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緑内障

高眼圧症(Ocular Hypertension)

高眼圧症(Ocular Hypertension: OHTN)は、標準的な検査で視神経損傷・網膜神経線維層欠損・視野欠損の証拠がなく、眼圧が継続的に21 mmHgを超える臨床状態である4)緑内障診療ガイドラインでは付記として、「眼圧が統計学的に定められた正常上限を超えていながら視神経・視野に異常を認めない例」と定義されている1)原発開放隅角緑内障POAG)への進行における最大の修正可能なリスク因子であり、眼科診療において重要な位置を占める。

高眼圧症は一つの均質な集団ではなく、原発開放隅角緑内障の前駆期にある症例と、視神経眼圧ストレスに対して抵抗性を有する症例の両者を含む概念と考えられている。また、角膜厚が正常より厚い例が多く、測定眼圧値が真の眼圧より高く評価されている症例も一部含まれる。

眼圧は集団においてほぼ正規分布し、成人の平均は約15〜16 mmHg(標準偏差約3.0 mmHg)である3)。伝統的に正常眼圧の上限は平均+2標準偏差、すなわち21 mmHgと定義されてきた3)。ただし、眼圧の閾値のみでは健常と疾患を区別する指標としては不十分であり、視神経構造と機能の評価が必須となる3)

高眼圧症治療研究(Ocular Hypertension Treatment Study: OHTS)では眼圧24〜32 mmHgの高眼圧症患者を長期追跡し、未治療群の5年間原発開放隅角緑内障移行率は9.5%、治療群は4.4%であった4)。約20年間の長期追跡では参加者の約45%が最終的に原発開放隅角緑内障を発症したが、移行は通常遅れて発生し、早期の軽症疾患を特徴とした。欧州緑内障予防研究(European Glaucoma Prevention Study: EGPS)ではドルゾラミド治療群13.4%と対照群14.1%の間に有意差はみられず、脱落率の高さや両群間の眼圧差が小さかったことが結果に影響したと考えられている1)2)

緑内障診療ガイドライン第5版は、高眼圧症を原発開放隅角緑内障の発症・進行に関わる危険因子の一つとして位置づけ、ベースライン眼圧が高いこと、経過中の平均眼圧が高いことは視野および視神経障害の進行と関連するとしている1)。一方で、眼圧が正常値上限をわずかに超えるだけで直ちに治療開始とする十分な理由はなく、危険因子の評価に基づく個別的な判断が求められる。

高眼圧症の有病率は集団により差があり、報告により大きく異なる。40歳以上の非ヒスパニック白人では約4.5%、ラテン系では約3.5%と報告されている4)。多治見スタディでは40歳以上における広義の原発開放隅角緑内障の有病率が3.9%(うち正常眼圧緑内障3.6%)と報告されているが、高眼圧症単独の有病率を独立して集計した報告は少ない1)正常眼圧緑内障が比較的多い集団では、高眼圧症の頻度は相対的に低くなる傾向がある。

Q 高眼圧症は緑内障ですか?
A

高眼圧症は緑内障ではない。視神経損傷や視野欠損がなく、眼圧のみが上昇した状態である4)。ただし、原発開放隅角緑内障への最大の修正可能なリスク因子であるため、定期的な経過観察が必要である。

高眼圧症の患者は無症状である。スクリーニングの眼圧測定で発見されることが多く、健診やコンタクトレンズ処方、白内障術前検査など、他疾患の診察中に偶発的に指摘されることが少なくない。眼圧が緩徐に上昇する慢性経過では視力低下や眼痛などの自覚症状を伴わず、患者自身が異常を認識することは困難である。急性原発閉塞隅角緑内障のような強い眼痛霧視・頭痛・嘔気は認めず、充血角膜浮腫も通常は見られない。このように無症状である特徴が、高眼圧症を含む開放隅角緑内障系統を「沈黙の疾患」と呼ばれる所以である。

