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屈折矯正

眼鏡処方とフィッティングの重要性

1. 眼鏡処方とフィッティングの重要性とは

Section titled “1. 眼鏡処方とフィッティングの重要性とは”

眼鏡処方(spectacle prescription)は、屈折異常(近視・遠視・乱視・老視)を矯正するために適切なレンズ度数・種類・フレームを選択し処方することである。単なる度数決定にとどまらず、装用感・両眼視機能・不等像視への配慮を含む包括的な医療行為である。

屈折異常は疾患であり、屈折矯正は医療行為である1)。眼鏡店での処方と異なり、眼科での処方は眼疾患の発見・除外にも直結する。

視力0.7が眼鏡(再)処方の検討目安とされる。文部科学省の視力判定区分では、視力0.7以上あれば教室後方の座席から黒板の文字が読める。普通自動車運転免許の合格基準も両眼で0.7である。

判定区分視力判定の意味
A1.0以上後ろの席から黒板の文字がよく見える
B0.9〜0.7後ろの席から黒板の文字がほとんど見える
C0.7〜0.3後ろの席では黒板の文字が見えにくい
D0.3未満前の席でも黒板の文字が十分見えない

成人の眼鏡使用率は74.2%(常時装用・必要時装用・CL併用を含む)であり、常時装用者は男性40.4%、女性21.8%と報告されている1)。使用開始時期は中学〜高校が最多で、次に40〜50代(老視による近用眼鏡の需要)が多い1)。日本人の半数以上が近視を有しており、眼鏡は最も普及した屈折矯正手段である。

Kempenらは、40歳以上を対象に、近視(等価球面度数−1D以下)の推定有病率を米国25.4%、西ヨーロッパ26.6%、オーストラリア16.4%、遠視(+3D以上)を米国9.9%、西ヨーロッパ11.6%、オーストラリア5.8%と報告し、米国・西ヨーロッパでは40歳以上の約3分の1、オーストラリアでは約5分の1が屈折異常を有すると推定した10)。対象年齢・屈折異常の定義・地域によって有病率は異なる。日本では近視進行が公衆衛生上の重要課題となっており、2025年に近視管理用眼鏡ガイドラインが策定された2)。

Q 眼鏡処方はなぜ眼科で受けるべきか?
A

眼科での眼鏡処方では、屈折矯正の適切な度数決定に加えて、白内障・緑内障・弱視・斜視などの眼疾患の早期発見が同時に行われる。屈折異常は疾患であり、その矯正は医療行為である1)。眼鏡店の視力測定では疾患の診断・除外はできないため、初回処方や度数変更時には眼科受診が推奨される。

適切な眼鏡処方がされていない場合、さまざまな自覚症状が出現する。

  • 低矯正:視力不良・眼精疲労・頭痛・近見困難
  • 過矯正(近視):過度な調節力の消費による眼精疲労、特に近見作業時の疲れ
  • 遠視の過矯正:不快感、視力不良
  • 乱視軸のずれ:傾き感・歪み・立体感の違和感

成人眼鏡処方では、完全矯正による最良視力を基準としながらも、日常的に快適に常用できる度数を処方することが重要である。強い近視や斜乱視をそのまま完全矯正すると歪みが生じて装用困難なことがある1)。

不等像視(aniseikonia)は、左右眼でイメージサイズに差が生じる状態である。凸レンズは拡大、凹レンズは縮小効果をもたらすため、眼鏡での不同視矯正時に生じやすい。

潜伏性遠視は小児期に裸眼視力が良好で見逃されやすい。加齢による調節力低下とともに代償不全が生じ、近見での視力障害に始まり中間距離・遠距離へと広がる。症状は夕方から夜間にかけて悪化するのが特徴である。

Q 不等像視とは何か?
A

不等像視は、左右の眼鏡レンズの度数差によって両眼間でイメージサイズに差が生じる状態である。一般に2%以下が許容範囲とされ、眼鏡度数差では約1.5〜2.0Dが目安となるが、許容範囲には個人差があるため、症例ごとにテストレンズで見え方を確認する1)。回転ドア感覚・スラント感覚などの特徴的な自覚症状を伴い、片眼を遮閉すると消失することが鑑別の手がかりとなる。

