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ぶどう膜炎

梅毒性ぶどう膜炎

梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)が血行性に眼部に侵入し、眼内炎症を引き起こす病態が梅毒性ぶどう膜炎である。梅毒はスピロヘータの一種である Treponema pallidum による性感染症で、症状のある顕性梅毒は第1期から第4期まで区分される。近年、第3・4期の梅毒に遭遇することはまれで、大半が皮膚や粘膜に病変を認めない潜伏梅毒である。後天梅毒でぶどう膜炎が発症するのは第2期のおよそ5%とされる。先天性梅毒による眼病変は周産期医療の充実から国内では新鮮例をほとんど認めない。

世界全体で年間570〜600万件の新規梅毒感染が15〜49歳で報告される1)5)。眼梅毒の頻度は梅毒全症例の約0.6〜2%とされ1)2)感染性ぶどう膜炎全体の約10%を占める3)。North Carolinaの研究では4,232例中63例(1.5%)に眼梅毒が認められ、そのうち38%が第1期・第2期の時点で診断された1)

国内でも感染例が再び増加しており、2011年には1,000件未満であった報告数が2017年には6,000件を超えるまでに至っている。近年はMSM(男性と性交渉を持つ男性)やHIV共感染を含む患者を中心に増加傾向にある。臨床像が多彩なため「偉大なる模倣者(the great imitator)」と呼ばれる1)5)。治療上は神経梅毒に準じて扱う。

Q 眼梅毒はどの病期で発症するのか?
A

眼梅毒は第1期から第3期、潜伏期を含むあらゆる病期で発症しうる。後天梅毒第2期での発症が最も多く、ぶどう膜炎が主体となる。眼症状が梅毒診断の最初のきっかけとなるケースもあるため、原因不明のぶどう膜炎では常に梅毒を考慮する必要がある。

Q 梅毒は「偉大なる模倣者」とはどういう意味か?
A

梅毒の眼病変は前眼部炎症・ぶどう膜炎視神経炎・脈絡網膜炎など多岐にわたり、他の多くの眼疾患と酷似する所見を呈する。そのため診断が遅れやすく、この多彩な臨床像が「偉大なる模倣者」と称される理由である5)

  • 梅毒トレポネーマTreponema pallidum subsp. pallidum):スピロヘータ目の偏性寄生体1)
  • 緩徐な増殖と、眼・CNS・胎盤などの免疫特権組織への侵入能を持つ1)
  • 性的接触:約60%の伝播率で主経路となる1)
  • 経胎盤感染:先天性梅毒の原因となる1)
  • 経粘膜・経皮的接触:血行性に全身へ播種された後に眼組織に到達する。
  • MSM(男性間性交渉者):主要リスク要因であり、近年の感染増加を主導している1)硝子体液中の梅毒抗体陽性例はすべてHIV陽性であり、CD4細胞数の中央値は228/μLであった4)
  • HIV共感染:眼梅毒リスクを約2倍に増加させる1)。両眼性になりやすく後眼部関与が多い。CD4数 <200 cells/ml・ウイルス量 >200 copies/mlで有病率が上昇する。免疫不全が梅毒の眼病変を重症化させ、血清学的偽陰性のリスクも高まる。
  • 複数の性的パートナー、コンドーム不使用8)
  • IRIS(免疫再構築炎症症候群):HIV陽性患者に対するART開始後に発症しうる11)

経胎盤感染で発症する。早期先天梅毒(出生〜生後3か月)では網脈絡膜炎を呈する。遅発性先天梅毒では典型的なHutchinson三徴候(永久歯のM型欠損、内耳性難聴、角膜実質炎)が特徴的である。陳旧性先天梅毒の眼底には網膜色素細胞の増殖を伴うsalt-and-pepper眼底(散在性の脈絡網膜萎縮像)がみられ、時に網膜色素変性症様の眼底を呈する。

