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緑内障

原発開放隅角緑内障

原発開放隅角緑内障(POAG)は慢性・進行性・不可逆性の視神経疾患である1)視神経乳頭縁と網膜神経線維層RNFL)の消失に伴い視野欠損を生じる1)3)前房隅角は開放しており、正常な外見を呈する3)。一般に両側性であるが左右差を認めることが多い3)。主要なリスク因子は眼圧上昇と加齢である1)。早期診断と治療により視機能障害は多くの場合予防可能である1)3)

緑内障診療ガイドライン第5版では、原発開放隅角緑内障(広義)を「従来の眼圧が正常範囲よりも高い原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障NTG)を包括した疾患概念」として整理している9)。臨床の場では便宜的に高眼圧群(狭義 POAG)と正常眼圧群(NTG)に区分する9)

多治見研究の結果、日本人の正常眼圧を平均値±2標準偏差で定義すると正常上限は19.9〜20.0mmHg となり、日常診療で 20mmHg を境界に両者を区分することに合理性があるとされる9)11)。欧州緑内障学会(EGS)ガイドラインでは両者を POAG/HTG(高眼圧緑内障)と POAG/NTG と表記する1)2)。いずれも連続した疾患群であり、治療方針は基本的に同一である。

2020年時点で世界のPOAG患者は約5,300万人と推定される3)。40〜80歳の有病率は3.0%とされ、欧州では40歳以上人口の2.99%(1,230万人)が緑内障を有し、その半数以上(56.4%)が未診断と推定されている2)3)。人種・民族間で有病率に大きな差があり、アフリカ系アメリカ人では白人の約3倍の有病率を示して不可逆的失明の主要原因となる3)。アフリカ系カリブ海集団ではさらに高い有病率が報告されている3)。ヒスパニック系の有病率はアフリカ系と同等の水準にあり、アジア系アメリカ人の有病率も白人より高いとする報告がある3)

疫学調査対象POAG(広義)NTGPOAG(狭義)PACG
多治見スタディ11)岐阜県40歳以上3.9%3.6%0.3%0.6%
久米島スタディ12)沖縄県40歳以上4.0%0.7%2.2%

多治見スタディでは40歳以上の緑内障有病率は合計5.0%であり、そのほとんどが開放隅角型であった11)。久米島スタディでは地域差がみられ、閉塞隅角緑内障の頻度が多治見スタディより高かった12)POAG(広義)の約9割はNTGに相当し、緑内障全体の約7割が正常眼圧型である。Baltimore Eye Surveyでは眼圧30 mmHg時点でPOAGを有していた割合は白人約7%、アフリカ系アメリカ人25%であり、特定の眼圧カットオフ値をスクリーニングに用いることの限界が示されている3)

Q 原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障の違いは何ですか?
A

両者は同じ原発開放隅角緑内障(広義)に属する連続した疾患群である。緑内障診療ガイドライン第5版では、眼圧20 mmHg を境界として、これを超える群を狭義POAG、常に正常範囲内にとどまる群をNTGと区分する。欧州緑内障学会ではPOAG/HTGとPOAG/NTGと表記する。眼圧には日内変動・季節変動があり、両者の鑑別には反復測定や日内変動測定が必要である。NTGでは乳頭出血がより高頻度にみられ、傍中心暗点が多いとされる。治療方針は同一であり、エビデンスに基づく治療は眼圧下降のみである。多治見スタディではPOAG(広義)3.9%のうち3.6%がNTGであり、日本は世界でも正常眼圧緑内障の有病率が最も高い国の一つである。

緑内障性視神経症を示す左右非対称の視神経乳頭眼底写真
Seo JH, Kim TW, Weinreb RN. Relationship of intraocular pressure and frequency of spontaneous retinal venous pulsation in primary open-angle glaucoma. Ophthalmology. 2012. Figure 1. PMCID: PMC3890055. License: CC BY.
(a)右眼・(b)左眼の眼底写真で、左眼の視神経乳頭には増大した陥凹(C/D比約0.6)と神経網膜リムの菲薄化が認められる。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う左右差を伴う緑内障視神経症に対応する。

原発開放隅角緑内障患者の大部分は初期に無症状である。視野欠損は認識されにくく、自覚症状で初期症例を発見することは困難である。多くの症例は健診・人間ドック、あるいは眼鏡・コンタクトレンズ処方などの別件で眼科を受診した際に、高眼圧視神経乳頭陥凹を指摘されて発見される。