  • 眼圧上昇:繰り返しの測定で再現性のある眼圧上昇(≥24 mmHg)を確認する。眼圧には日内変動があるため、異なる時間帯で測定する。必要に応じて24時間日内眼圧変動測定を検討する1)
  • 正常な視神経乳頭:リムの厚みが正常で、局所的なノッチングや乳頭出血を認めない
  • 正常な網膜神経線維層OCTRNFLの菲薄化や欠損を認めない
  • 正常な視野:自動静的量的視野検査(Humphrey 30-2/24-2等)で鼻側階段・弓状暗点・傍中心暗点を認めない
  • 開放隅角隅角検査で閉塞・癒着・隅角後退・異常色素沈着・偽落屑物質を認めない
  • 角膜所見角膜厚が正常より厚い例が多く、Goldmann圧平眼圧計による測定値が真の眼圧よりも高く評価されている可能性がある

OHTSでは視神経障害のみ(視野欠損を伴わない)が69眼で認められ、エンドポイントの55%を占めた4)。構造的変化は検出可能な視野欠損に先行することが多いため、視神経RNFLの詳細な評価が早期検出に不可欠である。

実臨床では、以下のような臨床所見パターンを慎重に追跡する必要がある。視神経乳頭のリム薄化、特に上下極(superior・inferior poles)のノッチング、ISNT規則からの逸脱、網膜神経線維層欠損、乳頭周囲萎縮の拡大、乳頭出血の出現などは、高眼圧症から原発開放隅角緑内障への移行を示唆する重要な早期所見である。OCTでは乳頭周囲RNFL厚、神経節細胞複合体厚、Bruch膜開口部基準のリム面積(BMO-MRW)などの定量評価が、経時的な構造変化の把握に有用である。

高眼圧症は房水流出に対する線維柱帯の抵抗増大が主因である。最大の流出抵抗部位はシュレム管内壁隣接組織(juxtacanalicular connective tissue)に局在する。マトリックスの合成と分解のバランスが崩れ、コラーゲン・フィブロネクチン・グリコサミノグリカンの過剰沈着が起こり、流出が阻害される。加齢に伴う線維柱帯細胞の構造変化もこれに加わる。

原発開放隅角緑内障移行の予測因子

Section titled “原発開放隅角緑内障移行の予測因子”

OHTSとEGPSの解析から以下の危険因子が同定されている1)4)

予測因子OHTSEGPS
高齢(10歳ごと)HR 1.22有意
眼圧(1 mmHgごと)HR 1.10有意
大きな垂直C/D比HR 1.32有意
薄いCCT(40 μmごと)HR 1.71有意

最も強力な予測因子は薄い中心角膜厚(CCT < 555 μm)、高い眼圧、大きな垂直C/D比である4)。OHTS集団での平均CCTは約570 μmであり、CCT 555 μm未満の群はCCT 588 μm以上の群に比べ原発開放隅角緑内障発症リスクが有意に高かった4)。中心角膜厚が555 μm未満かつ眼圧が25 mmHgを超える症例では、5年間の原発開放隅角緑内障移行危険率が約36%に達すると報告されている。CCTは真の眼圧推定と視神経の脆弱性の両方に影響を与える5)

角膜ヒステレシス(corneal hysteresis: CH)も重要な指標である。CHはOcular Response Analyzerなどで計測される角膜の粘弾性指標であり、CCTとは独立して緑内障進行リスクと関連することが複数の研究で示されている5)。低CHの症例では視野進行のリスクが高い傾向がある。なお、CCT値を用いた眼圧補正式は臨床的に検証されていないため、算定補正せずベースライン情報として用いるのが望ましい2)

高リスク群の特徴

中心角膜厚 < 555 μm:最も強力な予測因子の一つ4)

眼圧 > 26 mmHg:ベースライン眼圧が高いほど移行率が上昇する1)

大きなC/D比視神経乳頭出血の出現も原発開放隅角緑内障発症の危険因子1)

