薬物療法
ステロイドパルス療法:プレドニン換算1,000mg/日 × 2〜3日間の静脈内投与が標準的な選択肢である。
大量ステロイド療法:プレドニゾロン換算80〜100mg/日の全身投与。パルス療法に準じた代替として用いられる。
高張浸透圧薬:グリセオール®またはD-マンニトール 300〜500mLを3〜7日間点滴投与し、視神経実質内浮腫を軽減する。
漸減:視力経過をみながら、ステロイドを段階的に減量する。
外傷性視神経症(Traumatic Optic Neuropathy; TON)は、前頭部・前額部、特に眉毛部を強打した際に、介達外力(直接の打撃ではなく衝撃が伝播する力)が視神経管に作用して視神経の打撲が発生した状態である。必ずしも視神経管骨折(視束管骨折)と関係しない点が重要で、骨折を認めない症例でも重篤な視神経障害が生じうる。
通常、眉毛外上方の鈍的外傷後に発症するため、大半の症例で眉毛外側に打撲による皮下出血や挫滅創を認める。
病態による分類は以下のとおりである。
頭部外傷全体の0.5〜5%にTONが発生するとされる。受傷機転は交通事故・スポーツ外傷・転落事故が多く、眉毛外上方への打撲が典型的なパターンである。単純X線やCTで視神経管変形が認められる症例は少数にとどまる。
2021年のベイルート港爆発では、39名48眼の爆発被害者が眼科的に評価された。眼窩骨折14眼(29.2%)、開放性眼外傷10眼(20.8%)が認められ、53.8%が手術的介入を要した1)。爆発性外傷もTONの原因となりうる(爆風誘発外傷性視神経症については「原因とリスク要因」の項を参照)。
外傷性視神経症は眉毛部への鈍的外傷による介達外力で視神経管部の視神経が損傷される疾患である。一方、視神経乳頭離断(avulsion)は篩状板レベルで視神経が物理的に離断される重篤な外傷であり、受傷直後から眼底で離断部位を確認できる点が異なる。外傷性視神経症では受傷直後の眼底は通常正常であることが鑑別のポイントとなる。
主症状は受傷直後からの視覚障害である。
受傷後の経時的変化を把握することが診断・管理において重要である。
| 時期 | 眼底所見 | OCT所見 |
|---|---|---|
| 受傷直後 | 通常正常(眼底異常なし) | 急性期変化は軽微 |
| 受傷2週後 | 乳頭変化が出現し始める | GCC厚が菲薄化し正常域を下回る |
| 受傷6〜8週後以降 | 視神経萎縮進行・乳頭蒼白化 | GCC厚は30〜50日前後で安定化 |
**相対的瞳孔求心路障害(RAPD)**は片側性・両側非対称例で最も重要な客観的所見であり、Marcus-Gunn瞳孔(患眼でswinging flashlight test陽性)として確認される。
否定できない。受傷直後は眼底に異常を認めないことが多い。視神経萎縮・乳頭蒼白化は受傷6〜8週後以降に出現し、OCTでのGCC厚菲薄化は受傷2週後頃から認められる。受傷直後の眼底正常所見は診断の除外根拠にはならず、RAPD(交互点減対光反射試験)などの機能的評価が重要である。
眉毛外上方への鈍的外傷が最も多い受傷機転である。衝撃が視神経管を介して伝播し、視神経実質内に血管原性浮腫を引き起こす(病態生理の詳細は「病態生理学」の項を参照)。
主な原因:
爆風過圧(blast overpressure)による衝撃波が眼構造を介して視神経に伝播し、剪断力・ストレスが加わることで視神経線維が損傷される。穿通性損傷や重大な鈍的外傷を伴わない点が特徴で、外見上の外傷痕がなくても視神経障害が生じうる。

視神経障害の診断に最も重要なのは、**交互点減対光反射試験(swinging flashlight test)**である。患眼では光を当てると瞳孔が散大し、RAPD陽性(Marcus-Gunn瞳孔)を確認する。視力や眼底所見が良好でも、この所見が視神経損傷の存在を示す。
以下の検査を組み合わせて評価する。
| 検査 | 主な所見 | 注意点 |
|---|---|---|
| 交互点減対光反射試験 | RAPD陽性(最重要) | 両眼同等障害例では偽陰性あり |
| 視力・視野検査 | 中心暗点・求心性狭窄・水平半盲 | 良好でも他機能異常が潜在しうる |
| 単純X線(視神経管撮影) | 視神経管骨折・変形 | CT普及後も補助として使用 |
| CT(眼窩・頭蓋) | 視神経管骨折・骨片位置・変形 | 骨折の約20%は見逃される |
