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屈折矯正

輻湊不全

輻湊不全(convergence insufficiency: CI)は、近方の標的に焦点を合わせる際に両眼を内側に寄せる(輻湊させる)能力が低下し、両眼の融像を維持できなくなる症候群である。調節障害を基礎として、調節性輻湊(調節意図の発動に伴って生じる輻湊)と融像性輻湊(両眼の網膜からの像を一致させようとして生じる輻湊)が不十分なため、十分な輻湊運動ができない状態をいう。輻湊近点(near point of convergence: NPC)の後退、輻湊振幅の減少、近方での外斜位(通常10プリズムジオプトリー〔∆〕超)を特徴とする。

輻湊障害は以下の3型に分類される。

定義特徴
機能性輻湊不全輻湊近点の後退・輻湊振幅の減少・近方外斜位を主徴とする症候群最も多い。調節不全を合併する場合がある
輻湊麻痺急性発症で輻湊が全くできなくなる器質的疾患松果体腫瘍等の中脳背側症候群が原因。頭部MRI必須
輻湊けいれん両眼の過剰な内転・縮瞳を伴う輻湊異常。多くは心因性偽6番麻痺との鑑別が重要

ほぼすべての年齢層で発症するが、若年成人で最も一般的である。有病率は研究間で1.7〜33%と幅広く、一般人口における発症率は0.1〜0.2%と推定される。外斜位のある小児の11〜19%にCIが認められる。性別による差はない。成人新規発症斜視の約15.7%をCIが占める。VDT作業者・近業従事者および学童・学生にも生じやすい。

一般に、CIは自然に改善しにくい。しかし症状の程度は近業の量によって変動する。脳震盪後のCIは経時的に改善する場合がある。

CIの年間発症率は10万人あたり8.4人と推計される。外斜位のある小児の11〜19%にCIが認められ、就学後に近業負担が増加する時期(7〜10歳)に症状が顕在化することが多い。VDT作業が一般化した現代社会では成人CIも増加傾向にある5)

Q 輻輳不全は子供と大人のどちらに多いのか?
A

若年成人で最も一般的であるが、小児から高齢者まで幅広い年齢層に発症する。外斜位のある小児では11〜19%にCIがみられ、成人の新規発症斜視の約15.7%をCIが占める。VDT作業者や近業従事者に多く、学童・学生にも発症する。

CIの自覚症状は近業により悪化する。読書・パソコン・スマートフォンなどの長時間使用で顕著になる。

機能性輻湊不全では、近業作業時に強い眼精疲労を訴える。調節・輻湊能力が低下するため、近業作業を長時間持続すると近見眼位は外斜視となり、交叉性複視や感覚異常、眼精疲労を生じる。

CITTグループが開発したCISS(Convergence Insufficiency Symptom Survey)は、15項目の質問をリッカート尺度で回答し、0(最良)〜60(最悪)のスコアで症状の重症度を定量化する。16点以上が有意とされる。9歳から18歳の小児および成人で信頼性が検証されている。

輻湊麻痺は機能性輻湊不全と異なり、急性発症に輻湊不能となり、近見でのみ外斜視となるため複視を訴える。内転は可能であり眼球運動制限は認めないが、輻湊はできない。そのため近見時に外斜視となり交叉性複視を訴える。複視は近見時のみで遠見時にはない点が重要な鑑別点である。

CISS(Convergence Insufficiency Symptom Survey)の詳細

Section titled “CISS(Convergence Insufficiency Symptom Survey)の詳細”

CITTグループが開発したCISSは、輻湊不全の症状重症度を定量化する標準的な患者報告アウトカム尺度である。15項目の質問をリッカート尺度(0〜4点)で回答し、合計0〜60点で評価する1)

代表的な質問項目:

  • 近くの物を見ると目がかすむ
  • 近くの物を見ていると目が疲れる
  • 読んでいると文字が動いて見える
  • 読んでいると頭が痛くなる
  • 近くの物が二重に見える

