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翼状片(pterygium)は、結膜由来の線維血管性増殖組織が角膜内に侵入する慢性変性疾患である。多くは角膜の鼻側に生じ、角膜中心に向かって三角形をなす1)。名称の「翼状」は、翼を広げたような三角形の形態に由来する。病理組織学的には、結膜下結合組織の増生と膠原線維の類弾性変性(elastoid degeneration)、リンパ球を主体とした慢性炎症細胞浸潤が特徴である。加齢性変化を基盤とし、慢性的な紫外線刺激や乾燥刺激が積み重なって発症・進行する。

翼状片は結膜上皮細胞が角膜上に遊走・増殖するだけでなく、上皮下の線維血管性組織の増生を伴う。単なる結膜の延長ではなく、活動性のある増殖病変であるという点が、加齢性の瞼裂斑とは異なる重要な特徴である。

翼状片は鼻側に生じることが圧倒的に多い。鼻側と耳側の両側発生は2〜3%、耳側単独は1〜2%にとどまる。片眼性であることが多いが、約10%は両眼性である1)。両眼性の場合、両眼の紫外線曝露量に大きな差がないことがほとんどである。

翼状片は解剖学的に以下の4区分に分けられる。

  • cap(先端)角膜上に進展した無血管の白色組織。角膜実質と強固に癒着する
  • head(頭部)角膜上で最も突出した部分
  • neck(頚部)角膜上の隆起した増殖組織
  • body(体部)強膜上の増殖組織

cap部の角膜側には、鉄の沈着が弓状に認められるStocker’s line(ストッカー線)がみられることがあり、慢性経過を示す重要所見である。cap部では角膜実質と強固に癒着しているが、輪部付近では癒着が少なく、プローブを病変の下に通すことが可能である。この所見は偽翼状片との鑑別点となる。

翼状片は世界的に広く認められる眼表面疾患であり、特に赤道付近の紫外線曝露量の多い地域で有病率が高い1)。世界各地の集団研究では以下のような有病率が報告されている1)

  • チベット(中国):14.5%前後
  • オーストラリア Victoria:6.7%
  • 中国 Beijing Eye Study:10.1%(10年発症率)
  • スペイン一般集団:5.9%
  • インド Andhra Pradesh Eye Disease Study:9.5%
  • ミャンマー中部 Meiktila Eye Study:19.6%

男性は女性の約2倍の頻度で発症し、高齢者ほど有病率は高い。治療を求めて来院するのは50〜70歳代が多い。翼状片手術は世界で最も頻繁に行われる眼科手術のひとつである1)2)。日本でも翼状片は結膜疾患の代表的な一つであり、特に農業・漁業・林業など屋外労働に従事する中高年層での受診が多い。紫外線曝露量の地域差が反映され、沖縄県や九州南部など紫外線量の多い地域では相対的に有病率が高いと考えられている。

疫学的には、年齢・性別・職業・居住地の緯度が主要な規定因子であり、中高年の男性屋外労働者では有病率が10%を超える地域もある。若年層では稀だが、沖縄・南九州など紫外線量の多い地域では30歳代の発症例も散見される。若年発症例は再発率が高いことが知られており、手術適応の判断と術後管理が特に重要となる。

米国IRIS Registryを用いたOkeらの大規模研究(102,138件の翼状片手術)では、組織移植(結膜自家移植・輪部結膜自家移植・羊膜移植)が83.0%、bare sclera法が15.3%に施行されていた。角膜専門医は組織移植を使用する割合が高く、エビデンスに基づく術式選択の普及が課題であると指摘された2)

Q 翼状片と瞼裂斑の違いは何ですか?
A

翼状片は結膜の線維血管組織が角膜上に侵入するのに対し、瞼裂斑輪部に接する結膜上の黄白色の小隆起にとどまり角膜には侵入しない。瞼裂斑が進行すると翼状片に移行することがある。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。

