この疾患の要点
網膜中心静脈閉塞症(CRVO)は糖尿病網膜症 に次いで2番目に多い網膜 血管疾患であり、40歳以上の有病率は約0.2%である。
篩状板 レベルで網膜 中心静脈が閉塞し、4象限すべてに火炎状出血・黄斑浮腫 が生じる。
非虚血型(約75〜80%)と虚血型に分類され、虚血型では45〜80%に虹彩ルベオーシス が生じ、無治療では半数以上に血管新生緑内障 が発症する。
非虚血型の約1/3が経過中に虚血型へ移行するため、定期的な隅角検査 が不可欠である。
黄斑浮腫 に対する第一選択治療は抗VEGF硝子体内注射 であり、CRUISE・COPERNICUS・COMINO 等の大規模試験(COMINO : CRVO/hemi-CRVO n=729)で有効性が確認されている。
RAPD (相対的瞳孔求心路障害 )は虚血型の約90%で陽性となり、虚血型/非虚血型の鑑別に有用である。
高血圧・糖尿病・高脂血症・緑内障 が主要リスク因子であり、50歳未満の発症では凝固異常等の全身精査が必要である。
網膜中心静脈閉塞症(Central Retinal Vein Occlusion; CRVO)は、視神経 内の篩状板 (lamina cribrosa)レベルで網膜 中心静脈が閉塞する疾患である。閉塞により静脈内圧が上昇し、網膜 内の血液うっ滞・虚血・滲出が生じ、4象限すべてに火炎状出血・乳頭浮腫 ・黄斑浮腫 をきたす。
網膜静脈閉塞症 全体は糖尿病網膜症 に次ぐ2番目に多い網膜 血管疾患である9, 10) 。2015年時点での世界的な有病率は約0.77%、推定患者数は30〜89歳で約2800万人とされる10) 。CRVOの40歳以上での有病率は約0.2%と報告されており、BRVO (網膜静脈分枝閉塞症 )の6〜7分の1の頻度である10) 。60〜70歳代に好発し、40歳未満では比較的まれである9, 10) 。
CRVOは灌流型(非虚血型)と非灌流型(虚血型)に大別される。非虚血型が全CRVOの約75〜80%を占める。また、上方または下方2象限のみが障害される**半側網膜中心静脈閉塞症(hemi-CRVO)**も存在し、臨床経過はCRVOに類似する9, 10) 。hemi-CRVOは篩状板 レベルで2本の独立した半側中心静脈のうち1本が閉塞することで生じ、BRVO のように動静脈交叉点は視認できないことが多い。約90%が上方または下方hemifieldを障害する10) 。CRVOと同様に血管新生緑内障 のリスクが高い点に注意を要する10) 。
CRVOの重要な合併症は黄斑浮腫 と血管新生である。黄斑浮腫 は非虚血型・虚血型のいずれにも生じ、視力 低下の主因となる。血管新生(虹彩新生血管 ・網膜 新生血管 )は主に虚血型で発生し、CRVOの約25%に虹彩新生血管 が生じ、血管新生緑内障 による失明をきたすことがある10) 。CRVOの患者は心血管イベントおよび全死因死亡率が一般人口と比較して上昇するとの報告があり10) 、全身管理の観点からも内科との連携が重要である。
Q
網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症はどう違いますか?
A
CRVOは視神経 内で主幹静脈が閉塞し、網膜 全体(4象限)に出血が生じる。BRVO は網膜 内の分枝静脈が動静脈交叉部で閉塞し、障害は1〜2象限にとどまる。BRVO はCRVOの6〜7倍多い10) 。CRVOはBRVO と比べて血管新生緑内障 のリスクが高く、抗VEGF治療の投与回数も多くなる傾向がある。
Colcombe J, et al. Retinal Findings and Cardiovascular Risk: Prognostic Conditions, Novel Biomarkers, and Emerging Image Analysis Techniques. J Pers Med. 2023. Figure 1. PM
CI D: PMC10672409. License: CC BY.
