この疾患の要点
Peters異常 は角膜内皮 ・Descemet膜・角膜実質 の一部が欠損し、角膜 中央部に円板状の混濁をきたす先天異常である。
約80%が両眼性であり、胎齢6〜7週の神経堤細胞遊走異常が根本原因とされる。
50〜70%の症例に緑内障 を合併し、視力 予後に大きな影響を与える。
緑内障 の治療は原発先天緑内障 (PCG)に準じ、手術が第一選択である3) 。
良好な術後眼圧 が得られるのは約1/3の手術例にとどまり、難治性の経過をたどることが多い5) 。
角膜 混濁は眼圧 が正常であれば自然に軽減する傾向があり、幼児期の角膜移植 は慎重に判断される。
1/3の症例に全身異常(中枢神経系異常・口蓋裂・心奇形など)を伴うため、全身検索が不可欠である。
Peters異常 (Peters anomaly )は、角膜内皮 ・Descemet膜・角膜実質 の一部が欠損し、角膜 中央部に円板状の混濁をきたす先天異常である。約80%が両眼性で、胎齢6〜7週以降の神経堤細胞遊走異常に起因する。角膜 虹彩 間癒着や角膜 水晶体 癒着をしばしば伴い、緑内障 を50〜70%に合併する。
1906年にドイツの眼科医Petersが初めて報告した1) 。浅前房 ・虹彩 角膜 癒着・角膜 中央白斑・Descemet膜欠損を呈する小児例の記述がその原典である1) 。
Peters異常 は以下の3型に分類される。
1型 :角膜 後面の欠損および角膜 混濁のみ。虹彩 ・水晶体 の構造異常を伴わない。混濁の密度は症例により異なるが、通常は片眼性で、周辺角膜 は透明に保たれる。視力 予後が比較的良好であり、全身異常の合併は少ない。
2型 :角膜 後面欠損に加えて虹彩 角膜 癒着を合併する。虹彩 から角膜 後面に向かう索状癒着が特徴的で、隅角 形成異常を伴うことが多い。緑内障 合併のリスクが1型より高い。
3型 :水晶体 の混濁・前方偏位・角膜 後面への癒着を伴う。最も重篤な型であり、水晶体 前極白内障 や小水晶体 症(microphakia)を合併する。全身異常の合併率が高く、視力 予後は最も不良である。
別の分類法としてI型(水晶体 異常なし)とII型(白内障 ・水晶体 位置異常を伴う)の二分法もある。I型は上記1型に、II型は2型+3型の重症群にほぼ対応する。先天角膜 混濁の約40〜65%をPeters異常 が占めるとされ、先天角膜 混濁の中で最も頻度が高い疾患である2) 。
前眼部形成不全全体のスペクトラムの中で、Peters異常 は角膜内皮 形成(神経堤細胞の第1波遊走)の異常として位置づけられ、Axenfeld-Rieger異常(隅角 ・虹彩 形成の異常)や後部胎生環(Schwalbe線の前方偏位)とは異常が生じる発生段階が異なる。
発生率 :出生10万人あたり約1.5人と推定される1) 。先天角膜 混濁の40.3〜65%をPeters異常 が占める2) 。
両眼性 :約80%の症例が両眼に発症する。両側性症例は片眼性と比べ全身奇形の合併率が高い(71.8% vs 36.8%)2) 。
遺伝様式 :ほとんどが孤発性である。まれに常染色体優性遺伝 や常染色体劣性遺伝 の症例が報告されている。
緑内障 合併 :50〜70%が6歳までに緑内障 を発症する。隅角 における虹彩 根部の高位付着による房水 流出障害がその機序と考えられている。緑内障 はPeters異常 の最も重要な合併症であり、視力 予後を大きく左右する。2型・3型では緑内障 の合併率が1型より高く、より難治性の経過をたどる傾向がある。
発症時期 :生後6か月までに診断を受けるものが60%、1歳までに診断を受けるものが80%とされている。早期発見と早期介入が視力 予後の改善に不可欠である。
緑内障 診療ガイドライン(第5版)では、Peters異常 に伴う緑内障 は続発小児緑内障 のうち「先天眼形成異常に関連した緑内障 」に分類される3) 。診断基準は、全身所見との関連が明らかではない眼形成異常が出生時から存在し、かつ小児緑内障 の診断基準を満たすことである3) 。
Q
Peters異常に緑内障が合併する頻度はどの程度ですか?