高度翼状片の細隙灯写真
Jmvaras José Miguel Varas, MD. Pterygium Slitlamp.jpg. Wikimedia Commons. License: CC BY 3.0.
瞼裂部結膜から角膜中央へ向かって、血管を伴う白色の線維性組織が三角形に伸展している。進行すると瞳孔領域に近づき、不正乱視視力低下の原因となる。

翼状片患者の主訴は大きく3つに分類される。

  • 異物感:翼状片頭部の隆起が強い場合に生じやすい。涙液分布の異常によるドライアイ様症状を伴うこともある
  • 充血:体部の血管が豊富な場合に目立つ。整容上の理由で受診する患者も多い
  • 視機能障害角膜内への侵入が2 mmを超えるあたりから直乱視や不正乱視を生じ、視力低下の原因となる

翼状片頭部の隆起が高度な場合、涙液の分布異常を引き起こし、隣接する角膜周辺部に上皮障害や凹窩(dellen)を形成することがある。進行例では眼球運動制限による複視も生じうる。

初期は「白目の部分が少し盛り上がっているように見える」「鏡を見ると鼻側の白目に赤い血管が目立つ」といった整容的な訴えで気づかれることも多い。充血は一過性に悪化し、強い日差し・花粉・乾燥・タバコ煙などの刺激で強くなる傾向がある。

細隙灯顕微鏡検査により、内眼角を底部として角膜中央へ向かう、豊富な血管を有した三角形状の白色の膜状組織が観察される。典型例では診断は比較的容易であり、数例の診察経験で診断が可能となる。翼状片は一般に鼻側球結膜充血、翼状片体部の隆起、頭部の角膜内侵入、cap先端の灰白色化という一連の所見で描写され、これらを組み合わせて病期と活動性を判定する。

体部の充血が強く、血管が拡張して走行が粗雑な場合は活動性が高く、進行や再発のリスクが高いと評価される。逆に、血管が細く、体部が薄く半透明で、進行がほぼ停止している「萎縮型」の翼状片は、経過観察のみで手術を急がない選択肢も妥当である。

先端部が三角形を呈さないもの、先端部が2つの頭部を形成するものなど、非典型例も存在する。また一見翼状片にみえても、詳細に観察すると扁平上皮癌などの腫瘍のこともまれにあるため、所見に異常があれば鑑別を要する。

病理組織では以下の所見が認められる。

  • 結膜下結合組織の増生
  • 膠原線維の類弾性変性(elastoid degeneration)
  • リンパ球を主体とした慢性炎症細胞浸潤
  • 上皮下のスフェロイド変性

臨床では病変の進展度に基づく分類が手術適応判断に用いられる。

Grade進展範囲
Grade 1角膜輪部付近にとどまる
Grade 2輪部を超えて増殖
Grade 3瞳孔に及ぶ
Grade 4瞳孔を超える

江口の分類は病巣の範囲や活動性の指標として用いられる。国際的にはTan分類が広く用いられ、上強膜血管の透見性により翼状片の肉厚度を評価する11)

  • T1(atrophic):上強膜血管が翼状片を通して明瞭に透見できる薄い翼状片
  • T2(intermediate):中間型
  • T3(fleshy):上強膜血管が透見できない肉厚な翼状片。再発率が高い

肉厚か否か、患者の年齢も手術適応・再発リスクの評価に重要な情報である。若年者、肉厚の症例、母斑や色素沈着を伴う症例では再発率が高い1)。Tan分類に加えて血管密度や線維化の程度も評価し、術前に再発リスクを層別化する試みが行われている11)

臨床では、翼状片が角膜中央からどれだけ離れているかを角膜侵入長(head apexから輪部までの距離)としてmm単位で記録する。侵入長が2 mmを超えると不正乱視が生じ始め、3 mmを超えると視軸にかかり始めると考えられている。角膜トポグラフィーでは翼状片頭部から放射状に伸びる偏平な経線が描出され、術後の角膜形状正常化の指標となる。

