コンテンツにスキップ
網膜・硝子体

硝子体注射(抗VEGF療法)

1. 硝子体注射(抗VEGF療法)とは

Section titled “1. 硝子体注射(抗VEGF療法)とは”

抗VEGF薬の硝子体内注射は、硝子体腔に薬液を直接注入することにより、VEGFの作用(血管新生・血管透過性亢進)を阻害する治療法である。加齢黄斑変性糖尿病黄斑浮腫網膜静脈閉塞症等の網膜血管疾患が主な適応となる。

抗VEGF療法は2000年代に急速に臨床応用が進んだ。

出来事
2004年ベバシズマブの眼内投与が探索的に開始
2006年ラニビズマブがFDA承認(MARINA/ANCHOR試験)12)
2011年アフリベルセプトがFDA承認(VIEW試験)12)
2019年ブロルシズマブがFDA承認(HAWK/HARRIER試験)10)
2022年ファリシマブがFDA承認(TENAYA/LUCERNE/YOSEMITE/RHINE試験)8)
Q 抗VEGF療法はどのような病気に使われるのか?
A

加齢黄斑変性糖尿病黄斑浮腫網膜静脈閉塞症が三大適応疾患である。いずれもVEGFが過剰産生され、血管新生や血管透過性亢進が黄斑部視力低下を引き起こす。抗VEGF薬硝子体内に直接投与することで、これらの病的過程を阻害し視力改善・維持を図る。近年はPDR・mCNVROPポリープ状脈絡膜血管症などにも適応が広がっている。

2. 使用可能な抗VEGF薬(薬剤各論)

Section titled “2. 使用可能な抗VEGF薬(薬剤各論)”
薬剤名商品名分子量作用機序用量承認(日本)
ラニビズマブルセンティス®48 kDaVEGF-A Fab断片0.5 mg(AMD/RVO), 0.3 mg(DME)2009年
アフリベルセプトアイリーア®115 kDaVEGF-A/B・PlGF阻害(デコイ受容体)2 mg / 8 mg(HD)2012年
ペガプタニブマクジェン®VEGF165アプタマー0.3 mg2008年
ブロルシズマブベオビュ®26 kDaVEGF-A scFv6 mg2020年
ファリシマブバビースモ®149 kDaVEGF-A + Ang-2 二重特異性抗体6 mg2023年
ベバシズマブアバスチン®148 kDaVEGF-A 完全長IgG1.25 mgー(適応外)

ラニビズマブ(ルセンティス®)

分子量:48 kDa(Fab断片)

作用機序:VEGF-Aのすべてのアイソフォームを阻害

主要試験:MARINA/ANCHOR試験でAMDに有効性確立。CATT試験でベバシズマブと同等。12)

特徴PDSにより6か月ごと補充投与が可能。2年で98%が月1回注射不要。12)

アフリベルセプト(アイリーア®)

分子量:115 kDa(融合タンパク質)

作用機序:VEGF-A・VEGF-B・PlGFの3因子を同時阻害。VEGF-A親和性Kd=0.49 pMと最高。

主要試験:VIEW試験でラニビズマブに非劣性。高用量8 mg(HD)では最大16週間隔。12, 13)

特徴:幅広いVEGF阻害スペクトル。DMEではProtocol T試験で1年視力改善が最大。13)

ブロルシズマブ(ベオビュ®)

分子量:26 kDa(scFv、既存薬中最小)

作用機序:scFv構造でアフリベルセプトの約12倍のモル濃度で投与可能。組織浸透性が高い。

主要試験:HAWK/HARRIER試験で非劣性達成。最大55%が12週間隔維持。10)

注意点:IOI発生率4.4%(HAWK/HARRIER)、日本人15〜20%。網膜血管炎・血管閉塞リスク。10)

ファリシマブ(バビースモ®)

分子量:149 kDa(二重特異性IgG抗体)

作用機序:VEGF-AとAng-2(アンジオポエチン-2)の同時阻害。世界初の二重標的薬剤。

主要試験:TENAYA/LUCERNE(nAMD)で最大Q16W。nAMD患者の63%が2年目にQ16W達成。8)