CISSスコア16点以上が有意な症状ありの閾値とされる。同一患者での繰り返し測定の信頼性(ICC 0.87)および治療介入前後の変化への感度も確認されており、臨床試験・日常診療双方で使用されている2)。スコアの改善量(治療効果の目安:6点以上の低下)を患者説明の際に用いると、治療目標の共有に役立つ。

CIの診断基準として以下の4項目が用いられる。

検査所見異常の目安
輻湊近点(NPC)後退≥6 cm(老視前)/ ≥10 cm(老視
近方での外斜位>10∆
融像性輻湊(PFV)低下近方 <15〜20∆
CISSスコア≥16点(自覚症状)
Q CISSスコアとは何か?
A

CISS(Convergence Insufficiency Symptom Survey)は、15項目のリッカート尺度質問票で、CIの症状の重症度を0〜60点で定量化するツールである。16点以上がCIを疑う閾値とされ、治療効果の評価にも用いられる。9歳から18歳の小児および成人で信頼性が検証されている。

原発性CI

先天的な輻湊・開散運動の不均衡:神経支配の違いにより、近方視に対する輻湊能力が制限される。

融像性輻湊の不全:CIは主に融像性輻湊(両眼の網膜像を一致させるために生じる輻湊)が不完全なために生じる。

後天性CI

調節不全を伴う輻湊不全:近業・VDT作業の過多により調節機能が低下し、調節性輻湊と融像性輻湊の双方が不十分となる。

疲労・近業過多:長時間のVDT作業(テクノストレス眼症)や近業従事者に生じやすい。

薬物・全身疾患:副交感神経遮断薬、ぶどう膜炎、脳震盪後、パーキンソン病などのCNS疾患が原因となる。

外傷・その他:頭部外傷、基底外方プリズム効果を誘発する眼鏡、脳炎なども原因となりうる。

輻湊は4つの要素で構成される(Maddox分類)。

輻湊の種類内容
調節性輻湊調節努力に伴って誘発される輻湊。AC/A比で表される
融像性輻湊両眼の網膜像を一致させるために随意的に行う輻湊
近接性輻湊視標の近接感知(視差以外)による輻湊
緊張性輻湊安静時の持続的な眼位保持のための輻湊

CIでは主に融像性輻湊が不十分となるが、調節性輻湊の低下を伴う場合(調節不全を伴うCI)もある。輻湊と調節の関係は比例関係にあるのではなく、ある程度の幅をもって成り立っている。長時間の不適切な環境での近業が、この関係を破綻させ持続的な調節・輻湊機能の低下をもたらす。

輻湊麻痺は器質的病変による。主として中脳水道近傍の腫瘍(特に松果体腫瘍)・脱髄・炎症・血管病変などによる中脳背側症候群が知られている。機能性輻湊不全と異なり、急性発症かつ神経画像検査を要する緊急疾患である。

Q スマートフォンやパソコンの長時間使用は輻輳不全の原因になるのか?
A

直接的な因果関係は確定していないが、長時間のVDT作業は輻湊・調節機能の低下を引き起こし、CIの症状を悪化させる要因となる。テクノストレス眼症として認識されており、一連続のVDT作業時間は上限を1時間とし、その後10〜15分の休憩時間をとるように環境を整えることが推奨される。

CIの診断は自覚症状と以下の臨床検査所見に基づく。包括的な感覚運動検査、屈折状態の評価、散瞳眼底検査を含む精密検査が推奨される。

主な検査法を以下に示す。

検査方法の概要異常値の目安
輻湊近点検査(NPC)固視標を40〜50cmから鼻へ移動≧6cm(老視前)/ ≧10cm(老視
融像性輻湊検査(PFV基底外方プリズムで測定近方 <15〜20∆
AC/A比heterophoria法 or gradient法<2:1

指やおもちゃなどの視標を顔の正面40〜50cmの位置から、水平よりやや下方をゆっくりと鼻根部へ向けて移動させる。視標が二重に見え始めるか、いずれかの眼が外転する点(分離点)と鼻根部の距離を計測する。正常値は6〜8cm程度である。調節機能および輻湊機能の反復測定が診断に有用であり、検査を繰り返すと徐々に近点が延長する所見もCIを示唆する。

