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強膜炎(scleritis)は、強膜表層を覆う上強膜血管叢や強膜内血管叢など深在性血管の炎症であり、強膜の浮腫と細胞浸潤を伴う。強膜は血管に乏しい線維性組織であり、深在性の強膜炎はまれな疾患である。片眼性・両眼性ともにあり、原因は特発性のほか、全身疾患随伴・感染性・術後性に大別される。

発症率は10万人年あたり1.6〜5.5と報告されている5)。女性に多く、非壊死性のびまん性・結節性強膜炎では好発年齢が40歳代、壊死性強膜炎では60歳代と高齢化する。壊死性強膜炎の両眼性罹患率は約60%である。非感染性強膜炎が大多数を占め、全身性炎症疾患に随伴する眼病変としてみられることが多い。感染性強膜炎は全体の5〜10%とまれだが予後不良である7)

日本国内のぶどう膜炎診療ガイドラインによる多施設調査では、ぶどう膜炎外来受診例3,810例のうち強膜炎は235例(6.2%)を占め、急性前部ぶどう膜炎(6.6%)に次ぐ頻度で認められる8)

強膜炎の臨床所見による分類には、古典的なWatson分類(Watsonら, 1976)が広く用いられる。部位別に前部強膜炎と後部強膜炎に大別し、前部強膜炎は形状別にさらに3型に細分される。

分類病型特徴
前部強膜炎びまん性最多。強膜血管の拡張と蛇行によるびまん性充血
前部強膜炎結節性暗赤色の強膜結節。輪部瞼裂部に好発
前部強膜炎壊死性(炎症性)強膜壊死・菲薄化・穿孔リスク
前部強膜炎壊死性(非炎症性)穿孔性強膜軟化症。無痛性
後部強膜炎まれ。全体の約4%5)

びまん性強膜炎が最多であり、次いで結節性強膜炎が多い。壊死性強膜炎と後部強膜炎はまれである。再燃する場合は同じ病型であることが多いが、約10%は重症化して再燃する。原因となる全身疾患が無治療であると、強膜の同一部位に繰り返し再燃することが少なくない。結節性強膜炎のうち約10%が経過中に壊死性強膜炎へ進展する。

壊死性強膜炎のうち炎症症状をほとんど伴わない特殊型を穿孔性強膜軟化症(scleromalacia perforans)と呼ぶ。長期に関節リウマチを罹患した患者に好発し、充血や疼痛を伴わずに緩徐な強膜菲薄化が進行する。英語名にperforans(穿孔)を冠するが、実際には薄い線維膜によって眼球形態が保持されることも多い。

Q 上強膜炎と強膜炎の違いは?
A

上強膜炎はTenon囊血管叢など浅在性血管叢の炎症であり、充血は軽度で疼痛がなく、視力にも影響しない。強膜炎は深在性血管の炎症であり、激しい眼痛と暗赤色の充血を伴う。1,000倍希釈エピネフリン点眼で上強膜炎充血は消退するが、強膜炎の充血は消退しない点で鑑別できる。

