血液検査
ESR:感度86%。70〜120 mm/hに達することもある。基準値は1時間値で男性=年齢÷2、女性=(年齢+10)÷2。ただし最大10%で正常値を示す。
CRP:感度97.5%。ESRより特異度が高い。2022年ACR/EULAR分類基準ではCRP≥10 mg/Lが追加項目となった4)。
ESR+CRP併用:感度99.2%、特異度97%。急性期反応蛋白は80%以上で亢進する。
その他:血小板増多症・CRPと血小板の組み合わせが最も診断有用性が高い(p<0.001)4)。
動脈炎性前部虚血性視神経症(Arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy; AAION)は、栄養血管の血管炎による視神経虚血が原因である。血管炎では血管壁肥厚による血管腔狭小化・血栓形成により虚血性壊死が起こる。視神経乳頭を栄養している短後毛様動脈(SPCAs)の血管炎がその本態とされる。前部虚血性視神経症全体の5〜10%を占め、大多数は非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)である。
原疾患として巨細胞動脈炎(Giant Cell Arteritis; GCA、旧側頭動脈炎)が最多であり、その他にも帯状疱疹・再発性多発軟骨炎・高安動脈炎・関節リウマチ・結節性動脈周囲炎・SLE・アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)などが原疾患となる。
GCAは中〜大型血管を侵す全身性肉芽腫性血管炎である。10世紀バグダッドのAli Ibn Isa al-Kahhalによる記述が最古とされる。1890年にHutchinsonが頭部の痛みを伴う赤い筋を記述し、1932年にBayard Hortonが初の側頭動脈生検を実施して肉芽腫性血管炎として記載した。1941年にGilmourが巨細胞を初めて記述したことから現在の病名が定着した。
50歳以上の女性に多く(男女比1:3)、70歳以上で急激に発症率が増加する。GCA発症年齢の中央値は75歳である。AAIONの推定年間発症率は50歳以上で10万人あたり0.36とされる。
GCAの視覚合併症は10〜30%(最大70%の報告もある)に発生し、AAIONはGCAに伴う視力喪失の60〜90%を占める3)。GCA発症率は年齢とともに増加し、60歳代で10万人あたり2.3例、90歳代で44.7例に達する。
北欧系白人で最多(ノルウェーでは10万人あたり約30人)であり、黒人・東洋人にはまれである。日本での発症率は10万人あたり1.47人と欧米に比べて極めてまれである。欧州では50歳以上の原発性全身性血管炎の中で最も多く、毎年100万人あたり32〜290人の発症が報告されている6)。
AAIONは前部虚血性視神経症全体の5〜10%を占め、巨細胞動脈炎などの血管炎が原因である。視力予後はNAIONより著しく不良で、60%以上が視力20/200未満となる。NAIONでは対側眼乳頭に「disc at risk」(小乳頭・小陥凹)がみられるが、AAIONでは対側乳頭径と生理的陥凹は正常である。鑑別にはESR・CRPなどの炎症マーカーが有用であり、NAIONではこれらの上昇はみられない。

GCAでは高齢者に急激な片眼もしくは両眼の視力低下として発症する。前駆症状として一過性黒内障を自覚していることが多い。無治療では短期間のうちに高頻度で僚眼にも発症する。
ある。潜在性巨細胞動脈炎(occult GCA)と呼ばれる病態がAAION患者の最大20%に存在し、頭痛・顎跛行などの典型的な全身症状を欠く。全身症状がないからといって巨細胞動脈炎を否定することはできず、血液検査(ESR・CRP)や側頭動脈生検による評価が必須である。
血管炎では血管壁肥厚による血管腔狭小化・血栓形成により虚血性壊死が起こる。短後毛様動脈(SPCAs)の血管炎が前部視神経の虚血を引き起こし、脈絡膜の分節状虚血も伴う。
眼への直接的機序は以下の通りである。
血管壁の樹状細胞が疾患の主要寄与因子として機能する。外膜の栄養血管(vasa vasorum)を通じてマクロファージ・T細胞が侵入し、病原性カスケードを開始して中型〜大型動脈を侵す肉芽腫性血管炎を引き起こす。
AAIONの診断は巨細胞動脈炎確定診断と並行して進める。AAIONとNAIONの鑑別が治療方針に直結するため、迅速かつ系統的な評価が重要である。
| 項目 | AAION | NAION |