完全屈折矯正下で行うことが重要である。heterophoria法では、遠方(5m)と近方(33cm)の斜視角の差から算出する。正常値は4±2程度であり、CIでは低値を示す。

大型弱視鏡、ロータリープリズム、Bagolini線条レンズなどを用いて、調節を一定に保ちながら両眼単一視を維持できる輻湊域を測定する。大型弱視鏡や基底外方プリズムでの融像域測定では、最初の融像性輻湊は十分可能な例でも輻湊近点の延長を示す場合がある。

輻湊麻痺では眼球運動で内転が可能で、輻湊運動が全くできない。大型弱視鏡や基底外方プリズムで融像域を測定すると、輻湊方向への融像域がほとんど測定できない点が機能性輻湊不全との重要な鑑別点である。

対光反射は正常なため light-near dissociation(対光-近見反応解離:対光反射は正常だが、近見反応〔縮瞳・調節・輻湊〕はみられない)が認められる。急性発症の輻湊麻痺では頭蓋内病変の除外のため速やかな神経画像検査(頭部MRI等)を要する。

疾患CIとの鑑別ポイント
輻湊麻痺急性発症・融像域がほぼ測定不能・light-near dissociation・頭部MRI施行が必要
輻湊けいれん両眼極端な内転・縮瞳・単眼ひき運動で制限消失・調節けいれんの随伴
開散麻痺遠見での内斜視増大。近見眼位は正常範囲
外転神経麻痺単眼の外転制限(CIでは両眼の輻湊不全)
ドライアイ調節不全近見症状と眼精疲労は類似するが、NPC・融像幅は正常

CIの治療は重症度と病型に応じて段階的に行う。まず病型を確認し、調節不全の合併有無を評価した上で治療方針を決定する。

環境改善と屈折矯正(優先事項)

Section titled “環境改善と屈折矯正(優先事項)”

調節不全を伴っている場合、輻湊訓練は眼精疲労をより悪化させる危険性がある。そのため輻湊訓練は行わないことが重要である。環境改善を第一とし、一連続のVDT作業時間は上限を1時間とし、その後10〜15分の休憩時間をとるように指導する。

屈折矯正は全例に行う。調節麻痺薬(例:ミドリンP点眼液)を用いた屈折検査を行ったうえで、実際のVDT作業距離に合わせた近用専用眼鏡を処方する。中近累進焦点眼鏡はよいが、遠近両用あるいは遠近累進焦点眼鏡は近用部分が小さいため好ましくない。ドライアイを合併している場合は、人工涙液やヒアルロン酸点眼を併用する。

調節不全を伴わない機能性輻湊不全では、屈折矯正を基盤に輻湊訓練、プリズム眼鏡、手術を組み合わせる。

調節不全を伴わないCIでは、輻湊訓練により融像性輻湊を改善する。毎日、短時間でも行うことが重要である。自宅での輻湊訓練(ペンシルプッシュアップ・輻湊カードなど)は院内療法に劣る傾向があるが、有症状CIの小児では自宅訓練単独でも改善が得られることが示されている6)

自宅訓練

ペンシルプッシュアップ:小さな標的に焦点を合わせ、両眼単一視を維持しながら標的を鼻に向けてゆっくり近づける。

輻湊カード:鼻根にカードをかざし、最も遠い点から徐々に近い標的へ視線を移動させる。

ステレオグラム:水平に離れた2つの画像を交差視させ、中央に3番目の融像像を出現させる。

院内訓練

院内ビジョンセラピー:抑制除去や輻湊・調節の正常化を目的に、標的のぼけ・視差・近接性を意図的かつ制御的に操作する。

コンピュータ輻湊訓練(CVS):ランダムドットステレオグラムを用い、必要な輻湊量を漸増させるプログラム。進行状況を監視できる。

Scheimanら(2020)のコクラン系統的レビュー(12件のRCT、1289例)では、小児において自宅補強を伴う院内療法がペンシルプッシュアップ単独やコンピュータ療法と比較してより優れた輻湊能力をもたらすという「確実性の高いエビデンス」が示された2)。基底内方プリズム読書用眼鏡で治療された小児では有意な改善はみられなかった2)。成人では基底内方プリズム眼鏡が症状を改善したが、輻湊能力は改善しなかった2)。19〜30歳の若年成人では院内訓練が家庭訓練より正融像性輻湊(PFV)の改善に有効であったが、NPCや患者症状では有意差はなかった1)