特徴RVO(BALATON/COMINO)でFA漏出消失率がアフリベルセプト優越。8)

ベバシズマブ(アバスチン®)

分子量:148 kDa(完全長IgG)

作用機序:VEGF-A阻害(眼科は適応外使用)

主要試験:CATT試験でラニビズマブと同等の有効性を確認。12)

使用状況:コストが大幅に低い。点滴静注用製剤を無菌的に分注して使用する。

ペガプタニブ(マクジェン®)

作用機序:VEGF165特異的アプタマー

現状:2008年承認の第一世代薬剤。現在は新世代薬剤が主流。初期の抗VEGF療法の概念確立に貢献。

Q どの薬剤を選べばよいのか?
A

適応疾患・投与間隔の希望・合併リスクにより決定する。一般的にnAMDではアフリベルセプトファリシマブブロルシズマブが投与間隔延長の点で優れる。DMEではアフリベルセプトファリシマブが標準。ブロルシズマブはIOIリスクを考慮した上で、PCV患者でポリープ消退率が高い利点がある。ファリシマブは最大Q16W(16週ごと)投与が可能で通院負担が最も少ない。最終的には主治医が総合的に判断する。

Q ベバシズマブ(アバスチン)は使えないのか?
A

眼科領域では適応外使用(オフラベル)であり、点滴静注用製剤を眼科用に無菌的に調製して使用する。CATT試験でラニビズマブと同等の視力改善効果が確認されており、コストが大幅に低いことから世界的に広く使用されている。ただし日本では保険適用がなく、使用は施設の判断による。

抗VEGF薬の投与は導入期と維持期の2段階で行う。

  • 導入期:疾患活動性を強力に抑制するため、毎月固定で3〜6回投与する(疾患・薬剤により異なる)。
  • 維持期の方式は以下の3種類がある。
    • PRN(pro re nata):毎月受診し、再発所見がある場合のみ投与
    • 固定投与:2か月ごと、3か月ごとなど一定間隔で定期投与
    • Treat and Extend(T&E):活動性所見がなければ投与間隔を2週ずつ延長、再燃時は短縮

ラニビズマブは導入期3回(月1回)後に維持期PRN投与、アフリベルセプトは導入期3回(月1回)後に2か月ごと固定投与またはT&E法が基本的投与方法として勧められているが、近年はT&E法が多くの施設で導入されている。

適応疾患推奨薬剤導入期維持期
nAMDラニビズマブルセンティス® 0.5 mg月1回×3回1)PRN(月1回観察)
nAMDアフリベルセプトアイリーア® 2 mg月1回×3回1)2か月ごと固定またはT&E(最長3か月)
nAMDブロルシズマブベオビュ® 6 mg月1回×3回8〜12週間隔10)
nAMDファリシマブバビースモ® 6 mgQ4W×4回Q8W〜Q16W8)
DME(アフリベルセプトアイリーア® 2 mg月1回×5回2)2か月ごと
DME(ラニビズマブルセンティス® 0.5 mg月1回×3回2)PRN
DME(ファリシマブバビースモ® 6 mgQ4W×4〜6回PTI(最大Q16W)8, 13)
RVOアフリベルセプト/ファリシマブQ4W×6か月PTI(最大Q16W)8)
PDRラニビズマブ 0.3 mgPRPに対し非劣性5)
mCNVアフリベルセプト/ラニビズマブ初回1〜3回PRN(単回寛解もあり)4)
ROPラニビズマブルセンティス® 0.2 mg初回再燃時追加(1か月以上の間隔)3)
ROPアフリベルセプトアイリーア® 0.4 mg初回再燃時追加(1か月以上の間隔)3)

PCVポリープ状脈絡膜血管症)への対応ブロルシズマブはポリープ消退率約79%と他剤を上回り、12週間隔維持76%(48週)が達成されている。14) ファリシマブラニビズマブ抵抗性PCV例でも有効との報告がある。15)

BALATON試験(BRVO、n=553)ファリシマブ6.0 mg vs アフリベルセプト2.0 mg Q4W、24週BCVA変化はそれぞれ+16.9文字・+17.5文字(非劣性達成)。FA漏出消失率はファリシマブ33.6% vs アフリベルセプト21.0%(名目p=0.0023)と有意にファリシマブが優れた。8)

