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緑内障

レーザー虹彩切開術(Laser Peripheral Iridotomy)

レーザー虹彩切開術(laser peripheral iridotomy: LPI)は、レーザーで周辺虹彩に孔を作成し、房水が後房から前房へ直接通過する経路を形成する処置である。これにより瞳孔ブロックが解除され、前後房の圧差が解消されて隅角が開大する3)

1857年にAlbrecht von Graefeが角膜切開創を介した外科的虹彩切除術を報告した。1970年代にアルゴンレーザーが非侵襲的虹彩切開術の実施を可能にした。1980年代にQスイッチNd:YAGレーザーが導入され、虹彩メラニン含有量に依存しない光破壊作用により、あらゆる虹彩色で効率的な穿孔が可能となった。現在ではNd:YAGレーザーが虹彩切開術の主流である。

40歳以上の日本人を対象とした多治見スタディでは、原発閉塞隅角症疑い(PACS)の有病率は0.2%、原発閉塞隅角症(PAC)は0.5%、原発閉塞隅角緑内障PACG)は0.6%と報告されている。高齢女性・短眼軸遠視眼が素因となる。

急性閉塞隅角発作を誘発しうる因子として以下がある。

  • 抗コリン薬:胃内視鏡の前処置薬、睡眠薬、抗精神病薬
  • 散瞳薬:トロピカミド・フェニレフリン含有点眼
  • 抗うつ薬:三環系抗うつ薬、SSRI11)
  • 充血除去薬:フェニレフリン含有の市販風邪薬11)
  • その他:長時間の下向き姿勢、夜間の自然散瞳

隅角の素因がある患者にはこれらの薬剤使用時のリスクについて情報提供する。

主要適応

急性原発閉塞隅角(APAC):診断後速やかに施行する。対側眼にもLPIが不可欠である。未治療の場合50%が5年以内に対側発作を経験する

原発閉塞隅角(PAC)・原発閉塞隅角緑内障PACG:すべての患者に瞳孔ブロック解除が必要である。周辺虹彩前癒着が50%未満であればLPIで十分な場合がある

原発閉塞隅角疑い(PACS):ZAP trialでは6年でPACへの進展リスクが47%減少、14年で69%減少した2)。ただしルーチンの予防的LPIは推奨されていない2)3)

その他の適応

虹彩後癒着による虹彩ボンベぶどう膜炎に伴う続発性瞳孔ブロックの再発予防に有用である

プラトー虹彩瞳孔ブロック成分の排除目的でLPIを施行する。ただしLPI後も約1/3にITCが残存する7)

色素散乱症候群:逆瞳孔ブロック解消目的で施行されるが、有効性のエビデンスは不十分である

房水逆流(悪性緑内障瞳孔ブロックの可能性を除外するためにLPIが重要である

透光体の混濁(角膜浮腫前房内炎症)、極度の浅前房で安全に施行できない状態、非協力的な患者が禁忌である3)角膜内皮細胞密度2,000個/mm²未満の症例では周辺虹彩切除術や水晶体再建術を検討する。

Q LPIは予防的に行うべきですか?
A

すべての狭隅角に対するルーチンの予防的LPIは推奨されていません。ZAP trialでは原発閉塞隅角疑い(PACS)に対するLPIの予防効果が示されましたが、発症率自体が低く(年間1000眼あたり4〜8件)、6年間の治療必要数(NNT)は44でした。ハイリスク眼(隅角が非常に狭い、浅前房眼圧高値傾向)に限定して予防的LPIを検討するのが現在の推奨です。

1〜2%ピロカルピン点眼を施術1時間前から15分ごとに2〜4回点眼し縮瞳させる3)。ただし眼圧が著しく高い状態(40 mmHg以上)では瞳孔括約筋が虚血性麻痺を起こしており、ピロカルピンの縮瞳効果が得られない場合がある。その場合はまず高浸透圧薬で眼圧を下降させてから縮瞳薬を使用する。術後眼圧上昇予防のためアプラクロニジンを術1時間前と術直後に点眼する3)。塩酸オキシブプロカインによる点眼麻酔を行う。角膜浮腫がある場合は10%グリセリン点眼や全身投与(アセタゾラミド・マンニトール 1.0〜3.0 g/kg、30〜45分かけて点滴静注)で角膜透明性を改善する2)。腎機能障害がある患者ではマンニトール使用に注意する。

虹彩切開用コンタクトレンズ(Abraham、Wise、Goldmann三面鏡)を装着する3)。照射部位は11時〜1時の上象限で虹彩小窩などの薄い虹彩部を選択する2)。12時方向は気泡が集まるため回避する。虹彩血管を避け、上眼瞼に完全に覆われる位置が望ましい2)

パラメータNd:YAGレーザーアルゴンレーザー(第1段階)アルゴンレーザー(第2段階)
出力1〜6 mJ200〜600 mW800〜1,500 mW
スポット50〜70 μm200〜500 μm50 μm
時間0.2〜0.6秒0.02秒