A
50〜70%の症例に緑内障 が合併する。特にII型(3型)で合併率が高い。緑内障 は隅角 における虹彩 根部の高位付着による房水 流出障害で発症し、6歳までに早発型として出現することが多い。定期的な眼圧測定 と視神経 評価が不可欠であり、治療の詳細は「標準的な治療法」の項 を参照されたい。
Peters異常 は生後早期に発症するため、患者自身が症状を訴えることはできない。以下の徴候を保護者が気づいて受診するケースが多い。
角膜 の白い混濁 :生下時から角膜 中央部が白く混濁している。最も典型的な主訴である。
羞明 (まぶしさ ) :眼圧 上昇による角膜上皮 浮腫に伴う刺激で、光を嫌がる。
流涙 :持続的な涙が認められる。
眼瞼けいれん :まぶたが繰り返し痙攣する。
角膜 中央部混濁 :生下時より明らかな円板状の混濁を呈する。混濁の密度と範囲は症例により多様である。周辺角膜 は通常透明に保たれる。
角膜 後面欠損 :Descemet膜と角膜内皮 の欠損が混濁部に一致して存在する。
虹彩 角膜 癒着 :2型以上で認められる。虹彩 から角膜 後面に向けての索状癒着が特徴的である。
水晶体 異常 :3型では水晶体 が前方に偏位し角膜 後面に接触する。白内障 を伴うこともある。
角膜 混濁の自然経過 :軽症例では眼圧 が正常であれば次第に軽減することが多い。重症例は角膜 全体が前方に突出する前部ぶどう腫 を呈する。
合併する眼異常 :Axenfeld-Rieger異常、無虹彩症 、胎生血管系遺残(旧名称:第1次硝子体 過形成遺残)を合併することがある。
眼圧 上昇 :明らかな高眼圧 を認めることが多いが、年齢が低いほど眼圧 上昇が角膜 径の増大で代償されるため、眼圧 が20 mmHg以下であっても眼球拡大傾向があれば緑内障 を疑う必要がある。新生児〜乳児の催眠下眼圧測定 では15 mmHgを正常上限として評価する。
角膜 径増大(牛眼) :3〜4歳以前に発症し角膜 径の拡大を伴うものを早発型(牛眼)と呼ぶ。角膜 水平径が新生児で12 mm以上、乳児で13 mm以上の場合に眼球拡大を疑う。Haab striae(角膜 後面のDescemet膜破裂線)はPeters異常 の角膜 混濁では評価困難なことが多い。
UBM 所見 :超音波生体顕微鏡 (UBM )で虹彩 高位付着・虹彩 突起・隅角 閉塞を認める。隅角鏡検査 では隅角 底の形成不良、毛様体 帯が透見できないか極めて狭い所見が隅角 形成不全の指標となる。
視神経乳頭 の評価 :角膜 混濁が高度な場合、眼底検査 が困難となる。超音波Bスキャンや、角膜 混濁軽減後の視神経乳頭陥凹 拡大の確認が重要である。陥凹乳頭径比(C/D比 )の経時的な増大は緑内障 進行の指標となる。
約1/3の症例に全身異常が認められる。Peters異常 を診察した際には全身検索を行うことが推奨されている。
臓器系 主な合併症 中枢神経系 脳形態異常・発達遅延 顔面 口唇口蓋裂 心血管系 先天性心奇形 呼吸器 肺低形成 泌尿生殖器 腎・生殖器の形成異常 骨格系 低身長・脊髄披裂・仙骨低形成 染色体 13トリソミー ・15トリソミー
Peters-Plus症候群は、Peters異常 に四肢短縮(指短縮症)・低身長・口唇口蓋裂・知的障害を伴う特定の症候群であり、B3GALTL(B3GLCT)遺伝子の両アレル変異が原因とされる1) 。
Q
Peters異常の乳児ではどのような症状に気づくべきですか?
