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神経眼科

タンザニア地方病性視神経症

1. タンザニア地方病性視神経症とは

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タンザニア地方病性視神経症(Tanzanian Endemic Optic Neuropathy; TEON)は、1991年にタンザニアのダルエスサラームで初めて報告された原因不明の地方病性視神経症である。両眼性の不可逆的視力低下・色覚異常感音難聴・末梢神経障害を特徴とし、主として若年成人に発症する。

発症年齢は10〜39歳で中央値は20歳であり、性差は認められない。有病率はダルエスサラームの若年成人で0.3〜2.4%と推定される。地理的にはダルエスサラームをはじめとするタンザニア沿岸都市に限定されており、内陸部からの報告は1例のみである。職業・学校による集団発生(クラスタリング)は認められていない。

臨床像はキューバで1991〜1993年に流行した流行性視神経症と類似しているが、キューバの流行が中高年層を中心に数万人規模で発症したのに対し、TEONは若年層に限定されて継続的に発症している点で異なる。

Q キューバの流行性視神経症との違いは何ですか?
A

両疾患は臨床像(両眼性無痛性視力低下・色覚障害)と広範なビタミンB群欠乏の点で類似するが、キューバでは主に成人〜高齢者が数万人規模で短期間に集団発症した。キューバでは1993年に全住民へのビタミンB群補給により流行が終息したが、TEONは若年層中心に継続して散発的に発症しており、原因は現在も未確定のまま続いている。

典型的な眼症状

  • 視力低下:同時性・両眼性・無痛性に発症する。2〜12週間にわたり進行することがある。まれに発症後6か月まで視力低下が継続する例もある。
  • 中心暗点・盲点中心暗点:視野の中心部が見えにくくなる。
  • 色覚低下:赤・緑色の識別が困難になる色覚障害を伴う。

比較的まれな眼症状

  • 眼球運動時の痛み
  • 羞明(光過敏)

眼外症状

  • 感音難聴:約50%の患者に認められる顕著な合併症である。
  • 感覚性末梢神経障害:手足の痛みを伴うニューロパチー。

稀な症状

  • 歩行失調、体重減少、口内炎

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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  • 視力:両眼とも矯正視力6/9以下。左右差はスネル視力表で2行以内に収まる対称性の視力障害。
  • 色覚:石原式色覚検査表で少なくとも1枚の誤読(色覚低下)。
  • 眼底所見:対称的な耳側視神経萎縮を伴う両眼性の視神経乳頭蒼白。
  • OCT所見網膜神経線維層RNFL)の減少が乳頭黄斑線維束に局在し、他領域は保存されることが多い。変化は大部分が重度で左右一致している。少数例では黄斑鼻側に微小嚢胞様変化が認められる。
  • 対光反応:中毒性・栄養障害性視神経症では対光反応は保たれ、相対的瞳孔不同RAPD)は基本的に陰性となる。
Q 視力低下以外にどのような症状がありますか?
A

感音難聴(約50%)、手足の痛みを伴う感覚性末梢神経障害が代表的な眼外症状である。まれに歩行失調・体重減少・口内炎を合併することもある。これらの眼外症状が本疾患の特徴であり、鑑別診断の重要な手がかりとなる。

TEONの特定の原因は現在も未確定である。以下のリスク因子が研究で特定されているが、いずれも因果関係は確立されていない。

栄養関連因子

  • 低葉酸摂取:患者・対照群の両方でビタミンB群欠乏が広く認められている。
  • ビタミンB群欠乏はキューバ流行性視神経症との共通因子であるが、単独では発症原因として確立されていない。

環境関連因子

  • 室内汚染への曝露増加:調理時の木炭・薪の使用による煙への暴露。
  • 重金属:足爪から高レベルのマンガン・コバルト・スズが検出されている。

社会経済的因子

  • 低い社会経済的地位が独立したリスク因子として示唆されている。

遺伝的因子の否定

  • レーベル遺伝性視神経症LHON)関連ミトコンドリアDNA変異(G11778A、G3460A、T14484C)は検出されず、遺伝性視神経症との関連は否定的である。
  • キャッサバ摂取はキューバでリスク因子とされたが、タンザニアではシアン化合物中毒の証拠はない。
Q この疾患の原因はビタミン不足だけですか?
A

ビタミンB群欠乏は患者に広く認められるが、それ単独では原因として確立されていない。室内汚染への曝露増加・重金属(マンガン・コバルト・スズ)・低葉酸摂取・低い社会経済的地位など、複数の因子の関与が示唆されている。単一の原因因子よりも、栄養不足集団における多因子性の疾患プロセスと考えられている。

TEONに対する確立した診断基準のコンセンサスはない。多くの研究では「中心暗点または盲点中心暗点を伴う進行性・対称性・両眼性の視力低下」かつ「色覚障害」を満たす症例として定義されている。感音難聴や感覚性ニューロパチーは一般的だが、診断に必須ではない。