|---|---|---|
| 年齢 | 50歳以上(多くは75歳以上) | 40歳以上 |
| 視力低下の程度 | 重度(多くが20/200未満) | 比較的軽度 |
| 乳頭所見 | 蒼白浮腫(pallid swelling) | 充血性浮腫(発赤腫脹) |
| 健眼乳頭 | 正常(disc at riskでない) | disc at risk(小乳頭・小陥凹) |
| 全身症状 | あり(発熱・頭痛・顎跛行) | なし |
| 炎症マーカー | ESR/CRP上昇 | 正常 |
| 一過性黒内障 | しばしば先行 | 極めて稀 |
| 脈絡膜充盈遅延 | あり(分節状) | 特徴的でない |
| 治療 | ステロイド大量必須 | 確立した治療なし |
血液検査
ESR:感度86%。70〜120 mm/hに達することもある。基準値は1時間値で男性=年齢÷2、女性=(年齢+10)÷2。ただし最大10%で正常値を示す。
CRP:感度97.5%。ESRより特異度が高い。2022年ACR/EULAR分類基準ではCRP≥10 mg/Lが追加項目となった4)。
ESR+CRP併用:感度99.2%、特異度97%。急性期反応蛋白は80%以上で亢進する。
その他:血小板増多症・CRPと血小板の組み合わせが最も診断有用性が高い(p<0.001)4)。
側頭動脈生検(TAB)
位置づけ:巨細胞動脈炎確定診断のゴールドスタンダード。適切に施行された場合、感度・特異度ともに95%以上。
陽性所見:内膜肥厚、内弾性板の断裂、巨細胞を伴う慢性炎症性浸潤。病理確定には内弾性板の破壊と炎症細胞浸潤(急性期)または線維化(慢性期)を要する。巨細胞は確定診断に必須ではない。
偽陰性:スキップ病変(skip lesion)による偽陰性率3〜5%。最大61%との報告もある6)。TAB陰性でもGCAは否定できない。
実施時期:ステロイド加療開始後でも数日以内に生検を行うべきである。
画像診断
側頭動脈超音波(CDUS):非侵襲的・反復可能な検査。感度77%、特異度96%4)。halo sign(血管壁肥厚による低エコー環)・compression sign・狭窄・閉塞が特徴的所見。スキップ病変のため両側・多領域の包括的検索が重要4)。両側でhalo signが陽性の場合、特異度は100%に上昇する4)。
PET-CT:大血管型GCA(LV-GCA)で大動脈・分枝の異常集積を検出可能。GAPS studyで感度92%、特異度85%6)。
MRI:AAIONとNAIONの鑑別に有用。視神経鞘と眼窩脂肪の造影効果(central bright spot)を確認する。
眼科的検査
1990年ACR分類基準では以下の5項目中3項目以上で分類する。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 発症年齢 | 50歳以上 |
| 新たな頭痛 | 新発の局所性頭痛 |
| 側頭動脈異常 | 圧痛または脈拍減弱 |
| 赤血球沈降速度 | ≥50 mm/h |
| 動脈生検 | 単核細胞浸潤または肉芽腫性炎症 |
2022年ACR/EULAR分類基準ではCRP≥10 mg/Lが追加され、より包括的な診断が可能になった4)。
結節性多発性動脈炎・多発血管炎性肉芽腫症(Wegener)・SLEなどの他の血管炎と鑑別する。GCAでは肺や腎臓が侵されないことが重要な鑑別点である。眼梅毒がGCA類似症状を呈することがある10)。全身症状を欠く潜在性GCA(約20%)にも留意する。
否定できない。スキップ病変(炎症が血管の一部にのみ存在する)による偽陰性率は3〜5%(最大61%との報告もある6))。TABが陰性でも、ESR・CRPの上昇を伴う臨床的GCA疑いでは治療を継続すべきである。臨床所見・血液検査・超音波所見を総合的に判断することが重要である。
視力障害が疑われた時点で、生検による確定診断を待たずに早急に治療を開始する。治療の主目的は僚眼の発症予防であり、罹患眼の視力改善はほとんど期待できない。治療により視力が改善するのは15〜20%に過ぎない。入院でのステロイド大量点滴療法が望ましい。
眼・中枢神経症状がない場合はプレドニゾロン30〜40mg/日から開始することもある。
| 投与量 | 期間 |
|---|---|
| プレドニゾン60 mg | 2週間 |
| プレドニゾン50 mg | 2週間 |
| プレドニゾン40 mg | 2週間 |
| プレドニゾン30 mg | 1週間 |
| プレドニゾン20 mg | 1週間 |
