角膜トポグラフィー
角膜形状解析検査(角膜トポグラフィー)
1. 角膜形状解析検査とは
Section titled “1. 角膜形状解析検査とは”角膜形状解析検査(角膜トポグラフィー)は、角膜前面・後面の曲率・形状を定量的に測定する検査である。角膜不正乱視の検出・定量化、疾患の進行判定、屈折矯正手術への応用を主な目的とする。
歴史的には17世紀初頭にScheinerが角膜反射を利用した研究を行い、19世紀後半にPlacidoディスクが導入された。現代の装置は同心円リングやスリット光・干渉光を用い、角膜全体を高精度にマッピングできる。
角膜トポグラフィー(topography) は主にPlacidoリング反射を用いて角膜前面の形状(曲率)を測定する技術である。一方、角膜トモグラフィー(tomography) はScheimpflugカメラや前眼部OCTで角膜の前面・後面・厚さを含む三次元構造を測定する発展技術である1)。臨床ではトポグラフィーとトモグラフィーを組み合わせて包括的な角膜評価を行う。
角膜トモグラフィー
測定対象:角膜前後面の三次元構造
原理:Scheimpflugカメラまたは前眼部OCT
提供データ:前後面曲率・エレベーション・角膜厚マップ
利点:角膜後面の評価が可能。混濁や浮腫があっても測定できる場合がある1)
2. 装置の種類と特徴
Section titled “2. 装置の種類と特徴”角膜形状解析装置は測定原理により大きく4種類に分類される1)。
プラチド型装置
Section titled “プラチド型装置”
マイヤーリング(白黒の同心円)を角膜前面(角膜前涙液層)に投影し、その反射像の形状から角膜曲率半径・屈折力を定量的に測定する。代表装置:TMS(TOMEY社)、Atlas、Keratograph。
利点:高い空間分解能と再現性。角膜前面の測定に最適。
限界:涙液層の不安定性に影響される。角膜後面は測定不可。角膜表面の約60%のみの評価であり、周辺部病変の検出に制限がある6)。高度な角膜形状異常ではマイヤーリングの描出が困難となる。
Placidoリングのマイヤー像は検査装置なしでも定性的に角膜不整を評価でき、特に小児患者や非協力的な患者で有用である4)。
Scheimpflug型装置(スリットスキャン型)
Section titled “Scheimpflug型装置(スリットスキャン型)”Scheimpflugカメラで回転スリット光を撮影し、角膜前後面の三次元構造を再構築する。角膜前面形状・後面形状・角膜厚の測定ならびに角膜全体の屈折力・高次収差の測定が可能である1)。代表装置:Pentacam(OCULUS社)、Galilei(デュアルScheimpflug+Placido)、Sirius(Scheimpflug+Placido)。
利点:前後面曲率・エレベーション・角膜厚マップを同時に取得可能。
限界:測定中のまぶしさ、角膜混濁例では散乱により断面の描出が困難となる。
前眼部OCT
Section titled “前眼部OCT”干渉光を用いた解析により、涙液・混濁の影響を受けにくく、周辺部の情報も得られる。SS-OCT(波長1,310nm)はCASIA2(TOMEY社)が代表で、測定範囲が広く角膜全体を一画面に描出可能。SD-OCT(波長840nm)は高解像度を実現する。
利点:非接触・高速・角膜混濁例でも評価可能。涙液層の影響が少ない。
限界:涙液層破綻(ドライアイ)の評価には向かない。
波面収差解析装置
Section titled “波面収差解析装置”プラチド型装置(角膜形状・収差測定)とHartmann-Shack法(波面センサーによる屈折系収差測定)を組み合わせ、角膜屈折データと眼球屈折データの比較が可能である。
装置別の特徴を以下に示す。
| 装置 | 測定原理 | 前面 | 後面 | 角膜厚 |
|---|---|---|---|---|
| プラチド型 | リング反射 | ○ | × | × |
| Scheimpflug型 | 回転スリット | ○ | ○ | ○ |
| 前眼部OCT | 光干渉 | ○ | ○ | ○ |
3. 検査手技と結果の解釈
Section titled “3. 検査手技と結果の解釈”被検者の頭部を顎受けと額当てに固定し、固視灯を正面視させる。ピントとセンタリングの調整が測定精度に直結する。眼瞼の影響を最小限にとどめるため十分な開瞼を促す。最低2回撮影して再現性を確認する。
コンタクトレンズ中止期間:コンタクトレンズは角膜形状を一時的に変化させる。正確なデータ取得のため、ハード(RGP)レンズは2週間以上、ソフトレンズは1週間以上の装用中止が必要である。屈折矯正手術適応判断では、コンタクトレンズ中止後に複数回測定し再現性を確認することが推奨される6)。
検査結果の確認では、まずピントとセンタリングが一定範囲内かを確認し、自動デジタイゼーションで異なるリングを誤認識していないかをチェックする。次いでカラーコードマップによるパワー・スケール評価を行う。
角膜形状指数
Section titled “角膜形状指数”角膜形状の定量評価に以下の指数が用いられる。
| 指数 | 意味 |
|---|---|
| SimK(Simulated keratometry) | 角膜経線6〜8番目リングの平均値中の最高値 |
| SimK1/Ks | 強主経線 |
| SimK2/Kf | SimK1と直交する経線 |
| AveK(Average keratometry) | SimK1とSimK2の平均 |
| MinK(Minimum keratometry) | 弱主経線 |
| SAI(Surface Asymmetry Index) | 角膜形状の対称性を示す指数 |
| SRI(Surface Regularity Index) | 角膜の局所的な均一性を示す指数 |
| PVA(Potential Visual Acuity) | SRIから予測される矯正視力 |
マップの種類と読み方
Section titled “マップの種類と読み方”パワーマップ(Axial / Tangential / Refractive):角膜屈折力をカラーコードで表示する。Axial powerは傾きに基づきノイズに強く全体的乱視評価に適する。Tangential(instantaneous)powerは局所曲率を反映し円錐角膜頂点の同定に優れる。Refractive powerはSnellの法則に基づく光学特性を反映する。
エレベーションマップ:角膜面と基準球面との差異を高さとして表示する。前面・後面それぞれの孤立した隆起は角膜拡張症の重要な指標となる6)。後面エレベーションマップは潜在性円錐角膜の検出に高い感度と特異度を示す6)。
パキメトリマップ:角膜厚分布を表示する。正常角膜では中央が最も薄く周辺に向かって漸増する。菲薄部位の偏心は角膜拡張症を示唆する。
- 患者情報(左右眼)を確認する
- クアッドマップ(4画面表示)で全体像を把握する
- カラースケールの範囲と勾配を確認する(0.5D固定間隔の絶対スケール推奨)
- 緑色が正常値域に相当する。赤色の過剰はほぼ常に異常を示す
- 数値オーバーレイ(SimK・最小角膜厚・Kmax等)を確認する
- 細隙灯所見と照合する。角膜瘢痕・ドライアイ・新生血管によるアーチファクトに注意する
ハード(RGP)レンズは2週間以上、ソフトレンズは1週間以上の装用中止が必要である。コンタクトレンズは角膜形状を一時的に変化させるため、特に屈折矯正手術の適応判断では中止後に複数回測定して再現性を確認することが推奨される6)。
4. 円錐角膜のスクリーニングと診断
Section titled “4. 円錐角膜のスクリーニングと診断”
角膜トポグラフィーは円錐角膜疑い例の早期スクリーニングにおけるゴールドスタンダードである6)。初期の円錐角膜は細隙灯顕微鏡検査では正常に見えることが多く、トポグラフィーが唯一の手がかりとなる場合がある。
装置別の特徴的所見
Section titled “装置別の特徴的所見”プラチド型の所見:中央部のリング不正形、周辺部のリング投影不能、非対称成分が大きい。下方急峻化(I-S ratio ≥ 1.2)と放射軸の21°以上の歪斜が典型的パターンである6)。スクリーニング指標としてKlyce/Maeda法、Smolek/Klyce法が用いられる。
Scheimpflug型の所見:角膜後面の突出部の下方偏心、角膜厚の菲薄化が早期に検出できる。後面エレベーションマップは前面変化より先行して現れることがある。
前眼部OCT:角膜実質の菲薄化と中央〜下方の円錐状突出を約10μmの解像度で評価できる。
Belin-Ambrosio Enhanced Ectasia Display
Section titled “Belin-Ambrosio Enhanced Ectasia Display”Belin-Ambrosio enhanced ectasia displayはPentacam上で角膜厚の空間プロファイル(CTSP)やpercentage thickness increase(PTI)と前後面エレベーションの偏差を統合表示し、角膜拡張症スクリーニング精度を向上させた機能である5)。Corvis STとの併用によるtomographic and biomechanical index(TBI)は角膜生体力学を考慮した総合的スクリーニングを可能にする5)。
非典型例の注意
Section titled “非典型例の注意”側方急峻化(temporal keratoconus)では標準的なI-S比が正常範囲内に収まる場合がある。14歳の症例でPentacamにより耳側の急峻化と菲薄化が検出され、T-N(temporal-nasal)比が診断に有用であった3)。このことはI-S比だけでなく多角的な評価の重要性を示唆する。
ペルーシド角膜辺縁変性(PMD)ではlobster claw(ザリガニの爪)パターンと呼ばれる特徴的な下方急峻化が検出される。10代の症例ではBelin-Ambrosio enhanced ectasia displayとCorvis STによる角膜生体力学評価が診断に有用であった5)。
ABCD分類による進行評価
Section titled “ABCD分類による進行評価”ABCD分類システムは角膜拡張症の進行評価に用いられる。以下の4要素で構成される6):
- A(前面曲率):最大曲率半径3mmゾーンの前面曲率
- B(後面曲率):最大曲率半径3mmゾーンの後面曲率
- C(最薄角膜厚):最薄部角膜厚(μm)
- D(最良矯正視力):Snellen視力
進行の定義は前面の急峻化・後面の急峻化・菲薄化のうち2つ以上が確認されることである6)。小児・若年者では77%の眼でトモグラフィー上の進行が確認されており7)、定期的な経過観察が重要である。
5. 検査所見への対応
Section titled “5. 検査所見への対応”円錐角膜進行例への対応
Section titled “円錐角膜進行例への対応”ABCD分類で進行が確認された場合、角膜クロスリンキング(CXL)の適応となる。CXL後は6ヶ月〜1年毎のフォローアップで進行停止を確認する。CXL後の角膜形状評価にもトポグラフィー・トモグラフィーが用いられる。
屈折矯正手術前評価
Section titled “屈折矯正手術前評価”潜在的な角膜拡張症の除外が屈折矯正手術の適応判断に不可欠である6)。トポグラフィースクリーニングで異常を認める場合は手術を中止し、ハードコンタクトレンズまたは角膜移植を検討する。
PRKおよびSMILEはLASIKと比較して術後角膜拡張症のリスクが低いとされる6)。術後は角膜で生じたジオプトリ変化の評価や偏心切削の検出にトポグラフィーを使用する。
トポグラフィーガイド下LASIK(CONTOURA等)ではTopolyzer Varioで取得した角膜前面データがレーザー照射パターンを直接決定する2)。自覚屈折検査の乱視値とトポグラフィーの乱視値の不一致に対処する3Zノモグラムが提案されている2)。
白内障・その他の手術
Section titled “白内障・その他の手術”白内障手術前の角膜不正乱視評価にトポグラフィーが用いられる。トーリックIOLの軸設定精度の向上に貢献する。角膜移植術後の乱視評価、コンタクトレンズフィッティング、翼状片による角膜形状変化の評価にも使用される。
また、アデノウイルス結膜炎後の上皮下浸潤(SEI)による不正乱視評価においてPlacidoリングのマイヤー像がSS-OCTカラーマップよりも鋭敏に表面不整を検出できることが報告された4)。タクロリムス点眼治療のモニタリングにもPlacidoリングの経時的撮影が有用であった4)。
6. 測定原理の詳細
Section titled “6. 測定原理の詳細”角膜パワーの3つの定義
Section titled “角膜パワーの3つの定義”角膜トポグラフィーで使用される角膜パワーには3種類の定義がある。
Axial power(sagittal power):Pa = (n-1)/d。測定点における法線の基準軸までの距離dから算出する。傾きに基づきノイズに強く、ケラトメータと同等の測定を広範な領域に拡張したものである。
Instantaneous power(tangential power):Pi = (n-1)/r。測定点の局所曲率半径rから算出する。局所の形状変化をより正確に反映するが、ノイズに弱い。
Refractive power(focal power):Pr = n/f。焦点距離fに基づく。Snellの法則に基づき光学的特性を最も正確に反映する。
Keratometric Indexの問題
Section titled “Keratometric Indexの問題”オートケラトメータやプラチド式装置では角膜前面のみを測定し後面を考慮しない。角膜前面と後面の形状が比例関係にあると仮定して、keratometric index(通常1.3375)を使用して全角膜屈折力を計算する。この仮定は正常角膜では概ね成立するが、屈折矯正手術後や角膜拡張症では前後面の比例関係が崩れるため誤差が生じる1)。
Scheimpflug原理
Section titled “Scheimpflug原理”Scheimpflug原理では物体面・レンズ面・像面から引いた接線が一点(Scheimpflug交点)で交わるようにレンズ面と像面を操作することで、非平面対象でも焦点の合った画像を取得する1)。この原理によりスリット光の角膜断面像を歪みなく撮影可能となる。
