この疾患の要点
穿孔性眼外傷は刺入創と刺出創の両方を持つ開放性眼球損傷(二重穿孔)である。
刺入創のみの穿通性眼外傷 より重篤で、前後2箇所からの眼内容脱出により眼球虚脱を来す。
受傷後24時間以内の一次修復が眼内炎 リスクを有意に低減する(OR 0.39、95%CI 0.19–0.79)1) 。
刺出創は後眼部(Zone III)に生じることが多く、後眼部損傷・硝子体手術 の頻度が高い。
爆発外傷・戦傷では多発性穿孔創を伴い、複数眼の損傷も起こりうる。
増殖性硝子体網膜症 (PVR )・交感性眼炎 ・眼内炎 のリスクが高く、長期経過観察が必須である。
穿孔性眼外傷(perforating eye injury)は、バーミンガム眼外傷用語規定に基づき、刺入部と刺出部を伴う鋭的物体による裂傷 と定義される。眼球壁を前後に貫通して刺入創と刺出創の両方が生じる開放性眼球損傷(open globe injury )である。
穿通性眼外傷 (penetrating: 刺入創のみ)、眼球破裂 (rupture: 鈍的外力による)とは明確に区別される。穿孔は二重穿孔とも呼ばれ、前後2箇所の損傷を伴うため穿通性より重篤である。
穿孔性外傷(perforating)
定義 :刺入創+刺出創の両方が存在する。
二重穿孔 とも呼ばれ、前後2箇所から眼内容が脱出する。重症度は相対的に高い。
穿通性外傷(penetrating)
定義 :刺入創のみが存在する。
出口創はなく、後眼部への貫通がない。穿孔性より相対的に軽症。
眼球破裂(rupture)
定義 :鈍的外力による急激な眼内圧上昇で角膜 ・強膜 が離開した状態。
鋭的物体ではなく鈍的外傷が原因である。
損傷部位は予後に影響し、以下の3ゾーンに分類される1) 。穿孔性外傷では刺出創がZone IIIに達することが多く、後眼部損傷のリスクが高い。
ゾーン 範囲 特徴 I 角膜 〜角膜輪部 前眼部に限局 II 輪部 後方5mmまで鋸状縁 より前方III 輪部 後方5mm以上網膜 を含む後眼部
項目 穿通性(penetrating) 穿孔性(perforating) 創の数 刺入創のみ 刺入創+刺出創 重症度 相対的に軽 相対的に重 眼内容脱出 入口部のみ 前後2箇所 後眼部損傷 少ない 高頻度(Zone III) 硝子体手術 頻度低い 高い
眼外傷の発生率は10万人あたり約3.5〜4.5と推定される1) 。患者の大多数は男性で、女性に比べ相対リスクは約5.5倍、受傷時平均年齢は約30歳である。
小児では重篤な眼外傷の発生率が年間10万人あたり11.8人とされる。重篤眼外傷の35%以上を小児が占め、その多くは12歳未満である。小児では弱視 リスクが加わるため、特に迅速な対応が求められる。
Q
穿孔性と穿通性の違いは何か?
A
穿孔性眼外傷は刺入創と刺出創の両方(二重穿孔)を持つのに対し、穿通性は刺入創のみで出口創がない。穿孔性は前後2箇所から眼内容が脱出し、後眼部損傷(Zone III)を伴うことが多いため、穿通性より重篤である。硝子体手術 を要する頻度も穿孔性で高い。
Mayer CS, et al. Open Globe Injuries: Classifications and Prognostic Factors for Functional Outcome. Diagnostics. 2021;11(10):1851. Figure 4. PM
CI D: PMC8534971. License: CC BY.
パネルA–Cは
角膜輪部 後方2mmの
強膜 に自己閉鎖した刺入創(黒矢印)を示す。パネルD–Fは
硝子体手術 中の術野で、
硝子体出血 除去後に後方の二次性裂傷(刺出創、矢印)が露出している。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う穿孔性に特徴的な前後2箇所の創に対応する。
眼痛 :受傷直後から生じる。穿孔創の大きさ・部位により程度が異なる。
視力 低下 :角膜 損傷・前房出血 ・水晶体 損傷・硝子体出血 などにより生じる。
複視 :外眼筋 や眼窩 の損傷を合併した場合に出現する。
異物感・霧視 :軽微な損傷では主訴がこれらにとどまることもある。
結膜下出血 :広範な場合は眼球開放性外傷を疑う。
浅前房 ・前房 消失 :房水 漏出を示唆する重要な所見である。
前房出血 (前房蓄膿 ) :隅角 離断や毛様体解離 を伴うことがある。
梨状瞳孔 :虹彩 が創部に嵌頓した場合に生じる。
ぶどう膜脱出 :前方の裂創からぶどう膜が脱出・嵌頓する。
低眼圧 :穿孔性眼球外傷を示唆する重要な所見である。
外傷性白内障 :前囊下皮質混濁やVossius輪、水晶体 動揺・脱臼を伴う。
硝子体出血 :後眼部への損傷波及を示す。
外傷性網膜裂孔 :上鼻側や下耳側に多い。受傷直後になくても後日に出現しうる。
穿孔性外傷では以下の所見が特徴的である。
後方刺出創の存在 :Zone III(輪部 後方5mm以上)領域に刺出創がある。
前後2箇所からの眼内容脱出 :硝子体 ・ぶどう膜が前後の創から脱出する。
眼球虚脱 :重篤例では眼球全体が虚脱状態となる。
深部出血 :後眼部損傷に伴う硝子体出血 ・脈絡膜 出血。
フルオレセイン 蛍光染色によるSeidel試験 は全層創の評価に有用である。コバルトブルー光下で房水 漏出により染料が洗い流される(Seidel陽性)ことで全層創を確認できる。
Q
前眼部所見が正常でも穿孔を疑うべきか?
A
低眼圧 ・高度の結膜下出血 ・前房出血 があれば眼球開放性外傷を疑う必要がある。前眼部所見が軽微でも、高速飛来物による受傷や刺傷の既往があれば穿孔の可能性を考慮し、CT撮影を行うべきである。刺入創があれば後眼部の刺出創を確認するためCT(1mm薄切)が必須である。
穿孔性眼外傷は鋭利な物体が眼球を貫通する力を持つ受傷機転で生じる。
鋭利な物体 :ナイフ・ハサミ・ドライバー・釘・棒など。小児では鉛筆・ペンが重要な原因となる。
高速飛来物 :金属片(サンダー・溶接時の破片)・ハンマー打撃時の破砕片・ガラス片など。
スポーツ関連 :野球(自打球・イレギュラーバウンド)・ゴルフボール・シャトルコック・BB弾など。
爆発外傷 :爆風波と飛散する金属片・ガラス片が多重損傷を生じる。
爆発外傷では複数の穿孔創を生じる例がある。ベイルート港爆発(2020年)では39患者48眼が損傷を受け、開放性外傷は10眼(20.8%)に達した2) 。54.2%が表面損傷であったが、53.8%が手術介入を要した。爆発時の破片・飛散ガラスが主な受傷原因であった2) 。
男性 :眼外傷の相対リスクは女性の約5.5倍である。
保護具の不使用 :電動工具・スポーツ時の眼保護具の不着用。
薬物・アルコール使用 :外傷リスクを増大させる。
小児の筆記用具 :鉛筆・ペンは無害と認識されがちだが深刻な眼外傷を引き起こす。
開放性眼球外傷における眼内炎 の頻度は2〜7%である。特に植物・土壌由来の感染は高率に失明に至る。白内障術後眼内炎 と異なり、Bacillus 属菌などの強毒菌による眼内炎 が問題となる。眼窩内異物 では嫌気性菌(破傷風菌)の感染も念頭に置く。
予防・日常のケア
電動工具やサンダーを使用する際は、必ず保護メガネを着用しましょう。
スポーツ時にはゴーグルやフェイスガードなど適切な保護具を使用しましょう。
鉛筆・ペンなど先が鋭い文房具を子供が扱う際は注意深く見守りましょう。
眼に何かが当たったと感じたら、こすらずに速やかに眼科を受診しましょう。
Q
爆発外傷で眼の損傷が起きるのはなぜか?
A
爆発では爆風波そのものと飛散する金属片・ガラス片の両方が眼を損傷する。ベイルート港爆発後の調査では、39患者48眼のうち10眼(20.8%)が開放性外傷を受け、飛散ガラス・破片による損傷が主な原因であった2) 。爆発外傷では複数の穿孔創・多眼損傷を生じる点が通常の眼外傷と異なる。
Mayer CS, et al. Open Globe Injuries: Classifications and Prognostic Factors for Functional Outcome. Diagnostics. 2021;11(10):1851. Figure 5. PM
CI D: PMC8534971. License: CC BY.
横断像(A)・前額断像(B)・矢状断像(C)で後極部に高吸収の金属異物(白矢印)が描出され、眼球の貫通経路と異物の後方到達が確認できる。本文「4. 診断と検査方法」の項で扱うCTによる眼内金属異物検出に対応する。
眼球開放性外傷の診断は、詳細な問診と慎重な診察・画像検査の組み合わせで行う。
受傷時刻・機序・原因物体を詳細に聴取する。保護メガネの着用の有無・破傷風の免疫状態・最終食事時間(全身麻酔の可能性のため)も確認する。意識レベル低下のある患者では家族・関係者からの情報収集が重要である。
検査法 主な適応 注意点 眼窩 CT異物検出・眼球変形・刺出創の位置確認 1mm薄切スライス推奨、全例適応 超音波Bモード 透見不良時の後眼部評価 圧迫禁止。開放創疑い時は慎重に X線 金属異物の検出 2mm以上・厚さ0.4mm以上で確認可能
CT検査 はすべての穿孔性眼外傷症例で適応となる。眼内異物 の位置・眼球変形・眼窩 骨折・頭蓋内病変を同時に評価でき、刺出創の後眼部への到達を確認できる。1mm薄切スライスが推奨される。
穿孔性外傷での追加確認事項 :刺出創が後眼部(Zone III)にある場合、CT横断・矢状断の両方で刺出創の位置を確認する。後極に近いほど視機能への影響が大きい。
MRI検査 は金属異物が疑われる場合は禁忌 である。非金属異物(木片・深部貯留液)の確認に限り使用可能である。
穿孔性眼外傷の治療は、感染と眼球内容脱出を防止する**創閉鎖(一次修復)**が最優先である。
眼球内容物が脱出している場合は眼球に圧力をかけずに保護眼帯を装着する。
眼瞼創部・結膜 囊内が汚染されている場合は生理食塩水で十分に洗浄する。
ベッドサイドでの異物除去は行わない。硬性アイシールドを装着し、手術室での制御下の除去を計画する。
全身麻酔に備え末梢血管を確保し絶飲食を指示する。
受傷後24時間以内 の一次修復が推奨される。系統的レビュー・メタ解析(15研究8,497眼)では、24時間以内の修復により眼内炎 リスクがOR 0.39(95%CI 0.19–0.79)に低減することが示された1) 。麻酔は基本的に全身麻酔を選択する。
10-0ナイロンを用いる。水密縫合を目標とするが、糸の締めすぎは角膜 乱視 ・不正乱視 を生じるため、バイトを長めにとる。
7-0ナイロン縫合を基本とし、創の部位に応じて6-0〜8-0ナイロンを選択する。まず4直筋を確保して創を探索する。創が深く直筋が邪魔な場合は一時的に切腱する。輪部 の創は9-0ナイロンで先に縫合し、角膜 創を10-0ナイロン、強膜 創を9-0ナイロンで端々縫合する。
刺出創が後眼部(Zone III)にある場合、外眼筋 の切腱・翻転が必要となることがある。後方強膜 創を直視下に探索して縫合する。後極に近い創は縫合が技術的に困難であり、経験豊富な術者が担当する。
グラム陽性菌・グラム陰性菌をカバーする広域抗菌薬の全身投与を行う。バンコマイシンと第3世代セファロスポリン(セフタジジムなど)の併用が眼内炎 発症率の低下と関連する。
眼内炎 が疑われた場合は早期の観血的治療が推奨される。前房 内に炎症が限局している場合は前房 洗浄を行い、前房 および硝子体 内にバンコマイシン1mg/0.1mLとセフタジジム2.25mg/0.1mLを注入する。硝子体 内に混濁が広がっている場合は緊急で硝子体 切除術を施行する。
穿孔性外傷では後眼部損傷の頻度が高いため、二次手術(硝子体手術 )を要する割合が穿通性より多い。以下の場合は一次修復に連続して一期的施行も考慮する。
水晶体 の膨化がすでに進行している場合
創口が直筋付着部を越えて後方に及ぶ場合
眼内異物 が残留している場合
硝子体出血 が高度で眼底透見不能の場合
3ポート硝子体手術 により混濁硝子体 を切除し、嵌頓硝子体 を解除する。ガスタンポナーデ またはシリコーンオイル タンポナーデを施行して網膜 復位・透見性を確保する。
治療における注意点
穿孔性外傷に対する手術は1回で治癒させることが非常に難しく、複数回の手術が必要となることが多い。
術後に増殖性硝子体網膜症 (PVR )・水疱性角膜症 ・続発緑内障 などの二次的合併症を生じうる。
後眼部の刺出創縫合は技術的に難易度が高く、網膜 ・脈絡膜 損傷を伴う場合は視機能予後が不良となりうる。
交感性眼炎 のリスクがあるため、受傷眼だけでなく僚眼の経過観察も必要である。
Q
受傷から手術まで何時間まで許容されるか?
A
受傷後24時間以内の一次修復が強く推奨される。系統的レビュー・メタ解析では、24時間以内の修復が眼内炎 リスクをOR 0.39(95%CI 0.19–0.79)に低減させることが示された1) 。ただし24時間以内であれば修復タイミングと最終視力 との間に有意差は認められていない(OR 0.89、95%CI 0.61–1.29)1) 。24時間未満でのさらに早い時間帯の比較は今後の課題である。
鋭的物体が眼球壁前面(角膜 ・前部強膜 )に刺入し、後面(後部強膜 )まで貫通して刺出する。この過程で眼内容(硝子体 ・ぶどう膜)が前後2箇所の創から脱出し、眼球虚脱に至る。穿通性外傷と異なり、刺出創側でも眼球内容の脱出・損傷が生じる点が特徴的である。
刺出創がZone III(輪部 後方5mm以上)に達すると、網膜 ・脈絡膜 ・視神経 への直接損傷が生じる。硝子体 が創部に嵌頓し、収縮による牽引が対側網膜 を引き裂くことがある。
直接的裂孔形成 :外力により直接網膜 に裂隙を生じ、同部から網膜剥離 が進展する。
二次的牽引 :刺入創・刺出創に嵌頓した硝子体 ゲルが収縮し、対側網膜 を牽引して網膜裂孔 ・網膜剥離 を惹起する。
穿孔性外傷では前後2箇所の嵌頓硝子体 があるため、牽引は多方向から生じ、複雑な網膜剥離 を形成しやすい。
外傷の初期治療後に以下の二次的変化が生じうる。
増殖性硝子体網膜症 (PVR ) :外傷後の機能的・解剖的不良転帰の主要原因。穿孔性で特にリスクが高い。
外傷性白内障 :水晶体 の穿孔損傷や鈍的衝撃により生じる。
続発緑内障 :前房出血 ・隅角 離断・虹彩 前癒着などに起因する。
眼内炎 :開放性外傷の2〜7%に発生する。Bacillus 属など強毒菌による重篤例もある。
交感性眼炎 :受傷眼のぶどう膜抗原に対する自己免疫反応で僚眼に炎症が生じる。潜伏期は数週から数年に及ぶ。
小児の弱視 :小児例では受傷後の視覚遮断・不同視 ・斜視 による弱視 が加わる。
McMasterら(2025)は、眼球開放性外傷後の一次修復タイミングと視覚転帰・眼内炎 発症率に関する系統的レビュー・メタ解析を実施した1) 。15研究8,497眼を対象とした解析で以下の結果を報告した。
眼内炎 リスク :24時間以内の修復でOR 0.39(95%CI 0.19–0.79)に低減。
最終視力 :修復タイミングによる有意差なし(OR 0.89、95%CI 0.61–1.29)。
エビデンスの確実性 :全研究が後方視的・非ランダム化試験であり、確実性は低いと評価。
著者らは24時間以内の修復を強く推奨しているが、夜間緊急手術 vs 翌朝手術の比較など、より細かい時間帯の検討は今後の前向き研究に委ねられている1) 。
Kheirら(2021)は、2020年8月のベイルート港爆発後に眼外傷を受けた39患者48眼の症例シリーズを報告した2) 。主な所見を以下に示す。
損傷パターン :54.2%が表面損傷(結膜裂傷 ・角膜異物 など)、20.8%が開放性外傷。
手術介入率 :53.8%が手術を要した。
重篤例 :光覚なし4眼(8.3%)は眼球摘出または蒸散を施行。
診療上の課題 :電子カルテ機能停止により基本的なアプローチへの回帰を余儀なくされた2) 。
爆発外傷では多発創・複数眼損傷に備えた体制整備が重要である。
眼外傷スコア(Ocular Trauma Score)は、受傷直後の視力 ・眼球破裂 の有無・眼内炎 ・穿通外傷・網膜剥離 ・RAPD の有無に基づいて視力 転帰の確率を推定する予後予測ツールである。戦闘関連眼外傷93例の研究では、視覚的生存(光覚あり以上)の予測感度94.8%・光覚なしの予測特異度100%と報告されている。OTSは穿孔性外傷での治療方針決定・患者説明に有用である。
McMaster D, Bapty J, Bush L, Serra G, Kempapidis T, McClellan SF, et al. Early versus Delayed Timing of Primary Repair after Open-Globe Injury: A Systematic Review and Meta-analysis. Ophthalmology. 2025;132(4):431-441. doi:10.1016/j.ophtha.2024.08.030. PMID:39218161.
Kheir WJ, Awwad ST, Bou Ghannam A, Khalil AA, Ibrahim P, Rachid E, El Salloukh NA, Yehia M, et al. Ophthalmic Injuries After the Port of Beirut Blast-One of Largest Nonnuclear Explosions in History. JAMA ophthalmology. 2021;139(9):937-943. doi:10.1001/jamaophthalmol.2021.2742. PMID:34351374; PMCI D:PMC8343520.
Luff AJ, Hodgkins PR, Baxter RJ, Morrell AJ, Calder I. Aetiology of perforating eye injury. Arch Dis Child. 1993;68(5):682-3. PMID: 8323341.
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