Q 梅毒と診断されたらHIV検査は必要か?
A

HIV共感染は眼梅毒の重要なリスク要因であり、梅毒診断時にはHIV検査が全例に推奨される1)。HIV陽性ではぶどう膜炎の重症度が増し、両眼性になりやすいなど臨床像が変化する。また、AIDSでは血清学的検査が偽陰性となる場合がある点にも注意が必要である。

梅毒の4病期と眼関与のタイミング

Section titled “梅毒の4病期と眼関与のタイミング”

第1期

潜伏期:10〜90日。

下疳:接種部位に無痛性硬結。約4週間で消失。結膜や眼周囲に生じることもある。

第2期

出現時期:下疳出現後4〜10週。

全身播種:血行性に神経・眼・消化器・肝臓を侵す。眼は約10%で関与する。手掌・足底の斑状丘疹状発疹が70%以上に認められる。

眼所見ぶどう膜炎網膜炎・視神経炎が主体。

潜伏期

分類:早期(1年以内)と後期(1年以降)。

経過:未治療の約1/3が第3期へ進行する。無症状でも眼梅毒が顕在化することがある。

第3期

心血管系:大動脈炎、大動脈瘤。

神経梅毒:髄膜梅毒、髄膜血管梅毒、脊髄癆、進行性麻痺。

眼所見アーガイル・ロバートソン瞳孔視神経萎縮、ゴム腫。

ゴム腫:良性局所肉芽腫反応。脈絡膜虹彩を含む全身に発生。

梅毒の病期によって眼所見は大きく異なる。

分類発症時期主な眼症状
先天梅毒(早期)出生時〜生後3か月脈絡膜
先天梅毒(晩期)学童期以降角膜実質炎虹彩炎、涙囊炎
後天・第1期3週〜3か月眼瞼・結膜の下疳
後天・第2期4〜10週眼瞼炎結膜炎角膜炎、虹彩毛様体炎、虹彩結節、強膜炎、網脈絡膜炎、硝子体炎、視神経炎網膜血管炎滲出性網膜剥離
後天・晩期数年〜数十年眼瞼ゴム腫、角膜実質炎強膜炎ぶどう膜炎視神経乳頭炎、Argyll Robertson瞳孔水晶体偏位、二次性網膜色素変性症
病型頻度
汎ぶどう膜炎75%3)
脈絡網膜93%4)
肉芽腫性虹彩毛様体46%1)
前房蓄膿6%2)
梅毒性ぶどう膜炎の眼底・FAF・OCT・蛍光眼底造影で、後極のplacoid脈絡網膜病変を示す画像
梅毒性ぶどう膜炎の眼底・FAF・OCT・蛍光眼底造影で、後極のplacoid脈絡網膜病変を示す画像
Ye Z, et al. Syphilis and the Eye: Clinical Features, Diagnostic Challenges, and Evolving Therapeutic Paradigms. Pathogens. 2025. Figure 1. PMCID: PMC12472546. License: CC BY.
両眼の眼底に後極優位の黄白色placoid病変がみられ、梅毒性後部ぶどう膜炎を示唆する。FAFOCT蛍光眼底造影でも病変の広がり、外網膜障害、病変の染色や乳頭過蛍光が確認できる。
  • 視力低下:急性〜慢性に進行する。程度は軽度の霧視から高度の視力障害まで幅広い。網膜脈絡膜病変や硝子体混濁によって生じる。
  • 飛蚊症光視症硝子体混濁網膜炎に伴い出現する。
  • 眼痛充血:前眼部炎症(ぶどう膜炎強膜炎)で認められる。
  • 羞明:炎症の進行とともに増強する。虹彩毛様体炎合併時に増強する。
  • 片眼性または両眼性(HIV陽性では両眼性が多い)2)
  • 眼症状が梅毒の最初の徴候として現れることがある2)5)

眼梅毒の所見は侵される部位によって多彩な形態をとる。病型は汎ぶどう膜炎が最多(75%)であり3)、後眼部病変として脈絡網膜炎が93%に認められる4)