眼底全体に多発する網膜 内出血と、静脈の拡張・蛇行がみられる。視神経乳頭 の腫脹や黄斑 周囲の白斑も認め、網膜中心静脈閉塞症の代表的臨床所見を示す画像である。
CRVOの症状は閉塞のタイプによって異なる。
非虚血型 :自覚症状がなく偶然発見されることもあるが、多くの症例で黄斑浮腫 による視力 低下を認める。急性発症で比較的軽度の霧視 にとどまることもある。
虚血型 :突然かつ重篤な視力 障害を呈し、20/200未満の高度視力 低下が多い。硝子体出血 を合併すると急激な視力 喪失をきたす。血管新生緑内障 を合併すると眼痛 ・頭痛が出現する。
いずれも無痛性 であることが特徴的である。
CRVOの典型的な眼底所見は以下のとおりである。
4象限の火炎状出血 :BRVO の扇形分布とは異なり、全象限に広がる点が鑑別上重要である。
網膜 静脈の拡張・蛇行 :閉塞による静脈内圧上昇を反映する。
乳頭浮腫 :視神経乳頭 周囲の浮腫を伴うことが多い。
黄斑浮腫 :視力 低下の主因であり、OCT での定量評価が不可欠である。
軟性白斑(綿花様白斑 ) :虚血を反映する所見であり、虚血型で顕著に認められる。
硬性白斑 :長期経過例で黄斑 周囲に認めることがある。
特徴的な網膜 出血から診断自体は難しくないが、非虚血型と虚血型の分類・治療適応・予後予測のために眼底検査 以外の精密検査も重要である。経過とともに急性期の出血は吸収され、軟性白斑も消退する。長期的には側副血行路が乳頭周囲や網膜 静脈間に発達することがある。黄斑浮腫 は自然消退することもあるが、遷延すれば網膜色素上皮 萎縮をきたし、視力 予後が悪化する。
非虚血型と虚血型の鑑別要点を下表に示す。なお、非虚血型の約1/3が経過中に虚血型へ移行し、その移行は4ヶ月以内に15%、3年以内に34%で生じると報告されている10) 。
特徴 非虚血型 虚血型 視力 20/200以上 20/200未満 RAPD 軽度/陰性 明瞭(約90%で陽性) FA 無灌流域<10乳頭面積 ≧10乳頭面積(CVOS基準) ERG 正常〜軽度低下 b/a比・b波振幅低下 予後 比較的良好 不良(NVG リスク高)
非虚血型
頻度 :全CRVOの約75〜80%を占める。
出血 :4象限の火炎状出血(比較的浅い)。
浮腫 :乳頭浮腫 ・黄斑浮腫 を伴う。
新生血管 :通常は生じない。自然軽快する症例もある。
視力 :黄斑浮腫 が主な視力 低下原因である。
虚血型
定義 :FA 上10乳頭面積以上の毛細血管無灌流域(CVOS基準)9, 10) 。
RAPD :約90%で相対的瞳孔求心路障害 が陽性となる。
ルベオーシス :45〜80%に虹彩ルベオーシス が発生する。
NVG :無治療では半数以上に血管新生緑内障 が発症する。
移行 :非虚血型の約1/3が虚血型へ移行(4ヶ月以内15%、3年以内34%)。
CRVOのOCT Bスキャンで傍中心窩 の内顆粒層に帯状の高反射を認めることがあり、PAMM (paracentral acute middle maculopathy)と呼ばれる。静脈灌流障害に伴い、網膜 深層毛細血管叢を栄養する末梢細動脈の循環障害が原因とされる。網膜 浅層のアンファス画像では高反射が目立たないが、網膜 深層のアンファス画像で白濁した網膜 に一致した高反射部位が明瞭に描出される。PAMM は中間毛細血管叢の虚血を反映する所見であり、CRVOにおける網膜 虚血の程度を評価する補助指標として注目されている。
Matsuo Tら(2025)は、71歳男性の両側性CRVO症例を報告した1) 。右眼のCRVOは発症4ヶ月後に眼圧 35mmHgの血管新生緑内障 へ進行し、最終的に光覚喪失に至った。左眼のCRVOは抗VEGF治療と保存療法で視力 を維持した。心臓手術後の右心機能不全が両側性発症の誘因と考察されている。
Q
網膜中心静脈閉塞症と診断されたら、どのくらいの頻度で通院が必要ですか?
