初期所見
円錐角膜
1. 円錐角膜とは
Section titled “1. 円錐角膜とは”円錐角膜(keratoconus)は最も代表的な角膜拡張性疾患である。角膜中央または傍中心部が進行性に菲薄化・急峻化し、角膜が円錐状に前方へ突出する。角膜実質の脆弱化により角膜形状が歪むと、高度の不正乱視が生じ視機能が障害される1)。
発症は通常思春期であり、20〜30代にかけて進行し、30歳前後で進行が停止もしくは緩徐化することが多い1)。10歳未満での発症はまれで、診断時年齢は15〜30歳が一般的である。性別では男性にやや多い傾向がある。
有病率は地域・民族により大きく異なる。オランダで1:375(約265/10万人)、オーストラリアの20歳人口で1:84、特定の民族集団では1:45にも達する2)。近年の角膜トモグラフィ普及により早期例の検出が進み、診断数と有病率は増加傾向にある1)。家族歴はCLEK研究の1209名で14%に認められ、第一度近親者における有病率は20.5%との報告がある1)。
円錐角膜は大部分が両眼性であるが、重症度の左右差を伴うことが多く、片眼のみに臨床所見が出現するように見える症例もある。しかし精密な角膜トモグラフィでは対側眼にも軽度の異常が検出されることが多い。一卵性双生児での不一致例も報告されており、遺伝的素因のみならず環境因子が発症に決定的な役割を果たすことを示している6)。多くは孤発例であるが、家族性発症もみられる1)。
アトピー疾患(気管支喘息・花粉症・湿疹)、アレルギー性結膜炎、眼こすり習慣を伴う症例が多く、慢性炎症と反復機械的ストレスが関与すると考えられている。またDown症候群、Ehlers-Danlos症候群、骨形成不全症、Marfan症候群などの結合組織疾患、Leber先天黒内障や網膜色素変性症との合併も報告されている1)。
円錐角膜の有病率は角膜トモグラフィの普及とともに上方修正されつつあり、かつては1万人に5人程度とされていたが、現在はより高頻度に見つかる疾患と認識されている1)。これは実際に発症率が増加したというよりも、不全型や初期例の検出感度が向上した結果と解釈される。角膜屈折矯正手術のスクリーニング需要が拡大した2000年代以降、Scheimpflug装置や前眼部OCTによる三次元角膜解析が日常診療に組み込まれ、それまでは自覚症状が現れた中等度以降の症例のみが診断されていた状況から、無症候あるいは軽度症状の早期症例まで検出されるようになった。
なお、角膜前面の突出を主体とする通常の円錐角膜に対し、後部円錐角膜(posterior keratoconus)は角膜後面曲率の増大を特徴とする稀な非進行性の角膜拡張症である。主に先天性・片眼性・孤発性で、通常は視力低下をきたさず無症候性に経過することが多い。臨床的には通常の円錐角膜との鑑別が重要であり、経過観察と必要時の屈折矯正が中心となる。
円錐角膜は大部分が両眼性であるが、左右差があることが多い。片眼のみに発症しているように見える場合でも、精密な角膜トポグラフィやトモグラフィで検査すると、もう一方の眼にも軽度の異常が検出されることが多い。一卵性双生児でも片方のみに発症する不一致例が報告されており、遺伝的素因に加えて眼こすりなどの環境因子が発症に重要な役割を果たしている。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”初期は眼鏡の処方が短期間で頻繁に変わり、十分な矯正視力が得られないことが特徴的である1)。進行に伴い近視と不正乱視が増強し、ソフトコンタクトレンズからトーリックレンズ、ハードコンタクトレンズへと矯正手段を移行せざるを得なくなる。角膜高次収差、特に垂直コマ収差の著明な増加により、点光源や視標が彗星のように下方へ尾を引いて見える独特の見え方を訴える患者もいる。
視力障害は多くの場合、形態学的変化より遅れて出現する晩期所見である1)。急性角膜水腫が生じた場合は突然の視力低下、羞明、疼痛、充血を伴う。
細隙灯顕微鏡では角膜中央実質の菲薄化と前方突出が確認される。観察系を患者の耳側へ90度近くまで振って観察すると、角膜の円錐状突出を側面から捉えやすい実践的な手技がある。初期には一見正常にみえる対側眼でも、角膜トポグラフィで典型的な局所急峻化パターンが検出されることがある。