アフリカ系人種原発開放隅角緑内障発症リスクが高いことが知られている

低リスク群の特徴

厚いCCT角膜が厚い場合、真の眼圧は測定値より低い可能性がある

小さなC/D比:正常な視神経構造を反映する

若年:ただし長期追跡が必要である

低リスク群の予後:数十年にわたっても進行する可能性が非常に低く、安全に経過観察できる

高眼圧症の発症背景には、家族歴(緑内障の血縁者)、血管因子、加齢、人種、屈折異常(強度近視)、薄い角膜厚などが関与する。片眼がすでに緑内障を発症している場合、僚眼の移行リスクも高まる。糖尿病、全身血圧の変動、睡眠時無呼吸症候群、片頭痛などの全身因子も緑内障関連のリスクとして議論されており、これらの併存症の管理が二次的予防として意味を持つ可能性がある。ステロイド感受性(steroid responder)も高眼圧症とその後の緑内障発症のリスクと関連し、副腎皮質ステロイドの点眼・吸入・全身投与歴と用量は常に確認すべきである。

Q 高眼圧症は必ず治療が必要ですか?
A

必ずしも治療は必要ではない。管理はリスク層別化に基づいて個別化される1)。低リスクの場合は定期的な経過観察のみでよいが、高リスクの場合は眼圧下降治療を開始することで原発開放隅角緑内障移行リスクを約60%減少させることができる4)

高眼圧症の診断には以下の検査を行う4)

  • 眼圧測定:異なる時間帯での繰り返し測定で再現性を確認する。ゴールドマン圧平眼圧計(Goldmann applanation tonometer)が基準となる。非接触型眼圧計(NCT)は簡便だが低眼圧・高眼圧帯での誤差が大きく角膜厚の影響を受ける
  • 24時間日内眼圧変動測定:診察時以外の時間帯に高眼圧を示す例があり、必要に応じて測定する1)
  • 中心角膜厚(CCT)測定眼圧測定値の解釈とリスク評価に必要5)。超音波パキメトリや前眼部OCTで計測する。なおCCTから真の眼圧値への確立した換算式は存在しないため、参考情報として扱う
  • 隅角検査ゴニオスコピー:開放隅角であることを確認し、二次的原因(周辺虹彩前癒着隅角後退、色素沈着、偽落屑物質)を除外する
  • 散瞳下での視神経乳頭検査立体視観察および眼底写真撮影で垂直C/D比、リムの厚み、ノッチング、乳頭出血を評価する
  • OCT RNFL・GCC解析:ベースラインの構造評価。神経節細胞複合体解析も有用2)
  • 自動静的量的視野検査:信頼性の高い検査を2回行いベースラインとする

画像解析装置による緑内障診断能の感度・特異度は80%前後であり、最終判断には眼科専門医の総合的評価が必要である。OCTでは視野変化に先行して構造的変化を検出できることがあるが、異なる機種間での測定値の直接比較はできない1)2)

鑑別疾患鑑別のポイント
早期原発開放隅角緑内障視神経・視野に緑内障性変化あり
前視野緑内障(PPG)OCT等で構造異常ありだが視野異常を認めない1)
正常眼圧緑内障眼圧正常範囲で視神経・視野に緑内障性変化
上方分節状視神経乳頭低形成(SSOH)上方〜鼻側のRNFL欠損、陥凹と中心血管の上方偏位
ステロイド誘発性ステロイド使用歴を確認
色素散布症候群隅角に色素沈着・Krukenberg紡錘
偽落屑症候群瞳孔縁・水晶体前面に偽落屑物質
ぶどう膜炎継発性前房内炎症、角膜後面沈着物、虹彩後癒着
外傷性隅角後退外傷歴と隅角検査隅角後退所見

続発性高眼圧症の鑑別のため、病歴聴取(ステロイド点眼・吸入・内服歴、外傷歴、眼科手術・硝子体内注射歴、ぶどう膜炎既往、全身疾患)と詳細な前眼部・隅角検査が必須である。色素散布症候群では虹彩背面の光透過亢進、隅角の均等な色素沈着、角膜後面のKrukenberg紡錘形色素沈着を認める。偽落屑症候群では瞳孔縁と水晶体前面の白色落屑物質が特徴的である。これらの見逃しは、治療戦略と予後判断に影響を及ぼす。

