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網膜・硝子体

黄斑上膜

黄斑上膜(Epiretinal Membrane; ERM)は、網膜内境界膜ILM)上に形成される線維細胞性の増殖組織である。黄斑パッカー、セロファン黄斑症、網膜黄斑線維症、硝子体黄斑界面症候群などとも呼ばれる11)。黄斑上膜は二次的に網膜皺襞・黄斑浮腫牽引性網膜剥離などを引き起こしうる。

黄斑上膜は特発性続発性に分類される。続発性のものは黄斑皺襞(macular pucker)とも呼ばれる11)

特発性黄斑上膜後部硝子体剥離PVD)に関連して発症し、50歳以上に多い。続発性黄斑上膜網膜裂孔裂孔原性網膜剥離・眼内手術・外傷・網膜血管閉塞・ぶどう膜炎糖尿病網膜症網膜色素変性症などを契機とし、様々な眼疾患に続発して生じる。

有病率は検査法・対象集団によって異なり、幅広い報告がある。各研究の有病率を以下にまとめる。

研究対象集団有病率検査法
Beijing Eye Study中国都市部2.2%眼底写真
Handan Eye Study中国農村部3.4%眼底写真
Blue Mountains Eye Studyオーストラリア7.0%眼底写真
Melbourne Cohortオーストラリア8.9%眼底写真
Los Angeles Latino Eye Studyヒスパニック系18.8%眼底写真
MESA米国多民族28.9%眼底写真
Beaver Dam Eye Study(20年)米国白人(平均74.1歳)34.1%SD-OCT15)

セロファン黄斑症(無症候性ERM)の有病率は1.8〜25.1%、症候性ERM(網膜黄斑線維症)は0.7〜3.9%と報告されている12)。米国では約3000万人が罹患していると推定される12)。両側性は20〜35%に認められる11)。民族差も報告されており、MESA研究では中国系39.0%、ヒスパニック29.3%、白人27.5%、黒人26.2%とされている16)

5年間でERMの29%が進行・26%が退縮・39%が安定する(Blue Mountains Eye Study)14)。セロファン黄斑症の進行は5年で20%のみ。PVDありERM自然分離は1.5%(1,091眼中16眼)、PVDなしERM自然分離は13.6%(157眼中21眼、平均33か月追跡)12)。手術を症状出現まで延期しても即時手術と比較して予後は悪化しないとされる12)後部硝子体剥離のない若年者ではまれに自然剥離が起こることがあるため、慎重に経過観察する。

神経線維腫症2型(NF2)では黄斑上膜有病率が80%に達する9)VMT硝子体黄斑牽引)の有病率は0.4〜2.0%(63歳以上)であり、ERMとVMTはしばしば合併する12)

臨床的重症度の分類としてGass分類が広く用いられる。

グレード所見視力目安
Grade 0透明な薄膜(セロファン黄斑症)。網膜内層の変形なし良好
Grade 1膜収縮による網膜皺襞。網膜細血管が不明瞭となる通常0.5以上
Grade 2灰色の不透明な厚い膜。黄斑の皺が著明低下
Q 黄斑上膜は必ず手術が必要ですか?
A

すべての黄斑上膜が手術適応となるわけではない。無症状・症状が軽微・視力が良好な場合は経過観察が選択される。自然経過では5年間で29%が進行・26%が退縮・39%が安定することが報告されており14)、手術を症状出現まで延期しても予後は悪化しないとされる12)。手術は通常、矯正視力0.7以下かつ変視症が強い場合、または視力低下が比較的急性であり黄斑上膜による障害と考えられる場合に検討される。最終的には患者の自覚症状との兼ね合いで判断する。

黄斑上膜は無症状のことも多く、健診や他疾患の経過観察中に偶然発見される例も少なくない。症候性の場合は以下の症状を呈する。

  • 変視症(ゆがみ):直線がゆがんで見える。最も特徴的かつ患者が訴えやすい症状。
  • 視力低下:膜の収縮・肥厚が進むにつれて生じる。
  • 小視症:物が小さく見える。膜の牽引による黄斑変形が原因。
  • 大視症:物が実際より大きく見える場合もある。
  • 単眼複視:一方の眼で二重に見える。
  • 読書困難・運転困難・両眼視困難:日常生活への影響として頻度が高い主訴12)

