ALT(アルゴンレーザー)
スポットサイズ:50 μm
照射時間:0.1秒
出力:400〜800 mW(小気泡が出現せずに色素の脱失が得られる程度)4)
照射範囲:180度、1/4周あたり約25発
照射部位:線維柱帯色素帯の中央。2スポット程度の間隔をあける
エンドポイント:色素のやや退色。小気泡発生直前の出力が適当
レーザー線維柱帯形成術は、線維柱帯に比較的弱いレーザーエネルギーを照射し、房水流出率を改善する処置である。流出路再建術の一つに分類される。アルゴンレーザーを用いるアルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)と、Nd:YAGレーザー(532 nm Qスイッチ半波長)を用いる選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の2種類がある。
ALTは1979年にWiseとWitterによって導入された。1990〜1995年のGLT(Glaucoma Laser Trial)では、360度ALTは新規原発開放隅角緑内障においてチモロール単剤療法と比較してより大きな眼圧下降を示した(9 mmHg vs 7 mmHg)2)。視野・視神経乳頭の維持においても同等以上の効果を認めた2)。しかし効果の経年的減衰とプロスタグランジン関連薬の登場により、ALTの使用は限定的となった。
ALTは線維柱帯に対する組織侵襲が強く、照射部位が器質化するため同部位への再照射は不可能である。
1995年にLatinaがSLTを報告した。SLTは線維柱帯の有色素細胞のみを選択的に照射することが可能であり、ALTと比べて低侵襲で副作用も少ない。ALTと同等の眼圧下降効果が得られることから普及が進んでいる。組織に対する熱障害が少なく反復照射が可能とされるが、その安全性と長期成績には不明な点が残る。
LiGHT試験(Laser in Glaucoma and Ocular Hypertension trial、718名の多施設RCT)において、SLTは未治療の開放隅角緑内障・高眼圧症に対する第一選択治療としての有効性が実証された1)7)8)。3年時点で74.2%の患者が点眼薬なしで管理可能であり7)、6年追跡では69.8%の眼が追加薬物・手術なしで目標眼圧を維持した1)。この結果を受け、EGS第6版3)およびAAO PPP2)がSLTを初期治療の選択肢として推奨し、英国NICEは第一選択治療として推奨している10)。
レーザー線維柱帯形成術の主な対象疾患である緑内障は、40歳以上の有病率が5.8%(多治見スタディ)と報告されている。原発開放隅角緑内障(広義)の有病率は3.9%であり、そのうち正常眼圧緑内障が3.6%を占める。落屑症候群は70歳以上の約4%に認められ、そのうち20〜40%が緑内障を合併する。
眼圧下降効果は同等である。ただしSLTはALTと比較して組織侵襲が少なく、術後炎症も軽度で、反復照射が可能という利点がある。ALTは照射部位が器質化するため同部位への再照射はできない。SLTのパルス幅(3ナノ秒)はメラニンの熱緩和時間よりはるかに短く、有色素細胞のみを選択的に光融解するため非色素構造への損傷が生じない。この特性から現在ではSLTが主流となっている。

レーザー線維柱帯形成術の適応疾患は以下の通りである4)。
薬物治療で目標眼圧が達成できない場合、何らかの理由で薬物治療が継続できない場合に、点眼のアドヒアランスが不良な患者に対する代替治療として用いられる(2B)4)。
EGS第6版では、開放隅角緑内障の初期治療として提示できる(エビデンスレベル:中等度、推奨の強さ:強)とされている3)。ただし重症緑内障や色素緑内障における有効性のエビデンスは不足している3)。