進行に伴って「部分的にかすむ」「物を認識できない領域がある」といった自覚症状が出現する。より進行した例では視界の白っぽさ、夜盲まぶしさ、転倒や物にぶつかるなどの生活上の支障が生じる。ロービジョン外来を受診した緑内障患者のニーズでは、読書・歩行・書字の困難、羞明が多く挙げられている。

視神経乳頭所見

C/D比の増大:陥凹の垂直方向への拡大が特徴的である3)

両眼間の左右差C/D比の0.2を超える左右差は有意とされる3)

神経網膜縁の菲薄化・ノッチング:上極・下極に好発する。ISNT則の破綻が診断の手がかりとなる3)

網膜神経線維層欠損(NFLD):楔状の神経線維層欠損が視野障害に先行して認められる

乳頭出血(DH):進行のバイオマーカーとして重要である3)7)。カップ型(近位型)DHは乳頭周囲型(遠位型)より進行リスクが高いと報告されている7)

β乳頭周囲萎縮・ラミナドットサイン緑内障性変化に伴い出現する

視野所見

弓状暗点:最も特徴的な緑内障視野欠損である3)

鼻側階段:水平経線を境界とする局所的欠損として出現する

中心暗点NTGでは比較的高頻度に認められる

全般的感度低下:びまん性の感度低下を伴うことがある

緑内障半視野テスト異常:上下半視野の非対称性を検出する

中心10度内視野障害OCTの普及により早期段階での黄斑部障害が認識され、10度内視野測定の重要性が再認識されている

臨床的に最も特徴的なのは視神経乳頭所見で、立体観察による正確な判定が必要である。視神経障害が検出された領域に対応して、視野検査で欠損が検出される。視野所見には弓状暗点、鼻側階段、傍中心暗点、全般的感度低下といった特徴的パターンがある3)

乳頭出血の病態については血管説と機械説が提唱されている7)。血管説では一酸化窒素シグナリングの障害による自己調節能の低下と、高剪断応力下での視神経動脈の破綻が示唆されている7)。出血のデンシトメトリー解析では動脈由来を支持する所見が報告されている7)。乳頭出血による局所的な網膜神経線維の圧迫が構造的・機能的障害を引き起こす可能性がある7)

原発開放隅角緑内障の確立されたリスク因子は以下の通りである3)4)9)

リスク因子概要
眼圧上昇唯一の修正可能因子3)
加齢最も強い非修正因子3)
人種・民族アフリカ系・ヒスパニック系3)
家族歴OR 3〜133)
薄い中心角膜OHTS独立因子3)4)
低眼灌流圧拡張期血圧低下3)
2型糖尿病40〜100%高リスク3)4)
近視議論あり3)9)
落屑症候群進行リスク高い9)
乳頭出血進行因子3)7)

眼圧POAG発症における最も重要なリスク因子である1)3)。疫学調査で眼圧上昇に伴いPOAG有病率が増加することが示されている3)。臨床試験では眼圧下降がPOAG発症リスクおよび進行を減少させることが証明されており、Early Manifest Glaucoma Trial(EMGT)では25%の眼圧下降により進行の相対リスクが50%低減した2)3)。一方で眼圧に対する視神経の感受性には大きな個体差があり、NTGの存在が示すように正常範囲内の眼圧でも視神経障害が生じうる3)

2型糖尿病はPOAGのリスクを40〜100%増加させると報告されている3)4)視神経における微小血管変化が感受性増大に寄与する可能性がある3)。全身性動脈性高血圧を有する患者では開放隅角緑内障発症リスクが17%増加し、糖尿病を合併すると48%増加するとの報告がある3)。降圧薬治療中の患者では低拡張期灌流圧が緑内障リスク増大と関連する3)片頭痛、睡眠時無呼吸、末梢血管攣縮(Raynaud症候群)、心血管疾患も関連因子として報告されているが、一貫した結果は得られていない2)3)

家族歴は強力な危険因子であり、遺伝子多型を含む多くの遺伝子座が特定されている。Mendelian 変異としてはMYOC(ミオシリン)変異がPOAGの2〜4%を占め最も頻度が高く、次いでOPTN(オプチニューリン)が知られている2)。EGS第6版はPOAG全例に対するgenotypingを推奨していないが、若年発症家族に対しては遺伝子検査の検討を推奨している2)