びまん性強膜炎の前眼部像
Smeller L, Toth-Molnar E, Sohar N. Optical Coherence Tomography: Focus on the Pathology of Macula in Scleritis Patients. J Clin Med. 2023;12(14):4825. Figure 1. PMID: 37510941; PMCID: PMC10381547; DOI: 10.3390/jcm12144825. License: CC BY 4.0.
左眼耳側の強膜に深在性血管の著明な拡張と蛇行を伴うびまん性充血を示す前眼部像。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う病型ごとの充血パターンや血管所見に対応する。
  • 激しい眼痛:穿刺様(boring)の深部痛が特徴的である。睡眠を障害するほどの疼痛を伴うことがある。
  • 放散痛:痛みは耳、顔面、顎、こめかみに放散する。びまん性強膜炎で特に顕著である。
  • 夜間悪化・眼球運動痛:痛みは夜間に増悪し、眼球運動で悪化する。
  • 圧痛:触診で圧痛を訴えることが多い。
  • 充血:拍動性の激痛を伴う充血を自覚する。
  • 視力低下:壊死性強膜炎まで進行した重症例や、後部強膜炎で網膜視神経が障害された場合に初めて自覚することが多い。
  • 穿孔性強膜軟化症の特殊性:炎症症状をほとんど伴わず、充血や疼痛のなかった眼に突然強膜壊死巣が出現する、あるいは強膜欠損に伴うぶどう膜の露出に気づくなどの経過をとる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 深在性血管の拡張と蛇行強膜血管の炎症により、上強膜血管叢と強膜内血管叢が拡張する。強膜血管には可動性がない。
  • 紫青色の色調:強膜炎に特徴的な色調変化である。結膜炎上強膜炎の鮮赤色とは対照的であり、暗赤色〜紫青色を呈する。細隙灯顕微鏡よりも自然光下の肉眼観察のほうが把握しやすい。長期罹患例では限局性・びまん性の強膜菲薄化により青黒く観察される。
  • エピネフリン点眼試験:1,000倍希釈エピネフリン点眼で深在性血管の充血は消退しない。表在性の結膜・上強膜充血は消退するため、結膜炎上強膜炎との鑑別に有用である。
  • 眼瞼結膜所見なし:重症例でも眼瞼結膜には炎症所見を認めず、結膜炎と鑑別しやすい。
  • 触診による圧痛結膜炎上強膜炎との鑑別の重要な一助となる。
  • 病型別所見の差異:各病型で特徴が異なり、初診時の細隙灯観察でおおむね判別できる。

びまん性強膜炎

充血強膜血管の拡張と蛇行による強い充血がびまん性に広がる。全周または1象限以上に局在する。

疼痛:顔やこめかみに放散する激しい疼痛が特徴で、睡眠を障害するほどである。

特記所見:結節・隆起・壊死・菲薄化は伴わない。結膜浮腫、眼瞼腫脹、前部ぶどう膜炎や高眼圧を伴うことがある。

結節性強膜炎

結節:単発または多発の暗赤色結節。輪部近傍の瞼裂部に好発する。

触診:結節は可動性がなく、圧痛を伴う。

既往:眼部帯状疱疹の既往を持つ例が多い。約10%が壊死性強膜炎に進展するが、早期治療で小さな瘢痕巣のみを残し治癒する。

壊死性強膜炎

強膜壊死:初期には限局性の白色〜黄色の無血管領域(強膜壊死巣)。強膜血管の強い拡張と蛇行・融解を伴う。

菲薄化:ぶどう膜が透見できるまでに菲薄化し、さらに進行すると眼球穿孔に至る。菲薄部は炎症沈静化後も残存する。

予後:発症年齢は60歳代と高齢で、両眼性が約60%を占める。早期治療を行わなければ失明・眼球温存困難となる。

後部強膜炎

疫学:発症平均年齢は約50歳、女性に好発し男性の約2倍。両眼性は30〜40%。

眼底所見視神経乳頭浮腫、脈絡膜皺襞、滲出性網膜剝離、網膜下腫瘤、高眼圧を呈する。uveal effusionや続発閉塞隅角緑内障の報告もある。

波及症状外眼筋炎を合併すると複視、眼球運動痛、眼球突出眼瞼下垂を来す。

強膜炎から角膜へ炎症が波及すると、角膜周辺部浸潤や潰瘍を生じる。前部ぶどう膜炎を合併することもある。強膜炎は上強膜にもほぼ例外なく炎症が及ぶため、上強膜炎としての所見も混在する。

後部強膜炎は病変部が眼底奥に存在するため一般に診断が遅れやすい。前部から後部まで同時発症する場合もあれば、時間差を持って発症する場合もある。後部強膜炎の約1/3に前部強膜炎を合併し、後部強膜炎経過中には約70%に前部強膜炎が観察される1)。前部強膜炎合併例では全身性疾患との関連が強い。

  • 滲出性網膜剥離:後極部に漿液性網膜剥離を認める1)
  • 脈絡膜皺襞脈絡膜の皺襞所見を認める1)
  • 視神経乳頭浮腫:炎症が眼窩組織や視神経へ広がると出現し、恒久的視力障害を避けるために早急な治療を必要とする。
  • Bモード超音波のT-sign強膜肥厚とTenon嚢下液貯留により、視神経強膜の境界が角ばって描出される1)。後部強膜炎の最も特異的な超音波所見である。
  • 脈絡膜腫瘍との誤認:後部強膜炎は脈絡膜腫瘤として紹介されることがあり、pseudomelanoma(偽黒色腫)の一因となる1)
  • 外眼筋炎の合併:炎症が外眼筋に及ぶと複視・眼球運動痛・外眼筋挿入部周辺の充血を来す。
Q 後部強膜炎はなぜ見逃されやすいのか?
A