COMINO試験(CRVO/HRVO、n=729):同レジメンで24週BCVA変化はそれぞれ+16.9文字・+17.3文字(非劣性達成)。CST変化−461.6 μm vs −448.8 μm。FA漏出消失率はファリシマブ44.4% vs アフリベルセプト30.0%(名目p=0.0002)と有意に優れ、Ang-2阻害による血管安定化効果が示された。8)

STTA併用(RVOラニビズマブ+上脈絡膜トリアムシノロン4 mgの併用は、ラニビズマブ単独と比較して注射回数を有意に削減する(4.4回→2.47回、p<0.001)。11)

3-8. 未熟児網膜症(ROP)への抗VEGF療法

Section titled “3-8. 未熟児網膜症(ROP)への抗VEGF療法”

ROP治療における抗VEGF薬の承認薬剤(2022年12月時点)は以下の2剤である。3)

  • ラニビズマブ(ルセンティス®)0.2 mg/0.02 mL:成人用量の40%。2019年承認。
  • アフリベルセプト(アイリーア®)0.4 mg/0.01 mL:成人用量の20%。2022年9月承認。
  • 再投与は1か月以上の間隔をあけること(添付文書規定)。

治療適応(ETROP study基準に準拠) 3)

  • plus diseaseを伴うZone I すべてのROP
  • plus diseaseを伴わないZone I Stage 3 ROP
  • plus diseaseを伴うZone II Stage 3 ROP
  • Aggressive ROP(A-ROP):可及的速やかに施行

再燃率と経過観察 3)

アフリベルセプトの再燃率は13.9〜28%(再燃時期平均11〜14.2週)、ラニビズマブは20.8〜83.0%(再燃時期5.9〜9.3週と早期)。ラニビズマブ使用時は投与後早期からの慎重な観察が必要である。網膜血管がZone IIIまで伸展していない場合は、投与後17週までは週1回の眼底検査が推奨される。

A-ROPの注意点 3)

A-ROPでは抗VEGF単独では75.0〜87.5%に追加治療が必要である。投与後1〜3週以内の早期再燃があり、線維増殖が広範な場合は抗VEGF単独治療の適応外(収縮による牽引性網膜剥離リスク)。

ROPへの注射手技(成人と異なる点) 3)

  • 刺入位置:角膜輪部から1.0〜1.5 mm後方(成人の3.5〜4 mmと大きく異なる)。
  • 針の方向:下方に向けて刺入(水晶体が相対的に大きいため、中央向きは水晶体貫通リスク)。
  • 30ゲージ以下の注射針を使用する。
  • 投与量の確認:ラニビズマブ0.02 mL、アフリベルセプト0.01 mL(過量投与防止のため慎重に確認)。
Q 糖尿病黄斑浮腫にはどの薬剤が最も効果的か?
A

Protocol T試験では1年時点でアフリベルセプト視力改善が最大であった。ただし軽度群(BCVA≧20/40)では3剤間に統計的有意差はなかった。13) ファリシマブはYOSEMITE/RHINE試験でアフリベルセプトと同等の視力改善を示しながら、維持期の注射間隔をより延長できる(2年目にQ16W達成60〜64%)。8) 患者背景や通院頻度の希望により薬剤を選択する。

  • 患者・投与眼・薬剤の取り違え防止:注射を決定したら患者識別タグを確認する。
  • ヨードアレルギーの確認:事前に必ず確認する。
  • 必要物品の準備
    • 皮膚消毒用10%ポビドンヨード
    • 麻酔点眼薬、希釈し室温に戻したPAヨード点眼液、抗菌薬点眼(必要に応じて)
    • ガーゼ・綿棒・テープ付き穴あきドレープ
    • 開瞼器・キャリパー・マイクロ有鈎鑷子
    • 注射針・注射液(バイアル使用時は1 mLシリンジとフィルター付き採液針)

