経過観察
化膿性肉芽腫
1. 化膿性肉芽腫とは
Section titled “1. 化膿性肉芽腫とは”化膿性肉芽腫は炎症性肉芽であり、腫瘍細胞が増殖するわけではない。微小血管の増生と炎症細胞浸潤を主体とする反応性病変である。「化膿性肉芽腫」という名称は用語として不適切であり、病理学的には過剰な毛細血管増生を伴う炎症性反応、すなわち lobular capillary hemangioma(小葉状毛細血管性血管腫)として理解される。
本疾患は年齢を問わず発症し、小児から高齢者まで幅広い年代に認められる。霰粒腫に合併して表出することが最も多く、瞼結膜面に隆起性腫瘤として現れる。また翼状片手術・霰粒腫手術・内斜視手術などの眼科手術後や、睫毛抜去後・外傷後にも発症し得る。
結膜化膿性肉芽腫は結膜良性病変の中でも比較的頻度が高い。小児でも霰粒腫に続発する形で発症することがあり、年齢特異性は低い。急速に増大することがあるため患者や家族が悪性腫瘍を疑って受診するケースも少なくないが、良性経過が基本である。
化膿性肉芽腫は悪性腫瘍(癌)ではない。腫瘍細胞が増殖する腫瘍性病変ではなく、炎症刺激に対する反応性の毛細血管増生(lobular capillary hemangioma)である。外見が赤く急速に増大するため悪性を疑われることがあるが、良性病変であり転移や悪性化の心配はない。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
患者が訴える主な自覚症状は以下のとおりである。
- 結膜の赤い腫瘤:眼瞼を裏返すと瞼結膜面に赤色の腫瘤が確認される
- 易出血性:軽い刺激で出血しやすく、繰り返す出血が主訴となることがある
- 異物感:腫瘤の存在による不快感・違和感
- 流涙:炎症反応に伴う反射性流涙
瞼結膜面に赤色調で有茎性の平滑な球状〜乳頭状腫瘤を呈する。腫瘤の特徴的所見を以下に示す。
- 色調:鮮紅色〜暗赤色。表面に細い血管が走行する
- 形状:有茎性(茎を持って結膜から突出)。球状から乳頭状
- 表面:平滑で光沢を持つ。潰瘍形成は通常認めない
- 増大速度:急速に増大することがある。数週間で数mmから1cm超に達する場合もある
- 易出血性:腫瘤内に豊富な毛細血管が含まれるため、軽微な接触で出血する
霰粒腫合併例では、霰粒腫が切開または自然破裂した後に結膜面から腫瘤が突出してくる経過をたどることが多い。霰粒腫内容物から外方へ化膿性肉芽腫が膨出している所見は本疾患に特徴的である。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”化膿性肉芽腫の発症誘因を以下に示す。
- 霰粒腫(最多):霰粒腫の切開排膿後や自然破裂後に続発するケースが最多である。マイボーム腺脂肪に対する異物反応が毛細血管増生を誘発すると考えられる
- 眼科手術後:翼状片手術、霰粒腫手術、内斜視手術(結膜切開を伴う手術)の術後に比較的高頻度で認められる。翼状片手術後は切除部位の結膜縫合部からの発生が知られている
- 外傷後:睫毛抜去後、異物迷入後、その他の結膜外傷後に発症することがある
- 感染後:結膜炎・角結膜炎に続発する場合がある
- 特発性:明確な誘因が同定されない場合も存在する
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”診断の進め方
Section titled “診断の進め方”化膿性肉芽腫の診断は多くの場合、臨床所見のみで行うことができる。典型例では「霰粒腫術後に急速増大する有茎性赤色腫瘤」という経過と外観から臨床診断が成立する。
- 視診・細隙灯顕微鏡検査:瞼を反転させ、腫瘤の色調・形状・有茎性・表面性状を評価する
- 霰粒腫との関連確認:霰粒腫の存在・切開歴・手術歴を問診で確認する
- 切除検体の病理検査:確定診断には切除した組織の病理検査が必要である。臨床的に悪性が否定できない場合は必ず病理検査に提出する
病理組織学的所見
Section titled “病理組織学的所見”切除検体の病理像では以下の所見が認められる。
- 毛細血管の小葉状増生(lobular capillary hemangioma パターン)
- 浮腫状の間質に炎症細胞(好中球・リンパ球・形質細胞)の浸潤
- 上皮に覆われた有茎性腫瘤構造
- 腫瘍細胞の増殖は認めない
化膿性肉芽腫と鑑別すべき疾患を以下の表に示す。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 結膜乳頭腫 | HPV関連。カリフラワー状の白色〜淡紅色腫瘤。有茎性あり。易出血性は低い |
| 結膜悪性黒色腫(無色素性) | 急速増大・固い質感・血管増生。色素なし型は鑑別困難。生検必要 |
| 眼瞼血管腫(乳児血管腫) | 小児に多い。青みがかった隆起性腫瘤。1歳以降自然退縮傾向あり |
| Kaposi肉腫 | 免疫不全(HIV感染)患者に認められる。多発性・紫紅色腫瘤 |
| 結膜転移性腫瘍 | 悪性腫瘍の既往がある場合は除外が必要 |
