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網膜・硝子体

網膜光凝固術(レーザー治療)の解説(Retinal Laser Photocoagulation)

網膜光凝固術(retinal laser photocoagulation)は、単一波長・高指向性・高出力のレーザー光線を網膜に照射し、組織を凝固・破壊する眼科的治療法である。レーザー光線の生体への作用は照射出力と照射時間で決まり、破壊(disruption)・蒸散(photoablation)・凝固(coagulation)・温熱作用(hyperthermia)・光化学反応(photochemical reaction)などを生じる。眼科では紫外・可視・赤外に及ぶ多数の波長を連続波やパルス波として用いる。

1950年代にMeyer-Schwickerathがキセノン光凝固の臨床応用を開始し、1960年代以降アルゴンレーザーが普及した。現在、網膜光凝固術は眼科で最も頻繁に施行される治療手技の一つである。

網膜光凝固術の主な目的は以下の8項目に分類される。

  1. 網膜無血管野の凝固(汎網膜光凝固・PRP)
  2. 網膜血管瘤の凝固
  3. 黄斑浮腫の治療(格子状光凝固・限局凝固)
  4. 脈絡膜新生血管CNV)の凝固
  5. 網膜色素上皮RPE)の修復
  6. 網膜色素上皮網膜の癒着形成(裂孔周囲凝固)
  7. 腫瘍の直接凝固
  8. 緑内障の治療(毛様体光凝固)
Q レーザー治療は痛みがあるか?
A

通常は点眼麻酔で施行し、軽度の不快感・眼の圧迫感・光への眩しさを自覚することがある。汎網膜光凝固術(PRP)では、照射数が多く照射域が広いため頭痛や眼の重さを感じることがある。球後麻酔を行う場合もある。局所光凝固や閾値下マイクロパルスレーザーは一般に疼痛が少ない。

光凝固術の対象となる疾患によって症状は異なる。治療前の主な自覚症状は以下のとおりである。

  • 視力低下黄斑浮腫CNV・進行した網膜症に伴う中心視力の低下。
  • 飛蚊症硝子体出血新生血管PVD に伴う浮遊物の自覚。
  • 変視症黄斑部浮腫CNV による歪み感。
  • 視野欠損:虚血性病変・網膜裂孔・剥離による欠損。
  • 光視症網膜牽引・裂孔に伴う閃光の自覚。

汎網膜光凝固術後に以下の症状を生じることがある。

  • 周辺視野低下:PRP では光受容細胞の破壊を伴うため、不可避の副作用である。
  • 夜盲(暗順応低下):広範囲凝固後に生じる。
  • 一過性視力低下:術後の網膜浮腫による一時的低下。
  • 術中・術後疼痛:後極部に近い照射では痛みが強い。

光凝固術の対象となる主な眼底所見は以下のカテゴリに分類される。

増殖性変化

網膜新生血管(NV):乳頭新生血管(NVD)・網膜新生血管(NVE)・虹彩新生血管(NVI)。PRPの主要適応。

繊維血管膜:増殖組織の形成。牽引性網膜剥離のリスク。

硝子体出血新生血管からの出血。眼底観察を妨げる。

浮腫・滲出病変

黄斑浮腫(DME/CME:格子状光凝固・局所凝固・抗VEGF の適応。

硬性白斑・軟性白斑毛細血管瘤・虚血の存在を示す。

網膜下液漿液性網膜剥離(SRD):PRP後合併症として注意5)

色素上皮剥離(PEDパキコロイド眼の PRP 後に出現しうる5)

裂孔・変性病変

網膜裂孔・円孔:裂孔周囲凝固の適応。馬蹄形裂孔が最多。

格子状変性:周辺網膜の変性領域。予防的凝固の適応を検討する。

嚢胞様変性格子状変性の特殊型。

  • 漿液性網膜下液(SRD)・色素上皮剥離(PED:PRPの数日〜数週後に出現。Gandhi ら(2024)は増殖糖尿病網膜症(PDR)に対する PRP 後の SRD・PED を報告した5)
  • 浸出性網膜剥離:Videkar ら(2024)は脈絡膜厚が厚いパキコロイド眼での PRP 後浸出性網膜剥離を2例報告した。パキコロイド眼では治療後の漿液性変化に注意する6)
  • 黄斑円孔:Kumar ら(2021)は PDR への PRP 後の黄斑円孔形成を報告した。硝子体黄斑牽引(VMT)合併症例でリスクが上昇する7)
Q PRPを受けた後、視野が狭くなるのか?
A

