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網膜・硝子体

糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫(Diabetic Retinopathy and Diabetic Macular Edema)

1. 糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫とは

Section titled “1. 糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫とは”

糖尿病網膜症(DR)は、高血糖に起因した代謝異常によりさまざまなサイトカインやケモカインが誘導されることで引き起こされる網膜の微小血管障害である。2次的に多様な眼底病変がもたらされ、糖尿病神経障害・糖尿病腎症とともに3大合併症と称される。近年は微小血管疾患にとどまらず「神経血管疾患」として再定義されている2)

後天性視覚障害原因の第2位に位置し、年間約3,000人がDRにより失明している。

糖尿病黄斑浮腫(DME)は、糖尿病黄斑症の中で最も頻度が高い病型である。糖尿病黄斑症には黄斑浮腫・虚血性黄斑症・網膜色素上皮症の3型が含まれるが、黄斑浮腫の頻度が最も高く、臨床的に重要な視力低下原因となる。DMEはDRのどの病期でも発症しうる。DMEの病態は血管透過性亢進・血管閉塞による血流障害・膠質浸透圧低下・後部硝子体膜の牽引など多因子が関与する複雑なものである。

糖尿病黄斑浮腫の眼底写真、蛍光眼底造影、OCT、網膜厚マップを組み合わせたマルチモーダル画像

Medicina (Kaunas). 2023;59:896. Figure 1. PMCID: PMC10221113. License: CC BY.
眼底写真では網膜出血と硬性白斑を認める。FAでは黄斑部漏出、OCTでは嚢胞様腔と網膜肥厚が描出される。DMEを理解する入口として、眼底写真・造影・OCTを対応させて見るとよい。

日本における主要な疫学データを以下に示す1)

  • 日本人2型糖尿病患者976名を平均8.3年追跡: DR発症率 年3.98%
  • JDCS(1,221名、平均58.2歳、HbA1c 8.2%)8年追跡: DR発症率 年3.83%
  • JDCS 410名: 軽症NPDR→重症NPDR/PDR進行率 年2.11%
  • 日本を含むアジア地域のDR有病率 19.9%
  • 日本のDR有病率 23.5%(軽症〜中等症NPDR 18.5%、DME 3.7%)
  • 2型DM診断時にすでに約30%がDR発症済み

世界レベルでは、糖尿病患者の34.6%(約9,300万人)がDRを有する2)。2020年推計ではDR 1億312万人、視力を脅かすDR(VTDR)2,854万人、臨床的に重要な黄斑浮腫(CSME)1,883万人と報告されており、2045年には1億6,050万人へ増加することが予測される2)。1型DMでは発症20年後に約90%にDRが生じる11)

Q 糖尿病網膜症はどのくらいの頻度で発症するか?
A

日本の大規模コホートでは年3.8〜4.0%の頻度でDRが発症し、2型DM診断時にすでに約30%がDRを有する1)。世界的には糖尿病患者の34.6%(約9,300万人)がDRを有し2)、1型DM発症20年後には約90%に認める11)

初期のDRは無症状で進行することが多い。症状が出現した時点では、すでに中等度以上の病変が存在することが多い。

  • 視力低下: DME合併時や硝子体出血が生じた場合に出現。
  • 変視症(ゆがみ): 黄斑浮腫中心窩に及んだ場合。
  • 飛蚊症: 硝子体出血による突然の多数の浮遊物出現。
  • 視野欠損: 牽引性網膜剥離・広範な無灌流域、あるいは汎網膜光凝固後に生じることがある。
  • 急速な視野狭窄の進行: 血管新生緑内障NVG)による著しい高眼圧が原因となる場合がある。
Q 初期の糖尿病網膜症にはどのような症状が出るか?
A

初期は自覚症状がほとんどなく、無症状のまま進行する。視力低下・飛蚊症変視症などが出現した時点では中等度以上の病変が存在することが多いため、糖尿病と診断されたら症状がなくても定期的な眼底検査が必要である。