正常眼圧緑内障では眼圧下降効果が小さいと考えられている4)。若年者では奏効率が低い。
以下の疾患ではレーザー線維柱帯形成術は禁忌である3)4)。
高度に進行した緑内障後期例では、術後眼圧スパイクによる影響が大きいため特別な理由がない限り行わない。片眼で効果が得られなかった場合、対側眼への施行も相対的禁忌となる。
ALTは照射部位の器質化により同部位への再照射はできない。180度照射後に効果不十分であれば残りの180度を追加することは可能である。SLTは組織への熱障害が少ないため反復照射が可能とされている。LiGHT試験ではSLT群の90%が最大2回のSLT施行で6年間の点眼不要状態を達成した1)。ただし反復照射の長期的な安全性と成績にはまだ不明な点がある。
術後の一過性眼圧上昇を予防するため、術1時間前と術直後にアプラクロニジン塩酸塩を点眼する4)。点眼麻酔下で施行する4)。隅角鏡レンズを装着し、隅角の開放度と色素沈着の程度を確認する。
ALT(アルゴンレーザー)
スポットサイズ:50 μm
照射時間:0.1秒
出力:400〜800 mW(小気泡が出現せずに色素の脱失が得られる程度)4)
照射範囲:180度、1/4周あたり約25発
照射部位:線維柱帯色素帯の中央。2スポット程度の間隔をあける
エンドポイント:色素のやや退色。小気泡発生直前の出力が適当
SLT(Nd:YAG 532 nm)
スポットサイズ:400 μm(固定)
パルス幅:3ナノ秒(固定)
出力:0.4〜1.2 mJ(小気泡が出現したらパワーを弱める)4)
照射範囲:180〜360度、1/2周あたり約60発
照射部位:線維柱帯全体。スポットが重ならないよう詰めて照射
エンドポイント:キャビテーション気泡の出現。気泡が生じない程度から開始
隅角鏡を装着し、比較的隅角が広く色素沈着が強いことが多い下方隅角を中心に180度照射する。線維柱帯の色素帯中央にピントを合わせ、スポット同士が重ならないよう約1〜2スポット分の間隔をあける。線維柱帯の色素量によって適切な照射エネルギーが異なる。照射した部分の色素がやや退色する程度の強さが適当であり、小気泡が発生する直前の出力で調整する。あまり後方に照射すると炎症・色素散布・周辺虹彩前癒着(PAS)のリスクが高まる2)。360度照射は眼圧スパイクの発生率が上昇するため、多くの場合180度で十分である2)。照射部位は器質化するため同部位への再照射は行わない。
SLT専用レンズを使用する。スポットサイズが線維柱帯全幅にわたるため、ALTほど精密な配置を必要としない3)。最初は0.6 mJ程度から開始し、照射時に気泡が出ない程度の強さで照射する。色素が濃い隅角では0.4 mJから開始し、色素が薄い場合は0.8〜1.0 mJ程度に設定する3)。
色素緑内障では線維柱帯の色素沈着が高度であるため、通常より低い出力から開始する必要がある4)。眼圧の反応は変動が大きい4)。
LiGHT試験のプロトコルでは、360度の線維柱帯に100発(1象限あたり25発)の非重複照射を、0.3〜1.4 mJのエネルギーで施行した6)。
術後1〜3時間に眼圧測定を行い、一過性眼圧上昇の有無を確認する4)。必要に応じて炭酸脱水酵素阻害薬や高張浸透圧薬を投与する4)。術後炎症は自然消退することが多いが、炎症の程度によっては副腎皮質ステロイド薬を投与する4)。
ALT後は局所ステロイドを4〜7日間処方するのが一般的である2)。SLTでは術後の抗炎症薬を処方しないことが多いが、SALT試験(2018年)ではSLT後の抗炎症薬がレーザー効果を減弱させないことが示されている。
最も頻度の高い合併症である。SLTでは5 mmHg以上の上昇が4.5〜27%に報告されている2)。ALTでも同様の頻度で生じる。α₂受容体作動薬(アプラクロニジン塩酸塩)の予防投与でリスクは減少する。まれに持続的な眼圧上昇により線維柱帯切除術が必要となる場合がある。