以下の情報を体系的に収集する。

  • 職業的・環境的な毒素曝露歴
  • 食事内容(キャッサバ摂取・ビタミンB群摂取状況)
  • 室内での木炭・薪使用状況
  • 喫煙歴・アルコール乱用歴
  • 悪性腫瘍・脱髄疾患の既往
  • 性交渉歴(感染性視神経症の除外)
  • 遺伝性視神経症の家族歴
  • スネル視力検査:両眼性矯正視力6/9以下の確認
  • 石原式色覚検査:少なくとも1枚の誤読で色覚低下を確認
  • アムスラー格子中心暗点の評価
  • ハンフリー視野検査:周辺部網膜疾患の除外
  • 交互対光反射試験(swinging flashlight test):両眼性視神経障害ではRAPDは陰性
  • 光干渉断層計OCT網膜神経線維層RNFL)減少の確認(乳頭黄斑線維束に局在)

視神経障害の精査では視覚誘発電位VEP)が有用であり、視神経症では振幅低下を認め、潜時延長は一般に伴わない。

以下の検査で他の視神経症を除外する。

検査項目目的
血清葉酸・ビタミンB12ビタミン欠乏の評価
RPR(梅毒血清反応)感染性視神経症の除外
HIV抗体・HTLV-1抗体感染性病因の除外
血清チオシアン酸塩シアン化合物中毒の除外
ミトコンドリアDNA解析LHON関連変異の除外

必要に応じてMRI(脱髄疾患の除外)を追加する。

  • ビタミンB群欠乏症:食事歴・血清検査で評価
  • レーベル遺伝性視神経症LHON:両眼ほぼ同時発症では中毒性・栄養障害性視神経症と誤診しやすい。疼痛の有無が重要な鑑別点であり、LHONでは急性期に乳頭近傍毛細血管拡張・蛇行を認める。ミトコンドリアDNA変異の確認で鑑別する。
  • 薬物・毒素曝露による視神経症:エタンブトール・メタノールなど
  • 感染性病因:梅毒・HTLV-1関連視神経症
  • 脱髄疾患多発性硬化症では一般に眼球運動時疼痛・単眼性発症が多い
  • 血管性疾患:虚血性視神経症は高齢者・心血管リスク因子保有者に多い

TEONの管理は一般に対症療法であり、確立された特効薬は存在しない。転帰は全体的に不良である。

ビタミン補給

急性期のビタミン補給は一定の成功を収めているが、疾患経過の早期に投与する必要がある。キューバの流行では1993年に全住民対象のビタミンB群補給により流行が終息した。視神経萎縮を完全に止める治療は存在しないが、長期経過の視神経萎縮にビタミンB12内服投与が行われる場合もある。

治療の原則

中毒性・栄養障害性視神経症の治療原則として、原因物質の中止と栄養の十分な摂取が重要である。

Q ビタミン補給で視力は回復しますか?
A

早期投与では一定の効果が報告されているが、進行した症例では視力低下は不可逆的となりうる。確立された特効薬はなく、対症療法が中心となる。キューバの流行例では全住民への早期ビタミンB群補給が流行の終息に寄与したが、個々の患者における視力回復は保証できない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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TEONの病態生理学的メカニズムは現在も未解明である。キューバとタンザニアの両流行において広範なビタミンB群欠乏が認められたことは、栄養不足集団における多因子性の疾患プロセスを示唆するが、単一の病因は特定されていない。

LHON関連ミトコンドリアDNA変異は検出されておらず、遺伝性視神経症の機序は否定的である。

中毒性・栄養障害性視神経症の病態として、網膜神経節細胞のうちATP消費の激しいP細胞(乳頭黄斑線維束を形成する細胞群)が優位に障害されると推定されている。これはOCTでのRNFL減少が乳頭黄斑線維束に局在するという観察所見とも一致する。

近年のスペクトラルドメインOCT研究(Kisimbi 2013)では、TEON患者128例のうち約12.5%で黄斑内顆粒層を中心とした微小嚢胞様変化が認められ、神経節細胞死に続発する非特異的所見として報告されている。これは多発性硬化症など他の視神経疾患でも観察される変化と類似する。

原因となるメカニズムの解明と、より有効な治療戦略の開発が今後の重要な課題となっている。

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  5. Kisimbi J, Shalchi Z, Mahroo OA, Mhina C, Sanyiwa AJ, Mabey D, Mohamed M, Plant GT. Macular spectral domain optical coherence tomography findings in Tanzanian endemic optic neuropathy. Brain. 2013;136(Pt 11):3418-3426. PMID: 24018312
  6. Adamolekun B. Neurological disorders associated with cassava diet: a review of putative etiological mechanisms. Metab Brain Dis. 2011;26(1):79-85. PMID: 21327546

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