後部強膜炎では前眼部所見に乏しく、眼痛・頭痛・視力低下のみで受診する症例がある。眼底所見である脈絡膜皺襞や滲出性網膜剝離は、Bモード超音波断層検査のT-signやOCTによる脈絡膜肥厚の評価で初めて確実に診断されることが多い1)脈絡膜腫瘍と誤認される場合もあり、鑑別診断の網羅が重要である。

強膜炎の最大50%に全身性自己免疫疾患が合併する。原因となる全身疾患が未治療のままであると、強膜の同一部位に繰り返し再燃することが少なくない。壊死性強膜炎の原因はリウマチ性疾患・血管炎・血液疾患などが多い。

膠原病・リウマチ疾患

関節リウマチ(RA):最も高頻度に合併する全身疾患である。壊死性強膜炎や穿孔性強膜軟化症の原因となる。長期加療中の症例に典型的である。

全身性エリテマトーデスSLE:前部強膜炎を合併しうる。

再発性多発軟骨炎:前部・後部強膜炎の両方を合併し、寛解と増悪を繰り返す。

血管炎・その他

多発血管炎性肉芽腫症GPA):壊死性強膜炎・穿孔性強膜軟化症を伴い重篤な経過をたどる。ANCA関連血管炎として、眼病変が初発症状となる場合がある3)

高安動脈炎:まれに強膜炎を合併し、全身性血管炎の診断契機となることがある4)

結節性多発動脈炎(PAN):壊死性強膜炎を合併しうる。

その他、サルコイドーシス、Behçet病、Crohn病、潰瘍性大腸炎、乾癬性関節炎、強皮症、皮膚筋炎、SAPHO症候群、甲状腺疾患、大動脈炎症候群、間質性腎炎、Vogt-小柳-原田病多発性硬化症などの合併が報告されている。結節性強膜炎では眼部帯状疱疹の既往を持つ例も多い。後部強膜炎ではまれに全身性リンパ腫や多発性骨髄腫の眼病変としてみられることがあり、注意を要する。

感染性強膜炎は全体の5〜10%を占めるにすぎないが、極めて予後不良である7)。感染性強膜炎患者の約50%が機能的視力を喪失し、約27%が眼球摘出または内容除去に至るとの報告がある7)

  • 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:欧米で最も一般的な起炎菌である7)強膜壊死が急速に進行し、化膿性強膜軟化症の像を呈する。
  • Nocardia属:外傷後や免疫不全患者に発症する2)。消退と再燃を繰り返す慢性経過が特徴的であり、結節が沈静化しても深部に菌体が残存する2)
  • Moraxella属:まれな起炎菌であるが、免疫不全状態で日和見感染として発症する7)
  • その他:真菌、結核、梅毒、ヘルペスウイルスなどの感染例も報告されている。結核罹患率の高い地域では、ステロイド全身投与前のツベルクリン反応検査による結核の除外が推奨される。

感染性強膜炎の多くは眼科手術後の露出縫合糸や強膜バックル材料に起因し、片眼性に発症する。

手術誘発性壊死性強膜炎(SINS)

Section titled “手術誘発性壊死性強膜炎(SINS)”

眼科手術が契機となって壊死性強膜炎が生じることがある。翼状片手術、白内障手術、強膜バックリング術斜視手術線維柱帯切除術が代表的な契機である。特にマイトマイシンC併用翼状片切除術の術後には高頻度で生じやすい。発症までの期間は術後数日から数年におよび、術後数年経過後の発症例も稀ではない。

マイトマイシンC・5-FUによる強膜軟化症

Section titled “マイトマイシンC・5-FUによる強膜軟化症”

代謝拮抗薬であるマイトマイシンC(MMC)や5-フルオロウラシル(5-FU)は、翼状片術後再発防止や緑内障濾過胞瘢痕化防止目的に用いられてきた。MMC点眼は術後数か月から数年を経て強膜石灰化や穿孔性強膜軟化症を来しうるため、1980年代に点眼薬としての使用は廃止された。現行の緑内障翼状片手術では低濃度MMC(0.02〜0.04%)の術中短時間1回塗布が主流であるが、術後に手術部位強膜の蒼白化・血管狭小化・無血管帯が出現することがあり、将来的な強膜軟化の母地となりうる。