病期別の主要な眼底所見を以下に示す。

単純網膜症

毛細血管瘤:DRの最早期所見。点状の過蛍光として蛍光眼底造影で描出される。

網膜出血:点状・斑状出血。赤血球が毛細血管から漏出して生じる。

硬性白斑:血管透過性亢進により血漿成分が漏出し、脂質が沈着したもの。

増殖前網膜症

軟性白斑視神経線維の軸索輸送が障害された局所梗塞巣。網膜虚血を反映する。

数珠状静脈拡張・ループ形成:血管閉塞領域に隣接して出現。

IRMA(網膜内細小血管異常):無灌流域周囲のシャント形成。蛍光造影でも漏出が目立たない点が新生血管との鑑別点となる。

増殖網膜症

新生血管:広範な毛細血管閉塞によるVEGF過剰産生により網膜・乳頭上に出現。蛍光造影で旺盛な蛍光漏出を示す。

線維血管性増殖膜新生血管周囲に線維芽細胞様細胞が増殖して形成。

牽引性網膜剥離増殖膜網膜の癒着に硝子体牽引が加わって発生。黄斑を巻き込むと視力予後不良となる。

増殖糖尿病網膜症における新生血管と広視野OCT画像

J Diabetes Res. 2015;2015:305084. Figure 5. PMCID: PMC4530264. License: CC BY.
増殖糖尿病網膜症では乳頭周囲や網膜面に新生血管が出現する。広視野en face画像と断層像を対応させると、網膜表面へ突出する線維血管性病変として把握しやすい。

国際重症度分類(ICDR)および新福田分類

Section titled “国際重症度分類(ICDR)および新福田分類”

重症NPDRは「4-2-1ルール」で定義される2)。すなわち、以下のいずれか1つ以上を満たす場合である。

  • 4象限で20個以上の網膜出血
  • 2象限以上の明瞭な数珠状静脈拡張
  • 1象限以上の明確なIRMA

新福田分類1)は良性(A群)と悪性(B群)に大別される。

分類病期所見
A1軽症単純毛細血管瘤・点状出血
A2重症単純しみ状出血・硬性白斑・少数の軟性白斑
B1増殖前軟性白斑・静脈拡張・IRMA・蛍光眼底造影でNPA
B2早期増殖乳頭に直接連絡しない新生血管
B3中期増殖乳頭に直接連絡する新生血管
B4末期増殖硝子体出血網膜前出血
B5末期増殖線維血管性増殖組織
A3〜A5増殖停止陳旧性新生血管・VH・増殖組織

治療により6か月間以上鎮静化すると増殖停止網膜症と称する。合併症表記として M(黄斑病変)・D(牽引性RD)・G(NVG)・N(虚血性視神経症)・P(光凝固)・V(硝子体手術)を付記する。

AI生成による糖尿病網膜症の病期イメージ。A1、A2、B1、B2の順に病変が進行する

Dr.ぐらら(@eye_dr_game). X post. 2025-11-23. Google Nano Banana によるAI生成画像。投稿者許諾済み。
新福田分類のA1、A2、B1、B2を教育用に模式化した眼底画像である。実患者画像ではないため、診断は実際の眼底写真、OCTFA/OCTA、臨床経過を総合して行う。

黄斑浮腫OCT断層像は、網膜膨化嚢胞様黄斑浮腫漿液性網膜剥離の3基本型の組み合わせで評価する。

糖尿病黄斑浮腫のOCT形態。嚢胞様黄斑浮腫、漿液性網膜剥離、高反射病巣などを示す

Medicina (Kaunas). 2023;59:896. Figure 5. PMCID: PMC10221113. License: CC BY.
DMEのOCTでは、嚢胞様腔、漿液性網膜剥離、外層障害、高反射病巣などが組み合わさる。網膜厚だけでなく、外境界膜・楕円体帯の保たれ方も視機能予後に関係する。

臨床的に重要な黄斑浮腫(CSME)はETDRS定義で以下のいずれかを満たすもの2)

  • A. 中心窩500μm以内の網膜肥厚
  • B. 中心窩500μm以内に硬性白斑+隣接する網膜肥厚
  • C. 1乳頭面積以上の肥厚があり、その一部が中心窩から1,500μm以内

SD-OCT中心網膜厚300μm以上を中心窩を含むDMEの閾値とする(機種別: Spectralis 320/305μm、Cirrus 305/290μm、Stratus 250/250μm、男性/女性)1)。DMEの国際重症度分類は軽症(黄斑中心から離れた肥厚・硬性白斑)・中等症(中心に近いが含まない)・重症(中心窩を含む)の3段階。DMEはNPDRの進行とともに増加し、軽症NPDR 1.7〜6.3%、中等症NPDR 20.3〜63.2%に合併する1)

