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その他

遺伝性眼疾患の遺伝カウンセリング(Genetic Counseling for Hereditary Eye Diseases)

1. 遺伝性眼疾患の遺伝カウンセリングとは

Section titled “1. 遺伝性眼疾患の遺伝カウンセリングとは”

遺伝カウンセリングは「正しい遺伝情報を提供する」ことを目的とした医療サービスである。患者および家族に対し、遺伝疾患の診断・遺伝形式・再発リスク・利用可能な検査・治療法について情報提供を行い、自律的な意思決定を支援する。この定義は国際的にも共有されており、遺伝カウンセリングの3つの柱として「情報提供」「心理的支援」「意思決定支援」が挙げられる3)

遺伝性眼疾患は先天性視覚障害の約43%を占める1)。挙児における染色体異常の頻度は約0.5〜1%である。赤緑色覚異常は男性約5%・女性約0.2%の頻度で出現する最も一般的な遺伝性眼疾患の一つである。網膜色素変性の有病率は約1/4,000〜1/5,000とされ、視覚障害の主要原因疾患の一つである2)

遺伝カウンセリングの対象は、遺伝性疾患の患者本人のみならず、発症の可能性がある家族・将来の子どもへの遺伝を心配する保因者も含まれる。眼科医は診断を担いながら、遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーと連携して情報提供を行う立場にある。

Q 遺伝カウンセリングはどこで受けられるか?
A

大学病院や中核病院の遺伝子診療部門、または認定遺伝カウンセラーが在籍する施設で受けることができる。日本遺伝カウンセリング学会や日本人類遺伝学会の認定遺伝カウンセラー名簿を参照することで施設を探せる。難病情報センターのウェブサイトでも相談先の案内が提供されている。

2. 遺伝形式と主な遺伝性眼疾患

Section titled “2. 遺伝形式と主な遺伝性眼疾患”
スターガルト病(STGD1)の眼底写真・眼底自発蛍光・OCT像
Stargardt macular dystrophy and therapeutic approaches. Fujinami K, et al. Br J Ophthalmol. 2024 Apr 8; 108(4):495-505. Figure 1. PMCID: PMC10958310. License: CC BY 4.0.
スターガルト病(STGD1)の典型的な多モード画像:眼底写真では網膜色素上皮レベルの黄白色斑と黄斑部萎縮を認め(A)、眼底自発蛍光では黄斑の低蛍光域と周囲の異常蛍光を示し(B)、SD-OCTでは外網膜層・RPEの著明な消失と斑点に対応する高反射巣を示す(C)。本文「2. 遺伝形式と主な遺伝性眼疾患」の項で扱うStargardt病(ABCA4遺伝子変異による常染色体劣性遺伝網膜ジストロフィ)に対応する。

遺伝形式は遺伝カウンセリングの中核となる情報であり、4つの主要パターンに分類される。

常染色体優性遺伝

発症条件:一方のアレルの変異(ヘテロ接合体)で発症する。

家系図の特徴:縦の世代に連続して患者が出現する。

再発リスク:罹患者の子への遺伝確率は50%である。

注意点:浸透率が100%でない場合は世代の飛び越えが生じることがある。

常染色体劣性遺伝

発症条件:両アレルに変異(ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)がある場合に発症する。

家系図の特徴:横の関係(同胞)に患者が出現する。両親は通常保因者(ヘテロ接合体)である。

再発リスク:保因者同士から生まれる子の発症確率は25%である。

近年の傾向:いとこ結婚の減少により複合ヘテロ接合体の割合が増加している。

X連鎖性遺伝

発症条件:患者のほとんどが男性(ヘミ接合体)である。

女性の扱い:X染色体が2本あるため、1本に変異があると保因者となる。

家系図の特徴:罹患者が男性に偏り、母親から息子へと伝達される。

再発リスク:保因者母親の息子の発症確率は50%である。

母系遺伝(ミトコンドリア遺伝)

特徴:精子のミトコンドリアDNA(mtDNA)は受精時にほぼすべて分解される。そのため母親からのみ子へ伝達される。

代表疾患:Leber遺伝性視神経症LHON)。

X連鎖との鑑別点:女性患者も出現する点が異なる。

ヘテロプラスミー:正常mtDNAと変異mtDNAが混在すると表現型に幅が生じる。

部位疾患名遺伝形式原因遺伝子
角膜膠様滴状角膜ジストロフィ常染色体劣性TACSTD2 (1p)
角膜顆粒状・格子状・Avellino角膜ジストロフィ常染色体優性TGFBI (5q)
水晶体先天白内障常染色体優性(複数遺伝子)
水晶体Marfan症候群常染色体優性FBN1 (15q)
網膜網膜色素変性常優・常劣・X連鎖100以上の原因遺伝子2)
網膜Stargardt病常染色体劣性ABCA4 (1p)
網膜若年網膜分離症X連鎖性RS1 (Xp)
網膜網膜芽細胞腫常染色体優性RB1 (13q)
視神経Leber遺伝性視神経症母系遺伝(mtDNA)
視神経常染色体優性視神経萎縮常染色体優性OPA1 (3q)
色覚赤緑色覚異常X連鎖性
Q 親が遺伝性眼疾患の場合、子どもに遺伝する確率は?
A

