この疾患の要点
角膜 全層をドナー角膜 に置換する移植手術であり、視力 改善が最も一般的な適応である
水疱性角膜症 ・円錐角膜 ・角膜白斑 ・角膜ジストロフィ が主要な適応疾患である
拒絶反応・緑内障 ・感染症が3大合併症であり、内皮型拒絶反応が臨床的に最重要である
術後はステロイド 点眼を1年以上継続し、ハイリスク例ではシクロスポリン 全身投与も検討する
近年はDALK ・EKの普及により適応が変化し、PKの施行数は減少傾向にある
全層角膜移植術(penetrating keratoplasty: PKP)は、病的な角膜 全層を切除し、ドナーの全層角膜 片で置換する手術である。通常、直径7.0〜8.5mmの中央円形角膜 片を切除し、対応するドナー角膜 と交換する2) 。視力 の改善が最も一般的な目的であるが、菲薄化・穿孔した角膜 の構造的支持の回復も重要な適応である。
PKPは角膜移植術 の中で最も長い歴史を有する。2012年の世界調査では、PKが世界の角膜移植 の主要術式であった3) 。近年は深層前部層状角膜移植術 (DALK )や角膜内皮移植 術(EK)の普及により、PKの施行数は減少傾向にある1, 7) 。
具体的な適応疾患は原因とリスク要因(適応疾患) の項を参照されたい。
Q
全層角膜移植と層状角膜移植の違いは何ですか?
A
全層角膜移植術は角膜 の全層を置換するのに対し、層状角膜移植 は角膜 の一部の層のみを置換する。層状角膜移植 には深層層状角膜移植術 (前部実質を置換)と角膜内皮移植 術(内皮のみを置換)がある。深層層状角膜移植術 ではドナー内皮を移植しないため内皮型拒絶反応が生じない。角膜内皮移植 術は内皮機能不全に特化した術式である。全層角膜移植術は角膜 全層にわたる混濁や重度な形状異常など、層状移植では対応できない症例に適応される。
PKPの適応となる角膜 疾患は多岐にわたり、自覚症状は原疾患に依存する。
視力 低下 :角膜 混濁・浮腫・形状異常の程度に応じた視力 障害を認める
羞明 :角膜浮腫 や混濁に伴い出現する
眼痛 ・異物感 :水疱性角膜症 では上皮水疱の破裂により強い疼痛が生じる
充血 :角膜 感染症や炎症性疾患に伴う
原疾患により角膜 所見は多彩であるが、以下が代表的な所見である。
角膜 混濁 :実質瘢痕、内皮不全による浮腫性混濁、角膜ジストロフィ による沈着物
角膜 菲薄化・突出 :円錐角膜 などの拡張症で認める
角膜 穿孔 :感染性潰瘍や自己免疫性疾患に伴う
角膜 血管新生 :炎症性疾患やヘルペス角膜 炎で認める。2象限以上の血管侵入は拒絶反応のハイリスク因子である
PKP後の拒絶反応は術後6か月〜1年で好発し、内皮型拒絶反応の発症率は原疾患により異なるが10〜30%程度である。急激な霧視 ・視力 低下・羞明 が自覚症状として重要である。
所見 特徴 Khodadoust line 角膜 後面の線状沈着物Descemet膜皺襞 内皮障害を反映する 角膜 後面沈着物移植片内に限局する
全層角膜移植術の適応は大きく3つに分類される。
光学的角膜移植
水疱性角膜症 :Fuchs角膜内皮 ジストロフィ、偽水晶体 性水疱性角膜症 が代表的な適応である。多くの患者でPK後に有意な視力 改善が得られる2)
円錐角膜 :眼鏡・コンタクトレンズで機能的視力 が得られなくなった場合が適応である1) 。急性水腫後の遷延性角膜浮腫 も全層移植の適応となる1)
角膜白斑 :感染後・外傷後の瘢痕で視力 障害をきたす場合が適応である
角膜ジストロフィ :格子状・顆粒状・斑状角膜ジストロフィ など全層にわたる混濁を呈する場合
治療的・形成的角膜移植
治療的角膜移植 :薬物治療に抵抗する角膜 感染症に対して病巣除去を目的に行う。再発率は20%と報告されており、共焦点顕微鏡 検査や広範なマージン確保が推奨される
形成的角膜移植 :角膜 穿孔眼において眼球の形状維持を目的に行う
角膜 強膜 移植 :感染が輪部 を越える症例や高度の周辺部菲薄化(偏心性円錐角膜 ・ペルーシド辺縁角膜 変性・球状角膜 )では、大きな角膜 強膜 移植が必要となる
PKPは複数回の全層角膜移植 が不全となった症例、広範な前眼部瘢痕が存在する症例では禁忌となりうる1) 。角膜 菲薄化が輪部 近傍に及ぶ場合は手術が困難であり、不全リスクが高まる1) 。
角膜 血管新生 :2象限以上の実質への血管侵入がある症例はハイリスクである
再移植例 :拒絶反応の既往がある症例はさらにハイリスクとなる
ヘルペス角膜 炎の既往 :術後にステロイド 増量や抗ウイルス薬の追加が必要となる
緑内障 の合併 :術後管理が複雑化する
眼内炎 症の存在 :ぶどう膜炎 などの活動性炎症は拒絶反応のリスクを高める
Q
どのような場合に全層角膜移植術が必要になりますか?