LiGHT試験6年間のデータでは、SLTに関連する眼圧上昇(5 mmHg以上)は全SLT施行の1.0%(10件)にとどまり、治療を要したのは1眼のみであった1)。視力脅威性の合併症は6年間を通じて報告されなかった1)。
術後に軽度の虹彩炎が生じうる。SLTではALTと比較して術後炎症は軽度であり、周辺虹彩前癒着(PAS)形成のリスクも低い。
緑内障診療ガイドライン第5版では以下の合併症が記載されている4)。
SLT後に急性角膜浮腫と角膜上皮下混濁が生じた症例が報告されている。Nijsらは両眼同時SLT施行後に角膜浮腫を呈した中年女性3例を報告した5)。3例ともに高度近視を有し、術後24〜48時間以内に角膜実質混濁が出現した5)。デキサメタゾン点眼で角膜浮腫は消退したが、遠視化シフトと角膜乱視の変化が観察された5)。86,634件のSLT施行中36件の角膜浮腫が報告されており、発生率はきわめて低い5)。
重篤な合併症はまれである。最も多いのは一過性の眼圧上昇(スパイク)であり、予防的なアプラクロニジン塩酸塩の点眼で頻度を減らせる。LiGHT試験の6年間データでは視力脅威性の合併症はゼロ、眼圧スパイクも全施行の1.0%にとどまった1)。SLTはALTと比較して術後炎症や周辺虹彩前癒着の形成がさらに少なく、安全性が高い。角膜浮腫はきわめてまれな合併症である。
ALTとSLTの眼圧下降効果は同等である。20%以上の眼圧下降が維持されるのは、術後1年で約60%、5年では約20〜30%であり、効果は経年的に減衰する。
| 試験名 | 対象 | 主要結果 |
|---|---|---|
| GLT(1990-95)2) | 新規POAG: ALT vs チモロール | ALTの眼圧下降がチモロールより大(9 vs 7 mmHg) |
| LiGHT 3年7) | OAG/OHT: SLT vs 点眼薬 | 74.2%が点眼不要。SLTが費用対効果で優位 |
| LiGHT 6年1) | OAG/OHT: SLT vs 点眼薬 | 69.8%が無薬剤維持。進行率SLT 19.6% vs 点眼 26.8% |
| EMGT9) | 新規POAG: 薬物+ALT vs 無治療 | 25%の眼圧下降で視野・乳頭変化の進行を抑制 |
LiGHT試験は未治療の開放隅角緑内障・高眼圧症を対象とした多施設RCTである6)。718名が無作為化され、692名が3年追跡を完了7)、そのうち633名(91.5%)が6年延長試験に参加し、524名(82.8%)が6年追跡を完了した1)。
6年時点の主要結果は以下の通りである1)。
点眼群では6年間でSLT群より多くの眼科有害事象が報告された(1,470件 vs 897件)1)。美容的副作用(睫毛増長・眼周囲色素沈着・虹彩色変化)も点眼群で有意に多かった(164件 vs 31件)1)。
緑内障診療ガイドライン第5版では、原発開放隅角緑内障(広義)の治療フローは以下の通りである4)。
EGS第6版ではレーザー線維柱帯形成術の位置づけがさらに強化されている3)。開放隅角緑内障・高眼圧症に対し、眼圧下降治療は単剤療法で開始することが推奨され、レーザー線維柱帯形成術も第一選択の良い選択肢とされている(エビデンスレベル:高、推奨の強さ:強)3)。
落屑緑内障:ALT・SLTは落屑緑内障で比較的奏効することが知られ、原発開放隅角緑内障より大きな眼圧下降効果が報告されている(1B)4)。ただし長期的効果は期待できない。手術までのつなぎ、あるいは何かの事情で手術ができない場合の緊急避難的手段として位置づけるべきである。落屑緑内障では発見時に眼圧が高く視野障害も進行している例が少なくないため、眼圧下降が不十分な例や眼圧変動が大きな例では早期に手術治療を考慮する。