DRの進行に関わる主なリスク因子を以下に示す。

リスク因子主なエビデンス
罹患期間最大のリスク因子。2型DM診断時に約30%がすでにDRを有する1)
血糖コントロールHbA1c 7.0%未満で細小血管合併症が予防される(Kumamoto Study)。HbA1c 1%低下→微小血管合併症リスク37%減少(UKPDS1)
高血圧WESDR: 収縮期10mmHg上昇→初期DR 10%・増殖DR/DME 15%リスク増。UKPDS: 10mmHg低下→DR進展35%減少・視力低下47%減少1)
脂質異常症フェノフィブラート(FIELD Study): 光凝固導入31%減少、増殖DR 30%・DME 31%減少。ACCORD Eye Study: DR進行オッズ40%低下1)
腎機能障害蛋白尿・GFR低下がDR有病率と相関。腎症あり→PDR進行リスク29%上昇1)
妊娠既存DRなし→妊娠中DR発症8〜33%。既存NPDR→妊娠中悪化10〜67%1)
重症低血糖DR発生率が約4倍に増加(JDCS)1)

厳格な血糖コントロールがDR予防と進行抑制に有効であることが複数の大規模試験で示されている1)

  • Kumamoto Study: HbA1c 7.0%未満(NGSP換算)で細小血管合併症を予防
  • UKPDS: HbA1c 1%低下で微小血管合併症リスク37%減少
  • DCCT/EDIC: 早期の強化インスリン療法群が長期追跡でも有意にDR進展・DME発生を抑制
  • J-DOIT3: 多因子介入治療群でDR進展リスク低下
  • Steno-2 Study: 多因子強化療法でDR進展リスク58%低下

一方、長期間血糖コントロール不良の患者で急速に血糖を改善すると、一過性にDRが悪化する「early worsening」が生じることがある。視力低下が約50%の症例で遷延するため、緩やかな血糖改善が望ましく、内科との連携が重要である1)

また、一度高血糖に曝露された網膜細胞にはエピジェネティック変化が刻まれ、血糖正常化後も病変が持続・進行する「代謝記憶(metabolic memory)」が知られている11)。SOD2のダウンレギュレーションやミトコンドリアDNAの過メチル化がそのメカニズムとして報告されている。

  • フェノフィブラート: FIELD Study・ACCORD Eye Studyで光凝固頻度やDR進行を有意に抑制1)
  • スタチン: レジストリデータで非内服者比DR発症リスク40%減少1)
  • RAS阻害薬: DIRECT試験でカンデサルタン投与によりDRが34%退縮。ACE阻害薬はARBより有効との報告もある1)9)
Q HbA1cをどの程度にコントロールすれば進行を抑えられるか?
A

HbA1c 7.0%未満を目標とすることで細小血管合併症が予防される(Kumamoto Study)1)。HbA1c 1%低下で微小血管合併症リスクが37%減少する(UKPDS1)。一度高血糖に曝露された細胞には「代謝記憶」が残るため、血糖が正常化しても長期間のフォローが必要である11)

嚢胞様糖尿病黄斑浮腫のカラー眼底写真、red-free画像、蛍光眼底造影、OCT

Sikorski et al. Mediators Inflamm. 2013;2013:434560. Figure 4. PMCID: PMC3863575. License: CC BY.
カラー眼底写真では所見が控えめでも、red-free画像やFAで出血・毛細血管瘤・漏出が明瞭になる。OCTでは中心窩を含む嚢胞様浮腫を直接評価でき、治療適応判断に直結する。

検査法主な用途備考
散瞳眼底検査(倒像鏡/前置レンズ)病期分類のゴールドスタンダード散瞳なしでは約50%のみ正確に分類2)
細隙灯顕微鏡検査角膜障害・虹彩ルベオーシス白内障前房炎症の確認前置レンズによる黄斑の詳細観察
カラー眼底写真客観的記録・経時比較ETDRS 7方向撮影。超広角SLOで周辺部も記録可能3)
蛍光眼底造影FANPA・新生血管・漏出点の同定。DMEの局所性/びまん性鑑別FA全副作用1.1〜11.2%、重症0.005〜0.48%、死亡0.0005〜0.002%1)
光干渉断層計OCT黄斑浮腫の定量評価・経過観察SD-OCT深さ分解能5μm。中心網膜厚300μm以上で中心窩DME1)
OCTA造影剤不使用での毛細血管脱落・NPA・新生血管評価非侵襲的。FAZの定量化も可能3)
超音波検査中間透光体混濁時の網膜硝子体関係評価牽引性RDの範囲・増殖膜位置の把握
網膜電図ERG網膜機能の他覚的評価OP潜時延長はDR早期から出現。negative ERGは術後視力不良を示唆1)
  • 1型DM: 診断後5年以内(思春期前の視力低下は稀)1)2)
  • 2型DM: 診断時に眼科受診(診断時にすでに約30%がDR発症済み)1)
  • 妊娠合併DM: 第1三半期の早期に受診。妊娠中は3か月ごとに追跡1)
  • 妊娠糖尿病(GDM): 眼科受診は不要2)
病期(改変Davis分類)推奨間隔
糖尿病(網膜症なし)1年に1回
単純糖尿病網膜症(軽症〜中等症NPDR)6か月に1回
増殖前糖尿病網膜症(重症NPDR)2か月に1回
増殖糖尿病網膜症1か月に1回