A
角膜 全層にわたる混濁や、内皮と実質の両方に障害がある場合にPKPが必要となる。角膜内皮 のみの障害であればEK(内皮移植)、角膜実質 のみの混濁であればDALK (深層前部層状移植)が選択される場合が多い。また、深い実質瘢痕でDALK 中に穿孔の可能性が高い症例や、角膜 穿孔・制御困難な角膜 感染症では、PKPが第一選択となる。
細隙灯顕微鏡検査 :角膜 混濁の範囲・深度、隅角 癒着の有無、輪部 機能(Vogtの柵状隆起・血管侵入)を評価する
前眼部OCT :角膜 混濁の深度と範囲を非侵襲的に評価する。角膜 厚の測定にも有用である
スペキュラマイクロスコピー :角膜内皮細胞密度 と形態を確認し、術式選択の参考とする
角膜トポグラフィ :角膜 形状異常(円錐角膜 など)の評価と術後乱視 管理に用いる
眼底評価 :水晶体 混濁や眼底疾患の合併を除外し、術後の視力 改善の見通しを検討する
涙液評価 :Schirmerテスト・フルオレセイン染色 による眼表面の評価を行う。涙液量の減少は術後の上皮欠損遷延のリスクとなる
視野検査 :視野異常の可能性が否定できない場合に施行する
因子 PKP選択 層状移植選択 混濁の深度 全層にわたる 前部のみ or 内皮のみ 内皮機能 障害あり 深層層状移植: 温存 前眼部異常 再建手術の併施 単純な症例
球後麻酔 と瞬目麻酔で眼球運動を停止させ、ホナンバルーンで硝子体 圧を十分に下げる。白内障 同時手術や小児例では全身麻酔が推奨される。Flieringa輪を強膜 に縫着して眼球虚脱を予防する。
ドナー角膜 片はホスト角膜 より0.25〜0.5mm大きく作成する。内皮側より作成し、トレパンで角膜 深さの約4/5まで切開した後、メスで前房 に刺入する。ドナー角膜 の縫合には10-0ナイロンを使用し、8本の端々縫合と16糸の連続縫合、あるいは24糸の連続縫合を行う。
円錐角膜 では将来的なグラフト急峻化を予想して、ホストと同じサイズのドナーを使用する場合もある。微生物性角膜 炎では病変全体を囲むようにトレパンサイズを選択する。
Balıkçı AT, Burcu A, Akkaya ZY, et al. Deep anterior lamellar keratoplasty and penetrating keratoplasty in macular corneal dystrophy: comparison of visual and topographic outcomes and complications. Arq Bras Oftalmol. 2024;87(3):e20230109. Figure 3. PMCID: PMC11627272. License: CC BY 4.0 (
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ ).