Q どのような全身疾患が関連するか?
A

関節リウマチが最も高頻度であり、その他に多発血管炎性肉芽腫症GPA)、全身性エリテマトーデス結節性多発動脈炎、再発性多発軟骨炎、高安動脈炎、サルコイドーシスなどの自己免疫疾患が合併する。強膜炎患者の最大50%に何らかの全身性疾患が認められる。壊死性強膜炎ではリウマチ性疾患・血管炎・血液疾患の合併率がさらに高くなる。

  • 自然光下の肉眼観察結膜炎上強膜炎の鮮赤色の充血に対し、強膜炎では暗赤色〜紫青色を呈する。長期罹患例では強膜菲薄化により青黒く観察される。これらの色調変化は細隙灯顕微鏡よりも明室での肉眼観察のほうが把握しやすい。
  • 細隙灯顕微鏡検査強膜血管の拡張・蛇行、結節の有無、強膜結節の暗赤色所見、菲薄化、壊死、穿孔を評価する。眼瞼結膜には炎症所見を認めない点が結膜炎との鑑別点となる。
  • エピネフリン点眼試験:1,000倍希釈エピネフリン点眼で深在性の強膜充血は消退しない。上強膜炎結膜充血との鑑別に重要である。
  • 触診結膜上から棉棒などで触れて圧痛の有無を確認する。結膜炎上強膜炎との鑑別の一助となる。
  • Bモード超音波検査:後部強膜炎の診断に不可欠である。強膜肥厚、強膜結節、Tenon嚢下液貯留によるT-signが特徴的である1)脈絡膜腫瘍との鑑別にも有用である。
  • フルオレセイン蛍光強膜造影強膜無灌流領域の有無から壊死性強膜炎の鑑別が可能である。
  • CT・MRI:後部強膜炎の強膜肥厚や外眼筋炎の評価、頭蓋内病変との鑑別に用いる。
  • OCT:後部強膜炎で乳頭浮腫、後極の脈絡膜皺襞、滲出性網膜剝離の詳細評価が可能である。

全身性疾患の検索のため、以下の検査を行う。

  • 炎症マーカー:赤沈(ESR)、C反応性蛋白(CRP)、白血球数
  • 自己抗体:リウマトイド因子(RF)、抗核抗体、C-ANCA、P-ANCA3)
  • 感染症:梅毒血清反応、クオンティフェロン、ツベルクリン反応検査
  • その他:アンギオテンシン変換酵素(ACE)、リゾチーム、血清尿酸値

壊死性強膜炎や難治例ではANCA関連血管炎の検索が特に重要である3)。結核罹患率が高い地域では、局所ステロイド治療に抵抗する強膜炎で全身投与前のツベルクリン反応検査を施行する。

  • 上強膜炎:浅在性血管の炎症であり、充血は軽度で疼痛がなくフェニレフリン点眼で消退する。
  • 結膜炎充血結膜円蓋部で最も顕著で、輪部に近づくにつれ減衰する。眼脂や眼瞼結膜の異常を伴う。
  • MALTリンパ腫結膜円蓋部に好発するサーモンピンク色の腫瘤である。腫瘤が結膜下にあるため強膜血管が透見できない点で強膜炎と鑑別される。
  • 角膜疾患:強膜炎から波及した角膜周辺部浸潤と、Mooren潰瘍やブドウ球菌性周辺部角膜浸潤との鑑別が必要となる。
  • Tenon嚢炎上強膜炎の一種と考えられ、両者の鑑別は困難である。
  • 眼窩先端部症候群:内頸動脈海綿静脈洞瘻では結膜強膜静脈のうっ滞拡張を来し、拍動性眼球突出複視を伴う。
  • Vogt-小柳-原田病:後部強膜炎との鑑別が困難な疾患である。両眼性で肉芽腫性前部ぶどう膜炎OCTによる脈絡膜肥厚を呈する。
  • 脈絡膜腫瘍:後部強膜炎の結節性病変が脈絡膜腫瘤として紹介されることがあり1)、超音波・MRI・OCTを総合して鑑別する。

