眼底所見
進行性外層網膜壊死(PORN)
1. 進行性外層網膜壊死とは
Section titled “1. 進行性外層網膜壊死とは”進行性外層網膜壊死(PORN: Progressive Outer Retinal Necrosis)は、1990年にForsterらによって初めて報告された水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による壊死性ヘルペス性網膜症である。2) 名称が示す通り、主に網膜外層を中心に炎症が始まり、急速に進行して全層壊死に至る。治療に抵抗性で予後は極めて不良である。
末梢血CD4陽性Tリンパ球数が50/mm³以下に減少したAIDS患者に好発するが、骨髓移植後・膠原病・悪性リンパ腫などで免疫不全状態にある患者にも発症する。1) 単純ヘルペスウイルス(HSV)やサイトメガロウイルス(CMV)も病原体となりうる。原因ウイルスはVZVが最多で約71.5%を占め、次いでHSVが続く。
同じVZVによる壊死性網膜炎である急性網膜壊死(ARN)は免疫正常者に発症するのに対し、PORNは高度免疫不全を背景とする別疾患であり、臨床像・治療・予後が根本的に異なる。近年では免疫正常者における類似症例も報告されており、急性網膜壊死/PORNスペクトラムとして捉える概念も提唱されている。9)
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
病変が黄斑部を侵せば視力低下を、周辺部に限局する段階では視野狭窄をきたす。帯状疱疹が先行することが多い。経過中にほぼ全例が両眼性となるため、視力障害は最終的に高度になることが多い。
眼底・眼部所見
Section titled “眼底・眼部所見”前眼部・硝子体所見
ARNとの臨床的比較
Section titled “ARNとの臨床的比較”| 特徴 | PORN | ARN |
|---|---|---|
| 患者背景 | 高度免疫不全(CD4 <50/mm³) | 免疫正常者 |
| 前部炎症 | 乏しい(KP・前房細胞ほぼなし) | 強い(豚脂様KP・前房炎症) |
| 硝子体炎 | 乏しい | あり |
| 血管炎 | 初期には乏しい | 閉塞性血管炎(著明) |
| 病変部位 | 網膜外層 → 全層(進行時) | 周辺網膜 → 後極 |
| 経過 | 急速(1〜2週で全網膜) | 急速(約1週間で進展停止) |
| 両眼性 | ほぼ全例で経過中に両眼性 | 約15% |
| 有効な抗ウイルス薬 | ガンシクロビル+ホスカルネット | アシクロビル・バラシクロビル |
| 予後 | 極めて不良(高率に失明) | 不良(約70%で網膜剥離) |
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”PORNの発症に最も重要なリスク因子は高度の細胞性免疫不全である。以下の状態が主なリスクとなる。
- HIV感染/AIDS: CD4陽性Tリンパ球数が50/mm³以下(最も多い背景疾患)
- 造血幹細胞移植後・腎移植後: 免疫抑制薬使用中に発症
- 悪性リンパ腫・白血病: 化学療法による免疫抑制
- 生物学的製剤・長期ステロイド使用: 膠原病・自己免疫疾患の治療に伴う免疫抑制
- 高度の免疫抑制状態を伴う膠原病: 全身疾患の活動期や治療中
- 非コントロール糖尿病: 長期にわたる高血糖による免疫抑制が一因となりうる9)
- 帯状疱疹の先行: 皮膚帯状疱疹が先行することが多く、長期のアシクロビル治療歴がある場合はACV耐性VZVが出現している可能性がある1)
病態の本質は高度免疫不全による免疫応答の欠如にある。ARNでは宿主の炎症応答がVZVの拡散を一定程度抑制するが、PORNでは免疫反応が極度に乏しいためウイルスが網膜内で制御されずに急速に進行する。帯状疱疹長期治療歴のある患者ではアシクロビル耐性VZVが出現している可能性もある。1)
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”帯状疱疹の先行、特徴的な眼所見、臨床経過、検査所見を合わせて総合的に診断する。
PORN診断基準
Section titled “PORN診断基準”| 診断項目 | 内容 |
|---|---|
| 1. 眼底所見 | 網膜出血・血管炎が軽度な、網膜外層を中心とした後極部〜周辺部に及ぶ広範囲の網膜黄白色病変 |
| 2. 炎症の乏しさ | 前房・硝子体の炎症所見に乏しい |