角膜移植 後の眼の前眼部写真である。中央の丸い部分が縫い付けられた提供
角膜 (移植片)で、その縁を1本の糸がジグザグに一周する連続縫合の跡が見える。移植片を通して黒い
瞳孔 と
虹彩 がはっきり透けており、移植片が透明に保たれていることが分かる。
白目 の軽い赤みは撮影時の状態で、拒絶反応の所見として本文が挙げる
充血 とは別に読む必要がある。写真の外観からは全層移植と深層層状移植を区別できず、原典もこの症例の術式を特定していない。
ステロイド 点眼 :ベタメタゾン0.1%を1日4〜5回から開始し、半年程度で低濃度ステロイド (フルオロメトロン0.1%)に変更して継続する
抗菌薬 :レボフロキサシン1.5%を1日5回から開始し、上皮安定後に漸減・中止する。全身投与は術当日から数日間
シクロスポリン 点眼・内服 :併用する
2象限以上の血管侵入例、再移植例などはハイリスクである。
ステロイド 全身投与 :リンデロン4〜8mgの点滴を術中から開始し、プレドニゾロン内服に切り替えて2週間で漸減する
免疫抑制薬 :シクロスポリン 内服を2〜3mg/kg/日から開始し、トラフレベルを70〜100ng/mLに維持して半年ほど継続する。腎機能の定期的モニタリングが必要である
ステロイド 点眼 :ベタメタゾン0.1%を1日4回で1年以上継続し、その後漸減する
拒絶反応は術後1年半以内に多くみられる。早期発見・早期治療が移植片温存の鍵となる。
第一段階 :ベタメタゾン0.1%相当の点眼を1時間おきに頻回投与する
第二段階 :ステロイド の結膜 下注射を追加する
第三段階 :ステロイド 全身投与(パルスまたはセミパルス療法)を行う。軽症なら内服から開始する
免疫抑制薬 :シクロスポリン 内服を2〜3mg/kg/日で併用し、トラフレベル100ng/mLを維持して3か月程度継続する
回復後 :ベタメタゾン0.1%相当を1日4回で1年以上継続し、シクロスポリン 点眼も数か月継続する
術中合併症
グラフト中心固定不良 :視軸からの偏位は術後視力 に影響する
不整なトレパン切開 :不規則な切開は創閉鎖と乱視 に影響する
脈絡膜 出血・滲出 :全身麻酔により発症リスクを軽減できる
水晶体 損傷 :トレパン刺入時に生じうる
硝子体 脱出 :前房 内への硝子体 脱出は術後管理を複雑化する
術後合併症
拒絶反応 :内皮型が臨床的に最重要であり、発見が遅れると不可逆的な移植片機能喪失に至る
緑内障 :前房 内操作による周辺部虹彩 前癒着、術後炎症、ステロイド緑内障 が原因となる
感染症 :縫合糸部位の感染やステロイド 長期使用に伴う日和見感染(細菌性・真菌性・ヘルペス性)がある
乱視 :不整乱視 は最も一般的な術後屈折 異常であり、コンタクトレンズ装用が必要となることが多い2)
創口離開 :1.3〜5.8%に認められ、眼球の構造的脆弱性を生じる
PKの合併症には感染・拒絶反応・不全・緑内障 ・白内障 ・不良な屈折 成績(不同視 ・高度角膜 乱視 )が含まれる1) 。
PKP後は術後ステロイド 点眼の長期使用により後囊下白内障 (PSC)が進行しやすく、白内障 手術が必要となる場合がある5) 。通常の白内障 手術とは異なる特有の課題に留意する。
IOL度数計算 の困難 :PKP後は縫合張力の不均一性や創傷治癒過程で高度乱視 (抜糸後の角膜 計量乱視 は平均3.70±3.20 D)が生じ、IOL度数計算 の予測性が低下する6) 。白内障 手術前にすべての角膜 縫合糸を抜糸し、角膜 曲率が安定してからIOL 度数を算出することが望ましい。角膜 が混濁している場合はAモード超音波を用いて眼軸長 を計測する。
手術アプローチと内皮保護 :強膜 トンネルアプローチは移植片縁への影響を最小化できる。角膜 切開を用いる場合は移植片縁付近まで延長しないよう注意する。分散型粘弾性物質 を用いたソフトシェル法で移植角膜 の内皮を保護し、超音波エネルギーは内皮から十分な距離を確保して使用する5) 。
乱視 管理 :正乱視 成分に対してはトーリックIOL が選択肢となるが、不正乱視 には効果が限られる。角膜 減張切開(CRI)を移植片・宿主接合部内で施行する方法もある6) 。
トリプル手術(PKPと白内障 手術の同時施行) :白内障 が進行しており角膜移植 も必要な症例では同時施行が検討される。視認性が許す限り水晶体 乳化吸引術をPK施行前に行い、open-sky時間を短縮する。混濁角膜 を通じて連続環状切嚢を行う場合はトリパンブルーなどの水晶体嚢 染色剤が有用である5) 。段階的施行のほうが移植角膜 安定後の屈折 誤差が少ない利点がある。
Q
拒絶反応が起きたらどうなりますか?
A
拒絶反応が起きると、充血 ・霧視 ・視力 低下・眼痛 が急性に出現する。角膜 後面にKhodadoust lineと呼ばれる線状沈着物やDescemet膜皺襞が認められる。早期に発見して集中的なステロイド 治療を行えば、多くの症例で拒絶反応を抑制できる。しかし治療が遅れると内皮細胞が不可逆的に障害され、移植片が機能しなくなる。拒絶反応が一度でも起きると、それが元に戻っても長期的な移植片生存に悪影響を及ぼす。
Q
術後にどのような注意が必要ですか?