A
非虚血型は発症4〜6週後に再評価を行う。虚血型は血管新生緑内障 のリスクが高いため、6ヶ月間は月1回の受診・隅角検査 が必要である9) 。非虚血型の約1/3が虚血型に移行するため、隅角 の観察は常に行うべきとされる。抗VEGF治療中は黄斑浮腫 の評価のためほぼ毎月のOCT検査 が推奨される。
CRVOの病態はウィルヒョーの3要素(血管損傷・血流停滞・凝固亢進)で説明される。篩状板 後方では網膜 中心動脈と網膜 中心静脈が共通の外膜を共有しており、動脈硬化性変化により動脈壁が肥厚・硬化すると隣接する静脈が圧迫され、血管内皮障害から血栓形成・閉塞へと至る。
主要リスク因子を下表に示す。
リスク因子 頻度・関連 加齢 最重要:90%超が55歳以上 高血圧 50歳以上の最大73%が合併9, 10) 高脂血症 主要リスク因子7) 糖尿病 独立したリスク因子9, 10) 緑内障 ・高眼圧 独立したリスク因子9, 10)
メタ解析では、RVO の48%が高血圧に帰因し、20%が高脂血症、5%が糖尿病に帰因するとされる10) 。
その他の重要なリスク因子を以下に示す。
低HDLコレステロール血症 :低HDL-CはRVO の独立したリスク因子として報告されており、通常の脂質スクリーニングで見落とされがちな点に注意する10) 。
全身性自己免疫疾患 :SLE 患者ではCRVO発生率が対照の3.5倍とされる9, 10) 。
心血管リスク :RVO 患者は心血管イベント・全死因死亡率が上昇する。内科との連携が重要である9, 10) 。
PDE5阻害薬(シルデナフィルなど) :FDAへの報告でRVO 82例が集積されており、全身血圧低下下での網膜 静脈怒張誘発が機序として推察されている2) 。
COVID-19感染 :サイトカインストームによる血管内皮障害・凝固亢進が機序とされる3, 4) 。
COVID-19ワクチン :VITT(ワクチン誘発性血栓性血小板減少症)機序が提唱されており、ChAdOx1(AstraZeneca)接種後の血栓発症率は1.13/10万回とされる5, 6) 。
MTHFR遺伝子変異 :高ホモシステイン血症による凝固亢進3, 4) 。
右心機能不全 :静脈ドレナージ障害による静脈圧上昇が両側性CRVOの誘因となりうる1) 。
睡眠時無呼吸症候群・頸動脈閉塞性疾患 :CRVOのリスク因子として報告されている10) 。
対側眼リスク :片眼にCRVOを発症した場合、対側眼に同様にCRVOが発症するリスクは年1%とされる10) 。
うつ病 :うつ病患者でRVO リスクが上昇するとの報告がある10) 。
50歳未満での発症では全身精査が強く推奨される。58%の症例で従来型でないリスク因子(凝固異常・自己免疫疾患等)が同定されたとの報告がある9, 10) 。50歳以上でも高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理状況を必ず確認し、内科主治医との情報共有が推奨される。
予防・日常のケア
高血圧・糖尿病・高脂血症の管理が最も重要な予防策です。定期的な内科受診を継続してください。
喫煙は血管疾患全般のリスクを高めます。禁煙を心がけましょう。
PDE5阻害薬(シルデナフィルなど)を使用している場合は、眼科・内科の両方に伝えてください。
突然の視力 低下・霧視 が起きた場合は、すぐに眼科を受診してください。
片眼のCRVO後は対側眼の発症リスクが年1%あるため、定期的な眼科受診が必要です。
Q
若い人でも網膜中心静脈閉塞症になることはありますか?