Amsler gridは変視症の自己モニタリングツールとして有用であり、症状の進行を患者自身が確認する手段として活用される12)

細隙灯顕微鏡では黄斑部表面の光沢、網膜皺襞、血管蛇行が確認される。スリット光の幅を広くして黄斑部を観察することで、膜の厚みや分布領域をOCT画像と組み合わせて評価できる。初期にはwater silk reflex(絹のような輝き)として捉えられるきらきらとした反射が特徴的である。病変が進行すると黄斑浮腫・偽黄斑円孔を呈することがある。

厚い白色不透明な膜ほど症候性になりやすく、黄斑偏位(ectopia)を起こしやすい12)。正常な中心窩陥凹の消失・黄斑の囊胞様変化・層状黄斑円孔・全層黄斑円孔への進行もありうる。

硝子体乳頭牽引(Vitreopapillary traction): 視神経乳頭周囲の硝子体癒着がERMに合併する場合がある。視神経乳頭浮腫(うっ血乳頭)と誤診されることがあるため注意を要する12)

光干渉断層血管造影(OCTA)では中心窩無血管野(FAZ)の形態変化が確認される。黄斑上膜を有する眼のFAZ面積は0.11 mm²であり、健常眼の0.24 mm²と比較して有意に狭小化している2)

黄斑上膜の最重要関連因子は後部硝子体剥離PVD)である。従来の仮説ではPVD後に残存した皮質硝子体ILMの裂開を引き起こし、グリア細胞・RPE細胞が硝子体腔へ遊走し線維芽細胞様細胞へ分化・増殖することで黄斑上膜が形成されると考えられていた11)

近年支持を得つつある新仮説では、ILM裂開は必須ではないとされる。ILM上に残存する硝子体皮質中の細胞が筋線維芽細胞へ活性化し、膜形成・収縮をもたらすという機序が提唱されている12)

硝子体ポケット理論による病態

Section titled “硝子体ポケット理論による病態”

後部硝子体剥離が生じていない段階でも、後部硝子体ゲル内には液化腔(後部硝子体皮質前ポケット)が存在する。ポケットの後壁は薄く弾性に富む硝子体皮質であり、この黄斑前に存在する後部硝子体皮質に細胞増殖などの修飾が加わることによって黄斑上膜が形成されると考えられている。

後部硝子体が未剥離のまま黄斑と接着したポケットの後壁が網膜を牽引している症例と、完全PVDが生じた際に網膜側に取り残されたポケットの後壁が黄斑をゆがませている症例とがある。硝子体ポケットの後壁上に細胞が増殖して黄斑上膜を形成することがあり、これらは続発性のものや若年者でみられることが多い。後部硝子体剥離が発生したときに自然剥離が起こることがある。

なお、手術時に後部硝子体が付着していた症例が20.1%に認められており、Weiss ringの存在が必ずしも後部硝子体の完全分離を意味しない点に留意する12)

NF2関連黄斑上膜では免疫染色でGFAP弱陽性・ネスチン中等度陽性が確認されており、Müller細胞由来の成分が主体であることが示唆されている9)

主なリスク要因を以下に示す。

  • 加齢:50歳以上で急増し、75歳以上でさらに有病率が上昇する。
  • 後部硝子体剥離PVD:特発性黄斑上膜の最大の誘因。
  • 女性:系統的レビュー(49,000例超)で有意なリスク因子と確認されている13)
  • 網膜裂孔網膜剥離:続発性黄斑上膜の主要原因。
  • 眼内手術歴白内障手術後は続発性ERMの確立されたリスク因子12)
  • 糖尿病・高脂血症:セロファン黄斑症のリスク因子(MESA data)12)
  • 網膜血管閉塞・ぶどう膜炎:炎症後の増殖反応として生じる。
  • 網膜色素変性症:続発性ERMの原因として挙げられる疾患の一つである。
  • 放射線治療:プロトン線照射後の続発性黄斑上膜が報告されている3)
黄斑上膜のOCT像
Wikimedia Commons. File:EpiretinalMembrane_OCT.png. License: CC BY-SA.
89歳男性における黄斑上膜の光干渉断層計OCT)画像である。本文「4. 診断と検査方法」の項で扱う黄斑上膜に対応する。

