この検査の要点
眼圧 は房水 産生と流出抵抗のバランスにより決定され、Goldmann方程式 Po = (F/C) + Pv で表される
Goldmann圧平眼圧計 (GAT )は現在の基準測定法であり、直径3.06 mmの角膜 領域を圧平する力から眼圧 を算出する1)
圧平眼圧測定値は中心角膜 厚(CCT)の影響を受け、薄い角膜 では過小評価、厚い角膜 では過大評価される1)
眼圧 上昇は緑内障 における唯一の証明された修正可能なリスク要因である2)
目標眼圧 は患者ごとに個別に設定され、疾患の進行度やリスク要因に基づいて定期的に見直す必要がある1)
眼圧 (IOP )は、眼内で産生される房水 の量と排泄抵抗のバランスにより決定される。Goldmann方程式 Po = (F/C) + Pv (Po:眼圧 〔mmHg〕、F:房水 産生率、C:流出率、Pv:上強膜 静脈圧)で表現される。
眼圧 上昇と緑内障 による視力 喪失の関連は17世紀から指摘されてきた。19世紀にはWilliam Bowmanが閉じた眼瞼越しの触診により眼の硬さを推定する方法を開発した。その後、客観的な眼圧測定機器が開発され、人口の約2%のみが21 mmHgを超える眼圧 を示すことが判明した。この結果から「21 mmHg超は異常」という考えが生まれたが、後の研究で修正された。
高眼圧症 治療研究(OHTS)では、高眼圧症 患者1,636名を対象に眼圧 下降治療の効果が検討された5) 。治療群では平均22.5%の眼圧 下降が達成された5) 。5年間の追跡で、無治療群の9.5%が緑内障 を発症したのに対し、治療群では4.4%であった。眼圧 下降により緑内障 への進行リスクは減少したが、高眼圧症 患者の大部分は5年以内に損傷を発症しなかった。
複数の人口ベース研究により、眼圧 レベルの上昇に伴い原発開放隅角緑内障 (POAG )の有病率が増加することが示されている3) 。Baltimore Eye Surveyでは、眼圧 30 mmHgにおいて白人の約7%、アフリカ系アメリカ人の約25%が原発開放隅角緑内障 を有していた3) 。眼圧 上昇は緑内障 における唯一の証明された修正可能なリスク要因であり、近視 と角膜 ヒステリシスも高いエビデンスレベルのリスク要因として同定されている2) 。
Q
眼圧が正常でも緑内障になることがあるのか?
A
ある。人口ベースの研究により、眼圧 が統計学的に正常な範囲(21 mmHg以下)であっても緑内障 性視神経症 が生じうることが示されている。これは正常眼圧緑内障 (NTG )と呼ばれる。眼圧 と視神経 障害の感受性には大きな個人差があり、一部の患者では低い眼圧 レベルでも視神経 が損傷を受ける。ランダム化比較試験により、ベースライン眼圧 が正常域でも眼圧 下降が緑内障 の進行を遅らせることが示されており、眼圧 下降は全てのタイプの緑内障 に対する有効な治療戦略である。
圧平眼圧測定はImbert-Fickの法則に基づく。この法則は、理想的な薄壁球体の内圧は表面を圧平する力を圧平面積で割った値に等しいとするものである(P = F/A)。
GAT は最も頻用される眼圧 計であり、現在の基準測定法である1) 5) 。直径3.06 mmの角膜 領域を圧平するのに必要な力を測定する。この直径では角膜 の剛性(抵抗力)と涙液層の表面張力(毛細管引力)が相殺される。Goldmannの設計時、表面張力と角膜 剛性を相殺する条件として平均角膜 厚520 μmが想定された。
圧平面積15.09 mm²(直径3.06 mm)では圧平時の眼内容積変化が非常に小さく、眼球硬性の影響が最小限となり、涙液による表面張力と眼球硬性がほぼ均衡するため、Imbert-Fickの法則を適用できる。
過大評価の原因 過小評価の原因 厚い角膜 薄い角膜 涙液過多 涙液不足 強い倒乱視 強い直乱視
測定手順 :表面麻酔薬(0.4%オキシブプロカイン)を点眼し、フルオレセイン で眼表面を染色する。細隙灯顕微鏡にブルーフィルタを挿入し、スリット幅を全開にして60°の角度から入光する。圧平プリズムの分割像の2つの半円の内縁がちょうど接する時点で眼圧 を読み取る。眼圧 (mmHg)は圧平力(g)×10で算出される。