Q 薄い角膜はなぜ緑内障のリスク因子なのですか?
A

OHTSで薄い中心角膜厚(CCT)がPOAG発症の独立したリスク因子であることが示された3)4)。薄い角膜では眼圧が実際より低く測定される傾向があり、眼圧の過小評価がリスクの一因となる。また薄いCCTは篩状板強膜など視神経周囲の支持構造の剛性低下を反映し、眼圧に対する脆弱性を示唆するとの理論もある。CCT 555 μm未満で眼圧25 mmHg超の群では5年間の緑内障移行危険率が36%に達するとされる。

原発開放隅角緑内障の診断には、眼圧評価・視神経乳頭障害の確認・開放隅角の確認・視野欠損の評価が必要である3)9)。狭義POAGでは、①高眼圧、②視神経乳頭緑内障性変化、③乳頭所見に一致した視野障害、④他の眼圧上昇要因の除外、の4要素により確定診断される。

Goldmann圧平眼圧計GAT)がゴールドスタンダードであり、精密な眼圧測定を要する症例に対して選択される3)。Imbert-Fickの法則に基づき圧平面積15.09 mm²(直径3.06 mm)で測定する機構で、中心角膜厚520 μmのときに最も正確な値が得られる。中心角膜厚(CCT)の測定を併せて行い、薄角膜では過小評価、厚角膜では過大評価される点に注意する3)

補助的に非接触型眼圧計、反跳式眼圧計(iCare)、Tono-Pen が使用される。iCareはGoldmann圧平眼圧計とよく相関し、瞼裂狭小例や乳幼児にも使用しやすい。iCare HOME2は患者自身が自宅で自己測定できる機種であり、診療時間外の眼圧変動を把握するうえで有用である。眼圧の日内変動・季節変動を把握するためにフェイジング(日内変動測定)を行うことがある。

開放隅角の確認と続発緑内障の除外に不可欠である3)。色素散布や落屑物質、新生血管周辺虹彩前癒着の有無を確認する3)。初診時に必ず施行すべきである。

視神経乳頭の立体的な臨床評価がゴールドスタンダードである3)光干渉断層計OCT)によるRNFL厚・神経節細胞層の定量評価が客観的補助手段として広く用いられる3)9)OCTの普及により、POAGでも早期段階から多くの症例が黄斑部障害を伴うことが明らかとなり、より早期から10度内の視野測定を行う必要性が再認識されている。進行モニタリングには眼底写真とOCTによる経時的変化の評価が有用であるが、進行した緑内障眼ではOCTによる菲薄化の検出に限界(floor effect)が生じるため、視野検査による進行判定が主体となる9)OCT angiography(OCTA)は floor effect の影響を受けにくく、進行期の評価に有利な可能性があるが、実臨床での標準化された活用方法は確立されていない9)

ハンフリー視野計による自動静的閾値視野検査がゴールドスタンダードである3)。SITA(Swedish Interactive Threshold Algorithm)により検査時間が短縮されている。緑内障半視野テスト(GHT)は上下半視野の非対称性を検出する。早期の視野障害検出にはFrequency Doubling Technology(FDT)やSITA-SWAP(Blue-on-Yellow perimetry)も用いられる。進行判定にはイベント解析とトレンド解析が併用され、トレンド解析は進行速度の定量評価に有用である9)

鑑別すべき疾患には高眼圧症NTG原発閉塞隅角緑内障色素緑内障落屑緑内障ステロイド緑内障発達緑内障ぶどう膜炎続発緑内障プラトー虹彩症候群、burned-outした原発開放隅角緑内障、自然寛解したステロイド緑内障Posner-Schlossman症候群の寛解期がある3)。神経眼科疾患(腫瘍性頭蓋内疾患による視神経症、上方分節状視神経乳頭低形成 SSOHなど)も鑑別の対象であり、画像診断による除外が必要な場合がある。YAGレーザー硝子体融解術後の続発開放隅角緑内障も鑑別に挙げられ、線維柱帯へのタンパク粒子蓄積による慢性的な眼圧上昇を来した症例が報告されており、術後の眼圧モニタリングが重要である8)