A
40歳未満での発症はまれだが起こりうる。凝固異常・MTHFR遺伝子変異・COVID-19感染・ワクチン後VITT・PDE5阻害薬などが原因となりうる2, 3, 4, 5, 6) 。50歳未満では凝固系スクリーニング(プロテインC/S・抗トロンビンIII等)や自己抗体検査(抗リン脂質抗体・抗核抗体等)が推奨される9, 10) 。若年CRVO では乳頭血管炎との鑑別も重要であり、後者では全身ステロイド 投与が必要となる場合がある。
診断は病歴・視力 ・眼底所見を組み合わせて行う。4象限の火炎状出血と静脈拡張蛇行という特徴的な眼底所見から診断自体は難しくないが、虚血型/非虚血型の分類・治療適応の判断には以下の検査が不可欠である。
病歴聴取 :視力 低下の経過・内服薬(抗凝固薬・PDE5阻害薬)・既往歴(高血圧・糖尿病・血液疾患・睡眠時無呼吸)9, 10) 。
視力検査 :虚血型では初診時に20/200未満の視力 低下が多い。
RAPD 検査 :非虚血型では陰性であることが多いが、虚血型では約90%で陽性となるため、虚血型/非虚血型の鑑別に極めて有用である。新生血管 発症リスクの予測因子としても重要9, 10) 。
細隙灯・眼底検査 :4象限の出血・乳頭浮腫 ・黄斑浮腫 の評価。虹彩新生血管 の有無を散瞳 前に確認する。
眼圧 ・隅角鏡検査 :虚血型では月1回 × 6ヶ月の隅角鏡検査 で虹彩 ・隅角 新生血管 を確認する9) 。非虚血型の約1/3が虚血型に移行するため、隅角 の観察は常に行うべきである。
以下に各検査の役割を示す。
FA (蛍光眼底造影 ) :CVOS基準(毛細血管無灌流域10乳頭面積以上)による虚血型の定義に不可欠である9, 10) 。ただし急性期は大量の網膜 出血により蛍光がブロックされ、無灌流領域 の判定が困難な場合がある。このため、出血が吸収される数週間後に再検査が必要となることがある。広角FA により周辺部虚血の評価精度が向上しつつあり、非虚血型から虚血型への移行リスク予測に有用である可能性が報告されている9, 10) 。側副血行路(fluorescein造影後期にleakageを示さない)と新生血管 (早期・後期ともにleakageを示す)の鑑別にもFA は有用である18) 。
OCT (光干渉断層計 ) :黄斑浮腫 の定量評価に極めて有用であり、治療効果のモニタリングにも使用する9, 10) 。CRVOでは傍中心窩 の内顆粒層にPAMM 所見(高反射帯)を認めることがあり、末梢細動脈の循環障害を反映する。
OCTA (光干渉断層血管撮影 ) :造影剤不使用で毛細血管無灌流域を検出できる9) 。FA Z(中心窩 無血管領域)面積の拡大も評価可能であるが、撮影範囲の制約が課題である。
ERG (網膜電図 ) :虚血型ではb/a比の低下・b波振幅の減少・フリッカ応答の低下が認められ、虚血型/非虚血型の鑑別に有用である。
視野検査 :虚血型では巨大な中心暗点 を示す。
CRVOの発症には全身的な血管危険因子が関与するため、以下の全身検査を行う。
全患者に推奨される検査 :
血圧測定
血液検査:CBC(血球算定)、ESR(赤血球沈降速度)、空腹時血糖・HbA1c、総コレステロール・HDL-C・LDL-C・中性脂肪
腎機能(BUN・Cr)
CRP (炎症性疾患の除外)
50歳未満に追加推奨される検査 9, 10) :
凝固系スクリーニング:プロテインC活性・プロテインS活性・抗トロンビンIII活性・ホモシステイン・第V因子Leiden変異
自己抗体:抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント・抗カルジオリピン抗体)・抗核抗体
必要に応じて血液内科・膠原病内科へのコンサルトを検討する
乳頭血管炎 :若年発症のCRVOでは鑑別が重要である。乳頭血管炎に伴うCRVOでは全身的ステロイド 投与が必要となる場合がある。
血液疾患 :両眼にCRVOが発症した場合は、多血症・白血病・骨髄増殖性疾患等の血液疾患を伴うことがあるため精査が必要である。
