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緑内障

線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)

線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)は、強膜弁を作製し、強膜弁下の輪部組織を切除して房水強膜上まで濾過させる手術である。強膜弁を縫合して房水濾過量を調整する点が特徴であり、濾過された房水結膜組織によって吸収され、ブレブ(濾過胞)とよばれる水疱が形成される。

原発開放隅角緑内障(広義)をはじめ、大部分の緑内障病型に対して最も広く行われている術式である6)。濾過部位の瘢痕化抑制を目的に、代謝拮抗薬であるマイトマイシンC(MMC)または5-フルオロウラシル(5-FU)が術中・術後に使用される6)

強膜弁を作製せずに強膜を全層切り取る全層濾過手術では、術後早期の低眼圧による合併症が著しかった。この問題を解決するために強膜弁を作製する線維柱帯切除術が普及した。強膜弁の縫合本数と張力で濾過量を調整でき、低眼圧合併症を大幅に回避できる。

初期〜中期緑内障で目標眼圧が15 mmHg前後であれば流出路再建術でよいが、進行例では目標眼圧を10 mmHg前後にする必要があり、濾過手術の適応となる。欧州緑内障学会ガイドライン第6版(EGS 6th Edition)でも、進行した開放隅角緑内障に対してtrabeculectomyが最も有効な術式であり、初回手術として提供できるとされている(エビデンスレベル: high、推奨強度: strong)8)

CIGTS(Collaborative Initial Glaucoma Treatment Study)では、初期線維柱帯切除術は初期薬物療法と比較して眼圧下降効果が高く、進行した視野障害を有する患者の視野進行を抑制した7)

Q 線維柱帯切除術はどのような患者に適応となりますか?
A

薬物療法やレーザー治療眼圧コントロールが不十分な場合に適応となる7)。進行した緑内障で10 mmHg前後の目標眼圧が必要な症例、薬剤アドヒアランスが不良な症例も適応である。正常眼圧緑内障でも、濾過手術で1桁の眼圧を達成することは視野障害進行の抑制に有効である6)。余命が限られている場合や上方結膜の広範な瘢痕化がある場合は、チューブシャント手術や毛様体破壊術を検討する。

線維柱帯切除術後の上方濾過胞を示す外眼像と細隙灯写真
Furrer S, et al. Evaluation of filtering blebs using the ‘Wuerzburg bleb classification score’ compared to clinical findings. BMC Ophthalmol. 2012. Figure 1. PMCID: PMC3439283. License: CC BY.
上方結膜に形成された隆起性の濾過胞が外眼像と細隙灯写真で示されている。線維柱帯切除術後の代表的な術後所見を視覚的に理解できる画像である。

線維柱帯切除術は、最大許容量の薬物治療で進行傾向がみられる症例に適応となる7)。適応となる緑内障病型は幅広く、以下が挙げられる。

  • 原発開放隅角緑内障POAG: 視野障害が進行した例では、最終的にlow teenからsubteenを目標眼圧としてMMC併用線維柱帯切除術が必要となる
  • 落屑緑内障: 高齢者が多く白内障手術を併用することがある
  • 血管新生緑内障: MMC併用線維柱帯切除術が第一選択となる。術前(1〜7日前)に抗VEGF薬硝子体内注射(IVB)を施行すると、術中・術後の眼内出血が抑制される
  • ぶどう膜炎続発緑内障: MMC併用線維柱帯切除術やチューブシャント手術を行う6)
  • 発達緑内障: MMC併用線維柱帯切除術で施行するが、若年者でのリスクに留意する
  • 正常眼圧緑内障: 1桁の眼圧達成による視野維持が有効。術後眼圧10 mmHg未満の92%でMD slopeが改善した6)

手術が効きにくい症例(リスク因子)

Section titled “手術が効きにくい症例(リスク因子)”

以下の要因がある場合、手術成績は不良となりやすい。

リスク因子具体例
緑内障病型ぶどう膜炎続発緑内障、血管新生緑内障ICE症候群
内眼手術既往線維柱帯切除術既往眼、水晶体再建術、硝子体手術
患者背景若年者

結膜の瘢痕が著しい内眼手術既往のある症例ではブレブが形成されにくく、手術成績は不良である。線維柱帯切除術を繰り返し行った症例の再手術も成績は劣る。

チューブシャント手術(プレートあり)は、MMC併用線維柱帯切除術が不成功に終わった症例、結膜瘢痕化が高度な症例、線維柱帯切除術の成功が見込めない症例に適応となる6)

線維柱帯切除術の単独手術と白内障同時手術の比較では、眼圧下降効果は単独手術の方が優れる6)白内障同時手術による合併症リスクは単独手術と同等であり、視力改善効果は白内障同時手術群で当然高い6)。ブレブ形成手術は単独で行ったほうが成功率が高いため、臨床状況が許せば先に白内障手術を施行することが推奨される8)

