この疾患の要点
結膜上皮腫瘍は良性・前癌病変(結膜 上皮内腫瘍)・浸潤性扁平上皮癌(悪性)に大別される。
眼表面扁平上皮腫瘍(ocular surface squamous neoplasia, OSSN)は異形成から浸潤性扁平上皮癌までのスペクトラムの総称である。
扁平上皮癌は角膜 縁(輪部 )から発生することが75%を占め、男性・高齢者に多い。
最大のリスク因子は紫外線曝露であり、免疫不全(HIV/AIDS)も重要な因子である。
結膜上皮内腫瘍と浸潤性扁平上皮癌の臨床的鑑別は困難であり、確定診断には病理組織検査が必須である。
治療の第一選択は外科的完全切除(ノータッチ法)と冷凍凝固 術の組み合わせである。
転移はまれで生命予後は一般に良好だが、高悪性度や免疫不全例では再発に注意を要する。
結膜上皮腫瘍は、結膜上皮から発生する腫瘍の総称である。良性腫瘍(乳頭腫、上皮性嚢胞など)、前癌病変(結膜上皮内腫瘍:conjunctival intraepithelial neoplasia, CIN)、悪性腫瘍(浸潤性扁平上皮癌:squamous cell carcinoma, SCC )に大別される。
眼表面扁平上皮腫瘍 という概念も広く使われる。上皮異形成(dysplasia)から結膜上皮内腫瘍、浸潤性扁平上皮癌までの上皮性腫瘍スペクトラムの総称である。
結膜上皮内腫瘍はさらに重症度で分類される。
軽度結膜上皮内腫瘍(dysplasia) :異常増殖が上皮層内の一部にとどまる
重度結膜上皮内腫瘍(carcinoma in situ) :異常増殖が上皮全層に及ぶ。基底膜は保たれる
浸潤性扁平上皮癌 :基底膜を越えて結膜下組織へ浸潤する
結膜扁平上皮癌の発生率は地理的に大きく異なる。10万人あたり0.02〜3.5人(緯度・紫外線曝露量による差)と報告されている1) 。患者の75%が男性、75%が60歳以上であり、75%が角膜縁(輪部)から発生する1) 。
Shields らの771例の非メラノサイト系結膜腫瘍において、眼表面扁平上皮腫瘍は23%(179例)で最多の非色素性腫瘍であった1) 。眼表面扁平上皮腫瘍の世界年齢標準化率は10万人あたり0.26/年で、アフリカが最高(10万人あたり3.4/年)である1) 。
結膜上皮腫瘍の分類を以下に示す。
分類 小児 成人 良性 乳頭腫(HPV 6/11型)、上皮性嚢胞 乳頭腫(HPV関連)、遺伝性良性上皮内角化異形成症、上皮性嚢胞 前癌病変 結膜上皮内腫瘍(まれ) 結膜上皮内腫瘍(軽度〜重度) 悪性 扁平上皮癌(まれ) 浸潤性扁平上皮癌、粘表皮癌
Q 結膜上皮腫瘍はどのくらいの頻度で発生するのか?
A 扁平上皮癌の発生率は10万人あたり0.02〜3.5人と地域差が大きい1) 。眼表面扁平上皮腫瘍の年齢標準化率は世界平均で10万人あたり0.26/年だが、アフリカでは3.4/年と著しく高い1) 。
Conjunctival epithelial neoplasm slit-lamp photograph
Huang L, Zhang D. Case Report: A rare and recurrent case of primary corneal keratosis: diagnostic and therapeutic challenges. Front Med (Lausanne). 2025;12:1678333. Figure 1. PMCID: PMC12864500. License: CC BY.
Slit-lamp photograph showing an irregular white broad-based lesion on the nasal conjunctiva extending toward the cornea. It serves as a practical visual example of ocular surface epithelial neoplasia.