GAT の精度に影響を与える要因として、涙液中のフルオレセイン 量の過不足、強い乱視 、角膜 不整・瘢痕、測定中の眼瞼圧迫、バルサルバ操作がある1) 。感染症予防のため、化学消毒または使い捨てプリズムヘッドの使用が推奨される1) 。精度は月1回程度の加圧検定器による点検が必要である。
GAT の携帯型であり、カウンターバランスが内蔵されているため体位に関係なく眼圧測定が可能である1) 。測定原理はGAT と同一であるが、眼圧 計の固定が不十分になりやすく、測定には熟練を要する。仰臥位の患者や手術室での使用に有用である。
徐々に強度を増す空気柱を圧平力として利用する。角膜 が圧平された瞬間の力を記録しmmHgに変換する。局所麻酔が不要であり、コメディカルスタッフでも測定可能である。
非接触眼圧 計の精度はGAT より劣る。角膜上皮 障害や角膜浮腫 では正確な測定ができない。測定時間が1〜3ミリ秒と短く、心拍による脈波の影響を受けやすいため、少なくとも3回以上の測定を行い平均値を眼圧 値とする。正常眼圧 域ではある程度正確だが、高眼圧 域では低めに、低眼圧 域では高めに測定される傾向がある。異常値を認めた場合はGAT による再検が必要である。
新しいタイプの非接触眼圧 計である。圧平点を記録した後も空気柱を放出し続け、角膜 が陥凹後に再び圧平点に戻る際の2つの圧平点の圧力差を測定する。この差は角膜 ヒステリシス(粘弾性の指標)を反映する。角膜 の高いまたは低い弾性に対して「補正」された眼圧 は、他の圧平眼圧 計より中心角膜 厚への依存度が低いとされる。
Q
Goldmann圧平眼圧計で測定する際のフルオレセインの量はなぜ重要か?
A
フルオレセイン の量は涙液メニスカスの太さに直接影響し、眼圧 の読み取り値を変える。過剰なフルオレセイン は蛍光リングを太くし、2つの半円の内縁が接する位置を変えて眼圧 を過大評価させる。逆に不足すると蛍光リングが細くなり過小評価となる。適切な染色幅は半円直径の約1/10程度を目安とする。
圧入眼圧測定
Schiotz眼圧 計 :仰臥位の角膜 上に湾曲したフットプレートを置き、重りのあるプランジャーの沈み込み量から眼圧 を換算する。沈み込み量は眼圧 に反比例する。
ニューモトノメーター :空気の流れに乗るピストン先端の凸状シリコンチップで角膜 を圧入する。角膜 とチップが平らになった時点の圧力が眼圧 に等しい。正常眼圧 域ではGAT と良好な相関を示す。
Tono-Pen :圧平と圧入の両原理を用いる携帯型デバイスである。MacKay-Marg理論に基づき、角膜 接触時のストレインゲージの電位変化から眼圧 を算出する。座位保持が困難な患者や小児の眼圧測定に有用である。
リバウンド・動的輪郭眼圧計
iCareリバウンド眼圧 計 :直径1.8 mmのプラスチックボールを電磁場で角膜 に発射し、衝突後の減速度から眼圧 を算出する。麻酔不要で、GAT およびTono-Penと良好な一致を示す。中心角膜 厚の影響を受け、角膜 ヒステリシスや角膜 抵抗因子の影響も報告されている。
Pascal動的輪郭眼圧 計(DCT) :圧電センサで眼圧 の動的な拍動性変動を測定する。GAT と異なり、中心角膜 厚や角膜 曲率・剛性の影響を受けにくいとされる。眼拍動振幅の測定も可能である。使い捨てカバーを使用し、測定の質を示すQ値がデジタル表示される。
中心角膜 厚は多くの眼圧 計の精度に影響を与えるパラメータである1) 。薄い角膜 では眼圧 が過小評価され、厚い角膜 では過大評価される1) 3) 。中心角膜 厚 10 μmあたりの眼圧 値の変化量は約0.2 mmHgとされる。ただし、角膜浮腫 による厚さ増加は例外であり、過小評価される点に注意が必要である。
薄い中心角膜 厚は高眼圧症 から緑内障 への移行リスクの上昇、および緑内障 進行リスクの上昇と関連する1) 4) 。しかし、一般に受け入れられた補正公式は存在せず、World Glaucoma AssociationのIOP コンセンサスでは個々の患者の測定値に補正係数を適用すべきでないとしている3) 4) 。角膜 ヒステリシスは原発開放隅角緑内障 リスクと関連する追加的な独立した情報を提供する3) 4) 。
角膜 を圧平するすべての眼圧 計は角膜 の生体力学的特性の影響を受ける1) 5) 。厚さ・曲率といった幾何学的因子に加え、硬さ・粘弾性といった材料特性が関与する1) 。エアパフ眼圧 計やリバウンド眼圧 計のように角膜 を速く圧平する眼圧 計ではこの影響がより大きい1) 。