A
生下時から角膜 中央部が白く混濁していることが最も典型的な所見である。加えて、光を嫌がる(羞明 )、持続的な流涙、眼瞼けいれんが認められた場合は眼圧 上昇の可能性があり、速やかに小児眼科への受診が必要である。
Peters異常 の根本的な病因は、胎生期における神経堤細胞の遊走・分化の異常 である。
胎生第5週頃、表層外胚葉から水晶体 胞が分離する。胎生第6〜7週頃にその間隙に神経堤細胞が入り込み、角膜内皮 や角膜実質 が形成され水晶体 から分離される。この過程における異常の時期と程度によって、Peters異常 をはじめAxenfeld-Rieger異常・後部胎生環などの前眼部形成不全が生じる。
神経堤細胞は3波にわたって遊走する1) 。
第1波 :角膜内皮 を形成する。Peters異常 はこの第1波の異常として位置づけられる。
第2波 :角膜実質 のケラトサイトを形成する。
第3波 :隅角 ・毛様体 ・虹彩 実質を形成する。
Peters異常 に関連する主な遺伝子を以下に示す1) 4) 。
遺伝子 染色体座位 関連する表現型 PAX6 11p13 無虹彩 ・Peters異常 ・黄斑 低形成 PITX2 4q25 Axenfeld-Rieger症候群・Peters異常 CYP1B1 2p22 Peters異常 ・原発先天緑内障 FOXC1 6p25 Axenfeld-Rieger症候群・Peters異常 FOXE3 1p32 前眼部形成不全・Peters異常 B3GLCT 13q12.3 Peters-Plus症候群 COL4A1 13q34 Peters異常 ・基底膜コラーゲン異常SOX2 3q26.3 Peters異常 ・小眼球症
大規模レジストリにおける分子診断率は、前眼部形成異常に伴う緑内障 全体で56.5%と報告されている4) 。最も頻度の高い遺伝子変異はFOXC1(20.3%)、PITX2(17.4%)、PAX6(10.1%)であった4) 。
PAX6とFOXC1は神経堤細胞の遊走に関与する。PITX3とFOXE3は水晶体 胞の形成に重要であり、これらの変異は角膜 水晶体 癒着を伴う重症型(3型)との関連が指摘されている1) 。
孤発性が大多数 :家族歴のない孤発例がほとんどを占める。浸透率・表現度は遺伝子によって異なり、同一家系内でも臨床像に大きな個人差が生じうる。
近親婚 :常染色体劣性遺伝 の報告例は近親婚で認められている1) 。CYP1B1やFOXE3の両アレル変異による劣性遺伝パターンがこれに該当する。
薬剤暴露 :妊娠第1三半期のイソトレチノイン内服がPeters異常 類似の前眼部異常を引き起こした報告がある1) 。催奇形性物質への胎生期暴露は前眼部形成不全のリスク因子として注意が必要である。
染色体異常 :4番・11番・13番・20番染色体の異常がPeters異常 との関連で報告されている1) 。13トリソミー や15トリソミーでもPeters異常 を合併することがある。
Peters異常 の診断は以下の三徴に基づく。
角膜 中央部の混濁
対応するDescemet膜・角膜内皮 の欠損
虹彩 角膜 癒着(2型以上)
ガイドラインの診断基準では、先天眼形成異常が出生時から存在し、かつ小児緑内障 の診断基準(通常は眼球拡大を伴う)を満たすことが要件である3) 。
乳幼児ではGoldmann圧平眼圧計 の使用が困難であるため、以下の代替法が用いられる。
Perkins圧平眼圧 計 :携帯型だが体動のため測定困難なことが多い。
Tono-pen® / iCare :幼児や角膜 変形眼でも測定可能であり、簡便性に優れる。
