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緑内障

ピーターズ異常に伴う緑内障(Glaucoma Associated with Peters Anomaly)

1. ピーターズ異常に伴う緑内障とは

Section titled “1. ピーターズ異常に伴う緑内障とは”

Peters異常Peters anomaly)は、角膜内皮・Descemet膜・角膜実質の一部が欠損し、角膜中央部に円板状の混濁をきたす先天異常である。約80%が両眼性で、胎齢6〜7週以降の神経堤細胞遊走異常に起因する。角膜虹彩間癒着や角膜水晶体癒着をしばしば伴い、緑内障を50〜70%に合併する。

1906年にドイツの眼科医Petersが初めて報告した1)浅前房虹彩角膜癒着・角膜中央白斑・Descemet膜欠損を呈する小児例の記述がその原典である1)

Peters異常は以下の3型に分類される。

  • 1型角膜後面の欠損および角膜混濁のみ。虹彩水晶体の構造異常を伴わない。混濁の密度は症例により異なるが、通常は片眼性で、周辺角膜は透明に保たれる。視力予後が比較的良好であり、全身異常の合併は少ない。
  • 2型角膜後面欠損に加えて虹彩角膜癒着を合併する。虹彩から角膜後面に向かう索状癒着が特徴的で、隅角形成異常を伴うことが多い。緑内障合併のリスクが1型より高い。
  • 3型水晶体の混濁・前方偏位・角膜後面への癒着を伴う。最も重篤な型であり、水晶体前極白内障や小水晶体症(microphakia)を合併する。全身異常の合併率が高く、視力予後は最も不良である。

別の分類法としてI型(水晶体異常なし)とII型(白内障水晶体位置異常を伴う)の二分法もある。I型は上記1型に、II型は2型+3型の重症群にほぼ対応する。先天角膜混濁の約40〜65%をPeters異常が占めるとされ、先天角膜混濁の中で最も頻度が高い疾患である2)

前眼部形成不全全体のスペクトラムの中で、Peters異常角膜内皮形成(神経堤細胞の第1波遊走)の異常として位置づけられ、Axenfeld-Rieger異常(隅角虹彩形成の異常)や後部胎生環(Schwalbe線の前方偏位)とは異常が生じる発生段階が異なる。

  • 発生率:出生10万人あたり約1.5人と推定される1)。先天角膜混濁の40.3〜65%をPeters異常が占める2)
  • 両眼性:約80%の症例が両眼に発症する。両側性症例は片眼性と比べ全身奇形の合併率が高い(71.8% vs 36.8%)2)
  • 遺伝様式:ほとんどが孤発性である。まれに常染色体優性遺伝常染色体劣性遺伝の症例が報告されている。
  • 緑内障合併:50〜70%が6歳までに緑内障を発症する。隅角における虹彩根部の高位付着による房水流出障害がその機序と考えられている。緑内障Peters異常の最も重要な合併症であり、視力予後を大きく左右する。2型・3型では緑内障の合併率が1型より高く、より難治性の経過をたどる傾向がある。
  • 発症時期:生後6か月までに診断を受けるものが60%、1歳までに診断を受けるものが80%とされている。早期発見と早期介入が視力予後の改善に不可欠である。

緑内障診療ガイドライン(第5版)では、Peters異常に伴う緑内障は続発小児緑内障のうち「先天眼形成異常に関連した緑内障」に分類される3)。診断基準は、全身所見との関連が明らかではない眼形成異常が出生時から存在し、かつ小児緑内障の診断基準を満たすことである3)

Q Peters異常に緑内障が合併する頻度はどの程度ですか?
A

50〜70%の症例に緑内障が合併する。特にII型(3型)で合併率が高い。緑内障隅角における虹彩根部の高位付着による房水流出障害で発症し、6歳までに早発型として出現することが多い。定期的な眼圧測定視神経評価が不可欠であり、治療の詳細は「標準的な治療法」の項を参照されたい。

