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その他

前眼部OCT(AS-OCT)

前眼部OCT(AS-OCT: Anterior Segment Optical Coherence Tomography)は、近赤外光の干渉現象を利用して角膜前房水晶体隅角の断層像を非侵襲的に取得する検査装置である。細隙灯顕微鏡では検査できない部位の観察と定量的評価が可能で、閉塞隅角症スクリーニング・角膜疾患・屈折矯正手術前後・緑内障隅角評価など幅広い領域で活用される。

AS-OCTによるイメージングは、1994年にIzattらによって初めて報告された。当初は網膜OCTと同じ830 nmの波長を使用していたが、強膜などの散乱組織への透過性が低く、隅角の描出には不向きであった。その後1310 nmの長波長を用いた装置が開発され、強膜への透過性と撮影速度が大幅に向上した。

現在はフーリエドメインOCT(FD-OCT)が主流である。タイムドメインOCT(TD-OCT)と比較して測定速度・解像度・3次元解析能に優れる。FD-OCTにはswept source OCT(SS-OCT)とspectral domain OCT(SD-OCT)の2方式がある。

SS-OCT

波長:1310 nm(長波長)

深達度:高い(前眼部全域を一画面に画像化)

解像度:SD-OCTより劣るが実用上十分

代表機種:CASIA2(トーメー社)

SD-OCT

波長:840 nm(短波長)

深達度:狭い(前眼部全域の描出は困難)

解像度:SS-OCTより高解像度

用途角膜結膜の精密観察に適する

AS-OCTは非接触的に隅角部を観察できる診断機器であり、解像度は超音波生体顕微鏡UBM)より優れるが、毛様体は観察できない3)緑内障診療における補助診断として有用性が広く認識されている3)

  • CASIA2(トーメー社):SS-OCT搭載、360°隅角自動解析(AOD500・narrow angle index)による狭隅角スクリーニングが可能
  • Cirrus HD-OCT 5000/6000前眼部モード(Zeiss社):既存の後眼部OCTに前眼部モードを搭載
  • SPECTRALIS前眼部モード(Heidelberg社):高解像度SD-OCTによる角膜精密評価に対応
Q AS-OCTと通常の眼底用OCTは何が違うのですか?
A

眼底用OCT網膜の断層像を取得する装置で、波長840〜870 nmの光源を使用する。AS-OCTは前眼部(角膜隅角虹彩など)の観察に特化し、SS-OCT方式では1310 nmの長波長を用いて深部組織への透過性を高めている。観察対象と使用波長が異なる。

前眼部断層イメージングにはAS-OCT超音波生体顕微鏡UBM)の2種類がある。両者には共通点と明確な相違点がある。

  1. 前眼部断面像が得られる
  2. 隅角部断面像から緑内障の治療方針決定に有用な情報を得られる
  3. 画像の定量的評価が可能(隅角解析ソフト)
  4. 明所・暗所における変化の観察が可能
項目前眼部OCT(AS-OCT超音波生体顕微鏡UBM
原理光(波長0.7〜1.3 μm)超音波(30〜50 MHz)
接触非接触接触(水浸法が必要)
体位坐位(一部仰臥位も可)仰臥位
解像度15 μm50 μm
最大スキャン範囲16 × 6 mm5 × 5 mm
毛様体観察不明瞭可能
虹彩裏面不明瞭可能
角膜表層・涙液メニスカス有用不向き
画像解析ソフト充実限定的
手術直後可能(感染リスクなし)困難

AS-OCTは非接触・高速・高解像度の利点から日常診療での第一選択となっている。一方、UBMAS-OCTでは描出困難な毛様体チン小帯虹彩裏面の観察に優れる。悪性緑内障の診断・プラトー虹彩の詳細評価など、毛様体の観察が必要な場面ではUBMが威力を発揮する。

AS-OCTは以下の手順で施行する。

  1. 非接触・点眼麻酔不要:眼への接触なし、麻酔点眼は不要
  2. 散瞳不要隅角評価は無散瞳で施行。暗所変化の評価には明所・暗所両方で撮影
  3. 坐位で正面視:被検者は固視灯を注視
  4. 隅角解析ソフトで自動評価:CASIA2ではAOD500を360°自動解析

CASIA2を用いた狭隅角スクリーニング

Section titled “CASIA2を用いた狭隅角スクリーニング”

CASIA2(SS-OCT搭載)では360°隅角自動解析でAOD500を全周算出し、narrow angle indexで狭隅角リスクを数値化する。隅角鏡による診断結果と組み合わせることで、スタッフの教育や患者説明にも活用できる。

隅角の血管新生・色素沈着はAS-OCTでは捉えられない。周辺虹彩前癒着PAS)・色素沈着・線維柱帯機能障害の二次的原因はAS-OCTのみの評価では見落とされうる6)