眼鏡が必要となる主な屈折異常

Section titled “眼鏡が必要となる主な屈折異常”
  • 近視:平行光線が網膜前方に焦点を結ぶ。眼軸長延長(軸性近視)が主因。凹レンズで矯正する
  • 遠視:平行光線が網膜後方に焦点を結ぶ。調節力が不足すると遠方も近方も見えにくい。凸レンズで矯正する
  • 乱視:角膜・水晶体の湾曲が経線方向で異なり、焦点が1点にまとまらない。円柱レンズで矯正する
  • 老視:加齢による水晶体弾性低下で調節力が不足し、近方に焦点を合わせられない。加入度数(凸レンズ追加)で対応する
  • 不同視:左右の屈折度数の差が大きい。不等像視・弱視のリスクがある
  • 散瞳下屈折検査を省略した不正確な度数決定(特に小児・若年者)
  • 調節異常・斜視・器質的疾患の見落とし
  • 使用環境(PCモニター距離・楽器演奏など)の聴取不足
  • フィッティング不良による頂間距離・傾斜角の変化
  • 不等像視への配慮不足
自動レフラクトメータによる他覚的屈折検査の様子
Ajeeshkumar4u. Autorefractometry. Wikimedia Commons. 2024. Source ID: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Autorefractometry.jpg. License: CC BY-SA 4.0. License URL: https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/.
検者が自動レフラクトメータ(オートレフラクトメータ)を操作し、患者の屈折状態を他覚的に測定している場面である。本文「4. 診断と検査方法」の項で扱う自動レフラクトメータによる他覚的屈折測定に対応する。
フォロプターを用いた自覚的屈折検査の様子
Ostrowsky B. Man at Phoropter. Wikimedia Commons. 2006. Source ID: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Man_at_Phoropter.jpg. License: CC BY 2.0. License URL: https://creativecommons.org/licenses/by/2.0/.
患者がフォロプター(総合屈折検査装置)の接眼部に顔を当て、視標を確認しながら自覚的屈折検査を受けている場面である。本文「4. 診断と検査方法」の項で扱う自覚的屈折検査(自動レフラクトメータ他覚値測定後の主観的度数決定)に対応する。

成人の検査フロー

用途の聞き取り:運転・PC作業・楽器演奏・スポーツ等、使用場面と視距離を把握する。

所持眼鏡の確認:レンズメータで現行眼鏡の度数を確認する。

屈折検査:自動レフラクトメータで他覚値を測定後、自覚的検査で最終度数を決定する。

調節検査:調節量を評価し、近用加入度数の算定に用いる。

PD測定:瞳孔間距離を測定し、眼鏡処方箋に記載する。

小児の検査フロー

調節麻痺下屈折検査:用いる調節麻痺薬は眼位と年齢で選択する3)。内斜視がある場合ははじめからアトロピン硫酸塩点眼を用い、遠視があれば完全矯正眼鏡を処方する3)。乱視軸が正確に検出されるため、強度乱視の場合もアトロピン硫酸塩点眼を用いるとよい3)。内斜視がなければ一般にシクロペントラート塩酸塩を両眼へ1滴ずつ点眼し、5分後にもう1滴ずつ点眼して、45分後に屈折検査を行う3)。その検査で後天内斜視や遠視などによる弱視で眼鏡が必要と判断された場合も、より強い調節麻痺作用を持つアトロピン硫酸塩を両眼へ1日1〜3回、5日間点眼して再検査する3)。アトロピン硫酸塩は劇薬であり散瞳と調節麻痺が2〜3週間持続するため、むやみに用いるべきではない3)。薬剤・濃度・回数は年齢や眼位などに応じて眼科医が決定する。