汎網膜光凝固術では周辺網膜の光受容細胞を意図的に破壊するため、程度の差はあれ周辺視野の低下は不可避の副作用である。ただし中心視野は温存されるため、日常生活への影響は限定的であることが多い。一方、PRP を行わなければ増殖糖尿病網膜症による牽引性網膜剥離硝子体出血視力を大きく失うリスクがある。治療のメリットとデメリットを医師と十分に話し合うことが重要である。

光凝固術の適応となる疾患のリスク要因

Section titled “光凝固術の適応となる疾患のリスク要因”

光凝固術が適応となる主な疾患とそのリスク要因は以下のとおりである。

  • 糖尿病網膜症:罹病期間・血糖コントロール不良(HbA1c高値)・高血圧・脂質異常症。PDR(増殖糖尿病網膜症)・DME(糖尿病黄斑浮腫)がPRPおよび格子状光凝固の主要適応。
  • 網膜静脈閉塞症RVO:高血圧・動脈硬化・血液凝固異常。黄斑浮腫・虚血に対して光凝固を考慮する。
  • 網膜裂孔格子状変性強度近視・高齢・外傷。周辺変性・裂孔への予防的凝固が適応となる。
  • 中心性漿液性脈絡網膜症CSCステロイド使用・A型性格・男性。色素漏出点への局所凝固が適応。
  • 加齢黄斑変性AMD)・CNV:高齢・喫煙・遺伝的素因。中心窩CNV への直接凝固やPDTが適応となる。

以下のリスク要因が確認されている。

  • パキコロイド脈絡膜肥厚):PRP 後に浸出性網膜剥離を来した症例報告があり、脈絡膜肥厚眼では慎重な経過観察を行う6)
  • VMT硝子体黄斑牽引)の合併:PRP 後黄斑円孔のリスク因子となる7)
  • 一度に多数スポットの広範凝固:続発閉塞隅角緑内障(漿液性脈絡膜剥離・静脈還流障害・血液網膜柵破綻)のリスク。凝固の間隔が短い場合にも起こりやすい。

光凝固術前には以下の検査で適応・条件を評価する。

  • 蛍光眼底造影FA:無灌流域・CNV・血管瘤の位置・色素漏出点を同定する。PRP 適応の無灌流域評価に必須。
  • インドシアニングリーン蛍光造影ICGA脈絡膜血管の評価。ポリープ状脈絡膜血管症PCV)・パキコロイド疾患の診断。
  • OCT光干渉断層計黄斑浮腫の定量評価・網膜層構造・SRD・PED を評価する。術前の脈絡膜厚計測(パキコロイド評価)は、PRP 後の浸出性変化リスクを考える参考になる6)。大型毛細血管瘤では過反射壁・楕円形構造がOCTで確認されることがある1)
  • OCTAOCT アンジオグラフィ):蛍光造影剤不使用で無灌流域・新生血管を検出できる。FA の代替として活用が進んでいる。
  • 眼底検査(検眼鏡):直像鏡・倒像鏡による全周網膜観察。周辺裂孔・変性の確認に必須。

瞳孔法での光凝固にはコンタクトレンズが必要である。

レンズ倍率主な用途
Goldmann 3 ミラーレンズ後極部・中間周辺部・最周辺部
Mainster 165° レンズ0.5×網膜光凝固(広角)
SuperQuad 1600.5×網膜光凝固(広角・歪み少)
Volk 接触レンズ各種0.93×〜黄斑部精密凝固

Mainster PRP 165 は像倍率 0.51×、スポット倍率 1.96×、SuperQuad 160 は像倍率 0.50×、スポット倍率 2.00×であり、広範囲を効率的に照射できる。Goldmann 3 ミラーレンズは像倍率 0.93×、スポット倍率 1.08×で、後極から最周辺部までの精密な観察と照射に向く。

Severe NPDR(増殖前糖尿病網膜症)では1年以内にPDRへ進行する確率が高く、網膜光凝固の適応を検討する。FAOCTAを施行できる場合は無灌流域への選択的網膜光凝固を考慮する。無灌流域の精査が困難な場合、または中間透光体混濁・全身状態不良など今後の光凝固の障壁となるリスクを伴う場合は汎網膜光凝固を選択する。