遺伝形式によって異なる。常染色体優性遺伝では罹患した親から子への遺伝確率は50%である。常染色体劣性遺伝では両親が保因者同士の場合に子の発症確率が25%となる。X連鎖性遺伝では保因者母親の息子の発症確率が50%、母系遺伝(ミトコンドリア)では母親が罹患・保因している場合に全ての子に伝達される可能性がある。個別の状況については、遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーへの相談が推奨される。

3. 遺伝性眼疾患の原因とリスク要因

Section titled “3. 遺伝性眼疾患の原因とリスク要因”

遺伝性眼疾患の発症機序は、遺伝変異がタンパク機能に与える影響の種類によって分類される。

  • ハプロ不全(haploinsufficiency):一方のアレルの機能喪失だけで表現型が生じる。先天無虹彩(PAX6変異)が代表例である。正常アレルが1つでは正常な組織形成に必要な遺伝子産物の量を補えない。
  • 優性阻害効果(dominant negative effect):変異タンパクが正常タンパクの機能を競合的・構造的に阻害する。Marfan症候群(FBN1変異)では変異フィブリリン-1分子が細胞外基質の形成を障害する。
  • ミトコンドリア変異:Leber病(LHON)では11778・3460・14484番の3つの点変異が全変異の約90%を占める。エネルギー産生障害により視神経節細胞が障害される。
  • De novo変異:親に変異がなく、卵子または精子形成時に新たに発生する変異。CRX変異によるLeber先天盲が代表例である。家系図に患者が他にいない孤発例でも生じ得る。
  • 複合ヘテロ接合体:常染色体劣性疾患で、2つのアレルにそれぞれ異なる変異が生じる形態。近年のいとこ結婚の減少に伴い、ホモ接合体よりも複合ヘテロ接合体の割合が増加している。
  • 片親性ダイソミー:同一の親から同一染色体を2本受け取り、もう一方の親からの染色体が欠落する現象。見かけ上の孤発例として出現することがある10)

網膜色素変性の原因遺伝子は100以上が同定されており、同一表現型でも多数の異なる遺伝子が原因となり得る2)。遺伝子の多様性が診断の難しさにつながっている。

4. 遺伝カウンセリングの実際と遺伝子検査

Section titled “4. 遺伝カウンセリングの実際と遺伝子検査”
網膜色素変性症(RPGR変異)の家系図と眼底写真
Liu X, Jia R, Meng X, et al. Analysis of RPGR gene mutations in 41 Chinese families affected by X-linked inherited retinal dystrophy. Front Genet. 2022;13:999695. Figure 1. PMID: 36276946; PMCID: PMC9582779; DOI: 10.3389/fgene.2022.999695. License: CC BY 4.0.
X連鎖網膜色素変性症RPGR変異:c.3001G>T およびc.2730_2731del)を有する2家系の家系図と眼底写真。家系図には標準的な記号(塗りつぶし四角が罹患男性、点線丸が保因者女性)を用いて遺伝形式を示し、対応する眼底写真は進行した骨小体様色素沈着と網膜萎縮を呈している。本文「4. 遺伝カウンセリングの実際と遺伝子検査」の項で扱う家系図(pedigree)作成と遺伝形式の判定に対応する。

遺伝カウンセリングを適切に実施するためには、以下の準備が必要である。

  1. 家系図(pedigree)の作成:3世代以上にわたる家族歴を聴取し、家系図として記録する。縦・横の患者分布から遺伝形式の推測が可能になる。
  2. 遺伝形式の推測:家系図と表現型から常優・常劣・X連鎖・母系のいずれかを推定する。
  3. 遺伝子検査の説明と書面による同意取得:患者の遺伝情報を調べる前に、検査の意義・問題点について十分な説明を行い、書面で同意を得ることが必要である。
  4. DNA検査結果の匿名化と情報管理:連結可能な匿名化によりプライバシーを保護する。
  5. 偶発的所見への対応方針の事前決定:生命に関わる重篤な偶発的所見が検出された場合の告知方針を、検査前に患者と確認しておく。
検査種別対象特徴
PCR法+サンガー法単一遺伝子の変異検索精度が高い。既知変異部位の確認に適する
パネル検査(ターゲットシークエンシング)特定疾患関連遺伝子群網膜疾患関連遺伝子を一括検索。診断率が高い5)
エクソーム解析(NGS)全エクソン領域未知変異の検出。疾患原因遺伝子が多数ある場合に有効
全ゲノム解析(WGS)ゲノム全領域既存の標的NGS検査より診断率が高い可能性がある13)

遺伝性網膜ジストロフィでは、RPE65遺伝子変異による疾患が疑われ、遺伝子治療の適応判定補助を目的とする場合など、条件を満たす一部の検査で保険診療として実施できる4)

