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ぶどう膜炎

全身性エリテマトーデス(SLE)の眼症状

1. 全身性エリテマトーデス(SLE)とは

Section titled “1. 全身性エリテマトーデス(SLE)とは”

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)は、免疫系の慢性的な過剰活性化により全身多臓器に炎症を引き起こす自己免疫疾患である。古典的5大膠原病の一つに数えられる。

20〜30歳代の女性に好発する。男女比は約1:8〜1:9で女性に圧倒的に多い。アジア系に多く、白色人種に少ない。有病率は人口10万人あたり50〜100人とされる。

SLEの診断基準は以下のように変遷してきた。

  • 米国リウマチ学会(ACR)基準(1997年最終改訂):11の臨床的・免疫学的項目のうち4項目以上で診断
  • SLICC基準(2012年):17項目に拡大し、4項目以上で診断
  • 欧州リウマチ学会/米国リウマチ学会基準(2019年):抗核抗体(ANA)陽性を必須条件とし、重み付けスコア合計10点以上で診断

米国リウマチ学会の改訂診断基準では、蝶形紅斑、円板状皮疹、光線過敏症、口腔潰瘍、関節炎、漿膜炎、腎障害、神経障害、血液異常、免疫異常、抗核抗体の11項目のうち4項目以上が経過中に陽性となれば診断可能である。

また、ぶどう膜炎診療ガイドラインでは、SLEは膠原病に伴うぶどう膜炎の鑑別疾患として扱われる1)。眼所見と全身症状を組み合わせ、膠原病内科と連携して評価する。

Q SLEの眼症状は診断基準に含まれるか?
A

含まれない。約30%の患者で眼症状がみられるが、眼症状自体はSLEの診断基準の項目には入っていない。

全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う両眼の網膜血管炎・脈絡網膜病変を示す蛍光眼底造影とOCT
Özdal PÇ, et al. Choroidal involvement in systemic vasculitis: a systematic review. J Ophthalmic Inflamm Infect. 2022. Figure 5. PMCID: PMC8980189. License: CC BY.
両眼の蛍光眼底造影視神経乳頭網膜血管周囲の漏出、後極部の斑状病変がみられる。OCTでは網膜下液を伴い、SLEに伴う後眼部炎症性病変の所見を示している。

眼の愁訴は患者の約33〜50%に認められる。症状は軽度の刺激感から重篤な視力低下まで多岐にわたる。

  • 乾燥感・異物感:最も多い訴え。二次性シェーグレン症候群によるドライアイに起因する。灼熱感、かすみ目、夕方の症状悪化を伴う。
  • 視力低下:ループス網膜症や視神経炎で生じる。無症候性の眼底変化から急激な視力低下までさまざまである。
  • 眼痛視神経炎では眼球運動時に悪化する眼窩周囲の痛みが特徴的である。
  • 羞明まぶしさドライアイや前眼部炎症に伴い出現する。
  • 色覚異常視神経炎では赤緑の色覚障害がほぼ全例に認められる。

SLEの眼病変は多彩であり、眼球のほぼ全層に及ぶ。

部位主な所見
前眼部乾性角結膜炎強膜炎上強膜炎
後眼部軟性白斑、網膜出血、血管閉塞
神経眼科視神経炎眼球運動障害

ループス網膜症は最も重要な後眼部病変である。通常両眼性で、疾患活動性の高い時期に多くみられる。

  • 軟性白斑(cotton wool spots):最もよくみられる網膜所見
  • 網膜出血・Roth斑:局所の循環障害による
  • 微小血管瘤・硬性白斑:微小血管症に基づく
  • 血管蛇行・鞘形成(sheathing):血管炎の徴候
  • 動静脈閉塞網膜中心動脈閉塞症CRAO)や網膜中心静脈閉塞症CRVO)も起こりうる
  • 漿液性網膜剥離網膜色素上皮剥離脈絡膜循環障害やステロイド内服の関与が推測される

抗カルジオリピン抗体陽性は、ループス網膜症、とくに閉塞性病変と関連する2)