Q 緑内障疑いの場合はどうすればよいですか?
A

緑内障疑い(glaucoma suspect)は持続的な眼圧上昇、緑内障が疑われる視神経乳頭RNFL・視野所見のいずれかを有する状態と定義される4)。OHTSでは未治療OHT患者の90%以上が5年間でPOAGに進行しなかった4)。治療開始の判断はリスク因子の数と程度、または視神経・視野変化の進行所見に基づく4)。定期的な検査(6〜12カ月ごと)で構造的・機能的変化をモニタリングし、進行が認められた場合に治療を開始する。視神経緑内障性異常を認めながら通常の静的視野検査で異常を認めない状態は前視野緑内障(preperimetric glaucoma)と呼ばれ、危険因子を有する場合には治療を考慮することがある9)

原発開放隅角緑内障の治療目標は、①目標眼圧へのコントロール、②視神経および網膜の維持、③視野の維持である9)眼圧下降が唯一のエビデンスに基づく治療である1)3)9)

目標眼圧は、緑内障病期・無治療時眼圧・余命・年齢・視野障害の進行・家族歴・他眼の状況・危険因子を勘案して症例ごとに設定する9)。病期に応じた目標眼圧の例として、初期例19 mmHg以下、中期例16 mmHg以下、後期例14 mmHg以下が提唱されている9)。加えて、各種RCT(EMGT、OHTS、CIGTS、AGIS等)のエビデンスをもとに、無治療時眼圧から20〜30%の眼圧下降率を目標として設定することが推奨されている9)

後期例では進行した場合にQOLに及ぼす影響が大きいため目標眼圧はより低く設定され、余命が長いと想定される場合にはより積極的な進行減速を目指す9)。目標眼圧は絶対的な値ではなく、経過観察に際して進行状況に応じて適宜修正される9)。中期以降で十分な進行緩徐化を得るにはlow teen〜sub teenを目標とすることが多く、この水準の眼圧下降には手術的治療を要することが少なくない。

点眼薬による治療

プロスタノイドFP受容体作動薬:第一選択薬として最も広く用いられる。ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ビマトプロストがある。ぶどう膜強膜流出促進により約25〜35%の眼圧下降効果を示し、1日1回点眼9)

EP2受容体作動薬(オミデネパグ・イソプロピル):新規作用機序を持ち2018年に承認された第一選択候補薬。ラタノプロストに非劣性とされる。眼内レンズ挿入眼には禁忌で、FP受容体作動薬との併用も推奨されない9)

β遮断薬房水産生を抑制する。チモロール、カルテオロール、ベタキソロール等がある。全身性副作用(徐脈・気管支痙攣)に注意が必要である9)

炭酸脱水酵素阻害薬房水産生を抑制する。ドルゾラミドブリンゾラミドの点眼薬、およびアセタゾラミド内服薬がある9)

α2作動薬(ブリモニジン)房水産生抑制とぶどう膜強膜流出促進の両作用を有する9)

Rhoキナーゼ阻害薬(リパスジル)線維柱帯路流出を直接促進する新しい薬剤クラスで、日本で世界初承認された。結膜充血が主要副作用である9)

レーザー・手術治療

SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術:532 nm Qスイッチ半波長YAGレーザーを用い、スポットサイズ400 μm、0.4〜1.2 mJ、3ナノ秒で線維柱帯1/2〜全周に照射する9)。LiGHT Trial で点眼薬と同等以上の長期効果が示され、EGS第6版・AAO PPP・英国NICEで一次治療に推奨されている1)2)10)

線維柱帯切除術(MMC併用トラベクレクトミー:最も確立された緑内障濾過手術である。POAG広義を含む大部分の病型に対して最も一般的な観血的手術で、日本人における5年後の晩期感染症発症率は2.2%と報告されている9)

チューブシャント手術:Baerveldt緑内障インプラント(BG101-350、BG102-350、BG103-250)、Ahmed緑内障バルブ(FP7、FP8)、エクスプレス®マイクロチューブシャントなどが使用される6)9)

MIGS低侵襲緑内障手術iStentiStent inject、Hydrus、Kahook Dual Blade、GATT、Trabectome、Xen、PreserFlo、OMNI など多彩なデバイスが用いられ、線維柱帯流出路の再建を標的とする6)13)14)

毛様体光凝固術:連続発振経強膜的ダイオードレーザー(2,000 mW、2秒)と経強膜的マイクロパルス波(2,000 mW、80秒×2)がある。難治例での選択肢となる9)