充血・異物感 :最も多い主訴
視力 低下 :病変が瞳孔 領に及んだ場合に生じる
無症状 :偶然発見されることもある
発赤・眼不快感 :結膜扁平上皮癌の症状は非特異的で、視軸侵及時に視力障害を伴う1)
結膜上皮内腫瘍 は無茎でやや不透明、平坦な隆起性病変として観察される。白色〜淡赤色を呈し、「打ち上げ花火様」と形容される異常血管パターンが特徴的である。
浸潤性扁平上皮癌 は多彩な形態をとる。
カリフラワー状乳頭腫様病変 または表面凹凸の白色隆起性病変
表面に角化亢進によるleukoplakia(白板症)を伴うことがある
淡赤〜赤桃色、ゼラチン様の凹凸不整な外観
角化物(ケラチン)が付着することがある
病変の形態バリエーションとその臨床的意義を以下に示す。
ゼラチン状 :最も多い形態
白板状 :角化亢進を反映
乳頭状・結節状 :より侵攻的な病理グレードと関連1)
結節潰瘍型 :まれだが浸潤性腫瘍の強い指標1)
腫瘍上の異常蛇行拡張栄養血管 :悪性増殖を示唆する重要所見1)
隆起性病変は平坦病変より悪性度が高い傾向がある1) 。好発部位は瞼裂間・角膜縁であり、眼瞼結膜は少ない1) 。
良性腫瘍の臨床像 は以下の通りである。
小児乳頭腫 :肉芽状赤色外観、有茎性または広基性、下円蓋・眼球結膜に好発。ヒトパピローマウイルス(HPV)6型/11型と関連
成人乳頭腫 :淡ピンク色、片側性単発性、角膜縁・眼球結膜・涙丘に好発。HPV関連
遺伝性良性上皮内角化異形成症(hereditary benign intraepithelial dyskeratosis, HBID ) :両側性隆起性病変、V字型プラーク、口腔粘膜にも病変あり。常染色体優性遺伝
紫外線曝露 :最大のリスク因子。p53遺伝子変異を介した発癌機序1)
ヒトパピローマウイルス :16型・18型の関与が指摘される1) 。乳頭腫はHPV 6型/11型と関連。ただしHPVと眼表面扁平上皮腫瘍の関連には地域差・異論もある1)
男性・高齢 :平均発症年齢56歳1)
免疫不全 :HIV/AIDS患者で高頻度に発生。アフリカの若年女性での高罹患率と関係する
色素性乾皮症 :高率にSCCを発生する
その他 :喫煙、化学物質曝露(石油製品・ベリリウム・ヒ素など)、ビタミンA欠乏、眼表面外傷1)
再発リスク因子 :腫瘍サイズ大、切除断端陽性、HIV感染、高腫瘍グレード、栄養血管存在、高増殖指数1)
Q 紫外線以外にどのようなリスク因子があるのか?
A HPV 16型/18型、免疫不全(HIV/AIDS)、色素性乾皮症、喫煙、化学物質曝露(石油製品・ベリリウム・ヒ素など)、ビタミンA欠乏が挙げられる1) 。腫瘍の再発にはHIV感染や切除断端陽性が強く関与する1) 。
細隙灯顕微鏡検査 :腫瘍の大きさ・境界・色調・凹凸を観察する。写真記録が望ましい
フルオレセイン染色 :異常上皮の透過性亢進を利用し、病変と健常部の境界を明瞭化する。平坦・小病変の見落とし防止に有用。隆起性病変でも周囲の平坦な腫瘍部分の発見に役立つ
scleral scattering(強膜 散乱光法) :角膜上の平坦病変の範囲を明瞭化する
特殊染色 :ローズベンガル、リサミングリーン、メチレンブルーなども壊死扁平上皮細胞の染色に使用される1)
高解像度光干渉断層計 (HR-OCT) :非侵襲的ツール。高反射で肥厚した上皮と正常上皮との急峻な移行部が特徴。上皮厚140μm超は潜在的腫瘍の指標とされる。浸潤型と非浸潤型の鑑別に有用1)
生体共焦点顕微鏡 :上皮・上皮下病変の鑑別に有用1)
印象細胞診・剥離細胞診 :低侵襲だが深達度評価に限界がある1)
超音波生体顕微鏡 (UBM) :角膜縁浸潤の判断に使用する
転移検索 :耳前リンパ節触診が基本。広範囲腫瘍ではガリウムシンチグラフィ、FDG-PETによる全身検索を行う
結膜上皮内腫瘍と浸潤性扁平上皮癌の臨床的鑑別は困難であり、確定診断には必ず病理組織検査を行う1) 。
切除生検 :角膜縁腫瘍で時計時間4時間未満または基底径15mm未満の場合
切開生検 :より大きい腫瘍で広範手術前の初期評価
病理組織学的診断は10〜20%ホルマリン固定・パラフィン包埋・HE染色が基本である。
TNM分類による病期を以下に示す1) 。
病期 定義 Stage 0 Tis, N0, M0(上皮内癌) Stage I T1, N0, M0(隣接構造への浸潤なし) Stage II T2, N0, M0(角膜・円蓋部・涙丘・強膜・眼球へ浸潤) Stage III T3, N0, M0 または any T, N1, M0(眼窩 ・副鼻腔・眼瞼へ浸潤または所属リンパ節転移) Stage IV any T, any N, M1(遠隔転移あり)
翼状片 、瞼裂斑 、Salzmann結節変性、化膿性肉芽腫、乳頭腫、母斑、皮脂腺癌 、無色素性メラノーマ、結膜リンパ腫 、角化棘細胞腫1) 。
Q 結膜上皮内腫瘍と浸潤性扁平上皮癌は臨床的に区別できるのか?