翼状片の発症原因として最も有力なのは紫外線(UV-B)曝露である1)。慢性の紫外線刺激により角膜輪部幹細胞が障害され、結膜下組織の増殖が加速し、Bowman膜のバリアを乗り越えて角膜上皮基底細胞層とBowman膜の間に侵入する。先端部付近ではBowman膜を破壊して実質浅層組織と癒着を形成する。

鼻側に好発する理由として「albedo(アルベド)仮説」がある。顔面の鼻側から入射した紫外線が角膜を透過し、角膜のレンズ効果で鼻側輪部に集光するため、鼻側の輪部幹細胞がより多く障害を受けると考えられている。コンピュータシミュレーションでも、側方から入射した紫外線が反対側(内眼角側)の輪部に集束することが示されている。さらに、涙丘・半月襞・鼻側結膜は解剖学的に眼瞼による保護が弱く、紫外線に直接曝露されやすいという要因も関与する。

紫外線以外の悪化因子としては、加齢、男性、屋外従事者、タバコの煙への曝露などが知られている。北極圏や赤道部地域で罹患率が高いことからも紫外線曝露との強い関連が裏付けられる。ヒトパピローマウイルスやヘルペスウイルスの関与も示唆されている。

  • 紫外線曝露:最大のリスク因子。屋外労働者、赤道付近の居住者に多い1)
  • 年齢・性別:高齢者ほど有病率が高く、男性は女性の約2倍
  • 気候・環境:乾燥、風、砂塵への曝露
  • 遺伝的素因:家族歴が報告されている
  • 喫煙・タバコ煙曝露:ニコチン・コチニン曝露で翼状片細胞の増殖・遊走が変動することが報告されている1)
  • ウイルス感染:HPV、HSVの関与が示唆される 再発のリスク因子として、若年、肉厚で非透明な翼状片(Tan T3)、炎症の強いものが挙げられる1)11)。特に40歳未満の若年例では、加齢例に比べて組織の増殖能が高く、術後の再発率が数倍に上昇することが報告されている。手術適応の判断においては「若年だから手術を急ぐ」のではなく、「若年だからこそ再発リスクを説明し慎重に判断する」ことが重要である。
  • 屋外労働者:農作業・漁業・建設業・林業など長時間屋外で過ごす職業は、紫外線曝露量が大きく進行が早い傾向にある。職業上サングラスを常用できない場合でも、つば付き帽子や防風ゴーグル型保護眼鏡での対策を勧める
  • 高齢者:加齢による涙液減少・ドライアイを合併することが多く、翼状片の刺激症状が増悪しやすい
  • 屈折矯正手術の既往:LASIKやPRK後の角膜に翼状片が発生すると、手術計画が複雑になる。事前の角膜形状評価が特に重要である
  • 将来的な緑内障手術の可能性結膜を大きく使う手術は将来の線維柱帯切除術の成功率を下げる可能性がある。上方結膜を温存する術式選択が望ましい
Q 翼状片は両眼に発症しますか?
A

翼状片は片眼性であることが多いが、約10%は両眼性に発症する。鼻側と耳側の両側に生じるケースは2〜3%にみられる。紫外線曝露が両眼に等しく作用するため、片眼に発症した場合は他眼の経過観察も重要である。

翼状片の診断は細隙灯顕微鏡検査により容易に行うことができる。典型的な鼻側の三角形状の線維血管性増殖組織の形態から診断は比較的容易である。ただし、手術を念頭におく場合には、病変の広がりや輪部機能の破綻など詳細に観察する必要がある。細隙灯所見として、翼状片の体部の血管拡張・充血の程度、頭部の肉厚度、cap先端の位置(角膜中心からの距離)、Stocker’s lineの有無、dellen形成の有無などを記録する。