| プレドニゾン10 mg | 1週間 |
全身状態・ESR・CRPを指標として漸減速度を個別に調整する。
長期ステロイド投与に伴う副作用(クッシング様症候群・高血糖・骨粗鬆症・消化器症状など、約60%に発生)が問題となる場合に検討する。
罹患眼の視力改善はほとんど期待できない。視力が改善するのは15〜20%程度であり、多くの症例では視力低下が残存する。ステロイド治療の主目的は僚眼への発症を予防することである。
巨細胞動脈炎の病態は2つの主要な免疫反応機序からなる。血管壁の樹状細胞が活性化されることを起点とするT細胞媒介性肉芽腫性血管炎であり、中型〜大型動脈を選択的に侵す。
全身性炎症反応
IL-6媒介の自然免疫反応:循環マクロファージ・好中球・単球がIL-6を産生する。
急性期反応の過剰活性化:CRP・ハプトグロビン・フィブリノーゲン・補体の上昇と相関する。
全身症状の原因:発熱・倦怠感・体重減少などを引き起こす。
標的療法:IL-6–Th17–IL-17/IL-21軸はグルコルチコイドおよびトシリズマブ(IL-6阻害薬)によって抑制可能である。
抗原特異的反応
動脈壁への侵入:外膜の栄養血管(vasa vasorum)を利用してマクロファージとT細胞が侵入する。
免疫カスケード:活性化T細胞→CD4+ T細胞動員→Th1/Th17分極→IFN-γ/IL-17産生→単球動員→マクロファージ分化→巨細胞形成。
血管壁破壊:メタロプロテアーゼと活性酸素中間体による内弾性板の破壊が生じる。
B細胞の非関与:B細胞の関与は確認されておらず、ANCA関連血管炎との重要な鑑別点となる。
内弾性板の断裂が特徴的であり、巨細胞は断裂した内弾性板の近くに位置する。急性期はリンパ球浸潤が主体であり、慢性期には線維化が生じる。炎症に対する治癒反応として内膜肥厚・筋線維芽細胞増殖・細胞外マトリックス沈着が生じ、血管狭窄・閉塞をきたす。
経口JAK1選択的阻害薬であるウパダシチニブが2025年にGCA治療薬としてFDA承認を受けた。IL-6–JAK–STAT経路を標的とする新規治療選択肢として注目されている。
トシリズマブはRCTでGCスペアリング効果と12ヶ月にわたる寛解達成の有効性が証明されており4)、GCの長期投与に伴う毒性を軽減する代替療法として確立されつつある。
超音波を活用した巨細胞動脈炎迅速診断経路が欧州で普及しつつある。fast-track pathwayの導入により視力喪失の減少、過剰治療の抑制、費用対効果の改善がもたらされることが示されている4)。超音波は非侵襲的・反復可能であり、多数の動脈領域を一度に評価できるため、早期診断の主要ツールとして位置づけられる。
骨髄異形成症候群(MDS)を背景に発症するGCA亜型(GCA-MDS)が認識されている。MDS患者の10〜20%に自己免疫疾患が発症するとされる。GCA-MDSは典型的GCAより古典的症状(頭痛・顎跛行・AAIONなど)の有病率が低い可能性があり、ステロイド依存性に陥りやすく無ステロイド生存率・無再発生存率が低下する傾向がある。低メチル化薬(アザシチジン/デシタビン)の追加が有益な可能性があり、前向き研究(NCT02985190)が進行中である。最大規模の報告は2019年フランス多施設21例である。
COVID-19パンデミック中にGCA発症率が70%増加したとする報告がある2)。複数の報告では、2020年にGCA症例が増加し、眼合併症率の上昇や内皮障害・Th1免疫・単球マクロファージ系の関与が推察されている2)。SARS-CoV-2がGCAをトリガーした可能性を示す症例報告も存在する。
COVID-19ワクチン接種後のGCA発症例が複数報告されている。Yoshimotoら(2023)は14症例のレビューを行い、発症から診断までの期間が2週〜4ヶ月(平均約6週)であることを報告した8)。14例中2例で失明が生じた。
Sverdlichenkoら(2022)は53例のGCA患者中2例にHorner症候群(部分的眼瞼下垂と縮瞳)合併を報告した5)。推定メカニズムは椎骨動脈とその分枝の血管炎による脳幹内の第一次交感神経ニューロンの虚血である。50歳以上の新規Horner症候群ではGCAの症状確認と炎症マーカー検査を推奨する。
GCAは視覚以外にも多様な虚血性合併症を引き起こしうる3)。
Hayrehら(2021)はインド系5兄弟のうち3名が巨細胞動脈炎を発症した症例を報告し、常染色体劣性遺伝パターンを示唆した7)。非白人における初の家族性GCA報告として注目されている。