眼軸長測定:レーザー光干渉計による測定を推奨する2)。近視進行のモニタリングに用いる。

両眼視機能評価:遮閉試験・近見立体視・調節ラグを評価する。

眼底検査:弱視・器質的疾患の除外に必須である。

近視管理用眼鏡(多分割レンズ)の処方前には以下の評価が必要である2)。

近視管理用眼鏡と他の近視管理法との併用を、一律に標準治療とみなすことはできない。近視管理用眼鏡ガイドラインでは、低濃度アトロピン点眼との併用についても現時点ではエビデンスが限られるとしており、治療法は個別に検討する2)。

Q 小児の眼鏡処方になぜ調節麻痺薬が必要か?
A

小児は調節力が強いため、眼鏡処方時には調節麻痺下で本来の屈折度数を評価することが重要である3)。調節麻痺なしでは調節が入り込み、実際より近視が過大・遠視が過小に評価されることがある。内斜視がある場合はアトロピン硫酸塩を用い、内斜視がなければ一般にシクロペントラート塩酸塩を用いる3)。強度乱視でも乱視軸を正確に検出できるためアトロピン硫酸塩が用いられる3)。

5. 標準的な治療法(眼鏡の種類と処方の実際)

Section titled “5. 標準的な治療法(眼鏡の種類と処方の実際)”
眼鏡処方に使用する試験フレーム(トライアルフレーム)
Ajeeshkumar4u. Ophthalmic trial frame. Wikimedia Commons. 2022. Source ID: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ophthalmic_trial_frame.jpg. License: CC BY-SA 4.0. License URL: https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/.
屈折異常の矯正レンズを装着して視力を確認するために使用する試験フレーム(トライアルフレーム)の外観である。本文「5. 標準的な治療法(眼鏡の種類と処方の実際)」の項で扱う自覚的屈折検査・度数設定に対応する。

小児期は調節力10Dを超え、感覚的順応力も強い。屈折異常は原則として完全矯正が可能である。ただし加齢とともに調節力が低下し、光学的配慮が必要になる。

近視低矯正が適切な例外症例(成人)1):

  • 高度近視で眼鏡倍率効果が大きく満足なvaultが得られない場合
  • 老視年齢で近視が手元視力の代償として機能している場合(−3D以内の近視では老視年齢でメリットがある)
  • 調節力が強く過矯正になりやすい若年者

正視眼での近用加入度数の年齢別目安を以下に示す。

年齢加入度数の目安
52歳+0.50D
56歳+1.00D
60歳+1.50D
64歳+2.00D
68歳+2.50D

既存の近視度数がある場合は近視度数を差し引いて加入度数を算定する(例: 56歳で−0.5Dの近視では近用眼鏡度数は+1.00Dではなく+0.50D)。

単焦点レンズ

適応:近視・遠視・乱視矯正の基本。遠用・近用それぞれに処方する。

特長:処方が単純で慣れやすい。遠用と近用を別々に作成することが多い。

材質:超高屈折率(1.74〜1.76)両面非球面レンズでは−20Dまで処方可能。

累進屈折力レンズ

適応:老視対応の標準的な多焦点眼鏡。

特長:境界線がなくイメージの跳躍がない。ただし累進帯の両側に非点収差領域が生じる。

注意点:加入度数が強いほど・累進帯長が短いほど非点収差の問題が顕著になる。

中近両用・近々両用

適応:PC作業・手作業・楽器演奏など中間〜近距離専用の使用場面。

特長:非点収差の少ない広い近用部を提供する。

近視管理用眼鏡(多分割レンズ)

年齢:臨床試験の対象年齢はMiYOSMART®が5〜18歳、Essilor® Stellest®が7〜18歳。5歳未満には推奨されず、最終的な対象年齢は眼科医が判断する2)。

対象:調節麻痺下の等価球面度数で両眼が−0.5Dまたはそれを超える近視を基本とし、近視進行や家族歴などを踏まえて適応を検討する2)。

効果:2年間の平均近視進行抑制率55〜59%2)。

不等像視は一般に2%以下が許容範囲とされ、眼鏡度数差では約1.5〜2.0Dが目安となる。ただし許容範囲には個人差があるため、症例ごとにテストレンズで確認する1)。

対処法は以下の3つが代表的である:

  1. 円柱度数を減らす: 最小錯乱円を一定に保つよう、円柱度数の半量を球面度数に加算する(例: −1.00D=−cyl2.50D A135°を −1.50D=−cyl1.50D A135°へ変更)
  2. 軸をシフトする: 90°か180°方向へシフトさせることで剪断性視差が減少する。残余乱視が増えるため軸シフトは15°以下にとどめる
  3. 頂間距離を短くする: フレームを顔に近づけることで倍率効果が軽減する

斜視・複視の矯正に用いる。組み込みプリズムで対応できる範囲はレンズ度数にも依存するが、おおむね5〜10Δ程度であり、それを超える場合はFresnel膜プリズムを検討する。10Δを超えるFresnel膜プリズムでは収差による視力低下に注意する1)。処方箋にはプリズムの種類・度数・基底方向を記載する。

強度近視眼の眼鏡矯正ではイメージの縮小が生じる。コンタクトレンズ(CL)との比較では、ソフトCLでは高次収差が増え、ハードCLではレンズ運動で視力が不安定になる。眼鏡には見かけの調節力やプリズム効果があり、特に中年以降で効果を奏する。

強度近視(−6D以上)に対する眼鏡処方の注意点1):

  • 頂間距離効果:眼鏡を前後させると実効度数が変化する。強度近視ではわずかな頂間距離変化でも大きく影響する
  • イメージの縮小:強度凹レンズは像を縮小させ、物が小さく遠く見える。特に新しい眼鏡装用開始時に歩行・段差認識に注意が必要
  • プリズム効果:凹レンズは正面以外でのぞくとプリズム効果が生じる。眼鏡の正しいフィッティングが重要
  • 薄型レンズの選択:超高屈折率レンズ(1.74〜1.76)により厚みを減らし、外観・重量を改善できる

各種疾患眼への眼鏡処方の考え方

Section titled “各種疾患眼への眼鏡処方の考え方”

成人眼鏡処方手引き(2025年)では疾患眼への処方について詳述されている1)。

  • 角膜疾患(円錐角膜等):RGPレンズで管理できない軽症例では球面眼鏡でも有用。不正乱視は眼鏡では矯正できない
  • 偽水晶体眼:白内障術後はIOLの度数設定により残余屈折誤差が生じる場合がある。軸性遠視・近視残余は単焦点眼鏡や累進レンズで対応
  • 調節障害(調節不全・調節痙攣):適切な近用矯正と眼精疲労対策が重要
  • 網膜疾患(AMD・RP等):低視力眼への処方は視機能の最大化を目標とし、必要に応じて遮光眼鏡・拡大鏡との組み合わせを検討

小児弱視等の治療用眼鏡の療養費

Section titled “小児弱視等の治療用眼鏡の療養費”

9歳未満の小児で、弱視・斜視・先天白内障術後などの治療に眼鏡やコンタクトレンズが必要と保険医が判断した場合、療養費の支給対象となる11)。いったん全額を自己負担し、後日申請して償還払いで支給される。眼鏡の支給上限額は40,492円(令和6年4月以降。上限額は改正されることがある)で、この範囲内で加入する健康保険の負担割合に応じた額が支給される。コンタクトレンズは1枚あたりの上限が別に定められており、眼鏡より低い。**アイパッチなどの遮閉具とFresnel膜プリズムは対象外である。**再支給は、5歳未満では前回の支給から1年以上、5歳以上では2年以上経過していることが要件となる。申請には、療養費支給申請書、保険医(眼科医)による治療用眼鏡等の作製指示書(眼鏡処方箋)の写し、購入した治療用眼鏡等の領収書が必要である。自己負担分の一部が市区町村のこども医療費助成で戻ることがあるが、制度内容は市区町村により異なる。最新の取扱いは加入先の健康保険へ確認する。

小児や片眼の視機能が特に重要な場合には、生活状況と外傷リスクを踏まえてレンズ素材や保護眼鏡の必要性を眼科医に相談する。素材ごとの耐衝撃性や適否は、製品規格と使用目的を確認して選択する。

