先天性角膜実質ジストロフィ(CSCD)
1. 先天性角膜実質ジストロフィ(CSCD)とは
Section titled “1. 先天性角膜実質ジストロフィ(CSCD)とは”先天性角膜実質ジストロフィ(congenital stromal corneal dystrophy:CSCD)は、デコリン遺伝子(DCN、12q22)の変異に起因する常染色体優性の角膜ジストロフィである。出生時から非進行性または緩徐進行性の角膜実質混濁を呈する。
IC3D 分類(2015 年改訂)では実質ジストロフィに位置づけられる。角膜実質ジストロフィには TGFBI 遺伝子変異に関連する格子状・顆粒状ジストロフィなどが含まれるが、CSCD はデコリン遺伝子異常による独立した疾患単位である。
CSCD は極めて稀であり、これまでに世界で 5 家系(フランス・米国 2 家系・ノルウェー・ベルギー)および東アジアの 1 家系からの報告にとどまる。発生率・有病率の正確な統計データは存在しない。遺伝形式は完全浸透を伴う常染色体優性遺伝である。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”出生後数か月以内に角膜混濁が顕在化する。混濁による視力低下に加え、弱視や斜視を合併しやすい。近親婚家系では重度の羞明や探索眼振の報告もある。2012 年の新規変異症例では 30 代からの視力低下で初めて受診した軽症型も報告されている。
細隙灯顕微鏡検査では角膜全層にわたる多数の小さな混濁が認められる。「フレーク状」「斑点状」と表現される外観が特徴的で、霞んだような所見を呈する。
角膜厚は増加し、ノルウェー家系 11 名の平均は 673 μm(範囲 658〜704 μm)であった1)。角膜径は正常で、フルオレセイン染色は陰性、血管新生は認めない。眼圧は正常で、角膜知覚は正常またはわずかに低下する2)。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”デコリン遺伝子変異
Section titled “デコリン遺伝子変異”原因遺伝子は第 12 染色体(12q21.33)上のデコリン(DCN)遺伝子である1,2)。大部分の症例はデコリン遺伝子内のフレームシフト変異により C 末端 33 アミノ酸が切断された変異型デコリンが産生される(例:c.967delT、p.S323fsX5)1)。マウスモデルでは切断型デコリンの細胞外輸送・沈着が CSCD 表現型形成に必要であることが示されている3)。一方、c.1036 T>G(p.Cys346Gly)置換では軽症型が報告されており、コラーゲン架橋が維持され患者は中年期まで有意な視力低下を認めなかった。
完全浸透を伴う常染色体優性遺伝であるため、罹患者の子は 50% の確率で発症する。関連する家族歴が最も重要なリスク要因である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”細隙灯顕微鏡検査
Section titled “細隙灯顕微鏡検査”角膜全層のフレーク状混濁を確認する。角膜表面はわずかに不整であるか正常である。混濁が高度な場合、内皮の評価は困難となる。
透過型電子顕微鏡検査(TEM)
Section titled “透過型電子顕微鏡検査(TEM)”電子透過性の基質内でコラーゲン線維層板が分離した所見が特徴的である。コラーゲン線維自体は正常であるが、細径で高度に整列し密に詰まっている。デスメ膜と角膜上皮は正常である。
DCN 遺伝子の標的シーケンシングにより確定診断が可能である。家族歴が陽性の場合、発端者の変異が既知であれば保因者診断も行える。
| 鑑別疾患 | 主な違い |
|---|---|
| CHED | AR遺伝・角膜浮腫あり |
| PPCD | デスメ膜・内皮を侵す |
| 斑状角膜ジストロフィ | AR遺伝・進行性 |
典型的な家族歴と細隙灯顕微鏡所見・TEM所見があれば臨床診断は可能ですが、遺伝子検査(DCN遺伝子解析)は確定診断に有用です。特に家族歴が不明な散発例や、鑑別が困難な場合には遺伝子検査が推奨されます。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”屈折矯正として眼鏡やコンタクトレンズが用いられる。先天性疾患であるため弱視の早期発見と治療(アイパッチなど)が重要である。角膜混濁自体を改善する薬物療法は現時点で存在しない。
視力改善を目的とした角膜移植が主な外科的治療である。7 歳未満の早期介入は弱視発生率の低下に寄与する可能性がある。
全層角膜移植術(PK): 従来の標準術式である。18 眼の長期検討(平均フォローアップ 19.5 年・範囲 3〜36 年)では 56% で完全透明な移植片が維持されたと報告されている2)。しかし小児では拒絶反応や縫合管理が課題となる。
深層前層板角膜移植術(DALK): CSCD では角膜内皮が正常であるため、DALK が理論的に適している2)。DALK は内皮拒絶反応のリスクを回避できる利点があり、内皮が健常な CSCD では PK よりも DALK が望ましい治療選択肢として推奨されている。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”デコリンの機能
Section titled “デコリンの機能”デコリンはデルマタン硫酸プロテオグリカンであり、角膜実質においてコラーゲン線維の間隔維持と層板間の接着に関与する。I 型・IV 型コラーゲン、フィブロネクチン、TGF-β との相互作用を通じて、側方へのコラーゲン線維成長を抑制する。この間隔の均一性が角膜透明性の維持に不可欠である。
角膜実質ジストロフィの病態は多様であり、TGFBI 遺伝子変異による格子状・顆粒状ジストロフィなど、各疾患で異なる分子経路が関与する。CSCD ではデコリン遺伝子の欠失により異常な切断型デコリン産物が角膜内に蓄積する。
CSCD の発症メカニズム
Section titled “CSCD の発症メカニズム”切断型デコリンの蓄積はコラーゲン線維の正常な間隔維持を破綻させ、異常な線維形成(fibrillogenesis)を惹起する。組織学的には、電子透過性の基質によって正常なコラーゲン層板が分離され、角膜実質は著明に肥厚する。デスメ膜・角膜内皮・角膜上皮は正常を保つ。
c.1036 G>T 置換による軽症型ではコラーゲン架橋が維持されており、デコリン変異の種類と臨床的重症度の間に遺伝子型−表現型相関が存在する可能性が示唆される。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”CSCDはGeneReviewsで「7家系のみ報告」とされる超希少疾患であり、大規模な臨床研究やランダム化比較試験は存在しない2)。c.1036 T>G 置換によるミスセンス変異は軽症型 CSCD の存在を示し、表現型スペクトラムの拡大に寄与した。
今後の課題として、DCN 遺伝子変異と臨床的重症度の相関解明、DALK の長期成績蓄積、および遺伝子治療の可能性の探索が挙げられる。マウスモデル研究では切断型デコリンの細胞外への輸送阻害が治療標的となりうることが示唆されている3)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Bredrup C, Knappskog PM, Majewski J, Rødahl E, Boman H. Congenital stromal dystrophy of the cornea caused by a mutation in the decorin gene. Investigative ophthalmology & visual science. 2005;46(2):420-6. doi:10.1167/iovs.04-0804. PMID:15671264.
- Bredrup C, Stang E, Bruland O, et al. Decorin accumulation contributes to the stromal opacities found in congenital stromal corneal dystrophy. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2010 Nov;51(11):5578-5582. doi:10.1167/iovs.09-4933. PMID:20484579.
- Mellgren AE, Bruland O, Vedeler A, Saraste J, Schönheit J, Bredrup C, et al. Development of congenital stromal corneal dystrophy is dependent on export and extracellular deposition of truncated decorin. Investigative ophthalmology & visual science. 2015;56(5):2909-15. doi:10.1167/iovs.14-16014. PMID:26029887.