Q 眼圧が高いだけで緑内障と診断されますか?
A

眼圧上昇のみでは原発開放隅角緑内障の診断としては不十分である。原発開放隅角緑内障の診断には再現性のある構造的(視神経RNFL)および/または機能的(視野)な緑内障性損傷が必要である4)。高眼圧症はあくまでリスク状態であり、定期的な経過観察によって移行の有無を判定する。

高眼圧症の管理は、基本的にはリスク評価のうえでの経過観察を原則とし、危険因子を有する症例に対してのみ眼圧下降治療を導入する方針が一般的である1)眼圧が正常値上限をわずかに超えるだけの症例では、治療開始の積極的根拠は乏しい。長期にわたる点眼治療はアドヒアランス、眼表面障害、医療費といった負担を伴うため、治療の必要性は個別のリスクとベネフィットに基づいて慎重に判断される。

OHTSとEGPSの結果に基づき、5年以内の原発開放隅角緑内障発症リスクを推定するリスク計算ツール(OHTS/EGPS risk calculator)が利用可能である。年齢、ベースライン眼圧、CCT、垂直C/D比、視野のpattern standard deviationを用いて5年リスクを算出し、治療開始の判断とフォローアップ頻度を決定する1)。一般には、高リスク群(5年リスク>15%程度)には早期治療、中リスク群(5〜15%)には慎重な経過観察または個別判断、低リスク群(<5%)には経過観察が選択される。

リスク層別化の実際では、単一の数値だけで判断せず、患者の年齢と余命、眼圧下降治療のアドヒアランス見通し、点眼に伴う副作用(眼表面障害、結膜充血、色素沈着、睫毛伸長、眼瞼溝深化、アレルギー反応)、併存疾患、経済的負担、社会的背景を総合的に考慮する。また、両眼の所見は独立して評価されるべきで、片眼のみ高リスクという判断が妥当な症例も少なくない。

  • 危険因子を有する例:3〜数か月ごとに眼圧測定視神経視野検査も短いスパンで繰り返す
  • 危険因子が乏しく安定した例:1〜2年おきに眼圧視神経視野検査を行う

構造的変化は視野欠損に先行することが多いため、OCT RNFLによる経過観察は特に有用である。

治療を開始する場合、眼圧下降目標は無治療時眼圧から20〜30%の下降を設定することが一般的である。OHTSの目標も「IOP < 24 mmHgかつ20%以上の下降」であり、同試験で治療群の原発開放隅角緑内障発症が約60%減少した4)

第一選択薬は原発開放隅角緑内障と同様の考え方で選択する。プロスタグランジン関連薬(PGA)が最も一般的な第一選択薬である。1日1回夜間投与で約25〜33%の眼圧下降が得られ、全身副作用が少なく、コンプライアンスも良好である。PGAが禁忌または不耐の場合はα2作動薬(ブリモニジン)、β遮断薬(チモロール、レボブノロール)、炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミドブリンゾラミド)、Rhoキナーゼ阻害薬(ネタルスジル)が選択肢となる。

防腐剤フリー(preservative-free: PF)製剤は、眼表面障害を軽減し、治療アドヒアランスの改善に寄与する。長期点眼では塩化ベンザルコニウム(BAK)含有製剤による角結膜上皮障害が問題となるため、高眼圧症のように長期管理を要する病態ではPF製剤の意義が大きい。PFタフルプロスト/チモロール配合剤は、最大療法からの減薬や単剤療法からのステップアップにおいて、眼表面疾患の改善と眼圧コントロールの両立を達成した10)。PFラタノプロストの36週間延長試験では長期安全性と忍容性が確認されている11)。BAKフリーラタノプロストはBAK含有ラタノプロストと同等の眼圧下降効果を維持しつつ、結膜充血の減少が報告された7)

選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)

Section titled “選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)”

