Stage 0〜1
うっ血乳頭・特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. うっ血乳頭・特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)とは
Section titled “1. うっ血乳頭・特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)とは”うっ血乳頭は、頭蓋内圧(intracranial pressure; ICP)の亢進による両眼の乳頭浮腫である。「papilledema(choked disc)」の用語はICP亢進に限定して使用され、他の原因による乳頭腫脹は「視神経乳頭浮腫(optic disc edema)」と区別する。視神経周囲のくも膜下腔の圧が上昇して視神経が締め付けられ、軸索流が停滞することで乳頭浮腫が生じる。
IIHの年間発症率は1.15/10万人(米国1997〜2016年データ、女性1.97 vs 男性0.36)であり2)、18〜44歳で最多(2.47/10万人)。米国18〜55歳女性の有病率は3.44/10,000(95%CI 2.61〜5.39)3)。人種別では黒人2.05 > 白人1.04 > ヒスパニック0.67 > アジア太平洋島民0.16(/10万)の順であり2)、肥満有病率と地理的に概ね一致する(Moran I=0.20、P=0.03)3)。
正常ICPは成人で<250 mmH2O、小児で<280 mmH2O。劇症型IIH(FIH)は全IIH患者の2〜3%に発生し、症状発現4週間以内の急速な視力障害を特徴とする緊急疾患である。1)
乳頭浮腫(papilledema)はICP亢進に限定した用語であり、他の原因(視神経炎・虚血・浸潤性病変など)による乳頭腫脹は「視神経乳頭浮腫(optic disc edema)」と区別して呼ぶ。この用語の使い分けは病因の特定と適切な治療法の選択に直結するため重要である。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
急性期の乳頭浮腫は初期には自覚症状に乏しく、求心性視機能(最高矯正視力・色覚)は通常保たれる。
- 一過性視朦(TVO):数秒間の両眼性の一過性視力低下。体位変換や息みで誘発。視神経乳頭の一過性虚血が機序。
- 頭痛:体位性・朝方増悪。約90%に出現。2) 吐き気・嘔吐を伴うことがある。
- 拍動性耳鳴:52%に出現。静脈系の乱流に起因。2)
- 背部痛:53%に認められる。2)
- 複視:外転神経(第VI脳神経)麻痺による水平複視。頭蓋内圧亢進の偽局在徴候。
- 視野狭窄・視力低下:数か月の持続後に下鼻側または求心性視野狭窄が出現し、その後視力低下。
- 遠視化:眼球後方の平坦化による軸長短縮に伴う。
小児では両側外転神経麻痺に伴う内斜視で頭蓋内圧亢進が発見されることが多い。
急性乳頭浮腫の眼底所見:
- 網膜神経線維層の不透明化。乳頭周囲の輝度が失われる。
- 乳頭境界の隆起・不鮮明化。乳頭面の充血・生理的陥凹の消失。
- 血管変化:網膜静脈の拡張・蛇行、出血、綿花状白斑、黄斑星状斑。
- 自発性静脈拍動(SVP)消失:正常者の約90%に認める。ICP亢進で消失。ただし正常人口の10〜20%で欠如することに注意。
- Paton線:乳頭周囲の同心円状皺襞。
慢性乳頭浮腫の追加所見:視神経乳頭の蒼白、グリオーシス、optociliary shunt vessel、屈折性体。慢性期では死滅した神経線維は腫脹しないため、ICP亢進が持続しても浮腫が消失することがある(萎縮性終末期)。
両眼性の視神経乳頭発赤で視力が良好の場合は、うっ血乳頭を必ず鑑別に入れる。うっ血乳頭は末期に至らない限り視力は正常に近い。
Frisénスケールによる乳頭浮腫の病期分類
Section titled “Frisénスケールによる乳頭浮腫の病期分類”乳頭浮腫の重症度はFrisénスケール(stage 0〜5)で評価し、視機能予後の指標として用いる。
Stage 2〜3
Stage 2(初期):すべての境界の不明瞭化。鼻側境界の隆起。完全な乳頭周囲ハロー。
Stage 3(中等度):乳頭径の増大。主要血管の一部セグメント不明瞭化。ハロー外縁に指状延長。
Stage 4〜5
Stage 4(顕著):乳頭全体の隆起。乳頭上での主要血管セグメントの完全不明瞭化。