前眼部所見

結膜:第1期で下疳(chancre)、第2期で軽度結膜炎、第3期でゴム腫。

強膜上強膜炎(第2期に多い)、強膜炎(第3期に多い)。結節性またはびまん性。

梅毒性角膜実質炎:免疫介在性の非潰瘍性・非化膿性の実質炎。新生血管形成→ゴースト血管を残す。先天梅毒のHutchinson三徴候の一つ。

肉芽腫性虹彩毛様体:梅毒性ぶどう膜炎で最多の眼型(46%)1)虹彩前癒着・虹彩萎縮を残すことがある。ステロイド点眼に抵抗性を示すことが特徴。

前房蓄膿・KP:両側性の前房蓄膿は約6%で認める2)。羊脂様KPを形成することがある。

ぶどう膜・後眼部

中間部・後部・汎ぶどう膜炎:前部・後部・汎ぶどう膜炎のいずれもとりうる。肉芽腫性または非肉芽腫性。

ASPPC(急性梅毒性後部類円板状脈絡網膜炎):第2期梅毒患者に特徴的な特殊型。黄斑部〜乳頭近傍のRPEレベルに類円板状・黄色の病変。OCTで外層網膜RPE部の断裂と過反射性隆起を認める3)FAFで過蛍光・低蛍光パッチ。抗生物質治療に良好に反応する。

網膜血管炎網膜:動脈炎が特徴的とされるが、静脈炎も多くみられ白線化に至ることがある9)無灌流領域→増殖性変化を形成しうる。「すりガラス様網膜浸潤」および「クリーム色の小さな網膜表面沈着物」が特徴的所見1)5)

強い硝子体混濁:ペニシリン系抗菌薬投与後数日で急激に消退することも多い。

視神経・神経眼科

視神経炎:片眼性または両眼性。前部・球後視神経炎乳頭浮腫、神経網膜炎、視神経萎縮。眼梅毒の12〜78%に視神経関与が認められる3)。治療が遅れると視神経萎縮となり視力予後に影響する。

アーガイル・ロバートソン瞳孔:縮瞳・対光反射消失だが近接視反応は保たれる。第3期に多いが早期にも出現しうる5)

眼球運動異常:第3期では上眼窩裂症候群、脳幹梗塞、動脈瘤による圧迫で生じる。神経梅毒合併時に複視を呈する。

Q ASPPCとはどのような所見か?
A

ASPPC(Acute Syphilitic Posterior Placoid Chorioretinitis)は梅毒に特異性の高い後眼部所見で、後極部に大型の胎盤状(プラコイド)の黄白色病変が形成される5)蛍光眼底造影では特徴的な早期低蛍光・後期過蛍光を呈する。OCTでは外層網膜RPE部の断裂と過反射性隆起を認め、抗菌薬治療に良好に反応する。

原因不明のぶどう膜炎では常に梅毒を考慮し、高い疑いの指数(index of suspicion)を持つことが重要である。ぶどう膜炎の原因精査を進めるうえで、梅毒の血清学的検査を必ず行う。

診療では非トレポネーマ検査と特異的トレポネーマ検査を組み合わせる。

検査の種類代表的検査特徴・用途
非トレポネーマ検査(STS)RPR(rapid plasma reagin)、VDRL感度高く早期に陽性。生物学的偽陽性あり。感染活動性と並行→スクリーニング・治療効果判定に使用
トレポネーマ検査(TP抗原法)TPHA、FTA-ABS、TP-PA、EIA陽性で梅毒確定。治療後も長期陽性持続→治療判定には不適
  • 活動性の判定RPR 16倍以上・TPHA 1,280倍以上 → 活動性高い10)。あるレビュー例ではRPR 1:256と高値を示した3)
  • 治療効果の判定RPR 8倍以下、あるいは初期値の1/4以下に低下 → 駆梅効果あり10)
  • プロゾーン現象:高力価では非トレポネーマ検査が偽陰性になる場合がある(希釈検査が必要)。
  • 逆シーケンスアルゴリズム:まずトレポネーマ検査(EIA/CLIA)→ 陽性なら非トレポネーマ検査の順で実施。早期症例検出に有利1)。不一致例(トレポネーマ陽性・非トレポネーマ陰性)にはTP-PAによる再検を行う。