糖尿病網膜症 :びまん性の網膜 出血を呈する場合に鑑別を要する。CRVOは片眼性の急性発症で4象限への均一な出血分布が特徴であるのに対し、糖尿病網膜症 は両眼性で慢性経過をとり、新生血管 の分布パターンが異なる。
眼虚血症候群 :頸動脈閉塞性疾患に伴う慢性的な眼虚血では、CRVOに類似した眼底所見を呈することがある。CRVOの出血がより急性で大量であるのに対し、眼虚血症候群 では出血は中等度で眼圧 低下・虹彩新生血管 が早期から出現する傾向がある。
CRVOの治療は黄斑浮腫 に対する治療 と血管新生に対する治療 の2本柱から成る。
抗VEGF硝子体内注射 は、CRVOに伴う黄斑浮腫 に対する第一選択治療である9, 10) 。複数の大規模RCTでその有効性が確認されている。BRVO と比べ投与回数が多く、特に虚血型では完治する症例は少ないが、現在最も視力 改善効果が期待できる治療法である。
ラニビズマブ
CRUISE試験 :0.5mg群で6ヶ月後に平均+14.9文字改善。47.7%が15文字以上改善(sham群は0.8文字改善、16.9%が15文字以上改善)12) 。
用量 :0.5mg/0.05mLを毎月硝子体内注射 。
保険適用 :「網膜静脈閉塞症 に伴う黄斑浮腫 」の適応あり。
アフリベルセプト
COPERNICUS試験 :2mg群で56%が15文字以上改善(sham群は12%)13) 。
GALILEO試験 :同様にsham群に対する優位性を確認14) 。
用量 :2mg/0.05mLを毎月硝子体内注射 。
保険適用 :「網膜静脈閉塞症 に伴う黄斑浮腫 」の適応あり。
ファリシマブ
COMINO 試験 (CRVO/hemi-CRVO, n=729):ベースラインBCVA 50.5文字、CST 711.6μm。6mg群で24週時に平均+16.9文字改善。56.6%が15文字以上改善。アフリベルセプト に対する非劣性を達成11) 。
CST変化 :24週時のCST減少はファリシマブ -461.6μm vs アフリベルセプト -448.8μm。黄斑 漏出消失率はファリシマブ 44.4% vs アフリベルセプト 30.0%11) 。
安全性 :眼内炎 症(IOI)発生率はファリシマブ 2.2% vs アフリベルセプト 1.1%。重篤IOIはファリシマブ 群でぶどう膜炎 2件、アフリベルセプト 群で非感染性眼内炎 1件11) 。
機序 :抗VEGF-A作用に加え抗Ang-2作用を有する二重特異性抗体である。
その他の抗VEGF薬 および主要臨床試験の結果を以下に示す。
ベバシズマブ :1.25mg/0.05mLの硝子体内注射 が適応外使用されている4, 9) 。
LEAVO試験 (100週, CRVO 463例):アフリベルセプト 群+15.1文字、ラニビズマブ 群+12.5文字、ベバシズマブ 群+9.8文字の改善。アフリベルセプト はラニビズマブ に対する非劣性が示されたが、ベバシズマブ との比較は結論に至らなかった16) 。アフリベルセプト 群で52%、ラニビズマブ 群で47%、ベバシズマブ 群で45%が15文字以上の視力 改善を達成した。
SCORE2試験 (CRVO/hemi-CRVO 362例):ベバシズマブ とアフリベルセプト で6ヶ月時(主要評価項目)の視力 は同等であった17) 。6ヶ月で奏効不良であった症例にはデキサメタゾンインプラントによるレスキュー投与が行われた。24ヶ月時点では両群ともに12ヶ月から視力 が低下する傾向が認められた。
治療期間 :CRVOの約56〜75%が5年を超えて抗VEGF治療の継続を要する10) 。長期にわたる定期的な受診と治療継続が不可欠であり、治療中断は視力 低下のリスクとなる。
投与レジメン :毎月投与(monthly)から開始し、OCT で黄斑浮腫 の改善を確認しながら投与間隔を延長するtreat-and-extend方式が広く採用されている。ファリシマブ では最大16週間隔への延長が検討されている11) 。
抗VEGFが無効または不適な場合に選択される。