強膜炎の治療はステロイドが主体であり、病型と重症度に応じて局所治療・全身治療・免疫抑制薬・生物学的製剤・外科的治療を段階的に組み合わせる。全身疾患合併例ではリウマチ内科・膠原病内科との連携が不可欠である。

NSAIDs内服(第一選択)

適応:軽度〜中等度のびまん性・結節性強膜炎に対する初期治療。

処方例:セレコキシブ(COX-2阻害薬)100mg 1日2回内服、またはインドメタシン50mg 1日3回。疼痛に対して著効することが多く、炎症コントロールにも有効である。

注意:消化管出血・腎機能障害・喘息発作に注意する。喘息等の禁忌がなければ初期から積極的に併用する。

ステロイド局所療法

点眼:0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼を1日4〜6回使用する。症例によりベタメタゾン・フラジオマイシン軟膏の就眠前点入を併用する。

結膜下注射トリアムシノロンアセトニド40mg/mLを1回0.1mL(月1回まで)、またはデキサメタゾン3.3mg/mLを1回0.3mLで1〜2週毎数回。

注意:壊死性強膜炎では菲薄部を避けて注射する。

ステロイド全身療法

内服:プレドニゾロン0.5〜1mg/kg/日(軽症でのNSAIDs無効例では20〜30mg分2の漸減療法、重症結節性・壊死性・後部強膜炎では30〜60mg/日からの漸減療法)。

パルス療法:メチルプレドニゾロン1,000mg/日を3日間点滴静注し、その後漸減療法を併用する。壊死性強膜炎や重症例で適応となる。

注意:漸減療法は通常1〜2週間以上かけ、重症例では2〜3ヶ月単位で継続する。

免疫抑制薬・生物学的製剤

シクロスポリン:5mg/kg/日 分2で内服開始し、血中トラフ値を100〜150ng/mL前後に調整する。腎機能障害に注意し定期的な血液検査を要する。

全身疾患合併時の選択:関節リウマチにはメトトレキサート全身性エリテマトーデスや全身性血管炎にはシクロホスファミドが選択されることが多い。アザチオプリンは強膜炎への有効性が劣る。

生物学的製剤インフリキシマブ(抗TNF-α抗体、レミケード®)やリツキシマブ(抗CD20抗体、リツキサン®)の難治例への投与報告がある3)

びまん性強膜炎・軽症結節性強膜炎

Section titled “びまん性強膜炎・軽症結節性強膜炎”

NSAIDs内服と0.1%ベタメタゾン点眼を中心に治療を開始する。効果不十分であれば免疫抑制薬点眼を追加し、それでも不十分な場合は強膜菲薄部を避けたデキサメタゾン0.3mLまたはトリアムシノロンアセトニド0.1〜0.2mLの結膜下注射を行う。局所治療に反応が乏しい場合にはプレドニゾロン20〜30mg/日の漸減療法を1〜2週間継続する。

重症結節性強膜炎・壊死性強膜炎・全周性強膜炎

Section titled “重症結節性強膜炎・壊死性強膜炎・全周性強膜炎”

短期間で強膜菲薄化・穿孔に至る可能性があるため、初期治療からプレドニゾロン内服0.5〜1mg/kg/日を開始する。ステロイド内服に反応不良の症例や再燃を繰り返す症例には、リウマチ内科と連携して随伴する全身疾患に最適な免疫抑制薬を選択する。シクロスポリン5mg/kg/日分2内服を併用する場合、血中トラフ値を100〜150ng/mLに調整する。神経Behçet病に随伴する強膜炎に対してはシクロスポリンが神経症状悪化のため禁忌である。重症例ではメチルプレドニゾロン1,000mg/日を3日間点滴静注するパルス療法を、感染の要因を十分に否定した上で行う。

免疫抑制治療に抵抗性の強膜炎には、生物学的製剤の導入を検討する。TNF-α阻害薬は強膜ぶどう膜炎への有効性が示されているが、すべてが強膜炎に有効とは限らず、エタネルセプトでは逆説的反応(paradoxical reaction)として強膜炎を含む眼炎症を誘発・増悪させる症例が報告されている。免疫抑制薬・生物学的製剤の使用には導入前後の全身検査と内科連携が必須である。

