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神経眼科

レーバー遺伝性視神経症(LHON)

1. レーバー遺伝性視神経症(LHON)とは

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レーバー遺伝性視神経症(Leber Hereditary Optic Neuropathy:LHON)は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の点変異を原因とし、母系遺伝する急性ないし亜急性の視神経症である。若年男性に多く発症し、両眼の高度視力低下と中心暗点を来す。視力予後は不良であり、2015年に指定難病に認定された。

3大変異(mt3460・mt11778・mt14484)が全症例の約95%を占める。mt11778(MT-ND4遺伝子)が最多であり、アジアでは全症例の約90%を占める1)。有病率は1/31,000〜1/68,000で、保因者頻度は最大1/1,000とされる2)。浸透率は2.5〜17.5%と低いため、保因者の大半は発症しない2)

  • 1871年 Theodor Leber:家族性視神経萎縮として初報告。
  • 1988年 Wallace ら:mt11778変異を同定し、初のミトコンドリア病原性変異として確立。
  • 2015年:厚生労働省指定難病に認定。
Q LHONはどのくらい珍しい疾患か?
A

有病率は1/31,000〜1/68,000とされる希少疾患で、国内の総患者数は約4,000〜5,000人と推計される。2014年の国内疫学調査では年間新規発症者数117人と報告されている。指定難病であり、難病医療費助成制度の対象となる。

変異部位遺伝子複合体国内頻度自然回復率重症度
m.11778G>AMT-ND4複合体I最多数%(15歳以上で約11%)3)重症
m.14484T>CMT-ND6複合体I2番目最も高い(37〜71%)比較的軽症
m.3460G>AMT-ND1複合体I3番目中間重症

3大変異は国内症例の約95%を占める。mt11778は世界でも最多(欧州約70%・アジア約90%)1)。12歳以下の発症例では自然回復率が高い3)

近年、mtDNA変異以外の核遺伝子変異によるLHONも報告されている1)

  • PRICKLE3(Xp11.23):ATP合成酵素(複合体V)に関与し、男性優位の浸透率を説明する候補遺伝子。
  • YARS2(12番染色体):ミトコンドリアチロシルtRNA合成酵素。複合体IおよびIVの機能障害に関与。
  • DNAJC30:常染色体劣性LHON(arLHON)の原因遺伝子。c.152A>G変異が最多。複合体I修復機構のシャペロン蛋白であり、両眼同時発症が40%、発症年齢が若く(12〜14歳)視力回復率が高い。

2015年難病指定・診断カテゴリー

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カテゴリー条件
確定例(definite)主徴候①+②、または①+③すべてを満たす
確実例(probable)主徴候①または③ + 検査所見①+②を満たす
疑い例(possible)主徴候①または③ + 検査所見②+③ + 母系遺伝明らか
保因者(carrier)確定・確実・疑い例の母系血縁で視機能無徴候の変異保有者

心伝導異常・多発性硬化症様脱髄病変などの全身合併症を伴う亜型が存在する。Harding症候群はLHONと多発性硬化症様病変を合併する女性に多い亜型である2)

2014年に国内初の全国疫学調査が行われた。年間新規発症者数は117人(男性109人・女性8人)と算出され、30歳代までの発症が47%を占めた。男女比は男性93.1%と著しい性差を認めた。国内総患者数は約4,000〜5,000人と推計され、有病率は諸外国と同等かやや多い。

有病率は1/31,000〜1/68,000であり2)、保因者頻度は最大1/1,000とされる。2つの発症ピークとして若年成人期(10〜30歳代)と中年期が知られる2)。発症者の80%以上が男性である4)

mtDNA変異は、細胞内の変異型mtDNAと正常型mtDNAの混在(ヘテロプラスミー)として存在することがある。症例全体の10〜15%でヘテロプラスミーを認め、変異負荷が60〜75%未満では非発症の可能性がある。

喫煙は発症リスク因子として確立しており、禁煙指導が重要である。多量のアルコール摂取および抗結核薬(エタンブトール等)の関与も指摘されている。ハプログループJ(mtDNAのハプログループ)は浸透率を高める1)。エストロゲンは神経保護的に作用し、女性の発症率の低さに関与すると考えられている2)

  • 視力低下:片眼の急速な視力低下で発症し、数週〜数か月後に対側眼にも発症する。最終矯正視力は0.01前後にとどまることが多い。視力低下が著しくても光覚は通常保たれる。
  • 中心暗点:中心視野欠損(中心盲点拡大〜盲中心暗点)が特徴的。
  • 色覚異常:赤緑色覚異常を伴う。
  • 無痛性視神経炎と異なり、眼球運動時痛を伴わない。

