円錐角膜
菲薄化部位:角膜中央〜傍中央部。PMDは下方周辺部。
突出部位:菲薄部と一致。PMDでは菲薄部の上方。
特徴的所見:Fleischer輪、Vogt線条を認める。PMDでは認めない。
発症年齢:思春期。PMDは30代以降。
ペルシード角膜辺縁変性症(pellucid marginal corneal degeneration: PMD、PMCD)は、非炎症性かつ非遺伝性の角膜拡張症であり、両眼性の下方周辺部角膜菲薄化を特徴とする。「pellucid」は「透明な」を意味し、菲薄化部が透明に保たれることに由来する。菲薄化部には血管侵入や混濁といった炎症所見はなく、円錐角膜の類縁疾患と考えられている。
PMDは円錐角膜に次いで2番目に多い非炎症性角膜菲薄化疾患である。しかし円錐角膜と誤診されることが多いため、実際の有病率は過小評価されている可能性がある3)。PMDは通常30〜50代で発症し2,4)、円錐角膜より発症がやや遅い。性別では男性に多い傾向がある。
PMDは円錐角膜と臨床像・組織像の多くが共通することから、keratoconusとPMDを連続スペクトラムとして捉える見方もある3)。PMD症例の約10%に円錐角膜、約13%に球状角膜を合併する4)。同一患者にPMDと円錐角膜が併存する例も報告されており、日本の全国調査では片眼性PMD 27例中17例で対側眼に円錐角膜または円錐角膜疑いが認められた1)。
角膜形状異常の進行に伴い高度の不正乱視が生じ、視力障害を来す。倒乱視傾向が強く、円錐角膜よりも眼鏡やコンタクトレンズでの矯正が困難な場合が多い4)。
PMDは自覚症状に乏しい時期が長く、20代の健康診断や眼鏡処方時には見逃され、30〜40代で倒乱視が増強し矯正視力が得られなくなって初めて診断される例が多い。円錐角膜が急性水腫や著明な角膜中央突出として比較的早期に発見されるのに対し、PMDは「治らない倒乱視」「徐々に合わない眼鏡」という形で緩徐に進行する点が臨床的特徴である。疫学データは限られており、円錐角膜のように国単位の大規模研究が行われていないため、真の有病率は不明である。屈折矯正手術を希望して受診した患者の術前精密検査で偶然発見されるケースも報告されており、潜在的な罹患者は少なくないと推測される。

| 所見 | 特徴 |
|---|---|
| 帯状菲薄化 | 4〜8時方向、輪部から1〜2mm離れた位置、幅1〜2mm |
| 前方突出 | 菲薄部の上方(中央側)に位置、beer belly(太鼓腹)様 |
| 角膜の透明性 | 菲薄部は透明で血管侵入・混濁なし |
| 上皮 | 常に保たれる(脂質沈着なし) |
菲薄化は輪部より1〜2mm上方に、幅1〜2mmの帯状に4時〜8時方向にかけて存在する。正常角膜厚の20%まで菲薄化することがある。最大突出部は菲薄部の上方に位置し、角膜断面は「beer belly(太鼓腹)」のように見える2)。この突出により最大20Dに達する高度の倒乱視が生じ、視力矯正を著しく困難にする。
PMDではFleischer輪、cone(頂点)、頂点瘢痕は認めない。菲薄部と輪部の間の角膜は健常であり、菲薄化領域は常に上皮化している。脂質沈着を伴わない点でTerrien角膜変性と区別される。
角膜トポグラフィーでは以下の特徴的パターンを認める。
ただしcrab claw様所見は進行した円錐角膜でもみられることがあり、PMDに特異的ではない3)。角膜エレベーションマップでは前後面ともに下方周辺に突出を認め、角膜厚マップでは最菲薄部が突出部よりやや下方に位置する。
