環境・行動要因
VDT作業・近業過多:長時間にわたる連続したVDT作業や読書は、調節・輻湊機能の持続的な低下をもたらす。
不適切な作業環境:照明不足、画面の反射、作業距離が不適切な環境での近業は症状を悪化させる。
近用眼鏡の不適切な処方:遠近両用眼鏡の使用や、作業距離に合わない眼鏡の装用も原因となる。
調節不全(accommodative insufficiency)は、発症が急ではなく、調節力が年齢相当の調節力よりも弱い状態を指す。これに対して調節衰弱(ill-sustained accommodation)は、近点測定を反復すると近点後退現象がみられる病態である。
調節衰弱はわが国特有の診断名ともいえる。年齢に比して調節力が弱い例、または一定の調節緊張状態を維持できないものを指す。欧米で命名されているill-sustained accommodationに該当するが、語源は近点後退現象(反復近点計測によって近点が徐々に遠ざかる現象)に由来する。内環境の不調和により発症する。
VDT(visual display terminal)作業の普及に伴い、若年者での発症が増加している。全身疾患・精神的ストレス・過労が素因となる場合も多い。報告される有病率は研究により大きく異なり、学齢児では8〜18%、特殊な背景を有する小児ではさらに高率となるとされる(参考文献1)。
調節障害は機能異常の様式によって以下のように分類される。
| 分類 | 英語名 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 調節衰弱 | ill-sustained accommodation | 反復測定で近点後退現象 |
| 調節不全 | accommodative insufficiency | 年齢相当より弱い調節力 |
| 調節強直 | inertia of accommodation | 遠点から近点への調節時間延長 |
| 調節麻痺 | accommodative palsy | 近見障害の急性発症 |
| 調節緊張 | accommodative constriction | 生理的・異常トーヌスの亢進 |
| 調節けいれん | spasm of accommodation | 調節の過多・過緊張 |
調節不全を伴う輻湊不全(合併型)は、調節障害を基礎として調節性輻湊と融像性輻湊が不十分となり、十分な輻湊運動ができない状態である。輻湊不全と診断される小児においても、強い症状の主因は併存する調節不全であるとの報告があり、調節機能評価の重要性が示されている(参考文献3)。
調節不全・調節衰弱では近業作業時に強い眼精疲労を訴える。調節・輻湊能力が低下するため、近業作業を長時間持続すると近見眼位は外斜視となり、交叉性複視や感覚異常・眼精疲労を訴える。代表的なものがVDT作業によるテクノストレス眼症である。
主な自覚症状は以下のとおりである。
長時間の近業は調節機能・輻湊機能の低下をもたらし、調節不全・調節衰弱の誘因となる。スマートフォンやタブレット端末の長時間使用はVDT作業と同様に持続的な近方視を強いるため、テクノストレス眼症の一因と考えられる。ただし個人差があり、すべての人に調節不全が生じるわけではない。
環境・行動要因
VDT作業・近業過多:長時間にわたる連続したVDT作業や読書は、調節・輻湊機能の持続的な低下をもたらす。
不適切な作業環境:照明不足、画面の反射、作業距離が不適切な環境での近業は症状を悪化させる。
近用眼鏡の不適切な処方:遠近両用眼鏡の使用や、作業距離に合わない眼鏡の装用も原因となる。
全身・精神要因
全身疾患:内科的疾患(貧血、低血圧、甲状腺疾患など)が全身の調節機能に影響する場合がある。
精神的ストレス・過労:精神的緊張や慢性的な疲労が内環境の不調和を生じさせ、調節衰弱の素因となる。
その他の薬剤・疾患:抗コリン作用を有する薬物、神経疾患なども調節機能に影響する。
輻湊と調節の関係は比例関係にあるのではなく、ある程度の幅をもって成り立っている。調節性輻湊・融像性輻湊が働く近業作業を不適切な環境で長時間行うことにより、徐々に持続的な調節機能・輻湊機能の低下をきたす。
診断は自覚症状と以下の客観的検査所見を組み合わせて行う。まずVDT作業時間・近業環境・全身状態・近用眼鏡の使用状況を詳細に問診する。近業作業距離に対して装用している眼鏡が適切かを確認することも重要である。
| 検査 | 方法の概要 | 評価のポイント |
|---|---|---|
| 問診 | VDT作業時間・作業距離・眼鏡状況・全身状態の確認 | 発症状況・増悪因子を把握する |
| 視力検査 | 遠方・近方の矯正・裸眼視力 | 屈折異常の有無を評価する |
| 調節麻痺下屈折検査 | ミドリンP点眼(5分間隔2回、30分後に検査) | 真の屈折値・潜伏遠視を評価する |
| 調節機能検査 | 近点計による反復測定 | 反復で近点後退を確認する |
| 輻湊機能検査 | 輻湊近点・融像域の反復測定 | 輻湊近点の延長を確認する |
| 両眼波面センサー | 調節・縮瞳・輻湊を同時測定 | 近見反応の3要素を他覚的に評価する |
| 大型弱視鏡 | 基底外方プリズムで融像域測定 | 融像性輻湊の定量評価 |
調節麻痺薬としてミドリンP点眼液を用いる場合、5分間隔で2回点眼し、30分後が調節麻痺作用の最も強い時点であるため、この時点で屈折検査を行う。
病的異常の病態把握には、両眼波面センサーを用いて他覚的に近見反応の3要素(調節・縮瞳・輻湊)を同時測定することが有用である。
治療の基本は原因の解明と除去である。原因疾患(全身疾患や眼疾患)への治療と環境改善が最も重要となる。
一連続のVDT作業時間は上限を1時間とし、その後10〜15分の休憩を取るよう環境改善を図ることを第一とする。適切な照明・作業距離・画面の高さ・輝度調整も合わせて指導する。
眼鏡は近業作業距離と矯正屈折値が適切なものを装用する必要がある。そのため、調節麻痺薬を用いた屈折検査を行ったうえで、実際のVDT作業距離に合わせた近用専用眼鏡を処方する。
VDT作業中は瞬目減少によるドライアイを合併しやすい。
全身疾患が調節不全の原因となっている場合は、原疾患の治療を優先する。精神的ストレスや過労が原因の場合は、休養・ストレス管理が重要となる。