後期所見
Munson徴候:下方注視時に下眼瞼が円錐状に前方へ突出する非特異的所見1)。
Rizzuti徴候:耳側から細隙光を入れると円錐頂点を介して鼻側輪部に集光像を生じる。
角膜混濁:Bowman層断裂に伴う尖端部の網目状瘢痕、中〜深層実質の瘢痕。
急性角膜水腫:Descemet膜の破綻により房水が角膜実質内に流入し、重度の角膜浮腫と混濁を生じる。
角膜神経の顕著化:角膜実質の菲薄化に伴い、角膜神経が通常より目立って観察される1)。
小児・青年例では成人と比べ進行が速く、診断時に進行期にある割合が高い。Meyerらは小児・青年148眼を平均2.9年追跡し、77.0%にトモグラフィ上の進行を認めた3)。16歳未満のサブグループでも77.6%が進行を示した3)。また、小児ではしばしば円錐が角膜中心部寄りに形成される傾向がある。両眼性の進行パターンも特徴的であり、少なくとも片眼が重症例(Amsler-Krumeich Stage III または IV)である場合、両眼進行の率は73.9%に達し、両眼とも軽症の場合の36.8%を大きく上回る3)。片眼の重症例は対側眼の潜在的進行のマーカーとして注視する必要がある。
進行例では、初診時のKmaxが55 D以上の場合は、55 D未満と比較して進行率が有意に高い(82% vs 62%、p=0.02)3)。つまり、初診時点の重症度自体が将来的な進行リスクの予測因子として機能する。一方で、多変量解析では年齢・性別・アトピー・報告された眼こすりの有無は独立した進行予測因子とはならなかった3)。Ferdiらの大規模システマティックレビューとメタ解析では、11,529眼の自然経過データが統合されており、治療介入を行わない場合の進行パターンの理解が深化している13)。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”円錐角膜の病因は遺伝的要因、生化学的要因、生体力学的要因が複合的に関与する多因子疾患である1)。常染色体優性・浸透率低下の遺伝形式が最もよく適合するとされる。
遺伝的背景ではLOX(リシルオキシダーゼ)、CAST、VSX1、DOCK9、TGFBIなど複数の遺伝子多型が報告されている1)。現時点で75遺伝子・2000以上のバリアントを評価するFDA承認の遺伝子検査も利用可能となっている1)。
眼こすり・環境因子
微小外傷の蓄積:眼をこする機械的刺激が角膜上皮と実質に微小外傷を生じ、プロテアーゼ活性を上昇させてコラーゲン分解を促進する。
アレルギー疾患の関与:花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、春季カタルなどに伴う眼掻痒が眼こすりの誘因となる1)。
睡眠時体位:就寝時に顔を枕に押し付ける側臥位も継続的な機械的圧迫として作用しうる6)。
遺伝的素因
家族歴:CLEK研究で14%に家族歴を認めた1)。第一度近親者の有病率は一般集団より明らかに高い。
関連遺伝子:LOX、CAST、VSX1、TGFBIなどの多型1)。
遺伝形式:常染色体優性・浸透率低下が最もよく適合するとされる1)。
関連する全身疾患
染色体異常:Down症候群が最も関連の強い疾患である1)。
結合組織疾患:Ehlers-Danlos症候群、Marfan症候群、骨形成不全症1)。
その他:Leber先天黒内障、網膜色素変性症、Apert症候群、Crouzon症候群1)。
生活習慣関連:閉塞性睡眠時無呼吸症候群、高BMI1)。
眼こすりは最も重要で介入可能な環境因子である1, 6)。Bittonらが報告した一卵性双生児の不一致例では、発症した双子は強い眼こすり習慣があり、夜勤の関係で左側を下にして就寝する体位を続けていたのに対し、未発症の双子は軽度の眼こすりのみで仰臥位で就寝していた6)。同一の遺伝的背景を持ちながら発症に差が生じたこの症例は、環境因子の決定的な影響を示している6)。
眼こすりは円錐角膜の発症・進行において極めて重要な環境因子とされている。ただし、遺伝的素因も関与しており、眼をこすったすべての人が円錐角膜になるわけではない。一卵性双生児を対象とした研究では、同じ遺伝子を持ちながら眼こすりの習慣が異なる双子で、眼こすりの強い方のみに円錐角膜が発症した例が報告されている。診断された場合は、眼こすりを完全に中止するよう指導するのが一般的である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”
円錐角膜の診断は、特徴的な病歴と細隙灯顕微鏡所見、および角膜トポグラフィ・トモグラフィの所見に基づく1)。理想的には自覚症状が出現する前の早期診断が望ましいが、費用対効果の高い簡便なスクリーニング法はいまだ確立されていない1)。
検査法の概要
Section titled “検査法の概要”| 検査法 | 評価項目 | 主な所見 |
|---|---|---|
| 角膜トポグラフィ(プラチド型) | 前面曲率・SimK・SAI・SRI | 下方の局所急峻化、I/S比の上昇 |
| 角膜トモグラフィ(Scheimpflug) | 前後面エレベーション・角膜厚 | 前後面の島状突出、偏心菲薄 |
| 前眼部OCT | 上皮厚マッピング・角膜厚 | 菲薄部に薄い上皮、周囲にドーナツ型の肥厚 |
| 波面収差解析 | 高次収差 | 垂直コマ収差の著明な増加 |
| 角膜生体力学評価 | CH・CRF・CBI・TBI | 生体力学的剛性の低下 |
角膜トポグラフィ・トポメトリ:前後面の包括的評価が診断に重要である1)。下方/上方曲率比(I/S比)1.2以上、放射状軸のスキュー21度以上が円錐角膜に典型的である1)。後面エレベーションマッピングは比較的高い感度・特異度を示すが、不全型(forme fruste)の検出には限界がある1)。Klyce/Maeda法やSmolek/Klyce法は円錐角膜スクリーニングアルゴリズムとして広く用いられている。
前眼部OCT:高解像度の角膜断層像を提供する1)。角膜上皮厚マッピングでは、実質菲薄部の上で上皮が薄く、その周囲に肥厚した上皮のリムを伴うドーナツ型パターンを示す1)。上皮リモデリングが前面形状の不規則性を部分的にマスクするため、後面解析が早期診断の鍵となる。
角膜生体力学評価:角膜ヒステリシス(CH)、角膜抵抗因子(CRF)、Corvis STによる動的変形解析などが用いられる8)。角膜トモグラフィと生体力学評価を組み合わせたトモグラフィ生体力学指数(TBI)、角膜生体力学指数(CBI)が包括的スクリーニング指標として推奨されている8)。生体力学的変化は形態学的変化に先行するとされ、早期検出への応用が期待される1)。
眼圧測定の留意点:角膜の菲薄化と生体力学的弱化により、Goldmann圧平眼圧計では眼圧が過小評価される1)。空気眼圧計や動的輪郭眼圧計(DCT)の使用が推奨される1)。
進行の判定基準
Section titled “進行の判定基準”進行の定義に関する国際コンセンサス(2015年)では、以下の3項目のうち少なくとも2項目が測定系の変動域を超えて変化することを進行と定義している9)。
- 角膜前面の急峻化
- 角膜後面の急峻化
- 角膜厚の減少、もしくは周辺から最薄部への角膜厚変化率の増大
Meyerらは小児・青年コホートでOrbscanトモグラファのテスト・再テスト変動閾値を算出し、Flat K +1.30 D、Steep K +1.88 D、Kmax +1.20 D、central K +0.87 D、前面エレベーション +11.7 µm、後面エレベーション +24.3 µm、central pachymetry −28.1 µm、thinnest pachymetry −30.5 µmを進行判定の閾値とした3)。重症度別の分布は、Amsler-Krumeich分類でStage I 37.8%、Stage II 39.9%、Stage III 9.5%、Stage IV 12.8%であった3)。