眼鏡処方における検査の流れ(成人・詳細版)

Section titled “眼鏡処方における検査の流れ(成人・詳細版)”

成人の視力検査および眼鏡処方に関する手引き(2025年)に基づく、外来での検査フロー1)。

  1. 用途の聞き取り:運転、デスクPC(モニター距離40〜80cm)、スマートフォン(30〜40cm)、楽器演奏(譜面距離50〜70cm)、手元作業(30cm前後)など使用場面と視距離を詳細に把握する
  2. 所持眼鏡の確認:レンズメータで現行眼鏡の度数・プリズムを計測。装用状況・満足度・不満点を聴取
  3. 他覚的屈折検査:自動レフラクトメータで球面・円柱度数・軸を測定。測定は3回以上行い再現性を確認する
  4. 自覚的屈折検査:フォロプターまたはトライアルフレームで球面度数→円柱度数→軸の順に精密化。MPMVA(最大プラスで最高視力)を目標とする
  5. 調節検査:調節量の評価。近用加入度数の算定に使用。調節ラグがある場合は近用追加を検討
  6. 視力測定:遠用・近用(33cm)各矯正視力を記録
  7. PD(瞳孔間距離)測定:遠用PD・近用PDを正確に計測。PDの誤差はプリズム誤差につながる
  8. 処方箋の作成:sphere・cylinder・axis・add・prism・PD・頂間距離を記載

小児・若年者・潜伏性遠視の疑われる成人では調節麻痺薬が重要である3)。

薬剤濃度点眼方法特徴
シクロペントラート塩酸塩眼科医が決定両眼へ1滴ずつ→5分後にもう1滴ずつ→45分後に検査内斜視がない小児で一般に用いる
アトロピン硫酸塩眼科医が決定両眼へ1日1〜3回×5日間→再診時に検査**内斜視がある場合に用いる。**強度乱視でも乱視軸を正確に検出できるため用いるとよい。後天内斜視や遠視などによる弱視で眼鏡が必要と判断された場合にも用いる
トロピカミド眼科医が決定両眼へ1滴ずつ→20〜30分後に検査調節麻痺作用は比較的弱く、中学生以上などで用いることがある

調節麻痺薬には副作用と作用持続時間がある。アトロピン硫酸塩では発熱・顔面紅潮、シクロペントラート塩酸塩では眠気などが報告されているため、眼科医の説明と指示に従う3)。

Q 近視管理用眼鏡で近視は治るのか?
A

近視管理用眼鏡は近視を「治癒」するものではなく、進行を「抑制」するものである。MiYOSMART®とEssilor® Stellest®は2年間の臨床試験で平均55〜59%の近視進行抑制が報告されている2)。中止後のリバウンド作用は報告されておらず、理由を問わずいつでも中止できる。終了時期は18±2歳を目安とし、近視進行が安定する年齢まで継続したうえで、6か月ごとの受診で屈折度数または眼軸長に連続2回変化がなければ中止を考慮する2)。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼鏡レンズは角膜頂点から離れた位置に置かれるため、度数に応じてイメージが拡大(凸レンズ)または縮小(凹レンズ)して見える。凸レンズは近方の物体を焦点距離以内に引き込み、遠視眼では網膜後方に形成されていた焦点を網膜上へ移動させる。凹レンズは平行光線を発散させ、近視眼で網膜手前に形成されていた焦点を後方へ移動させ網膜上に焦点を形成する。

屈折度数に左右差がある場合、完全矯正眼鏡を処方すると両眼間でイメージサイズに差が生じる(不等像視)。凸レンズは拡大、凹レンズは縮小効果をもたらし、頂間距離が大きいほど倍率効果が増大する。乱視矯正の円柱レンズは経線方向によって倍率が異なる経線不等像視を生じさせる。

老視では水晶体の弾性低下により調節力が不足し、近方に焦点を合わせることができなくなる。加入度数(add)は調節不足を近用部に加えた凸度数で補完するものであり、年齢だけで一律に決めず、作業距離や残存調節力を踏まえて調整する1)。