  • 視力屈折検査:等価球面度数の確認。翼状片が視力障害をきたす眼表面疾患であるため必須
  • 角膜形状解析(トポグラフィー):不正乱視の程度を定量的に評価する。手術適応の判断に有用
  • ケラトメトリー角膜曲率の変化を把握する
  • 前眼部光干渉断層計前眼部OCT角膜菲薄化の有無を評価する。偽翼状片との鑑別や手術計画に有用
  • プローブ通過性の確認輪部付近でプローブを病変下に通せるか(翼状片では通せる、偽翼状片では通せない)
  • 偽翼状片(Pseudopterygium):角結膜の化学外傷、眼科手術後、外傷、角膜潰瘍、遷延性角膜上皮びらん角膜感染症、瘢痕性結膜疾患などに続発する。翼状片は鼻側に生じるのに対し、偽翼状片は鼻側だけでなくすべての方向で認めうる。また増殖組織が角膜面全体にわたって癒着しており、プローブを病変下に通すことができない- 瞼裂斑輪部に接する黄白色の小隆起。角膜には侵入しない
  • 結膜上皮内癌(CIN)・扁平上皮癌:翼状片に併存することがあり、非典型所見では鑑別が必要である- 結膜母斑:翼状片に併存しうる
  • 眼類天疱瘡結膜の瘢痕形成や瞼球癒着を伴う。両眼性であることが多い
  • Terrien角膜変性:周辺部角膜の菲薄化を伴う慢性変性で、進行例では角膜上に線維血管性の増殖を伴うため翼状片と似た外観を呈することがある
  • 輪部結膜炎輪部の炎症性結節と充血を伴い、翼状片体部の充血と類似する。病歴とアトピー素因の有無で鑑別する
  • 結膜弛緩症:下方球結膜が余剰になり充血や異物感を生じる病態で、翼状片の有無とは独立して存在しうる。併存例では両者を区別して評価する

翼状片の併存疾患や鑑別疾患の把握は手術計画において重要である。偽翼状片では角膜が高度に菲薄化している場合があり、術中・術後に角膜穿孔をきたす可能性がある。前眼部OCT角膜菲薄化が確認された場合は、保存角膜による表層角膜移植の同時手術も検討する。

細隙灯検査で翼状片の形態が非典型(頭部が二股に分かれる、先端部が不整形、表面が結節状、出血・壊死を伴うなど)な場合は、結膜上皮内癌や扁平上皮癌の可能性を念頭に置き、切除標本の病理組織学的検査を必ず行う。稀ではあるが、翼状片の外観で受診した患者が実際には眼表面扁平上皮腫瘍(ocular surface squamous neoplasia; OSSN)であった例が報告されている。

無症状の翼状片は経過観察で差し支えない。充血や異物感に対しては以下の対症療法を行う。

  • 低濃度ステロイド点眼充血・炎症の軽減
  • NSAIDs点眼:異物感・充血の軽減
  • 人工涙液・ヒアルロン酸点眼:涙液分布異常に起因するドライアイ症状への対応

ただし薬物療法では病変の進行を食い止めることはできず、進行例には手術が必要である。サングラスやつば付き帽子による紫外線対策、人工涙液による涙液安定化、ドライアイを伴う場合のヒアルロン酸点眼やジクアホソルナトリウム3%点眼なども併用される。長期のステロイド点眼は眼圧上昇・後嚢下白内障・感染リスクを伴うため、漫然と使用せず定期的に眼圧水晶体を評価する。

以下の場合に手術を検討する。

  • 視軸に病変がかかった場合
  • 角膜への侵入が進行し不正乱視視力低下を生じた場合
  • 眼球運動制限が生じた場合
  • 整容的な要因

手術のメリットと術後再発のリスクを十分に説明し、患者と相談の上で適応を決める。患者の年齢が低いほど再発しやすいことを念頭に置いて、患者に説明する必要がある。

翼状片の手術は増殖組織の切除と眼表面の再建から成る。現在の標準術式は、結膜自家移植(conjunctival autograft; CAG)または輪部結膜自家移植(limbal-conjunctival autograft; LCAG)である1)11)結膜再建と増殖組織の抑制を組み合わせる方法が再発予防の原則とされており、有茎結膜弁、遊離結膜弁、羊膜被覆のいずれかが選択される。