Amsler-Krumeich分類は4段階の古典的な重症度分類で、K値、屈折、pachymetry、角膜混濁の有無を組み合わせて評価する。より新しいABCD分類(2016年)は、A:前面曲率半径、B:後面曲率半径、C:最薄部pachymetry、D:最良矯正視力(BCVA)の4要素を独立に評価する1)。CLEK研究に基づく軽度/中等度/重度の分類も日常診療で使用される。
フォローアップ間隔
Section titled “フォローアップ間隔”進行の速い可能性が高い患者ではフォローアップを密にする必要がある。17歳未満の症例、およびKmaxが55 Dを超える症例ではより短い間隔での経過観察が推奨される1)。実臨床では、小児で1〜3か月、成人で6〜12か月間隔のフォローが一般的な目安である。
- ペルーシド角膜変性(PMD):角膜下方周辺部の帯状菲薄化を特徴とし、菲薄部が円錐角膜より周辺寄りに存在する。発症年齢も30〜50代とやや遅い。
- 球状角膜:生下時から両眼に角膜全体が菲薄化する先天性疾患で、Fleischer輪やVogt線条を認めない。
- 屈折矯正手術後角膜拡張症(post-LASIK ectasia):円錐角膜の素因がある症例で術後に進行する場合と、過剰照射による角膜菲薄化が原因となる場合がある。
- 続発性円錐角膜:角膜ヘルペスなど原疾患による瘢痕化過程で角膜が菲薄化したもので、血管侵入や瘢痕が伴う。
- コンタクトレンズによる角膜変形:ハードコンタクトレンズのセンタリング不良(特に上方安定)により類似のカラーコードマップを示すが、菲薄化を伴わず可逆性である。
角膜生体力学評価は、早期および不確定な症例での円錐角膜検出に重要な役割を果たす。偽陰性を回避し診断精度を向上させるため、角膜トモグラフィと生体力学評価を組み合わせた包括的な術前スクリーニングが推奨される。8)
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”治療の二本柱は、視機能を維持する視力矯正と、進行を食い止める進行抑制である1)。軽度の不正乱視には眼鏡やソフトトーリックコンタクトレンズで対応可能であるが、不正乱視が強くなるとハードコンタクトレンズが必要となり、さらに進行するとCXL、ICRS、角膜移植などの介入が検討される。
眼鏡およびコンタクトレンズが多くの患者における治療の主軸である1)。軽度例では眼鏡やソフトトーリックコンタクトレンズで対応可能であるが、不正乱視が強くなるとハードコンタクトレンズ(RGP)が第一選択となる。多くの患者はRGPで劇的な視力改善を得る。
ハードコンタクトレンズのフィッティングは通常の近視眼より技術的に困難であり10)、測定した角膜曲率半径からベースカーブを決めるとタイトな処方になりやすい。角膜曲率半径にとらわれず、センタリングと動きのよいフィッティングを目指すのが実践的な原則である。球面レンズで対応できない症例では多段階カーブレンズの使用も検討される。
ハードコンタクトレンズの装用が困難な症例では、強膜レンズ(scleral lens)、ハイブリッドレンズ、ピギーバック法(ソフトレンズの上にハードレンズ)などの特殊レンズが選択される1)。強膜レンズは輪部より外側の強膜上に装用するため角膜への機械的刺激が少なく、高度の角膜形状異常にも対応できるため、近年普及に伴い角膜移植の実施率低下に貢献しているとの報告がある1)。90%以上の症例は何らかのコンタクトレンズで実用視力を維持可能とされる。
角膜クロスリンキング(CXL)
Section titled “角膜クロスリンキング(CXL)”進行性の円錐角膜に対する角膜クロスリンキングは、角膜コラーゲン線維間に架橋結合を誘導して生体力学的剛性を強化する治療法であり、現在の進行抑制の第一選択である1, 2, 4)。CXLは疾患の進行を停止または減速させ、将来的な角膜移植の必要性を低減する1)。CXLは角膜の安定化に加え、1.0〜2.5 Dの角膜平坦化を誘発して視力改善にもつながる可能性がある1)。オランダの全国データでは、CXL導入後に円錐角膜に対する角膜移植の実施件数が有意に減少したことが報告されている12)。
標準Dresdenプロトコル(epi-off CXL)5):
- 角膜上皮を直径8〜9 mmで除去する
- 0.1%リボフラビン点眼液(20%デキストラン添加)を2分ごとに30分間点眼
- UV-A(波長365 nm)を3 mW/cm²で30分間連続照射
- 総エネルギー量は5.4 J/cm²
- 施行後は治療用コンタクトレンズを装用し、上皮再生完了まで保護する
- 術後は抗菌薬とステロイドの点眼でフォロー
加速CXL:標準プロトコルの時間短縮を目的に開発されたもので、9 mW/cm²×10分や18 mW/cm²×5分などの照射条件が用いられる。多くの比較研究で標準型と同等の効果が示されている5)。ただし30 mW/cm²×3分といった高フルエンス条件は組織内酸素枯渇の影響で効果が劣るとされ、酸素を補充するパルス照射法が開発されている5)。
経上皮CXL(epi-on):角膜上皮を温存したままCXLを行う方法で、術後疼痛の軽減や感染リスクの低下という利点がある。しかしリボフラビンの浸透性が低下するため、ランダム化比較試験では標準epi-off法より効果が劣る傾向にあり、一部の研究ではKmaxの悪化も報告されている5)。
KERALINK試験は10〜16歳の進行性円錐角膜60例を対象にCXLと標準治療(眼鏡・コンタクトレンズ)を比較した観察者盲検ランダム化比較試験である2)。3か月以上の間隔でK2またはKmaxが1.5 D以上増大した症例を進行例として組み入れ、角膜頂点厚400 µm以上、K2≤62 Dの条件を満たす眼を対象とした2)。介入はAvedro KXL装置による10 mW/cm²×9分の照射(総量5.4 J/cm²)とリボフラビン点眼で実施された2)。
| 指標(18か月時点) | CXL群(n=30) | 標準治療群(n=28) |
|---|---|---|
| 平均K2 | 49.7 ± 3.8 D | 53.4 ± 5.8 D |
| 進行を認めた眼 | 2例(7%) | 12例(43%) |
| ベースラインKmax | 56.0 ± 4.8 D | 57.2 ± 5.7 D |
| 角膜頂点厚 | 512 ± 47.9 µm | 507 ± 41.2 µm |
18か月時点のK2調整平均差は−3.0 D(95%CI −4.93〜−1.08 D、p=0.002)とCXL群が有意に低く2)、未矯正および矯正視力(logMAR)もCXL群で有意に良好であった(いずれもp=0.002)2)。進行のオッズはCXL群で90%低く(OR 0.1、95%CI 0.02〜0.48、p=0.004)、Cox比例ハザードモデルでも時間軸でみた進行ハザードはCXL群で87%低下した2)。重篤な有害事象は認められなかった2)。CXLはアトピー歴やエスニシティとの相互作用を示さず、多様な背景の若年患者に有効と示された2)。米国多施設CXL試験でも成人での有効性が確認されている4)。これらの結果から、CXLは若年進行例における第一選択治療として推奨される2)。KERALINKの結果は、進行確認後すみやかにCXLを検討するという現在の臨床判断を強く支持するものである。
コンタクトレンズで十分な視力が得られない場合、あるいはコンタクトレンズが装用困難となった場合に外科的介入を検討する1)。
角膜実質内治療
屈折矯正
角膜移植
急性角膜水腫の治療:Descemet膜破裂による急性角膜水腫に対しては、圧迫眼帯を約1か月装用し、必要に応じてアセタゾラミド(ダイアモックス®)を内服する。高張食塩水点眼(5%NaCl)やステロイド点眼で浮腫を軽減することもある。自然に瘢痕化した時点で改めてコンタクトレンズを処方する。近年は前房内のエア注入や羊膜移植も選択肢として報告されている。水腫後の瘢痕化は角膜中央にかかる場合もあれば、皮肉にも瘢痕化により角膜の急峻化が自然に軽減する症例もあり、瘢痕沈静後の屈折状態を評価してから次の治療方針を決定する。
進行予防と生活指導
Section titled “進行予防と生活指導”進行予防の基本は眼こすりの完全中止である1, 6)。アレルギー性結膜炎やアトピー性結膜疾患が眼掻痒の原因となっている場合は、抗アレルギー点眼薬や抗ヒスタミン薬で十分に症状を抑え、眼こすりの機会を減らす。眼掻痒が強い場合は点眼薬に加えて抗原除去・スキンケアの最適化といった全身的なアレルギー管理も検討する。就寝時の体位にも留意し、顔を枕や腕に押し付ける側臥位を避けるよう指導する6)。患者本人だけでなく家族・介護者にも病態と予防の重要性を説明し、眼こすりを誘発する習慣を家庭環境全体で見直すことが有効である。
