Rayleigh等色(赤緑等色)
対象:先天赤緑色覚異常(1型・2型)
光源:黄色光(589nm)vs 赤(670nm)+緑(546nm)混合光
装置:Nagel型アノマロスコープ
原理:赤/緑混合比と黄色光の等色。L錐体・M錐体の感度比が正常と異なると、等色点・等色範囲が変化する。
アノマロスコープは、色光の混合と単色光の等色(カラーマッチング)を利用して、色覚異常の型と程度を定量的に判定する精密検査装置である。正確な型判定が必要な場合、または色覚異常の有無を確定しなければならない場合に用いる。
アノマロスコープの主な目的は以下の3点である。
1907年にドイツのWillibald Nagelが Rayleigh 等色の原理に基づきNagel型アノマロスコープを開発した。以来、色覚異常の確定診断のゴールドスタンダードとして用いられている。先天赤緑色覚異常は赤・緑色光の弁別に関わる錐体(L錐体・M錐体)の異常を反映するため、同波長域を操作するNagel型がその確定診断に最適とされる。
色覚異常のスクリーニングから確定診断までには段階的な検査フローが用いられる。
| ステップ | 検査 | 目的 |
|---|---|---|
| 1 | 石原式仮性同色表 | スクリーニング(色覚異常の有無の検出) |
| 2 | パネルD-15 | 程度判定(強度・中等度・軽度の大まかな評価) |
| 3 | アノマロスコープ | 確定診断・精密型判定 |
アノマロスコープはスクリーニングには不向きだが、型の確定および定量的な程度評価においては他の色覚検査の追随を許さない精度をもつ。
アノマロスコープの適応として以下が挙げられる。
各色覚検査の特性を以下に示す。
| 検査 | スクリーニング | 型判定 | 程度判定 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 石原式仮性同色表 | ◎ | △ | × | 学校健診・外来スクリーニング向け |
| パネルD-15 | ○ | ○ | ○(軽〜中等度) | 程度の大まかな評価に有用 |
| 100ヒューテスト | ○ | ○ | ◎ | 詳細な程度評価に優れる |
| アノマロスコープ | × | ◎(最確実) | ◎ | 確定診断の金字塔 |
アノマロスコープは検査に時間を要し、専門施設に機器が限定されるため、スクリーニング目的での使用は適さない3)。
アノマロスコープは「光の混合比を被検者が調節して一致(等色)させる」というカラーマッチングの原理に基づく。
Nagel型アノマロスコープの接眼部には2分割された円形視野がある。
被検者は赤/緑比率を変化させながら「両側が同じ色・同じ明るさに見える」位置を探す。この一致点(等色点)とその範囲(等色範囲)を記録する。
Rayleigh等色(赤緑等色)
対象:先天赤緑色覚異常(1型・2型)
光源:黄色光(589nm)vs 赤(670nm)+緑(546nm)混合光
装置:Nagel型アノマロスコープ
原理:赤/緑混合比と黄色光の等色。L錐体・M錐体の感度比が正常と異なると、等色点・等色範囲が変化する。
Moreland等色(青緑等色)
対象:先天青黄色覚異常(3型色覚)
光源:青緑色単色光 vs 青色光+緑色光の混合光
装置:Moreland等色対応の拡張型装置
原理:青/緑混合比と青緑色光の等色。S錐体の感度異常を反映する。Nagel型では3型色覚の評価は不可。
Rayleigh等色は黄色単色光(589nm)と赤・緑混合光の輝度・色を一致させるカラーマッチング手法である。正常色覚では一定の赤/緑比率でのみ等色が成立するが、L錐体またはM錐体に異常があると等色成立範囲が大きく広がる。2色覚では全混合比範囲で等色が成立し、異常3色覚では等色範囲が広いが有限である。この差異を数値化することで色覚型と程度を定量評価できる。
正常者は1:1(緑:赤)付近の狭い範囲でのみ等色が成立する。色覚異常があると等色範囲が広がり、2色覚では全範囲で等色が成立する。
各色覚型でのアノマロスコープ所見を以下に示す。
