蝶結び法
考案: Jampolsky(1975)が考案した最初の調整縫合法。
手技: 筋を付着部強膜に固定しhang-back量を設定する結び目を作製し、その上に蝶結びを置く。
調整: 蝶結びを解いて手術量を変更する。
非観血的治療(屈折矯正・弱視訓練・プリズム療法・視能訓練)の施行後に一定の残余斜視がある場合に、手術による眼位矯正を行う。手術方針(手術眼および術式・術量)は斜視や眼球運動異常のタイプによって決定し、外眼筋に対する弱化・強化術や筋移動術を施行する。
術式は大きく3種に分類される。
| 術式 | 目的 | 代表的使用場面 |
|---|---|---|
| 後転術(recession) | 筋の弱化 | 内斜視での内直筋後転、外斜視での外直筋後転 |
| 前転術(resection) | 筋の強化 | 外斜視での内直筋前転、内斜視での外直筋前転 |
| 筋移動術(transposition) | 筋の作用方向変更 | 麻痺性斜視・特殊型斜視・筋紛失後 |
成人斜視手術の全体成功率は約80%(1回の手術後)、2回目の手術を含めると95%以上である1)。術後の持続性複視(primary gazeで難治性)は1%未満にとどまる1)。手術目標は眼位改善・両眼視機能回復・複視軽減・代償性頭位の解消・心理社会的改善である1)。
乳児内斜視・部分調節性内斜視・間欠性外斜視・先天上斜筋麻痺・A-V型斜視は小児期に手術適応となる代表的な斜視疾患である。
眼鏡・プリズム・弱視訓練など非観血的治療で十分な改善が得られない残余斜視に対して行う。手術の目的は眼位矯正、両眼視機能の回復・維持、整容的改善である。成人では1回目で約80%、2回目を含めると95%以上で良好な眼位が得られる1)。

| 斜視タイプ | 手術適応の判断基準 | 推奨手術時期 |
|---|---|---|
| 乳児内斜視 | 大角度恒常性内斜視 | 2歳以内(超早期: 生後6カ月以内) |
| 部分調節性内斜視 | 眼鏡矯正後の残余内斜視 | 非調節成分が安定後 |
| 間欠性外斜視 | 斜視角≥20Δ、恒常性移行傾向 | 就学前 |
| 先天上斜筋麻痺 | 頭位異常・代償不全 | 就学前 |
| A-V型斜視 | 上下方視での偏位差 | 個別判断 |
| 整容目的 | 斜視角≥20Δ、本人・家族の希望 | 6歳頃 |
成人斜視の有病率はIRIS Registryデータで眼科外来の2.7%であり、推定発生率は約4%である1)。斜視の頻度は人口の2〜4%(人種差あり)。欧米白人に内斜視が多く、アジア人・黒人に外斜視が多い。非共同性斜視は全斜視の約5%。乳児内斜視は1〜2%の頻度で発生する。再手術率は一般的に20〜30%である。
牽引試験(forced duction test):非共同性斜視では手術前に不可欠。小児では全身麻酔下で術直前に施行する。
プリズム順応試験:年長児に施行。感覚面の評価+手術術式・術量の精度向上が図れる。
画像検査:上下斜視・特殊型には眼窩MRI/CTで先天的外眼筋異常を検出する。
眼位検査:9方向眼位で遠見(5m)と近見(30cm)の斜視角を測定。融像のある患者では30〜45分の遮閉試験で全偏位を暴露してから計測する1)。
Lancaster赤緑テスト・Hessスクリーンテストが効率的である1)。複視の定量にはGoldmann視野計プロット・頸部可動域測定・Diplopia Questionnaireを使用する1)。
甲状腺眼症・外傷・強度近視ではCT/MRIで眼窩・外眼筋の状態を確認する1)。
生後6カ月までに発症する乳児内斜視は両眼視機能の予後が不良だが、早期手術が有効である。
間欠性外斜視では両眼視を保っているため、早期手術は不要である。屈折矯正・弱視訓練で経過観察し、恒常性外斜視に移行する場合に手術を行う。斜視角が20Δ未満であれば手術適応とせず光学的治療や視能訓練を試みる。斜視角が大きく頻度が高い場合、整容的に問題となる場合には就学前に手術治療を計画する。