トリアムシノロン アセトニド硝子体内注射 (TAIV) :SCORE studyでは、標準治療群(光凝固)で7%、TAIV 1mg群で27%、4mg群で26%が12ヶ月後に15文字以上の視力 改善を示した。しかし6割を超える症例で黄斑浮腫 が再発し、追加投与が必要であった。4mg投与群は有意に眼圧 上昇と白内障 進行を認めたため、投与するなら1mgが推奨される10) 。
デキサメタゾン持続放出型インプラント(Ozurdex 0.7mg) :GENEVA試験(CRVO/BRVO 1267例)では30日目から視力 改善が始まり90日でピークに達したが、6ヶ月で効果が消失した15) 。1年時に眼圧 25mmHg以上が16%に認められた。抗VEGFに比べ白内障 ・眼圧 上昇のリスクが高い。
遅発性眼内炎 :DEXインプラント後の遅発性眼内炎 も報告されており、異物感・充血 ・視力 低下には早急な対応が必要である8) 。
PRP (汎網膜光凝固 )は虚血型CRVOにおける血管新生の管理に用いる9) 。PRP は視力 改善効果を持たないが、新生血管 の退縮・進展抑制を通じて血管新生緑内障 の発症を予防する。
非虚血型 :血管新生が生じないため、PRP の適応はない。予防的PRP の施行は推奨されていない。
虚血型 :虚血型CRVOの約3割に新生血管 が生じるため、PRP が必要となることがある。現在はVEGF阻害薬 で新生血管 のコントロールがある程度可能であるため、新生血管 を認めてからPRP を行っても遅くないと考えられている。ただし高度虚血例や高齢者では、早期のPRP 施行が考慮される場合がある。
CVOSの所見 :Central Vein Occlusion Study(CVOS)ではCRVOの黄斑浮腫 に対する格子状光凝固が検討されたが、視力 改善効果は証明されなかった。このため、黄斑浮腫 に対する格子状光凝固は推奨されない。虹彩 ・隅角 新生血管 が確認された場合に限り、密な汎網膜光凝固 が推奨される9, 10) 。抗VEGF薬 の併用により完全なPRP 施行が容易になることがある10) 。
VEGF阻害薬 の承認後は第一選択として行われない。CRVOの黄斑浮腫 に対する大規模臨床試験は行われておらず、エビデンスが確立されていない。過去に施行されていた放射状視神経乳頭 切開術(radial optic neurotomy)は、篩状板 部の減圧により静脈圧を低下させる理論的根拠で開発されたが、視野障害・出血等の重篤な合併症が生じることがあるため、現在は行われていない。
硝子体出血 を合併した症例では、出血除去と同時にPRP が施行可能である。また、牽引性硝子体 黄斑 症候群(黄斑上膜 ・硝子体 黄斑 牽引)を合併した場合は、硝子体手術 が黄斑浮腫 の改善に寄与することがある。
ワクチン関連CRVO :ステロイドパルス療法 (メチルプレドニゾロン1g × 3日間)の有効例が報告されており、中心窩 厚823μmから166μmへの改善と視力 2/60から6/9への回復が得られた6) 。
抗凝固療法 :視力 予後を悪化させる可能性があり、推奨されない4) 。
治療効果の判定と合併症の早期発見のため、以下のスケジュールで経過観察を行う。
非虚血型 :発症4〜6週後に再評価を行い、以後は黄斑浮腫 の状態に応じて1〜3ヶ月ごとに経過観察する。OCT による黄斑浮腫 の定量評価と視力検査 を毎回行う。
虚血型 :発症後6ヶ月間は月1回の受診が必須である9) 。散瞳 前に虹彩新生血管 の有無を確認し、隅角鏡検査 で隅角 新生血管 の監視を行う。抗VEGF治療中止後も新生血管 の出現リスクが残るため、隅角検査 を含む経過観察を継続する。
非虚血型→虚血型移行の監視 :非虚血型の約1/3が経過中に虚血型に移行するため、隅角 の観察は常に行うべきである。RAPD の変化、視力 の急激な低下、出血の増悪などは虚血型への移行を示唆する所見である。
抗VEGF治療中 :投与後1ヶ月ごとにOCT で黄斑浮腫 を評価し、再発があれば再投与する。安定していれば投与間隔を徐々に延長する(treat-and-extend方式)。