アルゴンレーザーの総照射数は角膜内皮障害を考慮し100発未満にとどめることが望ましい。

Nd:YAGレーザー単独法:1〜6 mJで1〜3パルスを照射する2)4)虹彩実質内にビームを収束させる。2 mJ超では水晶体嚢損傷のリスクがある2)。低エネルギーの多数照射(10〜30発)または少数の高出力照射(2〜3発)が用いられる2)

アルゴン+Nd:YAG併用法:濃色虹彩で推奨される3)4)。第1段階で虹彩を伸展、第2段階で穿孔準備(凝固による止血効果あり)、第3段階でNd:YAGレーザー(2〜4 mJ)にて穿孔を完成させる3)

色素を含んだ房水の後房から前房への流出が確認されたとき、全層穿孔と判断する2)。穿孔後は200μm程度まで水平方向に拡大する。透照(transillumination)は開通性の信頼できる指標ではない2)

術後1〜3時間に眼圧を測定し一過性眼圧上昇の有無を確認する3)。必要に応じて炭酸脱水酵素阻害薬や高張浸透圧薬を投与する3)副腎皮質ステロイド点眼を1日3〜4回、4〜7日間処方する。1週間後に前房深度と隅角開大を前眼部OCTで評価する。

眼圧が持続する場合は周辺虹彩前癒着PAS)による慢性閉塞の可能性があり、速やかに水晶体再建術が可能な施設への紹介を検討する。僚眼にも閉塞隅角のリスクがある場合は、早期に予防的LPIまたは水晶体再建術を検討する10)。麻痺性散瞳が発作後に残存することがある。

周辺虹彩前癒着(PAS)の細隙灯・UBM・隅角鏡パネル像
Chen M, Gu Y, Yang Y, et al. Management of Intraocular Pressure Elevation After CO(2) Laser-Assisted Sclerectomy Surgery in Patients With Primary Open-Angle Glaucoma. Front Med (Lausanne). 2021;8:806734. Figure 3. PMID: 35004782; PMCID: PMC8740123; DOI: 10.3389/fmed.2021.806734. License: CC BY.
細隙灯(A)・UBM(B)・隅角鏡(C)でPASを確認し、Nd:YAGレーザー癒着剥離後に虹彩が退縮した所見(D)を示す多パネル像。本文「4. 合併症」の項で扱うプラトー虹彩再閉塞・PAS関連の周辺虹彩閉塞に対応する。

一過性眼圧上昇:最も頻度の高い合併症である。通常術後1〜4時間にピークとなり6時間程度で術前レベルに回復する3)。ベースラインから8 mmHg以上の上昇が6〜10%に報告されている。α2作動薬の術前後投与で予防する。

前房出血虹彩切開部位からの出血で、ほとんどが軽微である。コンタクトレンズでの軽い圧迫で止血できる。抗凝固薬・抗血小板薬の中止は不要である。

術後虹彩炎:必発であるが通常軽度で、ステロイド点眼で管理する3)

水疱性角膜症:過剰なエネルギー出力、既存の角膜内皮障害(滴状角膜を含む)、急性発作既往眼、糖尿病がリスク要因である3)。LPI後の40%以上が3年以内に白内障手術を要するとの報告もある。

視覚的異常光視症(LIVD)まぶしさ・ハロー・線状の影などが2〜16%に報告されている10)。LPI部位(上方・耳側)による発生率に有意差はなく、多くは一過性で6か月以内に自然消退する10)

網膜誤照射:レーザー照射が虹彩を通過して網膜に到達する合併症であり、合併症リストに含まれる3)。照射部位の選択と焦点調整で予防する。

一過性乳頭浮腫:急性閉塞隅角発作後のLPIによる急激な眼圧下降に伴い一過性の視神経乳頭浮腫が生じうる5)。65歳女性で眼圧54 mmHgから9 mmHgへの急激な下降後に乳頭浮腫が出現し、4週間で改善した症例が報告されている5)脈絡膜毛細血管からの滲出または軸索流の回復が機序として推測されている5)

減圧性網膜症(ODR):LPI後に散在性の網膜内出血・乳頭浮腫黄斑浮腫を呈する稀な合併症である6)。56歳女性で眼圧46 mmHgからLPI後に視力20/400まで低下し、1ヶ月後に20/40まで回復した症例が報告されている6)。中心静脈閉塞症との鑑別にFAOCTが有用である6)

漿液性毛様体脈絡膜剥離:Nd:YAG LPI後に広範な毛様体脈絡膜剥離と黄斑浮腫を呈した78歳男性の症例が報告されている8)。全身・局所ステロイドで改善した8)。アルゴンレーザーよりNd:YAGでの報告は少ないが、眼圧変動・炎症・血管うっ滞の多因子的関与が示唆される8)