頭位異常をとって両眼視を保っている斜視では、斜視角が小さければ早期手術は不要である。屈折矯正・プリズム療法で経過観察し、遅くとも就学前までに手術治療を計画する。
器質疾患による視力障害があれば眼位矯正による両眼視の獲得は困難だが、整容的に問題となる場合は6歳頃に手術治療を計画する。一般に斜視角が15Δを超えると整容面に影響が出るが、20Δ以上の斜視で本人・家族の希望があれば手術を検討する。小児期の内斜視は術後外斜視に移行しやすいため低矯正手術とする。
外眼筋の付着部を後方に移動させ筋の有効長を増やして弱化する。内斜視での内直筋後転、外斜視での外直筋後転が代表的適応。後転筋の作用方向で最大の矯正効果が得られる。
外眼筋の一部を切除して短縮し強化する。外斜視での内直筋前転、内斜視での外直筋前転が代表的適応。
外眼筋付着部を別の位置に移動して作用方向を変更する。麻痺性斜視・特殊型斜視に使用。筋紛失で回収不能な場合にも選択される。
術後に外眼筋の位置を再調整し手術量を変更できる手技。吊り下げ法(hang-back recession)を基盤とし、筋腱を付着部から切離後に付着部強膜に通糸する。別の縫合糸(6/0バイクリル)でスライド結節を作製し、術後に点眼麻酔下で交代遮閉試験を行いながら結節位置を変えて眼位を微調整する。目的の矯正効果が得られたら吊り下げ糸を結紮して余剰糸を切除する。
再手術例や拘束性・麻痺性斜視など術後眼位の予測困難な症例で特に有用とされる1)。
蝶結び法
考案: Jampolsky(1975)が考案した最初の調整縫合法。
手技: 筋を付着部強膜に固定しhang-back量を設定する結び目を作製し、その上に蝶結びを置く。
調整: 蝶結びを解いて手術量を変更する。
スライディング・ヌース法
原理: 筋の縫合糸とは別の結び目で筋を保持する方法。
調整: ヌースを筋側に進めると後転量が減少し、遠ざけると増加する。
特徴: スライド操作で微細な術量調整が可能。
ショートタグ・ヌース法
利点: 結膜が手術部位を完全に覆えるため、調整不要時は追加操作が不要。
小児への適用: 遅延調整にも対応可能。2回目の全身麻酔を回避しやすい。
特徴: 小児の89%で点眼麻酔のみで調整可能との報告がある。
除去可能ヌース法
考案: Guytonが考案。クローブヒッチに3つのスリップノットを組み合わせる。
利点: 調整後にヌース縫合材料を完全除去でき、結膜下に異物が残らない。
直筋後転術のほか直筋移行術・原田伊藤法・上斜筋腱手術など特殊な術式にも応用される1)。下直筋後転術では半調整縫合法が筋ドリフトを軽減しうる。下方視での過矯正は忍容性が低いため、やや低矯正を目標として調整縫合を併用することが推奨される1)。
調整のタイミングは術直後〜数時間後。術翌日には腱が強膜に癒着し困難となる。甲状腺眼症では一部の術者がより良好な成績を主張するが、晩期過矯正・筋滑脱への懸念もある1)。
外眼筋へのボツリヌス毒素注入を単独または手術と併用する1)。新規偏位・大偏位の手術効果増強・術後残余偏位・小角度偏位に使用する1)。麻痺性斜視で自然回復待機中の拮抗筋拘縮予防にも有用である1)。
水平≤8Δ・垂直<3Δの微小偏位でも複視・眼精疲労の原因となりうる1)。腱切開術(部分的中央切開)や単一直筋後転で対応可能である1)。
重篤合併症(強膜穿孔・重症感染・筋滑脱/紛失・強膜炎)の推定発生率は1/400であり、そのうち予後不良は1/2,400と報告されている2)。多くの合併症は軽微で自然軽快または局所薬物治療で改善する9)。
術中合併症
強膜穿孔: 発生率0.08〜5.1%。多くは後遺症なし2)5)
眼心臓反射: 発生率67.9%。洞性徐脈が最多。心静止0.11%6)7)
筋紛失(PITS): 発生率1/4,500(成人)、小児1/5,000。外科的緊急事態2)
筋滑脱: 発生率1/1,500。修正手術例の10.6%に認められる2)
誤手術: 1/2,506。誤った眼または筋への手術8)
早期術後合併症
晩期術後合併症
