瞼裂斑
部位:球結膜にとどまり角膜に侵入しない。
形態:黄白色の隆起。三角形〜楕円形。
治療:通常は経過観察。炎症時に点眼治療。
瞼裂斑(pinguecula)は、瞼裂部の球結膜に角膜輪部を基底にして発生する黄白色〜黄褐色の小隆起である。線維脂肪性の変性組織であり、角膜には侵入しない。名称はラテン語の pinguis(脂肪)に由来する。多くは無構造であるが、内部に分葉状の構造を認めることもある。角膜側を底辺とする三角形をなすことが多く、楕円形や不整形をとることもある。
加齢とともに罹患率が増大し、50歳を超えると多かれ少なかれほとんどの人に認められる。結膜変性のなかで最も一般的であり、最も目立つ加齢性変化の一つといえる。緯度の低い地域に好発することが古くから知られ、紫外線との因果関係が推定されてきた。鼻側に好発するが、耳側や両側に生じることもある。通常は両眼性である。
瞼裂斑は加齢とともに急増する。スペインの一般人口ベースの疫学調査(O Salnés study)では、40歳以上で瞼裂斑の有病率は約47.9%と報告され、鼻側が47.2%、耳側が6.0%に認められている1)。同じ調査で瞼裂斑は翼状片より著しく高頻度であり、年齢と屋外活動時間が独立したリスク因子として同定された1)。南インドの地域住民調査では、屋外従事者や高齢者を中心にさらに高い有病率が報告され、屋外労働時間と年齢がリスク因子として同定されている2)。日本独自の population-based study は乏しいが、加齢性変化として50歳を超えるとほぼ普遍的に認められる。
瞼裂斑は有病率の高さのわりに症状を呈することが少なく、一般診療で偶発的に発見されることが多い。しかし疫学的には、瞼裂斑の存在そのものが結膜弛緩症やドライアイ病態の危険因子として認識されており、TFOS DEWS III でも眼表面の解剖学的不整の代表例として明記されている3)。
ICD-10コード:H11.1。
瞼裂斑は非悪性の加齢性変化であり、悪性化することはない。ゆっくりと増大する可能性はあるが、視力障害の原因にはならない。ただし結膜上皮内腫瘍(CIN)や結膜母斑など他の結膜病変との鑑別が必要な場合がある。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

多くの瞼裂斑は無症状である。見た目が気になる以外に訴えがないことが多く、健診や他疾患の診察で偶発的に発見される。
症状を生じる場合は以下の所見が代表的である。
瞼裂斑の発症には紫外線(UV)曝露が深く関与しており、翼状片の形成と類似した病因が推定されている3,4)。結膜上皮下のコラーゲンやエラスチンなどの蛋白質が、糖化あるいはラセミ化といった翻訳後修飾を受けることで分解抵抗性となり、異常凝集物の塊を形成すると考えられている。
分子レベルでは、UV曝露による DNA 損傷応答として核内の p53 蛋白発現上昇が瞼裂斑および翼状片で報告されている4)。翼状片においては p53 と MDM2(mouse double minute 2)の発現亢進が確認されており、同じ UV 誘発性変性スペクトラム上にある瞼裂斑でも同様の機序が関与すると考えられる。
翼状片と瞼裂斑がいずれも鼻側に多く発生する理由は、角膜を内側に通過する光が鼻側角膜輪部の領域に焦点を結ぶ一方、鼻の影が耳側への光の強度を弱めるためと考えられている。この光学的集束機序は pterygium の病態モデルとして広く引用されている4)。
瞼裂斑
部位:球結膜にとどまり角膜に侵入しない。
形態:黄白色の隆起。三角形〜楕円形。
治療:通常は経過観察。炎症時に点眼治療。
翼状片
部位:結膜から角膜上に三角形に侵入する。
形態:血管豊富な白色膜状組織。Bowman 膜を破壊。
治療:視機能障害時に手術(結膜弁移植術など)。
瞼裂斑は翼状片の前駆病変となりうるとする考えがある。炎症性瞼裂斑で鼻側角膜上皮欠損を伴う場合は、翼状片への進行リスクが高いとされる。一方で、すべての瞼裂斑が翼状片に進行するわけではなく、進行は緩徐である。
瞼裂斑の診断は細隙灯顕微鏡検査で容易に行える。特殊な検査は通常不要である。
生検による組織病理学的確認は通常不要であるが、非典型例では結膜上皮内腫瘍(CIN)との鑑別目的で適応となることがある。