| 3. 臨床経過 | 数週間で進行 |
| 4. 全身状態 | 全身的に免疫抑制状態である |
| 5. ウイルス学的検査 | 前房水・硝子体液のPCR法によるVZV DNA検出(前房内炎症細胞がない場合や抗VZV薬投与中は検出率低下) |
| 6. 血液検査 | AIDS患者ではCD4が通常50/mm³以下。AIDS以外では臓器移植後・悪性腫瘍・膠原病など免疫不全状態の確認 |
検査上の重要注意点:
- 前房内に炎症細胞がない場合や抗VZV薬投与中はPCR検出率が低下する1)
- Q値(Goldmann-Witmer係数)はPORNには用いられない(ARNと異なる)。高度免疫不全では眼内での抗体産生が乏しく、測定値が信頼できない3)
- 血清VZV抗体価はVZVへの潜伏感染のため診断価値がない
- OCT(光干渉断層計): 外層網膜の選択的破壊・障害パターンを確認できる。ARNとの鑑別にも有用9)
- MRI脳画像: VZV中枢神経感染の合併確認のために施行する。側頭葉などに高信号域を認める場合がある10)
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 急性網膜壊死(ARN) | 免疫正常者;強い前部ぶどう膜炎・硝子体炎・血管炎を伴う;アシクロビルが有効 |
| CMV網膜炎 | 黄白色病変が網膜出血・血管炎を伴いながら徐々に拡大;PCRでCMV DNA検出 |
| 眼トキソプラズマ症 | 局所性肉芽腫性網膜炎;隣接する古い瘢痕(衛星病変)を伴うことが多い |
| 眼内悪性リンパ腫 | 硝子体細胞・網膜下浸潤;中高年;脳病変を伴うことがある;細胞診で確定 |
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”有効な治療法は確立していない。アシクロビル単独では無効であり、ガンシクロビル(デノシン)とホスカルネット(ホスカルビル)との2剤全身併用、または1剤全身投与+1剤硝子体内投与が基本となる。1)
薬物療法レジメン(2剤併用が基本)
Section titled “薬物療法レジメン(2剤併用が基本)”| 薬剤 | 投与ルート | 用量・用法 |
|---|---|---|
| ガンシクロビル(デノシン点滴静注) | 静脈内 | 導入: 5 mg/kg 1日2回;維持: 5 mg/kg 1日1回 |
| ホスカルネット(ホスカルビル注) | 静脈内 | 導入: 60 mg/kg 1日3回;維持: 90 mg/kg 1日1回 |
| ガンシクロビル硝子体内注射(保険適用外) | 硝子体内 | 400 μg/0.1 mL(最大2,000 μgまで増量可)週1回 |
| ホスカルネット硝子体内注射(保険適用外) | 硝子体内 | 2,400 μg/0.1 mL;活動期 2回/週、以降 1回/週 |
上記2剤を全身投与(静脈内)する、または1剤を全身投与+1剤を硝子体内投与として組み合わせる。全身療法に加え硝子体内注射を併用することで局所濃度を高め、病変進行の抑制効果が期待される。7)
免疫回復治療
Section titled “免疫回復治療”HIV感染例では、抗レトロウイルス療法(ART)の開始・最適化によりCD4数の回復を図ることが根本的な治療となる。AIDS以外の免疫不全(臓器移植後・生物学的製剤使用・悪性腫瘍の化学療法)では、原疾患の管理と免疫抑制薬の減量を主治医と協議して検討する。
網膜剥離への対応
Section titled “網膜剥離への対応”- 予防的レーザー光凝固: 施行する場合があるが、有用性は確立していない1)
- 硝子体切除術: 網膜剥離が発生した場合に施行。シリコーンオイルタンポナーデも選択肢となる6)
理由は主に2つあります。①帯状疱疹(VZV)に対してアシクロビルを長期使用している患者が多く、アシクロビル耐性VZVが出現している可能性が高い。②HHV-6などアシクロビルが作用するためのチミジンキナーゼを持たないウイルスも病原体となりうる。これらの理由から、チミジンキナーゼに依存しないガンシクロビルとホスカルネットの2剤を組み合わせて使用する必要があります。
6. 病態生理
Section titled “6. 病態生理”PORNの発症は、高度の細胞性免疫不全状態(特にCD4陽性T細胞の著明な減少)によりVZVに対する免疫監視機構が崩壊することによる。