硝子体液中のEIAによる梅毒抗体検出は感度90.9%・特異度100%と高い精度を示す4)。血清検査が偽陰性となりうるHIV合併例でも診断に有用である。

検査感度特異度
血清EIA高感度(スクリーニング)高特異度
硝子体EIA90.9%4)100%4)

眼梅毒では神経梅毒合併の評価のためCSF検査が推奨される4)。孤立性の眼症状・確認された眼異常・トレポネーマ検査陽性が揃う場合は、治療前のCSF検査は必須ではないとされる3)視神経炎・眼筋麻痺・脳神経症状が疑われる場合は腰椎穿刺を行う。

  • CSF-VDRL:特異性高いが感度低い。陽性で神経梅毒の確定診断となる。
  • CSF FTA-ABS:感度高いが特異性低い。
  • 蛍光眼底造影FA:血管壁染色、血管漏出(症例の100%で認める4))、視神経乳頭過蛍光、ASPPCではレオパードスポットパターン1)。治療効果のモニタリングにも有用。
  • 光干渉断層計OCT:外層網膜変化(EZ/IZバンド破壊、RPE隆起)、嚢胞様黄斑浮腫網膜前膜の確認3)EZ障害は症例の89%に認められる4)
  • 自家蛍光(FAFASPPCでは過蛍光・低蛍光パッチを呈する3)
  • 超広角眼底撮影:周辺病変の把握に有用。
Q 硝子体内抗体検査はどのような症例に有用か?
A

血清梅毒検査が偽陰性になりやすいHIV合併例や、血清検査陰性にもかかわらず梅毒性ぶどう膜炎が強く疑われる症例に有用である4)硝子体EIAは特異度100%であり、陽性であれば梅毒性ぶどう膜炎の診断的根拠となる。

サルコイドーシス結核性ぶどう膜炎急性網膜壊死ARN)/PORNAPMPPE蛇行状脈絡膜炎サイトメガロウイルス網膜炎、トキソプラズマ網膜炎、ベーチェット病、眼内リンパ腫などとの鑑別が必要である4)7)。眼梅毒は眼領域での T. pallidum の直接検出が不可能であるため、血清学的検査と臨床所見の統合判断が重要となる10)。HIV陽性患者では特に注意を要し、AIDSでは血清学的検査が偽陰性となる場合がある。

経口駆梅療法(軽症例・外来管理の場合):

  • サワシリン錠(250 mg)4錠 1日4回分割 4週間投与10)

神経梅毒・眼梅毒(入院・静注療法)

梅毒性ぶどう膜炎は神経梅毒合併例が多く、高用量ペニシリン静注療法が標準である。第一選択は水性ペニシリンGの静脈内投与である。

レジメン投与量・方法
水性結晶ペニシリンG(第一選択)1,800〜2,400万単位/日(300〜400万単位を4時間ごとIVまたは持続点滴)× 10〜14日間1)2)3)5)
プロカインペニシリンG(代替)240万単位 筋注1日1回 + プロベネシド 500 mg 1日4回経口 × 10〜14日間1)2)
セフトリアキソン(代替)1〜2 g 筋注または静注 1日1回 × 14日間1)4)6)

治療成功率は約90%と報告されている3)

Nwaobi et al.(2023)が報告した46歳男性では、RPR 1:64、TPHA 1:512の眼梅毒に対してIV PCG 400万単位 q4hによる神経梅毒治療を実施し、6ヶ月後に視力が回復した2)