Stage 5(重度):ドーム状突出。ハローは狭く境界滑らか。生理的陥凹の消失。
TVOは乳頭浮腫に特徴的な症状だが、それ自体が視力喪失の直接的予兆ではない。しかし頭蓋内圧亢進が長期に持続すると重度の周辺視野欠損から中心視力低下へと進行しうる。TVOが頻繁に出現する場合は、速やかに専門医を受診し原因を精査することが重要である。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”乳頭浮腫の形成速度は頭蓋内圧の上昇速度に依存する。緩やかなICP上昇では数週間かけて出現し、急激な上昇では数時間〜1日以内に出現することもある。
頭蓋内圧亢進の5つの機序
Section titled “頭蓋内圧亢進の5つの機序”- 頭蓋骨が脳に対して小さい:頭蓋縫合早期癒合症など。
- 脳容積が増大:占拠性病変(脳腫瘍・膿瘍・硬膜下血腫)、脳浮腫。
- CSF流路の閉塞:モンロー孔閉塞(コロイド嚢胞)など。
- CSF産生増加:脈絡叢乳頭腫など。
- CSF吸収減少:髄膜炎、脳静脈洞血栓症(CVST)など。
特発性頭蓋内圧亢進症のリスク因子
Section titled “特発性頭蓋内圧亢進症のリスク因子”- 肥満・最近の体重増加:最重要リスク因子。BMI > 40で不可逆的視力障害リスクが増加。
- 関連疾患:PCOS、鉄欠乏性貧血、甲状腺疾患、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、腎疾患。
- 薬剤:テトラサイクリン系(ミノサイクリン)、ビタミンA誘導体、リチウム、ステロイド離脱。ミノサイクリンはクモ膜顆粒のcAMPシグナル伝達を撹乱しCSF吸収を低下させる13)。中止後も2〜5週間ICP上昇が持続することがある。13)
- 遺伝的要因:染色体5・13・14番に候補領域(GWAS)2)。AQP1遺伝子多型のCSF産生増加への関与が示唆されている。
- 感染・炎症:直近の感染/炎症性疾患でIIHリスク約3倍。17) COVID-19後に非肥満・非女性でのIIH発症報告あり(45歳男性、BMI 22.8)。
- CVST:年間発症率1〜2/10万人年17)。死亡率3〜15%。MRVによる除外が必須。
- 重度貧血:Hb 5.7 g/dL・フェリチン0.1 ng/mLで乳頭浮腫報告。EPO上昇→血小板増多→過粘稠状態→静脈圧上昇→ICP亢進という機序が提唱されている。
- MIS-C(小児多系統炎症症候群):神経症状13〜21%。
- VITT:AstraZenecaワクチン後のCVST。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”検眼鏡で両眼の乳頭浮腫を確認する→蛍光眼底造影→OCT→CT/MRI+造影MRV→腰椎穿刺(LP)の順で評価する。まず悪性高血圧除外のための血圧測定を行い、緊急画像検査(CT→MRI+造影MRV)で占拠性病変・静脈洞血栓症を評価する。脳ヘルニアリスクがないことを確認後にLPを実施する。
- 検眼鏡検査:両眼の乳頭浮腫の確認が基本。
- 蛍光眼底造影(FA):乳頭からの色素漏出が認められれば真の乳頭浮腫。偽乳頭浮腫では漏出がなく染まりのみ。
- OCT(SD-OCT RNFL):微妙な乳頭腫脹の検出と経過観察。GCL-IPL OCTは萎縮と改善の区別に有用。
- 視野検査(Humphrey 30-2):盲点拡大・弓状暗点・鼻側階段・求心性視野狭窄を評価。
- Bモード超音波・眼底自発蛍光・EDI-OCT:偽乳頭浮腫(ドルーゼン)の鑑別に有用。
神経画像検査
Section titled “神経画像検査”MRI+造影MRVが最適であり、IIHでは静脈洞狭窄・閉塞の評価が必須。高ICP徴候として以下を評価する。
- 空鞍(empty sella)または部分的空鞍
- 視神経鞘の拡大と髄液貯留
- 視神経の蛇行(垂直・水平方向)
- 眼球後方の平坦化(重度では眼球内への視神経突出)
- 小脳扁桃下垂
IIH確定診断(改訂ダンディ基準)
Section titled “IIH確定診断(改訂ダンディ基準)”| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 1. 乳頭浮腫 | 両眼性の乳頭浮腫が存在する |
| 2. 神経学的検査 | 脳神経異常を除き正常 |
| 3. 神経画像 | 脳実質正常・脳室拡大なし・腫瘤なし・異常造影効果なし |
| 4. CSF組成 | 正常 |