白内障合併例の留意点
Section titled “白内障合併例の留意点”円錐角膜患者が白内障を合併した場合、角膜曲率の不安定性と高度の不正乱視が眼内レンズの度数計算と手術操作の双方を困難にする。術前にCXLやICRSによる角膜の安定化を行い、コンタクトレンズ中止期間(ソフトで最低2週間、ハードで5週間以上)を設けた上で生体計測の安定を確認することが推奨される7)。眼内レンズの度数計算では標準式による術後遠視化(hyperopic surprise)が生じやすく、Barrett True-KやKane keratoconus formulaなど円錐角膜特化式の使用と軽度近視目標の設定が推奨される7)。多焦点眼内レンズは高次収差増大のため推奨されない7)。
手術手技では、菲薄化した角膜への透明角膜切開は創口漏出のリスクがあるため、強角膜トンネル切開が推奨される7)。角膜混濁により前嚢切開の視認性が低下する場合は、トリパンブルーによる前嚢染色、分散型粘弾性物質の角膜表面塗布などが有用である。重症例で角膜移植も必要な場合は、白内障手術・眼内レンズ挿入・角膜移植を同時に行うトリプルサージェリーも選択肢となる。
標準的なepi-off法では角膜上皮を除去するため、術後数日間は疼痛・異物感・流涙が生じることが多い。疼痛は治療用コンタクトレンズの装用、冷却、鎮痛薬で管理される。上皮の再生は通常3〜5日で完了し、それ以降は疼痛も軽減する。epi-on法では上皮除去がないため術後の痛みは軽減されるが、有効性がepi-off法より劣る可能性がある。
小児・青年の円錐角膜は、成人と比べて進行が速い。角膜の生体力学的剛性は年齢とともに増加するため、小児の角膜はコラーゲン分解を受けやすい。小児・青年148眼を平均2.9年追跡した研究では77.0%に進行を認め、診断時に進行期にある割合も高かった。フォローアップは成人の6〜12か月間隔に対し、小児では1〜3か月間隔での密な経過観察が推奨される。進行が確認された場合、速やかな角膜クロスリンキングが角膜移植のリスクを低減する唯一の介入である。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”円錐角膜では、角膜コラーゲンの分解が角膜菲薄化の基盤となる1)。健常角膜実質ではI型コラーゲンが主体のコラーゲン線維束が三次元的に折り重なり、角膜の剛性と形状を維持している。Bowman膜に接する浅層ではコラーゲン線維束の幅は比較的細く、角度が急峻で多方向性をもつのに対し、深層では線維束幅が広がり平坦化する構造的勾配がある。この浅層の急峻で細密な線維束構造が角膜の前面形状を維持するのに大きく寄与しているが、円錐角膜ではこれらの構造が変化していることが知られている。
分子機序ではマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の増加とその組織阻害因子(TIMP)の減少が角膜実質のコラーゲン分解に関与する1)。円錐角膜患者の涙液中ではIL-6、TNF-α、MMP-9などの炎症性メディエーターの濃度上昇が認められる1)。これらの炎症性メディエーターは角膜実質細胞(ケラトサイト)のアポトーシスを誘導し、細胞密度の低下をもたらす1)。
円錐角膜は従来「非炎症性」の角膜菲薄化疾患と分類されてきたが、病態の発生と進行に直接的または間接的に関連する炎症性要素が存在することが近年の研究で明らかになってきている。1)
組織病理学的にはBowman層の断裂または消失、コラーゲン線維の配列の無秩序化、瘢痕化、実質の菲薄化が認められる。進行例ではDescemet膜の皺襞や破裂も生じうる。
角膜生体力学の観点からは、局所的な弾性係数の低下がコラーゲン線維の崩壊・変性と関連している8)。いったん局所的な剛性低下が生じると、眼内圧という一定の負荷に対し脆弱部位にストレスが集中して再分配され、角膜の急峻化と菲薄化が進行するという「生体力学的破綻サイクル」が提唱されている8)。