A
術後は指示された通りにステロイド 点眼を継続することが最も重要である。急な充血 ・霧視 ・視力 低下・眼痛 が出現した場合は拒絶反応の可能性があるため、速やかに受診する。縫合糸の緩みに気づいた場合も早急に受診が必要である。眼をこすらない・打撲を避けるなど、物理的な外力にも注意する。ステロイド 長期使用中は眼圧 上昇のチェックも欠かせない。
PKの移植片生存率は原疾患により大きく異なる。
角膜拡張症 に対するPKの長期生存率は、オーストラリア角膜移植 登録によれば5年で95%、10年で89%と報告されている1) 。
10年生存率は円錐角膜 で最も高く、感染後瘢痕がこれに続き、Stevens-Johnson症候群 や眼類天疱瘡 などの炎症性疾患が最も予後不良である。
Fuchs角膜内皮 ジストロフィに対するPKでは多くの患者で有意な視力 改善が得られるが、術中の脈絡膜 出血リスクが高く、術後の拒絶反応リスクや視力 回復に要する期間がEKより長い2) 。
Cornea Donor Study(CDS)では、FECDおよび偽水晶体 性角膜 水腫に対するPKにおいて高齢ドナー(66〜75歳)と若年ドナーの長期成績が比較された(1,090名、前向き多施設二重盲検非劣性試験)4) 。5年グラフト生存率は両群とも86%で同一であり、10年時点でも若年群77%対高齢群71%と有意差はなかった。75歳までのドナー角膜 はPKに安全に使用できることが示されたが、高齢ドナー組織では術後の内皮細胞減少がやや大きく(5年時点で若年群824対高齢群654 cells/mm²)、72〜75歳の最高齢群では6年目以降にグラフト生存率の低下が顕著であった4) 。
角膜 は血管のない組織であり、歴史的に免疫特権を有すると考えられてきた。しかしPKでは上皮・実質・内皮を含む全層組織を移植するため、層状移植より拒絶反応の影響を受けやすい7) 。拒絶反応が移植片不全に関与することもある。
拒絶反応には上皮型・実質型・内皮型の3型がある。臨床的に頻度が多く重要なものは内皮型である。
上皮型拒絶反応 :移植片上皮の置換に関連し、上皮下浸潤を認める。比較的軽微であり、予後は良好である
実質型拒絶反応 :実質への細胞浸潤を認める。発症率は2〜12%と報告されている1)
内皮型拒絶反応 :Khodadoust lineと呼ばれる拒絶反応線、角膜 後面沈着物、Descemet膜皺襞、実質浮腫が特徴的である。発見が遅れると移植片機能が不可逆的に喪失する
PKの移植片不全は経時的に異なる原因で生じる。初期(術後数年以内)は拒絶反応が主因であり、後期にはドナー内皮細胞の経年的脱落による内皮不全が主因となる。
緩んだ縫合糸は感染巣や拒絶反応の誘因となるため、発見次第早急に抜糸を行う。
近年、深層層状角膜移植術 および角膜内皮移植 術(角膜内皮移植 術・デスメ膜 内皮角膜移植術 )の普及により、全層角膜移植術の適応は減少傾向にある。
メタ解析では、深層層状角膜移植術 の拒絶率は全層角膜移植術と比較して有意に低いことが示されている(オッズ比0.28; 95%信頼区間 0.15–0.50; P < 0.001)。一方、移植片不全率は両術式で同等である(オッズ比1.05; 95%信頼区間 0.81–1.36)1) 。
コンタクトレンズのデザイン改良とコラーゲンクロスリンキング(CXL )の普及も、角膜拡張症 に対する全層角膜移植術の減少に寄与している1) 。米国眼球バンク協会(EBAA)のデータでは、円錐角膜 に対する角膜移植 は2011年から2022年にかけて継続的に減少している1) 。
フェムト秒レーザー支援角膜移植術 (FLAK)は、ドナーとレシピエントの両方にフェムト秒レーザーでトレフィネーションを行う技術である。理論上は創強度の向上・早期抜糸・視覚リハビリテーション の短縮・乱視 の軽減が期待されるが、機械的トレフィネーションと比較して長期的な優位性は示されていない1) 。
PKは円錐角膜 のあらゆる重症度において、安全かつ有効で良好な視力 成績を示す術式であることが報告されている。縫合技法は成績に影響しないが、グラフトとホストのサイズ差が小さいほど近視 化が少ない1) 。
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