麻酔:消毒薬が飛散して僚眼に入る可能性を考慮し、ベノキシール®点眼液を両眼に投与後、4%キシロカイン®点眼液を投与眼に2回行う。

PAヨード消毒の注意点

  • 冷蔵庫から出した直後のPAヨードは抗菌・抗真菌の不活化効果が低下しているため、必ず室温に戻す。
  • 非密閉容器25°Cで保存した場合、有効成分残存率は5時間で60%まで低下する。長時間経過したPAヨードは使用しない。
  • 細菌・真菌の不活化には1分程度の接触時間が必要なため、洗眼後も閉瞼させて結膜との接触時間を十分確保する。

口腔内細菌対策:穴あきドレープと術者・介助者・患者全員のマスク着用で飛沫を防止する。

外科的輪部からの刺入距離は以下の通りである。刺入位置を守ることで毛様体扁平部(毛様体皺襞部の後方)での刺入が可能となり、水晶体損傷や硝子体出血を防ぐ。

眼の状態輪部からの距離
水晶体4 mm(毛様体扁平部)
水晶体眼・眼内レンズ挿入眼3.5 mm
未熟児1.0〜1.5 mm

針は硝子体腔の中心へ向かって刺入する。輪部に近い位置で刺入すると毛様体皺襞部を損傷し硝子体出血が生じやすく、水晶体との距離が近くなるため水晶体損傷のリスクが高まる。

  1. 穴あきドレープを貼付し、開瞼器で眼瞼を開大する。
  2. キャリパーで輪部からの刺入距離を計測する。
  3. 注射部位は耳上側または耳下側とする(水平直筋損傷防止)。
  4. 鑷子で眼球を固定し、注射前に結膜をやや前方へずらすと抜針後の針孔がずれて液漏れを防ぐ。
  5. 30G短針を強膜に対してほぼ垂直に刺入し、薬液を緩徐に注入する(急速注入は持続的眼圧上昇の原因となる)。
  6. 抜針後、綿棒で刺入部位を圧迫する。
  7. 術直後に視力(指数弁)を確認する。指数弁が認識できない場合は前房穿刺を行う。
  8. 術後3日間は広域抗菌薬点眼を継続する。
Q 注射は痛いのか?
A

点眼麻酔(ベノキシール®・4%キシロカイン®)を行った上で施行するため、注射中の痛みは軽微である。消毒薬(PAヨード)による刺激感を感じることはあるが、術後早期の不快感にはヒアルロン酸Na点眼が有効である。

感染性眼内炎(最重要合併症)

Section titled “感染性眼内炎(最重要合併症)”

感染性眼内炎は最も重篤な合併症で、発生率は約0.027〜0.065%である。発症した場合、バンコマイシン1.0 mg+セフタジジム2.0 mgの硝子体内注射による緊急治療を要する。

予防の最重要策

  • PAヨードの適切な消毒(室温に戻す、1分以上の接触時間)
  • 穴あきドレープの使用(口腔内細菌飛沫防止)

術後の予防的抗菌薬点眼については、複数の研究で眼内炎発生率を低下させないことが示されており、有効性のエビデンスは一致していない。

無菌性眼内炎(Sterile Endophthalmitis)

Section titled “無菌性眼内炎(Sterile Endophthalmitis)”

細菌感染を伴わない眼内炎症反応で、発生率は薬剤によって0.005〜4.4%と異なる。7)

  • 発症時期:注射後24〜48時間以内が多い(感染性は2〜7日後)7)
  • 主要所見硝子体混濁(約80%)・前房蓄膿(約5%)7)
  • 確定診断:培養陰性(PCRによる病原体否定も有用)
  • 薬剤別発生率(‰)ベバシズマブ3.64 / ラニビズマブ1.39 / アフリベルセプト0.767)
  • 治療:軽症は保存的(ステロイド点眼・結膜下注射)。CEVEプロトコル(即時完全硝子体切除術)では平均17.8日での視力回復が報告されている。7)

IRIS Registryのマッチドコホート解析では、注射管理のみと早期硝子体切除術で視力転帰に有意差はなかった。21)

眼内炎症(IOI)・網膜血管炎(ブロルシズマブ特異的)

