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ノンコンタクトトノメータ(Non-Contact Tonometry)

1. ノンコンタクトトノメータ(非接触型眼圧検査)とは

Section titled “1. ノンコンタクトトノメータ(非接触型眼圧検査)とは”

非接触型眼圧計(NCT:Non-Contact Tonometer,ノンコンタクトトノメータ)は,眼球に直接触れることなく眼圧を測定できる眼圧計である。空気噴射により角膜を圧平し,その際の時間または圧力から眼圧値を算出する。

以下の特徴から,日本の眼科外来・健診・人間ドックで最も普及したスクリーニング眼圧計となっている。

  • 前処置不要:点眼麻酔が不要である
  • 簡便な手技:医師以外のコメディカルスタッフでも実施可能
  • 感染リスク低減:眼球に直接触れないため被検者間の相互感染リスクが低い

正常眼圧の範囲は 10〜21 mmHg とされる1)。日本人の平均眼圧は約 14〜15 mmHg である。眼圧房水産生と流出抵抗のバランスにより決定される。

一方,Goldmann 圧平眼圧計(GAT)が眼圧測定の金標準(gold standard)であり,NCT の測定精度は GAT より劣る1)。正確な眼圧測定を要する症例では GAT を選択する。

Q 非接触眼圧計で眼圧が高いと言われたらどうすればよいか?
A

NCT はスクリーニングを目的とした眼圧計であり,GAT より精度が劣る。特に高眼圧域では低めに測定される傾向がある。NCT で 22 mmHg 以上を示した場合は,GAT による再検査が必要となる。再検査で高眼圧が確認された場合は,緑内障精密検査(視野検査OCT)が行われる。

NCT の測定値は以下の基準で解釈する。

眼圧値(mmHg)評価対応
10〜21正常範囲経過観察
22〜24眼圧疑い繰り返し測定→GAT 再検
≥ 25眼圧GAT 再検・精密検査
≤ 9低眼圧疑い再測定・精査

高眼圧症とは,眼圧が統計学的正常上限(21 mmHg)を超えるが,視神経・視野に異常を認めない状態をいう1)

NCT は眼圧域によって測定傾向が異なる。

  • 正常眼圧域(10〜21 mmHg)GAT とある程度相関する
  • 眼圧域(≥ 22 mmHg)GAT より低めに測定される傾向がある
  • 低眼圧域(≤ 9 mmHg)GAT より高めに測定される傾向がある

測定誤差が 3 mmHg を超える場合は再測定が必要である。固視不良・開瞼不良も誤差の原因となる。

NCT の理論的根拠は Imbert-Fick(インベルト-フィック)原理である。無限に薄く壁硬度のない球体を平面で圧平した場合,圧平力 W・圧平面積 A・球体内圧 Pt の間に W = A × Pt の関係が成立する。

GAT はこの原理を直径 3.06 mm の圧平プリズムで実現したものである。NCT は同原理を空気噴射によって実現している。

NCT の測定プロセスは以下のとおりである。

  • 光源から角膜に向けて平行光を照射する
  • 徐々に強度を増す空気を噴射し,角膜を圧平する
  • 角膜が圧平されると受光部への反射光が増加する
  • 反射光が最大になった時点の噴射時間または空気圧から眼圧値を算出する

測定時間は 1〜3 ms(ミリ秒)と非常に短い。そのため,脈波(心拍による眼圧の周期的変動)の影響を受けやすい特性がある。

中心角膜厚(CCT:Central Corneal Thickness)は多くの眼圧計の精度に影響を与えるパラメータである2)

  • 薄い角膜(< 520 μm)眼圧過小評価される
  • 厚い角膜(> 520 μm)眼圧過大評価される
  • CCT 10 μm あたりの影響:約 0.2 mmHg の変化が生じる

基準となる CCT は約 520 μm 前後である。ただし,角膜浮腫による厚さ増加は例外であり,浮腫があると角膜が柔軟になるため過小評価となる点に注意が必要である。

薄い CCT は高眼圧症から緑内障への移行リスク上昇と関連する2)。一方,一般に受け入れられた CCT 補正公式は確立されておらず,個々の測定値に補正係数を適用することは推奨されていない2)

角膜を圧平する眼圧計はすべて角膜の生体力学的特性の影響を受ける2)。NCT のようにエアパフで角膜を速く圧平する機器では,この影響がより大きい2)

Q 角膜が薄いと眼圧は本当より高く出るか?
A

逆である。角膜が薄いと眼圧は本当の値より**低く(過小評価)測定される。厚い角膜では本当の値より高く(過大評価)**測定される。これは GAT だけでなく NCT でも同様に生じる。CCT に対する補正公式は確立されていないため,個別に補正値を加減することは推奨されていない。CCT が大きく正常値から外れる症例では,より精度の高い眼圧計の使用を考慮する。

トップコン製ノンコンタクトトノメータ(CT-1P)の外観
トップコン製ノンコンタクトトノメータ(CT-1P)の外観
Jochempluim, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0. File:Topcon Non-contact Tonometer.jpg. License: CC BY-SA 4.0.
眼科で使用されるトップコン製ノンコンタクトトノメータ(CT-1P)の外観。点眼麻酔不要で眼圧測定が可能な空気噴射方式の自動眼圧計であり、アライメント用ジョイスティックと顎台アームを備える。本文「4. 検査方法と手順」の項で扱うノンコンタクトトノメータ本体に対応する。