遺伝的素因に加えて、眼こすりなどの反復的な機械的ストレスがこの生体力学的破綻を惹起すると考えられている1, 6)。若年者の角膜はコラーゲン架橋密度が低く、加齢とともに剛性が増加するため、小児・青年期の角膜は機械的・酵素的分解を受けやすい1)。この点が小児例で進行が速いことの生物学的基盤となる。酸化ストレスに対する防御機構の異常、特にスーパーオキシドジスムターゼ活性の低下、グルタチオン代謝の異常も病態に関与する可能性が指摘されている。これらの分子経路は炎症性メディエーターの産生とコラーゲン分解酵素の活性化を増幅する悪循環を形成しうる。
角膜実質細胞(ケラトサイト)のアポトーシスは円錐角膜の角膜実質細胞密度の低下と実質菲薄化の直接的な細胞学的機序である1)。Bowman層は正常では約10 µm厚の細胞外マトリックス層であるが、円錐角膜では早期から断裂・消失が観察され、角膜前面の形状維持機構が破綻する。Descemet膜は電子顕微鏡的にanterior banded layerとposterior non-banded layerに分けられる基底膜で、急性水腫の際はこの膜が破断することで前房水が実質内へ流入し、一過性に劇的な視力低下をもたらす。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”小児・青年早期CXL:KERALINK試験が10〜16歳に対するCXLの有効性を高レベルのエビデンスで示した2)。Meyerらが示した小児・青年の77%という高い進行率は、進行が確認される前の早期介入の根拠となっている3)。角膜クロスリンキングの長期的な安定化効果が持続すれば、将来のコンタクトレンズ常用や角膜移植の必要性を回避できる可能性がある2)。Ferdiらのシステマティックレビューとメタ解析では、自然経過データのある11,529眼の情報が統合されたが、小児のデータは限定的であり、長期追跡のさらなる蓄積が必要とされている13)。
生体力学的早期検出:角膜生体力学評価の進歩により、従来の形態学的変化(角膜トポグラフィ・トモグラフィ)に先行する「生体力学的段階」での早期検出が可能になりつつある1, 8)。角膜トモグラフィと生体力学評価を組み合わせた包括的スクリーニングの確立が今後の課題である8)。
遺伝子スクリーニング:75遺伝子・2000以上のバリアントを評価するFDA承認遺伝子検査が利用可能となっている1)。環境因子と遺伝的リスクスコアを統合した早期診断アプローチは研究段階にあり、臨床的有用性のさらなる検証が必要である1)。
CXLプロトコルの最適化:加速プロトコルの最適化、パルス照射による酸素供給改善、epi-on法の浸透性改良などが活発に研究されている5)。高フルエンス条件では組織内酸素が枯渇して架橋反応の効率が低下することが判明しており、間欠的な照射停止(パルスCXL)により酸素供給を補充する方法論が検討されている5)。トポグラフィ誘導下PRKとCXLを併用するAthensプロトコル、経上皮PTKとCXLを併用するCretanプロトコル、decentered individualized sphero-cylindrical(DISC)ablationとCXLの併用などの複合治療により、進行抑制と視機能改善の両立を目指す試みも報告されている11)。これらの複合治療は角膜組織を追加で切除するため、残存角膜厚に十分な余裕のある症例に限定される。
長期安定性の検証:CXLの長期安定化効果については10年以上の観察研究データが蓄積されつつあり、治療効果の持続性が報告されている一方で、一部症例では経年的に再進行する例も認められる5)。再進行時のCXL再施行の是非、再進行の予測因子、より耐久性の高いプロトコルの開発などが今後の研究課題である。また強膜レンズ技術の普及により、角膜移植を必要とする症例がさらに減少することが期待されている1)。
8. 参考文献
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