一般的な手術手順は以下のとおりである。

  1. 点眼麻酔と結膜下浸潤麻酔を行う
  2. 翼状片頭部を結膜・Tenon嚢ごと角膜から剥離する
  3. 角膜面の残存組織を可能な限り除去し、ダイヤモンドバーまたは有鈎鑷子で平滑化する
  4. 体部のTenon嚢を広範囲に除去する(「わた抜き」)5. 必要に応じてマイトマイシンC(0.02〜0.04%)を1〜3分間塗布し、生理食塩水で十分に洗浄する
  5. 上方球結膜から結膜弁またはLCAG弁を採取する
  6. 移植弁を切除部に縫合またはフィブリン糊で固定する
  7. 採取部の結膜欠損はそのまま上皮化を待つか、小片であれば縫合する

結膜自家移植(CAG/LCAG)

有茎結膜弁移植:切除部に隣接する結膜を移動させて被覆する。血流を維持したまま再建が可能で、安全性が高い。

遊離結膜弁移植(CAG):別部位(多くは上耳側球結膜)から結膜弁を採取して移植する。任意の部位に縫着できる利点がある。

輪部結膜自家移植(LCAG)輪部組織を含めた結膜自家移植。輪部機能の回復により再発率がさらに低い1)9)

その他の再建法

羊膜移植:広範囲の結膜欠損を被覆可能。消炎作用・新生血管抑制作用・線維芽細胞増殖抑制作用を有する。再発翼状片や広範切除例に有用10)

結膜回転弁:切除部に隣接する結膜を回転させて被覆する11)

フィブリン糊:縫合に代わる移植片固定法として使用される。手術時間短縮と術後炎症軽減が報告されている。

翼状片手術の各術式における再発率を以下に示す1)9)10)

術式再発率
強膜露出法(bare sclera)30〜89%
結膜自家移植(CAG)1.9〜8%
輪部結膜自家移植(LCAG)0〜17%
羊膜移植3.7〜40.9%

強膜露出法は再発率が極めて高く、現在は推奨されない1)結膜自家移植が現在のゴールドスタンダードであり、中でもLCAGが最も低い再発率を示す1)9)。Zhengらのメタアナリシスでは、LCAGはbare sclera、球結膜自家移植、術中MMC療法と比較して有意に再発率が低いと報告された(羊膜移植との差は有意ではなかった)9)

羊膜移植の再発率はLiらのメタアナリシスで3.7〜40.9%と結膜自家移植(2.6〜17.7%)より高い。しかし広範な結膜瘢痕を有する患者や、将来的に緑内障手術が必要な患者では有用な選択肢となる10)

米国IRIS Registryの102,138件を解析したOkeらの報告では、組織移植群の5年再手術率は7.7%、bare sclera群は11.0%であった。bare sclera法は依然として米国の翼状片手術の約15%を占めていた2)

遊離結膜弁の移植時には移植片の裏表の判別が問題となることがある。移植片の正しい方向を維持するダブルフリップ法も報告されている3)

Öztürkらは結膜自家移植において、移植片の3辺を切断後に未切断辺で反転させ2針固定し、その後4辺目を切断して再反転させるダブルフリップ法を報告した。この手技により移植片の上皮面と輪部−円蓋部の方向を確実に維持できる3)

再発率をさらに低減するため、以下の補助療法が併用される1)11)