各検査の役割をまとめる。

検査主な目的特徴
OCT膜の描出・厚み評価・網膜牽引確認最重要・非侵襲的
OCTA血管フロー評価FAZ面積・新生血管検出
FA血管透過性・無灌流評価合併疾患の鑑別
眼底検査表面光沢・皺襞確認スクリーニング

光干渉断層計OCTが診断の中核をなす。ERMはOCTで内表面の過反射層として描出され、しばしば内網膜表面からの脚(pegs)で付着し、波状の断面を呈する。中心窩陥凹の消失・網膜外層の隆起・囊胞様変化などを認める。OCTを用いることにより、硝子体や膜組織による網膜への牽引・網膜の膨化・囊胞様変化・網膜剥離の有無やellipsoid zone(EZ)の状態も把握できる。術前のILM欠損の予測にはen face OCTが有用であり、22.7%の症例でILM欠損が術前に確認されている1)

ERM+VMTの合併はERM眼の57%に認められ、VMT眼の65%にERMが合併するとの報告がある12)

**OCTA(光干渉断層血管造影)**では表層毛細血管網(SCP)の血管面積密度(VAD)の上昇が確認される2)。黄斑上膜誘発性の網膜新生血管の検出にも有用である6)

蛍光眼底造影FA: 初期ERMでは比較的正常な像を示す。膜収縮が進むと牽引中心付近で血管蛇行、周囲で血管直線化を認める。牽引下の毛細血管からの漏出パターンも観察される。囊胞腔への色素貯留が生じる場合、偽水晶体CMEとの鑑別が必要である(CMEはよりpetaloid patternで視神経乳頭過蛍光を伴う)12)FA/OCTAは合併する網膜血管閉塞・糖尿病網膜症黄斑毛細血管拡張症・脈絡膜新生血管の検出にも有用である12)

術前OCTでellipsoid zone(EZ)とinterdigitation zone(IZ、cone outer segment tips line)がintactな場合、術後視力が良好な傾向がある12)。外網膜EZ視細胞外節長は術後に改善・正常化しうる(各パラメータが視力改善と相関)。時間領域OCTによる101眼の研究では、視細胞層の障害が術後視力不良の予測因子として報告されている12)

黄斑上膜の特殊型として黄斑偽円孔がある。黄斑上膜の収縮により中心窩の陥凹が円筒状になり、黄斑円孔に類似した所見を呈するものである。

臨床的な鑑別点として、黄斑偽円孔では視力が比較的良好に保たれることが多い。細隙灯検査ではWatzke-Allen signが鑑別に有用であり、黄斑円孔ではスリット光を当てるとくびれを自覚するが(陽性)、黄斑偽円孔では均一の幅の細隙光として認識される(陰性)。OCTを用いれば両者の鑑別は容易である。

視力障害と網膜の肥厚があることが手術適応の前提である。視力がよくても、網膜の肥厚が著明で変視症が強い場合、または全層黄斑円孔を合併している場合も手術適応となる。

視力低下が比較的急性であること白内障の程度と比較して視力障害が黄斑上膜によると考えられるものも手術の適応である。症状の進行速度・患者の職業・生活への影響(読書困難・運転困難)を具体的に聴取し、最終的には患者の自覚症状との兼ね合いで判断する。手術は選択的(elective)であり、緊急性はない12)

Q 黄斑上膜の診断で最も重要な検査は何ですか?
A

OCT光干渉断層計)が最重要の検査である。網膜表面の高輝度膜状構造と網膜肥厚を非侵襲的に描出でき、診断・手術適応の判断・術後経過観察のすべてに活用される。中心窩陥凹の消失・ellipsoid zoneの状態・網膜内囊胞様変化なども評価できる。術前のEZ/IZ完整性が術後予後予測にも有用である12)