A 結膜上皮内腫瘍と扁平上皮癌の臨床的鑑別は困難であり、確定診断には病理組織検査が必須である。高解像度光干渉断層計は浸潤型と非浸潤型の鑑別に有用だが1) 、最終的な確定診断は組織学的検査による。
腫瘍の完全切除が第一選択である。
腫瘍辺縁から周囲2〜3mmの安全域をとって切除する
境界不明瞭例では術中迅速病理診断にて断端陰性を確認する
腫瘍は角膜・強膜からスパーテルで剥離可能なことが多い
再発予防として腫瘍切除部への0.04% マイトマイシンC塗布や切除断端の冷凍凝固を併用する
角膜輪部半周以上の切除時は角膜上皮 移植(角膜上皮形成術/輪部移植)を実施する
球結膜・眼瞼結膜の切除が広範な場合は羊膜移植 を行う
肉眼的に腫瘍のない境界を少なくとも4mm含めて一塊に切除する
切除端に「ダブルフリーズ・スローソー法」による冷凍凝固を実施する
角膜成分の除去:無水アルコールを1分間作用させる(可視腫瘍縁から少なくとも1mm外側)
強膜浸潤がある場合は層状強膜切除術を行う
再建は結膜一次縫合、羊膜移植、自己結膜移植から選択する。
外科的治療
第一選択 :ノータッチ法による完全切除。マージン4mm以上。
冷凍凝固 :ダブルフリーズ・スローソー法を切除端に施行。
再建 :結膜一次縫合・羊膜移植・自己結膜移植から選択。
適応拡大手術 :眼内浸潤には眼球摘出術 、眼窩浸潤には眼窩内容除去術 。
薬物療法(局所化学療法)
インターフェロンα-2b :点眼または結膜下注射。毒性低く忍容性良好。
マイトマイシンC :0.04%点眼。術前・術後補助療法として使用。
5-フルオロウラシル :局所化学療法。一次治療または補助療法。
シドフォビル :局所化学療法の選択肢の一つ。
局所化学療法は一次治療または補助療法として使用される。「1週間投与・1週間休薬」サイクルが通常である。
日本では低濃度マイトマイシンCまたは5-フルオロウラシル点眼で腫瘍根治の報告がある。ただし上皮内病変のみ有用との報告もあり、長期再発率・合併症は十分に解明されていない。
インターフェロンα-2bは点眼または結膜下注射で使用され、マイトマイシンCや5-フルオロウラシルに比べて毒性が低く忍容性が高い反面、高コストである。
小児乳頭腫 :冷凍凝固術+ノータッチ法切除が推奨。不完全切除は侵襲的再発リスクがある。代替としてインターフェロンα、シメチジン経口、0.02% マイトマイシンC局所化学療法
成人乳頭腫 :外科的切除+冷凍凝固術
遺伝性良性上皮内角化異形成症 :症状があれば人工涙液・短期ステロイド 点眼。大病変は切除+羊膜移植
上皮性嚢胞 :無症状なら経過観察。大きい場合は完全切除+一次縫合
一般に放射線感受性が高い。切除不能例・眼瞼浸潤例では術後放射線照射を併用する
ストロンチウム90を用いた低線量照射も使用される
転移はまれで生命予後は良好である。浸潤性扁平上皮癌の局所再発率は5%、所属リンパ節転移率は2%と報告されている1) 。一方、未治療扁平上皮癌の死亡率は8〜24%、眼窩浸潤は約10%の症例で発生する1) 。
Q 手術以外の治療法はあるのか?