| 合併症 | 発生率 | 管理 |
|---|---|---|
| 術後感染(蜂窩織炎) | 1/1,100〜1/1,9002)5) | 全身性抗菌薬。原因菌: 黄色ブドウ球菌(MRSA/MSSA)、A群連鎖球菌 |
| 眼内炎 | 1/30,000〜1/185,0002)5) | 硝子体内抗菌薬投与 |
| 角膜デレン | 2.2〜18.9%3)4) | 眼軟膏による角膜表面保護。再手術・移行術でリスク上昇 |
| 前眼部虚血 | 1/6,0002) | アトロピン+ステロイド点眼。3筋以上の同時手術を避ける |
| 化膿性肉芽腫 | 2.1%2) | 局所ステロイド→無効なら外科切除 |
| 結膜封入嚢胞 | 0.25%2) | 外科的摘出(穿刺排液のみでは再発) |
| 治癒度 | 基準 |
|---|---|
| IV:治癒(excellent) | 9方向眼位(遠見・近見)で10度以内の斜位、自覚症状なし |
| III:ほぼ治癒(good) | 少なくとも第1眼位で斜位、自覚症状のない斜位 |
| II:部分治癒(fair) | 第1眼位で斜位〜微小斜視 |
| I:整容治癒(cosmetically satisfactory) | 第1眼位で±15Δ以内、上下10Δ以内の斜視、頭位異常の軽減 |
| 0:無効(not improved) | 改善なし |
判定時期は治療後4年目。内斜視は10歳時に判定する。
小児の斜視は良好に治癒しても成長・加齢および環境要因の関与によって変化する可能性があり、長期的に眼位・両眼視の管理を行うことが大切である。筋縫合部の安定まで3〜4カ月を要する。再手術が容易に計画できるように初回術式を選択することも重要なポイントである。
再手術例・拘束性斜視・麻痺性斜視など術後眼位の予測が困難な症例で特に有用である1)。単純な共同性斜視では非調整縫合でも良好な成績が得られることが多い。
乳幼児期に斜視が起こると、斜視眼の抑制・弱視・対応異常をきたし正常な両眼視機能が発達しない。
これが乳児内斜視における早期手術の根拠となっている。
筋縫合部が安定するまでに3〜4カ月を要する。この間に筋と強膜の癒着が進行し最終的な眼位が決定される。術直後のアライメントと長期的な眼位は必ずしも一致せず、この予測困難性が調整縫合の適応根拠でもある。小児のTenon嚢は厚く十分な処理を要し、全身麻酔下での手術となるため調整に際して2回目の麻酔曝露が問題となりうる。ショートタグ・ヌース法は調整不要時に2回目の麻酔を回避できる。
現時点の調整縫合の有効性に関するエビデンスは決定的ではない。間欠性外斜視の成人40人を対象としたRCTでは、調整群成功率90% vs 非調整群85%で統計的有意差は認められなかった(p=0.3)。11研究のレビューでは7研究中3研究のみで有意差があり、有意差を示した3研究はいずれもn≥100の大規模研究であった。再手術率を指標とした場合は5研究中4研究で有意差が認められた。水平斜視小児60人のRCTでは術後6カ月の成功率に有意差を認めなかった(成功定義: 残余偏位≤8Δ)。
一部の術者はより良好な成績を主張するが、晩期過矯正・筋滑脱への懸念から使用しない術者もいる1)。ポリエステル永久縫合糸・relaxed muscle positioning techniqueなど代替手法の検討が進んでいる。
2025年の遡及的研究で、術後抗菌点眼薬の処方が感染率を低下させなかったことが報告された。術後感染予防における抗菌点眼の必要性については今後の検討が必要とされている。
一部の症例でボツリヌス毒素注入による化学的除神経が斜視矯正に有効であることが報告されている。外科手術に代わる選択肢として研究が進んでいる。Cochrane系統的レビューではRCTが限られており評価困難な状況である1)。
ケタミンを主麻酔薬とすることで眼心臓反射・術後悪心嘔吐・術後不穏が減少することが報告されている。麻酔管理の改善により合併症リスクの低減が期待される。