ハイリスクPDRの定義(AAO PPP DR 2024)は以下のとおりである8)

  • 乳頭上または乳頭付近の大型新生血管(NVD ≥ 乳頭面積の1/4〜1/3)
  • 硝子体出血または網膜前出血を伴う新生血管(大きさを問わない)
  • 広範囲の網膜新生血管(NVE ≥ 乳頭面積の1/2)
Q OCTAで蛍光造影検査の代わりになるか?
A

OCTAは蛍光造影剤を使用せずに網膜脈絡膜血管を撮影できる非侵襲的検査であり、無灌流域・新生血管の検出が可能である。ただし静的な血管構造の評価に優れる反面、血管壁からの漏出(蛍光漏出)や血管透過性の変化はFAでしか評価できない。現状ではFAを補完する検査として用いられており、治療適応の最終判断にはFAの情報も参照することが多い。

光凝固術の作用は主に以下の3種類に分類される。

光熱作用(主機序)

凝固(coagulation):組織を60〜65°C に加熱してタンパク変性を引き起こす。標準的な光凝固はこの機序。

温熱作用(hyperthermia):45〜60°Cの低温加熱。閾値下レーザー・TTTの機序。

蒸散(photoablation):沸点以上での瞬間的蒸発。エキシマレーザー等で利用。

光化学作用

PDT光線力学的療法:光感受性物質(ベルテポルフィン)が特定波長の光照射で活性化され、活性酸素を産生して標的血管を閉塞させる。

適応AMDCNVPCVCSC・眼内血管性腫瘍。

光電離・光破壊

光電離(photoionization):レーザーエネルギーが組織をプラズマ化。超短パルスレーザー(SRTなど)の一機序。

光破壊(photodisruption):パルスYAGレーザーによる爆発的組織切断。

眼内でレーザー光を吸収する色素(chromophore)は、RPE細胞のメラニン・血管内のヘモグロビン(酸化・還元型)・ぶどう膜のメラニン・黄斑色素のキサントフィル・水である。波長により色素の吸収特性が異なるため、治療目的に合わせた波長選択が重要である。

各波長レーザーの特性と用途は以下のとおりである。

波長主な吸収体特徴・用途
488 nm(アルゴン)キサントフィル・ヘモグロビン高黄斑治療に不適。血管性病変
514 nm(アルゴン)メラニン・ヘモグロビン中PRP・格子状凝固に汎用
532 nm(半波長Nd:YAG)メラニン中連続波でPRP・SLT
577 nm(マルチカラー)ヘモグロビン高・メラニン高熱変換効率高。最も多用
647 nm(クリプトン)メラニン高・ヘモグロビン低透過性優秀。出血下・混濁例
810 nm(半導体)近赤外メラニン・深部透過TTT・経強膜毛様体凝固・マイクロパルス

黄(577 nm)は熱変換効率が高く多用される。赤(647 nm)はヘモグロビン吸収率が低く透過性に優れるため、網膜出血や網膜下出血で覆われた病変・中間透光体混濁のある症例に適する。青(488 nm)は黄斑色素のキサントフィル吸収係数が高く、黄斑部の治療には使用すべきでない。

PRP の照射条件は以下が標準的である。

  • 使用レーザー:マルチカラー(黄を多用)、半波長Nd:YAG(緑)、パターンスキャン
  • 照射径:200〜500 μm
  • 出力:120〜250 mW 程度
  • 照射時間:0.1〜0.2 秒
  • 目標凝固斑:灰色〜白色の凝固斑を作製する

施行方法の要点は以下のとおりである。

  • 3〜4回に分割して施行し、1回あたり300〜500発程度を照射する(術後炎症を抑えるため、汎網膜光凝固は必要がある場合を除き1,000発程度にとどめる)。
  • 視神経乳頭から1〜2乳頭径の位置から周辺部へ順次凝固する。
  • 後極部(乳頭上下の血管弓内)は避ける。
  • 無灌流域への選択的凝固が可能な場合は、FAOCTA で確認した無灌流域を優先して凝固する。

PASCAL レーザー(パターンスキャン)

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パターンスキャンレーザー(PASCAL)は1点 0.02 秒という短時間照射で複数点を瞬時に照射できる。出力は300〜400 mW を用い、1セッションで 1,000 発程度の施行も可能である。網膜内層・脈絡膜障害が抑制され、治療時間が大幅に短縮されるという利点がある。