術前点眼にはピロカルピン塩酸塩点眼液を使用し、縮瞳させておく。白内障同時手術の場合は散瞳薬を点眼し、水晶体再建術終了後にオビソート®(アセチルコリン塩化物)を前房に注入して縮瞳させる6)

  1. 点眼麻酔後、結膜を切開して結膜弁を作製する
  2. テノン囊下麻酔(キシロカイン®)を行い、ジアテルミーで強膜上を止血する
  3. 半層切開の強膜弁を作製する
  4. 0.04%のマイトマイシンCを浸したスポンジを結膜下・強膜弁下に4分間塗布し、生理食塩液で洗浄する
  5. 前房穿刺を行い、輪部組織を切除する
  6. 周辺虹彩切除を行う
  7. 10-0ナイロン糸で強膜弁を数か所縫合する
  8. 前房穿刺部位から眼内灌流液を注入し、眼圧を回復させて強膜弁からの房水濾過を確認する
  9. 結膜を縫合してブレブを形成させる

術後眼圧が高めで推移する場合は、10-0ナイロン糸をアルゴンレーザーで経結膜的に切断し、濾過量を増やして眼圧を調整する。

結膜切開法には輪部基底結膜切開と円蓋部基底結膜切開がある。

  • 円蓋部基底: 術中操作性が良く、びまん性の良好な濾過胞が得られやすい。ただし術後早期の濾過胞漏出率が高い
  • 輪部基底: 創閉鎖が確実だが、晩期に血管の乏しい無血管ブレブを生じやすく、房水漏出や濾過胞感染のリスクがある
Q MMC 0.04%の塗布時間に幅がありますが、何分が標準ですか?
A

MMCの濃度は0.02〜0.04%、塗布時間は2〜5分の幅がある。標準的には0.04%を4分間塗布し、生理食塩液で十分に洗浄する。過剰投与は角膜上皮障害や結膜創の離開、強膜軟化症の原因となるため、適切な濃度と塗布時間の遵守が重要である。

強膜弁周囲組織の瘢痕創傷治癒によって濾過不全に陥ることがあり、眼圧下降効果を維持するためにMMCや5-FUなどの代謝拮抗薬が使用される6)

マイトマイシンC(MMC)

薬理: 抗癌抗生物質。アルキル化によりDNAを障害し、線維芽細胞増殖を非選択的に抑制する8)

濃度: 0.02〜0.04%

投与法: スポンジを結膜下・強膜弁下に2〜5分間留置し、生理食塩液で洗浄する8)

利点: 5-FUより強力な瘢痕抑制効果。より低い眼圧が得られる

欠点: 低眼圧関連合併症のリスクが高い。角膜上皮障害・結膜創離開・強膜軟化症7)

5-フルオロウラシル(5-FU)

薬理: ピリミジンアナログ。DNA合成を阻害して線維芽細胞増殖を抑制する

投与法: 5 mg/日を1週間連日結膜下注射(保険適用外)。30G針を使用し、濾過胞対側(90〜180度)に注射後直ちに洗眼する8)

利点: 安価で安全域が広い

欠点: MMCより効果が低い。角膜上皮障害の発現率が高い。複数回注射が必要7)

MMCは翼状片術後の点眼としても使用されていたが、術後数か月〜数年を経て強膜の石灰化や壊死性強膜炎穿孔性強膜軟化症)を来すことがあり、1980年代に廃止された。5-FUも眼表面毒性と濾過胞関連眼内炎の問題から、現在は低濃度(0.02〜0.04%)MMCの術中短時間1回塗布が主流となっている。

術中にMMC塗布を併用した症例に対して、術後の5-FU結膜下注射の追加が手術成績を向上させるかについては報告がなく、一方で角膜上皮障害や房水漏出の頻度を増加させることが明らかとなっている6)

Q マイトマイシンCと5-FUはどちらを使うべきですか?
A

現在はMMCの術中塗布が主流である8)。MMCは5-FUより強力で、より低い眼圧を達成できるが、低眼圧関連合併症のリスクが高い7)。5-FUは安価で安全域が広いが、効果はMMCに劣り複数回の注射が必要となる。5-FUは主に術後の濾過胞管理(ニードリング併用等)に使用される。瘢痕化リスクの高い症例(若年、炎症既往など)ではMMCの使用が標準的である。

術後管理は手術手技と並んで手術成績を左右する重要な要素である6)。手術によって目標眼圧を達成できるか否かは、術後早期の強膜弁からの濾過量調整と、長期にわたる結膜下組織の瘢痕化の抑制に依存する。