変異の解釈と主要データベース

Section titled “変異の解釈と主要データベース”

変異の解釈には慎重な判断が必要である。論文に「変異」として掲載されている記述の約3割は多型(正常バリアント)であることが知られている。一般的に正常者の約100人に1人以上出現する塩基配列変化は多型として扱うべきである。

主要なデータベースとして以下が利用される。

  • OMIM(Online Mendelian Inheritance in Man):遺伝疾患・遺伝子の包括的データベース
  • GeneReviews:疾患ごとの遺伝カウンセリング情報を提供
  • RetNet(Retinal Information Network)網膜疾患に特化した遺伝子データベース
Q 遺伝子検査の費用は保険適用されるか?
A

一部の遺伝性眼疾患では、治療適応判定や指定された施設基準を満たす場合に、保険診療として遺伝学的検査を受けられる。ただし、検査の種類や対象疾患によって適用の有無が異なるため、受診する施設で確認が必要である。保険適用外の検査については自費診療となる場合がある。難病指定疾患(網膜色素変性等)では、難病医療費助成制度による経済的支援も利用できる可能性がある4)

5. 遺伝カウンセリング体制と治療の展望

Section titled “5. 遺伝カウンセリング体制と治療の展望”

遺伝カウンセリングの実施にあたっては、遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーとの連携が理想とされる。大学病院では倫理委員会の審査が必要とされる場合がある。遺伝情報は患者本人のみならず家族にも影響を及ぼし得るため、情報の取り扱いには特別な配慮が求められる。遺伝情報に基づく不当な差別の防止に関する社会的議論も進んでいる8)

以下の遺伝性眼疾患は難病に指定されており、医療費助成の対象となる。

難病患者は医療費の自己負担が軽減される。外来・入院・調剤を合算した月額上限が設定されており、所得に応じた区分が適用される。

RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィに対する遺伝子治療薬voretigene neparvovecは、AAV2ベクターを用いた網膜下投与製剤である。ランダム化比較試験で有効性と安全性が確認されている6)。治療適応の判断には、遺伝子検査による病型確定が前提となる。

アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)療法については、CEP290変異を原因とするLeber先天盲10型(LCA10)に対する製剤の硝子体内投与が臨床試験で研究されている9)

iPS細胞を用いた自己網膜色素上皮細胞移植は、加齢黄斑変性に対する再生医療として研究が進められている7)。遺伝性網膜疾患とは別領域の研究だが、網膜細胞治療の実例として注目される。

Q 遺伝子治療は現在受けられるか?
A

RPE65変異による遺伝性網膜ジストロフィでは、voretigene neparvovecの有効性と安全性がRCTで示されている6)。治療適応の確認には遺伝子検査による病型確定が必要である。CEP290変異を伴うLCA10では、ASO製剤の硝子体内投与が臨床試験で研究されている9)

常染色体優性・劣性・X連鎖性遺伝はメンデルの法則に従う。ただし以下の因子により単純な予測が難しくなる場合がある。

  • 浸透率(penetrance):変異を持っていても全員が発症するわけではない。浸透率が低い場合は世代の飛び越えが生じ、家系図から遺伝形式を推測しにくくなる。
  • 表現度(expressivity):同じ変異遺伝子を持つ家族の間でも症状の重さが異なる場合がある。
  • 機能獲得型変異(gain-of-function):変異タンパクが新たな有害な機能を獲得する機序。通常の優性阻害効果とは異なる。

ミトコンドリアは細胞質に存在し、母親の卵子に由来するmtDNAのみが子へ受け継がれる。mtDNAは1細胞当たり数千コピーが存在し、変異mtDNAと正常mtDNAが混在する状態(ヘテロプラスミー)が生じることがある。ヘテロプラスミーの比率が高いほど症状が重くなる傾向がある。Leber遺伝性視神経症LHON)では11778番(最多)・3460番・14484番の3変異が変異全体の約90%を占める。

片親性ダイソミーは、同一の親から染色体ペアを2本受け取り、もう一方の親の染色体を持たない状態である。常染色体劣性疾患の保因者から生まれた子が、もう一方の親が保因者でない場合でも発症することがあり、見かけ上の孤発例となる10)。De novo変異・複合ヘテロ接合体と合わせ、家族歴がない場合にも遺伝性疾患を考慮すべきである。

  • CEP290変異を伴うLCA10では、ASO療法によるスプライシング補正が臨床試験で研究されている9)
  • CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集治療候補EDIT-101は、LCA10型(CEP290変異)を対象とした前臨床開発が報告されている11)
  • 着床前遺伝学的検査(PGT-M)は常染色体優性・劣性の遺伝性疾患を対象に実施可能であり、倫理的枠組みの下で検討される場合がある12)
  • 全ゲノムシークエンシング(WGS)は遺伝性網膜疾患において既存の標準的な遺伝学的検査よりも分子診断率を高める可能性が示されている13)
  • 人工知能(AI)を活用した遺伝子変異の病原性予測ツールが開発されており、変異の解釈精度の向上が期待されている。
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