全身管理 :血圧・血糖・脂質の定期的なモニタリングを内科と連携して行う。CRVOは対側眼の発症リスク(年1%)を伴うため、両眼の定期検査が重要である10) 。
治療における注意点
血管新生緑内障 は不可逆的な視野障害をきたすため、虚血型では6ヶ月間の月1回フォロー(隅角検査 含む)を絶対に欠かさないこと。
DEXインプラント後は、眼圧 上昇(16%に25mmHg以上)と遅発性眼内炎 のリスクに注意する8, 15) 。異常を感じたら早急に受診が必要。
抗凝固療法・血栓溶解療法は眼底出血を増悪させる可能性があり、推奨されない4) 。
PDE5阻害薬を内服中の場合は眼科・担当科に申告し、服薬継続の可否を相談すること2) 。
ステロイド 治療では白内障 進行と眼圧 上昇のリスクが高まるため、定期的な眼圧 モニタリングが不可欠である。
Q
抗VEGF注射は何回くらい必要ですか?
A
CRUISE試験では毎月6回の投与が行われ、有意な視力 改善が確認された12) 。実際の治療では毎月投与から開始し、OCT で黄斑浮腫 の改善を確認しながら間隔を延長する。CRVOの約56〜75%が5年を超えて治療継続を要するとの報告があり10) 、長期にわたる定期受診が不可欠である。ファリシマブ では treat-and-extend 方式で最大16週間隔への延長が検討されている11) 。
篩状板 後方では網膜 中心動脈と網膜 中心静脈が共通の外膜(結合組織鞘)を共有している。動脈硬化に伴う動脈壁の肥厚・硬化が隣接する静脈を圧迫し、血管内皮障害 → 血栓形成 → 閉塞へと至る9, 10) 。BRVO では動静脈交叉部での閉塞が主体であるのに対し、CRVOでは篩状板 付近での閉塞が特徴であるが、血栓形成の機序自体はBRVO と同様と考えられている。
ウィルヒョーの3要素(血管損傷・血流停滞・凝固亢進)がすべて関与する。BRVO では動静脈交叉部での圧迫が閉塞の主因であるが、CRVOでは篩状板 という狭い解剖学的空間で動静脈が外膜を共有する独特の構造が閉塞の発生基盤となっている。
静脈閉塞 → 静脈内圧上昇 → 血漿成分の漏出 → 網膜 浮腫・出血が生じる。網膜 虚血 → 低酸素状態 → VEGF(血管内皮増殖因子)の過剰産生 → 黄斑浮腫 の悪化と新生血管 形成(虹彩新生血管 ・網膜 新生血管 )が起こる9, 10) 。
全ての網膜 血管疾患の中で、RVO におけるAng-2(アンジオポエチン-2)レベルが最も高いことが報告されている。Ang-2はAng-1とTie2への結合で競合し、Ang-1/Tie2シグナルによる血管安定化を阻害する11) 。VEGF-AとAng-2の両方を標的とするファリシマブ の作用機序の根拠となっている。
この機序が抗VEGF療法 ・抗Ang-2療法の理論的根拠である。虚血型CRVOではVEGFの産生量が非虚血型に比べて著しく高く、虹彩 ・隅角 ・網膜 にわたる新生血管 形成が急速に進行する。VEGF阻害薬 は黄斑浮腫 の改善だけでなく、新生血管 の退縮にも効果を発揮するが、薬効が減弱すると再発するため継続的な投与が必要となる。
CRVOでは、静脈灌流障害に伴い末梢細動脈レベルでの循環障害が生じる。OCT Bスキャンで傍中心窩 の内顆粒層に帯状の高反射(PAMM 所見)として描出される。網膜 浅層のアンファス画像では目立たないが、深層のアンファス画像で白濁網膜 に一致した高反射部位が明瞭に認められる。
COVID-19関連 :サイトカインストームによる血管内皮障害・プロトロンビン状態・直接的な血管内皮細胞への感染が複合的に凝固亢進を招く3) 。
VITT(ワクチン後血栓症) :血小板第4因子(PF4)に対する自己抗体が形成され、血小板が活性化して血栓が形成される5) 。
PDE5阻害薬 :全身血圧低下下で網膜 静脈の怒張・血流速度低下を誘発し、静脈血栓リスクを高める2) 。
右心機能不全 :右心系の静脈ドレナージ障害が眼静脈圧を上昇させ、両側性CRVOの誘因となりうる1) 。
Q
なぜ「90日緑内障」と呼ばれるのですか?