SLTは高眼圧症に対する安全で効果的な治療選択肢である。Laser in Glaucoma and Ocular Hypertension(LiGHT)試験では、治療未経験の開放隅角緑内障および高眼圧症患者を初期SLT群と初期点眼群に無作為割付し、初期治療としてのSLTが6年間にわたり持続的な眼圧制御と点眼薬への依存軽減をもたらすことが示された。LiGHT 6年成績では、初期SLT群の多くが6年時点でも点眼薬不要であり、白内障手術や観血手術の頻度にも群間差がなく、アドヒアランス負担の軽減と費用対効果の面で優位性が示された。

SLTは波長532 nmのQスイッチNd:YAGレーザーを用い、線維柱帯色素細胞に選択的に作用する。熱的損傷を最小化しつつマクロファージ遊走や細胞外マトリックスのリモデリングを介して房水流出を改善する機序で眼圧下降を得る。副作用は一過性の前房炎症や眼圧上昇に限られ、効果減弱時には再施行も可能である。線維柱帯組織を熱凝固で瘢痕化させる旧来のアルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)と異なり、再施行性にも優れる。

続発性高眼圧症は、副腎皮質ステロイド使用、落屑物質、色素散布、ぶどう膜炎、外傷、眼内手術後、血管新生緑内障前段階、上強膜静脈圧亢進などを原因として眼圧上昇のみを呈し、緑内障視神経症を伴わない状態を指す。原因疾患の治療・除去が第一であり、原因が除去できない場合は原発開放隅角緑内障に準じた薬物療法・レーザー治療・手術を選択する。ステロイド点眼・ステロイド内服・硝子体ステロイド投与を行う場合は、投与開始前と投与中の定期的な眼圧モニタリングが不可欠である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

房水毛様体無色素上皮細胞で産生され、後房から瞳孔を経て前房に流れ、隅角から眼外へ排出される。眼圧房水産生量と房水流出量、そして上強膜静脈圧のバランスで決まる。高眼圧症の大部分は房水流出量の低下に起因し、房水産生亢進が主因となることは稀である。

房水は主に線維柱帯流出路(conventional pathway)とぶどう膜強膜流出路(uveoscleral pathway)を介して排出される。線維柱帯流出路では、房水線維柱帯を通りシュレム管へ流入し、集合管・上強膜静脈叢を経て全身循環に戻る。高眼圧症はこの流出経路の抵抗増大によって生じる。ぶどう膜強膜流出路は加齢とともに寄与率が低下するため、高齢者では線維柱帯流出路への依存度が高まる傾向がある。

シュレム管内壁隣接組織の変化

Section titled “シュレム管内壁隣接組織の変化”

最大の流出抵抗はシュレム管内壁隣接組織(juxtacanalicular connective tissue: JCT)とシュレム管内壁細胞層に局在する。マトリックスの合成と分解のバランスが進行性のマトリックス蓄積に傾くと、この領域が肥厚する。コラーゲン・フィブロネクチン・グリコサミノグリカンの過剰な沈着が房水流出を阻害する。加齢や酸化ストレス、TGF-β2シグナル亢進などが関与する可能性が指摘されている。

線維柱帯細胞の生体力学的変化

Section titled “線維柱帯細胞の生体力学的変化”

線維柱帯内皮細胞はアクチンストレスファイバーの増加により硬化し、より収縮性の高い形態をとることがある。細胞が収縮するとチャネルが狭まり、房水流出を収容する能力が低下する。Rho-ROCKシグナル経路の活性化が線維柱帯細胞の硬化と収縮に関与することが示されており、Rhoキナーゼ阻害薬はこの経路に介入する治療薬として開発された。これらの加齢に伴う構造的・細胞的変化が、開放隅角眼における慢性的な眼圧上昇を招く。

角膜の中心厚(CCT)と角膜ヒステレシス(CH)は、Goldmann圧平眼圧計による測定値と真の眼圧との差、および視神経脆弱性の両方に影響する5)。厚い角膜は測定値を真値より高く、薄い角膜は低く算出させる傾向がある。加えて、低いCHはCCT補正後も緑内障進行の独立した危険因子として作用する。この背景には、角膜篩状板における結合組織の類似した力学的特性が示唆されている。