  • マイトマイシンC(MMC):0.02〜0.04%溶液をスポンジに浸して強膜上に1〜5分間塗布後、十分に洗浄する。結膜下の線維芽細胞増殖を抑制する。日本では保険適用外であり、使用にあたっては十分な説明と同意が必要である。LamらのRCTでは、0.02〜0.04%MMCを5分塗布した群で再発率8.3〜8.6%、3分塗布では22.9〜42.9%と、塗布時間の影響が報告された8)。Youngらの10年長期RCTでは、MMC群の再発率25.5%に対しLCAG群は6.9%と、LCAGが長期的にも優位であった7)
  • 5-フルオロウラシル(5-FU):MMCやβ線照射より合併症が少ないとされる。Silvaらの比較研究では5-FU群の再発率5.83%に対し、非使用群は25.5%であった15)
  • β線照射:再発率0〜11.8%と効果的であるが、強膜菲薄化、強膜融解、穿孔、感染性眼内炎白内障進行などの重篤な合併症が報告されており、現在は推奨度が低い13)
  • 抗VEGF療法ベバシズマブ結膜下注射や術後点眼が試みられている。Sunらの2018年メタアナリシスでは、12ヶ月追跡で再発率の低下が報告されたが、至適投与法は未確立である14)
  • シクロスポリン点眼:Fonsecaらの2017年ネットワークメタアナリシス(14介入、24RCT)では、結膜自家移植+シクロスポリン0.05%点眼が最も再発予防に有効であった6)

術後の消炎および結膜下増殖組織の抑制のために以下の点眼処方例が用いられる。

  • レボフロキサシン点眼液(クラビット®)1.5%:1日4回、術後1週〜1ヶ月
  • ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液(リンデロン®)0.1%:1日4回、術後半年間程度継続
  • トラニラスト点眼液(リザベン®)0.5%:1日4回、術後半年間継続し結膜下増殖組織を抑制

施設によっては、ベタメタゾンの代わりにフルオロメトロン0.1%点眼を用いて眼圧上昇リスクを抑える場合もある。ヒアルロン酸点眼による上皮保護も併用する。抜糸は約2週間で施行する。放置すると炎症が遷延し再発を誘発する。

適切な初回手術を行うことにより再発率は1.5〜5%に抑えられる。再発した場合はすぐに再手術せず、ステロイド点眼とトラニラスト点眼を半年程度継続し、再増殖の進行を経過観察してから再手術の要否を判断する。再発した増殖組織は半年から1年の経過観察中に自然に活動性が低下することもあり、その時点で再手術の難易度が下がるためである。

術後の遷延性上皮欠損に対しては、治療用ソフトコンタクトレンズ(国内承認品はAlcon社エアオプティクス®)を装用することがある。30日間連続装用可能なシリコンハイドロゲル素材で、上皮接着促進効果と眼痛緩和効果が期待できる。装用中は汚れや乾燥が強い場合は生理食塩水で洗浄するか新しいレンズに交換し、活動性の感染症がある場合は原則使用しない。

術後の経過観察は、翌日、1週、2週(抜糸)、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月を標準とする。6ヶ月までの再発の大多数がこの期間に起こるため、この時期の通院遵守が極めて重要である。再発の初期徴候としては、移植弁の辺縁や切除部から細かい血管が角膜側へ進入してくる所見が挙げられ、早期に発見できた場合はステロイド点眼の強化で進行を抑えられることがある。

翼状片が再発した場合、角膜から内直筋に至るまで活動性の高い増殖組織が強固に癒着するため、初回手術よりも難易度が高い。内直筋周囲を含めて広範囲の病巣切除が必要となることが多く、羊膜移植、マイトマイシンC塗布、自己輪部移植の併用が必要となる場合が多い。再発翼状片の手術では、内直筋の剥離・再固定手技、結膜欠損の大きさに応じた羊膜貼付、必要に応じた表層角膜移植の併用など、複数の術式を組み合わせた複合手術となることも多い。

再発翼状片での再手術時期の判断については、炎症と増殖の活動性が高い段階で安易に再手術すると更なる再発を招くため、ステロイド点眼による消炎を先行させ、活動性が落ち着いた段階で再手術するのが合理的である。患者への説明として「再発したらすぐ手術」ではなく「再発したら半年程度観察してから再手術を検討する」という方針が共有されていることが重要である。

Q 翼状片手術後の再発を防ぐにはどうすればよいですか?
A

結膜自家移植(CAGまたはLCAG)を行うことが最も重要である。ネットワークメタアナリシスではCAGとシクロスポリン0.05%点眼の併用が最も再発予防に有効とされている。術後のステロイド・トラニラスト点眼を半年間継続することでも再発率を低減できる。適切な初回手術により再発率は1.5〜5%程度に抑えられる。紫外線対策も長期的な再発予防に有効である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

