石原色覚検査表(仮性同色表)
色覚検査(石原表・パネルD-15・FM100ヒューテスト)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 色覚検査とは
Section titled “1. 色覚検査とは”色覚検査は、色覚異常(color vision deficiency)の有無・型・程度を判定するための一連の検査法の総称である。色覚異常は先天色覚異常と後天色覚異常に大別される。先天色覚異常は遺伝による錐体視物質の異常であり、後天色覚異常はそれ以外の原因によるすべての色覚障害をいう。後天色覚異常は原疾患が先天性であっても後天色覚異常に分類される。
先天赤緑色覚異常は日本人男性の約5%、日本人女性の約0.2%に認められる。X染色体上のL遺伝子・M遺伝子の欠損または発現異常で生じるX連鎖性遺伝疾患であり、先天色覚異常の中で最も多い型である。人種差があり、男性では白色人種6〜8%、黄色人種4〜5%、黒色人種2〜4%程度である。
色覚検査の目的は以下の4点に整理される。
- ①スクリーニング: 学校検診・職業適性検査での色覚異常の有無の検出
- ②型・程度の判定: 1型・2型・3型の分類と程度評価
- ③後天色覚異常の検出: 網膜・視神経疾患の補助診断および病態モニタリング
- ④進路・就職相談: 職業適性の評価と生活指導のための情報収集
検査は目的に応じてスクリーニング→程度判定→確定診断の3段階アプローチを基本とする。石原色覚検査表がスクリーニングの第1段階として最も広く用いられ、次いでパネルD-15テストによる程度判定、最終的にアノマロスコープによる確定診断という流れが標準的である。
学校での色覚検査は2003年に学校保健安全法施行規則の改正で定期健康診断の必須項目から削除された。その後、色覚異常を自覚しないまま進路選択で困難に直面する事例が増加し、2014年の文部科学省通知により学校での色覚検査実施(希望者対象)が再推奨されるに至った4)。
2. 各色覚検査法の適応と臨床的意義
Section titled “2. 各色覚検査法の適応と臨床的意義”色覚検査法は目的別に使い分ける。主要な検査法と各適応の比較を以下に示す。
| 検査法 | スクリーニング | 型判定 | 程度判定 | 後天異常評価 | 検査時間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 石原色覚検査表 | ◎ | △ | × | × | 5〜10分 |
| 標準色覚検査表第1部(先天異常用) | ○ | ○ | △ | × | 5〜10分 |
| 標準色覚検査表第2部(後天異常用) | × | × | × | ○ | 5〜10分 |
| パネルD-15テスト | ○ | ○ | ○ | ○ | 3〜5分 |
| FM100ヒューテスト | ○ | ○ | ◎ | ◎ | 15〜30分 |
| アノマロスコープ | × | ◎ | ◎ | △ | 約30分 |
先天色覚異常の3段階検査フローは以下のとおりである。
- ステップ1(スクリーニング): 仮性同色表(石原表・標準色覚検査表第1部)→色覚異常の有無を検出
- ステップ2(程度判定): パネルD-15テスト→型と程度を評価
- ステップ3(確定診断): アノマロスコープ→型の確定・程度の精密評価
後天色覚異常の評価には標準色覚検査表第2部またはFM100ヒューテストを用いる。後天色覚異常は各錐体系の障害の程度により後天青黄色覚異常と後天赤緑色覚異常に大別されるが、そのいずれかが単独で現れることはなく、程度の差はあっても必ず両者が混在している。
大きく4種類に分類される。①仮性同色表(偽等色表): 石原表・標準色覚検査表第1部・第2部など。スクリーニングと後天異常評価に使用。②色相配列検査: パネルD-15テスト・FM100ヒューテスト。程度判定・混同色軸の分析に使用。③アノマロスコープ: 赤緑の混色と黄の単色の等色に基づく確定診断機器。④コンピュータ化検査(Cambridge Colour Test等): 先天・後天の定量的評価が可能。各検査はそれぞれ長所・短所があるため、目的に応じた組み合わせが重要である。
3. 各検査法の原理と手順
Section titled “3. 各検査法の原理と手順”
パネルD-15テスト(色相配列検査)
原理: 15個のMunsell色体系に基づく色チップを、基準色チップ(固定)に最も近い順に並べさせる。正常色覚者はほぼ正しい順列で配置できる5)。
手順: 1固定チップと15移動チップをランダムな順序に並べた状態から開始。被検者は基準チップに最も近いと思う色チップを順次並べていく。所要時間は3〜5分。
判定パターン:
- 正常: ほぼ正しい順列(混同なし)
- 1型色覚(protan): 1型混同色軸に沿った横断線パターン
- 2型色覚(deutan): 2型混同色軸に沿った横断線パターン
- 3型色覚(tritan): scotopic軸に沿った横断線パターン
特徴: 軽度〜中等度の色覚異常の評価に適する。非常に軽度の異常3色覚はpassとなる場合がある。後天色覚異常の評価にも使用可能である5)。
FM100ヒューテスト(精密検査)
原理: 85個の色チップを色相順に並べさせる精密な色相配列検査。パネルD-15の拡張版として、より細かな色相識別能を評価する5)。
手順: 85個のチップを4箱(各22〜23個)に分けて検査する。各箱を独立して実施し、エラースコアを算出する。所要時間は15〜30分(疲労・集中力の影響を受けやすい)。
判定: エラースコアを偏差図(デビエーションプロット)にプロットし、混同色軸のパターンを評価する。混乱角・CインデックスおよびSインデックスで定量的評価を行う3)。
用途: 軽微な後天色覚異常の検出・色相識別能の詳細評価・経時的モニタリングに有用。専門施設での使用が中心となる5)。
標準色覚検査表第2部(後天異常用)
4. 検査結果の解釈
Section titled “4. 検査結果の解釈”
先天色覚異常の型と検査所見
Section titled “先天色覚異常の型と検査所見”先天赤緑色覚異常の型分類と各検査での所見対応を以下に示す。異常型の比率は2型3色覚(deuteranomaly)が最も多く、次いで2型2色覚(deuteranopia)、1型3色覚(protanomaly)・1型2色覚(protanopia)の順である。
| 型 | 錐体の異常 | 石原表 | D-15パターン | 頻度(男性) |
|---|---|---|---|---|
| 1型2色覚(protanopia) | L-錐体欠損 | 赤緑誤読 | 1型軸横断線 | 約1% |
| 1型3色覚(protanomaly) | L-錐体機能異常 | 赤緑誤読(軽〜中等度) | 1型軸横断線(軽度) | 約1% |
| 2型2色覚(deuteranopia) | M-錐体欠損 | 赤緑誤読 | 2型軸横断線 | 約1% |
| 2型3色覚(deuteranomaly) | M-錐体機能異常 | 赤緑誤読(軽〜中等度) | 2型軸横断線(軽度) | 約5%中最多 |
| 3型色覚(tritan系) | S-錐体異常 | 検出不可 | scotopic軸横断線 | まれ(常優性) |
石原表は赤緑色覚異常の検出感度が高いが、型・程度の判定精度は低い。2種類以上の仮性同色表を組み合わせることが推奨される。3型色覚(先天青黄色覚異常)は石原表では検出できず、標準色覚検査表第2部やパネルD-15テストで評価する。
後天色覚異常の評価
Section titled “後天色覚異常の評価”後天色覚異常は、視路のうち角膜・水晶体・硝子体・網膜・視神経・視索・第1次視覚野・視放線・大脳皮質の視中枢のどこの異常も原因となりうる。最も多いのは網膜・視神経疾患によるものである。
後天色覚異常は後天青黄色覚異常と後天赤緑色覚異常に大別されるが、そのいずれかが単独で現れることはなく、程度の差はあっても必ず両者が混在する。
| 疾患 | 主な後天色覚異常パターン | 推奨検査 |
|---|---|---|
| 黄斑疾患(加齢黄斑変性・中心性漿液性脈絡網膜症など) | 後天青黄色覚異常優位 | 第2部・FM100 |
| 視神経炎・視神経症 | 後天赤緑色覚異常優位 | 第2部・FM100 |
| 網膜色素変性 | 後天青黄色覚異常(錐体機能低下とともに増強)1) | FM100・D-15 |
| 緑内障 | 後天青黄色覚異常(初期)→混合型 | FM100 |
| 糖尿病網膜症 | 後天青黄色覚異常 | 第2部・FM100 |
網膜色素変性では錐体機能の低下とともに色覚障害は強まり、後天青黄色覚異常が高頻度に検出される1)。色名呼称課題は実生活での色誤認把握や患者への助言に役立つ。
5. 検査の臨床応用
Section titled “5. 検査の臨床応用”学校・検診での色覚検査
Section titled “学校・検診での色覚検査”2003年の学校保健安全法施行規則改正により、色覚検査は学校定期健康診断の必須項目から削除された。色覚異常を把握しないまま成長し、進路選択の段階で困難に直面する事例が増加したことを受け、2014年の文部科学省通知により学校での色覚検査(希望者実施)が再推奨された4)。
小学校4年生頃(身体的・心理的に落ち着いた時期)に眼科での詳細な型判定を受けることが推奨される。進路選択の前に自身の色覚特性を正確に把握することは、本人の適切な進路選択を支援するうえで重要である。