黄斑上膜治療の標準術式は毛様体扁平部硝子体手術PPV)+黄斑上膜剥離+ILM剥離である。23G・25G・27G小切開硝子体手術(MIVS)が標準であり、低侵襲・早期回復が可能となっている。

黄斑上膜剥離

目的:牽引源となる増殖膜を除去し、網膜形態を回復させる。

手技硝子体鉗子(マイクロフォーセップス)で膜の端を把持し、黄斑円孔を作らないよう静かに中心窩をまくように剥き取る。後部硝子体剥離を生じていない症例では、人工的PVD作製で膜も同時に外れることがある。

ILM剥離

目的:黄斑上膜の再発を防ぎ、網膜のより完全な伸展を促す。

ILM境界部処理:黄斑上膜のみを切除したつもりでも通常ILMに亀裂が入る。ILMが剥離された部分とそうでない部分の境界部が黄斑を通らないように追加剥離する。術前en face OCTILM欠損を22.7%の症例に認め1)、欠損縁からの剥離手技(defect-edge technique)が有用1)

染色剤の使用: ILM/ERM染色にはbrilliant blue G(BBG、TISSUEBLUE®)がFDA承認(2019年)されており広く使用される。ICG・trypan blue・triamcinoloneもoff-labelで使用される。低濃度では安全と考えられるが、光曝露時間の最小化が重要であり、議論は継続中である12)。周辺硝子体のシェービング(カニューラ近傍を重点的に)を行うことで、医原性網膜裂孔リスクを低減できる。

  • 視力改善率:約80%の症例でSnellen 2段階以上の視力改善が得られる12)(既報では73%11))。10〜20%は視力不変または悪化。
  • 視力改善の程度:logMAR 0.4から0.1へ改善(術前後比較)2)
  • 変視症の改善:術前56%が変視症を有し、術後は13%へ減少11)
  • VFQ-25スコア:術後6か月・24か月で有意に改善する12)
  • 長期成績(Elhusseiny 2020, 49眼, 平均111か月追跡): BCVA 0.56(20/72)→1年 0.33(20/42)→3年 0.25(20/35)→10年 0.28(20/38)と、術後3年まで改善が続き10年まで安定を維持した17)
  • 視力回復の経過:術後3〜6か月かけて徐々に改善し、術後12か月まで緩徐な改善が続くことがある。術後1年においてもまだ網膜の肥厚やそれに伴う視機能障害が残っている場合がある。術後視力は術前視力とよく相関するため、あまり視力が低下しないうちに手術を行うことが重要である。

ILM剥離はERM再発防止に有効であり、現在の標準手術に組み込まれている12)

  • 再発防止効果: ILM剥離なしの場合ERM再発率8.6〜21%、ILM剥離ありでは0〜2.6%12)
  • Ducloyer 2024 RCT(213眼): 自然剥離101眼、active ILM剥離51眼、非剥離49眼で比較。再発率はactive剥離0% vs 非剥離19.6%と有意差。ただしactive ILM剥離群ではBCVAおよびmicroperimetryの回復がやや遅延した18)
  • 2017年のメタ解析: 視力改善には明確な差がない一方、ERM再発の抑制ではILM剥離群が優位と報告されている19)
  • 結論: ILM剥離は再発防止に有効だが視力への優位性は明確でない。内網膜の喪失(DONFL)が生じうるが機能的影響は不明。

VMT(Vitreomacular Traction)はERMと密接に関連し、合併を認めることが多い。

  • VMT ≤1500μm: 23〜47%が1〜2年で自然解除。視力が安定していれば経過観察が選択肢12)
  • 広範VMT(>1500μm)黄斑剥離を伴う例、視力不良例: 自然改善は期待しがたく硝子体手術の適応となる12)

