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緑内障

ICL術後に伴う緑内障(ICL-Associated Glaucoma)

ICL(Implantable Collamer Lens)は、後房型有水晶体眼内レンズの一つであり、強度近視に対する屈折矯正手術として広く用いられている。コラマー(collagen-HEMA共重合体)素材で作られ、虹彩水晶体の間(毛様体溝)に固定される。適応は等価球面度数6D以上の近視であり、3D以上6D未満の中等度近視および15Dを超える強度近視には慎重な対応を要する1)。手術対象年齢は原則21〜45歳とされ、水晶体の加齢変化を十分に考慮する必要がある1)

国内では後房型コラマー素材のICLのみが承認されており、2010年の認可以降、強度近視の矯正手段として普及が進んでいる。近年のガイドライン改訂により、進行していない軽度円錐角膜症例や中等度近視にも慎重に施行できるようになった。1D以上4Dまでの乱視矯正も可能である。

ICL術後に伴う緑内障は、ICLと眼内構造物(虹彩水晶体隅角)の位置関係の異常、あるいは術後管理に関連して生じる続発性緑内障の総称である。屈折矯正手術のガイドライン(第8版)では、有水晶体眼内レンズ手術の術後合併症として「術後一過性眼圧上昇およびステロイド緑内障」「閉塞隅角緑内障」が明記されている1)

ICLの世代と緑内障リスクの変遷

Section titled “ICLの世代と緑内障リスクの変遷”

従来型ICLでは術前にレーザー虹彩切開術LPI)が必須であった。これはICL虹彩後面に密着して房水前房への流入を妨げ、瞳孔ブロックを引き起こすリスクがあったためである。その後、レンズ中心部に微小孔(KS-AquaPORT)を設けた中心孔型ICL(Hole ICL / EVO ICL)が開発され、房水が中心孔を通じて前房に流入する設計となった5)。これにより術前LPIが原則不要となり、瞳孔ブロックによる眼圧上昇リスクが軽減された5, 6)。ただし中心孔型でもvault過剰による隅角閉塞型や色素散布型の緑内障リスクは残存するため、術後の定期的なモニタリングは引き続き重要である。

ICL術後の眼圧上昇は発症機序により以下の3系統に大別される。

  • 隅角閉塞型(vault過剰型): ICLのサイズが眼球に対して大きすぎる場合、vault(ICL後面と水晶体前面の距離)が過剰となり、虹彩が前方に押し上げられて隅角が機械的に閉塞する。閉塞隅角緑内障と同様の病態を呈し、急性発作を起こすこともある
  • 色素散布型(開放隅角型): ICL後面と虹彩水晶体間の摩擦により虹彩色素上皮から色素が放出され、線維柱帯に沈着して房水流出抵抗が上昇する。色素性緑内障に類似した病態である
  • ステロイド誘発型(薬剤性): ICL術後に使用するステロイド点眼薬によるステロイドレスポンダーとしての眼圧上昇

このほか、術直後に粘弾性物質の残留による一過性眼圧上昇が起こることがあるが、通常は保存的に改善する1)

ICL術後の眼圧上昇の正確な発生頻度は、ICLの世代(従来型 vs 中心孔型)、サイジング法、経過観察期間、報告の定義により異なる。従来型ICLでは術前LPI施行にもかかわらず瞳孔ブロックによる眼圧上昇の報告が散見されたが、中心孔型ICLの普及後はその頻度が大幅に低下した7)。術後一過性眼圧上昇は比較的よくみられる合併症であり、ガイドラインでも術後2時間以上の経過観察が推奨されている1)。Packerのレビューでは、中心孔型ICLでは急性眼圧上昇のリスクが従来型に比べ有意に低いことが報告されている7)。長期的にはvault過剰による慢性的な隅角狭窄や色素散布による緩徐な眼圧上昇にも注意を要する。

Q ICL手術後に緑内障になることはありますか?
A

ICL術後に緑内障を発症する可能性がある。主な発症機序として、ICLのサイズ不適合による隅角閉塞、ICL虹彩の摩擦による色素散布、術後ステロイド点眼による薬剤性の3系統がある。中心孔型ICLの普及により瞳孔ブロックのリスクは低減したが、定期的な眼圧・vault測定が不可欠である1)。適切なICLサイズ選択と術後管理により、リスクを最小限に抑えることができる。