輻湊訓練の成功率と長期成績

院内輻湊訓練の報告された成功率は70〜80%であり、多くの患者は治療中止後1年が経過しても無症状を維持する1)。ただし再発率も報告されており、特に高度CI・脳震盪後CI・調節不全を伴うCIでは定期的な経過観察が推奨される。

CITT試験(2005年)では、4〜8週間の院内輻湊訓練(週1回×週12〜24時間の自宅訓練)で73%の小児がCISSスコア≤15点(正常化)を達成したが、ペンシルプッシュアップ単独では43%にとどまった4)。この結果は院内監督下の輻湊訓練が自宅単独訓練より優れることを示す根拠となっている。

コクランレビューでは成人のCIに対する治療エビデンスが小児と比べて限られており、今後の研究が必要とされている2)。脳震盪後CIに関しては標準化されたプロトコルが確立されておらず、積極的な訓練と休養のバランス調整が個別に必要である1)

輻湊訓練で改善しない場合、または輻湊麻痺の場合に処方する。近方で快適な両眼単一視を得るために必要な最小限のプリズム量を用いる。両眼に2〜4∆基底内方(計4〜8∆矯正)を、近見用の屈折矯正眼鏡に組み込んで装用テストし、最適なプリズム度数を決定する7)。原疾患にかかわらず、長期装用が必要となることもある。老視を合併する成人では基底内方プリズムが有効なことがある7)

輻湊麻痺では原疾患の治療が奏効すれば改善が期待できる。その間、近見用に基底内方のプリズム眼鏡を処方して対症的に複視を軽減する。松果体腫瘍・脱髄性疾患・血管病変等の原疾患に対して、神経内科・脳神経外科と連携した治療が必要となる。

輻湊訓練の詳細プロトコル

調節不全を伴わない機能性CIに対する輻湊訓練の標準的なプロトコルを以下に示す2)

訓練種類方法目標頻度
ペンシルプッシュアップペンを両眼固視しながら鼻根へ近づける。二重視が出る直前で止め5秒保持し戻す。10回1セット1日3〜5セット
輻湊カード(Brock紐)70cmの紐に等間隔で3個のビーズをつけ、順次手前から凝視して輻湊を段階的に訓練1日2回、各5分
院内視能訓練輻湊・調節の段階的負荷。ヴェクトグラフ・輻湊カード・Brewster型立体鏡を使用週1〜2回(全12〜16週)
コンピュータ訓練(HTS)画面上の二眼視プログラムで輻湊量を漸増。自動記録で進歩を確認1日15〜20分

輻湊訓練は毎日行うことが重要であり、短時間でも継続することが長期成功の鍵である。CISSスコアが16点以下に改善し、NPCが5cm以下、PFVが20∆以上になることを治療目標とする1)

調節不全合併CI(CI with accommodative dysfunction)

Section titled “調節不全合併CI(CI with accommodative dysfunction)”

調節不全を合併するCIは別の病態として扱う必要がある1)

診断基準の追加チェック項目:

  • 単眼調節振幅(±2D以内の正常の偏差から逸脱)
  • 調節用力(accommodative facility):フリッパーレンズ(±2D)での1分間反転回数(正常12回以上)
  • 調節反応量(MEM法、near-point retinoscopy)

調節不全CIの治療では輻湊訓練を行う前に環境改善・眼鏡処方が優先される。近見専用眼鏡(+0.75〜+1.25Dの加入度数)が調節負荷を軽減し、症状改善に寄与する場合がある。