翼状片の発症には、紫外線による角膜輪部幹細胞の障害が中心的な役割を果たす1)。正常な輪部組織は結膜下組織の角膜への侵入を防ぐバリアとして機能しているが、慢性のUV-B曝露によりこの機能が破綻すると翼状片が発生する。翼状片は単なる加齢性の結膜変性ではなく、「限局性の上皮幹細胞障害+線維血管性増殖+慢性炎症」が組み合わさった複合的な病態として理解されるようになっている。

  • p53変異とMDM2:紫外線によるDNA損傷でp53遺伝子に変異が生じる。翼状片組織ではp53とMDM2(mouse double minute 2)の発現がいずれも上昇するが、p53は主に細胞質に局在し核内にほとんど存在しない12)。このためアポトーシスが誘導されず、p53の転写標的であるp21も検出されない。p53-MDM2経路の機能不全が翼状片細胞の生存・増殖を支えていると考えられる1)12)
  • マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性化:MMP-1、MMP-2、MMP-9などが活性化し、Bowman膜や細胞外基質を分解して組織侵入を促進する
  • 血管新生因子:VEGF、bFGFなどが過剰発現し、翼状片の豊富な新生血管形成を促進する1)
  • HIF-1α:低酸素誘導因子が発現上昇し、低酸素応答を介して血管新生を促進する
  • 酸化ストレス:8-OHdG(酸化的DNA損傷マーカー)の蓄積が報告されており、酸化ストレスの関与が示唆される1)
  • 上皮下異常蛋白沈着:糖化やラセミ化を受けて変性した異常凝集蛋白質が上皮下に沈着しており、上皮下結合組織の異常が病態本態であるとする考えもある- 上皮間葉転換(EMT):翼状片上皮細胞では、結膜上皮本来の上皮マーカーが減弱し、間葉系マーカーが増強する所見が報告されている。上皮間葉転換により遊走能・増殖能を獲得した細胞が角膜上を這い進むと考えられている
  • テロメラーゼ活性・アポトーシス抑制:翼状片上皮細胞ではテロメラーゼ活性の変化が報告され、細胞の持続的増殖が可能になっている- ウイルス関与:HPVやHSVなどのウイルスが翼状片組織から検出された報告があり、ウイルス感染が上皮変性・免疫応答を誘導して病態形成に関与している可能性が指摘されている

結膜下の結合組織の増生と膠原線維の類弾性変性(elastoid degeneration)が特徴的である。リンパ球を主体とした慢性炎症細胞浸潤がみられる。翼状片組織は角膜輪部のBowman膜のバリアを乗り越え、角膜上皮基底細胞層とBowman膜の間に侵入し、先端部付近でBowman膜を破壊して実質浅層組織と癒着を形成する。進行に伴って、上皮下には糖化やラセミ化を受けた異常凝集蛋白質が沈着し、膠原線維の変性と血管新生が上皮下結合組織の改変を促進する。このような複雑な組織改変は、単純切除のみでは残存する活動性細胞が再び増殖してしまう理由を説明していると考えられる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

大規模レジストリに基づくエビデンス

Section titled “大規模レジストリに基づくエビデンス”

Okeらは米国IRIS Registryの102,138件の翼状片手術を解析し、bare sclera法が依然として15.3%で施行されていることを報告した。組織移植群と比較してbare sclera群の5年再手術率は有意に高く(11.0% vs 7.7%)、エビデンスに基づく術式選択の普及が課題であると指摘した2)

ネットワークメタアナリシスによる術式比較

Section titled “ネットワークメタアナリシスによる術式比較”

Fonsecaらは14の介入を含む24件のRCTを対象としたネットワークメタアナリシスを行い、結膜自家移植+シクロスポリン0.05%点眼が最も再発予防に有効であり、単純切除(bare sclera)が最も再発率が高いと報告した。ただし観察期間が3ヶ月以上の研究のみとされ、長期追跡の不足が限界として指摘された6)