(AAO PPPでは重症NPDR 3〜4か月ごとを推奨しており、GL表3の値と若干異なる)1)2)

高血圧性網膜症・網膜動静脈閉塞症・Eales病・Coats病・血液疾患(貧血・白血病・Hodgkin病)・インターフェロン網膜症・放射線網膜症・Purtscher病・高安病・ぶどう膜炎(Behçet病・サルコイドーシスSLE)が主な鑑別対象となる。

Q 糖尿病と診断されたらいつ最初の眼底検査を受けるべきか?
A

2型DMは診断時に約30%がすでにDRを有するため、診断時に眼底検査を受けることが推奨される1)。1型DMは診断後5年以内を目安とする1)。妊娠を合併している場合は第1三半期のできるだけ早期に受診し、妊娠中は3か月ごとの追跡が必要である1)

全身の危険因子管理がDRの予防と進行抑制の根本であり、全病期を通じて継続する。

  • 血糖コントロール: HbA1c 7.0%未満を目標1)。急速な改善はearly worseningのリスクがある。
  • 血圧管理: UKPDS: 10mmHg低下でDR進展35%減少・視力低下47%減少1)
  • 脂質管理: フェノフィブラートによりDR進行オッズが40%低下(ACCORD Eye Study)1)
  • 多因子介入治療: Steno-2 StudyでDR進展リスク58%低下1)

抗VEGF療法

第一選択中心窩を含むDMEに対する標準治療1)

ラニビズマブ(ルセンティス):0.5mg/0.05mL 硝子体内注射視力安定まで月1回投与。

アフリベルセプト 2mg(アイリーア):2mg/0.05mL。月1回×5回導入→2か月ごと。

ファリシマブ(バビースモ):6mg/0.05mL。抗VEGF+抗Ang-2二重特異性抗体。YOSEMITE/RHINE試験で50〜70%が12〜16週間隔を維持9)

ブロルシズマブ(ベオビュ):6mg/0.05mL。分子量26kDa。KESTREL/KITE試験で50%以上がq12w維持5)

再投与レジメン:PRN(要時投与)・固定投与・TAE(treat and extend)の3方式1)

ステロイド療法

トリアムシノロンアセトニド(マキュエイド):4mg/0.1mL 硝子体内投与。抗VEGF抵抗例やTenon嚢下注射として使用1)

デキサメタゾンインプラント(オズルデックス):徐放型。偽水晶体眼や抗VEGF反応不良例に考慮5)2)

注意点白内障の進行(有水晶体眼)・眼圧上昇のリスクがある。

レーザー光凝固(DME)

対象中心窩を含まないDMEに対する選択肢1)

直接凝固:漏出源の毛細血管瘤に直接照射。

格子状凝固:びまん性漏出・NPA部位に照射。

modified ETDRS黄斑中心500μm以内の照射を回避し、低出力・広間隔で施行1)

注意:atrophic creep(瘢痕拡大)・網膜下線維増殖のリスクがある1)

抗VEGF治療後の糖尿病黄斑浮腫残存部位を、OCTマップ、OCT断層、眼底写真で対応させた画像

Medicina (Kaunas). 2023;59:435. Figure 4. PMCID: PMC10051835. License: CC BY.
抗VEGF療法後も毛細血管瘤周囲に局所浮腫が残ることがある。OCTマップ、OCT断層、眼底写真を重ねてみると、追加レーザーや治療間隔調整を検討すべき部位が把握しやすい。