調節は毛様体筋の収縮、チン小帯の弛緩、水晶体の膨隆によって行われる。調節力は加齢とともに低下し、近方視に必要な調節を補うために老視眼鏡や累進屈折力レンズの加入度数を用いる1)。

調節ラグとは、注視距離に対して実際の焦点が後方にある状態(Near Lag)であり、特に若年近視者で問題となる。網膜周辺部の遠視性デフォーカスが眼軸長延長のシグナルとなり、近視進行を促進するとされる。近視管理用眼鏡(多分割レンズ)はこの周辺デフォーカスを近視性に変換することで眼軸長延長を抑制する8)。

近視進行の主な機序は眼軸長延長(軸性近視)である。眼軸長が1mm延長すると屈折誤差が約−2.5〜−3.0D変化する。眼軸長延長は主として強膜の伸展によるものであり、網膜のデフォーカス信号が眼球成長を調節すると考えられている9)。Bullimoreらの研究では1Dの近視進行抑制が将来の視力障害・病的近視リスクを有意に低減することが示されており7)、少しの近視進行抑制でも長期的に大きな意義を持つ。

近視管理用眼鏡(多分割レンズ)は周辺部のデフォーカスを制御する光学設計を持つ。DIMS技術(MiYOSMART®)やHALT技術(Stellest®)は、網膜周辺部に近視性デフォーカスを付与することで眼軸長延長の抑制シグナルを送ると考えられている。中心視力は完全矯正度数で良好に保ちながら、周辺視でのデフォーカス制御を同時に行う設計である2)。

近視管理用眼鏡の有効性エビデンス:

  • MiYOSMART®(HOYA、DIMS技術):2年間RCTで球面等価度数進行を52%、眼軸長延長を62%抑制5)
  • Essilor Stellest®(Nikon-Essilor、HALT技術):2年間RCTで球面等価度数進行を67%抑制(装用率≥12時間/日)6)
  • 装用中止後のリバウンド作用は報告されておらず、随時中止できる。終了は18±2歳、または6か月ごとの受診で屈折度数・眼軸長に連続2回変化がないことが目安となる2)

眼鏡レンズにはコンタクトレンズと異なり涙液レンズが形成されない。このため不正乱視は眼鏡では矯正できず、RGPレンズや強膜レンズが必要となる。

成人の視力検査および眼鏡処方に関する手引き(2025年)では、眼鏡のフィッティングを処方の一部として重視している1)。外来でのフィッティングチェックポイントとして以下が挙げられる。

  • 頂間距離(BVD):通常12〜14mm。短くするほど凸レンズは縮小・凹レンズは拡大効果が変化する
  • 前傾角:フレームの垂直角度。前傾角が大きいほど乱視度数が増える
  • 瞳孔間距離(PD)とレンズ光心のずれ:プリズム誤差が生じると複視・眼精疲労の原因になる
  • 鼻パッドの高さ・フレームの幅:装用中のずれが度数効果を変える

眼鏡作製技能士(国家資格)との連携が推奨される。近視管理用眼鏡については作製者として眼鏡作製技能士が望ましいとされている2)。

近視管理用眼鏡の普及と今後の製品展開

Section titled “近視管理用眼鏡の普及と今後の製品展開”

世界の近視人口は2000年の13億人から2050年には49億人(うち強度近視9.4億人)に達すると予測されている4)。現在ガイドラインで推奨されているのはMiYOSMART®とEssilor® Stellest®の2製品であり、MYOGEN®・MyoCare®・DOTレンズは今後の改訂時に再評価予定である2)。Bullimoreらは1Dの近視進行抑制が将来の視力障害リスクを有意に低減することを示した7)。

フレームフィッティングの標準化を目的として、眼鏡作製技能士(国家資格)制度が整備されている。近視管理用眼鏡ガイドラインでは、近視管理用眼鏡の作製者として眼鏡作製技能士が望ましいとされている2)。

中学生における強度近視有病率11.3%は成人の8.2%を超えており2)、若年層での近視重症化が公衆衛生上の課題となっている。近視の自然歴については、IMI(国際近視研究所)2023年のダイジェストが包括的にまとめている8)。学齢期からの積極的な近視管理が求められている。