治療方針: 単剤投与から開始し、可能な限り2剤までの併用にとどめることが基本である9)。薬剤選択では目標眼圧・副作用・点眼回数・使用感を勘案する。導入時には片眼トライアル(片眼投与による効果判定)を行うことが望ましい9)。多剤併用時には配合点眼薬がアドヒアランス維持に有用であり、日本では2成分含有の配合点眼薬が複数承認されている9)。単剤で効果不十分の場合は薬剤変更または多剤併用(配合点眼薬を含む)を行い、それでも目標眼圧未達あるいは視野進行がみられる場合はレーザー治療・観血的手術を検討する9)

高齢者など全身副作用が危惧される症例ではβ遮断薬を避け、プロスタノイド関連薬に続いて炭酸脱水酵素阻害薬・α2作動薬・Rhoキナーゼ阻害薬を選択する。アドヒアランス不良は進行の重要な要因であり、日本では初回緑内障点眼薬処方患者の約40%が治療開始約1年で治療から脱落するとの報告もある9)。文書による説明交付や来院管理・リマインド通知など継続的長期管理への配慮が推奨される9)

臨床試験対象所見
OHTSOHT患者眼圧下降でPOAG発症抑制3)4)
EMGT新規POAG眼圧1 mmHg低下で進行10%減、25%下降で進行リスク50%低減2)3)
AGIS進行POAG低眼圧維持で視野保存3)
LiGHT TrialOAG/OHT 新規一次治療SLTが点眼薬より長期IOPコントロール優位10)
HORIZONPOAG + 白内障Hydrus併用で術後5年までIOPと点眼本数が低下13)
iStent PivotalPOAG + 白内障白内障単独手術より術後2年IOP・点眼本数低下14)

EMGTの長期追跡データでは、未治療時の自然進行速度が病型により大きく異なることが示された。高眼圧型(HTG)1.31 dB/年、正常眼圧型(NTG)0.36 dB/年、落屑緑内障(PXFG)3.13 dB/年であり、落屑緑内障が最も急速に進行する3)

LiGHT Trial 6年成績では、SLT一次治療群の69.8%が追加治療を要さずに目標眼圧を維持し、進行率は19.6% vs 26.8%(点眼群、P=0.006)と有意に低かった10)線維柱帯切除術の施行数はSLT群13眼に対して点眼群32眼(P<0.001)、白内障手術施行数はSLT群57眼に対して点眼群95眼(P=0.03)とSLT群で有意に少なく、重篤なレーザー関連有害事象は認められなかった10)。これらの結果を受けて、欧州緑内障学会、米国眼科学会、英国NICEはSLTをOAG/OHTの一次治療の選択肢として推奨している1)2)3)10)

Scottish Glaucoma Trialでは線維柱帯切除術が58%の眼圧下降を達成し、薬物療法(42%)より視野進行が少なかった3)。Moorfields Primary Treatment Trialでは線維柱帯切除術が最大の眼圧下降効果(60%)を示した3)

MIGS後に眼圧コントロールが不十分な場合の対応は臨床上の課題である6)。複数の専門家によるパネルディスカッションでは、僚眼でMIGS不成功であった進行POAG症例に対し、線維柱帯切除術チューブシャント・上脈絡膜シャントなどの選択肢が議論されている6)シュレム管手術の不成功はシュレム管以降の流出路の制限を示唆し、線維柱帯切除術の限定的な効果は創傷治癒反応の旺盛さを示唆する6)。個々の症例の特性に応じた個別化された手術戦略が重要である6)

Q 手術の種類はどのように選択しますか?
A

手術選択は病期・眼圧レベル・前回手術歴・患者の年齢と余命・創傷治癒の傾向などを総合的に考慮して決定する6)。軽度〜中等度ではMIGS線維柱帯流出促進)を検討する6)13)14)。進行例や目標眼圧が低い場合は線維柱帯切除術チューブシャントが適応となる6)9)。Primary Tube Versus Trabeculectomy Study(PTVT)では、高い術前眼圧の症例でBaerveldt 350の成功率がより高かった6)。僚眼の手術結果から学び、次の介入を調整することが推奨される6)。一次治療としてのSLTは点眼薬と同等以上の長期成績が示されており、LiGHT Trialでは6年時点で約70%が追加治療なしに目標眼圧を維持した10)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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原発開放隅角緑内障の最終的な共通経路は視神経乳頭における網膜神経節細胞RGC)の消失である5)RGCの死が主要な病理学的過程であり、構造的・機能的にその喪失の型と速度が定義されている5)。障害のメカニズムは眼圧依存的因子と眼圧非依存的因子に大別される。