  • ステロイド点眼 + 散瞳薬点眼(前眼部炎症に対して)。
  • 炎症が強い例では全身ステロイド投与を追加する。ただしステロイド必ず抗菌薬開始後に使用する
  • ペニシリン系抗菌薬による駆梅療法に加え、炎症の強い例ではステロイド薬の全身投与による抗炎症療法を行う。

外科的治療・網膜合併症への対応

Section titled “外科的治療・網膜合併症への対応”

RPR(脂質抗原法)の推移を参考にする。抗体価8倍以下、あるいは初期値の1/4以下への低下をもって駆梅効果ありと判断する10)。治療後も再発の可能性があり、RPRの定期的な確認を継続する。

ペニシリンアレルギーへの対応

Section titled “ペニシリンアレルギーへの対応”

ペニシリン脱感作(desensitization)が第一に推奨される1)7)

  • セフトリアキソン:1〜2 g 筋注または静注 1日1回 × 14日間1)6)
  • ドキシサイクリン:200 mg/日(100 mg×2回)× 28日間1)7)

Cubelo et al.(2022)は、HIV陽性・PCGアレルギーの24歳男性にドキシサイクリン100 mg BID 14日間を投与し、RPRが1:1,024から1:32へと低下したことを報告した7)。その後PCG脱感作を実施した。

ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(Jarisch-Herxheimer反応)

Section titled “ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(Jarisch-Herxheimer反応)”

治療開始24時間以内に死滅した梅毒トレポネーマ由来の炎症性リポタンパク質に対する反応として発症する。眼科的には虹彩炎の再発(炎症の再燃)としてみられることがある。

  • 症状:発熱、頭痛、筋肉痛、悪寒。早期梅毒の30〜70%、神経梅毒の2%で発生する1)。約75%の症例で認める報告もある3)
  • 眼症状視力低下、黄斑浮腫視神経乳頭腫脹、綿花状白斑が報告されている。
  • 対応:治療は継続する。対症療法として解熱剤・鎮痛剤を使用する。
Q ペニシリンアレルギーがある場合はどう治療するのか?
A

ペニシリン脱感作が第一に推奨される。これが困難な場合、代替薬としてセフトリアキソン(1〜2 g 1日1回 × 14日間)またはドキシサイクリン(200 mg/日 × 28日間)が用いられる1)7)。ただし、いずれも眼梅毒に対するエビデンスはペニシリンに比べ限られています。

Q ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応が起きたら治療を中止すべきか?
A

治療は中止せず継続する。発熱や頭痛などの全身症状には解熱剤・鎮痛剤による対症療法を行います。眼症状(視力低下・乳頭腫脹等)を含む反応は通常一時的であり、治療の継続とともに改善する1)

Q ステロイドはどのような状況で使えるか?
A

ステロイドは、適切な抗菌薬投与を十分に行ったうえで炎症が残存する場合に限り、補助的に使用が検討される。免疫抑制なしにステロイドを先行投与することは、梅毒の増悪につながるため禁忌である5)

T. pallidum は初感染部位から血行性に播種され、眼組織を含む全身臓器に到達する。血液網膜関門を通過し、脈絡膜網膜硝子体に炎症を引き起こす。梅毒の眼病変は第1期〜晩期梅毒のいずれの病期にも生じうるが、後眼部病変は第2期以降に多い。

梅毒トレポネーマはTLR2/TLR4/TLR5依存性シグナルを介してIL-1β、IL-6、IL-12、TNF-αの産生を誘導し、遅延型過敏反応類似の組織障害を引き起こす1)。CD4+細胞とマクロファージが第1期病変を支配し、CD8+細胞が第2期を支配する。IFN-γの産生はマクロファージを活性化・遊走させる。

梅毒性角膜実質炎では、T. pallidum 自体による直接感染ではなく、梅毒トレポネーマ抗原に対する免疫反応(角膜実質へのリンパ球浸潤と血管侵入)が主な病態である。このため、ステロイドには反応するがペニシリン単独では症状が消退しないことがある。

梅毒トレポネーマは緩徐な増殖と、眼・CNS・胎盤などの免疫特権組織への侵入能を持つ1)。Fas関連死経路を介したCD4+細胞のアポトーシスにより免疫クリアランスが不完全となり、慢性感染が成立する。

HIV陽性患者では第2期後の眼梅毒進行が加速する。両眼性関与はHIV陽性患者の62%に対しHIV陰性患者の38%と高頻度である(96例の研究)1)。AIDSでは血清学的検査が偽陰性となる場合があり、診断に注意を要する。

HIV陽性患者が梅毒眼病変を有する場合、抗レトロウイルス療法(ART)開始後に炎症が一過性に増悪するIRIS(免疫再構築炎症症候群)が発生することがある11)

  • ART開始後の発症時期:中央値28日
  • unmasking IRIS:ART開始前に未診断だった梅毒が顕在化する
  • paradoxical IRIS:治療中の梅毒が一時的に増悪する

Pipitoら(2023)のレビューでは、IRIS症例においてART前のCD4細胞数は低値(中央値196/μL)であったが、ART後に318/μLへ回復したことが報告されている11)。CD4低値例では梅毒血清検査が偽陰性となるリスクもある11)

ペニシリン系抗菌薬に対する反応は一般に良好で、投与後数日で硝子体混濁が急激に消退することも多い。治療成功率は約90%と報告される3)視神経炎合併例では治療が遅れると視神経萎縮となり、視力予後に影響する。HIV重複感染例では治療後の再発リスクが高く、RPR推移の長期モニタリングが必要である。

Q HIV陽性患者でART開始後に眼炎症が悪化した場合はどう対応するか?
A

ART開始後28日前後に炎症が増悪する場合はIRISを疑う。Unmasking型とparadoxical型を鑑別し、梅毒の治療が不十分な場合はペニシリンG治療を先行させる11)ステロイドの追加は抗梅毒治療を確立したうえで検討します。


最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

炎症性脈絡膜新生血管(iCNV)に対する抗VEGF療法:眼梅毒に合併するiCNVは極めて稀な病態である。Świerczyńska et al.(2021)の報告では、アフリベルセプト硝子体内注射により約1/3が1回の注射で病勢安定、約2/3が2回の注射で視力安定に至った6)。iCNVは抗菌薬治療のみでは消退せず、抗VEGF硝子体内注射の追加が有効であった。

静脈優位型梅毒性網膜血管炎:通常、梅毒性網膜血管炎は動脈炎または混合型が多いとされるが、HIV共感染例で静脈炎優位の症例が報告されている。Mammo et al.(2022)は、53歳のHIV陽性男性に静脈炎優位の汎ぶどう膜炎を認め、IV PCG 400万単位 14日間 × 2コースで治療した症例を報告した9)。治療後に傍静脈色素性網膜症(paravenous pigmentary retinopathy)に進行した。

マルチモーダルイメージングによる診断精度の向上:EDI-OCT・超広角自家蛍光(FAF)・ICGの組み合わせにより、眼梅毒の診断精度向上が期待されている1)3)。ICGでは脈絡膜の暗点ドット、ホットスポット、ぼやけた脈絡膜血管が検出される。これらのマルチモーダルイメージング所見の蓄積が、サルコイドーシスや結核との鑑別に貢献する可能性がある。

眼内液を用いた診断技術の発展硝子体液中のEIAによる梅毒抗体検出(感度90.9%・特異度100%)は、血清学的偽陰性例や難治性後眼部炎症例に対して診断価値が高い4)。特にHIV合併例や免疫不全状態では血清診断の信頼性が低下するため、眼内液検査は重要な補助診断法として位置づけられつつある。

IRIS管理の最適化:ART開始に伴うIRISの発生機序と最適な管理戦略についての研究が進んでいる11)。IRISの予防・治療における抗梅毒治療とARTのタイミングの最適化が今後の課題である。


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