Peters異常は生後早期に発症するため、患者自身が症状を訴えることはできない。以下の徴候を保護者が気づいて受診するケースが多い。

  • 角膜の白い混濁:生下時から角膜中央部が白く混濁している。最も典型的な主訴である。
  • 羞明まぶしさ眼圧上昇による角膜上皮浮腫に伴う刺激で、光を嫌がる。
  • 流涙:持続的な涙が認められる。
  • 眼瞼けいれん:まぶたが繰り返し痙攣する。
  • 角膜中央部混濁:生下時より明らかな円板状の混濁を呈する。混濁の密度と範囲は症例により多様である。周辺角膜は通常透明に保たれる。
  • 角膜後面欠損:Descemet膜と角膜内皮の欠損が混濁部に一致して存在する。
  • 虹彩角膜癒着:2型以上で認められる。虹彩から角膜後面に向けての索状癒着が特徴的である。
  • 水晶体異常:3型では水晶体が前方に偏位し角膜後面に接触する。白内障を伴うこともある。
  • 角膜混濁の自然経過:軽症例では眼圧が正常であれば次第に軽減することが多い。重症例は角膜全体が前方に突出する前部ぶどう腫を呈する。
  • 合併する眼異常:Axenfeld-Rieger異常、無虹彩症、胎生血管系遺残(旧名称:第1次硝子体過形成遺残)を合併することがある。
  • 眼圧上昇:明らかな高眼圧を認めることが多いが、年齢が低いほど眼圧上昇が角膜径の増大で代償されるため、眼圧が20 mmHg以下であっても眼球拡大傾向があれば緑内障を疑う必要がある。新生児〜乳児の催眠下眼圧測定では15 mmHgを正常上限として評価する。
  • 角膜径増大(牛眼):3〜4歳以前に発症し角膜径の拡大を伴うものを早発型(牛眼)と呼ぶ。角膜水平径が新生児で12 mm以上、乳児で13 mm以上の場合に眼球拡大を疑う。Haab striae(角膜後面のDescemet膜破裂線)はPeters異常角膜混濁では評価困難なことが多い。
  • UBM所見超音波生体顕微鏡UBM)で虹彩高位付着・虹彩突起・隅角閉塞を認める。隅角鏡検査では隅角底の形成不良、毛様体帯が透見できないか極めて狭い所見が隅角形成不全の指標となる。
  • 視神経乳頭の評価角膜混濁が高度な場合、眼底検査が困難となる。超音波Bスキャンや、角膜混濁軽減後の視神経乳頭陥凹拡大の確認が重要である。陥凹乳頭径比(C/D比)の経時的な増大は緑内障進行の指標となる。

約1/3の症例に全身異常が認められる。Peters異常を診察した際には全身検索を行うことが推奨されている。

臓器系主な合併症
中枢神経系脳形態異常・発達遅延
顔面口唇口蓋裂
心血管系先天性心奇形
呼吸器肺低形成
泌尿生殖器腎・生殖器の形成異常
骨格系低身長・脊髄披裂・仙骨低形成
染色体13トリソミー・15トリソミー

Peters-Plus症候群は、Peters異常に四肢短縮(指短縮症)・低身長・口唇口蓋裂・知的障害を伴う特定の症候群であり、B3GALTL(B3GLCT)遺伝子の両アレル変異が原因とされる1)

Q Peters異常の乳児ではどのような症状に気づくべきですか?
A

生下時から角膜中央部が白く混濁していることが最も典型的な所見である。加えて、光を嫌がる(羞明)、持続的な流涙、眼瞼けいれんが認められた場合は眼圧上昇の可能性があり、速やかに小児眼科への受診が必要である。

Peters異常の根本的な病因は、胎生期における神経堤細胞の遊走・分化の異常である。

胎生第5週頃、表層外胚葉から水晶体胞が分離する。胎生第6〜7週頃にその間隙に神経堤細胞が入り込み、角膜内皮角膜実質が形成され水晶体から分離される。この過程における異常の時期と程度によって、Peters異常をはじめAxenfeld-Rieger異常・後部胎生環などの前眼部形成不全が生じる。

神経堤細胞は3波にわたって遊走する1)

  • 第1波角膜内皮を形成する。Peters異常はこの第1波の異常として位置づけられる。
  • 第2波角膜実質のケラトサイトを形成する。
  • 第3波隅角毛様体虹彩実質を形成する。

Peters異常に関連する主な遺伝子を以下に示す1)4)

遺伝子染色体座位関連する表現型
PAX611p13虹彩Peters異常黄斑低形成
PITX24q25Axenfeld-Rieger症候群・Peters異常
CYP1B12p22Peters異常原発先天緑内障
FOXC16p25Axenfeld-Rieger症候群・Peters異常
FOXE31p32前眼部形成不全・Peters異常
B3GLCT13q12.3Peters-Plus症候群
COL4A113q34Peters異常・基底膜コラーゲン異常
SOX23q26.3Peters異常小眼球症

大規模レジストリにおける分子診断率は、前眼部形成異常に伴う緑内障全体で56.5%と報告されている4)。最も頻度の高い遺伝子変異はFOXC1(20.3%)、PITX2(17.4%)、PAX6(10.1%)であった4)