POAGにおける眼圧上昇は、隅角線維柱帯における機能的な房水流出障害によって生じると考えられている。病理学的には線維柱帯ビームや内皮網への細胞外マトリックスの沈着、線維柱帯間隙の狭小化、シュレム管の閉塞などが認められる。RGC軸索の一次的な障害は視神経乳頭(ONH)で生じ、順行性・逆行性の軸索輸送が遮断される5)。ONHにおける篩状板(LC)の物理的再構成が上極・下極のRGC軸索の選択的消失を説明する5)

POAGは病理学的に診断される疾患ではなく、臨床的症候群の一つである。家族歴がしばしばみられ、遺伝は発症にかかわる重要な因子である。MYOC、OPTN を含む多くの遺伝子座が同定されているが、単一遺伝子変異で説明できる症例は少数であり、多因子遺伝的背景が想定される2)

血管調節障害は重要な眼圧非依存的因子である7)。原発開放隅角緑内障では一酸化窒素シグナリングの障害により自己調節能が低下し、視神経の動脈が高剪断応力下で破綻しやすくなる7)。乳頭出血は血管調節障害のバイオマーカーであり、出血による局所的なRGC軸索の圧迫が構造的・機能的障害を引き起こす可能性がある7)

prelaminar wedge defects(PLWDs)と呼ばれる篩前層の楔形欠損がPOAGで健常眼より高頻度に認められ、乳頭出血の既往と有意に関連する7)。PLWDsは眼圧に依存しない因子(血管機能障害など)による視神経の脆弱性を反映するとされている7)

その他の非眼圧因子には、興奮毒性障害(過剰なグルタミン酸)、自己免疫介在性の神経障害、神経栄養因子の喪失、網膜脈絡膜血管の自己調節能異常がある。脳脊髄圧の低下は視神経乳頭における経篩状板圧較差を増大させる可能性があり、特に正常眼圧でも視神経障害を引き起こしうる因子として注目されている。NTGで冷え症・片頭痛などの末梢循環障害や心血管系疾患の合併が多いことも、循環障害因子の関与を示唆する所見である。

LiGHT Trial 6年成績の報告により、SLTの一次治療としての位置付けが確立した10)SLT一次治療群では点眼薬一次治療群と比較して疾患進行率が有意に低く、約70%の眼が追加治療なしに目標眼圧を維持し、必要となった線維柱帯切除術白内障手術の数も有意に少なかった10)。EGS第6版、AAO PPP、英国NICEガイドラインはSLTを点眼薬と並ぶ一次治療の選択肢として推奨している1)2)3)

難治性POAGに対する手術戦略の進化

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MIGS不成功後の進行POAG管理は活発に議論されている6)。上脈絡膜シャント(MINIjectなど)はシュレム管以降の流出路障壁を回避し、ブレブ関連合併症を排除できる可能性がある6)。Paul glaucoma implant(PGI)は従来のチューブシャントより予測可能な術後早期眼圧と小さなチューブ径による角膜内皮保護が期待されている6)。複数のMIGS手技の併用や、線維柱帯流出・ぶどう膜強膜流出・上脈絡膜流出を標的とする異なる機序の組み合わせも検討されている6)。HORIZON studyではHydrus Microstent併用白内障手術が5年時点でのIOPと点眼本数を有意に低下させることが示されている13)

乳頭出血の発生部位(近位型 vs 遠位型)と進行リスクの関連が報告されている7)。カップ型(近位型)DHは乳頭周囲型(遠位型)より進行リスクが高く、篩状板レベルでのRGC軸索への圧迫性視神経症の関与が示唆されている7)。デンシトメトリー研究では乳頭出血が動脈由来であることを支持する所見が得られている7)

  • 各種MIGS手技の長期比較データの蓄積6)13)14)
  • 脈絡膜シャントの大規模RCTによる有効性・安全性検証6)
  • 乳頭出血の再発を最小化する治療法の開発7)
  • 眼圧非依存的因子を標的とした神経保護治療の開発
  • 遺伝的リスクプロファイリングに基づく個別化医療の実現
  • 自宅眼圧測定(iCare HOME2等)による日内・長期変動モニタリングの活用
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