  • 乾性角結膜炎:患者の約30%にみられる。涙液減少型ドライアイである。
  • 強膜炎:前部びまん性あるいは結節性強膜炎が数%にみられる。ステロイドに対する反応性は良好である。壊死性強膜炎の場合は重症化しうる。
  • 円板状病変:眼瞼に及ぶと瘢痕性眼瞼内反や外反を引き起こす。
  • 視神経炎:約1%に発生。視神経乳頭の蒼白や浮腫、相対的瞳孔求心路障害RAPD)を認める。
  • 眼球運動障害:中枢神経病変により動眼神経・外転神経が障害を受ける。約30%にみられる。
Q SLEでぶどう膜炎は起こるか?
A

ぶどう膜炎の合併は意外に少ない。SLEでは虹彩毛様体炎が合併することがあるが、軽症であることが多い。ぶどう膜炎が認められた場合は、他の原因を検討すべきである。

SLEに関連する80以上の遺伝子座の変異が特定されている。感受性遺伝子と保護的遺伝子の複雑なバランスが発症に関与する。

  • 紫外線(UV)曝露:光線過敏症としてSLE発症を誘発する
  • ウイルス抗原への曝露:感染症が契機となる
  • 薬剤:プロカインアミド、ヒドララジン、クロルプロマジンなどの使用
  • その他:手術、外傷、精神的ストレス

女性に圧倒的に多いことから、エストロゲンやその他のホルモンの関与が推測されている。妊娠可能年齢に多いことはこの仮説を支持する。

ループス網膜症は疾患のコントロール不良と関連する。抗カルジオリピン抗体陽性は閉塞性病変の発症に重要な役割を果たす2)

SLEの診断には以下の検査が推奨される。

  • 血液検査:全血算(CBC)、基本代謝パネル(BMP)
  • 免疫学的検査:抗核抗体(ANA)、抗dsDNA抗体、抗リン脂質抗体
  • 炎症マーカー:赤沈(ESR)、CRP、C3/C4値
  • その他:抗SS-A抗体・抗SS-B抗体(二次性シェーグレン症候群の評価)

特に抗核抗体は活動期にはほとんどの症例で陽性となり、病勢の把握に有用である。ぶどう膜炎スクリーニングとしてぶどう膜炎診療ガイドライン推奨の基本項目(HLA-B27、胸部X線、梅毒血清反応、QFT-3G、ACE、ANA)も確認する1)

  • 涙液メニスカス測定:1mm未満で異常
  • 涙液層破壊時間(TBUT:10秒未満で異常
  • 結膜染色フルオレセイン、ローズベンガル、リサミングリーンを使用
  • シルマー試験:非麻酔下15mm以上が正常。点眼麻酔下では5mm以上が正常
  • 眼底検査散瞳下で綿花様白斑、出血、血管異常を評価する
  • 蛍光眼底造影(FFA網膜血管炎および血管閉塞の評価に重要。漏出、毛細血管拡張、閉塞、微小血管瘤を検出できる
  • インドシアニングリーン(ICG)造影:FFAでは視覚化されない脈絡膜症を脈絡膜過蛍光として検出する
  • OCT-A(光干渉断層血管撮影:不顕性網膜症における網膜構造変化のモニタリングに有用な可能性がある(研究段階)
  • 蛍光眼底造影:乳頭周囲毛細血管の拡張、充填不全、過蛍光の漏出を確認
  • ガドリニウム造影MRI視神経視交叉の拡大・増強を検出する

SLEの多彩な症状は他疾患との鑑別を要する。

Q SLE網膜症と糖尿病網膜症はどのように見分けるか?
A

SLE網膜症は糖尿病網膜症に比べ、より閉塞性の性質が強く、深刻な虚血を引き起こしやすい。糖尿病の既往やHbA1c高値の有無が鑑別に重要である。蛍光眼底造影では、SLEでは網膜血管からの旺盛な蛍光漏出と細小血管異常が急性期に認められる。

SLEの眼症状の治療は、原疾患のコントロールが最も重要である。膠原病内科医との連携が不可欠である。

原疾患治療の基本は副腎皮質ステロイドの全身投与である。

  • 眼・中枢神経症状がない場合:プレドニゾロン(PSL)30〜40mg/日
  • 眼・中枢神経症状がある場合:PSL 1mg/kg/日を3〜4週間投与後、症状や炎症マーカーを指標に漸減
  • 活動性ループス網膜:ソル・メドロール注 1g/日×3日間 点滴静注(パルス療法)後、プレドニン錠 40〜60mg/日から漸減