PAX6とFOXC1は神経堤細胞の遊走に関与する。PITX3とFOXE3は水晶体胞の形成に重要であり、これらの変異は角膜水晶体癒着を伴う重症型(3型)との関連が指摘されている1)

  • 孤発性が大多数:家族歴のない孤発例がほとんどを占める。浸透率・表現度は遺伝子によって異なり、同一家系内でも臨床像に大きな個人差が生じうる。
  • 近親婚常染色体劣性遺伝の報告例は近親婚で認められている1)。CYP1B1やFOXE3の両アレル変異による劣性遺伝パターンがこれに該当する。
  • 薬剤暴露:妊娠第1三半期のイソトレチノイン内服がPeters異常類似の前眼部異常を引き起こした報告がある1)。催奇形性物質への胎生期暴露は前眼部形成不全のリスク因子として注意が必要である。
  • 染色体異常:4番・11番・13番・20番染色体の異常がPeters異常との関連で報告されている1)13トリソミーや15トリソミーでもPeters異常を合併することがある。

Peters異常の診断は以下の三徴に基づく。

  • 角膜中央部の混濁
  • 対応するDescemet膜・角膜内皮の欠損
  • 虹彩角膜癒着(2型以上)

ガイドラインの診断基準では、先天眼形成異常が出生時から存在し、かつ小児緑内障の診断基準(通常は眼球拡大を伴う)を満たすことが要件である3)

乳幼児ではGoldmann圧平眼圧計の使用が困難であるため、以下の代替法が用いられる。

  • Perkins圧平眼圧:携帯型だが体動のため測定困難なことが多い。
  • Tono-pen® / iCare:幼児や角膜変形眼でも測定可能であり、簡便性に優れる。
  • 催眠下測定:新生児〜乳児では催眠下で行う。15 mmHgを正常上限として計測する。

先天角膜混濁は隅角発生異常を伴う頻度が高く、眼圧測定は初診時から必須である。

角膜混濁のために通常の前眼部観察が困難な場合に不可欠な検査である。

  • 隅角毛様体網膜周辺部の構造を詳細に把握できる
  • トリクロリール等の鎮静催眠薬で眠らせた上で施行する
  • 角膜中央の菲薄化・Descemet膜欠損・浅前房虹彩角膜癒着を描出する
  • Peters異常強膜化角膜UBM所見は類似するため、鑑別には注意を要する

UBM所見に基づく分類として、I型(角膜DM・内皮欠損のみ:PKP予後良好)、II型(+虹彩角膜癒着:PKP予後可変)、III型(+角膜水晶体癒着:PKP予後不良)が提唱されている1)

5〜6歳以上になれば前眼部OCT(optical coherence tomography)で角膜厚・角膜形状・前房隅角虹彩を非侵襲的に観察できる。新生児でも使用可能との報告がある1)。術中OCTが小児角膜移植の手術計画を21%の症例で変更させたとの報告もなされている1)

高度角膜混濁で後極の観察が不能な場合に、網膜剥離・後極部異常のスクリーニングとして後眼部評価に用いる1)

先天角膜混濁の主な鑑別疾患を以下に示す。

鑑別疾患Peters異常との相違点
強膜化角膜角膜全周性混濁、輪部不明瞭
CHED(先天遺伝性角膜内皮ジストロフィ)角膜全体のスリガラス状浮腫、緑内障合併は通常なし
分娩時外傷片眼性、Descemet膜の垂直方向線状混濁、外傷歴
Axenfeld-Rieger症候群角膜周辺部混濁(中央部は正常)、歯牙・顔面骨異常
先天緑内障(PCG)角膜混濁はびまん性浮腫型、Haab striae

Axenfeld-Rieger症候群との鑑別や先天無虹彩との鑑別が困難な例も多い。外傷歴は問診で鑑別可能であり、代謝性疾患(ムコ多糖症・シスチン症など)は小児科に精査を依頼して確定診断を得る。遺伝子検査は非典型例の鑑別に特に有用であり、前眼部形成異常の重複する表現型を正確に分類するために推奨される4)

Q Peters異常の検査ではどのような方法が用いられますか?
A

UBM超音波生体顕微鏡)は角膜混濁のため通常の観察が困難な場合に前眼部構造を詳細に評価できる不可欠な検査である。前眼部OCTは非侵襲的に角膜厚・隅角を評価でき、iCareは幼児でも簡便に眼圧を測定できる。高度混濁例では超音波Bスキャンによる後眼部評価も必要となる。