  • 副腎皮質ステロイド点眼: 術後の過剰な瘢痕化を抑制し、機能性の濾過胞を形成するために推奨される(緑内障診療ガイドライン第5版 CQ-5: 強く推奨、エビデンスB)6)
  • 抗菌薬点眼: 術後1〜3か月間の継続使用が強く推奨される(CQ-6)6)。長期使用については、無血管ブレブで房水漏出所見がある場合に就寝前のニューキノロン系抗菌薬眼軟膏点入を検討する

手術終了時に濾過量が最小限となるよう強膜弁を複数のナイロン糸で縫合し、術後の眼圧に応じて経結膜的にレーザーで切糸することで段階的に濾過量を増加させる方法である6)

  • 専用のレンズで結膜を圧迫し、縫合糸を透見して照射する
  • 術後早期にLSLを行うほど眼圧下降量は大きいが、過剰濾過のリスクも高くなる13)
  • MMC併用線維柱帯切除術では術後3週〜1か月で切糸効果が減弱するため、タイミングを逃さぬよう適切な間隔での診察が必要である13)

眼瞼の上から指で眼球を圧迫する方法、あるいはガラス棒で強膜弁付近を圧迫する方法がある6)。診察時の強膜マッサージは強膜弁からの流出量を確認し、LSLの必要性を判断するのにも有用である。

合併症頻度備考
浅前房前房消失0.9〜13%粘弾性物質注入を検討12)
脈絡膜剥離5〜14%低眼圧が遷延すれば介入12)
前房出血2.7〜11%周辺虹彩切除に伴い高頻度12)
結膜創からの房水漏出3.4〜14%円蓋部基底結膜切開で多い12)

周辺虹彩切除を行うため前房出血は高頻度にみられる。結膜切開創からの房水漏出は円蓋部基底結膜切開で多い。

MMC併用線維柱帯切除術後に大きく眼圧が低下すると、低眼圧黄斑症に至ることがある。若年の近視眼に多い6)低眼圧が持続すると眼軸長が短縮し、脈絡膜皺襞黄斑部皺襞・網膜血管の蛇行・乳頭浮腫を生じ、重篤な視機能低下を来す。

対処法として以下が挙げられる。

  • 結膜強膜弁再縫合: 結膜上からナイロン糸で強膜弁を縫合する方法で、長期にわたる有効性が示されている6)
  • 自己血注入: ブレブ近傍から27G針でブレブ内へ自己血を注射する方法で低眼圧の改善に有効だが、急激な眼圧上昇を来すこともある6)
  • 観血的再縫合: 上記で改善しない場合、結膜を開けて直視下で強膜弁を再縫合する

術後長期の合併症として、ブレブ壁が薄くなって房水が漏れ出す房水漏出や、ブレブ内に細菌が侵入する濾過胞感染がある。硝子体にまで細菌が侵入すると細菌性眼内炎を合併する。

  • 晩期感染症: 日本人におけるMMC併用線維柱帯切除術後の発症確率は**5年で2.2%**であった(CBIITS 2研究)9)
  • リスク因子: 房水漏出は濾過胞感染のリスク因子である。無血管ブレブは輪部基底結膜切開で生じやすい
  • 対処: 濾過胞感染が疑われた場合は、ステージに応じて直ちに抗菌薬の結膜下注射・前房内注射・硝子体内注射硝子体手術を行う

強膜弁が早期に癒着して房水結膜下に濾過されない場合、25〜27ゲージの注射針やマイクロサージェリーナイフを結膜から刺入し、強膜弁を持ち上げるように癒着を外すニードリングが必要となる6)

  • 代謝拮抗薬併用ニードリング: 経過とともに濾過胞が縮小し眼圧が再上昇する場合に有効性が報告されている6)
  • 被嚢濾過胞(encapsulated bleb): 丈が高くドーム状で壁が厚く拡張した血管侵入がある濾過胞を呈する。線維柱帯切除術後の**約13%**に生じ、眼圧上昇の原因となる6)

術後の濾過胞評価には、Moorfields分類やIndiana分類が用いられる。形態的に嚢胞性(cystic)・びまん性(diffuse)・flatに分類される。Seidel testで漏出の有無を確認し、感染徴候を評価する。前眼部OCTにより濾過胞の内部構造(強膜弁の位置・液腔の有無・被嚢化の程度)を非侵襲的に評価することも可能である。

Q 術後に眼圧が上がった場合はどう対処しますか?
A

前房が深い場合は瘻孔の閉塞または強膜弁からの流出不全が疑われる。レーザー切糸術(LSL)で濾過量を増やすのが第一選択である6)LSLの効果が不十分であれば代謝拮抗薬併用のニードリングを検討する。虹彩による瘻孔閉塞にはアルゴンレーザーを用いる。前房が浅い場合は脈絡膜上腔出血瞳孔ブロック悪性緑内障を鑑別する。