| 5. 髄液初圧 | 成人≧250 mmH2O、小児≧280 mmH2O |
疑い診断:両側乳頭浮腫あり+基準1〜4を満たすが髄液圧が基準未満の場合。25〜30 cmH2Oはグレーゾーンとして再評価を推奨。
IIH診断の17.8%が不正確または早計であり、13.0%が誤診との報告がある18)。非典型患者(男性・正常BMI・小児)でMRV未施行(42.4%)が最多の誤診原因であり、CVSTの見落としが最多である。
偽乳頭浮腫との鑑別
Section titled “偽乳頭浮腫との鑑別”偽乳頭浮腫は高度遠視・ドルーゼン・傾斜乳頭・有髄神経線維・過誤腫などが原因となる。以下の所見が偽乳頭浮腫を示唆する。
- 乳頭面上の毛細血管拡張・充血なし
- 生理的陥凹の欠如
- 出血・白斑なし
- 網膜神経線維層混濁なし
- 乳頭面上の血管を明瞭に追うことができる
鑑別診断一覧:埋没ドルーゼン・傾斜乳頭・糖尿病性乳頭症・高血圧性乳頭症・後部強膜炎・視神経周囲炎・ぶどう膜炎(サルコイドーシス・VKH)・視神経炎・甲状腺眼症・CRVO・NAION・浸潤性視神経症・視神経鞘髄膜腫。
乳頭浮腫患者の10%に治療可能な鉄欠乏性貧血が認められるとされ、スクリーニングが推奨される。
うっ血乳頭(ICP亢進による乳頭浮腫)では初期には視力が正常に保たれることがある。これはICP亢進が視神経乳頭の軸索流を停滞させていても、求心性視機能への影響が軽度の段階だからである。一方、視神経炎では急性の視力低下が生じやすく、この違いが鑑別の手がかりとなる。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”治療の3つの目標は、①根本原因の治療、②視能の温存、③症状の緩和(頭痛など)である。
早期に頭蓋内圧が下降すれば乳頭浮腫はすみやかに吸収され、視機能障害を残さない。治療が遅れて視機能障害が出現すると不可逆性となる。
根本原因別の治療
Section titled “根本原因別の治療”- 悪性高血圧:直ちに救急搬送。
- 占拠性病変:占拠性病変摘出術や脳室腹腔シャント術などの脳外科的処置が基本。
- 急性脳静脈血栓症:ワーファリン(ワルファリン)による抗凝固療法を開始。DOACも選択肢(出血率が低い)。アセタゾラミドは病態を悪化させる可能性があるため避ける17)。抗凝固療法開始後に追加検討できる。
- 薬剤誘発性:原因薬剤を中止。ミノサイクリンは中止後2〜5週間ICP上昇が持続することがある。13)
- 脳静脈洞血栓症:ワーファリン療法。
IIHの保存的管理
Section titled “IIHの保存的管理”- 減量:5〜10%の体重減少でICP症状・徴候を改善。乳頭浮腫改善には5〜15%の減量で効果が見込まれる1)。ICP正常化には体重の24%減量が必要(IIHWT per protocol解析)15)。
- 誘発薬剤の回避。
- 基礎リスク因子のコントロール(甲状腺疾患・OSA)。
- 低ナトリウム減量食:アセタゾラミドとの相乗効果が期待される。16)
- 運動療法:中等度以下の有酸素運動を推奨。過度の運動はICP上昇のリスクがある。
IIHの薬物療法
Section titled “IIHの薬物療法”| 薬剤 | 用量 | 備考 |
|---|---|---|
| アセタゾラミド(第一選択) | 250〜500 mg×2/日→最大2〜4 g/日 | IIHTT(2014)で軽度視野障害IIHに有効性証明16)。頭痛への一貫した効果なし。日本では保険適用外 |
| トピラマート(第二選択) | 個別調整 | ICP低下+減量促進効果。片頭痛様頭痛にも有用。催奇形性あり→妊婦禁忌 |
| フロセミド | 補助的使用 | ACZ不耐時の代替 |
| メチルプレドニゾロンIV | 1 g/日×3日 | 劇症型IIHに限り一時的措置。北米で使用される慣行あり |
ACZの主な副作用:感覚異常(手足しびれ)、味覚障害(金属味)、消化器症状(嘔気・嘔吐・下痢)、倦怠感、腎結石。慢性代償性代謝性アシドーシス・軽度低K血症。
IIHの外科的管理
Section titled “IIHの外科的管理”| 術式 | 視覚改善率 | 頭痛改善率 | 主な合併症 |
|---|---|---|---|
| 視神経鞘切開術(ONSF) | 59% | 44% | 合併症10〜15%(視力喪失1〜2%含む CRAO/CRVO)。再悪化率1年34%・3年45%1) |