急性期の所見

視神経乳頭の発赤・腫脹:一様に赤く腫れる。

乳頭近傍毛細血管拡張(telangiectasia)・蛇行:耳側網膜にかけて認められることがある。

網膜神経線維層の拡大:乳頭周囲に認める。

乳頭近傍出血:まれに認める。

慢性期の所見

視神経萎縮:乳頭黄斑線維束を中心とした萎縮が主体。

RNFL菲薄化:急性期の浮腫様肥厚から徐々に移行する。

最終像:蒼白視神経乳頭。乳頭黄斑線維束の萎縮が先行し、最終的に全周に及ぶ。

病期所見
無症候期(保因者)OCTで耳側pRNFL肥厚。眼底に微小な乳頭偽浮腫・毛細血管拡張を呈することがある
亜急性期(〜6ヶ月)乳頭発赤・腫脹(偽浮腫)、乳頭周囲毛細血管拡張・蛇行、FA蛍光漏出なし、中心暗点
動的期(6〜12ヶ月)pRNFL浮腫退縮、視力・視野悪化が持続
慢性期(12ヶ月以降)視神経萎縮確立(乳頭蒼白化)、pRNFL菲薄化、視力低下・中心視野欠損固定
  • RAPD:通常目立たない。両眼同程度の障害のため相対的障害が出にくい。
  • CFF(限界フリッカ値):正常範囲内〜軽度低下にとどまる症例が多い。
  • OCT:発症前より乳頭周囲RNFL肥厚を認めることがある。保因者でも観察される可能性が報告されている5)。急性期の浮腫様所見は慢性期にRNFL菲薄化へ移行する5)。両眼同時発症は約25%、順次発症は約75%であり、中央値8週間で対側眼が発症する。
  • LHON plus:ジストニア・振戦・心伝導異常・多発性硬化症様脱髄病変などの神経合併症を伴う亜型(Harding症候群等)が存在する2)

主要項目1)主徴候

  • ①急性〜亜急性、両眼性、無痛性の視力低下と中心暗点。片眼発症後、数週〜数か月で対側眼に発症
  • ②急性期:視神経乳頭の発赤・腫脹、乳頭近傍毛細血管拡張蛇行、網膜神経線維拡大、乳頭近傍出血のうち1つ以上
  • ③慢性期:乳頭黄斑線維束を中心とした視神経萎縮

主要項目2)検査所見

  • ①特定の塩基対におけるミトコンドリア遺伝子ミスセンス変異
  • ②急性期MRI/CT:球後視神経に異常なし
  • ③急性期蛍光眼底造影:拡張蛇行した乳頭近傍毛細血管からの蛍光色素漏出なし
  • ミトコンドリア遺伝子検査:mt3460・mt11778・mt14484の点変異を検索する(外注検査で対応可)。標的遺伝子シーケンス・次世代シーケンスパネル・ミトコンドリア全ゲノムシーケンスが利用可能である2)
  • 蛍光眼底造影FAG視神経乳頭からの蛍光漏出がないことを確認する。視神経炎との鑑別に必須の検査である。
  • OCT:急性期のRNFL肥厚から慢性期のRNFL菲薄化への推移を評価する。
  • 眼窩MRI/CT:急性期に球後視神経異常がないことを確認する。
  • 視野検査中心暗点・盲中心暗点を検出する。
疾患鑑別のポイント
視神経炎RAPD明確に陽性、眼球運動時痛あり、MRIで視神経造影効果、FAGで蛍光漏出
中毒性視神経症エタンブトール等の服薬歴、対称性両側性、薬剤中止で改善の可能性
常染色体優性視神経萎縮(ADOA)学童期発症、常染色体優性遺伝(OPA1変異)、進行緩徐、視力低下は軽度
圧迫性視神経症MRI/CTで占拠性病変、片側性が多い
栄養欠乏性視神経症ビタミンB12・葉酸欠乏、全身栄養状態不良
Q LHONを視神経炎と鑑別するポイントは?
A

LHONでは①無痛性(眼球運動時痛なし)、②蛍光眼底造影で乳頭からの蛍光漏出がない、③MRIで視神経の造影効果がない、④RAPDが目立たない(両眼同程度の障害)、⑤母系の家族歴がある場合がある——という点で視神経炎と鑑別される。特に蛍光眼底造影での「漏出なし」は最も重要な鑑別所見である。