波面収差解析との統合
Section titled “波面収差解析との統合”角膜形状解析と波面収差解析を組み合わせることで球面・円柱面(二次収差)に加えて高次収差(コマ収差・球面収差等)を定量的に評価できる。収差はZernike多項式で展開され、RMS(root mean square)値として定量される。円錐角膜では垂直コマ収差の著しい増加が特徴的である6)。一部の装置ではトポグラフィーと収差解析を同時に行うことが可能である1)。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”複合装置の発展
Section titled “複合装置の発展”近年、トポグラフィー・トモグラフィーと生体計測(眼軸長・前房深度等)を統合した複合装置が登場している1)。眼内レンズ度数計算における角膜全屈折力(Total Corneal Refractive Power)の概念が提唱され、特に屈折矯正手術後の白内障手術における度数計算精度の向上が期待されている1)。
AI角膜形状解析
Section titled “AI角膜形状解析”AI(機械学習・深層学習)を用いた角膜形状解析の研究が進んでいる。トポグラフィーデータからの円錐角膜自動検出・進行予測への応用が検討されているが、現時点では研究段階である。
角膜拡張症の早期検出技術
Section titled “角膜拡張症の早期検出技術”非典型例として耳側円錐角膜(temporal keratoconus)の報告3)は、標準的なI-S比だけでなくT-N比を含む多角的評価の重要性を示す。Placidoリングの再評価として、高度な装置が利用できない環境でも定性的評価が角膜表面異常の簡便なスクリーニング手段となりうることが報告されている4)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”
- Kanclerz P, Khoramnia R, Wang X. Current developments in corneal topography and tomography. Diagnostics. 2021;11:1466.
- Khamar P, Shetty R, Annavajjhala S, et al. Impact of crossplay between ocular aberrations and depth of focus in topo-guided laser-assisted in situ keratomileusis outcomes. Indian J Ophthalmol. 2023;71:467-475.
- Zhang LJ, Traish AS, Dohlman TH. Temporal keratoconus in a pediatric patient. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023;32:101900.
- Toyokawa N, Araki-Sasaki K, Kimura H, et al. Evaluating anterior corneal surface using Placido ring mires for irregular astigmatism in refractory corneal subepithelial infiltrates after adenoviral conjunctivitis. BMC Ophthalmol. 2024;24:515.
- Nelapatla GI, Chaurasia S. Pellucid marginal corneal degeneration in a teenager. BMJ Case Rep. 2022;15:e248599.
- American Academy of Ophthalmology Corneal/External Disease Preferred Practice Pattern Panel. Corneal Ectasia Preferred Practice Pattern. San Francisco, CA: American Academy of Ophthalmology; 2024.
- Meyer JJ, Gokul A, Vellara HR, et al. Progression of keratoconus in children and adolescents. Br J Ophthalmol. 2023;107:176-180.