催眠下測定 :新生児〜乳児では催眠下で行う。15 mmHgを正常上限として計測する。
先天角膜 混濁は隅角 発生異常を伴う頻度が高く、眼圧測定 は初診時から必須である。
角膜 混濁のために通常の前眼部観察が困難な場合に不可欠な検査である。
隅角 ・毛様体 ・網膜 周辺部の構造を詳細に把握できる
トリクロリール等の鎮静催眠薬で眠らせた上で施行する
角膜 中央の菲薄化・Descemet膜欠損・浅前房 ・虹彩 角膜 癒着を描出する
Peters異常 と強膜化角膜 のUBM 所見は類似するため、鑑別には注意を要する
UBM 所見に基づく分類として、I型(角膜 DM・内皮欠損のみ:PKP 予後良好)、II型(+虹彩 角膜 癒着:PKP 予後可変)、III型(+角膜 水晶体 癒着:PKP 予後不良)が提唱されている1) 。
5〜6歳以上になれば前眼部OCT (optical coherence tomography)で角膜 厚・角膜 形状・前房 ・隅角 ・虹彩 を非侵襲的に観察できる。新生児でも使用可能との報告がある1) 。術中OCT が小児角膜移植 の手術計画を21%の症例で変更させたとの報告もなされている1) 。
高度角膜 混濁で後極の観察が不能な場合に、網膜剥離 ・後極部異常のスクリーニングとして後眼部評価に用いる1) 。
先天角膜 混濁の主な鑑別疾患を以下に示す。
鑑別疾患 Peters異常 との相違点強膜化角膜 角膜 全周性混濁、輪部 不明瞭CHED (先天遺伝性角膜内皮 ジストロフィ)角膜 全体のスリガラス状浮腫、緑内障 合併は通常なし分娩時外傷 片眼性、Descemet膜の垂直方向線状混濁、外傷歴 Axenfeld-Rieger症候群 角膜 周辺部混濁(中央部は正常)、歯牙・顔面骨異常先天緑内障 (PCG)角膜 混濁はびまん性浮腫型、Haab striae
Axenfeld-Rieger症候群との鑑別や先天無虹彩 との鑑別が困難な例も多い。外傷歴は問診で鑑別可能であり、代謝性疾患(ムコ多糖症・シスチン症 など)は小児科に精査を依頼して確定診断を得る。遺伝子検査は非典型例の鑑別に特に有用であり、前眼部形成異常の重複する表現型を正確に分類するために推奨される4) 。
Q
Peters異常の検査ではどのような方法が用いられますか?
A
UBM (超音波生体顕微鏡 )は角膜 混濁のため通常の観察が困難な場合に前眼部構造を詳細に評価できる不可欠な検査である。前眼部OCT は非侵襲的に角膜 厚・隅角 を評価でき、iCareは幼児でも簡便に眼圧 を測定できる。高度混濁例では超音波Bスキャンによる後眼部評価も必要となる。
Peters異常 に伴う緑内障 の管理は、緑内障 の眼圧 制御 と角膜 混濁への対応 の二本柱で構成される。
治療の第一選択は手術治療である3) 。これは発症の原因が隅角 の発育異常であり手術的に解決可能であるという経験的事実と、乳幼児では薬物治療の実効性および効果確認が困難であることによる3) 。
Peters異常 では良好な術後眼圧 が得られるのは約1/3の手術例にとどまる5) 。角膜 異常を伴うため実用的視力 を得ることが難しい場合が多い3) 。
隅角手術
線維柱帯切開術 (trabeculotomy) :初回手術の原則。角膜 の透見が困難であっても施行できる利点を有する3) 。
360°線維柱帯切開術 :糸またはマイクロカテーテルを用いた全周切開が次第に試みられている3) 。
隅角 切開術(goniotomy) :透明な角膜 を有する例が適応。1回で90〜120°の切開が可能。Peters異常 では角膜 混濁のため施行困難なことが多い3) 。