分子標的治療候補: MDM2阻害薬Nutlin

Section titled “分子標的治療候補: MDM2阻害薬Nutlin”

基礎研究では、MDM2-p53相互作用を阻害するNutlinが翼状片細胞に対して選択的毒性を示すことが報告されている。

Caoらの in vitro 研究では、Nutlin処理によりp53の核内移行が促進され、p21発現上昇とアポトーシス誘導が認められた。Nutlinを用いて翼状片細胞の50%を死滅させる濃度において、結膜細胞の生存率は95%であった。一方、同等の殺細胞効果を示すMMC濃度では結膜細胞の生存率は63%にとどまった12)

この結果はNutlinがMMCに比べ翼状片細胞選択性が高い可能性を示唆しており、新規補助療法としての開発が期待される。

コラーゲンマトリックスインプラント

Section titled “コラーゲンマトリックスインプラント”

コラーゲンマトリックスインプラント(90〜180日で生分解)は、MMCやLCAGと比較して結膜炎症・疼痛が少ないと報告されている1)。MMCによる強膜菲薄化症例への結膜自家移植との併用例も報告されている。

翼状片手術後の合併症に関する報告

Section titled “翼状片手術後の合併症に関する報告”

翼状片手術後に単純ヘルペス角膜炎HSK)が発症しうることが報告されている。

Cuiらは翼状片手術後約30日で発症したHSKの5症例を報告した。全例が男性で、5例中4例が実質型HSKであった。涙液中のHSV-sIgA、PCR、メタゲノム次世代シーケンシング(mNGS)が診断に有用であった4)

翼状片切除後の強膜炎は稀だが重篤な合併症であり、感染性と自己免疫性の鑑別が困難な場合がある。

Mabroukiらは翼状片切除7日後に重度の強膜炎を発症した70歳男性の症例を報告した。培養は陰性であったが、抗菌薬への反応が乏しく、抗真菌薬(ボリコナゾール)投与により劇的に改善した。感染が自己免疫反応を惹起した可能性が考察された5)

切除後の眼表面再建では、自己結膜に代わる材料として培養結膜上皮シート、培養輪部上皮シート、脱細胞化組織などの応用研究が進んでいる。日本国内では培養表皮・培養角膜上皮の臨床応用の経験が蓄積されており、将来的に広範切除後の複雑な翼状片再建にも応用される可能性がある。また、再生医療の観点からは、輪部幹細胞の機能的な再建が翼状片の根本治療につながる可能性も指摘されている。

  • 抗VEGF療法の最適化ベバシズマブの至適投与法・投与時期の確立が待たれる14)
  • 分子標的治療:MDM2-p53経路の解明が進んでおり、Nutlinなど選択的な薬剤開発が期待される12)
  • シクロスポリン点眼の併用結膜自家移植との併用で再発率低減の可能性が報告されており、今後の臨床普及が期待される6)
  • 手術器具・固定法の進歩:フィブリン糊固定法やダブルフリップ法など、手術時間短縮と再現性向上が図られている3)
  • 術前リスク層別化:Tan分類や血管密度を用いた再発リスクの定量化により、肉厚例に対して補助療法を積極的に併用する個別化治療が広がりつつある11)
  • 遺伝子発現解析:翼状片組織のトランスクリプトーム解析により、VEGF経路、炎症経路、上皮間葉転換(EMT)経路などの関与が示唆されており、分子診断・治療標的の同定が進んでいる1)12)
Q 翼状片は放置するとどうなりますか?
A

翼状片は徐々に角膜中央へ向かって進行する。角膜への侵入が2 mmを超えると不正乱視が生じ始め、視軸にかかると顕著な視力低下を引き起こす。進行例では眼球運動制限や複視をきたすこともある。ただし進行速度は個人差が大きく、長期間変化しない例もある。症状が軽度のうちでも紫外線対策などの予防は重要である。


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