難治性CIや間欠性外斜視を伴うCIに適応となる。

手術の適応:遠見での顕性斜視が存在する・症状が一貫しており・プリズム眼鏡が奏効しない場合。

主な術式は、両眼外直筋後転術(遠見斜視角に基づく)・両眼内直筋短縮術(近見斜視角に基づく)・単眼外直筋後転・内直筋短縮術などである8)。難治例にはボツリヌス毒素注射も選択肢となる。

Q 輻輳訓練はどのくらいの期間続ける必要があるか?
A

輻湊訓練の報告されている成功率は70〜80%であり、ほとんどの患者は治療中止後1年が経過しても無症状を維持する。ただし調節不全を伴う輻湊不全では輻湊訓練は禁忌であり、環境改善と眼鏡処方を優先する。訓練を行う場合も効果の維持には個人差があるため、定期的な経過観察が推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

CIの正確な疾患メカニズムは完全には解明されていないが、輻湊運動を制御する神経中枢が特定されている。

調節不全を伴う輻湊不全の病態

Section titled “調節不全を伴う輻湊不全の病態”

調節障害を基礎として、調節性輻湊と融像性輻湊の双方が不十分となり、十分な輻湊運動ができない状態をいう。輻湊と調節の関係は比例関係にあるのではなく、ある程度の幅をもって成り立っている。近業作業などを不適切な環境で長時間行うことにより、徐々に持続的な調節機能・輻湊機能の低下をきたす。VDT作業によるテクノストレス眼症がその代表である。

VDT作業環境の改善や適した眼鏡の装用、人工涙液の点眼などが有効である。

輻湊麻痺は主として中脳背側症候群による器質的障害である。中脳水道近傍の病変が輻湊中枢を障害する。対光反射は正常に保たれるが近見反応(縮瞳・調節・輻湊)が障害されるため、light-near dissociation(対光-近見反応解離)が生じる。機能性輻湊不全と異なり、輻湊方向への融像域がほとんど測定できない点が特徴的である。

開散麻痺(divergence insufficiency)は遠方視での内斜視増大を特徴とし、CIの近方外斜位とは対照的な病態である。成人斜視PPPでは開散麻痺と輻湊麻痺の鑑別診断フローが明記されており、両疾患とも器質的病変(頭蓋内圧上昇・中枢神経疾患)の除外が必要である1)

開散麻痺では遠見での水平複視が主訴となり、近見では症状が軽減または消失する。この点はCIの近見時複視と対照的であり、病歴聴取が鑑別の第一歩である。また、外転神経麻痺との鑑別では単眼の外転制限の有無が重要であり、CI・開散麻痺はいずれも両眼の輻湊・開散運動の障害であることに注意が必要である1)

CIはいくつかの神経疾患に関連して発症する。

  • 脳震盪後(post-concussion CI):頭部外傷後にCIが発症しやすく、経時的に改善する場合がある1)5)
  • パーキンソン病:輻湊機能の低下が報告されている1)5)
  • 多発性硬化症脱髄疾患:中枢神経障害によるCI・輻湊麻痺
  • 眼圧緑内障眼圧上昇による視神経・融像機能への影響

輻湊運動は中脳・橋に存在する複数の神経核が統合的に制御する。輻湊に関連する主な神経構造は以下のとおりである。

  • 内側縦束(MLF):両眼の眼球運動を協調させる
  • Perlia核:調節性輻湊に関与
  • NRTP(旁正中橋網様体):水平眼球運動の制御に関与
  • 中脳背側部(中脳水道周辺灰白質付近):近見反応(縮瞳・調節・輻湊)の統合中枢

輻湊麻痺では中脳背側症候群(Parinaud症候群)として上方注視麻痺・convergence-retraction nystagmus・light-near dissociationを伴うことがある。松果体腫瘍・脱髄・出血・外傷が主な原因であり、急性発症の輻湊麻痺では頭部MRIによる精密評価が必須である1)