薬剤名(商品名)用量特徴
ラニビズマブ(ルセンティス)0.5mg/0.05mLFab断片。月1回投与。視力安定まで継続
アフリベルセプト 2mg(アイリーア)2mg/0.05mLVEGF-A/B・PlGF結合融合蛋白。導入5回後2か月ごと
アフリベルセプト 8mg(アイリーア8mg)8mg/0.07mL高用量。最大16週間隔2)
ブロルシズマブ(ベオビュ)6mg/0.05mL分子量26kDa。50%以上がq12w。眼内炎症リスクに注意5)7)
ファリシマブ(バビースモ)6mg/0.05mL抗VEGF+抗Ang-2。最大q16w9)

良好な視力(20/25以上)を有する中心窩含むDMEでは、20/30以下に低下するまで治療延期も選択肢となる2)

  • 網膜光凝固PRP: 虚血網膜を凝固してVEGF産生を減少させ新生血管を退縮させる。ハイリスクPDRには例外なく施行1)。NPA 3象限以上で推奨1)。ETDRS基準では照射時間0.2秒・200μm・200mWが標準1)
  • 選択的網膜光凝固: FAでNPAを同定しその部位に選択的に施行。増殖前DRに対して行われることが多い1)
  • 抗VEGF(PDR): DRCR Protocol Sでラニビズマブ硝子体内投与がPRPに対し非劣性(2年追跡)2)。ただし投与中断では新生血管が再増殖するリスクがあり、継続的外来管理が前提となる。
  • DRCR Protocol W: NPDRへの予防的抗VEGF投与はPDR/DME発症を防ぐが、長期視力転帰は初期観察と同等2)
  • 硝子体手術適応: 黄斑を脅かす牽引性RD・裂孔併発型・遷延/反復性VH・NVG1)。極小切開硝子体手術(MIVS)の普及により低侵襲化が進んでいる。トリアムシノロンによる硝子体可視化、ブリリアントブルーG(BBG)によるILM染色で手術精度が向上している。

PRP既往眼に抗VEGF硝子体内注射を行った後の蛍光眼底造影、OCTA、Bスキャン画像

Yang et al. BMC Ophthalmol. 2023;23:315. Figure 3. PMCID: PMC10337091. License: CC BY.
PRP後のPDRでは、新生血管活動性の評価にFAOCTAが有用である。抗VEGF投与後は漏出や血流信号が減弱しうるため、治療前後の画像を同じ領域で比較する。

Q DME治療における抗VEGF薬の選択は?
A

中心窩を含むDMEに対しては抗VEGF療法が第一選択である1)ラニビズマブアフリベルセプトファリシマブブロルシズマブのいずれも有効であり、投与間隔延長が可能な点でファリシマブ(最大q16w)やブロルシズマブ(50%以上がq12w)が注目される5)9)。抗VEGF効果不十分な場合はトリアムシノロンやデキサメタゾンインプラントによるステロイド療法を考慮する2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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DRの基本病態は血管透過性亢進・血管閉塞・血管新生の3つに大別され、単純網膜症・増殖前網膜症・増殖網膜症の各病期はこれら基本病態にほぼ対応している。

高血糖状態では4つの主要な代謝経路が活性化され、酸化ストレスや炎症を介して網膜障害が進行する11)

経路主な産物/変化主要な下流障害
ポリオール経路ソルビトール蓄積NADPH枯渇→グルタチオン低下→酸化ストレス増幅
AGEs形成RAGE活性化NF-κB↑→VEGF↑、周細胞アポトーシス
PKC活性化PKC-β活性化VEGF・Nox亢進
ヘキソサミン経路UDP-GlcNAc過剰TGF-β・PAI-1増加

血液網膜関門(BRB)破綻のメカニズム

Section titled “血液網膜関門(BRB)破綻のメカニズム”

内側BRB(網膜毛細血管内皮のタイトジャンクション)と外側BRB(RPE間のタイトジャンクション)の両方が障害される8)

  • TNF-α→PKCζ→claudin-5/ZO-1低下→内側BRB破綻
  • IL-1β→白血球動員→内側BRB破綻
  • CCL2→単球浸潤→VEGF・TNF-α分泌(フィードフォワード)
  • 周細胞消失: DRの最早期変化。AngIIによるアポトーシス誘導が主因9)