後天色覚異常のモニタリング
Section titled “後天色覚異常のモニタリング”視神経炎・黄斑疾患・網膜色素変性などの経過観察において、色覚検査を客観的な機能評価として活用する。
- 視神経炎: 後天赤緑色覚異常パターン。治療に対する反応を追う指標となる
- 黄斑疾患(加齢黄斑変性・中心性漿液性脈絡網膜症): 後天青黄色覚異常の程度で黄斑機能を評価
- 網膜色素変性: FM100ヒューテストでの混乱角パターン変化を経時的に観察1)
患者・保護者への説明
Section titled “患者・保護者への説明”先天色覚異常の患者(特に幼少児)に対しては、主に保護者への説明となる。色覚異常は生来のものであるため、色誤認をしても本人にとっては決して「間違い」ではないことを念頭に置かなければならない。最も大切なことは、将来の進学や就職には色覚異常であることを十分に考慮し、色覚異常ゆえに困難に陥ることがないようにすることである。
特定の職業・資格(航空機パイロット・鉄道運転士・船舶操縦士・警察官・自衛官など)では色覚に関する制限がある場合がある。業務内容や制限状況を具体的に確認し、個別に助言することが重要である。
色以外の情報(形・位置・明るさ・ラベル・テクスチャなど)を活用するカラーユニバーサルデザインの観点も、患者指導において有用である。
6. 検査の限界と注意事項
Section titled “6. 検査の限界と注意事項”各検査法には固有の限界がある。適切な使い分けと検査結果の解釈に注意が必要である。
石原表の限界:
パネルD-15テストの限界:
- 非常に軽度の異常3色覚(軽度deuteranomaly等)はpassとなりうる
- 確定診断にはアノマロスコープが必要
- 照明条件に敏感であり、標準光源下での実施が不可欠
FM100ヒューテストの限界:
- 検査時間が長い(15〜30分)
- 疲労・集中力の低下が結果に影響する
- 専門施設での実施が中心
- 高齢者では加齢性の色識別能低下が結果に影響する(正常上限値は年齢層によって異なる)5)
検査照明条件:
- 全ての色覚検査は自然昼光または色温度6500Kの標準光源下で実施する
- 照明条件が不良の場合、正常色覚者でも誤読が生じうる
- 色覚補正眼鏡・色付きコンタクトレンズ着用時は結果が変わるため、検査時は使用しない
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”デジタル・コンピュータ化色覚検査の普及: タブレット・モニター上での色覚検査の標準化が進んでいる。Cambridge Colour Test(CCT)などのコンピュータ化検査は、先天・後天色覚異常の定量的評価が可能であり、検者依存のばらつきを低減できる5)。ただし、ディスプレイのキャリブレーション管理が検査精度の前提条件となる。
カラーユニバーサルデザインの普及: 公共サイン・教材・Webデザイン・医療文書などへの応用が進んでいる。色のみに依存しない情報伝達設計により、色覚多様性を持つ人々の情報アクセスが改善される。
遺伝子診断との連携: L/M遺伝子解析による分子生物学的確定診断の研究が進んでいる。アノマロスコープによる表現型評価と遺伝子型の対応が精緻化されつつあり、今後の臨床応用が期待される。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”-
網膜色素変性診療ガイドライン作成委員会. 網膜色素変性診療ガイドライン. 日眼会誌. 2016;120(12):846-861.
-
Birch J. Efficiency of the Ishihara test for identifying red-green colour deficiency. Ophthalmic Physiol Opt. 1997;17(5):403-408.
-
Vingrys AJ, King-Smith PE. A quantitative scoring technique for panel tests of color vision. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1988;29(1):50-63.
-
文部科学省. 学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知). 26文科ス第96号. 2014年4月30日.
-
Dain SJ. Clinical colour vision tests. Clin Exp Optom. 2004;87(4-5):276-293.