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 翼状片 | 角膜上に三角形に侵入する。Bowman 膜を破壊 |
| 偽翼状片(pseudopterygium) | 外傷・炎症後に結膜が角膜と癒着した瘢痕組織 |
| 結膜上皮内腫瘍(CIN/OSSN) | 充血・色素・乳頭状増殖。非典型例では生検を要する |
| 角膜輪部デルモイド | 先天性、黄白色の隆起、角膜輪部にまたがる |
| 結膜母斑 | 色素性病変、小児期から存在 |
瞼裂斑の本態は結膜上皮下の弾性線維変性である。
無症状の瞼裂斑は治療不要であり、経過観察のみでよい。悪性化の心配がないこと、ゆっくりと増大しうる加齢性変化であることを患者に説明することが重要である。
瞼裂斑に炎症を生じた場合(瞼裂斑炎)は点眼治療を行う。日本の代表的な眼科治療指針では以下の併用処方が示されている。
加えて、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)点眼(インドメタシン点眼液など)が炎症症状の軽減に用いられる。「瞼裂斑炎の治療はステロイド点眼薬が効果的である」ことは日本の細隙灯顕微鏡診療書でも強調されている。
涙液分布異常に起因するドライアイ様症状には、人工涙液またはヒアルロン酸ナトリウム点眼薬(0.1%または0.3%)を処方し、涙液層の安定化を図る。
ステロイド点眼の使用は原則短期間にとどめる。長期使用は眼圧上昇および白内障のリスクがあるため、症状改善後は速やかに減量・中止する。
内科的治療が奏効しない場合、コンタクトレンズ装用の妨げとなる場合、または外見的に目立つ場合に外科的切除を検討する。瞼裂斑の段階では積極的に切除することは少なく、保存的治療を優先する。
瞼裂斑は TFOS DEWS III において眼表面の解剖学的異常の代表例として挙げられており、涙液層破綻時間(TBUT)短縮や涙液分布異常を介してドライアイを誘発・増悪させることが明示されている3)。臨床的には以下の段階的治療が推奨される。
瞼裂斑と結膜弛緩症(conjunctivochalasis)は危険因子を共有しており、瞼裂斑の存在は結膜弛緩症の独立リスクとしても報告されている3)。涙液動態不良が難治化する症例では両者を併せて評価する。
外科的切除は可能であるが、再発のリスクがあり、充血が完全には消失しないこともある。美容上の理由だけでの切除は慎重に検討すべきであり、まずは保存的治療(人工涙液・低濃度ステロイド点眼)を試みることが一般的である。瞼裂斑炎を繰り返す場合や、コンタクトレンズ装用の妨げとなる場合には手術適応となりうる。
瞼裂斑の本態は、結膜上皮下のコラーゲン線維の変性と異常蛋白質の蓄積である。紫外線曝露により結膜上皮下の膠原線維が乱れ、弾性線維変性(elastoid degeneration)が生じる。コラーゲンやエラスチンなどの蛋白質が糖化あるいはラセミ化といった翻訳後修飾を受けると、プロテアーゼによる分解を受けにくくなる。これらの分解抵抗性蛋白質が異常凝集物として蓄積し、黄白色の隆起を形成する。
瞼裂斑および翼状片の上皮において、核内 p53 蛋白の発現上昇が認められる。p53 は腫瘍抑制因子であり、通常は細胞ストレスに応じてアポトーシスや細胞周期停止を誘導する。翼状片研究では、p53 と拮抗因子である MDM2 の両方が強発現しており、p53 は細胞質にトラップされて転写活性を発揮できない状態にあることが報告されている4)。さらに MDM2 拮抗薬 Nutlin による p53 再活性化が、翼状片細胞選択的にアポトーシスを誘導しうることが示されている4)。瞼裂斑は翼状片と同一の UV 誘発変性スペクトラム上にあると考えられており、これらの分子機序は瞼裂斑の病態理解にも援用されうる。
瞼裂斑の隆起は眼瞼と眼球表面のアライメントを変化させ、涙液の分布と機能に影響を及ぼす3)。隆起が高度な場合、涙液メニスカスの不連続が生じ、隣接する角膜周辺部に乾燥性の delle(凹窩)を形成する。TFOS DEWS III では瞼裂斑を「眼表面の解剖学的不整」の代表例の一つとして扱っており、ドライアイ病態への寄与が明記されている3)。外科的切除により眼表面の不整が改善すると、ドライアイの徴候と症状が軽減することも示唆されている3)。