プラチド(Placido)型角膜形状解析装置は角膜表面の約60%しか評価できず、周辺部病変であるPMDの評価には限界がある2)。Scheimpflug撮影やスリットスキャン型トモグラフィー(Pentacam、Orbscan等)は角膜前後面と全体のパキメトリーマップを評価でき、PMDの診断と円錐角膜との鑑別に有用である2,5)。特に後面エレベーションの下方周辺部への膨隆と、最菲薄点が突出部の下方に位置する所見は、PMDの診断に寄与する重要な要素である。PMDと円錐角膜の区別は臨床上重要であるが、両者の移行例も存在するため、画像所見のみで確定することは難しい症例もあり、経時的な進行観察が求められる。
角膜拡張症の進行評価には、Scheimpflug機器に統合されたABCD分類が用いられる。Anterior radius of curvature(A)、posterior radius of curvature(B)、minimum corneal thickness(C)、best spectacle-corrected distance acuity(D)の4要素からなる複合スコアで経時変化を追跡する2)。
PMDの病因は明らかではないが、角膜実質コラーゲンの構造異常に起因する脆弱化と、眼圧による力学的ストレスの組み合わせによって菲薄化・突出が生じると考えられている。組織学的には、実質のコラーゲンに通常とは異なる線維状長周期(fibrous long-spacing, FLS)コラーゲン(周期100〜110 nm)が認められる。正常コラーゲンの周期は60〜64 nmであり、この構造異常が角膜脆弱化に関与する可能性がある4)。
近年はPMDと円錐角膜を同一スペクトラム上の疾患と捉える議論があり、Belinらは「pellucid marginal degenerationは独立した疾患ではなく、下方に偏位した円錐角膜の一表現型と考えるべき」との提言を行っている3)。この見解は、同一患者でPMDと円錐角膜が併存する例が多数報告されていること、組織像やコラーゲン異常が共通すること、さらに画像所見上の連続性が指摘されていることに基づく。一方、臨床実務上は菲薄化部位・突出部位・発症年齢・進行速度などの違いから、PMDを独立した表現型として扱うことが依然として一般的である。
アレルギー素因は急性水腫や角膜穿孔のリスク因子と考えられている。円錐角膜の急性水腫のリスク因子としてアレルギー素因が知られているが、PMDでも同様の関連が示唆されている。アレルギーによる眼掻痒が眼擦りを誘発し、角膜への機械的ストレスを増大させる可能性がある。早期の抗アレルギー治療とマスト細胞安定化薬の追加が穿孔予防に有効である可能性がある。
PMDの診断は細隙灯顕微鏡検査と病歴に基づき、角膜形状解析で裏付ける。下方角膜周辺部の帯状菲薄化(透明、非炎症性、脂質沈着なし)と菲薄部上方の突出を認めればPMDを疑う。
屈折検査では、通常の眼鏡処方で矯正困難な強度の倒乱視と不正乱視が特徴である4)。レチノスコピーではシザーズリフレックス(scissors reflex)を認める2)。軽症例は単純な倒乱視と誤診されやすいため、角膜形状解析による精査が重要である。
進行の定義として、2015年の国際コンセンサスでは「前面角膜曲率の急峻化」「後面角膜曲率の急峻化」「菲薄化(または周辺から最薄点への角膜厚変化率の増加)」のうち2項目以上の悪化を満たすこととされる2)。
円錐角膜
菲薄化部位:角膜中央〜傍中央部。PMDは下方周辺部。
突出部位:菲薄部と一致。PMDでは菲薄部の上方。
特徴的所見:Fleischer輪、Vogt線条を認める。PMDでは認めない。
発症年齢:思春期。PMDは30代以降。
Terrien角膜辺縁変性
Mooren角膜潰瘍
炎症:前眼部の炎症が高度であり、角膜潰瘍を呈する。
上皮障害:角膜上皮の障害を認める。PMDでは上皮は保たれている。
単純倒乱視
角膜厚:菲薄化を認めない。
トポグラフィー:正常な蝶ネクタイパターン。crab claw様の下方急峻化は認めない。