網膜血管炎により進行性の血管閉塞をきたす症例では抗凝固療法が必要である。ワーファリン錠 2〜5mg/日をPT-INR 1.5〜2になるよう調整する。

ステロイドの効果不十分例やステロイド抵抗性例では以下を使用する。

  • ベリムマブ(ベンリスタ®):BLyS/BAFF 阻害薬。SLE 保険適用。BLISS-52試験で疾患活動性の有意な低下を確認3)
  • アニフロルマブ(サフネロー®):抗 IFNAR1 抗体(I型 IFN 受容体阻害)。2022年日本承認。中等症〜重症 SLE の疾患活動性を有意に改善4)
  • ボクロスポリン(カルシニューリン阻害薬):ループス腎炎への適応

SLEのフレア(再燃)を減少させるために広く使用される。眼科的には網膜毒性に注意が必要である(「ヒドロキシクロロキンの眼毒性」の項参照)。

乾性角結膜炎

人工涙液:1日4〜6回点眼。重症例では防腐剤無添加を1時間ごと。

ヒアレイン点眼液(0.1%):1日4〜6回。

涙点プラグ:進行例に使用する。

シクロスポリン点眼(1日2回):効果発現まで数ヶ月を要する。

強膜炎

ステロイド点眼:リンデロン点眼液(0.1%)1日2〜6回。充血消失後、徐々に減量・中止する。

NSAIDs内服:点眼に反応不良の上強膜炎に追加する。

全身投与:重症例ではステロイドや免疫抑制薬の全身投与が必要となる。

  • 網膜光凝固術蛍光眼底造影網膜新生血管が確認された場合、硝子体出血予防の目的で直ちに施行する。広範な網膜血管閉塞に対しても予防的に行う。
  • 硝子体手術増殖性硝子体網膜症に対して必要となる。
  • 血漿分離交換法(plasmapheresis):重症例で使用される。
  • 漿液性網膜剥離蛍光眼底造影網膜色素上皮層からの蛍光漏出点を確認し、その漏出点に対して網膜光凝固術を行う。
  • メチルプレドニゾロン静脈内パルス療法:1g/日×3日間、その後経口プレドニゾン1mg/kg/日で漸減
  • ステロイド抵抗性:最大3分の1の症例でみられる。シクロホスファミド静脈内パルス療法を6ヶ月間行う。
  • 再燃ステロイド漸減中の再燃は約37%にみられ、再治療が必要となる。

ヒドロキシクロロキンの眼毒性

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ヒドロキシクロロキンは網膜色素上皮RPE)のメラニンに結合し、黄斑症を引き起こす可能性がある。

黄斑症のリスク因子:

  • 生涯総投与量1,000g以上(クロロキンは450g以上)
  • 1日投与量5mg/kg以上(2016年 AAO 改訂推奨)5)
  • 肝機能・腎機能の低下
  • 肥満・65歳以上・既往の黄斑

毒性の徴候:

  • 両側性の傍中心視野欠損
  • 内節外節接合部の消失(SD-OCT上の「フライングソーサー」サイン)
  • 進行性の色素変化(古典的な「牛眼様(bull’s eye)」黄斑症)

スクリーニング推奨(AAO 2016改訂)5):

投与開始後5年間はベースライン検査のみ。5年目以降は毎年のハンフリー10-2視野検査とSD-OCT眼底自発蛍光を推奨。高リスク因子がある場合は5年より前から開始する。黄斑症が認められた場合は薬剤を中止する。

Q ヒドロキシクロロキンを使用中の定期検査はどのくらいの頻度が必要か?
A

使用開始後5年間はベースライン検査のみでよいが、5年目以降は毎年の眼底検査が推奨される。ハンフリー10-2視野検査とSD-OCTが主要なスクリーニング法である。高リスク因子(腎機能低下、高用量、長期使用)がある場合はより早期から検査を開始すべきである5)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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SLEの病態は、自己寛容の喪失と自己抗体の過剰産生に基づく。