確立された標準治療は存在しない。禁煙指導が最重要であり、多量飲酒の回避も推奨される。

イデベノンはコエンザイムQ10の合成誘導体であり、ミトコンドリア内膜を通過しやすく血液脳関門も透過する。電子伝達系複合体Iから複合体IIIへの電子移送を促進し、ATP産生を補助する作用を持つ1)

  • RHODOS試験(前向き二重盲検RCT)6):85例の3大変異保有者(発症5年以内)を対象に、イデベノン900 mg/日を6か月間投与した。プラセボ対照比較試験として実施された。
  • LEROS試験(非ランダム化対照試験)7):イデベノン投与群でCRR(臨床的に有意な回復)が31.9〜47.9%であった。治療効果は24か月まで持続した。
  • 欧州承認:EU・イスラエルで思春期以降の患者に承認済み(Raxone®、Chiesi社)3)。米国では未承認。
  • 国内未承認:コエンザイムQ10やビタミンB群・Cのサプリメントが施設判断で使用される。患者自身がイデベノンを個人輸入し内服する例もある。
  • 実臨床データ(ウェールズコホート)2):12例にイデベノン300 mg×3回/日を平均30.2か月投与した結果、27か月時点でCRR 86%(14眼中12眼)、24か月時点の視力はLogMAR 2.22から1.48へ有意に改善した。
  • 慢性期でも有効の可能性:発症18年後に投与を開始した例でも15か月目にCRRを達成した報告がある2)

mt11778変異に対する治療効果比較(メタ解析)3)

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治療群眼レベルCRR患者数
自然経過(無治療)17%(95%CI 7〜30%)316眼
イデベノン31%(95%CI 24〜40%)313眼
レナドジーン・ノルパルボベク(遺伝子治療59%(95%CI 54〜64%)348眼

遺伝子治療>イデベノン>自然経過の効果勾配が認められた。

  • コエンザイムQ10内服(有効の可能性あり、確実ではない)
  • ビタミンB群・C(エビデンスは限定的)
  • ロービジョンケア(拡大読書器・遮光眼鏡等)
  • 難病医療費助成制度の利用案内
Q イデベノンは日本で受けられる治療か?
A

イデベノンは国内では未承認薬である。欧州(Raxone®)では思春期以降のLHON患者に承認されており、一部の患者は個人輸入して内服している。国内ではコエンザイムQ10やビタミンB群・Cのサプリメントが個々の施設の判断によって使用されているのが現状である。今後の国内承認の動向については専門医への相談が勧められる。

7. 病態生理学・詳細な発症機序

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ミトコンドリア電子伝達系の異常

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mtDNA点変異により電子伝達系複合体Iのサブユニット(ND1/ND4/ND6)が機能不全を起こす。伝達されなかった電子から活性酸素種(ROS)が発生し、網膜神経節細胞RGC)のアポトーシスが誘導される。ATP合成の低下とROS産生増加の二重障害が病態の中核を担う1)

保因者の大半は発症しない(浸透率2.5〜17.5%)2)。ある程度の年齢に達するまで発症しないことから、環境因子(喫煙・アルコール・薬剤)の関与が推測される。核遺伝子修飾因子(PRICKLE3・YARS2・DNAJC30)が浸透率と性差に関与する可能性がある1)

mtDNA変異は母系遺伝で性差はないが、発症者の約80%が男性である。X染色体上のPRICKLE3遺伝子変異がATP合成酵素(複合体V)機能に影響し、女性では対側X染色体が代償する可能性が示唆されている1)

網膜神経節細胞の選択的脆弱性

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乳頭黄斑線維束の小径軸索が最も脆弱である。理由としては、乳頭近傍での無髄部分が長く、エネルギー需要が高いことが挙げられる。視神経萎縮は乳頭黄斑線維束から始まり、最終的に全周に及ぶ。

大部分の症例で視力低下と中心視野欠損が残存する。最終矯正視力は0.01前後が多い。まれではあるが、視神経萎縮後でも矯正視力1.0まで改善する例がある。視機能の改善率は遺伝子変異型によって異なる。

変異自然回復率予後
mt11778数%〜14〜20%(15歳以上で約11%)3)最も不良
mt14484最も高い(37〜71%)比較的良好
mt3460中間重症型
  • 発症年齢:12歳以下の発症は回復率が高い3)
  • 遺伝子変異型:mt14484が最も良好
  • 治療介入:イデベノン投与でCRR 31%、遺伝子治療で59%3)
  • 喫煙歴:喫煙者は予後不良の可能性がある