屈折矯正手術の術前評価では、軽症のPMDを誤って「単純な倒乱視」と診断して手術を行うと、術後に角膜拡張症(keratectasia)を誘発する危険がある2,4)。術前スクリーニングでPMDを確実に除外することが最も重要である。特に若年で強い倒乱視、処方が安定しない屈折、角膜下方の菲薄化を示唆する所見(下方I/S非対称、下方elevation上昇、下方パキメトリーの減少)がある場合は、LASIKやSMILE、PRKの適応から除外する。
角膜厚・角膜形状・生体力学評価を組み合わせ、複数モダリティで一致した所見をもとに診断することが望ましい。単一検査の一過性の異常値のみで診断すると偽陽性が生じやすいため、経時的な変化を追う二回以上の検査が推奨される。
PMD症例の大多数は非手術的に管理される。報告によれば約88%が非手術的に管理され、そのうち36%が眼鏡、52%がコンタクトレンズで矯正されている4)。眼鏡矯正は倒乱視の増大に伴い比較的早期に限界に達する。
| レンズ種類 | 特徴 |
|---|---|
| ハードCL(RGP) | 不正乱視中和に最も有効だが、下方偏心のため左右にずれやすく処方困難 |
| スクレラルレンズ | 角膜に接触せず角膜を覆うため安定性に優れ、進行PMDで第一選択となる2) |
| ハイブリッドレンズ | RGP中央+ソフトスカート。装用感良好2) |
| ピギーバック | ソフトCL上にRGPを重ね、装用感と矯正力を両立2) |
PMDでは突出部位が角膜周辺部にあるため、通常のRGPレンズは左右にずれやすく円錐角膜より処方が困難である。大口径RGPや上眼瞼装用レンズが試みられることもあるが、刺激感やレンズ脱落の原因となる場合がある。スクレラルレンズは角膜表面に全く接触しないため、進行例や不正な前面形状をもつ症例で有効である2)。レンズとレンズ後面の涙液層が光学的には「液体のレンズ」として機能し、角膜の不正乱視を中和する仕組みである。装用に慣れるまでには時間を要するが、良好な矯正視力と装用感を両立しやすく、近年は角膜拡張症全般での第一選択的な位置付けになりつつある。
角膜クロスリンキングは、角膜実質のコラーゲン線維間に架橋を形成し、角膜の生体力学的剛性を高めることで拡張症の進行を抑制する治療である。米国FDAでは14〜65歳の進行性円錐角膜および角膜拡張症術後例に承認されており2)、PMDにも応用される。
オランダではCXL導入後、円錐角膜に対する角膜移植件数が約25%減少したとの報告がある10)。Cochraneレビューでも、CXLが角膜拡張症の進行抑制に有効であると結論されている12)。PMDにおいては円錐角膜ほど大規模なRCTの蓄積はないが、症例報告レベルでは角膜形状の安定化と最大Keratometry値の平坦化が複数報告されており、進行が確認された若年〜中年例では早期のCXL導入が推奨される。
角膜内リングセグメント(intrastromal corneal ring segments: ICRS、商品名Intacs、Ferraraなど)は、角膜実質に半円状のPMMA製リングを挿入して角膜形状を平坦化し、不正乱視を軽減する術式である。
近年は同種角膜組織片を用いたCAIRS(corneal allogenic intrastromal ring segments)も開発されている。ケラトコヌス24眼のパイロット研究では、CAIRSとCXLの併用後にセグメント由来の合併症は認められなかった11)。ICRSはあくまで視機能改善を目的とした形状変化の手段であり、進行抑制効果は限定的であるため、進行が確認された症例ではCXLと順次併用することで双方の利点を得る方針がとられる。
コンタクトレンズ装用が不可能な場合や、視力矯正が不十分な場合に手術を検討する。PMDでは突出部位が角膜周辺部に位置するため、通常の中央角膜移植より手技が複雑である。
急性水腫は円錐角膜と同様に、高浸透圧点眼、眼圧降下、ガス注入などの保存的治療が行われる。PMDは菲薄部が薄いため穿孔に至るリスクがあり、穿孔例の管理は臨床的に重要である。