VZVの感染が網膜内に証明されており、単純ヘルペスウイルス・CMVも病原体となりうる。初期には網膜外層に限局した壊死を呈するが、進行とともに網膜全層に及ぶ。高度の免疫不全状態では免疫反応が軽微で、前眼部や硝子体の炎症反応が弱く、ウイルスの進展を阻止できないため急速な経過をとる。
ARNでは宿主の炎症応答がウイルス拡散を一定程度抑制し、前眼部炎症・硝子体炎・閉塞性血管炎として観察される。一方PORNでは免疫反応が極度に乏しいために炎症がほとんど生じず、ウイルスが網膜内を無制限に拡散する。この「静かなのに急速に壊死が進む」臨床像がPORNの特徴である。4)
- 外層優位の侵犯: 初期は網膜外層(光受容体・網膜色素上皮)が選択的に侵される。進行とともに全層壊死へ至る3)
- Perivascular clearingのメカニズム: 血管周囲の細胞が残存していると考えられており、壊死辺縁での血流維持に関与する可能性がある
- ACV耐性VZVの関与: 帯状疱疹に対してアシクロビルを長期使用した患者では耐性変異型VZVが出現している可能性が高く、これがアシクロビル無効の一因となる
- HHV-6の関与: HHV-6はチミジンキナーゼを保有しないためアシクロビルが無効。ガンシクロビルやホスカルネットとの2剤以上の使用が必要となる
急性網膜壊死/PORNスペクトラムの概念
Section titled “急性網膜壊死/PORNスペクトラムの概念”急性網膜壊死とPORNは連続したスペクトラムとして理解できる。9) 免疫状態が中間的な場合(例:非コントロール糖尿病、免疫正常者)では両者の中間的な臨床像を呈することがある。VZV DNA量が100万コピーを超える症例では光覚消失(NLP)に至った報告もある。9)
HAART療法の役割
Section titled “HAART療法の役割”HIV感染患者ではHAART(高活性抗レトロウイルス療法)の開始・継続によるCD4値の回復が、PORNの進行抑制と視力予後改善に寄与する。免疫再構築炎症症候群(IRIS)が生じる場合もあるため、抗ウイルス薬との併用タイミングには注意を要する。11)
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”アシクロビル耐性VZVへの対策
Section titled “アシクロビル耐性VZVへの対策”アシクロビル耐性VZVに対しては、ホスカルネット・シドフォビルの活用が検討されている。耐性検査が可能な施設では薬剤感受性試験に基づく薬剤選択が望ましいとの報告がある。5) 特に長期にわたるアシクロビル治療歴を持つ患者では、早期にホスカルネットへの切り替えを考慮すべきとする意見もある。
ART時代におけるPORN管理
Section titled “ART時代におけるPORN管理”抗レトロウイルス療法(ART)の普及により、AIDS患者のCD4数を維持することで眼日和見感染症の発症率は大幅に低下した。しかし、ARTによる急速な免疫回復が免疫再構築症候群(IRU: Immune Recovery Uveitis)を引き起こすことがある。CMV網膜炎後のIRUと同様、PORNにおいてもART開始のタイミングには注意が必要であるとの報告がある。6)
早期硝子体手術+シリコーンオイル充填の意義
Section titled “早期硝子体手術+シリコーンオイル充填の意義”全身投与に加えた硝子体内抗ウイルス薬注射(ガンシクロビルまたはホスカルネット)が病変進行の抑制に有用との報告がある。特に全身投与だけでは制御困難な症例に対し、局所療法の強化が考慮される。7) 小児AIDS患者でもPORNの発症が報告されており、成人と同様の治療原則が適用される。8)
Riazi-Esfahaniら(2022)は、33歳のHIV患者(CD4=42/μL)に対し発症早期からPPV+シリコーンオイル充填+硝子体内ガンシクロビル(2mg)を施行した症例を報告した。11) 7か月後のBCVAは20/60(右眼)・20/100(左眼)と良好な視力が維持された。HAART併用によりCD4は42→147/μLへと改善した。シリコーンオイルが機械的支持を超えた抗ウイルス的役割を果たす可能性が示唆されている。
免疫正常者・非HIV免疫不全患者への対応
Section titled “免疫正常者・非HIV免疫不全患者への対応”PORNはAIDS患者固有の疾患ではなく、移植後・リンパ腫・糖尿病・さらには免疫正常者にも発症することが認識されてきた。9)10) 非HIV患者でのPORNに対する最適な治療戦略の確立が今後の課題である。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- 日本眼炎症学会ぶどう膜炎診療ガイドライン作成委員会. ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(6):635-796.