鑑別が困難な場合や、急速増大・再発・硬い質感などの非典型的所見を認める場合は積極的に切除し病理検査で確定診断を行う。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”化膿性肉芽腫の治療は病変の大きさ・誘因・患者の状況に応じて選択する。主な治療法を以下に示す。
ステロイド局所投与
点眼:ベタメタゾン点眼(0.1%)やフルオロメトロン点眼(0.1%)を1日4〜6回投与。
結膜下注射:トリアムシノロンアセトニド(4mg/mL)を0.2〜0.5mL結膜下注射する方法がある。腫瘤の縮小効果が期待できる。
注意点:眼圧を定期的にチェックしながら使用する。ステロイド緑内障に注意が必要である。
切除術
切除後の再発を防ぐためには、原因となる霰粒腫の完全切除が重要である。霰粒腫が残存している場合、化膿性肉芽腫を切除しても同部位から再発するリスクがある。再発例では再切除を行い、切除検体を病理検査に提出して悪性疾患を除外する。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”化膿性肉芽腫の発症は、外傷・手術・霰粒腫などの炎症刺激に対する結膜組織の過剰な反応性血管増生によって生じる。病理学的には腫瘍ではなく、血管新生を伴う炎症性病変である。
血管増生のメカニズム
Section titled “血管増生のメカニズム”局所の炎症が持続することで、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)をはじめとする血管増殖因子が産生される。これらの因子が毛細血管の新生・増生を促進し、小葉状の毛細血管構造(lobular capillary hemangioma)が形成される。炎症細胞(好中球・リンパ球・形質細胞)の浸潤を伴う浮腫状間質の中に、毛細血管の小葉状増生が認められる。
霰粒腫との関連
Section titled “霰粒腫との関連”霰粒腫では、閉塞したマイボーム腺から漏出した脂質成分に対してマクロファージを中心とした異物肉芽腫が形成される。この異物反応が結膜面に突出することで化膿性肉芽腫の誘因となる。切開排膿後も霰粒腫内容物が完全に除去されない場合、異物刺激が持続して化膿性肉芽腫が再発する。
術後発症の機序
Section titled “術後発症の機序”翼状片手術や内斜視手術などの結膜切開を伴う手術後に化膿性肉芽腫が発生する場合、縫合糸に対する異物反応や切開部位の過剰な血管増生が機序として考えられる。縫合糸(特に吸収性縫合糸)周囲から発生するケースが報告されており1)、縫合糸を除去することで縮小・消失する場合がある。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”ステロイド投与法の比較
Section titled “ステロイド投与法の比較”ステロイド点眼と結膜下注射(トリアムシノロンアセトニド)の有効性について比較研究が行われている。結膜下注射は点眼より高い局所濃度が得られるため、より確実な縮小効果が期待されるが、注射に伴う疼痛・眼圧上昇・脱色素のリスクがあり、患者選択が重要である2)。
小児における管理
Section titled “小児における管理”小児の化膿性肉芽腫は霰粒腫との合併が多く、初期治療として抗炎症点眼(フルオロメトロン等)を試みつつ、反応不良例には切除が選択される。全身麻酔を要することもあり、治療方針は年齢・病変サイズ・患者の協力度を考慮して決定する3)。
自然退縮率のデータ
Section titled “自然退縮率のデータ”化膿性肉芽腫の自然退縮率・退縮までの期間については系統的なデータが限られている。小病変では数週間から数ヶ月で自然脱落する場合があることが知られているが、自然退縮を期待できる病変の特徴や予測因子については今後の研究が必要である4)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Shields JA, Shields CL, Eagle RC Jr, et al. Pyogenic granuloma of conjunctiva. Arch Ophthalmol. 1995;113(12):1555-1558.
- Ferry AP. Pyogenic granulomas of the eye and ocular adnexa: a study of 100 cases. Trans Am Ophthalmol Soc. 1989;87:327-343.
- Rios JD, Dohlman CH, Tomlinson A, et al. Conjunctival pyogenic granuloma in children. J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 2002;39(5):293-296.
- Reddy SC, Reddy RC. Pyogenic granuloma of conjunctiva. Int J Ophthalmol. 2012;5(5):651-653.