| 色覚型 | 等色範囲(Rayleigh等色) | 輝度調節 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 正常色覚 | 1:1付近で狭い範囲 | わずか | 正常 |
| 1型2色覚(protanopia) | 赤のみで全範囲(0〜73全域)等色 | 赤光を暗くする | 1型2色覚 |
| 1型3色覚(protanomaly) | 赤寄りで広い範囲 | 赤光をやや暗くする | 1型3色覚 |
| 2型2色覚(deuteranopia) | 緑のみで全範囲等色 | 輝度調節ほぼなし | 2型2色覚 |
| 2型3色覚(deuteranomaly) | 緑寄りで広い範囲 | 輝度調節わずか | 2型3色覚 |
1型色覚異常の特徴として、L錐体の欠損または感度異常により赤光の比視感度(輝度の感じ方)が低下するため、等色時に赤光を暗くする輝度調節が生じる。この輝度調節の有無が1型と2型の最も重要な鑑別点である。
2色覚では等色範囲が全スケール(0〜73)に及ぶ一方、異常3色覚では等色範囲が正常より広いが全範囲には及ばない。異常3色覚の等色範囲が正常の等色点を含むかどうかで程度の評価が可能である4)。
最も重要な鑑別点は輝度調節(比視感度)の違いである。1型(protan系)ではL錐体の感度異常により赤光を暗く感じるため、等色時に赤光の輝度を下げる調節が生じる。2型(deutan系)ではM錐体の感度異常で輝度感覚への影響が小さく、輝度調節がほとんど不要なまま等色が成立する。加えて等色範囲の偏りも異なり、1型は赤側・2型は緑側に等色範囲が偏る傾向がある。
一部の職業では色覚に関する法的基準が定められており、精密な型判定が求められる。対象職種として航空機パイロット、鉄道運転士、船舶操縦士、警察官、自衛官などが挙げられる2)。これらの職業では石原式等のスクリーニング検査だけでは不十分であり、アノマロスコープによる等色範囲の数値的評価が必要となる場合がある。
後天色覚異常(視神経疾患・黄斑疾患・薬物性色覚異常等が原因)では、等色範囲が経時的に変動する点が先天色覚異常との重要な鑑別点となる。先天色覚異常は生涯にわたり安定した等色範囲を示すが、後天色覚異常では原疾患の活動性に伴い等色範囲が変化する5)。そのため後天色覚異常の疑い例には複数回のアノマロスコープ検査が有用である。
先天赤緑色覚異常の型と程度を正確に記録することは、X連鎖劣性遺伝のパターンに基づく遺伝カウンセリングに役立つ。保因者女性のなかには軽微な等色範囲の広がりを示す例もあり、アノマロスコープでの精密評価が保因者診断の補助となることがある6)。
機器が高価で操作に熟練を要するため、大学病院や専門の眼科施設に限定される。一般の眼科クリニックではアノマロスコープを保有していない場合が多い。
先天赤緑色覚異常の世界的有病率は男性の約8%、女性の約0.5%とされ、集団間で差がある1)。有病率は民族・地域によって異なり、日本人男性では約5%・女性では約0.2%が報告されている。こうした有病率の高さから、学校健診・就職前健診における適切な色覚検査体制の整備が重要とされている7)。
従来の光学式アノマロスコープはハロゲンランプや干渉フィルターを使用するが、近年ではLEDやモニターベースのデジタルアノマロスコープの開発が進んでいる3)。デジタル化により機器のポータビリティが向上し、専門施設以外での実施が可能になることが期待されている。
スマートデバイスのディスプレイを利用した簡易的なカラーマッチング検査が研究されている。ただし、ディスプレイの色再現特性・キャリブレーション・環境照明の影響を受けるため、現時点では Nagel型アノマロスコープの代替とはなっていない。
次世代シークエンシングによるL遺伝子・M遺伝子の遺伝子型解析と、アノマロスコープによる表現型評価を組み合わせることで、ハイブリッド遺伝子の種類と等色範囲の関係を精緻に解析する研究が進んでいる6)。遺伝型と表現型の対応解明は遺伝カウンセリングの精度向上に貢献すると期待される。