- Forster DJ, Dugel PU, Frangieh GT, et al. Rapidly progressive outer retinal necrosis in the acquired immunodeficiency syndrome. Am J Ophthalmol. 1990;110(4):341-348.
- Engstrom RE Jr, Holland GN, Margolis TP, et al. The progressive outer retinal necrosis syndrome. A variant of necrotizing herpetic retinopathy in patients with AIDS. Ophthalmology. 1994;101(9):1488-1502.
- Moshfeghi DM, Dugel PU, Marx JL, et al. Pathogenesis of the progressive outer retinal necrosis syndrome. Am J Ophthalmol. 1996;121(1):101-104.
- Ormerod LD, Larkin JA, Margo CA, et al. Rapidly progressive herpetic retinal necrosis: a blinding disease characteristic of advanced AIDS. Clin Infect Dis. 1998;26(1):34-45.
- Spaide RF, Martin DF, Teich SA, et al. Successful treatment of progressive outer retinal necrosis syndrome. Retina. 1996;16(6):479-487.
- Scott IU, Luu KM, Davis JL. Intravitreal antivirals in the management of patients with acquired immunodeficiency syndrome with progressive outer retinal necrosis. Arch Ophthalmol. 2002;120(9):1219-1222.
- Purdy KW, Heckenlively JR, Church JA, Keller MA. Progressive outer retinal necrosis caused by varicella-zoster virus in children with acquired immunodeficiency syndrome. Pediatr Infect Dis J. 2003;22(4):384-386.
- Broyles HV, Chau FY, Drenser KA, et al. Two cases of progressive outer retinal necrosis–spectrum disease in immunocompetent patients. Am J Ophthalmol Case Rep. 2021;23:101119.
- Sachan A, Arora R, Singh R, et al. Progressive outer retinal necrosis in a 10-year-old child post allogeneic hematopoietic stem cell transplantation for Hodgkin lymphoma. BMJ Case Rep. 2021;14:e238697.
- Riazi-Esfahani H, Jafari M, Ahmadraji A, et al. Early pars plana vitrectomy and silicone oil tamponade for progressive outer retinal necrosis: a case report. Case Rep Ophthalmol Med. 2022;2022:7636052.