Protocol S 試験(ランベシズマブ vs PRP の RCT)では、抗VEGF療法は PRP と同等以上の視力成績を示した8)。AAO PPP DR 2024は中心窩に関わる DME を合併したハイリスク PDR に対して、PRPより抗VEGF療法を先行させることを支持する8)。一方、PRP は一度の施行で長期的な新生血管抑制効果が得られ、受診アドヒアランスが低い患者に適している。

パキコロイド眼で抗VEGF薬併用が浸出性網膜剥離を予防するかは確立していない。PRPの分割施行や術後OCTでの慎重な確認を検討する6)

糖尿病黄斑症などの毛細血管瘤には以下の条件で凝固する。

  • 一般的な毛細血管瘤:照射径 75〜100 μm、出力 90〜120 mW、照射時間 0.1 秒
  • 網膜細動脈瘤・Coats 病:照射径 200〜300 μm、出力 100〜200 mW、照射時間 0.2〜0.3 秒

大型毛細血管瘤(white rim aneurysm)は標的レーザー光凝固(targeted laser photocoagulation)の良い適応である。Sagar ら(2023)は糖尿病黄斑浮腫における白色縁を有する大型毛細血管瘤への標的レーザー光凝固の有効性を報告した1)OCTでの過反射壁・楕円形構造の確認が治療前評価として有用である1)

糖尿病黄斑症・RVOBRVO による黄斑浮腫には格子状(または散発的)光凝固を施行する。

  • 照射径:100〜200 μm、出力:100〜200 mW 程度、照射時間:0.1 秒(赤使用時 0.2 秒)
  • びまん性浮腫:格子状凝固(黄斑中心窩から500 μm 以上離して凝固)
  • 限局性浮腫:漏出点周囲への散発凝固

浮腫軽快機序は完全には解明されていないが、RPE 機能の改善・異常血管の閉塞・VEGF 産生の抑制が関与すると考えられている。

CSC(中心性漿液性脈絡網膜症)への局所光凝固

Section titled “CSC(中心性漿液性脈絡網膜症)への局所光凝固”

FA で診断された色素漏出点を凝固する。

  • 照射径:200 μm、出力:90〜150 mW 程度、照射時間:0.1 秒
  • 強凝固を避け弱く凝固する。漏出点が中心窩に近い場合は慎重に適応を判断する。
  • Sangal ら(2022)は医療過疎地域における CSC への局所光凝固の有効性を報告した4)
  • 同報告では、CSC 25眼の84%で中央値1.75か月後に網膜下液が完全消退し、治療前視力0.36 logMARが最良視力0.16 logMARへ有意に改善した4)

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)に伴う網膜症への抗VEGF薬レーザー光凝固の併用が有効であったとの報告もある(Shimizu 2022)2)

5-5. 閾値下レーザー(Subthreshold Laser: STL)

Section titled “5-5. 閾値下レーザー(Subthreshold Laser: STL)”

閾値下レーザーは眼底に可視的な凝固斑を形成しないエネルギー設定でRPEを選択的に治療する技術であり、正常な神経感覚網膜の破壊を回避するという利点がある。びまん性黄斑浮腫に対して凝固斑が観察されない閾値下凝固の有効性が検討されている。代表的な種類は以下の3種類である。

マイクロパルスレーザー

波長:810 nm または 577 nm

機序:連続照射をオン(100〜300 μs)とオフのサイクルに分割し、RPEを選択的に加熱しながら熱拡散を防ぐ。デューティサイクル(オン時間比率)5〜15% に設定する。

適応:DME・CSCBRVO 黄斑浮腫。ナビゲーション誘導照射システムとの組み合わせで精度が向上する3)

SRT(選択的RPE治療)

波長:527 nm

機序:1.7 μsのQ-スイッチパルスで RPE 細胞内のメラニン顆粒が急速加熱され、マイクロバブル形成が生じる。隣接する神経感覚網膜には熱が伝わらない。アレニウスモデルによる数学的に算出された凝固閾値以下で照射する。

適応:DME・CSCドルーゼン

EpM(アレニウス積分)

機序:アレニウス積分モデルを用いてリアルタイムで各照射点の組織損傷を算出し、凝固反応が99%以下となるよう出力を自動調整する。

特徴:EpM 搭載の PASCAL プラットフォームで使用可能。凝固斑の可視化・非可視化を任意に選択できる。

Tai ら(2024)のシステマティックレビューとメタ解析では、閾値下レーザー(STL)は糖尿病黄斑浮腫に対して標準光凝固と同等域の有効性を示し、可視瘢痕を残しにくい選択肢として評価された9)