適切な測定値を得るには被検者・検者の両面での準備が必要である。

準備

リラックス:力が入ると眼圧が高く測定される。測定前に被検者を十分にリラックスさせる。

瞬目防止:被検者に瞬目しないよう指示する。

開瞼補助:眼瞼・睫毛が光路を妨げないよう,眼球を圧迫しないよう注意しながら開瞼を補助する。

測定

アライメント:ジョイスティックを操作し,モニター上で角膜の位置を合わせる。

噴射:スイッチを押して圧縮空気を噴射する。自動測定機種では適切な位置に合わせると自動的に噴射される。

繰り返し測定:少なくとも 3 回繰り返し測定し,測定誤差が 3 mmHg 以内であることを確認する。

値の採用:測定結果の平均値または中央値を採用する。

  • 角膜表面の状態角膜上皮障害や角膜浮腫では測定精度が低下する
  • 固視不良例:安定した固視が得られない場合は誤差が生じやすい
  • 開瞼不良例:睫毛や眼瞼が光路に入ると測定不能になる
  • 近年の機能:中心角膜厚を同時に測定し眼圧値を補正する機能を持つ機種が開発されている

NCT で 22 mmHg 以上の高眼圧を認めた場合は,繰り返し測定で確認した後,GAT による再検査を行う1)GAT で高眼圧が確認された場合は,緑内障精密検査(視野検査OCT による視神経網膜神経線維層の評価)を実施する1)

正常眼圧緑内障が疑われる場合

Section titled “正常眼圧緑内障が疑われる場合”

NCT が正常範囲内でも緑内障性変化(視野異常・視神経乳頭陥凹拡大など)を認める場合は正常眼圧緑内障を疑う。眼圧の日内変動・夜間変動を評価するために,複数時刻での眼圧測定や自宅 iCare HOME による 24 時間眼圧測定を考慮する1)

角膜混濁・角膜浮腫・開瞼困難の症例では NCT での正確な測定が困難なため,GAT または反跳式眼圧計(iCare)への切り替えを考慮する。

NCT は健診・人間ドックでの眼圧スクリーニングに適している。接触不要・麻酔不要・短時間での測定が可能であるため,多数の受診者に効率よく実施できる。

同一患者の経過観察では同一の眼圧計を使用することが望ましい2)。異なる機種間での測定値は直接比較できない。

眼圧測定値は様々な因子によって変動する。以下に主要な影響因子をまとめる。

因子影響の方向備考
薄い角膜(CCT < 520 μm)過小評価CCT 10 μm あたり 約 0.2 mmHg の変動2)
厚い角膜(CCT > 520 μm)過大評価同上
角膜浮腫過小評価厚さ増加にもかかわらず過小評価
角膜上皮障害測定精度低下表面散乱により反射光パターンが乱れる
屈折矯正手術後(LASIK/PRK)過小評価切除量 10 μm あたり 0.3〜0.4 mmHg 低く測定2)
仰臥位過大評価座位より 3〜5 mmHg 高値となる
冬季過大評価季節変動が生じる1)
運動後・飲酒過小評価傾向眼圧低下をきたす
力み・ヴァルサルバ手技過大評価リラックスが重要

角膜生体力学(角膜ヒステリシス)

Section titled “角膜生体力学(角膜ヒステリシス)”

角膜ヒステリシス(Corneal Hysteresis:CH)は角膜の粘弾性の指標である。Ocular Response Analyzer(ORA)で測定でき,緑内障リスクの独立した予測因子として報告されている2)。NCT は角膜を速く圧平するためこの影響を受けやすい2)

LASIK・PRK などの屈折矯正手術後は,角膜が菲薄化・平坦化することで眼圧が実際より低く測定される2)角膜切除量 10 μm あたり 0.3〜0.4 mmHg 低く測定されると報告されている2)。術後の緑内障評価には慎重な視野・OCT モニタリングが必要である。

健常者でも眼圧は 1 日で 4〜5 mmHg 変動する。緑内障患者ではさらに大きく変動する場合がある。一般に早朝に高く,午後から夜間にかけて低下する傾向があるが,個人差が大きい。

角膜生体力学を考慮した新型眼圧計

Section titled “角膜生体力学を考慮した新型眼圧計”

従来の NCT は中心角膜厚や角膜曲率の影響を受けやすいという制限があった。これに対し,角膜の粘弾性特性を考慮した眼圧計が開発されている。

  • ORA(Ocular Response Analyzer):空気噴射後の 2 つの圧平点の圧力差から角膜ヒステリシスを計測し,補正眼圧(Corneal-compensated IOPIOPcc)を算出する
  • Corvis ST:高速シュリンプ眼圧計(Scheimpflug 撮影)で角膜変形を動画解析し,眼圧角膜生体力学特性を同時評価する

これらは CCT の影響を軽減した眼圧値を提供するとされるが,GAT との対応関係についてはさらなる検討が続いている。

中心角膜厚同時測定機能の普及

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近年の NCT 機種には,空気噴射と同時に CCT を測定し,CCT の影響を補正した眼圧値を表示する機能を持つものが増加している。補正アルゴリズムは機種によって異なるため,測定機種の特性を把握したうえで使用することが重要である。

  1. 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
  2. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2021.
  3. Moseley MJ. Non-contact tonometry. Ophthalmic Physiol Opt. 1995;15 Suppl 2:S35-7. PMID: 8532342.

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