網膜には循環系と独立した局所RAASが発現している9)。古典的経路(ACE/AngII/AT1R軸)は周細胞アポトーシス・白血球停滞・BRB破綻を促進し、保護的経路(ACE2/Ang-(1-7)/Mas軸)がこれに拮抗する。網膜内AngII濃度は循環中より高く、DIRECT試験ではカンデサルタン投与によりDRが34%退縮した9)

代謝記憶とエピジェネティック変化

Section titled “代謝記憶とエピジェネティック変化”

一度高血糖に曝露された網膜細胞には、血糖正常化後もエピジェネティック変化が持続する(SOD2抑制・ミトコンドリアDNA過メチル化)11)。ミトコンドリア電子伝達系Complex I/IIIからのROS産生亢進、Drp1/OPA1不均衡によるミトコンドリア過剰断片化、Nrf2/KEAP1・SIRT1を介した抗酸化応答の障害がそのメカニズムとして報告されている。

DRは「神経血管疾患」として再定義されており2)、血管病変に先行してOCTでGCIPL菲薄化が検出できる13)黄斑NFLは年間0.25μm、GCIPLは年間0.29μmずつ菲薄化する。ミュラー細胞の膠化(GFAP上昇)とミクログリア活性化も確認されている。フラクタルカイン(CX3CL1)は網膜神経節細胞が産生し、CX3CR1受容体に作用して抗炎症・神経保護効果を発揮する10)

糖尿病患者では硝子体中グルコース濃度が上昇し、コラーゲン線維の糖化反応が進行する。糖化反応の程度はDR進行度と相関し、コラーゲン構造変化は液化・硝子体皮質の収縮・後部硝子体剥離PVD)を起こりやすくする。牽引を残さない完全PVDが生じると増殖DRへの進行はほぼない。一方、不完全PVD硝子体と増殖組織の強い癒着)では硝子体牽引が持続し、牽引性網膜剥離硝子体出血が生じやすい。

Q 血糖を正常化すれば糖尿病網膜症は防げるか?
A

血糖コントロールはDR予防・進行抑制に最も重要であり、HbA1c 7.0%未満を目標とする1)。ただし「代謝記憶」の概念によれば、一度高血糖に曝露された細胞にはエピジェネティック変化が残存し、血糖が正常化した後も病変が持続・進行することがある11)。DCCT/EDIC追跡研究では早期の強化療法群が長期間にわたりDR進展を抑制したことが示されている。

アフリベルセプト8mgは2023年にDME適応で承認され、最大16週間隔の延長が期待されている2)。DRCR Protocol Wでは、重症NPDRへの予防的抗VEGF投与がPDR/DME発症を防ぐ一方で、長期視力転帰は初期観察と同等であることが示された2)

LumineticsCore(旧IDx-DR)は2018年にFDAが承認した、医師の解釈を必要としない初の自律型AI眼底診断システムである3)。ディープラーニングモデルでは感度96.8%・特異度87%が報告されており3)、EyeArt・AEYE-DS等の新規システムも開発されている2)

可溶性フラクタルカイン発現AAVベクター(rAAV-sFKN)投与により、視力改善・フィブリン漏出減少・ミクログリアの正常化が示されている10)抗VEGF療法とは異なる神経保護・抗炎症機序を持つ。

EUROCONDOR第II-III相試験(NCT01726075)ではソマトスタチン・ブリモニジン点眼が検討されたが、全体解析では有効性を示さず、ベースラインmfERG異常サブグループで神経機能障害の進行停止が認められた13)。シチコリン+ビタミンB12点眼の36か月二重盲検RCTでは、軽度DRへの投与で機能的・構造的・血管性の進行抑制が報告されている13)

miRNAはDR病態の複数軸(酸化ストレス・炎症・神経変性・血管機能不全)を統合的に調節する「マスターレギュレーター」として注目される14)。miR-195阻害によるSIRT1安定化、miR-497a-5pによるVEGF-A翻訳阻害の可能性が示されており、約350のmiRNAが網膜で発現し、86以上がDRモデルで異常発現している。

メトホルミンはAMPK活性化を介した抗酸化・抗炎症・抗血管新生・神経保護の多面的作用を持ち、観察研究では使用者でSTDR(sight-threatening DR)のaHR=0.29が示されている12)。ただし眼科適応のRCTデータは現時点では不十分である。

ステロイド性MR拮抗薬フィネレノンは、前臨床モデルでBRB破綻・血管新生・炎症の軽減が示されており、DRに対する独立した治療標的としてのMRの意義が検討されている9)

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