Pneumatic vitreolysis(ガス注入によるVMT解除): 硝子体内C3F8 0.3ml注入で85.7%のVMT解除率を示す研究があるが、DRCR Retina Network RCTでは網膜裂孔網膜剥離の発生率が予想以上に高く、安全性懸念から早期中止となった12)。現時点では明確なエビデンスが不足しており、リスクとベネフィットの個別判断が必要である。

オクリプラスミン(Ocriplasmin): 組換えプロテアーゼ。2012年FDA承認(症候性VMA/VMT治療)。Phase III試験では27% vs プラセボ10%でVMA解除(P<0.001)12)。ERM合併VMTへの効果は限定的(VMA解除率8.7% vs プラセボ1.5%)であり、ERM単独には無効12)。副作用として硝子体浮遊物・光視症眼痛霧視(約10%、初週)がある。重篤な副作用として急性重度視力低下・ERG異常・色覚障害がまれに報告されるが多くは可逆性である12)

  • 術後1日目受診、術後1〜2週で再診(眼圧・前眼部・中心網膜・周辺網膜を評価)12)
  • 複視・両眼視困難が持続する場合: 斜視専門医・視能訓練士への紹介を考慮12)

標準治療は手術であるが、以下の非手術的な自然剥離・誘発剥離の報告がある(いずれも症例報告レベル)。

  • デキサメタゾン硝子体内インプラント(DEX implant)硝子体内投与後に黄斑上膜の自然剥離が観察された症例が報告されている7)
  • 抗VEGF+光線力学的療法PDT)後の自然剥離光線力学的療法施行後に黄斑上膜の自発的剥離が生じた症例が報告されている4)

これらは症例報告にとどまり、現時点での標準治療とはなっていない。

Q ILM(内境界膜)剥離は必ず行う必要がありますか?
A

ILM剥離は黄斑上膜再発防止のために有効であり、現在の標準手術に組み込まれている。再発率はILM剥離ありで0〜2.6%、なしで8.6〜21%と報告されている12)。術前のen face OCTILM欠損が確認される場合(22.7%に存在)は欠損縁からの剥離手技が必要となる1)。ただし技術的難度が高く、RPE萎縮などの合併症リスクとのバランスを考慮して判断する。active ILM剥離群では視力回復がやや遅延する場合がある18)

Q 手術後、視力はいつ頃回復しますか?
A

視力回復は術後3〜6か月かけて緩徐に進行し、術後12か月まで改善が続くこともある。術後1年においてもまだ網膜の肥厚やそれに伴う視機能障害が残っている場合があり、長期的な経過観察が重要である。長期成績では術後3年まで改善が持続し、10年まで安定が維持されることが報告されている17)。術前の網膜変形の程度・EZ完整性が回復の見通しを左右する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

黄斑上膜の形成は以下の段階を経る創傷治癒様反応として理解されている11)

  1. PVDと残存硝子体皮質PVDの際、一部の硝子体皮質がILM上に残存する。
  2. ILMの微小裂開(従来仮説):残存した硝子体皮質の牽引によりILMに微小な裂け目が生じる。
  3. 細胞の遊走ILM裂開部から網膜グリア細胞(Müller細胞・星状膠細胞)・RPE細胞・マクロファージが硝子体腔へ遊走する。
  4. 増殖・線維芽細胞分化:遊走した細胞が増殖し、線維芽細胞様の収縮性細胞へと分化して黄斑上膜を形成する。

ハイアロサイト(hyalocyte)の役割

Section titled “ハイアロサイト(hyalocyte)の役割”

特発性ERMの主要細胞成分として**ラミノサイト(後部硝子体膜由来のhyalocyte)**が注目されている12)。ハイアロサイトは骨髄由来細胞に起源し、継続的に更新される。グリア細胞・ハイアロサイトが線維芽細胞/筋線維芽細胞へ分化し、細胞外マトリックス形成・線維化を引き起こすことでERM形成に至る。ERMの構成は多様であり、起源・原因も複数存在する。

ILM裂開を必要としない新仮説では、ILM上の残存硝子体皮質中のハイアロサイトが筋線維芽細胞へ活性化し、直接ERMを形成・収縮させるとされる12)