Section titled “眼内炎症(IOI)・網膜血管炎(ブロルシズマブ特異的)”
Brolucizumab IOI image
Brolucizumab IOI image
Bahram Bodaghi; Arshad M Khanani; Ramin Khoramnia; Carlos Pavesio; Quan Dong Nguyen. Gains in the current understanding of managing neovascular AMD with brolucizumab. J Ophthalmic Inflamm Infect. 2023 Nov 23; 13:51 Figure 2. PMCID: PMC10667168. License: CC BY.
Panuveitis with nonocclusive vasculitis in the left eye following injection with brolucizumab. A Fundus examination showed vitreous haze, hyperemia of the optic nerve, and sheathing around some of the retinal vessels. B, C Fluorescein angiography showed optic nerve leakage and perivascular leakage in the posterior pole and peripheral retina

ブロルシズマブは他の抗VEGF薬より高頻度のIOIを引き起こすことが知られている。

試験・集団IOI発生率備考
HAWK/HARRIER(IOI全体)4.4%網膜血管炎3.6%、血管閉塞2.1%10)
KESTREL(6mg)3.7%(対照0.5%)DME試験10)
MERLIN(4週間隔)9.3%試験中断10)
日本人症例15〜20%10)
市販後(血管炎+閉塞複合)3.73/10,000注射

IOIの大多数は初回投与後6か月以内・4回以内の注射後に発症する。10)

機序:ADA(抗薬物抗体)陽性率がブロルシズマブでは35〜52%(ラニビズマブアフリベルセプトの5%未満と対照的)と高く、免疫複合体沈着によるIII型過敏反応と考えられる。10)

強膜炎(世界初報告)ブロルシズマブ投与後の後部強膜炎が日本人3例で報告されており、眼圧24〜49 mmHgへの上昇を伴い、うち1例は網膜動脈閉塞と血管炎に進展した。9)

治療トリアムシノロンアセトニド(STTA)5〜20 mgの結膜下またはTenon嚢下注射が有効。STTA予防投与との組み合わせも報告されている。18, 19)

IOI発生率はnAMD 2.0%・DME 1.3%・RVO 1.4%であり、両眼投与例では8.5%に認められた。8) 市販後調査での網膜血管炎は0.17/10,000注射と低頻度だが、出血性閉塞性網膜血管炎HORV)は重篤な転帰をとりうる。8) HOLVはIV型(遅延型)過敏症反応との関連が病理学的に示唆されている。16)

RPE裂孔はファリシマブ群でTENAYA 2.7%・LUCERNE 3.0%に生じており、PED高さ550 μm超がリスク因子である。17)

Crunch syndrome(牽引性網膜剥離)

Section titled “Crunch syndrome(牽引性網膜剥離)”

ROP患者において抗VEGF療法後に線維血管膜が急速に収縮し、牽引性網膜剥離(TRD)を来す合併症をCrunch syndromeという。3) 線維増殖が広範に存在する場合は抗VEGF単独治療の適応外であり、硝子体手術が必要となる。投与後早期の眼底検査で増殖組織の変化を確認することが重要である。

  • 水晶体損傷白内障の進行。刺入距離(有水晶体眼4 mm)の遵守で予防する。
  • 網膜損傷裂孔原性網膜剥離。30G短針の適切な刺入で予防する。
  • 毛様体損傷硝子体出血。刺入位置・方向の遵守で予防する。

注射直後の一過性眼圧上昇は注射を受けた全患者に生じる。0.05 mLの注入で眼圧は即座に50 mmHgへ上昇するが、通常は可逆的である。緑内障の既往がある場合は持続的眼圧上昇に注意が必要で、必要に応じて前房穿刺で減圧する。

脳卒中・心筋梗塞のリスクが理論上存在する。ブロルシズマブのHAWK試験ではATE 1.1〜1.4%が認められた。10) 既往のある患者では慎重投与が必要である。

Q 注射後にどのような症状が出たら受診すべきか?
A

以下の症状が出現した場合は速やかに眼科を受診すること。①急激な視力低下、②眼痛充血の増悪、③飛蚊症の著明な増加、④分泌物の出現。これらは感染性眼内炎眼内炎症(IOI)の可能性がある。特に注射後24〜72時間は注意が必要である。