成功率 :原発先天緑内障 (PCG)では70〜90%だがPeters異常 ではこれより低い3) 5) 。
濾過手術・その他
線維柱帯切除術 :隅角 手術の無効例が適応。小児の強膜 は薄く強膜 弁作製が困難3) 。代謝拮抗薬 併用でも濾過胞形成困難な例がある。1年後成功率50〜87%3) 。
チューブシャント 手術 :濾過手術 も無効な場合に考慮。小児GDDメタ解析(1,221眼)では12か月成功率87%、24か月77%、120か月37%6) 。
毛様体破壊術 :上記いかなる治療でも眼圧 制御不能な場合の最終手段3) 。
小児緑内障 に対するAhmed/Baerveldt GDDのメタ解析(32研究、1,221眼)では、術前平均眼圧 31.8±3.4 mmHgに対し、12か月後は16.5 mmHg(95%CI : 15.5〜17.6)、24か月後は17.6 mmHg(95%CI : 16.4〜18.7)であった。前房 浅小化13.6%、低眼圧 11.7%、脈絡膜 漿液性剥離8.3%の合併症が報告されている6) 。
薬物治療は周術期ないし手術治療後の補助手段として行われる3) 。
β遮断薬 (チモロール・カルテオロール等):低濃度から使用する。
炭酸脱水酵素阻害薬 (ドルゾラミド 1%・ブリンゾラミド 1%):β遮断薬 との併用が可能。
プロスタノイドFP受容体作動薬 (ラタノプロスト・トラボプロスト等):小児での効果は成人に比し弱い3) 。
交感神経α2受容体作動薬 (ブリモニジン):精神神経症状(無呼吸・徐脈・低血圧・筋緊張低下・中枢抑制)の出現のため、2歳未満には禁忌 である3) 。
乳幼児では体重・体表面積に比して点眼薬の投与量が相対的に多くなる。可能な限り低濃度薬剤から使用し、全身副作用に十分注意する3) 。
経過観察 :眼圧 が正常であれば角膜 混濁は緩徐に自然軽減することが多い。4眼の検討では経過観察のみで混濁が退縮した報告がある1) 。眼圧 コントロールを優先しつつ経過を見守る方針が一般的であり、混濁の程度が弱視 を招かない範囲であれば積極的な角膜 手術は避けることが推奨される。
全層角膜移植 (PKP ) :高度の角膜 混濁で視力 改善が必要な場合の根本的治療であるが、小児では予後不良である。透明治癒率は39〜90%と報告にばらつきが大きい2) 。20/100以上の視力 が得られた例は少ない7) 。小児では拒絶反応が高頻度で、5〜6歳以下ではほぼ必発とされる。ステロイド緑内障 を高率に発症する点も問題となる。角膜 混濁の範囲・深度・水晶体 癒着の有無に基づく管理アルゴリズムが提唱されている11) 。
光学的虹彩 切開術 :角膜移植 の代替として、中央角膜 混濁の周辺に残る透明角膜 を通した視軸確保を目的に施行される。1型の軽症〜中等症例で有効な報告がある1) 。
SEPA(選択的内皮除去術) :1型で周辺健常内皮が保たれている場合に、中央部の異常内皮を除去し周辺からの内皮細胞遊走による角膜 透明化を促す低侵襲手技である。34眼の検討で85%に中心視軸の部分〜完全透明化が報告されている10) 。
ハードコンタクトレンズ :角膜 混濁軽減後の不正乱視 に対して矯正を試みる。
乳児期に角膜 混濁をきたした場合、たとえ軽微であっても弱視 を招きうる。視力 測定が可能となる3歳頃まで経過を観察し、弱視 が疑われたら健眼遮閉を行う。必要に応じて眼鏡装用やハードコンタクトレンズを処方する。斜視 合併は72%に認められ、内斜視 (54%)が最多とされる1) 。
Q
Peters異常の緑内障の手術成功率はどの程度ですか?
