眼球破裂の典型的所見
眼球破裂
1. 眼球破裂とは
Section titled “1. 眼球破裂とは”眼球破裂(ruptured globe)は、鈍的外圧による眼球内圧の急激な亢進によって眼球壁が断裂し、眼球内容が脱出・嵌頓する開放性眼外傷である。拳やボールなどによる鈍的外傷が典型的な受傷機転であり、視機能を著しく損なう眼科救急疾患の一つである。
開放性眼外傷は、鋭的外圧による穿孔性外傷(penetrating injury)と鈍的外圧による眼球破裂(ruptured globe)に大別される。両者は受傷機転と創形成の機序が異なり、治療戦略も異なる。
BETT分類(バーミンガム眼外傷用語規定)
Section titled “BETT分類(バーミンガム眼外傷用語規定)”眼球破裂の分類にはBETT(Birmingham Eye Trauma Terminology)が広く用いられる。
| 分類 | 受傷機転 | 開放創の形成 |
|---|---|---|
| 穿孔性外傷(Penetrating injury) | 鋭的外圧(刃物・釘等) | 外圧が加わった部位に直接開放創が形成 |
| 眼球破裂(Ruptured globe) | 鈍的外圧(拳・ボール等) | 眼球内圧上昇により眼球壁の最薄部で間接的に断裂 |
眼球破裂では、眼球内圧上昇と衝撃波によって角膜輪部に平行した形で強膜開放創が形成される。角膜・結膜などの表面に創を伴わず、見逃されることもある点が特徴である。
ゾーン分類(国際眼外傷分類)
Section titled “ゾーン分類(国際眼外傷分類)”開放性眼外傷は損傷部位によって以下のゾーンに分類され、予後予測に活用される。
| ゾーン | 範囲 |
|---|---|
| Zone I | 角膜・輪部(角膜強膜移行部) |
| Zone II | 輪部から5mm以内の強膜 |
| Zone III | 輪部から5mm超の強膜(赤道部以降) |
Zone III の損傷は視機能予後が不良であることが多い1)。
眼外傷の推定発症率は人口10万人あたり3.5〜4.5人とされる1)。小児の重篤な眼外傷は年間・人口10万人あたり11.8人であり、重篤な眼外傷の35%以上を小児(多くは12歳未満)が占める。受傷の原因としては、スポーツ・玩具・転落・暴力行為などが多い。
眼球破裂は拳やボールなどの鈍的外傷による眼圧上昇で間接的に眼球壁が断裂する。穿孔性外傷は刃物や釘などの鋭利な物体が直接眼球壁を貫通する。前者は開放創が結膜下に隠れて見逃されやすく、診断が困難な場合がある。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
眼球破裂の臨床所見は多岐にわたる。外傷後の急激な視力低下と眼痛が主訴となることが多いが、損傷の程度や部位によって所見は大きく異なる。
見逃しやすい潜在性眼球破裂
自覚症状としては、外傷直後からの急激な視力低下と強い眼痛が典型的である。眼球内容が脱出した重症例では視力が光覚以下となることも多い。
臨床所見の特徴として、外来診察のみで損傷の全容を把握することはむしろ少ない。特に鈍的外傷では、一見外的な創傷を認めない場合でも、極端な低眼圧・高度の結膜出血・浮腫・前房出血・硝子体出血があれば、開放性眼外傷を強く疑う必要がある。
眼球破裂の特異的所見として、瞳孔偏位・変形(D型瞳孔:虹彩脱出による)も重要な所見である。
ある。鈍的外傷による眼球破裂は開放創が結膜下に隠れており、表面から創の位置・大きさが不明なことがある。高度の結膜出血・浮腫で覆われ、前房出血・低眼圧のみの所見として見落とされる場合がある。外傷後に著明な低眼圧がある場合は必ず開放性眼外傷を疑い画像検査を行う。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”眼球破裂は鈍的外傷によって生じる。受傷機転とリスク因子を把握することは、予防策の立案においても重要である。
鈍的外傷の原因:
- スポーツ関連: ボクシング(拳)、野球・ソフトボール(ボール)、テニス・スカッシュ(ボール・ラケット)、格闘技
- 交通事故: エアバッグ展開による顔面への衝撃、ダッシュボード・ハンドルへの衝突
- 転落・転倒: 特に高齢者での転倒
- 爆発性外傷: ベイルート港爆発(2020年)では39患者48眼が解析され、10眼(20.8%)が開放性眼損傷と診断された。53.8%に手術介入が必要であった2)
- 小児: 玩具(特に尖端のある玩具)、遊具による事故、同世代との衝突
リスク因子:
強膜の菲薄化・脆弱化を来す状態では比較的軽微な外力でも眼球破裂が生じやすい。
- 強度近視: 眼軸長延長に伴う強膜菲薄化
- 加齢: 強膜の脆弱化
- 眼手術歴: 白内障手術創部・角膜移植創部・緑内障手術創部は比較的脆弱であり、軽微な鈍的外傷でも破裂しうる
- 結合組織疾患: Marfan症候群・Ehlers-Danlos症候群など
爆発性外傷は一次障害(爆風による圧力波)、二次障害(破片・爆発物の飛散)、三次障害(爆風による身体の吹き飛ばし)が複合し、開放性眼損傷のほか視神経損傷・眼窩骨折などを伴うことが多い2)。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”
眼球破裂の診断には系統的なアプローチが必要である。外来診察だけで損傷の全容を把握することはむしろ少なく、画像検査を積極的に活用する。
初療での評価
Section titled “初療での評価”- 視力測定: 可能な範囲で手動での確認(光覚・手動弁・指数弁)
- 対光反射: RAPD(相対的瞳孔求心路障害)の有無は予後予測に重要
- 眼圧測定は禁忌: 開放性眼外傷が疑われる場合、眼球を圧迫する行為はすべて避ける。用指法による簡易評価のみ許容
- 開瞼器の使用は避ける: 眼球内容の脱出を助長する可能性がある
- 細隙灯顕微鏡検査: 可能であれば実施する。前房出血・虹彩脱出・水晶体脱臼の有無を確認する
| 検査 | 主な目的 | 注意点 |
|---|---|---|
| CT(優先) | 金属異物の確認、眼球壁の連続性評価、眼窩骨折の合併評価 | 最初に選択する |
| MRI | 非金属異物の精密判定に有用 | 金属性異物が疑われる場合は絶対禁忌 |
| X線 | Comberg法による異物位置測定 | 単純異物の概略把握 |
| 超音波 | 硝子体混濁・網膜剥離の評価 | 穿孔疑い時は眼球への接触を最小限に |
CTは金属異物の確認と眼球形態の把握に優れており、眼球破裂疑い症例では最初に選択する画像検査である。MRIは非金属(木片・プラスチック等)の精密判定に有用であるが、金属性異物が疑われる場合はMRI絶対禁忌である1)。
OTS(Ocular Trauma Score)による予後予測
Section titled “OTS(Ocular Trauma Score)による予後予測”OTSは開放性眼球外傷の初診時予後予測スコアとして有用である。初診時視力・ゾーン分類・RAPD・網膜剥離の有無・穿孔性 vs 破裂の種別をスコア化し、最終視力を予測する1)。OTSスコアが低いほど視機能予後は不良であり、治療方針の決定や患者説明に活用できる。
| 鑑別疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| 穿孔性外傷(penetrating) | 鋭的外傷歴、刺入創あり、異物残留の可能性 |
| 眼球打撲(contusion) | 閉鎖性、眼球壁の連続性は保たれている |
| 結膜裂傷のみ | 眼圧正常、前房正常、Seidel試験陰性 |
| 外傷性前房出血 | 前房出血のみ、眼球壁連続性は保たれている |
CTが最優先の検査である。眼球壁の連続性・眼球内異物・眼窩骨折合併の評価が可能であり、金属異物の確認に優れる。MRIは非金属異物の精密判定に有用であるが、金属性異物疑い時は絶対禁忌である。眼圧測定・開瞼器の使用は眼球を圧迫するため行わない。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”眼球破裂の治療は時間との闘いであり、迅速な一次修復が予後を左右する。
手術に至るまでの間、以下の処置を行う。
- 硬質保護シールド装着: 眼球内容のさらなる脱出を防ぐために必須。眼帯による圧迫は禁忌
- 鎮痛薬投与: 静注または内服(アセトアミノフェン等)。疼痛による眼圧上昇を軽減する
- 制吐薬投与: 嘔吐は眼圧を上昇させるため、メトクロプラミド等の静注で予防する
- 抗菌薬の点滴静注を開始: 感染リスク軽減が目的。点眼薬は組織障害を来すおそれがあり使用に議論がある
- 破傷風トキソイド接種の確認: 土壌・汚染物との接触がある場合は確認・接種
- 絶飲食: 全身麻酔の準備として速やかに開始する
| 薬剤 | 用法 | 目的 |
|---|---|---|
| 抗菌薬(第3世代セフェム系等) | 点滴静注 | 眼内炎予防 |
| 制吐薬(メトクロプラミド等) | 静注 | 嘔吐による眼圧上昇防止 |
| 鎮痛薬(アセトアミノフェン等) | 静注/内服 | 疼痛管理・眼圧上昇抑制 |
| 10-0ナイロン糸 | 角膜創の縫合 | 第一次手術 |
| 7-0ナイロン糸 | 強膜創の縫合 | 第一次手術 |
| シリコーンオイル | 硝子体腔充填 | 第二次手術(タンポナーデ) |
第一次手術(創閉鎖)
Section titled “第一次手術(創閉鎖)”第一次手術の目的は感染と眼球内容脱出の回避である。
第一次手術(創閉鎖)
第二次手術(硝子体手術)
適応:眼内組織の損傷程度に応じて施行する。第一次手術に連続して行う場合も多い。
術式:3-port vitrectomyによる混濁硝子体ゲルの切除・嵌頓硝子体ゲルの切除。
タンポナーデ:ガスタンポナーデまたはシリコーンオイルタンポナーデを施行して透見性を確保する。
水晶体切除:合併する白内障・水晶体亜脱臼に応じて水晶体切除を追加する。
手術時期のエビデンス
Section titled “手術時期のエビデンス”8,497眼を対象とした系統的レビュー・メタ解析の結果、24時間以内の一次修復は24時間超の遅延修復と比較して眼内炎リスクを有意に低減することが示された(眼内炎率:24時間以内群11% vs 24時間超群28%、OR 0.39、95%CI 0.19-0.79、P=0.01)1)。
一方、視力予後については24時間以内の一次修復と遅延修復で有意差は認められなかった(OR 0.89、95%CI 0.61-1.29、P=0.52)1)。ただし重症例ほど早期に受診・手術される傾向があり、選択バイアスへの留意が必要である1)。現時点では24時間以内の一次修復が推奨される。
術前からの全身抗菌薬投与に加え、第二次手術時の硝子体内抗菌薬注入も感染予防として行われる場合がある。具体的な抗菌薬の選択・投与量は症例の重症度・汚染状況・耐性菌リスクに応じて判断する。
メタ解析(8,497眼)の結果、24時間以内の一次修復は24時間超と比較して眼内炎リスクを有意に低減する(11% vs 28%、OR 0.39)1)。24時間以内の修復が推奨される。ただし施設・患者状態に応じた判断が必要であり、全身状態が優先される場合もある。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”鈍的外傷による眼球破裂の機序
Section titled “鈍的外傷による眼球破裂の機序”鈍的外傷が眼球に加わると、眼球内圧が急激に亢進する。眼球は閉じた空間であるため、圧力は全方向に伝達され、眼球壁の最も薄い部位で断裂が生じる。眼球壁の最薄部は輪部(角膜・強膜移行部)と外眼筋付着部付近の強膜であり、これらの部位に開放創が形成されやすい。
鈍的外傷と穿孔性外傷との病態の違いとして、穿孔性外傷では鋭利な物体が外圧を加えた部位に直接開放創が形成されるのに対し、眼球破裂では間接的に眼球壁最薄部で断裂が生じる。このため眼球破裂の開放創は受傷部位から離れた位置、特に結膜下の見えにくい部位に形成されることが特徴である。
衝撃波の伝播
Section titled “衝撃波の伝播”鈍的外傷の衝撃波は眼球全体に伝播し、受傷部位の対側にも網膜・脈絡膜損傷を引き起こす場合がある。このため、直接の開放創から離れた部位の網膜損傷・脈絡膜断裂・視神経損傷が合併することがある。
眼球内容の脱出と嵌頓
Section titled “眼球内容の脱出と嵌頓”開放創から眼球内容(ぶどう膜組織・硝子体・水晶体)が脱出・嵌頓する。嵌頓した組織を不用意に切除せず整復することが、第一次手術における原則である。
爆発性外傷の特殊性
Section titled “爆発性外傷の特殊性”爆発による眼球破裂は複合的な機序による損傷を呈する。ベイルート港爆発の解析では、一次障害(爆風圧力波)・二次障害(破片飛散)・三次障害(身体の吹き飛ばし)が複合し、39患者48眼のうち10眼(20.8%)が開放性眼損傷、53.8%に手術介入が必要であった2)。異物の混在・多発外傷の合併が爆発性外傷の特徴であり、系統的な評価と多職種連携が必要である。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”一次修復の最適時期に関するさらなるエビデンス
Section titled “一次修復の最適時期に関するさらなるエビデンス”24時間以内の修復が推奨されるものの、現時点のエビデンスはすべて後方視的研究に基づいており、GRADE評価は低い1)。前向き無作為化比較試験(RCT)の実施が今後の課題である。選択バイアス(重症例ほど早期受診・手術)の影響を除いた検討が必要とされている。
IGATES レジストリによる前方視的データ収集
Section titled “IGATES レジストリによる前方視的データ収集”IGATES(International Globe and Adnexal Trauma Epidemiology Study)レジストリは、開放性眼球外傷の国際的な前方視的データ収集を目的としたプロジェクトである。蓄積されるデータにより、より精度の高い予後予測モデルの構築と最適な治療戦略の確立が期待される1)。
OTS の改良と予後予測精度の向上
Section titled “OTS の改良と予後予測精度の向上”OTS(Ocular Trauma Score)のさらなる改良と外的妥当性の検証が進められている。初診時の予後予測精度の向上は、治療方針決定と患者説明の両面で重要である。
抗菌薬予防投与の最適レジメン
Section titled “抗菌薬予防投与の最適レジメン”術前・術中・術後の抗菌薬の最適な種類・投与量・投与期間については、統一されたエビデンスが乏しく、今後の研究課題である。
災害時眼科対応プロトコルの整備
Section titled “災害時眼科対応プロトコルの整備”ベイルート港爆発の報告は、大規模爆発災害時の眼外傷対応の重要性を示した。眼科医が参加する災害医療体制の整備と、爆発性眼外傷への対応プロトコルの確立が国際的な課題とされている2)。
PVR(増殖性硝子体網膜症)予防の研究
Section titled “PVR(増殖性硝子体網膜症)予防の研究”眼球破裂後の重大な合併症として増殖性硝子体網膜症(PVR)がある。PVR予防を目的とした薬剤・手術手技の研究が進められており、機能予後の改善に向けた取り組みが続いている。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- McMaster D, Bapty J, Bush L, et al. Early versus Delayed Timing of Primary Repair after Open-Globe Injury: A Systematic Review and Meta-analysis. Ophthalmology. 2024.
- Kheir WJ, Awwad ST, Bou Ghannam A, et al. Ophthalmic Injuries After the Port of Beirut Blast—One of Largest Nonnuclear Explosions in History. JAMA Ophthalmol. 2021.
- Mahmoud TH, Govindaraju VK. Primary Repair of Ruptured Globe on No Light Perception Eyes and the Role of Vitreoretinal Surgery. Ophthalmol Retina. 2024;8(7):615-616. PMID: 38969437.