Q ブロルシズマブのIOIが起きたらどうすればよいか?
A

急激な視力低下・飛蚊症の悪化・充血眼痛が出現した場合は速やかに眼科を受診する。診断後はトリアムシノロンアセトニド(STTA)の結膜下あるいはTenon嚢下注射が有効であり、多くの症例で炎症は改善する。18, 19) 再投与はLFP(レーザーフレアセルフォトメーター)等で炎症消退を確認してから慎重に判断する。重篤な血管閉塞を伴う場合は再投与が禁忌となり得るため、代替薬への切り替えを検討する。

6. 病態生理(VEGFの役割と薬剤の作用機序)

Section titled “6. 病態生理(VEGFの役割と薬剤の作用機序)”

VEGFは血管内皮細胞のVEGFR-1・VEGFR-2に結合し、内皮細胞増殖・血管透過性亢進・新生血管形成を促進する。

  • AMD脈絡膜新生血管CNV)の増殖・血管透過性亢進
  • DME血液網膜関門(BRB)の破綻 → 黄斑浮腫形成
  • RVO:虚血 → VEGF過剰 → 黄斑浮腫新生血管

硝子体内注射によりVEGFレベルが低下すると、血管透過性が低下し黄斑浮腫が改善する。抗VEGF薬の効果は一時的であるため、定期的な再投与が必要となる。

薬剤分子量VEGF-A親和性(Kd)標的
ブロルシズマブ26 kDa28.4 pMVEGF-A(全アイソフォーム)
ラニビズマブ48 kDa20.6 pMVEGF-A(全アイソフォーム)
アフリベルセプト115 kDa0.49 pM(最高)VEGF-A/B・PlGF
ベバシズマブ148 kDa35.1 pMVEGF-A
ファリシマブ149 kDaVEGF-A + Ang-2

Ang-2はTie-2受容体のアンタゴニストとして血管不安定化に関与する。ファリシマブがAng-2を阻害することでTie-2経路が正常化し、血管安定性が向上するとともにVEGF感受性が低下する。この二重阻害効果が投与間隔延長を可能にする薬理学的基盤である。

導入期に毎月固定で3〜5回投与を行う理由は、疾患活動性を早期に強力に抑制するためである。T&E法では硝子体内の薬剤濃度が治療域を維持できる範囲で再燃を許容しない枠組みを提供する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

ポートデリバリーシステム(Susvimo)

Section titled “ポートデリバリーシステム(Susvimo)”

ラニビズマブPDSポートデリバリーシステム)では6か月ごとの補充投与で98%が月1回注射不要となった。12) 2025年にはDMEへの適応追加が検討されている。13) 注射負担の大幅な軽減が見込まれる。

高用量アフリベルセプト8 mg(アイリーア® HD)

Section titled “高用量アフリベルセプト8 mg(アイリーア® HD)”

PULSAR試験(AMD)では48週時点で79%が12週間隔、77%が16週間隔を維持した。12) PHOTON試験(DME)でも93%が12週間隔以上を達成した。13)

ブロルシズマブの適応拡大試験

Section titled “ブロルシズマブの適応拡大試験”

PCV黄斑部毛細血管拡張症1型(AT1)を対象としたPROUD試験(韓国)が進行中であり、アジア特有疾患へのエビデンス蓄積が期待される。14)

ファリシマブのPCV対象試験(SALWEEN試験)

Section titled “ファリシマブのPCV対象試験(SALWEEN試験)”

PCV患者へのファリシマブの効果を検討するSALWEEN試験が進行中である。20) PCV患者の房水中でAng-2高値が確認されており、Ang-2阻害の上乗せ効果が期待されている。

結膜下・Tenon嚢下トリアムシノロンアセトニド(STTA)とブロルシズマブの併用投与がIOI予防と滲出制御の両面で有効な可能性がある。18, 19) 至適用量・投与タイミングの標準化に向けた研究が進んでいる。

バイオマーカーによる早期鑑別

Section titled “バイオマーカーによる早期鑑別”