Q AS-OCTで隅角鏡検査を完全に代替できますか?
A

代替できない。AS-OCTは非接触で暗所撮影が可能という利点があるが、周辺虹彩前癒着や色素沈着、新生血管などの隅角所見はAS-OCTでは検出困難な場合がある6)緑内障の疑いがあるすべての患者に隅角鏡検査を実施すべきとされている6)

4. 評価パラメータと結果の解釈

Section titled “4. 評価パラメータと結果の解釈”

AS-OCT画像を解釈する際に最も重要な指標は**鞏膜突(scleral spur)**である。鞏膜突は強膜内面と角膜の曲率の接合部で、強膜が内側に突出した構造として視認される。虹彩角膜強膜内壁との接触(apposition)を評価することで、隅角閉塞の検出が可能となる。

ただし、画像平均化を行わないスキャンプロトコルでは約25%の症例で鞏膜突が視認できないとの報告がある。

前房隅角の定量的測定に用いられる主なパラメータを以下に示す。

パラメータ略称定義
隅角開放距離AOD鞏膜突前方500/750 μm点と虹彩間の距離
隅角陥凹面積ARAAOD・虹彩角膜強膜内壁で囲まれた面積
線維柱帯虹彩間隙面積TISA鞏膜突からAOD線までの台形の面積

その他、虹彩厚・前房幅・水晶体前方突出度(lens vault)なども測定可能である。

AS-OCT隅角評価だけでなく、角膜断面の精密評価にも有用である。

  • 角膜断面像角膜各層(上皮・ボーマン層・実質・デスメ膜・内皮)の構造が明瞭に描出される
  • 中心角膜厚(CCT)測定:正確な角膜厚の定量評価が可能
  • 角膜形状解析:トポグラフィー機能搭載機種では角膜形状の解析にも対応

隅角画像診断は隅角鏡検査を代替できない6)隅角鏡検査緑内障の疑いがあるすべての患者に実施すべきである6)

SD-OCTによる前房隅角断面像(強膜突・線維柱帯・虹彩の解剖構造)
SD-OCTによる前房隅角断面像(強膜突・線維柱帯・虹彩の解剖構造)
Wies6014. SD OCT - Anterior Chamber Angle Cross-Section. Wikimedia Commons. 2013. Source: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:SD_OCT_-_Anterior_Chamber_Angle_Cross-Section.png. License: CC BY-SA 4.0.
スペクトル領域OCT(SD-OCT)で撮影した57歳男性の前房隅角断面像で、強膜突・線維柱帯虹彩の各構造が明瞭に描出されている。本文「緑内障における隅角評価」の項で扱うAS-OCTによる隅角評価に対応する。

緑内障の臨床において、AS-OCT隅角鏡検査の補助として、あるいは角膜疾患や患者の協力が得られないために隅角鏡検査が困難な場合の代替手段として有用である。非接触で暗所での検査が可能なため、生理的散瞳状態での隅角評価ができる。

虹彩の形態や前眼部構造に対する水晶体の位置に基づき、瞳孔ブロック水晶体前方突出などの隅角閉塞メカニズムを判別できる4)。閉塞隅角症(PAC/PACS)の診断補助として、レーザー虹彩切開術LPI)や白内障手術の決定に役立てられる4)

また、レーザー虹彩切開術を推奨する際の患者教育ツールとしても有用である5)浅前房・狭隅角・プラトー虹彩といった虹彩の形態変化を観察するために不可欠な存在となっている。

AS-OCT緑内障手術の術前・術後評価にも応用される。線維柱帯切除術後の濾過胞(bleb)の形態評価や、眼内ドレナージデバイスの位置確認に使用される。

Tanitoら(2024)は、PreserFlo MicroShunt(PFM)植込み術2年後の症例において、通常の2D断面画像では評価困難であったステントの状態を、ラスタースキャンと3D AS-OCTイメージングにより明確に可視化した。右眼ではC字型の変形が確認され、フィンが強膜ポケットから脱出した可能性が示唆された1)。2D画像に3D画像を追加することで、ステント評価の精度が大幅に向上することが示された1)

SD-OCTによる健常角膜の断面像(角膜上皮・実質・内皮の層構造が明瞭)
SD-OCTによる健常角膜の断面像(角膜上皮・実質・内皮の層構造が明瞭)
Wies6014. SD-OCT Corneal Cross-Section. Wikimedia Commons. 2013. Source: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:SD-OCT_Corneal_Cross-Section.png. License: CC BY-SA 4.0.
スペクトル領域OCT(SD-OCT)で撮影した24歳男性の健常角膜断面像で、角膜上皮・実質・内皮の3層構造が高解像度で描出されている。本文「角膜疾患への応用」の項で扱う角膜断面評価に対応する。

AS-OCT角膜混濁の深さを断面像で評価し、角膜移植の術式選択に役立つ。

  • 表層病変(上皮〜ボーマン層)DALK(深層前部層状角膜移植)の適応検討に有用
  • 実質深層〜デスメ膜病変DSAEK/DMEKデスメ膜角膜内皮移植)との鑑別に寄与
  • 全層病変:PK(全層角膜移植)の適応判断に活用
  • 円錐角膜角膜厚の菲薄化を定量評価し、角膜クロスリンキングCXL)の適応を検討