A マイトマイシンC・5-フルオロウラシル・インターフェロンα-2bなどの局所化学療法が一次治療または補助療法として使用される。ただし上皮内病変のみで有用との報告もあり1) 、長期成績や合併症については十分に確立されていない。放射線療法は切除不能例や眼瞼浸潤例で補助的に用いられる。
結膜は眼球結膜・結膜円蓋部・眼瞼結膜の3区分からなる。特殊領域として半月襞(瞬膜の名残)と涙丘(結膜+皮膚構造)がある。
上皮は非角化性5層。角膜縁付近は円柱上皮、円蓋部は扁平上皮
杯細胞は内層に存在し、涙液ムチン層を分泌する
実質はアデノイド浅層(生後3ヶ月で発達)と深部線維層からなる
粘膜関連リンパ組織(MALT):上皮細胞間のリンパ球と形質細胞
紫外線曝露→p53遺伝子変異→調節蛋白複合体の変異→発癌という経路が主要な機序である1) 。
関与する分子レベルの異常は以下の通りである1) 。
TERTプロモーター変異 (テロメラーゼ逆転写酵素)
ADAM3 (特に高悪性度病変で関与)
粘膜類天疱瘡-9、粘膜類天疱瘡-11の過剰発現
クラスタリンの過剰発現 (眼表面上皮発癌と関連)
扁平上皮癌の起源は角膜輪部幹細胞由来と考えられている1) 。
結膜上皮内腫瘍(前癌病変)
軽度結膜上皮内腫瘍 :表面上皮の一部が正常成熟を欠く異常細胞に置換される。
重度結膜上皮内腫瘍 :上皮全層が成熟を欠く異常細胞に置換される。上皮細胞は全層にわたって極性を失い異型性を示す。
基底膜は正常に保たれる :これが浸潤性扁平上皮癌との決定的な違いである。
浸潤性扁平上皮癌
基底膜突破 :悪性扁平上皮細胞が基底膜を越えて実質内に増殖する1) 。
組織学的特徴 :異型性・核分裂像を含む肥厚細胞が粘膜固有層に浸潤する。
粘表皮癌 :扁平上皮癌の侵攻的亜型。高齢者に多く、粘液分泌細胞による黄色嚢胞成分を伴う1) 。
良性腫瘍の組織病理 は以下の通りである。
乳頭腫 :血管を伴う乳頭状突起、角化をほとんど伴わない棘細胞増殖性上皮
偽上皮腫性増殖 :著明な棘細胞増殖・角化亢進・不全角化。細胞異型はない
遺伝性良性上皮内角化異形成症 :基底膜保持、実質充血、棘細胞増殖と角化亢進病巣
ベバシズマブ およびラニビズマブ の結膜病変への応用が報告されている1) 。
Tsatros らのレビューによれば、ラニビズマブ(1.25〜2.5mg、月1〜2回結膜下注射)を用いた検討で、34%で完全消退、66%で部分消退が得られ、6ヶ月フォローアップで再発は認められなかった1) 。ベバシズマブは結膜病変には有望だが、角膜病変での効果は不明であり、角膜上皮治癒遅延のリスクが指摘されている。いずれも大規模研究が必要とされている。
外部照射(external beam radiation therapy, EBRT) :陽子線・電子線による照射。大腫瘍・眼内浸潤例で眼球摘出回避に有用1)
術後陽子線治療 :扁平上皮癌の再発減少が報告されている1)
小線源療法 :Sr-90、I-125、Ru-106。切除断端陽性例でも腫瘍制御が良好との報告がある1)
Tsatros らのレビューによれば、ベルテポルフィンとレーザーを組み合わせたパイロット研究で、結膜扁平上皮癌で100%の腫瘍消退と再発なしの結果が報告された1) 。高コスト・専門訓練の必要性・入手困難が普及の課題とされている。
HPV 16型陽性の結膜上皮内腫瘍に対してHPVワクチンが顕著な効果を示した症例報告がある。大規模研究による検証が必要とされている。
Tsatsos C, Tsatsos M, Hamada S, et al. Conjunctival squamous cell carcinoma: a comprehensive review of treatment modalities. J Clin Med. 2025;14:1699.
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