| 髄液シャント術(LPS/VPS) | 54% | 80% | シャント不全43〜50%、感染、転位1) |
| 硬膜静脈洞ステント留置術(VSS) | 78% | 82〜83% | 術後6か月間の抗血小板療法必須。再手術率10〜18%1) |
| 肥満外科手術 | — | — | IIHWT RCTで2年間ICP低下と体重減少持続15) |
VSS(硬膜静脈洞ステント)の適応:横静脈洞狭窄+圧勾配 >8 mmHg を確認した場合。ONSFはICPを低下させない。片側ONSFのみでは対側への効果が不十分な場合あり。腰椎腹腔(LP)シャントがIIHの一次外科介入として選択されることが多い。
劇症型IIH(FIH)の管理
Section titled “劇症型IIH(FIH)の管理”IIH患者の2〜3%。症状発現から4週間以内の急速な視力障害を特徴とする。入院管理を原則とし積極的内科・外科治療を行う。
CSF開放圧の平均は54.1 cmH2O(範囲29〜70)6)と極めて高値。Thambisettyら16例シリーズ6)では積極的治療にもかかわらず50%が法的盲に至り、全例に残存視野欠損・視神経萎縮が残存。HVFベースラインMD -7 dB未満の場合、視力回復は困難。1) 初期pRNFL高値ほど長期視力予後が不良。1)
アセタゾラミド最大4 g/日単独でFIH回復した報告もある(36歳男性、BMI 47.3、CSF OP 45 cmH2O→4か月で乳頭浮腫消失、6か月で両眼20/20回復)8)。FIHと悪性高血圧が合併した場合は診断遅延平均3.2か月となり、最終視力20/400〜光覚弁と極めて不良な予後となりうる7)。
妊娠中のIIH管理
Section titled “妊娠中のIIH管理”妊娠中のIIH有病率は16/10万。症例の61%が第1三半期に発生する9)。妊娠自体はIIHの病因因子とみなされない。視覚的予後は非妊娠時と同等であり、通常ハイリスク妊娠とはみなされない。
- 第一選択薬:アセタゾラミド(FDAカテゴリC)。先天奇形との因果関係は否定的(システマティックレビュー52例に使用、奇形なし)9)。
- 妊娠中禁忌:トピラマート(FDAカテゴリD、催奇形性確認)。NSAIDs(第3三半期)。
- 反復腰椎穿刺:26.9%(178妊娠中48例)で使用。効果は一過性(CSFは6時間で再生成)9)。
- 体重増加制限:20ポンド(約9 kg)以内を推奨。
- 妊娠中のVSS:Regevら(2025)は妊娠中FIH2例に横静脈洞ステント留置を施行し、1例は完全回復、1例は片眼に残存視野欠損を認めた11)。
- 分娩管理:IIH自体は帝王切開の適応ではない。経膣分娩56.9% vs 帝王切開43.1%9)。分娩中CSF圧は第1期39 mmHg・第2期71 mmHgまで上昇しうる10)。
- 麻酔:硬膜外麻酔が第一選択。全身麻酔は緊急時以外は避ける。サクシニルコリン(筋線維束攣縮によるICP上昇)は使用を避ける10)。
予後:IIH再発率9〜28%2)。予後不良因子:体重増加・乳頭浮腫の重症度・ベースライン頭痛の程度2)。
アセタゾラミドはIIHに対する第一選択薬として有効性が確立されているが、脳静脈血栓症が原因の場合は病態を悪化させる可能性があるため禁忌である。クリプトコッカス髄膜炎でも使用禁忌。まず原因を特定し、根本原因別に治療法を選択することが不可欠である。日本では保険適用外となる点にも注意が必要である。
FDAカテゴリCに分類されるが、システマティックレビューでは先天奇形との因果関係は否定的とされている9)。第1三半期でも大量使用(1 g/日以上)で奇形リスクの増加は認められなかった。必ず産科医との協議のもとで使用し、多くの場合は妊娠20週以降に限定される。
FIHはIIHの亜型であり、症状発現から4週間以内に急速かつ重度な視力障害をきたす点が異なる。IIH患者の2〜3%に発生する。通常のIIHが比較的緩徐に進行するのに対し、FIHは数日単位で視力が悪化し、迅速な介入なしには不可逆的な失明に至りうる6)。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”軸索流停滞のメカニズム
Section titled “軸索流停滞のメカニズム”視神経周囲のくも膜下腔の圧が上昇して視神経が締め付けられ、軸索流が停滞することで乳頭浮腫が生じる。具体的には以下の経路をたどる。