ICL術後に伴う緑内障の症状は、発症機序と経過の急性度により大きく異なる。隅角閉塞型は急性かつ激烈な症状を呈する一方、色素散布型やステロイド誘発型は無症状のまま進行することが多い。

vault過剰に伴う隅角閉塞が急速に進行すると、急性緑内障発作と同様の症状が出現する。

  • 激烈な眼痛・頭痛: 前頭部〜側頭部への放散痛
  • 悪心・嘔吐: 全身症状として出現し、消化器疾患と誤診される場合がある
  • 霧視視力低下: 角膜浮腫による急性の視力障害
  • 虹視(ハロー): 光源の周囲に虹の輪が見える

慢性的にvaultが高い状態が続く場合は、自覚症状に乏しいまま周辺虹彩前癒着PAS)が形成され、慢性閉塞隅角緑内障へ移行することがある。

原発開放隅角緑内障と同様に無症状で経過することが多い。ただし眼圧の変動に伴って霧視を自覚する場合がある。特に運動後に色素散布が促進されるため、運動直後に霧視眼痛を訴える症例がある。進行すると視野欠損を自覚するが、初期段階では気付かれないことが多い。

自覚症状はほとんどなく、定期検診時の眼圧測定で偶然発見されることが多い。高度の眼圧上昇を来した場合には霧視眼痛を生じうる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

ICL術後の眼圧上昇を認めた場合、以下の3系統の臨床所見を手がかりに原因を鑑別する。

隅角閉塞型

vault過剰: 前眼部OCTまたはUBMで750µm以上の過大なvault。

浅前房: 虹彩ICLにより前方へ偏位。

閉塞隅角所見: 隅角鏡で広範な隅角閉塞を確認。

周辺虹彩前癒着PAS: 慢性例で形成。

色素散布型

Krukenberg紡錘: 角膜後面の縦方向の色素沈着。

隅角色素沈着: 隅角鏡で全周性の高度色素沈着。

虹彩中間周辺部の後方変位: 虹彩の凹型変形。

虹彩萎縮: 色素上皮の消耗に伴う透見性の亢進。

ステロイド誘発型

開放隅角: 隅角閉塞や色素沈着を伴わない。

正常vault: ICLの位置は適正。

ステロイド使用歴: 術後点眼歴の確認が重要。

vault過剰型では前眼部OCTまたはUBM超音波生体顕微鏡)によるvaultの定量的評価が不可欠である。一般にvaultが750µmを超える場合はICLサイズが過大である可能性が高く、250µm未満の場合は白内障リスクが上昇するとされる8, 9)。Schmidinger らは後房型有水晶体眼内レンズの vault が経時的に変化することを報告しており、術直後に適正であっても長期的なモニタリングが必要である12)

色素散布型では、眼圧上昇に加えて虹彩中間周辺部の後方変位、前眼部の色素散布所見(角膜水晶体隅角への色素沈着)、虹彩萎縮を伴えば本症を疑う。

Q 運動後に霧視がありますが、ICLと関係ありますか?
A

ICL挿入眼における運動後の霧視は、色素散布型の緑内障を示唆する重要な症候である。運動に伴ってICL虹彩間の摩擦が増大し、色素散布が促進されることで一過性の眼圧上昇が起こりうる。このような症状がある場合は、運動直後の眼圧測定隅角検査により色素沈着の程度を評価する必要がある。早めに眼科を受診して精査を受けることが望ましい。

ICL術後緑内障の原因とリスク因子は、発症機序により異なる。

最も重要な要因はICLサイズの不適合である。

  • vault過剰: ICLのサイズが毛様体溝の幅に対して大きすぎる場合、レンズが前方に突出して周辺虹彩を押し上げ、隅角を機械的に閉塞する。適正なvaultは一般に250〜750µmとされ、これを大きく超える場合にリスクが高まる8, 9)
  • vault過少: 逆にICLサイズが小さすぎると、ICL後面が水晶体前面に接触して白内障を生じるリスクがある
  • 毛様体溝径の術前評価の限界: 術前の前眼部OCTUBMでは毛様体溝の正確な計測に限界があり、ICLサイズ選択の不確実性が残る10, 11)
  • ICL虹彩後面の接触: ICL後面と虹彩色素上皮の機械的摩擦が色素散布の主因となる
  • 瞳孔ブロック: ICLの存在により後房から前房への房水流動が妨げられ、虹彩が後方に押されて逆瞳孔ブロックの形成を助長する場合がある
  • 近視眼・若年者: 色素性緑内障は一般に近視を有する若年者に好発する傾向がある。ICL適応者は強度近視であるため、もともと色素散布のリスクを有する集団といえる
  • 運動: 身体活動に伴うICLの微小な振動が色素散布を促進する場合がある
  • ステロイドレスポンダー: 遺伝的素因を持つ患者がステロイド点眼に対して眼圧上昇を来す
  • 術後ステロイド点眼: ICL術後の炎症抑制にステロイド点眼が使用されるが、長期投与はステロイド緑内障のリスクを高める1)
  • 粘弾性物質の残留: 術中使用した粘弾性物質(ヒアルロン酸ナトリウム等)が前房に残留し、線維柱帯を一時的に閉塞する1)
  • 浅前房: 前房深度が不十分な症例は有水晶体眼内レンズ手術の禁忌である1)
  • 角膜内皮障害: 同じく禁忌に該当する1)
  • 虹彩毛様体嚢胞(iridociliary cyst): ICLのhaptics(支持部)が毛様体溝に接触する部位に嚢胞が形成されることがあり、まれに嚢胞の破裂により前房出血を生じた症例が報告されている2)

術前スクリーニング(ICL手術前の評価)

Section titled “術前スクリーニング(ICL手術前の評価)”

ICL手術の安全な実施には、緑内障リスクを含む術前評価が不可欠である。屈折矯正手術のガイドライン(第8版)では、有水晶体眼内レンズ手術に際して以下の検査を実施するよう規定されている1)

通常の屈折矯正手術における術前検査(視力屈折値・角膜曲率半径・細隙灯顕微鏡・角膜形状・角膜厚・涙液・眼底・眼圧瞳孔径・角膜径)に加え、以下が追加される。

  • 前眼部画像解析(前房深度を含む解析): 前房深度の評価は隅角閉塞リスクの層別化に不可欠である。前房深度が不十分な症例は手術禁忌となる1)
  • 角膜内皮細胞検査: ICLの長期的な角膜内皮への影響を評価する。角膜内皮障害は手術禁忌である1)
  • 水平角膜: 特に水平方向の径に留意し、ICLサイズ選択の参考とする1)

ICL術後の眼圧管理には以下の検査を定期的に実施する。

  • 眼圧測定: 術直後は2時間以上の経過観察が推奨されている1)。その後の定期検診でも毎回の眼圧測定が基本となる
  • vault測定: 前眼部OCTまたはUBMICL後面と水晶体前面の距離を計測する。前眼部OCTは非接触で繰り返し測定が容易であり、スクリーニングに適する。UBM毛様体溝へのICL haptics の接触状態も確認でき、より詳細な評価が可能である10)
  • 隅角鏡検査: 隅角の開大度、周辺虹彩前癒着PAS)の有無、色素沈着の程度を直接観察する
  • 視野検査: 緑内障視神経障害の進行評価。Humphrey視野計によるMD値の経時変化を追跡する
  • OCT乳頭解析(RNFL厚): 網膜神経線維層の菲薄化を定量評価し、緑内障性変化の早期検出に用いる

色素散布型を疑う場合は、以下の追加検査が有用である。

  • 運動負荷後の眼所見確認: 運動に伴って色素散布が促進されるため、運動直後に眼圧測定隅角検査を行うことで色素散布の程度を評価できる
  • 隅角鏡による色素沈着グレーディング: Scheie分類に基づく色素沈着の定量評価

ICL挿入眼における眼圧上昇では、以下の疾患との鑑別が必要である。

鑑別疾患鑑別のポイント
原発閉塞隅角緑内障ICLの存在を確認(UBM
悪性緑内障高度浅前房を伴う高眼圧
色素性緑内障(特発性)ICLのない眼での発症
ぶどう膜炎続発緑内障炎症細胞・フレアの有無
ステロイド緑内障使用歴の確認

ぶどう膜炎による続発緑内障との鑑別は特に重要である。ICL術後の炎症反応とぶどう膜炎前房内フレアや細胞の程度で区別する。

Q ICL術後にどのくらいの頻度で定期検診を受ける必要がありますか?
A

ICL術後は、手術翌日・1週間後・1カ月後・3カ月後・6カ月後の検診が一般的に推奨される。その後は最低でも年1回の定期検診が必要である。検診では眼圧測定・vault評価・角膜内皮細胞検査視力検査を行い、ICLの位置異常や緑内障の早期兆候を確認する。眼痛霧視視力低下などの症状が出現した場合は、定期検診を待たず直ちに受診する必要がある1)

ICL術後に伴う緑内障の治療は、発症機序の特定が第一歩であり、機序に応じて治療方針が大きく異なる。

ICL術後の眼圧上昇を認めた場合、以下のフローで機序を鑑別し治療を選択する。

  • 術後数時間以内の眼圧上昇粘弾性物質の残留を疑い経過観察
  • vault過剰 + 隅角閉塞 → 緊急眼圧下降 → ICLサイズ交換
  • vault正常 + 隅角色素沈着 → 色素散布型 → 薬物療法 ± レーザー
  • ステロイド使用歴ありステロイド緑内障ステロイド中止

vault過剰に伴う急性閉塞隅角発作では、まず薬物による緊急眼圧下降を行う。

  • 炭酸脱水酵素阻害薬(CAI): アセタゾラミド250〜500mg内服または静注。房水産生を抑制する
  • β遮断薬: 0.5%チモロールマレイン酸塩点眼液。房水産生を抑制する
  • 高張浸透圧薬: 20%マンニトール300mL点滴静注(重症例)
  • 1〜2%ピロカルピン塩酸塩点眼液: 縮瞳による隅角開大(ただしICL挿入眼では効果が限定的な場合がある)

水晶体に近すぎると白内障を発症する危険性があり、離れすぎてレンズが前方に突出している場合は隅角閉塞・眼圧上昇を来す。改善が望めない場合は、レンズサイズを再検討してレンズ交換を行う。

ICLサイズ交換は毛様体溝の再計測(UBM等)に基づいて適正サイズのICLに入れ替える手技であり、vault過剰型の根本的解決となる。

色素散布型の薬物治療は原発開放隅角緑内障に準じる3)

主な眼圧下降薬を以下に示す。

薬剤分類代表的薬剤用法
PG関連薬ラタノプロスト0.005%点眼液1日1回就寝前
β遮断薬0.5%チモロールマレイン酸塩1日2回
CAI1%ドルゾラミド点眼液1日3回
CAI1%ブリンゾラミド点眼液1日2回
α2作動薬0.1%ブリモニジン点眼液1日2回

プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト0.005%、タフルプロスト0.0015%等)が第一選択として用いられることが多い。散瞳薬は色素散布を招き房水流出を悪化させる危険があるため禁忌である3)

  • レーザー虹彩切開術LPI: レーザー虹彩切開術および水晶体摘出術による逆瞳孔ブロックの解消は、虹彩水晶体の接触による色素散布を減少させ、不可逆的な線維柱帯の障害を予防しうる(エビデンスレベル2B)3)ICL挿入眼においても、逆瞳孔ブロックが関与している場合にはLPIによる色素散布抑制が期待される
  • レーザー線維柱帯形成術SLT / ALT): 線維柱帯の色素沈着が高度であるため、通常より出力を低く設定して施行する。術後の眼圧スパイク(一過性の眼圧上昇)に注意を要する。眼圧の反応は変動が大きい4)

薬物治療・レーザー治療眼圧コントロールが不十分な場合、以下の手術を検討する。

  • ICL摘出: 色素散布の根本原因であるICLを除去する。ICL摘出後も残存する線維柱帯の色素沈着による眼圧上昇が続く場合がある
  • 房水流出路再建術(線維柱帯切開術: 線維柱帯に切開を加えてSchlemm管への房水流出を促進する。色素散布型では流出路の機能障害が主体であり、本術式の有効性が報告されている3)
  • 濾過手術線維柱帯切除術: 強膜房水の流出路を新たに形成する。マイトマイシンC等の代謝拮抗薬を併用する場合が多い3)
  • チューブシャント手術: 上記の治療に抵抗する難治例で検討される
  • ステロイド点眼の中止または減量: 最も重要かつ効果的な治療である。ICL術後の炎症管理として必要最小限の期間のみステロイドを使用する
  • 眼圧下降薬: 中止後も眼圧高値が遷延する場合、原発開放隅角緑内障に準じた点眼を追加する
  • 通常、ステロイド中止後数週間〜数カ月で眼圧は正常化する
  • 経過観察: 多くの場合、粘弾性物質の自然排出により数時間〜24時間で改善する
  • 炭酸脱水酵素阻害薬点眼: 1%ドルゾラミドまたは1%ブリンゾラミド点眼で眼圧下降を促す
  • 前房洗浄: 粘弾性物質の残留が著明で著しい高眼圧が持続する場合は前房洗浄を行う
Q ICLを摘出すれば緑内障は治りますか?
A

ICLの摘出により、vault過剰による隅角閉塞や色素散布の原因を取り除くことができる。隅角閉塞型ではICLのサイズ交換または摘出が根本治療となる。色素散布型でも摘出により色素散布は減少するが、既に線維柱帯に沈着した色素による流出抵抗の上昇が残存する場合がある3)。そのため、ICL摘出後も眼圧下降薬の継続や手術的介入が必要となるケースがある。緑内障視神経障害が既に進行している場合、ICL摘出では失われた視野を回復させることはできない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