特発性の場合、硝子体皮質に線維芽細胞・筋線維芽細胞・グリア細胞・マクロファージ・炎症細胞・硝子体細胞・網膜色素上皮細胞などの増殖が関与し、それに細胞外マトリックスの変化が加わり膜組織を形成する。

続発性の場合、血液網膜関門の破綻によりサイトカインが放出され、網膜色素上皮細胞やグリア細胞などが硝子体皮質や内境界膜上で増殖して膜を形成する。

血管への影響:黄斑上膜による牽引はFAZ面積の縮小をもたらし、表層毛細血管網(SCP)のVADが有意に上昇する2)FAZ面積と最良矯正視力(BCVA)の間には有意な逆相関(r = −0.683)が認められており2)FAZ形態が視機能の重要な指標となる。

NF2に伴う黄斑上膜では、腫瘍抑制遺伝子の機能喪失によりMüller細胞様グリア成分が異常増殖して黄斑上膜を形成する。免疫染色ではGFAP弱陽性・ネスチン中等度陽性のパターンを示す9)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Ducloyer ら(2024)の213眼を対象としたRCT(自然剥離101眼、active ILM剥離51眼、非剥離49眼)では、再発率がactive剥離0% vs 非剥離19.6%と有意差が示された18)。ただしactive ILM剥離群では術後のBCVAおよびmicroperimetryの回復がやや遅延した。再発防止と視機能回復のトレードオフについて、今後の長期成績の検討が必要である。

Elhusseiny ら(2020)の49眼・平均追跡111か月(約9.3年)の報告では、BCVAが術前0.56→1年0.33→3年0.25→10年0.28と、術後3年まで改善が持続し10年まで安定を維持することが示された17)。長期的な視機能維持の観点からも早期手術介入が支持される。

OCTAによる術前・術後血管フロー評価

Section titled “OCTAによる術前・術後血管フロー評価”

Frisina ら(2023)は特発性黄斑上膜眼においてFAZ面積が健常眼の約半分(0.11 mm² vs 0.24 mm²)に縮小し、SCPのVADが有意に上昇することをOCTAで確認した2)。さらにFAZ面積とBCVAの間に有意な逆相関(r = −0.683)を報告し、OCTAが術前予後予測ツールとして有望であることを示した。logMAR視力は術後に0.4から0.1へ有意に改善した。

en face OCTによるILM欠損の術前予測

Section titled “en face OCTによるILM欠損の術前予測”

Sasajima と Zako(2023)は術前en face OCTで22.7%の症例にILM欠損を認め、ILM欠損縁からの剥離手技(defect-edge technique)が安全で有効であることを報告した1)。術前に欠損部位を特定することで、手術計画の精度向上が期待される。

眼底写真や検眼鏡検査からのAIによるERM診断が評価段階にある12)。価格・アクセシビリティの面で利点があるとの指摘があり、スクリーニングへの活用が期待されている。ただし診断精度の検証はまだ進行中であり、OCTがERM診断のde facto standardとして依然中心的役割を担う。

黄斑上膜誘発性網膜内新生血管

Section titled “黄斑上膜誘発性網膜内新生血管”

Giachos ら(2021)は糖尿病のない患者において黄斑上膜牽引が誘因となり網膜新生血管が形成された症例を報告した6)OCTAにより血管の詳細な評価が可能であり、黄斑上膜手術後に新生血管が退縮することも確認された。

BBG染色剤の安全性プロトコール

Section titled “BBG染色剤の安全性プロトコール”

Venkatesh ら(2022)はBBGとエンドイルミネーション光の組み合わせによる黄斑障害の症例を報告し10)、BBG使用時の露光時間制限と適切な光量管理の重要性を示した。安全な染色プロトコールの確立が今後の課題である。

Koiwa ら(2024)は黄斑上膜硝子体手術後にPAMM様の傍中心窩網膜虚血が生じた症例を報告し5)、術前の血流評価と術中の眼圧管理が合併症予防に重要であることを指摘した。


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