白内障手術前において、前眼部の定量評価にAS-OCTが活用される。

  • 前房深度IOL度数計算の補助
  • 水晶体前方突出度(lens vault)虹彩への機械的接触リスクの評価
  • 隅角狭小化の有無:術後閉塞隅角症リスクの評価
  • 術前:角膜厚・角膜断面形状の評価。ICL(眼内コンタクトレンズ)手術前の前房深度評価
  • 術後:フラップ形態(LASIK後)や角膜実質の残存厚の確認
Q AS-OCTの検査は痛みがありますか?
A

AS-OCTは非接触式の検査であり、眼に器具が触れることはない。痛みや不快感は生じない。麻酔点眼も不要で、検査時間は数分程度である。

AS-OCTはMichelson干渉計の原理を利用する。光源から出た光を「参照アーム」と「試料アーム(眼への照射)」に分割し、それぞれからの反射光を干渉させることで、組織内の各深さからの反射強度をA-scan信号として取得する。フーリエ変換によりA-scan信号を深さ方向の輝度分布に変換し、2次元スキャンにより断層像を生成する。

FD-OCT(フーリエドメインOCT)には2つの実装方式がある。

  • SD-OCT(スペクトル領域OCT:波長840 nm付近の広帯域光源を使用。分光器で反射光をスペクトル成分に分解して同時取得する。高解像度だが前眼部深部の描出は限定的
  • SS-OCT(掃引光源OCT:波長1310 nm付近で単一波長を高速で掃引する。1310 nmは前眼部の光散乱組織(強膜強膜突)への透過性が高く、前眼部全域を一画面でカバーできる

波長1310 nmのSS-OCT水晶体後面・毛様体方向まで到達可能な深達度を持ち、AS-OCT用途において実質的な標準方式となっている。

光干渉断層血管撮影(OCTA)は急速に発展中の技術である。網膜神経線維層の測定よりもfloor effectの影響を受けにくいとされ、進行した緑内障眼における進行判定ではOCTよりも有利である可能性があるが、実臨床における標準化された活用方法は確立されていない3)

Huangら(2024)はAS-OCT緑内障応用に関する20年間(2004〜2023年)の文献計量学的解析を行い、931報を分析した。米国が288報で最多、中国231報、シンガポール124報が続いた。著者別ではAung Tin氏が80報・3595被引用で最多であった2)

2012年以降に論文数が急増し、2015年以降は年間60報以上が安定的に発表されている2)。2018年以降は人工知能(AI)の進歩により、手動測定から自動検出・認識への研究シフトが顕著となっている2)

AIと深層学習による隅角閉塞検出

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最新の研究フロンティアとして深層学習(deep learning)による隅角閉塞の自動検出が挙げられる2)。従来のAS-OCT画像評価は各パラメータの手動測定に依存しており、時間を要し主観的で再現性が低いという課題があった。

深層学習アルゴリズムは画像データから直接学習し、隅角の開放・狭窄・閉塞を高精度で分類する能力を示している。3D深層学習ベースのデジタルゴニオスコピーシステム(DGS)は、狭い虹彩角膜角および周辺虹彩前癒着の検出において、眼科医に匹敵する高い診断精度を示した2)

1310 nmの波長で動作するFD方式のAS-OCTにより、前眼部の迅速な3次元キューブスキャンが可能となりつつある。これにより以下の評価が期待される。

  • 360度隅角評価:全周の隅角を一度に評価
  • 体積パラメータ虹彩体積・前房体積の測定
  • 動的因子の評価虹彩面積や体積の瞳孔径変化に伴う動的変化の解析

3D AS-OCT緑内障手術デバイスの術後評価においても有用性が実証されており、2D画像では困難であったステントの変形・偏位の全体像を明確に可視化できる1)

Q AIによるAS-OCT画像解析は実用化されていますか?
A

研究段階である。深層学習アルゴリズムによる隅角閉塞の自動検出は高い精度を示しているが2)、臨床で広く実用化されるには至っていない。データの不足や診断基準の統一などの課題が残されている。


  1. Tanito M, Omura T, Iida M, et al. Anterior Segment Optical Coherence Tomography (AS-OCT) 3D Observation of PreserFlo MicroShunt. Cureus. 2024;16(10):e72511.
  2. Huang Y, Gong D, Dang K, et al. The applications of anterior segment optical coherence tomography in glaucoma: a 20-year bibliometric analysis. PeerJ. 2024;12:e18611.
  3. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.
  4. American Academy of Ophthalmology. Primary Angle-Closure Disease Preferred Practice Pattern. San Francisco: AAO; 2020.
  5. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern. San Francisco: AAO; 2020.
  6. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109:bjo-2025-egsguidelines.

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