ICL術後に伴う緑内障の病態は、ICLの物理的存在が眼内の房水動態と虹彩-水晶体の位置関係に及ぼす影響を中心に理解される。

房水毛様体上皮で産生され、後房から瞳孔を通って前房に流入し、隅角線維柱帯を経てSchlemm管から排出される。ICL虹彩水晶体の間(後房内)に位置するため、この房水流動経路に物理的な影響を与える。

中心孔型ICL(EVO ICL)では、レンズ中央の0.36mmの微小孔を通じて房水が後房から前房に流入できるため、瞳孔ブロックのリスクが軽減されている5)。しかしICLの周辺部(haptics周囲)では、毛様体溝内でのICL虹彩水晶体の接触が完全には回避できない。

ICLのサイズが毛様体溝の幅に対して過大な場合、以下の連鎖反応が生じる。

  1. ICLの前方突出 → vault過剰
  2. 虹彩が前方に押し上げられる
  3. 周辺虹彩線維柱帯に接触する
  4. 房水の排出路が機械的に閉塞する
  5. 前房圧(眼圧)が上昇する
  6. 持続する場合は周辺虹彩前癒着PAS)が形成され、不可逆的な隅角閉塞に移行する

この機序は原発閉塞隅角緑内障瞳孔ブロック機序と類似するが、ICLという物理的な構造物の存在が原因である点が異なる。Gonversらは、ICL後面と水晶体前面の距離が近すぎると白内障リスクが上昇し、離れすぎると隅角閉塞リスクが上昇するというジレンマを報告している8)

vaultの経時的変化も重要な因子である。Schmidinger らの長期追跡では、ICL挿入後にvaultが術後早期に比べて変化する傾向が示されており、加齢に伴う水晶体の肥厚がvaultの減少に寄与する一方、一部の症例ではvaultが増大して隅角閉塞リスクが高まることがある12)

ICL挿入眼における色素散布は、以下のメカニズムで生じる。

  1. ICL haptics(支持部)と虹彩後面・毛様体突起との接触による機械的摩擦
  2. 虹彩色素上皮から色素顆粒が放出される
  3. 色素顆粒が房水に乗って前房内に拡散する
  4. 色素が線維柱帯のメッシュワーク内に沈着する
  5. 線維柱帯細胞による色素貪食と細胞外基質の変性が起こる
  6. 房水流出抵抗が上昇し、眼圧が上昇する

この機序は特発性の色素散乱症候群・色素性緑内障における逆瞳孔ブロック機序に類似する。色素性緑内障では、虹彩中間周辺部が後方に変位(逆瞳孔ブロック)し、虹彩後面がZinn小帯と接触することで色素散布が促進される4)ICL挿入眼では、レンズ自体が虹彩との物理的接触面を提供するため、同様の色素散布が生じる。

Krukenberg紡錘は、前房内を浮遊する色素顆粒が角膜後面の内皮に沈着したものであり、角膜内皮表面の対流パターン(上昇する温かい房水と下降する冷たい房水の境界)に沿って縦方向の紡錘形に沈着する。

運動に伴って色素散布が促進される現象は、瞳孔の散大・縮小運動や調節変動による虹彩-水晶体-ICL間の摩擦増大が原因と考えられている。

ステロイド点眼薬は線維柱帯のメッシュワーク構造に作用し、以下の変化を引き起こす。

  • 線維柱帯細胞の細胞外基質(特にグリコサミノグリカン)の蓄積増加
  • 線維柱帯細胞の形態変化と細胞骨格の再編成
  • 線維柱帯のメッシュワーク間隙の狭小化
  • 結果として房水流出抵抗が上昇し、眼圧が上昇する

ステロイドレスポンダーには遺伝的素因があり、ICL手術患者が特にステロイドに感受性が高いわけではないが、術後の抗炎症治療としてステロイド点眼が投与されるため発症機会が生じる1)

ICLのhapticsが毛様体溝に長期間接触することで、嚢胞(iridociliary cyst)が形成される場合がある。Zhangらは、ICL挿入後にhaptics近傍の虹彩毛様体嚢胞が破裂し前房出血を来した症例を報告している2)UBMで嚢胞とICL haptics の位置関係が確認され、0.1%トブラマイシン・デキサメタゾン点眼(1日4回)と1%アトロピン硫酸塩眼軟膏(1日2回)による保存的治療で17日間の経過で出血は吸収された2)前房出血自体が緑内障を惹起するリスク(血球による線維柱帯閉塞)も存在する。

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