角膜 の物理特性(易変形性)は、中心角膜 厚や角膜 曲率半径の違いよりも眼圧測定精度に大きな影響を及ぼす。ORAやCorvis STはこうした角膜 の物理特性を考慮して開発された眼圧 計である。
RK・PRK・LASIK 術後は実際の眼圧 より低く測定される。RKでは角膜 曲率の平坦化、PRK・LASIK では角膜 中央部の菲薄化が主な原因である。LASIK では角膜 切除量10 μmあたり0.3〜0.4 mmHg低く測定される。近視 矯正のための角膜 レーザー手術を受けた患者では、眼圧測定値がIOP を大幅に過小評価する可能性があり、慎重な視野・OCT モニタリングが必要である1) 。
眼圧 上昇因子眼圧 下降因子仰臥位・腹臥位 運動後 冬季 夏季・飲酒 カフェイン・喫煙 全身麻酔
仰臥位では座位より3〜5 mmHg高値となり、緑内障 患者で特に大きい。体位による変動は上強膜 静脈圧の変化に起因する。夜間睡眠中の体位を含めた日内変動測定が重視されつつある。
すべての眼圧 計において、検者間・検者内の測定値のばらつきが存在する1) 5) 。同一患者の経過観察では同一の眼圧 計を使用すべきである1) 5) 。
注意点
非接触眼圧 計で異常値を認めた場合は、必ずGoldmann圧平眼圧計 で再検してください
屈折 矯正手術後の患者では眼圧 が実際より低く測定されるため、見かけ上「正常」でも緑内障 が進行する可能性があります
中心角膜 厚による眼圧 補正公式は確立されておらず、個々の患者に適用すべきではないとされています
目標眼圧 は、患者の生活の質(QoL)を維持するために視野悪化の進行を十分に遅延させるIOP の上限値として設定される1) 5) 。すべての患者に適切な単一の目標眼圧 レベルは存在せず、各患者の各眼ごとに個別に設定する必要がある1) 5) 。
目標眼圧の設定基準
初期緑内障 :18〜20 mmHg、ベースラインから20%以上の下降が目安である5) 。
中期緑内障 :15〜17 mmHg、ベースラインから30%以上の下降が求められる5) 。
進行期緑内障 :より低い目標眼圧 が必要となる。
再評価 :目標眼圧 は各経過観察時に見直すべきであり、進行が確認された場合やその他の眼・全身疾患が発症した場合にはさらなる調整を行う1) 5) 。
目標眼圧に影響する因子
年齢 :若年者ほど余命が長く低い目標が必要だが、高齢者は進行が速いリスク要因である1) 。
無治療時眼圧 :無治療時の眼圧 が低いほど、より低い目標IOP が求められる場合がある1) 。
進行速度 :進行が速いほど目標IOP を低く設定すべきである1) 。
その他 :偽落屑、中心角膜 厚、対側眼の状態、家族歴、治療介入の有害事象、患者の希望を総合的に考慮する1) 。
初期の視野障害が大きいほど、緑内障 による失明の最も重要な予測因子となる1) 。新規診断時は進行速度が不明であるため、リスク要因に基づいて目標IOP を設定し、通常2〜3年の十分な経過観察後に進行速度を用いて目標IOP を再調整する1) 。
Q
目標眼圧に到達しているが緑内障が進行している場合はどうするか?
A
目標眼圧 に到達しても緑内障 が進行する場合は、目標眼圧 をさらに低く再設定し、治療を変更する必要がある。患者と相談のうえ、追加介入のリスクと利益を比較検討する。逆に、目標眼圧 に到達していないが緑内障 が安定している場合は、目標値を上方修正できる可能性がある。目標眼圧 は固定的なものではなく、経過に応じて動的に再評価される概念である。
眼圧 は動的なパラメータであり、健常者でも4〜5 mmHg変動し、緑内障 患者ではさらに大きく変動する。診察室での測定を超えた眼圧 モニタリング技術の開発が進んでいる。
初期の動物実験では、圧力トランスデューサの外科的植え込みや水晶体嚢 への眼内センサー植え込みが調査されたが、手術に伴うリスクが主な欠点であった。一時的な眼圧 モニタリングとして、24時間にわたる眼球寸法の変化を測定するソフトコンタクトレンズセンサー(CLS)が開発されている。in vitroの研究で真の眼圧 と良好な相関が示され、欧州で臨床使用が承認されている。しかし、膨大なデータの解釈の困難さと、出力信号をmmHgに直接変換できないことが主な限界である。
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