A
PCGに準じた治療を行っても、良好な術後眼圧 が得られるのは約1/3の手術例にとどまる5) 。チューブシャント 手術(GDD)のメタ解析では12か月成功率87%だが、120か月では37%まで低下する6) 。複数回の手術が必要となることが多く、長期的な眼圧 管理が不可欠である。
前眼部の正常発生では、神経堤細胞が3波にわたって遊走し各構造を形成する1) 。
第1波 (胎生第6〜7週):神経堤細胞が水晶体 と表層外胚葉の間に遊走し、角膜内皮 を形成する。Peters異常 はこの段階の異常に位置づけられる。
第2波 :角膜上皮 と内皮の間に遊走し、角膜実質 のケラトサイトを形成する。
第3波 :内皮と眼杯前縁の隅角 に遊走し、毛様体 ・虹彩 実質を形成する。
角膜内皮 の形成不全により、Descemet膜と角膜内皮 が欠損し角膜 混濁が生じる。水晶体 胞の分離不全が加わると、水晶体 が角膜 後面に癒着し3型となる。神経堤細胞の侵入障害の時期と程度により、Peters異常 ・Axenfeld-Rieger異常・後部胎生環などの前眼部形成不全が連続的なスペクトラムとして生じる9) 。
Peters異常 に伴う緑内障 は、隅角 における虹彩 根部の高位付着による房水 流出障害が主な機序と考えられている。
組織学的には、線維柱帯 にSchlemm管下のコンパクトな組織(細胞突起の短い線維柱帯 細胞、コラーゲン・エラスチン様線維、基底膜様の無定形物質で構成)が厚く存在し、正常な層板状構造が消失している。この線維柱帯 の未成熟が房水 流出抵抗を増大させ、眼圧 上昇を引き起こす。
3〜4歳以前に発症すると角膜 径の拡大を伴う早発型(牛眼)となる。乳幼児の強膜 は成人に比べて柔軟であるため、眼圧 上昇が眼球の物理的拡張として現れやすく、角膜 径・眼軸長 の増大がしばしば高眼圧 の唯一の徴候となる。隅角鏡検査 では隅角 底の形成不良、毛様体 帯の透見不能または極度の狭小化が認められ、これが隅角 形成不全の指標となる。
Peters異常 に伴う緑内障 の予後を規定する因子として、隅角 の未発達の程度と前眼部の過剰拡大による隅角 構造の障害の程度が挙げられている3) 。不成功の危険因子はこの2点であり、虹彩癒着 が高度な症例ほど房水 流出路の物理的閉塞が進行し緑内障 制御が困難となる。
Peters異常 の角膜 では以下の組織学的特徴が報告されている1) 8) 。
Descemet膜・角膜内皮 :混濁部で欠損または菲薄化。虹彩癒着 部では完全に欠損する。
角膜実質 後部 :lamellae構造の乱れ・浮腫性変化を呈する。
Bowman膜 :パンヌス(線維血管組織)による置換が認められることがある。
周辺角膜 :全層にわたって正常構造が保たれている。
内皮細胞の自己修復 :周辺健常部の内皮細胞が中央部へ遊走し、経時的に部分的修復が生じる可能性が示唆されている1) 。
この周辺内皮からの遊走修復機構が、SEPA(選択的内皮除去術)の理論的根拠となっている10) 。
2012年に初めて報告されたSEPAは、I型Peters異常 に対する低侵襲治療として注目されている10) 。異常内皮を選択的に除去し、周辺健常内皮が中心部へ遊走することで角膜 透明化を促す。34眼28患者の検討では85%の眼で中心視軸の部分〜完全透明化が得られた10) 。角膜移植 を回避できる点が大きな利点だが、適応は混濁径が7 mm未満の軽症〜中等症例に限られる1) 。
次世代シーケンシング(NGS)・全ゲノムシーケンシング(WGS)の普及により、Peters異常 を含む前眼部形成異常の分子診断率は向上している。大規模レジストリでは診断率56.5%が報告され4) 、遺伝型と臨床表現型の相関解明が進行中である。CPAM D8やTMEM98など、従来知られていなかった関連遺伝子も同定されつつある4) 。
遺伝子検査は確定診断・遺伝カウンセリング ・予後予測に寄与する。特に非典型例やAxenfeld-Rieger症候群との鑑別が困難な例では分子診断が臨床的に重要である。
高度両側性Peters異常 で複数回の角膜移植 片不全を来した症例への人工角膜 適用が報告されている2) 。Boston型keratoprosthesisの小児への長期成績はいまだ限定的であるが、他に選択肢がない重症例における最終的な視力 回復手段としての位置づけが模索されている2) 。
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