577 nm ナビゲーション誘導マイクロパルスレーザーは傍乳頭パキコロイド症候群(PPS)への有効性が報告されている。Iovino ら(2022)は577 nm ナビゲーション誘導閾値下マイクロパルスレーザーPPS の1例に施行し、有効性を報告した3)

網膜裂孔格子状変性への予防的光凝固は、網膜剥離進展を防止することを目的とする。

  • 照射条件:照射径 500 μm、出力 120〜300 mW、照射時間 0.1〜0.2 秒
  • 方法:裂孔周囲を2〜3列凝固する。淡白色程度の凝固斑を目標とする。
  • 適応馬蹄形裂孔硝子体牽引を伴う裂孔・有症状の円孔・一定以上の格子状変性
  • 注意:術後に硝子体牽引が増強すれば網膜剥離に移行しうる。経過観察が重要。

PDT は光感受性薬剤ベルテポルフィン(静注)と689 nm ダイオードレーザーを組み合わせた治療法である。

  • 照射条件:照射エネルギー 50 J/cm²、出力密度 600 mW/cm²、照射時間 83 秒
  • ベルテポルフィン静注後 15 分で照射開始する。
  • 適応疾患:滲出型 AMD中心窩CNV)・ポリープ状脈絡膜血管症PCV)・CSC(慢性型)・眼内血管性腫瘍
  • 抗VEGF薬との併用で效果が増強されることがある(特にPCV)。

硝子体手術中に眼内光凝固プローブを用いて直接網膜を凝固する技術である。

  • 網膜剥離増殖糖尿病網膜症の手術における裂孔凝固・無灌流域凝固に必須の技術。
  • 眼内照射では1点0.1〜0.2 秒、出力 200 mW 未満で凝固斑が形成される。
  • 網膜光凝固を眼内プローブで施行する場合は術後炎症が強く出るため、必要がある場合を除き 1,000 発程度にとどめる。
Q 抗VEGF薬があればPRPは不要か?
A

Protocol S 試験では増殖糖尿病網膜症に対して抗VEGF薬(ランベシズマブ)はPRPと同等以上の視力成績を示した8)。しかし抗VEGF薬は定期的な硝子体内注射が必要であり、受診が途絶えると新生血管が再増殖する。PRPは一度の照射で長期的な網膜無血管野の消失効果が得られ、受診アドヒアランスが低い患者への有利な選択肢である。中心窩に関わるDMEを合併しないハイリスクPDRでは、PRPが依然として重要な治療選択肢となる。

Q レーザー治療の後、すぐに視力は回復するか?
A

PRP の場合、術後に一時的に黄斑浮腫が増悪して視力が低下することがある。通常、数週間〜数ヶ月で落ち着く。網膜裂孔CSC への局所光凝固では治療直後から安定化し、CSC の漿液性剥離は数週〜数ヶ月で消退することが多い。閾値下マイクロパルスレーザーは術直後の視力低下が少ない利点がある。いずれの術式でも、治療効果は視力回復ではなく病態の進行防止・安定化であることを理解しておくことが大切である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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レーザー(LASER: Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)は誘導放出による光増幅の原理に基づく。利得媒質(活性媒質)に励起源(電気・光)を加えると反転分布(上位準位の電子数が下位を上回る状態)が生じる。光子が反転分布した媒質を通過することで同一の位相・波長・方向の光子が雪崩的に増幅される。共振器(反射鏡)で光を往復させてさらに増幅し、出力カプラから単一波長・コヒーレントなレーザー光として取り出す。

眼内でレーザー光を吸収する色素(chromophore)の特性は以下のとおりである。

  • RPE のメラニン:主要な光吸収体。可視〜近赤外の広い波長域で吸収。光凝固の主ターゲット。
  • ヘモグロビン(酸化・還元型):420〜600 nm 帯で強い吸収。血管内病変(毛細血管瘤・血管新生)に対する凝固に関与。
  • 黄斑色素(キサントフィル):450〜500 nm の青色帯で強い吸収。青色レーザーが黄斑治療に不適な理由。
  • :1,400 nm 以上の近赤外〜中赤外で強い吸収。810 nm レーザーでは比較的吸収が少ない。