市販の目薬(疲れ目用点眼薬)は対症療法であり、調節不全の根本的な治療にはならない。治療の基本は原因の解明と除去、適切な眼鏡処方、環境改善である。ドライアイを合併している場合は人工涙液が有用だが、まず眼科での精密検査を受け、適切な診断と処方に基づく対応が必要である。
輻湊と調節の関係は比例関係ではなく、ある程度の幅をもって成り立っている。この幅の中で、調節性輻湊・融像性輻湊が協調して近方視が成立する。不適切な環境(作業距離が一定すぎる、眼鏡が合っていないなど)で長時間近業を行うことにより、この協調が破綻し、持続的な調節機能・輻湊機能の低下をきたす。
調節障害を基礎として、調節性輻湊と融像性輻湊が不十分となり、十分な輻湊運動ができない状態をいう。長時間の近業によってまず調節機能が低下し、それに伴い輻湊機能も低下するという連鎖が生じる。VDT作業が主な誘因であり、現代のデジタル社会における代表的な職業関連眼疾患の一つとなっている。
テクノストレス眼症はVDT作業に伴う眼症状の総称であり、調節不全・調節衰弱はその中核病態の一つである(参考文献4)。スマートフォンやタブレット端末の急速な普及により、近業強度・時間ともに増加しており、若年者における調節不全の増加の背景となっている。1日あたりのスマートフォン使用時間が長い小児では、デジタル眼精疲労(digital eye strain)スコアが有意に高くなるとの前向き観察研究の報告もある(参考文献5)。
調節衰弱では、反復的な調節刺激に対して毛様体筋の持続的収縮能力が低下する。その結果、測定を繰り返すたびに調節力が低下し、近点が徐々に遠ざかる近点後退現象が生じる。
VDT作業環境の改善や作業距離に適した眼鏡の装用、人工涙液の点眼などが有効であり、多くの症例で症状の改善が得られる。全身疾患が背景にある場合は原疾患の治療により調節機能が回復することがある。
近年、調節機能解析装置(アコモレフ、Fk-mapなど)を用いた他覚的調節機能評価が普及しつつある。両眼波面センサーによる調節・縮瞳・輻湊の同時測定により、従来の自覚的近点測定では捉えにくかった機能的異常の可視化が可能になっている。これらの装置は調節の反応速度・持続性・変動幅を定量化でき、調節不全・調節衰弱の客観的診断基準の確立に貢献することが期待される。
デジタルデバイスの普及に伴い、小児・若年者における調節機能への影響についての研究が世界的に進んでいる。近業距離・時間・輝度・ブルーライト量などの要因と調節機能低下の関連が検討されており、今後のエビデンスの蓄積が期待される。
調節不全に対する調節訓練(プッシュアップ法、フリッパー訓練など)の有効性については、輻湊不全に対する輻湊訓練のエビデンスと比較すると研究が少ない。輻湊不全に調節障害を併存する小児を対象とした無作為化比較試験では、診療所ベースの輻湊・調節訓練がプラセボに比して調節振幅・調節フリッパーを有意に改善したと報告されている(参考文献2)。一方で、調節不全単独に対する治療プロトコルや低度プラスレンズと訓練の比較については良質なエビデンスが不足しており(参考文献1)、今後の無作為化比較試験による検証が求められる。
Hussaindeen JR, Murali A. Accommodative Insufficiency: Prevalence, Impact and Treatment Options. Clin Optom (Auckl). 2020;12:135-149. PMID: 32982529.
Scheiman M, Cotter S, Kulp MT, Mitchell GL, Cooper J, Gallaway M, Hopkins KB, Bartuccio M, Chung I. Treatment of accommodative dysfunction in children: results from a randomized clinical trial. Optom Vis Sci. 2011;88(11):1343-1352. doi:10.1097/OPX.0b013e31822f4d7c. PMID: 21873922. PMCID: PMC3204163.
Marran LF, De Land PN, Nguyen AL. Accommodative insufficiency is the primary source of symptoms in children diagnosed with convergence insufficiency. Optom Vis Sci. 2006;83(5):281-289. doi:10.1097/01.opx.0000216097.78951.7b. PMID: 16699440.
Kaur K, Gurnani B, Nayak S, Deori N, Kaur S, Jethani J, Singh D, Agarkar S, Hussaindeen JR, Sukhija J, Mishra D. Digital Eye Strain - A Comprehensive Review. Ophthalmol Ther. 2022;11(5):1655-1680. doi:10.1007/s40123-022-00540-9. PMID: 35809192. PMCID: PMC9434525.
Chu GCH, Chan LYL, Do CW, Tse ACY, Cheung T, Szeto GPY, So BCL, Lee RLT, Lee PH. Association between time spent on smartphones and digital eye strain: A 1-year prospective observational study among Hong Kong children and adolescents. Environ Sci Pollut Res Int. 2023;30(20):58428-58435. doi:10.1007/s11356-023-26258-0. PMID: 36991204. PMCID: PMC10057686.