屈折異常の有病率は、年齢・地域・定義によって大きく異なる。Kempenらが40歳以上を対象に推定した近視(等価球面度数−1D以下)の有病率は米国25.4%、西ヨーロッパ26.6%、オーストラリア16.4%、遠視(+3D以上)は米国9.9%、西ヨーロッパ11.6%、オーストラリア5.8%であり、屈折異常全体では米国・西ヨーロッパで約3分の1、オーストラリアで約5分の1と推定された10)。

個別設計レンズと累進レンズの進化

Section titled “個別設計レンズと累進レンズの進化”

レンズメーカー各社はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)・スマートフォン向けの短中距離に特化した累進設計を開発している。波面収差を考慮した「個別設計」レンズでは、フレーム形状・頂間距離・装用傾斜角・瞳孔高さを計測し、装用条件に合わせて設計する。不同視眼鏡処方における不等像視への配慮や、老視眼の加入度数設定の原則は、成人眼鏡処方手引きにまとめられている1)。


  1. 成人視力検査眼鏡処方手引き作成委員会. 成人の視力検査および眼鏡処方に関する手引き. 日眼会誌. 2025;129(2):150-254. 日本眼科学会: https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?dispmid=909&itemid=807.
  2. 近視管理用眼鏡ガイドライン作成委員会. 近視管理用眼鏡(多分割レンズ)ガイドライン(第1版). 日眼会誌. 2025;129(10):855-860.
  3. 小児眼鏡処方手引き作成委員会. 小児の眼鏡処方に関する手引き. 日眼会誌. 2024;128(10):730-768. 日本眼科学会: https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?ItemId=762&dispmid=909.
  4. Holden BA, Fricke TR, Wilson DA, et al. Global prevalence of myopia and high myopia and temporal trends from 2000 through 2050. Ophthalmology. 2016;123(5):1036-1042. doi:10.1016/j.ophtha.2016.01.006. PMID:26875007.
  5. Lam CSY, Tang WC, Tse DY, Lee RPK, Chun RKM, Hasegawa K, et al. Defocus Incorporated Multiple Segments (DIMS) spectacle lenses slow myopia progression: a 2-year randomised clinical trial. The British journal of ophthalmology. 2020;104(3):363-368. doi:10.1136/bjophthalmol-2018-313739. PMID:31142465; PMCID:PMC7041503.
  6. Bao J, Huang Y, Li X, Yang A, Zhou F, Wu J, et al. Spectacle Lenses With Aspherical Lenslets for Myopia Control vs Single-Vision Spectacle Lenses: A Randomized Clinical Trial. JAMA ophthalmology. 2022;140(5):472-478. doi:10.1001/jamaophthalmol.2022.0401. PMID:35357402; PMCID:PMC8972151.
  7. Bullimore MA, Brennan NA. Myopia Control: Why Each Diopter Matters. Optometry and vision science : official publication of the American Academy of Optometry. 2019;96(6):463-465. doi:10.1097/OPX.0000000000001367. PMID:31116165.
  8. Sankaridurg P, Berntsen DA, Bullimore MA, et al. IMI 2023 digest. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2023;64(6):7.
  9. Troilo D, Smith EL 3rd, Nickla DL, Ashby R, Tkatchenko AV, Ostrin LA, et al. IMI - Report on Experimental Models of Emmetropization and Myopia. Investigative ophthalmology & visual science. 2019;60(3):M31-M88. doi:10.1167/iovs.18-25967. PMID:30817827; PMCID:PMC6738517.
  10. Kempen JH, Mitchell P, Lee KE, Tielsch JM, Broman AT, Taylor HR, et al. The prevalence of refractive errors among adults in the United States, Western Europe, and Australia. Archives of ophthalmology (Chicago, Ill. : 1960). 2004;122(4):495-505. doi:10.1001/archopht.122.4.495. PMID:15078666.
  11. 厚生労働省. 小児弱視等の治療用眼鏡等に係る療養費の支給について. https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/01-03.html.

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