Peters異常に伴う緑内障の管理は、緑内障眼圧制御角膜混濁への対応の二本柱で構成される。

治療の第一選択は手術治療である3)。これは発症の原因が隅角の発育異常であり手術的に解決可能であるという経験的事実と、乳幼児では薬物治療の実効性および効果確認が困難であることによる3)

Peters異常では良好な術後眼圧が得られるのは約1/3の手術例にとどまる5)角膜異常を伴うため実用的視力を得ることが難しい場合が多い3)

隅角手術

線維柱帯切開術(trabeculotomy):初回手術の原則。角膜の透見が困難であっても施行できる利点を有する3)

360°線維柱帯切開術:糸またはマイクロカテーテルを用いた全周切開が次第に試みられている3)

隅角切開術(goniotomy):透明な角膜を有する例が適応。1回で90〜120°の切開が可能。Peters異常では角膜混濁のため施行困難なことが多い3)

成功率原発先天緑内障(PCG)では70〜90%だがPeters異常ではこれより低い3)5)

濾過手術・その他

線維柱帯切除術隅角手術の無効例が適応。小児の強膜は薄く強膜弁作製が困難3)代謝拮抗薬併用でも濾過胞形成困難な例がある。1年後成功率50〜87%3)

チューブシャント手術濾過手術も無効な場合に考慮。小児GDDメタ解析(1,221眼)では12か月成功率87%、24か月77%、120か月37%6)

毛様体破壊術:上記いかなる治療でも眼圧制御不能な場合の最終手段3)

小児緑内障に対するAhmed/Baerveldt GDDのメタ解析(32研究、1,221眼)では、術前平均眼圧31.8±3.4 mmHgに対し、12か月後は16.5 mmHg(95%CI: 15.5〜17.6)、24か月後は17.6 mmHg(95%CI: 16.4〜18.7)であった。前房浅小化13.6%、低眼圧11.7%、脈絡膜漿液性剥離8.3%の合併症が報告されている6)

薬物治療は周術期ないし手術治療後の補助手段として行われる3)

  • β遮断薬(チモロール・カルテオロール等):低濃度から使用する。
  • 炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド1%・ブリンゾラミド1%):β遮断薬との併用が可能。
  • プロスタノイドFP受容体作動薬(ラタノプロスト・トラボプロスト等):小児での効果は成人に比し弱い3)
  • 交感神経α2受容体作動薬(ブリモニジン):精神神経症状(無呼吸・徐脈・低血圧・筋緊張低下・中枢抑制)の出現のため、2歳未満には禁忌である3)

乳幼児では体重・体表面積に比して点眼薬の投与量が相対的に多くなる。可能な限り低濃度薬剤から使用し、全身副作用に十分注意する3)

  • 経過観察眼圧が正常であれば角膜混濁は緩徐に自然軽減することが多い。4眼の検討では経過観察のみで混濁が退縮した報告がある1)眼圧コントロールを優先しつつ経過を見守る方針が一般的であり、混濁の程度が弱視を招かない範囲であれば積極的な角膜手術は避けることが推奨される。
  • 全層角膜移植PKP:高度の角膜混濁で視力改善が必要な場合の根本的治療であるが、小児では予後不良である。透明治癒率は39〜90%と報告にばらつきが大きい2)。20/100以上の視力が得られた例は少ない7)。小児では拒絶反応が高頻度で、5〜6歳以下ではほぼ必発とされる。ステロイド緑内障を高率に発症する点も問題となる。角膜混濁の範囲・深度・水晶体癒着の有無に基づく管理アルゴリズムが提唱されている11)
  • 光学的虹彩切開術角膜移植の代替として、中央角膜混濁の周辺に残る透明角膜を通した視軸確保を目的に施行される。1型の軽症〜中等症例で有効な報告がある1)
  • SEPA(選択的内皮除去術):1型で周辺健常内皮が保たれている場合に、中央部の異常内皮を除去し周辺からの内皮細胞遊走による角膜透明化を促す低侵襲手技である。34眼の検討で85%に中心視軸の部分〜完全透明化が報告されている10)
  • ハードコンタクトレンズ角膜混濁軽減後の不正乱視に対して矯正を試みる。

乳児期に角膜混濁をきたした場合、たとえ軽微であっても弱視を招きうる。視力測定が可能となる3歳頃まで経過を観察し、弱視が疑われたら健眼遮閉を行う。必要に応じて眼鏡装用やハードコンタクトレンズを処方する。斜視合併は72%に認められ、内斜視(54%)が最多とされる1)