Uejiらは、PMDで角膜穿孔に至った症例に対し、治療用ソフトコンタクトレンズ(TCL)による保存的治療で穿孔が閉鎖し、術後1年で矯正視力が1.0に改善したと報告した。保存的治療により乱視が約半減する結果も得られている1)。過去の文献レビューでは、PMDの角膜穿孔20眼のうち13眼で保存的治療(組織接着剤・TCL)が試みられ、4眼で成功している1)。比較的小さな穿孔では保存的治療を試みる価値がある。
PMDの多くの患者はコンタクトレンズで管理可能であり、約88%の症例が非手術的に管理されている。ただし下方の突出により通常のハードコンタクトレンズはずれやすく、処方は円錐角膜より困難である。進行例ではスクレラルレンズやハイブリッドレンズが選択されることが多い。コンタクトレンズは不正乱視を中和して視力を改善するが、疾患の進行を抑制する効果はないため、進行が確認された場合は角膜クロスリンキング(CXL)を併用する。
PMDの組織病理学的所見は円錐角膜に類似する。角膜実質の菲薄化を認めるが、上皮、内皮、およびDescemet膜は正常である。Bowman膜の欠損または断裂(局所的破壊)が認められ、脂質沈着は通常認められない。実質基質にはムコ多糖類が豊富に存在する。
菲薄化部位の電子顕微鏡観察では、通常とは異なる線維状長周期(fibrous long-spacing, FLS)コラーゲンが認められる。FLSコラーゲンの周期は100〜110 nmであり、正常コラーゲン(60〜64 nm)より著しく長い。このFLSコラーゲンは進行した円錐角膜でも観察されており、両疾患の類縁関係を支持する所見である4)。
円錐角膜および類縁の角膜拡張症では、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性の上昇とその内因性阻害因子(TIMP)の低下が報告されており、実質コラーゲン分解の亢進が菲薄化に関与すると考えられている2)。また涙液中のIL-6、TNF-α、MMP-9などの炎症メディエーターの増加が報告されており、従来「非炎症性」とされてきたPMDや円錐角膜にも低度の炎症要素が関与する可能性が指摘されている2)。これらの知見は、眼擦りやアレルギー刺激が病態増悪に寄与する臨床的観察とも整合する。炎症性サイトカインの亢進によるケラトサイトアポトーシスは実質のセルラリティを低下させ、コラーゲン線維の代謝と再構築を阻害する結果、角膜の力学的強度低下と菲薄化を招く可能性がある。
角膜実質のコラーゲン構造異常により角膜が脆弱化し、正常な眼圧に耐えられなくなることで下方周辺部が菲薄化し突出する。最大突出部が菲薄部の上方に位置するのは、菲薄部自体は構造的に薄いが、眼圧による応力が菲薄部と正常角膜の境界付近で最大となるためと考えられている。この力学的機序により、角膜断面では菲薄化の帯と上方への膨隆が組み合わさって「太鼓腹(beer belly)」と形容される独特の形態を呈する。こうした形態異常は強い倒乱視を生じ、通常の眼鏡では十分な矯正を得られない視機能障害の直接的原因となる。
角膜菲薄化が高度に進行するとDescemet膜が破綻し、前房水が実質に流入して急性水腫を生じる。Uejiらの報告によれば、PMDにおける角膜穿孔の平均年齢は50.1±14.6歳であり、円錐角膜の36.9±16.3歳より遅い1)。これはPMDの進行が円錐角膜より緩徐であることを反映している。穿孔は比較的稀な合併症であるが、一度生じると重篤な視機能障害をきたすため、進行監視と眼擦り回避の指導、アレルギー制御が重要である。PMDでは菲薄帯が周辺部に位置するため、外傷や眼圧変動、過度の眼擦りといった局所的機械的ストレスが穿孔の引き金となりうる。定期的な細隙灯検査と角膜厚計測によるモニタリング、角膜厚が著しく低下した症例での早期外科的介入の検討が、穿孔予防のために推奨される。
近年のPMD関連の研究トピックには以下がある。