副腎皮質ステロイドの全身投与が治療の主体となる。プレドニゾロン30〜50mg/日から漸減し、疼痛コントロールのため2〜3回に分けて内服する。前眼部炎症を伴う場合には副腎皮質ステロイドの点眼を併用する。内服で炎症の鎮静化が得られなければ、感染性の要因を十分に否定したうえでステロイドパルス療法を行う。パルス療法にも抵抗する場合、漸減中に再燃がみられた場合には免疫抑制薬の積極的な投与を考慮する。処方例としてアザチオプリン1〜2mg/kg、メトトレキサート(リウマトレックス®)6mg/週などが選択される。壊死性強膜炎ではシクロホスファミドパルス療法が必要となる場合があり、内科医との連携が特に重要である。

サブテノン嚢トリアムシノロンアセトニド注射(STTA)は後部強膜炎に対しても用いられるが、まれに視神経・網脈絡膜の循環障害を引き起こすリスクがある6)。血管脆弱性のある高齢者や緑内障眼では慎重な適応判断が必要である6)

感染性強膜炎では、起炎菌の同定と感受性に基づく抗菌薬治療が基本となる2)7)

  • 起炎菌同定後の選択的治療:Nocardia感染では強化アミカシン点眼とスルファメトキサゾール・トリメトプリム内服を長期間併用する。外科的デブリドマンを繰り返す場合がある2)。緑膿菌感染では強膜壊死(化膿性強膜軟化症)が急速に進行するため、アミノ配糖体またはキノロン系抗菌薬を主体とした強力な治療と外科的治療を速やかに行う。
  • 露出縫合糸・バックル材料の除去:感染源となっている露出縫合糸は直ちに除去する。強膜バックル材料も薬物治療に反応がなければ、眼内炎予防のためにも1〜2週間のうちに抜去するのが望ましい。
  • ステロイド併用の判断ステロイド投与が感染を増悪させるリスクがあるため、感染性の要因を十分に否定したうえで使用する。抗菌薬に反応があり、かつ炎症が持続する場合には白血球数やCRPの動向を確認しながらステロイドを使用する場合もある。
  • 真菌感染性強膜炎:治療は角膜真菌症の薬物治療に準じる。

壊死性強膜炎または穿孔性強膜軟化症、そして内科的治療に反応がない感染性強膜炎が外科治療の対象である。強膜壊死や軟化部位が一定以上に及ぶと眼球形状異常の回復や視機能の維持は困難となるため、壊死部面積が小さいうちの早急な手術が望まれる。

手術の要点は以下の3点である。

  • 周辺健常部まで含めた強膜壊死巣の完全切除
  • 保存強膜移植による病巣部の修復補填:保存強膜は強度と眼球壁形態維持の面から補填材料として適している。保存角膜は融解してしまうことが多い。
  • 移植強膜片の結膜による完全被覆

広範な結膜壊死や周辺部角膜潰瘍を伴う場合には、他眼からの自家結膜移植や角膜上皮移植術を併用する。術後治療には移植片の生着と強膜炎の再発防止目的にシクロスポリン内服および1%サンディミュン®点眼(院内製剤)を用いる。MMCや5-FU使用後に発症した強膜軟化症でも、免疫抑制点眼薬や生物学的製剤による有効性の確証が得られていない現状では、軟化部位が小さいうちに早期の保存強膜移植術を行うべきである。

全身管理と副作用モニタリング

Section titled “全身管理と副作用モニタリング”

長期ステロイド・免疫抑制薬治療では、眼圧上昇、肝・腎機能障害、血糖値上昇、血中シクロスポリン濃度を定期的にモニターする必要がある。血糖値の上昇がある場合、内科専門医と連携した全身管理のもとにインスリン併用下でのステロイド治療を要することもある。眼痛に対しては鎮痛消炎薬を投与する。また強膜炎は感染または感染アレルギーを契機に発症する可能性があるため、初発例の初期治療には抗菌薬の点眼と内服も併用する。

Q 感染性強膜炎はどう治療するか?
A

感染性強膜炎は予後不良であり、起炎菌の同定と感受性に基づく抗菌薬の早期投与が不可欠である。緑膿菌感染では急速に進行するため、強力な抗菌薬治療と外科的デブリドマンを速やかに行う7)。露出縫合糸やバックル材料が原因の場合は速やかに除去する。ステロイドは感染を増悪させるリスクがあるため、感染性の可能性がある場合には慎重に使用する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

