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その他

飛蚊症に気づいたときの受診の目安

硝子体(眼球内を満たす透明なゲル状組織)の混濁が網膜に投影されることで生じる症状が飛蚊症である。白い壁・明るい空・窓などの明るい背景に対して、蚊・すす・リング状のものなどが眼球運動とともに揺れ動いて見える。

飛蚊症は眼科外来において日常的に訴えられる主訴の一つである3)。訴えの背景には加齢による生理的変化から、網膜裂孔網膜剥離といった緊急性の高い疾患まで幅広いものが含まれる。このため、症状の性状・発症経緯・随伴症状をていねいに確認し、病的飛蚊症を見逃さないことが重要である。

ブルーフィールド内視現象は、青空のような明るい青い光を見たときに視野内を小さな白い点がランダムに動きまわって見える現象であり、飛蚊症とは区別される。これは網膜内の白血球の動きを自覚したものであり、病的ではない。

後部硝子体剥離PVD)は50歳以上で高頻度に生じる加齢変化であり、飛蚊症の最多原因となる。急性の症状を呈した PVD 患者の約14%で網膜裂孔が発見されるという報告があり1)、無症候のまま経過することはまれではない。片眼の急性飛蚊症+光視症という組み合わせでは、眼底検査が必須とされる3)

2. 飛蚊症の種類(生理的 vs 病的)

Section titled “2. 飛蚊症の種類(生理的 vs 病的)”
超広角赤外線共焦点走査レーザー検眼鏡(IRcSLO)によるグレード2硝子体飛蚊症:黄斑部の散在性影とWeissリング
超広角赤外線共焦点走査レーザー検眼鏡(IRcSLO)によるグレード2硝子体飛蚊症:黄斑部の散在性影とWeissリング
Garcia-Aguirre G, Henaine-Berra A, Salcedo-Villanueva G. Visualization and Grading of Vitreous Floaters Using Dynamic Ultra-Widefield Infrared Confocal Scanning Laser Ophthalmoscopy: A Pilot Study. J Clin Med. 2022;11(18):5502. Figure 3. PMCID: PMC9571201. License: CC BY 4.0.
黄矢印で示された黄斑部の散在性影と、黒矢印で指示された黄斑外のWeissリングが超広角IRcSLO像で描出されている。本文「2. 飛蚊症の種類(生理的 vs 病的)」の項で扱う後部硝子体剥離に伴うWeissリング形成に対応する。

生理的飛蚊症

定義:加齢性の後部硝子体剥離PVD)や軽微な線維性硝子体混濁によるもの。

特徴:治療の対象とならない。PVD 直後に最も強く自覚されるが、硝子体液化の進行とともに乳頭前グリア環(Weissリング)が網膜から遠ざかり、自覚症状が次第に軽減する。

視点の変化に伴う動き:眼球運動に連動して浮遊物が揺れ動く。

病的飛蚊症

定義網膜裂孔網膜剥離硝子体出血ぶどう膜炎などの疾患に伴うもの。

特徴:積極的な治療が必要である。急激な飛蚊症の増加・タバコダスト・光視症視野欠損が随伴することが多い。

緊急度:原因疾患によっては緊急手術が必要となる場合がある。

生理的飛蚊症と病的飛蚊症の鑑別

Section titled “生理的飛蚊症と病的飛蚊症の鑑別”
特徴生理的飛蚊症病的飛蚊症
発症様式緩徐(数週〜数ヶ月)急激(数日〜数時間)
飛蚊物の数・性状少数・輪状・糸状多数・煙状(タバコダスト)
光視症の合併通常なしあり(牽引性)
視野欠損なしありうる(網膜剥離
視力低下通常なしありうる(硝子体出血など)
治療の要否不要(経過観察)要(原因疾患に応じた治療)

なお、星状硝子体症硝子体内のカルシウム結晶沈着)での硝子体混濁は、多くの場合飛蚊症として自覚されない例外的な疾患である。

Q 飛蚊症は治るか?
A

生理的飛蚊症は治療不要であり、硝子体液化の進行とともに次第に気にならなくなることが多い。病的飛蚊症の場合は原因疾患の治療によって改善する場合がある。網膜裂孔に対するレーザー光凝固網膜剥離に対する手術、硝子体出血に対する原因治療などが代表的である。生理的飛蚊症に対する積極的治療(YAGレーザー硝子体融解術・硝子体手術)は、QOLが著しく低下している場合に限り限定的に検討される。