機能性輻湊不全では器質的病変は認めないが、長時間の近業による調節筋疲労・輻湊中枢の機能的過負荷が病態の中心と考えられている。デジタルデバイスの急増する現代において、テクノストレス眼症(VDT症候群)の文脈でのCI増加が問題となっている。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

輻湊不全治療試験-注意力および読書試験(CITT-ART)は、症状のあるCIの治療が9〜14歳の小児の読解力を向上させるかを検討したランダム化多施設共同臨床試験である。

参加者は院内輻湊・調節療法群と院内プラセボ療法群にランダム割付された。16週間後のCISSスコアは2群間で有意差がなく、院内輻湊・調節療法は症状のあるCIの小児の読解力改善においてプラセボ療法より有効ではないという結果であった3)

この結果は、CIの治療が輻湊能力や症状を改善しても、読解力の向上には直結しない可能性を示唆している。

2005年のCITTに対しては複数の眼科専門家から方法論的限界が指摘されている4)。院内治療群には他群より有意に長い治療時間が処方されていた(治療用量の不平等)。また「ペンシルプッシュアップ」は調節標を用いた多様な訓練を含む従来の視能訓練を正確に代表するものではないとの批判がある4)

CI患者では症状の自然寛解が報告されている。このため治療効果の評価にはプラセボ群を含めることが重要とされている5)。外斜位のある小児の11〜19%にCIが認められ、CIの年間発症率は10万人当たり8.4人とされている5)

CITT-ART(2019年)では輻湊・調節療法が読解力を改善しないことが示されたが3)、これはCIの治療が有用でないことを意味しない。CISSスコアや輻湊近点の改善は認められており、読解力という複合的アウトカムへの影響が限定的であっただけである。院内輻湊訓練はCISSスコアを有意に改善し(治療群:16.0→9.0、プラセボ群:16.0→12.5)、この改善は患者QOLに直接寄与する3)

小児の読解力改善を主要エンドポイントとした点はCITT-ARTの独自の強みであるが、読解力は学習環境・認知機能・注意力など多因子に影響されるため、輻湊訓練単独での改善を捉えることは本来困難であるとの批判もある1)

スポーツ関連脳震盪(SRC)後のCIは、症候性CIの特殊な亜型として認識が高まっている。脳震盪後CIの特徴は以下のとおりである1)

  • 脳震盪後1〜3週以内に発症することが多い
  • 頭痛・目眩・霧視・読書困難などの症状が長引く(post-concussion syndrome)
  • 輻湊近点は著明に後退(>10 cm)するが、急性期以降は経時的に改善傾向を示す
  • 院内輻湊訓練(Vision therapy)が標準的な治療介入として推奨される

スポーツ復帰プロトコルにCIの評価と管理を組み込むことが重要であり、眼科・スポーツ医学科の連携が有益である1)


  1. American Academy of Ophthalmology. Adult Strabismus Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2023.

  2. Scheiman M, Kulp MT, Cotter SA, et al. Interventions for convergence insufficiency: A network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2020;12:CD006768.

  3. Convergence Insufficiency Treatment Trial Study Group. Randomized clinical trial of treatments for symptomatic convergence insufficiency in children. Arch Ophthalmol. 2008;126:1336-1349.

  4. Scheiman M, Mitchell GL, Cotter S, et al. A randomized clinical trial of treatments for convergence insufficiency in children. Arch Ophthalmol. 2005;123:14-24.

  5. Rouse MW, Borsting E, Hyman L, et al. Frequency of convergence insufficiency among fifth and sixth graders. The convergence insufficiency and reading study (CIRS) group. Optom Vis Sci. 1999;76:643-649.

  6. Pediatric Eye Disease Investigator Group. Home-based therapy for symptomatic convergence insufficiency in children: A randomized clinical trial. Optom Vis Sci. 2016;93:1457-1465.

  7. Teitelbaum B, Pang Y, Krall J. Effectiveness of base in prism for presbyopes with convergence insufficiency. Optom Vis Sci. 2009;86:153-156.

  8. Yang HK, Hwang JM. Surgical outcomes in convergence insufficiency-type exotropia. Ophthalmology. 2011;118:1512-1517.

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