Q Peters異常の緑内障の手術成功率はどの程度ですか?
A

PCGに準じた治療を行っても、良好な術後眼圧が得られるのは約1/3の手術例にとどまる5)チューブシャント手術(GDD)のメタ解析では12か月成功率87%だが、120か月では37%まで低下する6)。複数回の手術が必要となることが多く、長期的な眼圧管理が不可欠である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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前眼部の正常発生では、神経堤細胞が3波にわたって遊走し各構造を形成する1)

  • 第1波(胎生第6〜7週):神経堤細胞が水晶体と表層外胚葉の間に遊走し、角膜内皮を形成する。Peters異常はこの段階の異常に位置づけられる。
  • 第2波角膜上皮と内皮の間に遊走し、角膜実質のケラトサイトを形成する。
  • 第3波:内皮と眼杯前縁の隅角に遊走し、毛様体虹彩実質を形成する。

角膜内皮の形成不全により、Descemet膜と角膜内皮が欠損し角膜混濁が生じる。水晶体胞の分離不全が加わると、水晶体角膜後面に癒着し3型となる。神経堤細胞の侵入障害の時期と程度により、Peters異常・Axenfeld-Rieger異常・後部胎生環などの前眼部形成不全が連続的なスペクトラムとして生じる9)

Peters異常に伴う緑内障は、隅角における虹彩根部の高位付着による房水流出障害が主な機序と考えられている。

組織学的には、線維柱帯にSchlemm管下のコンパクトな組織(細胞突起の短い線維柱帯細胞、コラーゲン・エラスチン様線維、基底膜様の無定形物質で構成)が厚く存在し、正常な層板状構造が消失している。この線維柱帯の未成熟が房水流出抵抗を増大させ、眼圧上昇を引き起こす。

3〜4歳以前に発症すると角膜径の拡大を伴う早発型(牛眼)となる。乳幼児の強膜は成人に比べて柔軟であるため、眼圧上昇が眼球の物理的拡張として現れやすく、角膜径・眼軸長の増大がしばしば高眼圧の唯一の徴候となる。隅角鏡検査では隅角底の形成不良、毛様体帯の透見不能または極度の狭小化が認められ、これが隅角形成不全の指標となる。

Peters異常に伴う緑内障の予後を規定する因子として、隅角の未発達の程度と前眼部の過剰拡大による隅角構造の障害の程度が挙げられている3)。不成功の危険因子はこの2点であり、虹彩癒着が高度な症例ほど房水流出路の物理的閉塞が進行し緑内障制御が困難となる。

Peters異常角膜では以下の組織学的特徴が報告されている1)8)

  • Descemet膜・角膜内皮:混濁部で欠損または菲薄化。虹彩癒着部では完全に欠損する。
  • 角膜実質後部:lamellae構造の乱れ・浮腫性変化を呈する。
  • Bowman膜:パンヌス(線維血管組織)による置換が認められることがある。
  • 周辺角膜:全層にわたって正常構造が保たれている。
  • 内皮細胞の自己修復:周辺健常部の内皮細胞が中央部へ遊走し、経時的に部分的修復が生じる可能性が示唆されている1)

この周辺内皮からの遊走修復機構が、SEPA(選択的内皮除去術)の理論的根拠となっている10)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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SEPA(選択的内皮除去術)の発展

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2012年に初めて報告されたSEPAは、I型Peters異常に対する低侵襲治療として注目されている10)。異常内皮を選択的に除去し、周辺健常内皮が中心部へ遊走することで角膜透明化を促す。34眼28患者の検討では85%の眼で中心視軸の部分〜完全透明化が得られた10)角膜移植を回避できる点が大きな利点だが、適応は混濁径が7 mm未満の軽症〜中等症例に限られる1)

次世代シーケンシング(NGS)・全ゲノムシーケンシング(WGS)の普及により、Peters異常を含む前眼部形成異常の分子診断率は向上している。大規模レジストリでは診断率56.5%が報告され4)、遺伝型と臨床表現型の相関解明が進行中である。CPAMD8やTMEM98など、従来知られていなかった関連遺伝子も同定されつつある4)

遺伝子検査は確定診断・遺伝カウンセリング・予後予測に寄与する。特に非典型例やAxenfeld-Rieger症候群との鑑別が困難な例では分子診断が臨床的に重要である。

高度両側性Peters異常で複数回の角膜移植片不全を来した症例への人工角膜適用が報告されている2)。Boston型keratoprosthesisの小児への長期成績はいまだ限定的であるが、他に選択肢がない重症例における最終的な視力回復手段としての位置づけが模索されている2)


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