各適応疾患での主な作用機序は以下のとおりである。

  • 網膜光凝固の機序:虚血網膜を破壊して組織の酸素需要を低下させ、血管内皮増殖因子(VEGF)などの発現を抑制する。これにより網膜虹彩新生血管の発生・進展が抑制される。
  • 格子状光凝固(黄斑浮腫)の機序:浮腫軽快機序は完全には解明されていない。異常血管の閉塞・VEGF産生の抑制・RPEのイオンポンプ機能改善が関与すると考えられている。
  • RPE 修復凝固(CSC 等)の機序:病的な RPE 細胞を凝固し、周囲の健常な RPE 細胞による修復を促す。漿液性剥離の色素漏出点を閉鎖する。
  • 裂孔周囲凝固の機序:凝固斑による瘢痕形成で RPE と神経感覚網膜の接着を強化し、裂孔周囲への液体の浸入を防いで網膜剥離への進展を阻止する。

通常の光凝固と異なる機序で治療効果を発揮する。

  • 熱ショックタンパク(HSP)産生:閾値以下のマイルドな熱刺激が RPE 細胞に HSP を誘導し、代謝活性が上昇する。HSP は細胞保護・修復機構として機能する。
  • マイクロバブル形成(SRT):1.7 μs の超短パルス照射によりメラニン顆粒周囲に局所的な気化バブルが形成され、RPE 細胞膜が選択的に破壊される。隣接する神経感覚網膜への熱損傷はほとんど生じない。
  • アレニウスモデル(EpM):組織損傷率をアレニウス方程式で数学的にモデル化し、タンパク変性(凝固)が生じない温度範囲でリアルタイム制御を行う。

光凝固術の分野では以下の研究・技術が注目されている。

  • ナビゲーションレーザーシステム:NAVILAS など眼底画像誘導型システムにより照射位置の精密化が進んでいる。577 nm ナビゲーション誘導マイクロパルスレーザーPPS への適用が報告されており、今後適応拡大が期待される3)
  • SDM(Subthreshold Diode Micropulse)レーザーの新展開:マイクロパルスの適応疾患が拡大しており、CSC正常眼圧緑内障への適用も研究されている。黄斑部以外の周辺網膜疾患への応用も試みられている。
  • nPRP(Navigated PRP):ナビゲーションレーザーで無灌流域を精密にマッピングし、選択的に凝固する。健常網膜の犠牲を最小化しながら治療効果を維持する試み。
  • Protocol S 長期成績:Protocol S の5年以上の長期追跡データが蓄積されており、抗VEGF療法と PRP の長期での比較エビデンスの更新が続いている8)
  • 大型毛細血管瘤の非侵襲的同定:白色縁マーカー(white rim sign)をOCTで同定し、標的レーザー適応の精度を高める研究が進んでいる1)
  • パキコロイド眼でのリスク層別化:PRP 後浸出性変化を来しうる眼の抽出と個別化治療は、今後の検討課題である6)
  1. Sagar P, Biswal S, Shanmugam PM, Ravishankar HN, Pawar R. Targeted laser photocoagulation of larger capillary aneurysms with rim in diabetic macular edema. Taiwan J Ophthalmol. 2023;13:384-388.
  2. Shimizu H, Shimizu M, Nakano T, Noda K, Tanito M. Multimodal Imaging Findings in Retinopathy Associated with Facioscapulohumeral Muscular Dystrophy before and after Treatment with Intravitreal Aflibercept and Laser Photocoagulation. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:556-561.
  3. Iovino C, Di Iorio V, Paolercio L, Giordano C, Testa F, Simonelli F. Navigated 577-nm subthreshold micropulse retinal laser treatment for peripapillary pachychoroid syndrome. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;28:101757.
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  5. Gandhi P, Nakatsuka K, Ishikawa Y, et al. Subretinal fluid and pigment epithelial detachment following panretinal photocoagulation in proliferative diabetic retinopathy. BMC Ophthalmol. 2024;24:357.
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  8. American Academy of Ophthalmology. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. AAO; 2024.
  9. Tai F, Nanji K, Garg A, Zeraatkar D, Phillips M, Steel DH, et al. Subthreshold Compared with Threshold Macular Photocoagulation for Diabetic Macular Edema: A Systematic Review and Meta-Analysis. Ophthalmol Retina. 2024;8(3):223-233. doi:10.1016/j.oret.2023.09.022.

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