A
虚血型CRVOでは、広範な網膜 虚血による大量のVEGF産生が虹彩新生血管 を誘発する。虚血型の45〜80%に虹彩ルベオーシス が生じ、この新生血管 が隅角 を閉塞して血管新生緑内障 を引き起こす。発症後2〜4ヶ月(約90日)以内に出現することが多いため「90日緑内障 」と呼ばれる9, 10) 。早期発見には定期的な隅角検査 が不可欠であり、PRP ・抗VEGF療法 が視力 予後を左右する。
COVID-19感染後の網膜静脈閉塞症 リスクについて報告が蓄積している。
RiaziEsfahani Hら(2024)は、COVID-19罹患歴のある若年患者における半側CRVO症例を報告した3) 。感染後数ヶ月を経てもRVO リスクが持続する可能性が示唆された。
ワクチン後RVO の20例レビューでは、7例が40歳未満の若年者であった6) 。ChAdOx1(AstraZeneca)接種後の血栓発症率は1.13/10万回とされ、VITT機序による凝固亢進が提唱されている5, 6) 。
Torkashvand Aら(2023)は、シルデナフィル服用後にCRVOと網膜 中心動脈閉塞の両方を合併した症例を報告した2) 。OCTA による血管密度の低下が記録され、PDE5阻害薬が網膜 循環に与える影響が注目されている。
広角撮影技術の進歩により周辺部の虚血範囲評価が精緻化されている9, 10) 。従来の標準FA では評価困難であった周辺部網膜 の無灌流域を広角FA で検出できるようになり、非虚血型から虚血型への移行リスク予測精度の向上が期待されている。OCTA では造影剤なしでFA Z面積の拡大や毛細血管密度の低下を定量的に評価でき、RVO 患者の経過観察における有用性が報告されている。ただし、現時点では撮影範囲の制約からFA を完全に代替するには至っていない9) 。
深層学習アルゴリズムを用いたカラー眼底写真 からのRVO 自動検出が研究されており、良好な識別能が報告されている10) 。今後、スクリーニングや遠隔医療への応用が期待される。
2021〜2024年にFDAはラニビズマブ バイオシミラー 2製品(ranibizumab-nuna [Byooviz]、ranibizumab-eqrn [Cimerli])およびアフリベルセプト バイオシミラー 4製品(aflibercept-jbvf [Yesafili]、aflibercept-yszy [Opuviz]、aflibercept-mrbb [Ahzantive]、aflibercept-ayyh [Pavblu])をRVO に伴う黄斑浮腫 の適応で承認した10) 。バイオシミラー の普及により治療アクセスの改善と医療コストの低減が期待されている。
ファリシマブ のCOMINO 試験では、24週以降(Part 2: 24-72週)において全患者がファリシマブ 6mg T&E投与(最大16週間隔)に切り替えられた。72週時点の持続性・長期安全性データが今後公表予定であり、RVO 治療における投与間隔延長の可能性を示す重要な結果が期待される11) 。
両側性CRVOを契機に右心機能不全が発見される症例が報告されており、心臓外科・循環器内科との診療科横断的な連携の重要性が示されている1) 。
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