デキサメタゾンインプラント誘発性高眼圧症の管理

Section titled “デキサメタゾンインプラント誘発性高眼圧症の管理”

Xiao & Qiu(2025)は、硝子体内デキサメタゾンインプラント(Ozurdex)後の高眼圧症171例を後方視的に検討した8)。OHTは注射後2〜3か月で最も高頻度に発症し、23.3%で認められた。点眼薬(10.0%)、SLT(1.2%)、MIGS(4.1%)で管理され、線維柱帯切除術チューブシャント手術を要した症例はなかった8)。60歳以上で発症リスクが上昇し(OR 6.65)、網膜静脈閉塞症例ではDME例に比べ発症リスクが低かった(OR 0.07)8)

免疫チェックポイント阻害薬関連高眼圧症

Section titled “免疫チェックポイント阻害薬関連高眼圧症”

Canestraroら(2021)は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中に推定トラベクリティスにより眼圧上昇を来した2例を報告した9)。軽度の前房内炎症にもかかわらず眼圧は52 mmHgおよび33 mmHgに上昇した。ICI中止・局所ステロイド・抗緑内障薬の投与で7〜10日以内に消炎・眼圧正常化を達成した9)。1例ではICI再投与(低用量)後もトラベクリティスの再発は認められなかった9)

シリコーンオイル充填眼の二次性高眼圧症

Section titled “シリコーンオイル充填眼の二次性高眼圧症”

Prathapanら(2023)は、硝子体切除術+シリコーンオイル注入後の46眼を前向きに検討した6)。術後90日のOHT発生率は21.7%であった。50歳未満(OR 147.1)、偽水晶体眼(OR 12.3)、手術時間40分以下(OR 23.8)が早期OHTの独立リスク因子、既存の緑内障(OR 7.3)が晩期OHTの唯一の独立リスク因子であった6)

COVID-19関連両側急性虹彩脱色素症と高眼圧症

Section titled “COVID-19関連両側急性虹彩脱色素症と高眼圧症”

Gaurら(2022)は、COVID-19感染後に両側急性虹彩脱色素症(BADI)と高眼圧症(眼圧48/44 mmHg)を発症した43歳男性例を報告した12)。抗緑内障薬とステロイド点眼で10日後に眼圧正常化、2か月後に視力20/20に回復した12)。BADIはウイルス感染や特定の抗菌薬との関連が指摘されている希少な疾患であり、眼科医が認識すべきOHTの鑑別疾患の一つである12)

リスクカリキュレータと機械学習の応用

Section titled “リスクカリキュレータと機械学習の応用”

OHTSとEGPSの統合解析から、年齢、眼圧、CCT、垂直C/D比、視野pattern standard deviationを用いた5年発症予測モデルが開発され、臨床判断の補助として広く用いられている5)。近年は、OCT由来の構造指標や眼底画像、遺伝情報を組み合わせた機械学習モデルによる予測精度向上の試みが進んでおり、個別化された経過観察と治療開始判断への応用が期待される。AIによる眼底写真解析は、視神経緑内障性変化の早期検出や進行予測に有望な結果を示し始めている。

眼圧下降が唯一確立された治療であるが、眼圧下降にもかかわらず進行する症例が一定数存在する。ビタミンB3(ニコチンアミド)、シチコリン、Rhoキナーゼ阻害薬、クエン酸シルデナフィル、神経栄養因子などによる神経保護的介入が基礎・臨床研究で検討されている。現時点では高眼圧症に対する神経保護治療のエビデンスは確立しておらず、眼圧管理が引き続き中心的治療である。

Q ステロイド点眼で眼圧が上がることはありますか?
A

ある。ステロイド誘発性高眼圧症は知られた副作用であり、線維柱帯の生化学的・構造的変化により房水流出抵抗が増大して起こる。デキサメタゾンインプラント後にも23.3%で高眼圧症が報告されている8)ステロイド使用中は定期的な眼圧モニタリングが重要である。

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