プラトー虹彩症候群による再閉塞:LPI開通後も散瞳時に隅角閉塞が発生しうる7)。41歳女性でLPI開通にもかかわらず散瞳後に急性隅角閉塞を生じ、最終的に線維柱帯切除術白内障手術を要した症例が報告されている7)UBMによるプラトー虹彩の評価が重要である7)

Q LPIは痛みを伴いますか?合併症は多いですか?
A

LPIは点眼麻酔下で行われるため、強い痛みはほとんどありません。照射時にわずかな圧迫感や瞬間的な痛みを感じることがあります。合併症の多くは一過性の眼圧上昇や軽度の虹彩炎で自然に回復します。最も重篤な合併症は水疱性角膜症ですが、術前の角膜内皮評価と適切なレーザー出力の管理で予防可能です。

EAGLE trial:水晶体摘出術との比較

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PAC(眼圧30 mmHg以上)またはPACGの50歳以上の419名を対象とした多施設RCTである2)水晶体摘出術(CLE)群とLPI群の3年成績を比較した。

項目CLE群LPI群
平均眼圧1.18 mmHg低い基準
薬剤使用率21%61%
追加手術数1例24例

CLE群はQoL・眼圧制御ともにLPI群を上回った2)。50歳以上の高眼圧PAC/PACGでは初回治療としてのCLEが支持される2)。ただし水晶体摘出術は技術的に難度が高い点に留意する2)。英国での費用効果分析では、CLEは3年時点で費用対効果に優れ、10年でコスト節減と推計された10)

LPI単独では長期的に不十分な場合がある。急性発作後にLPIを施行した患者の最大58%が慢性閉塞隅角緑内障(CACG)に進行し、薬物療法・線維柱帯切除術水晶体摘出術などの追加介入を要したと報告されている11)。早期の水晶体摘出術はCACGへの進行を減少させ、薬剤依存を低減し、より良好な長期転帰をもたらす可能性がある11)。発作後1〜3か月が水晶体摘出術の適切な施行時期とされる11)

中国PACS 889名の片眼をLPI、僚眼を無治療に割り付けたRCTである2)3)。6年時点でPAC進展はLPI群19眼 vs 無治療群36眼(年間1,000眼あたり4.19 vs 7.97)で有意差を認めた2)3)。14年延長追跡ではLPI群33眼 vs 対照群105眼で69%の相対リスク減少を示した2)。しかし発症率自体が低く、NNT=44であった3)。中国人以外の人種への一般化可能性は不明である2)

APAC発作時にLPIが施行困難な場合の代替として、アルゴンレーザー周辺虹彩形成術(ALPI)や前房穿刺がある1)ALPI角膜浮腫の存在下でも施行可能であり、内科治療とほぼ同等の速度で眼圧を下降させうる1)

Q LPIと白内障手術のどちらが良いですか?
A

EAGLE trialの結果から、50歳以上で高眼圧の原発閉塞隅角(症)または原発閉塞隅角緑内障には、水晶体摘出術(白内障手術)がLPIよりも眼圧制御と追加治療の必要性の点で優れています。ただし、すべての閉塞隅角がこれに当てはまるわけではなく、年齢・眼圧周辺虹彩前癒着の範囲・白内障の有無などを考慮して個別に判断します。

虹彩水晶体の間の房水流出抵抗が上昇すると、相対的瞳孔ブロックが増大する。後房圧の上昇により虹彩は前方に凸となり、周辺虹彩隅角を閉塞する。LPIにより周辺虹彩に孔が開くと、後房から前房への直接的な房水流路が形成される。これにより前後房の圧差が解消され、虹彩は平坦化し、隅角が開大する3)

プラトー虹彩では毛様体が前方に偏位し虹彩根部を前方に押し出すため、LPIによる瞳孔ブロック解除のみでは隅角閉塞が解消されない7)。LPI後にプラトー虹彩の有無を評価し、必要に応じてレーザー隅角形成術を追加する。

ZAP trialの14年延長追跡データが報告され、LPIの予防効果は長期的に持続することが確認された2)。LPI群では急性発作は1眼のみ、対照群では5眼で発生した2)。ハイリスクPACSの同定指標として高眼圧浅前房深度・狭隅角幅が示されている2)

97歳の施設入居者に対し訪問診療で閉塞隅角を発見しLPIを施行した症例が報告されている9)。携帯型スリットランプとiCare眼圧計を用いた遠隔フォローアップにより、術後102日時点まで良好な眼圧制御が維持された9)。高齢化社会における在宅眼科医療の可能性を示す報告である9)

従来の薬物治療に加え、ALPI前房穿刺・レーザー瞳孔形成術などの即時的眼圧下降法が代替アプローチとして検討されている1)角膜浮腫でLPIが施行困難な場合に特に有用である1)。迅速な眼圧下降が得られれば、より安全な条件での根治的治療(LPIまたは水晶体摘出術)が可能となる1)

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