ICP上昇→視神経周囲くも膜下腔圧上昇→視神経絞扼→順行性軸索輸送停滞→神経浮腫(乳頭浮腫)。圧力持続→神経内虚血→軸索消失→視神経萎縮→視力障害。萎縮期では死滅した神経線維は腫脹しないため、ICP亢進が続いても乳頭浮腫が消失することがある(萎縮性終末期)。
IIHの病態生理(3仮説)
Section titled “IIHの病態生理(3仮説)”CSF排出障害説
クモ膜顆粒・リンパ管経路でのCSF排出遅延がICP上昇をきたす。ミノサイクリンはクモ膜顆粒のcAMPシグナルを撹乱しCSF吸収を低下させる13)。
静脈洞圧上昇説
IIH患者の90%以上に両側横静脈洞狭窄が認められる2)。肥満→腹腔内圧上昇→胸腔内圧上昇→脳静脈還流障害→ICP上昇という連鎖。VSSの有効性がこの仮説を支持する。
代謝・ホルモン異常説
アンドロゲン調節異常の関与が示唆される2)。レプチン過剰→脈絡叢過活性化→CSF過剰産生。GLP-1受容体が脈絡叢に存在し、GLP-1RAがCSF産生を減少させることがラットモデルで示されている。
- 遺伝的背景:GWAS chr5/13/14。AQP1遺伝子多型によるCSF産生増加。2)
- glia-neuro-vascular interfaceの機能異常関与が示唆されている。2)
- IIHは肥満とは独立した全身性代謝疾患として認識されつつある。2)
- CVST:静脈洞血栓→還流障害→ICP亢進。
- 重度貧血:EPO上昇→血小板増多→過粘稠→静脈圧上昇→ICP亢進。鉄欠乏→赤血球変形能低下→血液粘稠度上昇。

7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”IIH Weight Trial(IIHWT)と肥満外科手術
Section titled “IIH Weight Trial(IIHWT)と肥満外科手術”肥満外科手術 vs 地域体重管理介入のRCTでは、肥満外科手術群が2年間にわたりICP低下と体重減少を持続15)。5年後の費用対効果も食事療法より優位であった。ICP低下量は減量幅と相関する。
GLP-1受容体作動薬
Section titled “GLP-1受容体作動薬”エキセナチドなどのGLP-1RAがIIH治療の新候補として注目されている。Na⁺/K⁺-ATPase活性低下を介して脈絡叢でのCSF分泌が減少。ヒトで投与2.5時間後にICP 5.7±2.9 cmH2O低下(P=0.048)との報告がある。減量促進効果とICP直接低下効果の二重メカニズムが期待される。ただし中断後の体重リバウンド→IIH発症リスクにも注意が必要。
硬膜静脈洞ステント留置術(VSS)
Section titled “硬膜静脈洞ステント留置術(VSS)”横静脈洞ステント留置は安全・有効との報告が蓄積している4, 5)。英国でVSS vs VPSを比較するRCTが進行中。VSSの視覚改善率78%・頭痛改善率82〜83%(メタアナリシス)。再手術率10〜18%の範囲。
11β-HSD1阻害薬
Section titled “11β-HSD1阻害薬”11β-HSD1(11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素1型)阻害薬がIIHの新規治療標的として研究中1)。
FIH定義の再検討
Section titled “FIH定義の再検討”「4週間以内」という時間基準ではなく「視力脅威性(vision-threatening)」での定義を提案する議論がある1)。時間基準では急速な進行にもかかわらず診断から漏れる症例が存在する可能性がある。
COVID-19/MIS-C/VITT関連の新型乳頭浮腫
Section titled “COVID-19/MIS-C/VITT関連の新型乳頭浮腫”従来リスクプロファイルに当てはまらない患者での乳頭浮腫が報告されている1)。非肥満・非女性でのIIH・MIS-C(小児多系統炎症症候群)関連・AstraZenecaワクチン後VITTなど。
IIH有病率の地理的変動
Section titled “IIH有病率の地理的変動”米国内で有意な州間差が確認されている(Moran I=0.20、P=0.03)3)。テキサス・オクラホマ等では肥満率高/IIH低という不一致も観察されており、その原因は未解明。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”-
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