強膜は血管に乏しい線維性組織であり、深在性の強膜炎の発症頻度は低い。一方で強膜には神経支配があるため、ひとたび炎症を起こすと強い眼痛を生じる。直筋付着部における強膜の厚さは約0.3mmと最も薄く、壊死・穿孔の好発部位となる。強膜にはバリアとなる構造がないため、結膜下やTenon嚢下に注射した薬剤は拡散により眼内に到達することができ、結膜ステロイド注射が治療選択肢となる所以でもある。

自己免疫疾患に関連する強膜炎の病態は、帯状肉芽腫性壊死(zonal granulomatous necrosis)を特徴とする。肉芽腫の中心にはフィブリノイド物質がみられ、周囲に類上皮細胞と多核巨細胞が配列する。

強膜炎では、T細胞やマクロファージを含む炎症細胞の浸潤が増加する。T細胞とマクロファージは深層上強膜組織に浸潤し、血管周囲にはB細胞のクラスターが形成される。T細胞上のHLA-DR発現とIL-2受容体発現の上昇から、細胞介在性免疫反応の関与が示唆されている。

形質細胞はマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)やTNF-αの産生に関与している。壊死性強膜炎ではフィブリノイド壊死を伴う血管炎が認められ、血管壁への好中球浸潤を呈する。内因性強膜炎の発生機序には、細胞介在性免疫反応を中心とした免疫機構の関与が示唆されている。

  • 非壊死性強膜炎(びまん性・結節性):血管炎は顕著ではなく、非肉芽腫性の炎症が主体である。結節性では病巣中央のフィブリノイド壊死とその周囲に類上皮細胞の配列がみられる。
  • 壊死性強膜炎:小さな壊死病巣と、主にリンパ球・形質細胞・マクロファージによる非肉芽腫性炎症が認められる。フィブリノイド壊死を伴う血管炎と好中球浸潤が特徴である。
  • 感染性強膜炎:壊死性炎症に加えて微小膿瘍が形成される。Nocardia感染では結節が消退しても深部に菌体が残存し、再燃を繰り返す特徴がある2)
  • 穿孔性強膜軟化症(scleromalacia perforans):長期に罹患した関節リウマチや類縁疾患の患者に起こる。輪部付近にうっ血を伴わない壊死性強膜プラークを呈し、緩徐な強膜菲薄化が進行してぶどう膜が露出する。

COVID-19ワクチン・感染後の後部強膜炎

Section titled “COVID-19ワクチン・感染後の後部強膜炎”

COVID-19ワクチン接種後または感染後に後部強膜炎を発症し、脈絡膜黒色腫と誤認されて紹介された8例の症例シリーズが報告されている5)。ワクチン最終接種から発症までの平均間隔は132日、COVID-19感染から発症までの平均間隔は14日であった5)。大部分が2ヵ月以内に自然軽快し、視力への影響は軽微であった5)

難治性ANCA関連強膜炎に対するリツキシマブ

Section titled “難治性ANCA関連強膜炎に対するリツキシマブ”

従来の免疫抑制療法ステロイド+シクロホスファミド)に抵抗性のANCA関連壊死性強膜炎に対して、リツキシマブ(抗CD20抗体)が寛解導入・維持の両方に有効であった症例が報告されている3)。ANCA関連血管炎による多発血管炎性肉芽腫症型の眼病変に対するリツキシマブの有効性を示す長期追跡研究も蓄積されつつある3)

高安動脈炎(Takayasu arteritis)の眼病変としての強膜炎報告があり、全身性大動脈炎症候群の診断契機として注意を要する4)。若年女性の壊死性強膜炎では高安動脈炎の除外診断が重要である。

Q COVID-19と関連があるか?
A

COVID-19ワクチン接種後または感染後に後部強膜炎を発症した症例シリーズが報告されている5)。ただし、因果関係は証明されておらず、多くは自然軽快する経過をたどる。COVID-19関連の後部強膜炎は脈絡膜腫瘍と誤認される場合があり、鑑別診断としての認識が重要である5)


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