線維柱帯切除術は、強角膜輪部に小孔を形成し、前房結膜下組織の間に新たな房水流出路を作成する手術である6)線維柱帯房水流出抵抗を迂回し、結膜下腔への直接的な排出経路を確保する。

濾過胞に到達した房水は、以下の経路で処理される。

  • 結膜を介した涙液層への濾過
  • 結膜血管・血管周囲組織による吸収
  • リンパ管への流入
  • 房水静脈を介した排出

全層濾過手術強膜弁を作製せず前房から結膜下への直接的な房水流出路を形成するが、濾過量のコントロールが困難で浅前房などの合併症が多い6)。線維柱帯切除術では強膜弁を作製し、縫合の本数と張力で濾過量を調整できるため、術後にLSLで段階的に濾過量を増やすことが可能である。

MMCはDNA架橋剤として線維芽細胞の増殖を非選択的に抑制する8)。5-FUはピリミジンアナログとしてDNA合成を阻害する。いずれも濾過部位の瘢痕化を抑制し、濾過胞の長期維持に寄与する。

若年者にMMC併用線維柱帯切除術を施行する場合、MMC反応が強く出やすく、無血管で壁の薄い限局した濾過胞が形成されやすい。壁が部分的に非常に薄くなり漏出を認める場合、低眼圧による視力障害や晩期感染症のリスクが高まるため、術後の長期的な経過観察には特に注意が必要である。


Fangらは、MMC併用増強型線維柱帯切除術を施行した206眼の視野変化を後ろ向きに検討した1)。平均眼圧は22.7 mmHgから10.4 mmHgへ50.2%低下し、84.5%が術後24か月で薬剤不要となった。視野については、17%が改善、37.4%が安定、45.6%が悪化を示した。術前MD値が-12 dBまでの症例では視野改善・安定率が高く、-24 dBを超える進行例では悪化率が高かった1)

この結果は、視野障害がMD -12 dB未満の段階での早期手術介入の重要性を示唆する1)

チューブシャント手術との比較

Section titled “チューブシャント手術との比較”

TVT study(Tube Versus Trabeculectomy Study)の5年成績では、線維柱帯切除術とBaerveldt緑内障インプラント術の眼圧コントロールに有意差はなかった10)。ただし累積失敗率は線維柱帯切除術群(46.9%)がチューブシャント群(29.8%)より有意に高かった10)

合併症の内容は両群で異なる。

チューブシャント手術(プレートあり)は、線維柱帯切除術が無効または無効であると予想される症例に使用すべきであると推奨されている6)

Sugimotoらの報告では、日本人の原発開放隅角緑内障に対するMMC併用線維柱帯切除術において、点眼薬使用下で眼圧16 mmHg未満を保てる確率の長期成績が検討された11)。成功例の術後平均眼圧は10 mmHg前後であり、術後管理の適切さが成績を左右する重要な因子であった。

SWS児のSRD消失

報告: Barbosaら(2021)3)

概要: Sturge-Weber症候群の10歳児。線維柱帯切除術による眼圧正常化後、漿液性網膜剥離が2か月で完全消失した。

Phaco後の自然濾過胞再形成

報告: Chanbourら(2021)4)

概要: 不全濾過胞を有する79歳女性。白内障手術中の高眼圧強膜弁を再開通させ、自然に濾過胞が再形成された。

その他の症例報告として、Kandarakisらは線維柱帯切除術13か月後に帯状疱疹性眼症を発症し3日以内に濾過胞が不全となった症例を報告した2)。またGur Gungorらは、MMC併用線維柱帯切除術5.5年後にValsalva手技で強膜弁創離を来し低眼圧黄斑症を発症した31歳女性を報告し、心膜パッチ移植で修復された5)

  • 長期視野維持効果の前向きRCTの蓄積
  • MIGSとの適応の棲み分けの確立8)
  • 代謝拮抗薬に代わる抗瘢痕化剤(抗VEGF薬等)の開発6)
  • 正常眼圧緑内障に対する手術適応基準の確立
Q 早期に手術を行うメリットはありますか?
A

Fangらの206眼の後ろ向き研究では、術前MD値が-12 dBまでの軽度〜中等度障害例で視野改善・安定率が高かった1)CIGTSでも初期線維柱帯切除術群は視野進行を抑制した7)。低い眼圧で進行する正常眼圧緑内障でも、濾過手術で1桁の眼圧を達成することが視野維持に有効である6)。適切な症例選択のもとでの早期手術介入は視野維持に寄与すると考えられる。


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