馬蹄形網膜裂孔のOCT断面像と眼底カラー写真:レーザー光凝固瘢痕に囲まれた裂孔
馬蹄形網膜裂孔のOCT断面像と眼底カラー写真:レーザー光凝固瘢痕に囲まれた裂孔
Maltsev DS, Kulikov AN, Burnasheva MA, et al. Involvement of Sclera in Lattice Retinal Degeneration: An Optical Coherence Tomography Study. Diagnostics (Basel). 2024;14(13):1295. Figure 5. PMCID: PMC11202986. License: CC BY 4.0.
レーザー光凝固瘢痕に囲まれた馬蹄形網膜裂孔を、OCT断面像(AおよびB)と眼底カラー写真(C)で多角的に示している。本文「3. 飛蚊症の原因(鑑別疾患)」の項で扱う網膜裂孔に対応する。
原因疾患主な特徴緊急度
後部硝子体剥離PVD最多。加齢に伴い硝子体網膜から分離。Weissリングが典型。50歳以上で高頻度低(ただし裂孔合併確認が必要)
網膜裂孔PVD時の硝子体牽引で網膜が裂ける。タバコダスト・光視症を伴うことが多い2)高(早急な眼底検査レーザー光凝固
網膜剥離(裂孔原性)網膜裂孔から網膜下に液体が侵入。視野欠損・カーテン状の視野障害4)緊急(手術)
硝子体出血糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症が主因5)。急激な飛蚊増加・視力低下高(原因精査・治療)
ぶどう膜炎硝子体内の炎症細胞が飛蚊症として自覚される。充血眼痛を伴うことも中〜高(炎症コントロール)
強度近視病的近視硝子体液化が若年から進行し飛蚊症が生じやすい6)。周辺網膜変性のリスクも高い低〜中(定期経過観察)
緊急度症状の組み合わせ推奨行動
即日受診視野欠損・タバコダスト・光視症の合併・急激な飛蚊増加+視力低下当日中に眼科へ。救急対応可能な施設が望ましい
早期受診(数日以内)急に飛蚊症が現れた・飛蚊物の数が明らかに増えた・形が変化した1〜3日以内に眼科を受診する
定期経過観察以前からある飛蚊症で変化なし・明るい背景で揺れるだけ定期的な眼科受診を継続する

PVD 発症後6週間以内は網膜裂孔が生じやすい最リスク期であり2)、この期間に症状が変化した場合は速やかな受診が求められる。

Q 飛蚊症が前からあるが最近増えた。受診すべきか?
A

飛蚊症の急増・性状変化(数が増えた、形が変わった、タバコダストのような新たな黒点が出現した)は病的飛蚊症の可能性がある。特に光視症が同時に現れた場合は、網膜裂孔の危険サインとして早めの眼科受診が必要である。従来からある飛蚊症が変化なく継続している場合は生理的飛蚊症の可能性が高いが、定期的な眼底検査は継続することが望ましい。

眼科受診後はまず、飛蚊症が生理的なものか病的なものかを診断する。細隙灯顕微鏡と非接触型両凸レンズを用いた硝子体検査を行い、乳頭前グリア環(Weissリング)の存在を目安にPVDの有無や硝子体混濁を確認する。

硝子体検査では、スリット光の幅を狭く・照明強度を最大にして硝子体の動きを意識しながら動的に観察することが重要である。PVDのみで乳頭前グリア環以外に明らかな硝子体混濁がなければ生理的飛蚊症と診断できる。しかし、タバコダスト・出血・フレアなどが認められれば眼底を詳細に検査する必要がある。