  • 自己寛容の破綻:遺伝的・環境的素因により自己抗原に対する免疫寛容が失われる
  • T細胞の異常:ヘルパーT細胞が過剰に活性化し、制御性免疫細胞が減少する
  • B細胞の成熟異常:B細胞はより速く成熟し、アポトーシスが抑制される。形質細胞が長寿命化し、過剰な自己抗体を産生する
  • I型インターフェロン経路の亢進:BLyS/BAFF を介した B 細胞過剰活性化
  • 免疫複合体の形成:自己抗体が核、核内、細胞質の自己抗原に結合し、炎症性サイトカインの放出を導く
  • 組織障害:慢性炎症、免疫複合体の沈着、アポトーシス細胞の除去不全が組織・臓器の損傷を引き起こす

SLEの病理所見を特徴づけるのは、小血管および毛細血管のフィブリノイド壊死を伴う血管炎である。フィブリノイド物質はフィブリン、免疫複合体、補体から成る。

ループス網膜症の病態生理には二重の機序が関与する。

  • 免疫複合体型血管炎:血管内皮への免疫複合体の沈着が補体を活性化し、炎症メディエーターを放出させる。これにより非灌流と虚血が生じる。
  • 血栓性機序:抗リン脂質抗体症候群の発症により網膜血管の血栓症を引き起こす。抗カルジオリピン抗体陽性は閉塞性ループス網膜症と関連する2)

無灌流領域が広がると、新生血管が出現し、増殖性硝子体網膜症、さらには血管新生緑内障へと進展しうる。

慢性炎症と免疫複合体の沈着に加え、二次性シェーグレン症候群の発症が主たる原因である。涙腺への自己免疫性攻撃により涙液分泌が低下する。

Q SLE網膜症が糖尿病網膜症より重症化しやすいのはなぜか?
A

SLE網膜症では免疫複合体による血管炎と抗リン脂質抗体による血栓形成の二重の機序が働くため、より閉塞性の強い病態を示す。糖尿病網膜症に比べ深刻な虚血を引き起こしやすく、血管閉塞性病変はより悪い視力予後と関連する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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OCT-Aによる不顕性網膜症のモニタリング

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光干渉断層血管撮影OCT-A)は、従来の蛍光眼底造影では検出困難な不顕性の網膜微小血管変化を非侵襲的に評価できる新しい画像診断法である。SLE網膜症の早期発見やモニタリングへの応用が期待されているが、その有用性はまだ十分に研究されていない段階にある。

難治性 SLE に対する CD19 指向性 CAR-T 療法では、少数例の治療抵抗性患者で薬剤なしの寛解が報告されている6)。眼合併症への長期的影響は今後の課題である。

アニフロルマブ(I型 IFN 受容体阻害薬)は活動性 SLE の疾患コントロールを改善し、眼合併症への間接的な効果が期待される4)。眼科領域における個別の有効性データは引き続き蓄積中である。


  1. 日本眼炎症学会ぶどう膜炎診療ガイドライン作成委員会. ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(6):635-696.

  2. Stafford-Brady FJ, Urowitz MB, Gladman DD, Easterbrook M. Lupus retinopathy. Patterns, associations, and prognosis. Arthritis Rheum. 1988;31:1105-1110.

  3. Navarra SV, Guzmán RM, Gallacher AE, et al. Efficacy and safety of belimumab in patients with active systemic lupus erythematosus: a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial (BLISS-52). Lancet. 2011;377:721-731. doi:10.1016/s0140-6736(10)61354-2.

  4. Morand EF, Furie R, Tanaka Y, Bruce IN, Askanase AD, Richez C, Bae SC, Brohawn PZ, Pineda L, Berglind A, Tummala R, TULIP-2 Trial Investigators.. Trial of Anifrolumab in Active Systemic Lupus Erythematosus. N Engl J Med. 2020;382(3):211-221. doi:10.1056/nejmoa1912196. PMID:31851795.

  5. Marmor MF, Kellner U, Lai TYY, et al. Recommendations on screening for chloroquine and hydroxychloroquine retinopathy (2016 Revision). Ophthalmology. 2016;123:1386-1394.

  6. Mackensen A, Müller F, Mougiakakos D, et al. Anti-CD19 CAR T cell therapy for refractory systemic lupus erythematosus. Nat Med. 2022;28:2124-2132. doi:10.1038/s41591-022-02017-5.

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