色素緑内障:線維柱帯の色素沈着が高度であるため、通常よりも低出力から開始する4)。眼圧の反応は変動が大きい4)。
正常眼圧緑内障:眼圧下降効果が小さいと考えられている4)。
点眼薬の服薬アドヒアランスを現実的に考慮した場合、レーザー線維柱帯形成術は点眼薬よりも高い費用対効果を示す2)3)。LiGHT試験では3年時点でSLTが費用対効果に優れることが示され7)、6年時点でもその優位性が維持された1)。ジェネリックのプロスタグランジン関連薬は最適なアドヒアランス下では費用対効果が高いが、現実的なアドヒアランスではSLTが優位となる2)。
LiGHT試験では、SLTと点眼薬の眼圧下降効果は同等であった。しかしSLTは69.8%の眼が6年間点眼なしで管理可能であり1)、疾患進行もSLT群で有意に少なかった(19.6% vs 26.8%)1)。線維柱帯切除術の必要性もSLT群で有意に少なかった(13眼 vs 32眼)1)。費用対効果の面でもSLTが優れていた1)。眼圧自体はSLT群でやや高かったにもかかわらず疾患進行が少なかったことから、SLTには眼圧下降以外の保護的効果がある可能性も示唆されている1)。
レーザー線維柱帯形成術の正確な作用機序は完全には解明されていない。線維柱帯に比較的弱いエネルギーを照射し、線維柱帯からシュレム管へ至る主経路における房水流出抵抗を減少させることが目的である。以下の理論が提唱されている。
機械的理論・細胞学的理論
機械的理論:ALTのレーザーエネルギーにより線維柱帯が収縮・瘢痕化し、周囲の未治療領域の網目構造が引き伸ばされてシュレム管への流入が促進される
細胞学的理論:ALT照射後にDNA複製と細胞分裂が増加し、線維柱帯の細胞再増殖が刺激される
生化学的理論
サイトカイン放出:ALT・SLTともにレーザー照射後にIL-1・IL-8・TNF-αなどの化学伝達物質が放出される
マクロファージ動員:細胞外マトリックスの再構築と流出能の向上をもたらす
シュレム管透過性:SLT照射した線維柱帯培養液をシュレム管内皮に添加すると液体透過性が4倍に上昇する
電子顕微鏡所見では、ALT施行眼では熱による線維柱帯ビームの破壊・細胞壊死・コラーゲン収縮が観察される。一方、SLT施行眼では線維柱帯の一般構造が維持される。SLTのパルス幅(3ナノ秒)はメラニンの熱緩和時間(1ミリ秒)よりもはるかに短く、色素細胞のみを選択的に光融解する。このため非色素構造への副次的損傷が生じない。この組織学的差異がSLTの反復可能性の根拠となっている。
LiGHT試験6年データは、SLTが開放隅角緑内障・高眼圧症の長期管理において点眼薬を上回る疾患管理を提供することを示した1)。
特に注目されるのは、SLT群では点眼群よりも6年時眼圧がやや高い(16.3 vs 15.4 mmHg)にもかかわらず疾患進行が有意に少なかった点である1)。この結果はSLTに眼圧下降以外の保護的役割がある可能性を示唆している1)。
SLTにより線維柱帯切除術の必要性を遅延あるいは回避しうることも重要な知見である。緑内障の初回診断からの平均余命は9〜13年とされ、線維柱帯切除術までの平均10年という時間経過を考慮すると、SLTによる初期治療は多くの患者にとって生涯にわたる手術回避の可能性を提供する1)。
SLT群の55.5%は6年間で1回のSLT施行のみで点眼不要を維持しており、医療アクセスが限られる状況や点眼のアドヒアランスに課題がある患者にとって特に有用な治療選択肢となる1)。
LiGHT試験3年データの公表後、主要な国際ガイドラインが更新された1)。
今後、SLTの反復照射の長期安全性に関するデータの蓄積、重症緑内障や色素緑内障での有効性に関するエビデンスの充実が求められる3)。