全に欠如しており、黄斑円孔手術を困難にする要因となる。
- 小児非外傷性:網膜上増殖に伴う牽引が原因となり得る。9歳女児でILM剥離とC₃F₈ガスタンポナーデにより1か月で閉鎖し、術後1年で視力20/40に改善した報告がある8)。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”薬物的硝子体融解(オクリプラスミン)
Section titled “薬物的硝子体融解(オクリプラスミン)”オクリプラスミン(ocriplasmin)は27 kDaのセリンプロテアーゼであり、硝子体と網膜の接着を酵素的に分解する薬剤である1)。投与量は0.125 mcg/0.1 mLの単回硝子体内注射である2)。適応は「VMT持続+iFTMH 400μm未満+ERMなし」の症例に限られる2)。
MIVI-TRUST試験では、投与28日後にオクリプラスミン群の26.5%(プラセボ群10.1%)で硝子体黄斑癒着が解除され、円孔閉鎖率はオクリプラスミン群40.6%(プラセボ群10.6%)であった。RCOphth IPDメタ解析(1,067例)では、iFTMH閉鎖率36.8%(対照9.3%、OR 6.1)、VA改善+5.97文字(対照+3.33文字、差+2.32文字)であった2)。
副作用として、ERG変化(振幅低下40%、81.3%が経過中に回復)、色覚異常(dyschromatopsia: 4.5% vs 対照0.6%)、水晶体亜脱臼が報告されている2)。実臨床ではRCTより有効性が低い傾向があり、採用率は低下している2)。
硝子体内ガス注入(pneumatic vitreolysis)
Section titled “硝子体内ガス注入(pneumatic vitreolysis)”DRCR Retina Network Protocol AH試験では、0.3 mL 100% C₃F₈硝子体内注入を小型MH(中央値79μm)に施行した。閉鎖率は29%(95%CI 16〜45%)であったが、網膜裂孔・剥離が12%(7/59眼、95%CI 6〜23%)に発生し試験は中止された2)。周辺部網膜の脆弱性がある患者では禁忌とされる2)。
生体材料を用いた円孔閉鎖
Section titled “生体材料を用いた円孔閉鎖”難治性・再発性の黄斑円孔に対して、新しい生体材料の応用が試みられている1)。
- ヒト羊膜(human amniotic membrane):足場として円孔に留置し、グリア細胞の遊走と増殖を促進する1)。
- 自家網膜全層移植(ART):周辺部からの網膜移植。Hanai 2024メタ解析で閉鎖率94%1)。
- 間葉系幹細胞(MSC):7例中6例で閉鎖を達成した報告がある1)。
- 神経成長因子(NGF):MH閉鎖率100%、EZ/ELM回復もNGF群で良好な成績が報告されている1)。
LHEP温存・埋め込み手技の発展
Section titled “LHEP温存・埋め込み手技の発展”LHEP温存手術は近年急速に発展している。剥離ILMとLHEPのダブルフラップを円孔内に埋め込む手技も報告されている11)。今後の前向きランダム化比較試験が必要である11)。
LMH自然閉鎖のバイオマーカー
Section titled “LMH自然閉鎖のバイオマーカー”画像処理により検出されるHIBとLHOPがLMH自然閉鎖の予測マーカーとなりうる10)。今後、前向き研究によるこれらのマーカーの検証が期待される。
幹細胞を用いた網膜再生療法は実験段階にある1)。黄斑円孔閉鎖後の視細胞再生や機能回復への応用が期待されている。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Grieco G, Carla MM, Di Stefano G, Scampoli A, Governatori L, Tombolini B, et al. Updates on surgical and nonsurgical innovations for macular hole treatment. Surv Ophthalmol. 2025 Nov 12:S0039-6257(25)00215-2. doi:10.1016/j.survophthal.2025.11.008.
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