| MRI(STIR序列) | 視神経腫脹・鞘内変化 | 外科的病変(鞘血腫等)の除外に有用 |
| OCT | GCC厚の経時的菲薄化 | 受傷2週後からモニタリング開始 |
| VEP(視覚誘発電位) | 伝導遅延・振幅低下 | 客観的な視神経機能評価 |
| 空間コントラスト感度 | 高コントラスト視力が正常でも異常あり | 機能障害の検出感度が高い |
早期(受傷後24〜48時間以内)に診断をつけ、視神経実質内浮腫の軽減・消退を迅速かつ的確に行うことが予後に大きく関わる。
薬物療法
ステロイドパルス療法:プレドニン換算1,000mg/日 × 2〜3日間の静脈内投与が標準的な選択肢である。
大量ステロイド療法:プレドニゾロン換算80〜100mg/日の全身投与。パルス療法に準じた代替として用いられる。
高張浸透圧薬:グリセオール®またはD-マンニトール 300〜500mLを3〜7日間点滴投与し、視神経実質内浮腫を軽減する。
漸減:視力経過をみながら、ステロイドを段階的に減量する。
手術療法
視神経管開放術:観血的手術の適応には異論が多い。視神経管の著明な変形や骨片の大きな変位により、視神経が明らかに障害されている症例を除き、視神経実質内浮腫の軽減は手術では達成しにくいとの意見も多い。
経鼻的内視鏡アプローチ:近年、内視鏡による経鼻的方法にて低侵襲で施行できるようになった。
適応の限定:視神経管の著明な変形・骨片の大きな変位例が適応の目安となる。
IONTSでは、ステロイド療法・視神経管開放術・経過観察の比較が行われ、いずれも有意な優位性を示すことができなかった2)。治療選択は全身状態・受傷の重症度・骨折の有無を考慮した個別判断となる。
IONTS(国際外傷性視神経症研究)では、ステロイド療法・視神経管開放術・経過観察のいずれも有意な優位性を示せなかった。受傷後に光覚弁消失が短時間で回復しない重症例は治療反応が乏しい傾向がある。ステロイドパルス療法は視神経実質内浮腫の軽減を目的として行われるが、その有効性は個人差が大きく、全身状態・受傷機転・重症度を総合的に考慮して適応を判断する。
視神経損傷の主因は、打撲によって発生した視神経実質内(脳の白質に相当する組織)での血管原性浮腫と考えられている。頭部打撲による脳浮腫と同様の病態であり、血腫や骨片による視神経管部での視神経線維への直接損傷はむしろ少ない。
この血管原性浮腫が視神経管という骨管内で視神経を圧迫し、コンパートメント症候群に類似した機序で血流障害・虚血・軸索損傷が進行する。
爆風過圧が発生させる衝撃波は眼構造を介して伝播し、視神経線維に剪断力・ストレスを生じる。これが剪断性軸索損傷を引き起こし、神経炎症・機能障害へと進行する。肉眼的な損傷は認めないが、組織レベルでは軸索損傷・グリオーシス・炎症が生じる。
動物モデル(Rexら)では以下が確認されている:
緑内障
軸索変性の方向:遠位→近位への変性。
組織変化:アストロサイトリモデリングが生じる。
炎症:多様なサイトカインが上昇する。
直接的外傷性視神経症
損傷部位:明確な損傷部位が存在する。
進行:急速かつ進行性の軸索変性・細胞死。
機序:直接的な機械的圧迫・剪断が主体。
爆風誘発型TON
損傷部位:肉眼的損傷なし。衝撃波による広範な影響。
炎症:IL-1α・IL-1βに限定した上昇パターン。
特徴:緑内障・直接的外傷性視神経症とは異なる独特の神経病理を示す。
研究段階の治療候補を以下に示す。
| 治療法 | 研究状況 | 備考 |
|---|---|---|
| エリスロポエチン(EPO) | パイロット研究 | 外傷性視神経症患者でのアウトカム改善が報告(Kashkouliら) |
| カスパーゼ-2 siRNA | 動物モデル | 空気爆風誘発眼外傷モデルで調査中(Thomasら) |
| 神経保護因子(BDNF等) | 基礎研究段階 | 神経変性・炎症因子の抑制を標的とした研究が進行中 |
| 硝子体内注射 | 動物モデル | 損傷1日後の投与が変性軸索を増加させる可能性(Naguibら)。急性期の投与には注意 |
Kashkouliらのパイロット研究では、外傷性視神経症患者にEPOを投与し、視覚的アウトカムの改善が報告されている。爆風誘発型への直接的な適用については今後の研究が必要である。
神経保護・神経再生因子の強化、神経変性・炎症因子の抑制を標的とした研究が現在進行中であり、今後の臨床応用が期待される。