無菌性眼内炎と感染性眼内炎の早期鑑別のため、硝子体液中サイトカインプロファイル(IL-6・IL-8・IL-10)の測定が補助ツールになる可能性が期待されている。7)

ラニビズマブベバシズマブバイオシミラーが登場しつつある。コストの大幅な低下により、治療継続率の向上と医療アクセスの改善が期待される。12)


  1. 日本眼科学会. 新生血管加齢黄斑変性の診療ガイドライン. 日眼会誌. 2024.
  2. 日本眼科学会. 糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版). 日眼会誌. 2023.
  3. 日本未熟児網膜症研究会. 未熟児網膜症に対する抗VEGF療法の手引き(第2版). 2024.
  4. 日本眼科学会. 近視黄斑部新生血管の診療ガイドライン. 日眼会誌. 2023.
  5. American Academy of Ophthalmology. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024. [Protocol S data]
  6. American Academy of Ophthalmology. Retinal Vein Occlusion Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024. [BRAVO data]
  7. Kudasiewicz-Kardaszewska A, Ozimek MA, Kardaszewska A, et al. Complete and Early Vitrectomy for Sterile Endophthalmitis After Bevacizumab: A Case Series. Cureus. 2025;17(10):e93996. doi:10.7759/cureus.93996.
  8. Tadayoni R, Paris LP, Danzig CJ, et al. Efficacy and safety of faricimab for macular edema due to retinal vein occlusion: 24-week results from the BALATON and COMINO trials. Ophthalmology. 2024;131(8):950-960.
  9. Takayama T, et al. Scleritis following intravitreal brolucizumab injection: a case series. J Med Case Rep. 2024;18:80.
  10. Sharma A, et al. Understanding retinal vasculitis associated with brolucizumab. Ocul Immunol Inflamm. 2022;30(6):1508-1510.
  11. Nawar AE, Abdelrahman AM, Ebeid OM, Ahmed SM, El-Abhar AE. Subthreshold micropulse laser combined with ranibizumab versus ranibizumab monotherapy in branch retinal vein occlusion with macular edema. Clin Ophthalmol. 2022;16:1139-1151. doi:10.2147/OPTH.S355315. PMID:35386091. PMCID:PMC8968960
  12. Flaxel CJ, Adelman RA, Bailey ST, et al. Age-related macular degeneration preferred practice pattern. Ophthalmology. 2024;131(1):P1-P68.
  13. Flaxel CJ, Adelman RA, Bailey ST, et al. Diabetic retinopathy preferred practice pattern. Ophthalmology. 2024;131(1):P99-P168.
  14. Sen P, et al. Polypoidal choroidal vasculopathy: update on diagnosis and treatment. Clin Ophthalmol. 2023;17:53-70.
  15. Bloom J, Madani R, Haidar AJ, Alasil T. Faricimab treatment of polypoidal choroidal vasculopathy resistant to intravitreal ranibizumab. J VitreoRetin Dis. 2024;8(6):731-734.
  16. Yavari N, Gupta AS, Mitsios A, et al. Bilateral hemorrhagic occlusive retinal vasculitis and panuveitis following intravitreal faricimab injection. Am J Ophthalmol Case Rep. 2026;41:102532.
  17. Clemens CR, Alten F, Zimmermann JA, Eter N. Old problem in a new guise: retinal pigment epithelium tear after intravitreal faricimab injection. Case Rep Ophthalmol. 2023;14:241-244.
  18. Shigemoto Y, et al. Combination therapy of STTA and IVbr for brolucizumab-related IOI. Medicine. 2021;100(42):e27580.
  19. Saito M, et al. IOI after IVbr monitored by laser flare-cell photometer. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;28:101727.
  20. Cheung CMG, Lai TYY, Teo K, et al. Polypoidal choroidal vasculopathy: consensus nomenclature and non-indocyanine green angiograph diagnostic criteria. Eye. 2024;39:819-834.
  21. American Academy of Ophthalmology. Similar visual outcomes are seen with two post-injection endophthalmitis treatments. AAO Editors’ Choice. 2024 Oct 8. Available from: https://www.aao.org/education/editors-choice/similar-visual-outcomes-are-seen-with-two-post-inj

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます