前緑内障期〜開放隅角期
虹彩ルベオーシス:瞳孔縁に微細な新生血管の房が出現する。正常血管は虹彩実質内を放射状に走行するが、新生血管は虹彩表面に不規則で蛇行したパターンを示す
隅角新生血管:強膜突起を越えて線維柱帯上に至る樹枝状の細血管が認められる。眼圧は正常〜軽度上昇
線維血管膜:線維柱帯を覆うように増殖し続発開放隅角緑内障を呈する
新生血管緑内障(neovascular glaucoma: NVG)は、前房隅角における線維血管組織の増殖を特徴とする重症の続発緑内障である。網膜虚血を主な原因としてVEGF(血管内皮増殖因子)が増加し、虹彩および隅角に新生血管が形成される。線維血管組織の形成とその収縮により周辺虹彩前癒着(peripheral anterior synechiae: PAS)が生じ、隅角が不可逆的に閉塞するに至る。
20世紀前半から網膜虚血に伴う虹彩ルベオーシスが報告され、1960年代以降に「新生血管緑内障」の用語が定着した。それ以前には出血性緑内障・うっ血性緑内障・血栓性緑内障など多様な呼称が用いられていたが、現在ではNVGに統一されている。
原因疾患として増殖糖尿病網膜症(proliferative diabetic retinopathy: PDR)と網膜静脈閉塞症(retinal vein occlusion: RVO)が全症例の約2/3を占める。そのほかに網膜剥離、網膜動脈閉塞症、眼虚血症候群(ocular ischemic syndrome: OIS)などがある1)。大規模後方視的研究(129眼)では、原因疾患の内訳は増殖糖尿病網膜症 53%、網膜静脈閉塞症 29%、網膜剥離 7%、網膜動脈閉塞症 6%、眼虚血症候群 2%であった2)。
病態の核心はVEGFを介した前眼部新生血管の発生である。Wakabayashiらは虚血性網膜疾患に続発する虹彩新生血管および新生血管緑内障の41連続症例を対象にベバシズマブ硝子体内注射を施行し、投与後48時間以内にほぼ全例で虹彩新生血管の退縮を観察した12)。この速やかな新生血管退縮は、前眼部新生血管形成におけるVEGFの主要な役割を裏付けるものであった。

眼圧上昇が軽微な時期は無症状である。眼圧上昇に伴い霧視・虹輪視・眼痛を生じる。病態が急激に悪化した場合は、急性閉塞隅角緑内障発作と同様の激しい眼痛・頭痛・嘔気・嘔吐を伴うことがある。一方で、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症など原疾患による視力低下が先行している場合には、眼圧上昇の自覚が乏しくなる。高度に眼圧が上昇すると水疱性角膜症を来たし、異物感や眼痛を訴えて受診することもある。
本疾患の病期分類としてはShieldsによる4段階分類が広く用いられる。病期ごとの臨床所見は以下のとおりである。
前緑内障期〜開放隅角期
虹彩ルベオーシス:瞳孔縁に微細な新生血管の房が出現する。正常血管は虹彩実質内を放射状に走行するが、新生血管は虹彩表面に不規則で蛇行したパターンを示す
隅角新生血管:強膜突起を越えて線維柱帯上に至る樹枝状の細血管が認められる。眼圧は正常〜軽度上昇
線維血管膜:線維柱帯を覆うように増殖し続発開放隅角緑内障を呈する
閉塞隅角期〜絶対緑内障期
ぶどう膜外反:線維血管膜の収縮により虹彩後方の色素層が前表面に回り込む。虹彩表面が平滑化する
周辺虹彩前癒着の進行:虹彩が線維柱帯にテント状に引き上げられ、癒着性の隅角閉塞に至る。眼圧が著明に上昇する
絶対緑内障期:視機能回復は極めて困難。高眼圧に伴う眼痛が主症状となる
129眼を対象とした後方視的研究では、新生血管緑内障診断時に開放隅角25%、部分閉塞30%、完全閉塞45%であった2)。完全閉塞眼は視力がより不良(中央値20/4375)で、眼圧がより高値(中央値59 mmHg)であった2)。臨床所見のみでは隅角の状態を正確に予測できないため、隅角鏡検査が全例に不可欠である2)。
| 原因疾患 | 頻度 |
|---|---|
| 増殖糖尿病網膜症 | 53%2) |
| 網膜静脈閉塞症 | 29%2) |
| 網膜剥離 | 7%2) |
| 網膜動脈閉塞症 | 6%2) |
| 眼虚血症候群 | 2%2) |
網膜静脈閉塞症のうち虚血型CRVOは約3か月で虹彩ルベオーシスを生じやすく、しばしば「100日緑内障(90-day glaucoma)」と呼ばれる。増殖糖尿病網膜症では長期の網膜無灌流領域の蓄積がVEGF産生を促し、緩徐に前眼部新生血管が進行する傾向がある。眼虚血症候群では内頸動脈閉塞・狭窄が背景にあるため、頸動脈エコーおよび頭部MRA などによる補助診断を行う必要がある。
Temkarら(2023)は外傷性内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)に伴い網膜動静脈複合閉塞を呈しNVGを発症した30歳男性例を報告した4)。静脈うっ滞と動脈不全による重度の網膜虚血がNVG発症の機序であった。
Zakariaら(2023)は毛様網膜動脈温存型のCRAO患者が2週間以内にNVGを発症した症例を報告した3)。CRAOの18.2%で新生血管化が生じ、平均8.5週で発現するとされる3)。
Flineyら(2021)は脈絡膜悪性黒色腫がNVGとして初発した20歳男性例を報告した7)。腫瘍からのVEGFおよびFGFの産生がNVGの原因であった。脈絡膜黒色腫の約2%で眼圧上昇を認め、その大部分がNVGである7)。
増殖糖尿病網膜症がNVGの最大の原因疾患であり、全NVGの約53%を占める2)。ただし糖尿病があれば必ずNVGになるわけではなく、血糖コントロールと網膜光凝固による網膜虚血の管理が発症予防に重要である。無灌流領域が広範囲となる前の段階で汎網膜光凝固を施行することが、前眼部新生血管の発症を抑える鍵となる。
虹彩ルベオーシスの早期発見が診断の鍵である。散瞳薬を使用すると血管収縮作用で新生血管が見えにくくなるため、未散瞳状態での細隙灯顕微鏡検査と隅角鏡検査が重要である10)。瞳孔縁を高倍率で観察し、初期の虹彩ルベオーシスを見逃さないことが肝要である。
隅角鏡検査では、新生血管が強膜突起を越えて線維柱帯上に伸展する所見を確認する。全周にわたる周辺虹彩前癒着のために隅角に新生血管を直接認められないことがあるが、虹彩ルベオーシスを認めれば本症と考えて治療を進める。糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の経過観察中は、定期的に未散瞳での瞳孔縁観察を行い、微細な新生血管を検出する意識が求められる。
虹彩ルベオーシスを呈する疾患との鑑別が必要である。Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎では虹彩表面に異常血管が生じうるが、隅角閉塞を伴わないことが多く、線維血管膜の収縮によるぶどう膜外反は通常認めない。ICE症候群(虹彩角膜内皮症候群)は通常片眼性で、角膜内皮異常を伴い、虹彩実質の萎縮・虹彩孔形成・瞳孔偏位などの特徴所見を呈するため区別が可能である。炎症性続発緑内障との鑑別には、前房内細胞・角膜後面沈着物の有無が参考となる。
治療方針は網膜虚血の改善と眼圧コントロールの並行である10)。片方のみでは病勢の沈静化は得られず、病期に応じて両者を組み合わせる必要がある。
汎網膜光凝固術(PRP)
抗VEGF薬
開放隅角期:VEGF阻害薬の硝子体内注射により新生血管を消退させてからPRPを行う
速やかな退縮:Wakabayashiらの41連続症例ではIVB投与後48時間以内に虹彩新生血管が退縮した12)
術前投与:手術前に抗VEGF薬を併用することで術中・術後合併症を抑制できる10)14)(エビデンスレベル2B)
抗VEGF薬の硝子体内注射(intravitreal bevacizumab: IVB)は新生血管緑内障に対する薬物治療の中核を担う。ベバシズマブ硝子体内注射の無作為化比較試験では、NVGに対するIVB単独療法が対照群に比して眼圧下降と新生血管退縮を有意に促進したと報告されている13)。新生血管抑制期間は概ね3〜6週間であり、この期間内にPRPを完遂することが望ましい。なお本邦ではベバシズマブの硝子体内注射は保険適用外の使用となるため、各医療施設の倫理委員会での承認手続きを経ることが必須である。
原発開放隅角緑内障に準じた薬物治療を行う10)。房水産生抑制薬であるβ遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬が理論的に有効性が高い。プロスタグランジン関連薬や交感神経α2受容体刺激薬も併用される。炭酸脱水酵素阻害薬の内服は腎機能障害がないことを確認したうえで行う。高張浸透圧薬の点滴静注は一時的な眼圧下降を目的とするが、効果の持続は短く、腎機能低下例では急性腎不全のリスクがあるため注意を要する。アトロピン硫酸塩点眼および副腎皮質ステロイド点眼は消炎と疼痛軽減に有効な場合がある10)。
副交感神経受容体作動薬であるピロカルピン(縮瞳薬)は無効例が多く、血液房水関門の破壊による病態悪化を来す場合があるため推奨されない10)11)。
病期に応じた治療選択の目安は次のとおりである。
IVBが使用される以前は、線維柱帯切除術の術中・術後に大量の前房出血を伴うことが多く、濾過機能不全に陥ることも多かった。IVBを術前に行うことで周術期の前房出血は減少し、21 mmHg以下への眼圧コントロール率は約60%と報告されている。予後不良因子としては50歳未満と硝子体手術既往が挙げられる。とくに若年者で急速に周辺虹彩前癒着が進行する閉塞隅角期の症例では、術後成績は不良であることが多い。近年の低侵襲硝子体手術の普及により結膜瘢痕が少なくなり、線維柱帯切除術の成績向上にもつながっている。
網膜虚血により酸素供給が不足すると、網膜細胞からVEGF・IL-6などの血管新生因子が放出される。通常、VEGFレベルは抗血管新生因子である色素上皮由来因子(pigment epithelium-derived factor: PEDF)と均衡を保っている。このバランスがVEGF優位に傾くと、内皮細胞の活性化・増殖・遊走が促進され、前眼部の新生血管形成に至る。房水中のVEGF濃度は健常眼に比べNVG眼で数十倍以上に上昇することが知られており、前眼部新生血管の発生と直接的に関連している。
新生血管緑内障における新生血管は壁が薄く筋層を欠き、タイトジャンクションが欠如しているため透過性が亢進している。これらの新生血管には筋線維芽細胞の増殖からなる線維血管膜が伴う。線維血管膜は当初、線維柱帯を覆うように広がることで房水流出抵抗を上昇させ、続発開放隅角緑内障の形態を呈する。その後、膜の収縮により虹彩表面の平滑化・ぶどう膜外反・周辺虹彩前癒着の形成が進行し、最終的に隅角の不可逆的閉塞に至る1)。
初期には線維血管膜が線維柱帯を覆うことで続発開放隅角緑内障の形態をとる1)11)。その後、膜の収縮により周辺虹彩前癒着が形成され癒着性閉塞隅角緑内障に移行する。有水晶体眼では隅角閉塞がより進行しやすい傾向があり2)、この段階に至ると通常の濾過手術単独では長期的な眼圧コントロールが困難となる。基礎にある網膜虚血が継続している限り、血管新生と線維血管膜の収縮は進行し続けるため、PRPや抗VEGF療法による虚血病態の沈静化が治療の根本となる。
Wangら(2024)は129眼のNVGを対象に診断時の隅角状態の予測因子を検討した2)。完全閉塞眼は視力・眼圧ともにより重篤であったが、臨床的特徴のみで隅角状態を正確に予測することはできなかった。救急外来受診例では完全閉塞の頻度がより高く、PRPや硝子体手術の既往がある眼でも閉塞隅角が多い傾向があった2)。
Somanら(2022)はCOVID-19関連網膜症によるNVGの急速発症例を報告した5)。50歳男性がCOVID-19罹患3週間後に両眼の網膜血管病変を発症し、右眼は2週間以内にNVGに至った。血栓形成促進状態に伴う網膜血管障害が機序と考えられた。抗緑内障薬とPRPにより新生血管の完全消退と眼圧正常化が得られた5)。
ALKhameesら(2023)はPierson症候群(LAMB2変異)に伴い自然性前房出血・硝子体出血・新生血管緑内障を発症した11歳女児を報告した8)。網膜虚血に続発した虹彩・隅角新生血管が認められ、最終的に毛様体光凝固術を要したが眼球癆に至った8)。