LEROS試験では治療効果が24か月まで持続し、改善が継続した7)。ウェールズコホートでは24か月でCRR 71% vs 自然経過群24%(p<0.001)という有意な差が認められた2)視力改善のピークは27か月前後で、以後は維持〜やや低下の傾向にある2)

遺伝子治療:レナドジーン・ノルパルボベク(lenadogene nolparvovec)

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AAV2ベクターに野生型MT-ND4遺伝子を搭載し、ミトコンドリア移行シグナル配列を付加した製剤である3)硝子体内注射により網膜神経節細胞にND4遺伝子を導入するアロトピック発現法を用いる。

  • 臨床試験:REVEAL(第I/II相、完了)、RESCUE・REVERSE(第III相、完了)、REFLECT(第III相、進行中)、RESTORE(長期追跡、完了)3)
  • 対側眼効果:片眼注射で両眼の視力改善が得られる「対側眼効果」が再現性をもって観察された3)
  • メタ解析でのCRR:59%(自然経過17%・イデベノン31%を大きく上回る)3)
  • 現状:未承認だが、早期アクセスプログラムで一部使用可能。

骨髄由来MSCエクソソームによるmiRNA移送でRGC変性の回復を目指す研究が進められている。iPSC-MSC移植によるミトコンドリア機能回復や、トンネルナノチューブ(TNT)を介した健常ミトコンドリアの細胞間移送も検討されている。いずれもLHONへの臨床応用は前臨床段階にある。

常染色体劣性LHON(arLHON)への新アプローチ1)

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DNAJC30変異によるarLHONは、発症年齢が若く視力回復率が高い特徴を持つ。DNAJC30は複合体I修復のシャペロン蛋白であり、特異的な治療標的として注目される。通常のLHONと臨床像が重なるため、若年発症例では積極的な遺伝子パネル検査が推奨される。またMCAT変異による核遺伝子性LHONも報告されている8)

保因者における視力発症前のOCT変化(RNFL肥厚)が発症予測マーカーとなる可能性が示唆されており5)、予防的介入(早期イデベノン投与等)の有効性検証が今後の課題となっている。

  • EPI-743:抗酸化効果を持つビタミンE誘導体。パイロット試験での有効性が報告されている。
  • フィトエストロゲン:in vitroでRGC保護効果が示されている2)
  • ホルモン補充療法:女性保因者の神経保護を目的とした研究が進行中である。

小児では弱視と誤診されることがあり、弱視治療が無効の場合はLHONを念頭に置いた遺伝子検査が推奨される9)

  1. Hua JL, Hsu CC, Hsiao YJ, et al. Leber’s hereditary optic neuropathy: Update on the novel genes and therapeutic options. J Chin Med Assoc. 2024;87(4):355-363.
  2. Sanders FWB, Votruba M. Outcomes of idebenone therapy for Leber hereditary optic neuropathy in a cohort of patients from Wales. Eye. 2025. doi:10.1038/s41433-025-03xxx.
  3. Newman NJ, Biousse V, Yu-Wai-Man P, et al. Meta-analysis of treatment outcomes for patients with m.11778G>A MT-ND4 Leber hereditary optic neuropathy. J Neuroophthalmol. 2024.
  4. Poincenot L, Pearson AL, Karanjia R. Demographics of a large international population of patients affected by Leber’s hereditary optic neuropathy. Ophthalmology. 2020;127(5):679-688.
  5. Yu-Wai-Man P, Griffiths PG, Chinnery PF. Mitochondrial optic neuropathies—disease mechanisms and therapeutic strategies. Prog Retin Eye Res. 2011;30(2):81-114.
  6. Klopstock T, Yu-Wai-Man P, Dimitriadis K, et al. A randomized placebo-controlled trial of idebenone in Leber’s hereditary optic neuropathy. Brain. 2011;134(Pt 9):2677-2686.
  7. Yu-Wai-Man P, Carelli V, Newman NJ, et al. Therapeutic benefit of idebenone in patients with Leber hereditary optic neuropathy: the LEROS nonrandomized controlled trial. Cell Rep Med. 2024;5(3):101437.
  8. Gerber S, Alzureiqi M, Marlin S, et al. MCAT mutations cause nuclear Leber hereditary optic neuropathy-like optic neuropathy. Genes. 2021;12(4):521.
  9. Petrovic Pajic S, Bjelogrlić I, Dačić Crljen V, et al. Leber hereditary optic neuropathy in patients with presumed childhood monocular amblyopia. J Clin Med. 2023;12(20):6669.

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