散瞳薬を点眼して眼底の周辺部まで広範囲に検索し、網膜裂孔網膜剥離硝子体出血の有無を確認する。

病態治療法詳細
生理的飛蚊症経過観察治療不要。硝子体液化の進行とともに自覚が軽減
生理的飛蚊症(QOL著低下)YAGレーザー硝子体融解術RCTでsham対照より有意な症状改善(p=0.02)が報告されている7)。限定的適応
生理的飛蚊症(重篤なQOL障害)硝子体手術硝子体切除術)症状改善率は高いが手術リスク(白内障網膜剥離等)を十分考慮する8)
網膜裂孔(裂孔のみ)レーザー光凝固裂孔周囲を凝固し網膜剥離への進展を予防する
網膜剥離(裂孔原性)硝子体手術強膜バックリング4)早期手術で視力予後が改善。緊急対応が必要
硝子体出血原因疾患(DR・RVO等)の治療5)出血が吸収されない場合は硝子体手術を検討
ぶどう膜炎炎症コントロール(ステロイド等)基礎疾患の精査・治療が必要
Q 散瞳検査の後はどれくらいで瞳孔が戻るか?
A

散瞳薬(トロピカミド等)を点眼した場合、通常4〜6時間で瞳孔が戻る。この間は光がまぶしく、近くが見えにくい状態が続くため、車や自転車の運転は控える必要がある。サングラスを持参することが推奨される。散瞳薬の効果は個人差があり、回復に6〜8時間かかる場合もある。

硝子体は眼球内を満たす透明なゲル状組織であり、主にコラーゲン線維とヒアルロン酸から構成される。加齢とともにコラーゲン線維が凝集・変性し、硝子体の液化(シネレーシス)が進行する。液化した部分は液状腔(ラクナ)を形成し、周囲の残存ゲルが混濁として光を散乱させる。この混濁が網膜に投影されることで飛蚊症として自覚される。

硝子体液化が進行すると、硝子体網膜の接着が弱まり、やがて後部硝子体膜が網膜から分離する(後部硝子体剥離: PVD)。PVD発生直後は、乳頭前グリア環(Weissリング)が網膜直上に存在するため飛蚊症として強く自覚される。硝子体液化がさらに進行してcomplete PVDとなると、Weissリングが網膜から遠ざかるため自覚症状は軽減される傾向にある。

PVD 発生時、硝子体網膜の接着が局所的に強い部位(格子状変性部など)では、硝子体が分離する際に牽引力が集中し、網膜が裂ける(網膜裂孔)ことがある2)。この牽引による網膜刺激が光視症として自覚される。裂孔から網膜下に液体が侵入すると裂孔原性網膜剥離へと進展する4)

強度近視では眼軸延長に伴い眼球容積が拡大するため、硝子体の液化が若年から進行する6)。また網膜周辺部の格子状変性網膜裂孔の頻度が高く、飛蚊症の発症も相対的に若い年齢で生じやすい。

飛蚊症は視力低下を伴わない場合でも、患者の精神的負担やQOLへの影響が大きい。Wagleら(2011年)の研究では、飛蚊症に関連するユーティリティ値は平均0.98であったが、症状が重い患者ほどQOLスコアが有意に低下することが示された9)。飛蚊症を軽微な症状として扱わず、患者の訴えを十分傾聴することが求められる。

YAGレーザー硝子体融解術の成績

Section titled “YAGレーザー硝子体融解術の成績”

Shahら(2017年)のRCTでは、症候性の硝子体混濁に対するYAGレーザー硝子体融解術がsham対照と比較して有意な症状改善をもたらした(53.3% vs 8.7%、p=0.02)7)。ただし施術者の技術依存度が高く、合併症(眼圧上昇・水晶体損傷・網膜損傷)リスクもあるため、施設・適応の選択が重要である。

薬剤的硝子体融解(pharmacologic vitreolysis)

Section titled “薬剤的硝子体融解(pharmacologic vitreolysis)”

酵素(ocriplasmin)を硝子体内に注射して硝子体牽引を化学的に解除する治療法が研究されている。Stalmansら(2012年)のRCTでは、硝子体黄斑牽引・黄斑円孔に対するocriplasminの有効性が示された10)。飛蚊症そのものへの応用はまだ研究段階にある。

PVD後フォローアップ期間の最適化

Section titled “PVD後フォローアップ期間の最適化”

Byerら(1994年)は、PVD発症後の自然経過研究において、後部硝子体剥離発症直後の時期に網膜裂孔リスクが最も集中することを示した2)。その後の研究でも、急性症候性PVD発症後6週以内の追跡観察が裂孔・剥離を防ぐ主要な戦略とされており、フォローアップ時期の標準化が進められている3)

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